銃は卑劣、素晴らしいのは刀

作者:芦原クロ

『離れた位置から撃ったり、隠れながら撃ったり……銃など卑劣極まりない。男なら刀だ!』
 鞘の先端でドンッと地面を叩き、異形の者、ビルシャナが吠える。
『折れないし曲がらないし、良く切れる。殺陣もカッコイイと思わないか!? 卑劣な銃では出せぬ、美学と魅力が有る!』
 彼の無茶苦茶な主張に納得している者は信者になり、全く納得出来ない人は逃げ去っている。
 その為、信者以外に、一般人の姿は無かった。
『銃よりも刀だ。絶対的に、刀が素晴らしい! それを世に知らしめる為に……まずはあの店を壊してしまおう』
 ビルシャナの視線の先には、サバゲーの専門店が有った。
 10名の男性信者たちはビルシャナの言動によって正気を失い、破壊の衝動を強められ、店の破壊に大いに賛同した。

「エセよ、エセ侍のビルシャナよ! 銃を悪く言うなんて許せない!」
 怒り心頭の佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)を、なだめながら、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)はケルベロスたちに向き直る。
「佐竹・レイさんの推理のお陰で、予知が出来た。悟りを開いてビルシャナ化した人間が、事件を起こそうとしている。犠牲者が出る前に阻止し、一般人の救出とビルシャナの討伐を頼みたい」
 ケルベロスたちに、頭を下げる。

 ビルシャナが信者10名と共に動きだす前に、対処する事となる。
 ビルシャナの言葉には強い説得力があるので、放っておくと、一般人は配下になってしまう。
 信者たちは、そんなビルシャナの言葉によって、破壊衝動を強められたに過ぎない。
 倒すと死んでしまうほど、配下は絶望的に弱い為、戦闘になれば攻撃しにくい面倒な敵になる。
 配下はビルシャナを倒せば元に戻る。
 しかし、死なせる危険性が有る以上は、ビルシャナの主張を覆すような、インパクトのある主張を行ない、信者を正気に戻して配下化を阻止するのがベストだろう。

「銃と刀か。どちらも、それぞれにしか無い魅力が有ると思うぜ。銃の良さをアピールしたり、刀のデメリットなどを言うだけでも、信者は正気を取り戻すハズだ。……それと、ここのサバゲー専門店には水鉄砲……ああ、今はウォーターガンというのか。ライフル型や小銃型などのウォーターガンも揃っているようだ」
 討伐後、もしくは説得の材料として遊んでみるのも良いかも知れない、と。
 伝えてから、やや真剣な面持ちになる。
 破壊活動を放っておけば被害は拡大し、一般人の死傷者も出かねないからだ。
「あんたさん達だけが頼りだ。無事に討伐が成功するよう、願っているぜ」
 信頼を込めた口調で、締めくくった。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ


(「武器は道具にすぎん。卑劣なものにするも格好良くするも武器種に関わらず使い手次第だ」)
 標的を視認し、宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は思案を続ける。
(「……まあ好きなものを語る分には構わんのだが、他方を攻撃するようでは迷惑でしかないな」)
 破壊活動が行なわれる前に、と。
 双牙はビルシャナと信者たちの行く手をふさぐ。
『なんだ貴様ら!?』
「何やら討ち入りのご様子ですがー、少々お待ちいただければとー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が穏やかかつ、しとやかに集団をなだめる。
「ヘイユー! 刀が好きなコトと銃が嫌いなコトをごちゃ混ぜにスるなんて……」
 あえて一度言葉を区切る、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)。
「教えを説く者とシテどうかと思うワヨ!」
 少し溜めてからビシッと言い放つと、ビルシャナは胸元をおさえた。
 正論を受けて、ぐうの音も出ないビルシャナに対し、1人の信者がパトリシアに対して頷いていた。
 言われてみればそうだ、と。
 納得した1人が正気に戻り、急いでその場を離れて行った。


