千鷲の誕生日 夜警遊戯

作者:秋月諒

●遠い日の空
 ——この体が破壊し尽くされた日の事を覚えている。両足が砕け、けれどまだ両腕が残っていた。這う事が出来た。たった一人、たった一人で良かったのだ。
(「たったひとり、生かすのにこの身が足りなかった」)
 この身が足りず、この身だけが残った。
「あ——……」
 くしゃり、と髪をかき上げる。随分と鮮明な記憶と共に目が覚めた。夢見が悪いというよりは、記憶がただ再生された感覚に近く。
「朝日が、眩しいねぇ」
 ぼんやりと、三芝・千鷲(ラディウス・en0113)は息をついた。

●夜警遊戯
「で、寝付きが悪いから気晴らしになること無いかと思ってねぇ」
 千鷲はそう言って息をついた。巷で流行のフルーツティーは二人分。レディの支払いを奪うのは失礼なんですよ。と耳も尻尾もぴん、と立てたレイリに結局負けたのだ。
「眠りやすい枕とか、良い夢が見れそうな不思議な石とかではなくですか?」
「レイリちゃんどこの通販と組みだしたの?」
「一般論ですよー」
 むぅ、とひとつむくれた先、レイリは少し考えるようにしてから一枚のカードを差し出した。
「では、ぱーっと遊んでみるのは如何でしょう? 実はなんと、此処にポーカーパーティーへの招待券が入っているんです」
「いきなりだねぇ。また、なんでパーティーなの?」
 首を傾げた千鷲にレイリはにこり、と微笑んだ。
「合法ですよ?」
「澄み切った瞳がマイナスかなぁ」
「えーずるいです。ずるいです。そこは、良い感じのプラスで良いじゃ無いですかー」
 まぁそれはそれとして。
 カードを一枚置いたレイリは、パーティーはパーティーなのだと言った。
「至って普通のカジノです。ポーカーだけを楽しむものですが、丁度リニューアルオープンの話を聞きまして」
 たまには大人な服装で、パーンとひとつ遊んでみるのも良いだろう、ということだ。店としてみれば、ケルベロスが遊びに来た、という事実が良からぬ事を考える者を遠ざけるだろうし、宣伝にもなる。
「チップは帰りにお土産と交換できるんですよ。美味しい洋菓子があるんです」
 それともう一つ、とレイリは微笑んだ。
「ここは少しばかり面白いルールがあります。プレイするのはクローズド・ポーカー。プレイヤーは、その戦略がばれない限りイカサマをしても構いません」
「……普通のカジノかな? ここ」
 たっぷりと間を開けてから聞いた千鷲に、ゆらりとレイリは尻尾を揺らした。
「スリルも一緒に楽しむ感じの合法的なカジノですね」
 勿論、イカサマがバレればチップは没収だ。
「だから、ぱーんと気晴らしに他の事をしてみるのも良いのではと思いまして」
 忘れる気も無ければ、忘れられないのであれば。
 そう言って、にっこりと笑みを見せたレイリはくるり、と見つけたケルベロス達に声をかけた。
「というわけで、カジノにポーカーをしに行きませんか?」
 大人の遊びなんです、とゆるりと尻尾を揺らしたレイリに千鷲が小さく笑ってひらり、と手を振った。
「らしいから、どーかな? どうせだったら一緒に」
 誕生日の過ごし方なんてそれぞれで。重ねた年に憂うのも——憂うばかりではいられないのだから。


■リプレイ

●星の札
 見上げる程に巨大な螺旋階段が、吹き抜けの巨大なフロアを美しく飾っていた。ポーカーフロアが三階建てとなったのは、このホテルが廃墟となっていた天文台を買い取ったことにあるという。上へと続く階段は一種の信仰なのだとスタッフは笑った。
「階段信仰、天の梯子ですよ。我らは階段を上がりて天に至り、下りて……と。当のカジノは、皆様に思うがままに腕を振るい楽しんで頂くための場でございます」
 我らが目を擦り抜けるのであれば、数多をご自由に。
「このホテルの支配人が、そんな映画に憧れたのが初まりにございます。どうぞ、お楽しみください」
 黒服の男はそう言って一行を賑わいへと誘った。

