来て来てサンタさん!

作者:りん


 壁にかけられたカレンダーを見て、少年は一つ溜息をついた。
 11月も終わり、もうすぐクリスマス。
 クラスの友達はサンタクロースへのお願い事を何にするかとあれこれ迷っていたが……。
「今年はクリスマスはなし! サンタクロースは来ません!」
 悪戯をしすぎた少年に母親が言った言葉だ。
 悪戯ばかりする悪い子の所にはサンタクロースは来ない。
 ずっと言われていたことだったのに、これくらいなら許してくれるだろうと、色々な悪戯を重ねた結果だった。
 それからは悪戯もせず母親の手伝いをしたりしているが、あれだけ悪戯したのだ。
 今年はもう来てくれないだろう。
「うぅ……」
 俯くと目に涙が溜まる。
 ちゃんと言う事を聞いていればよかった。
「クリスマス、したかったな……」
 ぽつりとつぶやいた少年に、背後から言葉が投げかけられた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの願いはとても素敵ね」
 意識を失う前に少年が見たものは心臓に突き刺さる一本の鍵。そして赤い頭巾に表情のない顔の少女だった。
 倒れた少年の横に、もわもわとした白が浮かび上がり……現れたのは巨大なケーキ。
 上に乗っているのは艶やかな苺とヒイラギの飾り、そして白と赤が入り混じったモザイク。
 巨大ケーキは少年の上を飛び越えて、クリスマスソングが流れる街へと姿を消したのだった。
 

「大変っす! ドリームイーターが現れたっす!」
 慌てた様子でこちらに駆け寄ってきたのは黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。
 今回現れたドリームイーターは、幸せな将来の夢を持っている人を襲い、その夢を奪って行ったのだという。
「夢を奪ったドリームイーターの正体は不明っす。だけど、奪われた夢を元にして実現化したドリームイーターが事件を起こそうとしてるっす!」
 ゼフトさんが懸念していた通りになったっすね、と呟けば、ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)はひとつ頷いた。
「これ以上被害者を出さないためにも、手伝って欲しいんだ」
 実現化したドリームイーターは巨大なケーキ型。
「そのケーキドリームイーターに狙われているのは、サンタクロースの格好をしてる人物だ」
 この時期にはよく見かける光景で、売っているのは何でもいいらしい。
 ゼフトの言葉にダンテも頷き説明を補足していく。
「一般人が襲われそうになるところを助けに入ってもいいっすけど、ケルベロスのみなさんの方が夢の力が大きいらしいっす。なので、皆さんがサンタの格好をして何かを売っていればドリームイーターはみなさんの方に来るはずっす!」
 サンタクロースの格好さえしていれば扱っている品物は何でもいいと言うが、すぐに用意できるものは限られている。
「どこかのお店から仕入れてきたクリスマスオーナメントや、手作りクッキーとかもいいかもしれないっす」
 何をどうするかはケルベロスの皆さんにお任せするっす、と伝えると、ダンテはケーキドリームイーターの攻撃方法を語っていく。
「ドリームイーターはケーキの上に乗っている苺やヒイラギを飛ばして攻撃してくるっす」
 苺には催眠、ヒイラギにはパラライズの効果がついていると言う。
「それともう一つ、口……って言うのかわかんないんすけど……」
 ぱっくりとケーキが上下に分かれて、頭からもぐもぐされるらしい。
 もぐもぐされるとべっとりと全身にクリームがついて武器が使いづらくなるのだとか。
「クリスマスをしたいという夢で化け物を生み出すとか、許せることじゃないっす。どうか、ケルベロスの皆さんでその夢を取り戻してあげてくださいっす!」


参加者
リリ・スピカ(天使より天使な小悪魔・e01295)
アゴネリウス・ゴールドマリア(ヒゲ愛のアゴネリウス・e01735)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
イロハ・シャルフシュッツェ(銀燭の射手・e11591)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
ロロット・シャルロット(シュクレシューター・e15688)
古牧・玉穂(地球人の刀剣士・e19990)

