コーヒーブレイク

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化したマンションに捨てられていたのは、家庭用のコーヒーメーカーであった。
 しかも、その日の天候、室温、湿度などによって、粉の分量を調節するファジー機能付き。
 それが何処まで使えたのか分からないが、所有者の期待に添える事が出来ず、マンションが廃墟と化した後も、持っていかれる事なく棄てられた。
 実際に家庭用コーヒーメーカーに搭載されていたファジー機能は、実に曖昧で適当ッ!
 そのため、利用者も『本当に、これ……豆の量とか調節しているの? 何時も同じなんだけど……』という事が多く、すぐに飽きられてしまったようである。
 その場所に蜘蛛型の小型ダモクレスが現れ、家庭用コーヒーメーカーの中に入り込んだ。
 それと同時に機械的なヒールによって、家庭用コーヒーメーカーが家電製品っぽいダモクレスになった。
「コォォォォォォォォォォォヒィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが奇妙な鳴き声を響かせ、廃墟と化したマンションの壁を突き破り、グラビティ・チェインを奪うため、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が危惧していた通り、都内某所にあるマンションで、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが現れたのは、廃墟と化したマンション。
 この場所に捨てられていた家庭用コーヒーメーカーが機械的なヒールによって、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、家庭用コーヒーメーカーです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティ・チェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは巨大な蜘蛛のような姿をしており、グラビティ・チェインを求めて攻撃を仕掛けてくるようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
ヒルデガルダ・エメリッヒ(暁天の騎士・e66300)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
 

■リプレイ

●都内某所
「……あたし、直近のお仕事も給茶機だったのよねー。何かそういうのに縁が有るのかしら?」
 ヒルデガルダ・エメリッヒ(暁天の騎士・e66300)は運命的なモノを感じながら、廃墟と化したマンションにやってきた。
 廃墟と化したマンションからは、ほんのりとコーヒーのニオイが漂っており、それがケルベロス達の身体を包み込むようにして辺りに広がっていた。
 それはまるでコーヒーショップの傍を横切ったのではないかと錯覚してしまう程のイイニオイ。
 だからと言って高級感はないモノの、ホッとするようなニオイであった。
「ある意味、運命かも知れないねぇ。私の場合、飲食が必要ないとはいえ、興味までないわけではないから、どんなモノなのか知っておきたいから、此処に来たのだけれど……。特に嗜好品ともなると『ただ水分を求めて飲んでいる』のとは、また違った魅力があるからねぇ。ダモクレスが淹れたコーヒーが、どんなモノなのか知りたいところだねぇ」
 ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が、自分なりの考えを述べた。
「ところでコーヒーはどこから仕入れてきたんでしょうかね? 共に置き去りにされていたものなら酷い味しかしないと思うのですが……」
 ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が、気まずい様子で汗を流した。
 普通に考えれば、マンション内にあったコーヒー豆を使用している可能性が高いものの、それでは悪くなっていて飲めたものではない。
「まあ、ケルベロスだから外れを飲んじゃっても死ぬことは無いし、何事も挑戦、やってみるものよ」
 ヒルデガルダがまったく気にしていない様子で、さらりと答えを返した。
 とりあえず、飲む!
 最悪……吐く!
 どちらにしても、死ぬ事がないのだから、気にする事はない……はず。
 何やら危険なフラグを立ててしまったような気もするが、おそらく大丈夫……のはず。
「……とは言え、酸化の酷い匂いも普通の匂いもしますね。コーヒーの品揃えもファジーと言う事でしょうか?」
 ジュリアスが腑に落ちない様子で、不思議そうに首を傾げた。
 もしかすると、ファジーな機能で、悪くなったコーヒー豆を美味しく仕上げているのかも知れないが、考えれば考えるほど怖い結論が頭に浮かんだ。
「実は珈琲が飲めないんですよね……。香りは悪くないのですが、苦みが何とも苦手でして……。いわゆるお子様舌なのかもしれませんが……」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が複雑な気持ちになりながら、殺界形成を発動させた。
 念のため、立ち入り禁止のテープや、立て札も立てておいたが、嫌な予感が消える事はなかった。
「コ、コ、コーヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスがマンションの壁を突き破り、ケルベロス達の前に降り立った。
「コーヒー牛にゅ……じゃなくて、ダモクレスを飲みに……じゃなくて! 倒しにきたわよっ」
 その行く手を阻むようにして、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)がダモクレスの前に陣取った。

●ダモクレス
「コォォォォォォォォォォォォォォヒィィィィィィィィィィ!」
 ダモクレスが殺気立った様子で、ビーム型のコーヒーを飛ばしてきた。
 それはアイスであり、ホット。
 状況次第で、使い分ける事も出来そうである。
「……その攻撃を待っていたわ!」
 それに気づいたレイが、冷え冷えの牛乳を構え、ビーム型のコーヒーを受け止めた。
 それはケルベロスだから出来る匠の技。
 牛乳に程よく溶け込んだコーヒーのニオイが、レイの気持ちをホッとさせた。
「のびろ身長っ……あと胸」
 そのコーヒー牛乳をグイッと飲み干し、レイが幸せな気持ちになった。
 最初は危険フラグで頭の中が埋め尽くされそうになっていた者の、飲んでみると意外に美味しい。むしろアリ!
