ビッグホエール追撃戦~大阪湾海底戦

作者:ハル


 一片の光すら届かない大阪湾の海底にて、潜水艦――ビッグホエール級は動力を停止し、海上のケルベロス達が警戒を緩める瞬間を息を潜めて待っていた。
 内部に積み込まれているのは、『資材や物資』の類。ジュモー・エレクトリシアンが持ち出した重要な研究成果には及ばないまでも、物資不足に喘ぐ同胞を思えば、多大な価値を見出す事ができる。
「ケルベロス共の様子は?」
「ハッ、依然として周辺を警戒中の模様! ですが――」
「――分かっているさ。動力を停止した影響で、索敵が十分ではない事ぐらいはな。……ともかく、今しばらくは待機だ。努々、油断するなよ?」
「イエス、マム!」
 潜水艦内部では、この艦の艦長を艦隊司令・キャプテン・ホエールに任されているガンドロイド・サファイアが、配下と情報を交換していた。
「……必ず脱出してみせるぞ、ケルベロス」
 クールな目元を僅かに細め、瞳に冷酷な色を浮かべる艦長・サファイア。その名の通りの色味を持つボブショートの毛先を揺らしつつ、彼女は決意を込めて呟くと、護衛のガジェットシーカーと共に中枢へと戻っていくのであった。


「皆さん、ユグドラシル・ウォーでの勝利、その中でのご活躍は、実に素晴らしいものでした。この場を借りて、皆さんには心からの喝采を! お見事でした!」
 満面の笑みを浮かべた山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、感謝と祝福をケルベロスに贈る。
「ですがユグドラシル・ウォー終結後、大阪城の残存勢力が、暴走したユグドラシルと共に姿を消してしまった事は、皆さんの知る所でもあると思います。姿を消した残敵は現在捜索中ではありますが、まずは手始めに、大阪城周辺に今も残り続けている敵の撃破から始めましょう」
 大阪湾の海底には、キャプテン・ホエールに率いられた、ビッグホエール級による潜水艦隊が潜んでいる。大阪城に残された大量の物資を積み込んでいるとされ、資源不足に陥っているダモクレス勢力に届けるべく、動力を停止した状態でケルベロス側の隙を伺っているようだ。
「しかし、これはチャンスでもあります。もちろんそれは、ビッグホエール級が潜むために、動力を完全に停止しているからです。今、わたし達が動く事ができれば、敵も簡単には逃げられません」


 そこで、艦隊を一網打尽にするための、二つの案が策定された。
「一方は、極めて単純なものです。単純かつ、分かりやすい、わたし達が比較的得意としている戦法ですね」
 茶目っ気を僅かに見せながら、桔梗が第一案を説明する。
「動力を止めて潜んでいるビッグホエールに静かに近づき、奇襲により一気に高火力を叩き込みます。動力を停止中のビッグホエールは、恐らく皆さんの奇襲を回避する事はできません。初撃にて、大きなダメージが見込めます。ただ、予定地点に辿り着く前に敵に発見された場合、奇襲効果が低下するので、その点にはご留意を」
 奇襲を受けたビッグホエールは、すぐに戦闘態勢に移行するはずだ。しかし関係なく、畳みかけるようにして撃破を狙って欲しい。
 問題は、サーヴァントを除いた戦闘不能者が、三名以上出てしまった場合にある。
「ビッグホエールの決死の抵抗により、三名以上の戦闘不能者が出た場合、ビッグホエールは強行突破を図って脱出してしまう事が予想されます。そうならないよう、多数の戦闘不能者が出ないように互いをフォローしながらの立ち回りが必要になるでしょう」
 無事に撃破できれば、ビッグホエールは大爆発を起こし、積み込んだ物資や内部のダモクレス諸共に撃沈するだろう。