 チップには星の柄が描かれていた。星々を集め、勝利に至る。実際、交換となるのはチョコレートだ。プラリネにガナッシュ。ワインの香りが仄かに残るトリュフがコロン、とカクテルグラスに姿を見せる。
「なるほド。こういう形なんですネ」
 賑わいに一度視線をやると、エトヴァはグリーンの柄タイを軽く結び直す。ダークスーツの青年のすらり、とした立ち姿はスタッフたちの目も惹いたのか。ほう、と落ちた息を聞きながら、カルナはふ、と笑った。
「なんだか、身が引き締まりますネ。……カルナ殿?」
「——いえ。似合っているなぁ、と思いまして」
「そうですカ?」
 エトヴァがカルナ殿もお似合いですよ、と笑みを見せる。スリーピースのスーツは、カジノだから、とちょっと余所行きの気分で選んだものだった。
「でハ、カルナ殿、お手合わせ願いマス。千鷲殿モ、宜しければご一緒に」
「——ん、僕?」
 首を傾げた三芝・千鷲(ラディウス・en0113)にカルナは微笑んだ。
「良ければ千鷲さんも一緒に勝負しませんか?」
「美味しいチョコレートが待っているとお聞きしましたラ。勝負しない訳には参りませんネ」
 口元、笑みを浮かべたエトヴァに、それなら余計に、と千鷲は笑った。
「勝負に乗らない訳にもいかないな」
 では、3人で? とディーラーが告げる。微笑み応じた青年達がカードを手に取れば、高らかにゲーム開始が告げられた。

「……」
 どうしましょうか、とカルナはスペードのカードに触れながらほんの僅か眉を寄せた。このまま行けばフルハウスだ。流石に、これでは弱いとは思う。ちらり、と見た先、エトヴァの狙いは見えそうで見えない。
(「エトヴァさんの手札は手堅くて、性格が出るなぁ」)
 派手なチェンジは無いが、積み重ねられるチップは安定感がある。余裕がありそうなのに、でもチェンジもしているとなると——……。
(「……どうしましょうか」)
 ポーカーはルールをギリギリ知っているレベルだ。まだ狙いたいカードはある。
(「はっ、こういう時こそ、なんかドヤ顔して相手を惑わすのですよね」)
 ならば、とカルナは微笑を作る。ゆっくりと、椅子に背を預けて足を組んだ。僕の手札は最強なので皆さんはドロップしてもいいんですよ、とでも言うように。
「チェック」
 その微笑みにエトヴァは手札で口元を隠した。
「……」
 その表情に、エトヴァは一瞬手を止めた。ほんの一瞬だ。だが、すごく自信のあるカルナの顔に流石に考える。スーツ姿に花を咲かせ、慣れぬと言っていた友人の向けた微笑みは手札への自信を見せていたのだから。
(「どうしようかな……」)
 今の所はフラッシュだ。ストレートフラッシュまで持ち込めそうではあるのだが、リスクもある。カルナの手札はどうだろうか。強気のレイズをどう見るか。
「……ふふ」
 くすり、と思わず笑みを零す。エトヴァさん? と瞬いた彼に小さく笑った。
「楽しくて」
 やがて手札を晒す時がやってくる。ショーダウンの一言と共に見えた手札は——……。
「フルハウス。こちらのお客様の勝利です」
 カルナの勝利だ。
 やった、と素直に喜んだカルナの所にチョコがやってくる。美しいカクテルグラスは、二人の真ん中に。だってまだゲームは始まったばかりだ。