「あんたたちバッカねぇ、西部の早撃ち勝負だって刀と同じようなきんちょー感があるんだからっ。食わず嫌いの前に試してみなさいよ」
 佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が呆れ声を出すと、信者たちはレイに注目。
 馬鹿呼ばわりされ、怒りに満ちた瞳は血走り、かなり恐い。
 強気だがビビリの一面も持つレイは、慌ててグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)の後ろにサッと隠れた。
「佐竹、大丈夫か? 俺が先に説得するかね」
 悪そうな顔つきのグラハを見て、信者たちの目の色は怒りから怯えの色に変わる。
 グラハの後ろで様子をうかがっていたレイは、それに気づき、大丈夫だということを伝え、堂々と前に出た。
「あんた達の理屈じゃ弓とか槍だって似たようなもんじゃない!」
 レイの言う通り、弓は遠距離に適し、槍は中距離に適している。
 はっと我に返った信者が1人、逃げた。
「……刀工だった親父の受け売りだがな。刀剣、槍、弓、そして銃と。狩りや戦で相手の手の届かぬ、より遠間から敵を撃滅するのが武器の本質」
 双牙が説得を重ね、銃以外の武器についての語りを始める。
「そうやって力の差を埋め、より有利に戦う人の知恵が武器というものだ」
「あたしが言いたかったのはそれよっ!」
 一度話し終えた双牙に対し、レイは上機嫌で、うんうんと頷いている。
『そうだよな、有利じゃないとこっちがやられるもんな。人間の知恵ってすげーわ』
 更に1人の信者が納得し、刀にこだわる必要は無いのだと気づき、正気を取り戻す。
「銃にだって格好いい殺陣はある!」
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)はスタイリッシュモードを展開し、色気が増したキツめの、全体的に丈が短いカウガール風の服装に変わる。
 あらかじめ、店で購入していたガスリボルバーと弾を用いて、アクロバティックな動きで信者の視線を集める、ファレ。
 せっせと石をいくつか集め、ファレのほうへ放り投げる、レイ。
 ファレはガスリボルバーを手の中で回転させて頭上に投げ、片手でキャッチすると同時に、石を撃ち落とす。
 いわゆる、曲撃ちだ。
 ファレは豊満な胸を激しく揺らし、胸の谷間に隠していたストックの弾を一瞬で、シリンダーにセット。
 またもやレイが石を放ると、両手に持ったガスリボルバーで、ファレは絶え間の無い射撃を繰り返す。
 色っぽさとカッコ良さの両方を見せるファレに、ビルシャナも信者たちも思わず見惚れてしまう。
「か、カッコイイ……っ! ……まぁ、これからは銃の時代よ、やっとうなんて時代おくれなんだからっ」
 自信たっぷりにレイが言い切ると、ファレの華麗なアクションの甲斐も有り、2人の信者が信仰を捨てた。
「ファレさんすごかったわ!」
「レイも的を投げてくれてありがとね」
 異色の某西部劇が胸アツなレイは、感動と興奮の入り混じった様子でファレをたたえる。
『くっ! それでも刀のほうが断然カッコイイぞ!』
 もはや負け犬の遠吠えとなりつつあるが、ビルシャナは必死で言い返す。
「武器ってのは当然、武器として使って意味があるモノ。となりゃ、刀を推すってことは……」
 そこへ掛かる、グラハの言葉。
「人を斬り殺すとこまで含めて、肉を斬り、骨を断つ……手に伝わるその感触まで含めて、推してんだよな?」
 リアルなワードにインパクトを受け、信者たちはどよめき、怯えだす。
「その点、銃なら引金を引くだけで済むぜ。場合によっては断末魔まで発砲音に呑まれて消える……」
 基本的に鍛練にも強さにもこだわらず、勝てればそれで良いという思考の、グラハ。
 武器はあくまで道具であり、殺傷性能以外はただのオマケに過ぎない、と。
 基本の思考は変わらないが、説得ではオマケも有用だと判断し、グラハは銃の良さを語る。
「後を引かずに使えるってのは重要じゃねぇか? ある意味、心を守るための距離でもあるんだよ、銃の射程ってのは」
『心は守りたい!』
 グラハの説得に、我先にと1人の信者が正気に戻り、逃げて行った。