「第二案は、潜入工作です。動力を止めて潜んでいるビッグホエールに静かに接近するまでは第一案と同じですが、第二案ではビッグホエールの非常用出入り口を破壊し、内部へと潜入します」
 そして内部を制圧する事で、ビッグホエールを撃破に至らしめる、というものだ。
「潜入できる非常用出入り口は、予知で確認されているので、その点はご心配なく。動力を切って周辺の索敵が最低限になっているのを利用して、乗り込んでください」
 潜入に成功すれば、潜水艦内部の様子が伺える。恐らくは資材が満載のため、通路も塞がれているだろう。しかしそのおかげもあり、ほぼ一本道で潜水艦の艦長のいる中枢に向かう事が出来るはずだ。
 中枢には、艦長ユニットおよび、護衛のガジェットシーカーがつめている。
「皆さんが担当する艦の艦長は、ガンドロイド・サファイアですね。ガジェットシーカーを薙ぎ払い、彼女を撃破できれば、ビッグホエールも自爆する形となるでしょう。ですので、撃破後はすぐに脱出してください」
 この二案の内のどちらかを選択し、作戦に臨んで欲しい。
「逃走を許せば、物資不足のダモクレスの大きな利益となる事は間違いないでしょう。敵は慌てて逃げ出す事で居場所をわたし達に容易に特定させる愚を犯さず、潜伏といる手段をとったように、状況をある程度冷静に見られるようです。ですが、わたし達ケルベロスがさらに上手である事を御覧に入れて差し上げましょう!」


参加者
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
黒鋼・鉄子(アイアンメイド・e03201)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)

■リプレイ


(「ふむふむ、現在深海100メートルって所かな? ここまではビッグホエール級潜水艦の索敵にかかった形跡はなーし!」)
 エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)らケルベロスは、大阪湾の海底へ向け、徐々に下降を開始していた。大阪湾の最大水深を考えれば、半分程度の道程を無事にクリアした事となる。
(「このために海中に近い色の服を用意したり、潮流の流れに乗ったり、時間をかけて準備したんだ。さしものダモクレスでも、万全ではない中でオレ達を見つけられるとは思えないがな」)
 海中で流木を担いで身を隠して泳ぐのは、レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)。彼らは吐き出す呼気にさえ気を使っている。
 ケルベロスの隊列は、隠密気流を持たないイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)と深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)を中央に挟んでの一団。
 と、先頭のセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が、何かを発見したように背後を振り返って合図を発す。打ち合わせ通りならその意は、「標的の潜水艦を目視しました!」そのようなニュアンスであるはず。
『皆さん、セレナさんが潜水艦を見つけてくれました。以降はより慎重に参りましょう』
 状況の変化を、ルティエが接触テレパスで遅滞なく全体に周知する。
(『次は侵入経路である非常用出入り口の確保が喫緊の課題でございましょうか』)
 黒鋼・鉄子(アイアンメイド・e03201)は仮面の奥の瞳をこらし、ビッグホエール級潜水艦の全容解明に力を注ぐ。
 だが――。
(「潜水艦というだけあって巨体すぎるわ。もう少し近づかないと難しそうね」)
 植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)がルティエの背中を軽く叩き、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)に意思を伝えてもらう。
 アウレリアは頷くと、魚群誘導用のエサを潮の流れに乗せた。
(「さて、上手くいくかしら?」)
 アウレリア達が見守っていると、エサを競う様に魚の群れが啄み始める。
(「よーっし! ……でもお魚さん、美味しそう……。あんなにたくさん目の前のいるのにぃ……」)
 ふいにエヴァリーナが捕食者の眼差しを晒していると、アウレリアに軽く小突かれる。脳裏に浮かんだ鰹と鰈とホッケと縞鯵と太刀魚を激辛料理にされてはたまらないと、エヴァリーナは慌てて作戦に集中。
(「魚群もそうですが、大阪湾の海底にゴミが多いという情報は本当ですね。このまま紛れて順調に接近できれば……!」)
 今、潜水艦のライトは魚群に向けられている。また、イリスの思惑通り、注視さえされなければ、周囲に浮かぶものと同化できるだろう。
(「――! ハッチ、あれですね! 非常用出入り口!」)
 やがてイリスは目当てのものを見つけると、ハンドサインで報せる。
(「今だよ!」)
 そしてエヴァリーナの合図を待って、ハッチにとりついた。
(「金属カッターで破壊できればと思いましたが、やはり無理ですか!」)
 イリスは仲間に向かって首を横に振ると、一旦その場を離れる。
 そこに、
(『あと一息でございます!』)
(「派手に――とはいかないが、ブチかまそうぜっ!」)
 鉄子やレヴィンが音や光の小さなグラビティを行使し、非常用出入り口を強引にこじ開けた。
(「いよいよ突入だ! 急げ、急げ、急げーー!!」)
 そしてレヴィンがHurry upのサインを送ると、ようやく口を開けたそこに前衛の面々が続々と雪崩れ込んでいく。