■リプレイ


 商店街の出入口。
 お馴染みのクリスマスソングが風に乗って聞こえてくる。
 その商店街の入り口にケルベロスたちは露店を開いていた。
 かちり、とリリ・スピカ(天使より天使な小悪魔・e01295)が音楽プレイヤーのスイッチを押せばクリスマスソングが流れ始める。 露天と言えどこうしていればやはり人目も集まるものだ。
「クリスマスの季節っていいよね」
 街はキラキラと色付き、誰もかれもがどこかふわふわとした心地で過ごすこの時期は本当に夢が叶うのではないかと思える。
 辺りを見回せばその音楽に誘われてか、仲間が出している露店へと早速客が訪れていた。
 赤いミニスカから覗く生足が艶めかしヘソ出しサンタの格好をしているのはアゴネリウス・ゴールドマリア(ヒゲ愛のアゴネリウス・e01735)だ。
「はぁ~い、そこのおじ様♪ ご家族のために熱々アップルパイはいかがかしら~?」
 彼女のターゲットは髭の素敵なおじさま。せっかく売るのなら素敵な男性に売りたい所である。
 その隣でゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)も店を開いていた。
 ゼフトが売っているのは店で仕入れてきた小さなケーキだ。
 【今日中に家に帰って食べると願い事が叶うという曰くがあるケーキ】として売っているのだが、中々に盛況なようだ。
 彼らの向かい側で店を開いているのはアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)。
 アウレリアが売っているのはクリスマスに関する小物や雑貨類。
 今並べているスノードームなどこの時期にピッタリだろう。
「よってらっしゃいみてらっしゃいー」
 そしてもう一人、元気よく声を出しているのは古牧・玉穂(地球人の刀剣士・e19990)。
 彼女は店という形には拘らず、靴下型の入れ物にスティックキャンディを入れて歩き回っている。
「スティックキャンディがなんと大量大特価ですよっ」
 4人のサンタの周りを露店の客に紛れて辺りを警戒するのはイロハ・シャルフシュッツェ(銀燭の射手・e11591)だ。
 商品を見ていると見せかけて時折辺りに視線を走らせる。
 まだドリームイーターの姿は見えないが、人々の流れや避難経路などを随時計算しながら動いていく。
「わーすごいすごい! いろいろうってるぞっ」
 露店の賑わいに紛れながらロロット・シャルロット(シュクレシューター・e15688)も辺りを警戒していた。
 クリスマスのオーナメントに目を輝かせた後は、食べきりサイズの小さいケーキとあっつあつの焼きたてアップルパイを行ったり来たり。
 周りから見ればどちらにしようか悩んでいる姿に見えるだろう。
 一通り彼らの店を見て回ったアルトゥーロ・リゲルトーラス(蠍・e00937)は近くの壁にもたれかかり、彼らの様子を眺めていた。
 傍から見れば誰かと待ち合わせをしているように見えるだろう。
 戦場になるであろう場所全体を見ながら、彼は故郷のクリスマスについて思い出していた。
 彼の故郷であるスペインではクリスマスではなくノーチェ・ブエナという名前であるし、プレゼントを運んでくるのもサンタクロースではなく東方三賢人だと信じられている。
「……お国柄かね」
 日本ではサンタクロースはいつのころから普及し始めたのかと疑問が浮かんだ頃、その物体は現れた。