「質実剛健はー、刀のよくあるイメージですがー。しかし刀の折れず曲がらずというのもー、普段のお手入れあってこそー」
『手入れ?』
 フラッタリーが穏やかに語りだすと、信者たちは怪訝そうに、聞き入る姿勢に入った。
「血脂を拭いー、打ち粉などで丁寧に扱わねばー、錆びてしまうものー。そういった面は見ておられるでしょうかー?」
 またもやリアルなワードが飛び、信者たちはインパクトを受ける。
 フラッタリーとしては、手入れの大変さを伝えるつもりだったのだが、信者たちにとっては刺激が強すぎたようだ。
「それと慣れねば刃を鞘から滑らすだけでもー、指が落ちてしまうものー。ちゃんとした抜き方振り方をー、出来ておられるでしょうかー? 刀は繊細ですのよー」
『怖い怖い! 銃のほうが良いです!』
 強調される危険性に、信者がまた1人、逃げてゆく。
「何事も普段のお手入れがあってこそというものでー」
 のんびりと呟くフラッタリーだが、手入れが面倒で、鉄塊剣で潰す方向に走ったのは彼女である。
「カタナだってカッコイイ、ガンだってカッコイイ。シカシ一番かっこいいモノ、ソレは……拳ダーッ!」
 パトリシアが、残ったビルシャナと信者たちに向けて、テンション高く、叫ぶ。
「己の拳、己の五体その物なら、卑劣という言葉から最も縁遠く、格好の良い武器だろう」
 拳での戦闘を得意とする双牙も、素手の良さを語る。
「鍛えた己の身体のみで戦う事こそ最も正々堂々としている。違うか?」
「オトコノコなら一度は! 己が身一つで悪漢をぶちのめしたいと思ったコトがアルデショウ!? オトコノコってそういうもんだっていつかのトークで訊きマシタ」
 堂々と問う双牙、ハイテンションで尋ねるパトリシア。
『あんたらに言われて気づいたけど、俺は武器よりステゴロのほうが好きだ!』
 ステゴロ万歳、と叫びながら走り去ってゆく元信者。
「刀と銃は相いれない存在じゃないわ。わかんないわけ? 銃と刀が戦う圧倒的不利な状況……一瞬にかける侍魂! だからこそ刀に浪漫がうまれるんじゃない!」
 ロマンを語る、レイ。
「つまりっ、少年漫画でいうライバル……互いが互いを高め合う友なのよ!! この二人……じゃなかった、二つを引き離すことなんて出来ないはずよ!」
 片手間に、擬人化ゲームを操作しつつ、レイは説得をしている。
「刀も好きだし銃も好きだし迷うわよねぇ……どっちにも良さがあるのよ。あぅ、オラオラ系と王子様系どっちにしよう」
『分かる! 擬人化したらライバルよね!?』
 唯一の女性信者が意気投合し、レイとゲーム語りをしてから、スッキリした面もちで帰ってゆく。
「夢が見たいナラ、生の拳でこの体に打ち込んでミナ! 一般人の方も! 後でセクハラとか訴えないカラどんと来なさい!!」
 最後の信者に詰め寄る、パトリシア。
「そもそも、一般に於いては武器なんぞ余程切羽詰まってないと手に取らねぇしな。他にどうしようもない状況で使ったってのに、命奪う感触にトラウマでも抱えたらやってられねぇだろ」
「より離れて攻撃ができる程度で、銃が卑劣で、刀がそうでは無い道理などあるものか。俺にしてみれば五十歩百歩。まして取扱店の営業妨害など言語道断」
 グラハの正論に、双牙が続く。
「真実を見ずに他の武器を貶すなど、貴様らに銃も刀も語る資格は無い。失せるがいい」
 メンバーで一気に畳みかけた上での、双牙の厳しい一言。
 最後の信者は言い返すことも出来ず、泣きながら逃げ去った。
 信者が全員居なくなり、残ったビルシャナ目掛けて、パトリシアが飛び出す。
「パンチ! パンチパンチ!!」
 魂を喰らう降魔の拳撃を放つ、パトリシア。
 普段のおっとりさが消え、狂笑を浮かべるほどに豹変する、フラッタリー。
 狂気と化した言葉は、言語とならず。
「――潰します」
 それだけが唯一聞き取れるもので、フラッタリーは猛獣の顎を顕現させ、敵を食らい、えぐる。
「ぱーん!」
 語尾にハートマークがつきそうなほど、甘い声音を出す、ファレ。
 爆発を伴う激しい燃焼により、敵は動けなくなる。
「銃のカッコイイところ、見せちゃうんだから♪ よぉく狙って……ばきゅーん!」
 弾丸をばら撒くように放ち、敵の侵攻を阻む、レイ。
「ドーシャ・アグニ・アーパ。病素より、火大と水大をここに与えん。――これこそ最後の晩餐、ってか? 己で己を貪り殺せ」
 グラハは過剰に増悪した精神を、黒い靄のような力の塊として顕現させ、身に纏う。
 敵の体内に異常を起こさせ、内部から肉体の溶解を促す。
「閃く手刀に紅炎灯し、肉斬り骨断つ牙と成す! ……受けろ! 閃・紅・断・牙!」
 Violent Fangと双牙は声をあげ、炎をまとった手刀が、獣の如き鋭さとしなやかさで繰り出される。
 切り裂かれた敵は反撃も出来ずに、完全に消滅した。