(「内部に潜入さえできてしまえばこっちのものね!」)
 この日のために黒染めした髪の水気を手早く絞りながら、碧が笑みを見せる。
『こちらも情報通り、資材が山積みですね。一本道という事ですから、このまま辿っていけば中枢に辿り着けるはずです。支障が出ない範囲で警戒する必要はありますが』
『この狭い空間じゃあ、巡回中の敵に遭遇すると厄介だものね』
 ケルベロス達はルティエを介して状況を把握。セレナと碧が資材に身を隠し、様子を伺う。
『全員の侵入完了よ。……潜伏ご苦労様だけれど、地球で集めた物資を侵略に使わせなどしないわ』
『――っと! さすがに気付かれてしまいましたか。ですが想定内です。後衛からフォローします、進みましょう!』
 アウレリアが報告していると、ふいに揺れた潜水艦の挙動にルティエが敵の動揺を察する。
 道中に蔓延るダモクレスはいずれも雑兵。消耗を気にする必要はない。
『では、僭越ながらこの場は私が先陣を務めさせて頂きましょう』
 メイドとしての流儀か、鉄子が先行する。
(「この独特の油や燃料の匂い、男として滾るもんがあるな! もっと酷い匂いを想像してたが、そこはダモクレスゆえか」)
 レヴィン達は雑兵をいなし、一本道を邁進した。
 すると、ついに目当ての中枢と思しき場所をケルベロス達は見つける。
『では、ご奉仕の時間でございます』
 鉄子が中枢前の扉を蹴破り、慇懃無礼にも見える所作で弩を構えた。
 そんな彼女の両脇から、ケルベロス達は踏み込んでいく。
「――鼠が! 侵入者は排除させてもらうぞ!」
 が、艦長・ガンドロイド・サファイアは愚かではない。一本道の経路という事情もあり、中枢は固められていた。冷徹な声と共に、巧みな銃さばきにて弾丸が掃射される。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 耳をつんざく銃声にも怯まず、むしろ押し返すように武器を突きつけるイリスと、セレナが名乗りを上げる。
「紅蓮!」
「潜入作戦っていう燃えるシチェーションよ? その程度で気勢を殺げるとは思わない事ね!」
 紅蓮と碧が弾丸の前に身を晒し、そこを縫うように接近したイリスが愛刀に眩い光を束ね、一閃。銀天剣・玖の斬。光の鎖がサファイアを守るように陣取るガジェットシーカーに絡みつく。
「ガジェットシーカーの数は……うん、許容範囲みたい! 碧ちゃんと義姉さん達もすぐに回復するね!」
 エヴァリーナが薬液の雨を前衛に降らせる。
「青き海の墓場は貴方達には過ぎたものよ。これ以上この地を汚す事なく闇より深き滅びに底へと沈みなさい」
 ミサイルポッドを担いだアウレリアが、心臓部のコアから動力を注いで射出。
 潜水艦の内部を閃光と轟音が揺るがすが、幸いにもここはダモクレスの体内も同然。衝撃を吸収してくれる。
「くっ、貴様ら、怯むなよ! 反撃――」
「――余所見なんかしてる場合か?」
 Dfとしてケルベロスの攻撃を堰き止めようとする数体のガジェットシーカーに檄を飛ばすサファイアに、ルティエの怪しき紫の光を灯す瞳と、薄い笑みが向けられる。
 ネェ、モットワタシト遊ビマショウ?
 唐突に背後から間髪入れずに振るわれた刃に対し、サファイアは防戦を強いられた。
「宜しく頼むよ、ダモクレス。すぐにサヨナラだけどなっ!」
 レヴィンはルティエに押し込まれるサファイアに向け、銀色の銃を構える。その刹那、彼の赤茶の瞳に、僅かな逡巡が過った。その逡巡を覚悟で覆い尽くすように、レヴィンは引き金を引く。達人の粋に達する銃撃はサファイアへ寸分なく迫るが、直前でガジェットシーカーに阻まれる。
 碧が戦乙女の歌を歌唱し、
(「……地上以外での戦闘は妙な感覚がしますね。もっとも、それを理由に剣を鈍らせるつもりはありませんが!」)
 白銀の騎士剣を極めて狭い艦内でも卓越した技量でもって自在に操りながら、セレナがサファイアを守護するガジェットシーカーをまずは一体、薙ぎ払う。
『サファイア様、レヴィン様の銃弾がお気に召さないのでしたら、私の砲弾などいかがでしょう?』
 邪魔なDfが一体排除できたのを見越し、鉄子が変形させたハンマーから竜砲弾を放ち、サファイア陣営の足並みを乱す。
「護衛共、前進せよ! ケルベロス共を好きに行動させるな!」
「「「イエス、マム!」」」
 それでも、ケルベロスの攻勢が停滞したタイミングで、ガジェットシーカーが頭部と腕部のドリルを唸らせて、イリスとアウレリアのエンチャントを破壊。
 ただではやられぬとばかりに、反射的に刀を振ってイリスが放った時空凍結弾が、ガジェットシーカーに殺到する。
 互いのグラビティが狭い艦内に入り乱れ、一進一退の攻防が続く。
「もし体力の限界が近くなったら、遠慮せずに私に言ってね! 無理して倒れるなんて嫌だよー?!」
 エヴァリーナが激しい攻勢に遭う仲間の状況を逐一把握し、アウレリアに緊急手術を施す。
「ええ、その辺は私達も心得ておりますとも、エヴァリーナ殿!」
「おうっ! ……たくっ、潜水艦だのドリルだの、ダモクレスって奴はロマンだけは有り余ってやがるな!」
 セレナが斬り込み、レヴィンはドリルに抉られつつも根性で耐え、星型のオーラを籠めたチェーンソーブーツで蹴り飛ばしてやる。
『皆様に危険が迫った際は、私にも補助の用意がございますので、どうかご用命くださいませ――っ、碧様!』
 弩を構えていた鉄子が、ふいに警告を発する。
「隙ありだ。先程は貴様の仲間にいいようにやれれたのでな!」
「っ、この感触は……! スノー、援護を! エヴァリーナさんも、早速で悪いけど頼むわ!」
 それにより致命傷は避けたものの、サファイアの尖刃脚を受けた碧の肢体が、痺れに似た感覚を訴える。ジャマーを相手にした際、特有の感覚。碧は冥府深層の冷気を帯びた手刀で周囲を巻き込み、反動を利用して後退。スノーとエヴァリーナに支援を呼びかけた。
「こちらからも援護する! ……余所見するなと言ったはずだサファイア、お前達の敵は一人じゃない!」
 スノーの羽ばたきを受ける碧に追撃はさせまいと、ルティエが魔法光線で、徹底してサファイアを狙い撃つ。紅蓮が、エンチャントを施されたガジェットシーカーに箱ごとタックルを仕掛けた。
「アルベルト、貴方も指揮官を狙ってちょうだい」
 アウレリアが、後衛に控えるガジェットシーカーを牽制するためにThanatosから目にも止まらぬ弾丸を放ち、アルベルトがサファイアを金縛りにかける。
「海底に潜んでいれば逃れられると思いましたか?! 動こうとしている敵を黙って見過ごす私達ではありません!」
 イリスの妖刀『紅雪』、その紫の柄から呪いが立ち昇る。ガジェットシーカーを斬りつけた瞬間、魂を啜り上げ、絶命に至らしめた。
「……我が艦隊は同胞へと物資を届ける。なんとしてもだ。意味は分かるな、護衛共?」
 彼女を守るDfが用をなさなくなろうとも、サファイア達は作戦行動完遂のため、機械的に心身を捧げる覚悟。
「……同胞を思う気持ちは同じなのに、相容れないものですね」
 敵Mdがサファイアへヒールグラビティをかけ、Snに位置するガジェットシーカーがドリルで襲い来る決死の姿に、セレナは小さく呟いた。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 しかし、相対する彼らに相応の覚悟があるのなら。爆発的な勢いで肉体に行き渡らせた魔力で運動能力を向上させ、一振りの剣の如く鋭い動きと化した騎士の一撃が、最後の前衛を斬り裂いた。
 そしてそれは同時に、ケルベロス側の優勢を知らしめる一幕であったに違いない。
『どうやらお連れの方々はお疲れのご様子。とあらば、安らぎの場へと送って差し上げるのがメイドとしての責務でございましょう』
 鉄子が見送りの挨拶であるかのように華麗に一礼し、「黒太陽」を具現化する。絶望の黒光が後衛を薙ぎ払う。
「私達はみんなで無事に帰らせてもらうんだよ!」
 エヴァリーナが、今度は碧に緊急手術を施し、サファイアをジッと見据えた。