 一般的なコーヒーの味ではあるものの、何やら病みつきになる味であった。
「その様子だと毒は入っていないようだねぇ……」
 ディミックがレイの様子を窺いながら、ホッとした様子で溜息を洩らした。
 レイの様子を見る限り、ダモクレスのコーヒーは毒ではない。
 だが、それに使う珈琲豆を何処から入手したのか分からないため、警戒を怠る訳にもいかなかった。
「何と言うか、いつもの味ね。ある意味、一般的な……。でも、嫌いじゃないわ。なんだか落ち着くし……」
 レイがコーヒー牛乳をゴキュゴキュと飲んだ後、自分の体に異常がない事を強調した。
「……まさか催眠効果とかないわよね?」
 ヒルデガルダが、警戒心をあらわにした。
 いまのところ、そこまで怪しい感じはしないものの、それでも警戒してしまうというのが本音であった。
「普通の……コーヒーですね」
 慧子が手についたコーヒーを口に含み、妙なものが混ざっていないか確かめた。
 しかし、コーヒー自体に異常はなく、逆にそれが不安を煽るような感じであった。
 そもそも、何処で珈琲豆を調達したのか分かっていないのだから、そう思ってしまうのも無理はない。
「まあ、何であれ警戒すべきモノって事ですかねッ!」
 すぐさま、ジュリアスが重力衝撃リフトスロー(グラビティインパクトリフトスロー)を仕掛け、ダモクレスの身体を掴んで投げた。
「コォォォォォォォヒィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その途端、大量のオイルが飛び散り、ジュリアスの体を汚した。
「ギャー!? 古くなったコーヒーの油がかかりましたよ! なんですか、これ。本当に珈琲ですか。それともオイル……。どちらにしても、物凄く気持ちが悪いんですが……」
 これにはジュリアスもドン引きした様子で、全身に鳥肌を立たせた。
 実際には何なのか分からないが、ヌルヌル、ベトベトしていて、とにかく臭いッ!
 汚水の国からコンニチワと言わんばかりに臭うため、ダモクレスに近づく事さえ出来なくなった。
「コォォォォォヒィィィィィィィィィィィ」
 一方、ダモクレスは平衡感覚を失いつつも、コーヒーメーカー型のアームを使い、フラフラとしつつも何とか起き上がった。
「わ、私はコーヒーなんていりませんからね。それ以前に、こんなモノを飲み物ではありません」
 その事に気づいたジュリアスが、警戒心をあらわにした。
 正直を言えば、帰りたい。
 本音を言えば、もう勘弁。
「コォォォォォォォォヒィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 だが、ダモクレスは、おかまいなし。
 『出来立てのコーヒーを、今すぐお届け!』と言わんばかりにビーム状のコーヒーを放ってきた。
「攻撃を受けるにしても、ハズレのコーヒーで受けたくはありませんね。絶対に、さっきのコーヒーとは違いますよね。私だけ特別なのかも知れませんが……。だから、こっちに向けてビームを放つのを止めてくれませんか!」
 ジュリアスが涙目になりつつ、必死になってビーム状のコーヒーを避けた。
 先程の一撃でダモクレスの気持ちが決まったのか、執拗にジュリアスばかりを狙っていた。
 しかし、ジュリアスに恨みがあるというよりも、『一度、飲んでみなよ。美味しいから! ほら、ほら、ほらァ!』と言わんばかりに迫っているような感じであった。
 それでも、ジュリアスからすれば、迷惑以外のナニモノでもなかった。
 むしろ、『とにかく、帰ってくれませんか!』と言いたげな様子。
 だが、その言葉を吐き出す事が出来ない程、ダモクレスが執拗にビーム状のコーヒーを放っていた。
「別に嫌がる事もないと思うけど……。美味しいわよ、これ」
 そんな中、レイがコーヒー牛乳を飲み干し、キョトンとした表情を浮かべた。
「コォォォォォォォヒィィィィィィィィィィィィィ」
 その事に気づいたダモクレスがコーヒーメーカー型のアームを使い、レイのコップにアイスコーヒーを半分だけ注いだ。
「それじゃ、あたしはアイスで……。氷多めって出来るのかしら?」
 そのドサクサに紛れて、ヒルデガルダがダモクレスにコーヒーを頼み、美味しそうにゴクリと飲んだ。
「いや、よく見てください。明らかに私のだけドス黒いですよね?」
 その間も、ジュリアスがビーム状のコーヒーを避けつつ、仲間達に対して必死に訴えた。
「普通のコーヒーだと思うけどねぇ」
 ディミックがジュリアスを護るようにして、ビーム状のコーヒー(ホット)を浴びた。
 実際にコーヒー自体に毒性はなく、単なる特製ブレンドだったようである。
 それだけジュリアスに対して、コーヒーの素晴らしさを伝えたかったようだが、荒っぽいやり方のせいで、その気持ちが全く伝わっていなかった。