「……美しさで忍者が務まるのなら苦労しないのダワ」
 戦闘で荒れた箇所をヒールし終え、パトリシアが呟きを零した。
 メンバーは襲撃が回避されたサバゲーの専門店へ、向かう。
 試し打ちが可能なショップの為、初体験のファレは色々と見て回り、楽しそうだ。
「何が一番とか気にせず、自分の好きな美学を極めたいわね」
 試し打ちをしながら、呟くファレ。
 銃が好きな双牙も、様々な銃を手にし、それぞれの銃の感触の違いを確認している。
「ウォーターガンか……ほぉ、思いの外いろいろあるのな」
 グラハはウォーターガンのコーナーを見て、銃を手にする。
「これは電動式の連射型……すぐ水切れるんじゃねぇかと思ったら、タンクそのものを付け替えながら撃つのかよ、そこまでやんのか……」
 呆れと感心が半々で、呟いてしまうグラハ。
「ふっふーん、水鉄砲で尋常に勝負よ!」
「表に出ろ!」
 レイがメンバーに声を掛け、ファレはガンマンっぽく振る舞い、外に出るよう促す。
「当たりませんわねぇー」
 狙った箇所へ当てる能力が無いフラッタリーは、誰にも当てられず、虚空を水で撃っている。
「グラハさんに双牙さん隙有りっ♪」
 楽しそうに、2人の頬に冷たい水を飛ばす、レイ。
「回り込んで前後から佐竹を狙おうぜ」
「それも良いだろう」
 口角を上げて笑み、グラハが案を出すと、双牙はあっさり乗った。
 顔面と後頭部に集中攻撃を受け、レイは逃げ回る。
「つ、冷たい……2人揃ってなんて、ずるいわ!」
「先に不意打ちしたのは誰だったかね」
 レイが抗議するが、グラハがさらりと一蹴。
「やばい……でも負けないわよっ! ……ファレさん助けて!」
「そこで助けを呼ぶのか」
 意気込んでから、ファレを呼ぶレイに思わずツッコミを入れる、双牙。
「ご指名かしら? やるからには勝ちたいわね。グラハも双牙もお手柔らかに、よろしくね」
 色っぽく微笑む、ファレ。
 ウォーターガンでの撃ち合いが始まり、楽しそうに遊ぶメンバー。
 心地よい程の冷たい水に濡れながら、暫し娯楽に興じるのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月24日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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