 ——賑わいの中、ため息交じりの声がした。
「呼ばれて来てみればカジノ、ですか。確かに、未成年では踏み込めない場所ですが」
 声の主には足音で先に気がついていた。先に受けていたゲームは終盤に差し掛かっている。軽く振り返って、アッシュは年下の友人に笑みを見せた。
「騙されない為には騙す手法も知っとかないとだろ、蓮少年」
 成人したからには、今まで踏み入れなかった場所も状況も多くなる。良くも悪くも、見ることも触れる事も増えるだろう。
「ちったぁ慣れとけ?」
 冗談混じりにそう言って、悠然とレイズを続ける。眉を寄せたのは同じテーブルに着いていた客だった。
「フォールド。流石、このゲームはイカサマも何でもありだな」
 息をついた男がゲームから降りれば、オープンになったカードがシンプルなストレートを示す。目を剥いた男にひらり、とアッシュは手を振った。生憎、この手の場所には慣れていた。
(「ま、今回はイカサマなしだけどな……。少年は気がついている、か」)
 場をコントロールしただけのこと。弱い手札で悠々とし得た勝利の先、ため息ひとつ耳にして、振り返れば静かな声が耳に届く。
「なら、少年呼びはまずくないですか? 場所的にも」
 ひらりと男に手を振って見せたアッシュに、蓮は視線を向ける。大学二年の身からすれば、成人を迎えたばかりとて実感は無いが、カジノはカジノだ。
「……それもそうだな、少年呼びも卒業したい年頃だろうし」
 ふ、と息をついてアッシュが笑みを見せた。
「んじゃまぁ……蓮青年、かねぇ」
 席へと招かれれば先に手札を取ったアッシュが悠然と椅子に腰掛ける。——この人は勝つ気だ。
(「騙されない為にも、ね。まあ、最もか」)
 ならば、と蓮はポーカーフェイスを敷く。ひとつ息を吸うようにして手札を見れば、目の前の人が悪い大人の笑みを浮かべた。
「俺も土産が要るし……和柄のもあるといいなぁ、その方が嬢ちゃんの好みだろ?」
「——」
 ひゅ、と喉は鳴らずとも、顔が熱くなった。にやにやと笑うアッシュに、蓮は即座にポーカーフェイスを纏い直す。
「……何故それを……?」
 彼とは共通の友人である彼女。今では蓮の想い人であるが——それを言った覚えはない。
「ま、見てりゃ分かるさ」
 飄々とアッシュは告げた。軽く肩を竦め、口元浮かべられた笑みがにやり、としたそれから年上の友人めいたそれに変わる。
「蓮青年」
「……」
 何故、とこれ以上この人に聞くだけ無駄か。
 軽くついた息を胸の中に潜めて、蓮は手札を見た。配られた手札は悪くは無い。ダイヤとクローバー。同じ数字を揃えていく手と、もう一つ上に切り替える手もある。彼女に手土産を持ち帰りたいのは事実。抹茶のチョコに、扇の柄を描いたプラリネ。
「なら、確実に勝ちに行きましょうか。今日の祝賀も兼ねて」
「だな、祝いの場で負けってのは流石に締まらねぇし」
 ポーカーフェイスを微笑が受けて。レイズ、と二人の声が響いた。

「……で、これが一番強いやつかな。10からAまで同じ柄で、続きの数字で揃えると、ロイヤルフラッシュ」
「ん……、さっきのストレートフラッシュと似てるんだな」
 同じじゃないのか? と小さく首を傾げたティアンに、千鷲はさっきまで揃えていた5から9までのカードを横に置いた。
「これは、数字が大きくなるほど強い、って所だからね。一番がこの『A』で……」
 ティアンに、千鷲が最初に話したのはポーカーの役だった。簡単な流れと一緒に、勝つ為の方法と辿っていく。
「まぁ、この辺りは又聞きだけどね。やり方は好みがあるだろうし」
「千鷲は誰にポーカー、教わったんだ? どんな人?」
 ティアンのその言葉に千鷲の手が止まった。一拍、言葉を見失った男にゆっくりと視線を上げる。
「よかったら聞かせてくれないか。ポーカーをしながらでもいいし、無理にとは言わないけれど……」
「——……、そうだね。うん、僕の教え方は結局あいつに教わったものだし」
 でも、普通に話すには少しばかり思い出語りが過ぎるから。
「ポーカー、やりながら話そうか」
 静かに笑った千鷲にティアンは頷いた。
 ——そもそも、あいつは上官であり自分という兵器の責任者だったのだ。
「部隊を率いていてね。普通に武器として使ってれば良いのに、あれこれと教えるのが好きなやつで」
 その中のひとつが、ポーカーだったのだ。娯楽くらい覚えろと、つっけんどんに言う癖に真面にゲームになるまで付き合ってきた。
「てっきりポーカーが好きで遊び相手がいないから、僕に教えたのかと思ったんだけどね。それを言ったら怒られたんだよねぇ」
「そう」
 静かなティアンの相づちがありがたかった。感傷的になりそうだと思う。あの頃も、あの時も兵器であり続けたかったというのに。
『千鷲、千鷲、誕生日おめでとう』
『ありがとう、ティアンちゃん。ポーカーは初めて?』
 ポーカーの仕方を教えてほしい、という彼女に役から教えたの、自分もそう教わったからだ。ひどくそれを思い出す。
「困った友人だったよ」
「そう」
 漸く、吐き出したその言葉に、うん、と笑って、千鷲はカードを手にした。
「レイズ」
「……む、ならティアンもレイズだ」
 ティアンの表情は動かない。それは自分でも得意だとは思っていたのだ。だが——……。
「……」
 正直に上下する長い耳。フード被る? と笑いを堪える千鷲にティアンはゆるりと首を振った。
「おみやげのチョコレート欲しいからがんばるぞ」
「そうか。なら僕も負けられないなぁ」
 実際の所、長い耳は雄弁で逆に手札が読みにくい所もあった。さて、どうしようかと千鷲は思う。あの日失った腕でカードを掴んで。綺麗に治ってしまった体は何処までも恨めしかったけれど。
(「痕が欲しかったなんて、機械がね」)
 ふ、と息を落とす。再び聞こえたレイズに、え、と思わず声を上げた。
「ティアンちゃん?」
「どうした? ティアンはまだいけるぞ」
 ぴく、ぴくと揺れる耳はどっちだ。あれ、と思っているうちにころり、と負けたのは男の方だった。