「この一撃で一掃させてもらうわよ」
 対物ライフル型ドラゴニックハンマー――Keresより放たれた竜砲弾が、最後のMdガジェットシーカーを文字通り粉砕する。
「お前を守る者はもういない」
 それにより状況は一変。今まで僅かながら他へ向けられていた敵意が、サファイアへと集中。
 ルティエが凍結光線を放った。
 精神を極限まで集中させたセレナが、サファイアの周辺を突如爆破する。
『この一矢が死に至るものであることを知りなさい――――ガルド流冥弩術”冥土送り”』
 ガルド流冥弩術奥義。鉄子が放つ氷結の螺旋を込めた矢が、次々と高速で、回避しようとするサファイアの四肢を掠め、貫く。
「もう外さないぜ?」
 レヴィンの放つ達人の一撃が、サファイアを抉った。
「護衛? ……関係ないな。最後まで任務を全うする。ただそれのみ!」
「私達とて、ケルベロスとして多くの人々の危機を見過す事は出来ません!」
 サファイアも己が技量を全て銃に注ぎ、応戦。集中砲火をセレナは耐えきるべく、力を込めた。
「星の雫を纏いて生命を歌う、風と光に舞う薄羽、小さき友よ。水面に落ちる花弁の様に祝福のキスを降らして……」
 殺到する銃弾を前に、エヴァリーナが足元に描いた輝く魔法円から召喚された無数の小妖精が、前衛を光で包むようにして紗幕にも似た守護を張る。
「私からも、さっきのお返しをさせてもらうわ!」
 碧がサファイアに対し、ふいの遠隔爆破で動揺を誘い――イリスが踏み込む。
 銀の髪と桜の花弁が舞う。互いにとっての決死の間合い。
「光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ! 銀天剣・玖の斬!!」
 その鎖の如く束ねられた極光は艦内を埋め尽くし、サファイアを絡めとると、その動きを永遠に封じるのであった。