「だからと言って、このまま放っておく訳にもいかないわね。本当に嫌がっているようだし……」
 そんな空気を察したヒルデガルダがフローレスフラワーズを仕掛け、戦場を美しく舞い踊り、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせた。
「この味であれば、苦いのが苦手な私でも飲めますが……残念です」
 即座に、慧子が気持ちを切り替え、憑霊弧月を発動させ、武器に無数の霊体を憑依させ、ダモクレスを斬りつけた。
 それと同時にダモクレスの身体が汚染され、苦しそうに身体を震わせた。
「コーヒーは泥水だという紅茶過激派の意見を、今は否定できませんね」
 その隙をつくようにして、ジュリアスが絶空斬を仕掛け、ダモクレスを斬りつけた。
「コォォォォォォォォォォォヒィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスがコーヒーメーカー型のミサイルを飛ばし、ケルベロス達を攻撃した。
 アスファルトの地面に落下したミサイルは、大量の破片と共に、コーヒーを飛び散らせた。
「クモにコーヒーを与えると酔っぱらうと聞きましたが……。もしや既に酔っぱらってるんですかね? まあどちらにせよ、戦って潰すしかないのですけれど……。相手もイイ感じにドリップしてきたようですし、このまま畳みかけてしまいましょう」
 そのコーヒーを避けながら、ジュリアスが仲間達に声を掛け、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
 それに合わせて、慧子がステルスツリーを発動させ、ステルスリーフの効果範囲を広げる魔法の樹を足元に呼び出した。
「何だか勿体ない気もするけど、仕方がないわよね。なるべく壊さないようにしてあげるから、大人しくしているのよ」
 レイがダモクレスに語り掛けながら、スターゲイザーを炸裂させた。
 その一撃を喰らったダモクレスが機動力を奪われ、身動きが取れなくなった。
「それでは、いきますよ」
 慧子が納得した様子で、ダモクレスに呪怨斬月を仕掛け、呪われた武器の呪詛を乗せ、美しい軌跡を描く斬撃を放った。
「コ、コーヒィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その一撃は喰らったダモクレスが、断末魔にも似た機械音を響かせ、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「お、終わったの?」
 ヒルデガルダが警戒した様子で、ダモクレスに近づいた。
 ダモクレスはコア部分を破壊され、完全に機能を停止させていた。
「おいしくなければ淘汰される。現代の闇ですねえ」
 ジュリアスが複雑な気持ちになりつつ、深い溜息を漏らした。
 ダモクレス自体は壊れてしまったが、コーヒーメーカー型のアームの中には、コーヒーかすが残っていた。
 コーヒーかすは消臭剤として使う事が出来るため、とりあえず回収。
 他にも探せば使えそうなものが、いくつもありそうである。
「いやはや、濃色の液体がそのままは非常に目立つから、きちんと綺麗にしてから戻ることにしよう。香り高い品の機械で、まだよかった。これが悲惨な匂いだと勝っても悲しかったろうねぇ」
 その間にディミックがヒールを使って、ダモクレスが破壊した部分を修復した。
 結局、何処で珈琲豆を調達していたのか分からなかったが、手元にある材料だけで美味しいコーヒーを淹れていたのだから、性能的には申し分が無いように思えた。
「でも、味覚って不思議なもので、飲む人の体調によって同じものを口に入れてても味が違ってくるらしいから……。いつでも同じ味って実はすごかったんじゃない!? メーカーと型番を確かめて、お取り寄せしようかしらね」
 ヒルデガルダが興味津々な様子で、コーヒーメーカー型のアームを眺めた。
 どうやら今でも存在しているメーカーなので、連絡をすれば最新型を取り寄せる事が出来そうだ。
「それに、せっかく美味しいコーヒー牛乳が飲めたんだものっ。ちょっとくらいは感謝してあげないとねっ♪」
 レイがコーヒーメーカーをヒールで修復し、コーヒー牛乳を作ってグイッと飲み干した。
 仕事の後の一杯は、格別。
 戦いの疲れも一気に吹き飛ぶほどのモノだった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月17日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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