「——コール」
「そうか、コールか……」
 涼やかに告げたグレイシアに、ヒエルが僅かに眉を寄せた。
(「クローズド・ポーカー……互いに手の内を見せないで戦う一番シンプルなルールだったが……」)
 同席して改めて実感する。表情は三者三様だが皆、ポーカーフェイスが上手い。
(「グレイシアは悪い手札でも強い手に見せかけくる印象があり、レフィナードは落ち着いた様子で大物手を仕込んできそうな気もする」)
 では、私もコールで、レフィナードは告げるが——コール、という割には手札に動きがない。狙いがあるのか、明確な道筋を既に付けているのか。
(「キースはテンション自体を察知し難いな」)
 少しばかり悩むようにして、ヒエルは己の手札を見た。大きな数字を組み合わせられそうではあるのだが——……。
(「カードの情報が殆ど無いとなるとなかなか…ふむ。それなら安定的な低い役よりも、チェンジで揺さ振ってみた方が楽しみは多そうだ」)
 次にチェンジするカードに目処を付けながらヒエルは視線をテーブルに落とす。
「——レイズ」
「……」
 おや、とグレイシアは思う。もう少し慎重に進めてくるかと思ったのだが——手札があるのか、それとも直感か。
「直感型って一番厄介だよねぇ……ただその姿勢は結構好きだったりする」
「そうか」
 ふ、と吐息一つ零すようにして告げたヒエルの次は、キースだった。手札で口元を隠すようにして、小さくキースは微笑む。
「そうだな、俺もレイズで」
 ポーカー勝負は、キースにとって久しぶりだ。母国の友人とした以来だった。
(「久々に腕が鳴る……」)
 今の手札は——別段、良い訳では無い。だが、別に『こういう状況』を知らない訳でも無いのだ。大胆なチェンジもありだが——問題は皆のポーカーフェイスだ。
(「三人もなかなかだ。というより、それぞれが方向性違って三者三様に読みにくい」)
 ヒエルは楽しんでいる雰囲気は伝わってくるのだが、表情に出ない。レフィは笑顔が絶えないしベットが手堅い。
「耳と尻尾をよく観察して出方を伺いたい所だよねぇ」
「そこか? 俺の確認ライン」
 ふ、と息をつくようにして笑う。比較的表情が読みやすいのはグレイシアではあるのだが、この調子だ。
「遊びだから楽しむつもりではあるのだが、勝負である以上、手加減なし。本気で行くぞ」
 仕掛けるのは次のターン。
(「俺も弱くはないはずだが……唸れ俺のカード運……!!」)
 微笑を崩さぬまま、キースは共に楽しむ仲間を見た。
「……おや、キース殿も強気ですね」
 レフィナードは穏やかな笑みを零した。元々、カードゲームを含む駆け引きや読み合いは不得手ではなかった。イカサマも出来ると言えば出来るのだが——……。
(「この夜は勝敗より楽しむ事を」)
 勝つよりは、レフィナードは負けないゲーム運びを選ぶ。勿論、相応の駆け引きも楽しみながら。なにせ折角の皆との時間だ。
「——レイズで」
「……レイズかぁ。なんかお見通しな感じがするから要注意だよねぇ」
 眉ひとつ寄せて、グレイシアが椅子に背を預ける。
「オレ結構大変なんだよねぇ」
「そうですか?」
 サラっと告げられた言葉の真偽はどちらか。無表情で淡々とチェンジするカードを選んでいくグレイシアは——甘くは見れない。
(「楽しい夜になりそうですね」)
 ふふ、と笑みを零し、レフィナードは視線を上げた。
「さっきの勝負ですか、良いですね。景品でもつけますか? 飲み物を一杯奢る、などどうでしょう」
「——うん、いいね」
 よいしょ、とグレイシアが身を起こす。次のチェンジもイカサマで少しカードをコントロールしようと思っていたのだが——うん、やめだ。
(「レフィナードは気がついている雰囲気あるけど、特に何も言ってこないし。キースとヒエルはどうかなぁって思うけど」)
 これは、直感勝負で挑むのがきっと——一番楽しい。狙うのであれば大物。最大のお楽しみはチョコレートに、奢りのジュースだ。
「グレイシアの番か」
「——うん。楽しいゲームにしよう」
 というわけで、直感を信じて思い切ったチェンジを。やがて訪れたショーダウン。皆様、とディーラーの告げる声でオープンになったカードから見る勝者は——……。
「ストレートフラッシュ。そちらのお客様の勝利です」
「……俺か?」
 小さく首を傾いだヒエルが一位。
 今宵、一度目の勝者の誕生であった。——何せ、まだゲームは続く。もう一度の声が、聞こえれば——ほら。