『皆様、お急ぎくださいませ!』
 鉄子が声を張り上げる。ガンドロイド・サファイア撃破と同時に巻き起こった、自爆の予兆を嗅ぎ取ったからだ。
「ダモクレスの脱出先、合流地点などの情報が得られれば良かったのですが……!」
 元来た場所へ引き返しながら、ルティエが小さく呟く。
「さすがにこの資材の山から見つけ出すのはねー。私も軍艦ご飯って美味しそーだよねって興味あったの。ダモさんだからご飯食べないかも? だけど」
「食――と聞けば私も興味は惹かれますが、今は逃げる事に集中しましょう!」
 ルティエ以上に後ろ髪を引かれている様子のエヴァリーナ。そんな彼女の背中をイリスは押し、アウレリアが溜息を吐く。
「うぉー、なんか映画みたいだー!」
 レヴィンが振り返ると、そこは足場が崩れかけており、駆けるケルベロス達の背後で爆発音が轟いた。
「狭いんだから、ちゃんと前を見ていないとダメよ!」
「大丈夫だって――って、なにぃ!?」
「レヴィン殿!!??」
 忠告する碧。ふいに崩壊する潜水艦の一部がレヴィンに降り注ぎ、セレナが心配そうな悲鳴を上げる。
 そんな紆余曲折がありながらも、ケルベロス達はビッグホエール級潜水艦を脱出する。
 やがて海の藻屑と化し、沈みゆく潜水艦。
 その様子をそれぞれの想いを込めてしばし眺め、ケルベロス達は地上へと帰還を果たすのだ。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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