 わぁ、と賑わうテーブルを遠くに、サイガは手札を眺めていた。そう何度見ても中身は変わらないが——問題は中身じゃない。
(「あー……違うんじゃね? これ」)
 綺麗に揃ったスペードを指で叩き、サイガは眉を寄せた。目指してたのはもうちょい強い奴だ。覚え間違いしているのにも気がついてしまえば——残りは、ブラフだ。
「レイズで。こんだけどーぞ?」
 飄々と告げ、どーんとチップをつり上げる。おい、と同じ席に着いていた一般の客達がざわついた。
「強気だねぇサイガ君、大丈夫なの?」
 チップの山を指さした千鷲に、サイガは口の端を上げて笑った。山を作ったチップはこの前レイリが案内した仕事で手に入った分の報酬だ。
「他に使い道もねえし。俺と、あと妹分からの祝い金ってな……ン? 千鷲も同じ額賭けるコトになんの?」
 え、マジで?
 パチ、と瞬いたサイガにディーラーが静かな声で説明する。曰く、相手のベットした額に対して、次のプレイヤーがどうするかを決める訳で。サイガが出したこんもりチップくんたちは燦然とテーブルで輝いているわけで。
「だはは! 尚更千鷲クンが勝たなきゃ締まりがわりぃだろ、見してくれプロプレイヤー!」
「わーサイガくん、すごいー。次のプレイヤー僕なんだけどなぁ?」
 どんだけひっぱり出す気? と笑って千鷲の瞳がひたり、とこちらを見据える。
「ブラフとどっち?」
「さぁね?」
 一つ笑ってサイガは路線変更を始めたカードを見た。
「ウンウン。やっぱ気紛らわすにゃ焦って真剣になって、んな勝負じゃねえと」
「まぁ、真剣になるやつじゃないとね」
 首の皮一枚、配線ひとつ。
 そんな無謀だってやれるけど、と薄く笑って千鷲はチップを手にした。
「面白く無い。どうせだったらチョコレート欲しいからね」
 レイズ、と千鷲が返す。きっちり乗せられたチップにヒュウ、と口笛をひとつ吹いてサイガは椅子に背を預けた。プロプレイヤーの皆様は、どうするかお考えの途中らしい。
「俺ぁデウス殴んの方がオススメだがな。今日くらいは馬鹿騒ぎに付き合ってやんよ」
 どうせなら、記憶にある限り強い手札を。指先でカードをなぞって、サイガが笑った。
「イイ夢見れそうだろ?」
「——うん」
 吐息、ひとつ零して千鷲は笑う。積み上がったチップに一般客は少し引いているし、だが容赦の無い勝負は面白い。面白い、とこの身が思える。
「戦場で思いっきり発散は、次のお楽しみにしてね。イイ夢になりそうだよ。お利口にゲームで」
 ふ、と笑う。一人、また一人と降りていくゲームに他の参加者も減っていく。
「お利口がズルかよ。千鷲くん」
「そりゃぁ、少しばかりお兄様だし?」
 僕が勝ったら、お祝いにチョコをあげよう。笑ってカードを手にする。いずれ訪れるショーダウンまで。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月4日
難度:易しい
参加:10人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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