 ふわふわなクリームがたっぷりと乗った巨大なケーキの出現、そして一般人のパニックに、ケルベロスたちは迅速に対応していた。
「デウスエクスが出現していますが、私達ケルベロスが対処するので落ち着いて避難を。慌てずに、私達が指示する通りに避難して下さい」
 イロハがそう呼びかけて一般人を安心させた所でリリと玉穂も声を上げ、避難誘導を開始していく。
「こっちだよー!」
「みなさーん、こちらから逃げてくださーい」
 彼女たちの指示に従い一般人が避難を開始したのを確認し、アルトゥーロはキープアウトテープを戦場となるだろう場所に張り巡らせていく。
 これで新たに一般人がこの戦場に紛れ込むことはなくなるだろう。
 一般人に被害が出る前にケーキ型ドリームイーターの注意を引こうと、アウレリアは自身のビハインドと共に駆け出した。
 ケーキの狙いはサンタクロースの服を着た人物。
 ケーキの正面らしき場所へ飛び出した彼女はその条件にぴったりで、ケーキはさっそく彼女に向かい苺を飛ばしていた。
 飛んできた苺をぎりぎりで交わしながら、ガトリングガンを撃ち放つ。
「さぁ、踊りなさい。弾丸とワルツを……」
 撃ち出された大量の弾の軌道を愛用のリボルバー銃の弾で変え、様々な角度からケーキに穴を開ける。
 彼女の弾丸がケーキを取り囲んで居る間にアゴネリウスとゼフトは自分の店の周りに居た一般人をイロハの方へと誘導していく。
「デウスエクスですわ! あのケルベロスに従って避難を!」
「俺の攻性植物の養分にしてやろう」
 彼らを誘導しながらアゴネリウスはライトニングロッドをくるりと回して前衛の4人の周りに雷の壁を構成し、ゼフトのブラックスライムは巨大ケーキをばくりと飲み込む。
「みんなー! あっちににげてー!」
 ケーキの視界が塞がっている隙に自分の周りにいた一般人を誘導しながら、ロロットはドラゴンの幻影を放つ。
「ケーキのロウソクには、ひをつけないとな?」
 幻影はケーキの前に音もなく降り立つとその口から炎を吐いた。


 人通りが多い商店街の入り口ではあったが、何とか一般人の避難を完了させた彼らはケーキ型ドリームイーターに一斉に攻撃をしかけていた。
 苺が、炎が、ヒイラギが、戦場を飛び交い、辺りの建物の壁やアスファルトを削る。
「ケーキを切り分けましょうっ」
 玉穂の斬霊刀がケーキを横一文字に斬り抜けば、クリームが辺りに飛び散り歩道に白い染みを作っていく。
 真横に斬られたケーキ型ドリームイーターの姿はそのままぱくりと上下に分かれ、怒りを与えたアウレリアへと向かう。
「っ……!」
 彼女の顔に影が落ちるが避けるにはすでに遅く、クリームの感触を覚悟した彼女の前に躍り出たのはビハインドのアルベルト。
 彼女を庇ったビハインドにはべったりとクリームがついたものの、最初に付与されていた雷の壁がその効果を軽減し、彼の武器は何とか無事であるようだ。
「ドリームイーターっつーより人喰いケーキだろ、これ……」
 その光景にぽそりと感想を漏らしたアルトゥーロは愛用のリボルバー銃でケーキの上に乗っている苺を打ち砕いた。
 砕かれた苺は粉々になったかと思うとモザイクになって消えて行く。
「再生しねーな?」
 先ほどまでは飛ばしたり壊されたりしたものはすぐに新しいものが生えて来ていたのが、今回はそれがない。
「そろそろ限界かしら?」
 焼かれ、砕かれ、ぼろぼろになりつつあるケーキをイロハのバスターライフル……HBR-015LとHBR-015Rから放たれた凍結光線が氷の中に閉じ込めて行く。
「対象の凍結を確認、今のうちに追撃を」
 彼女の声にケルベロスたちは畳みかけるように攻撃を開始していた。
 アゴネリウスの口から吐息混じりの言葉が紡がれる。
「黄泉の世界の者共よ……。美しく残酷な幻想を聞かせてあげなさい……!」
 ケーキを囲んで囁き始める少年たちの間を、すり抜けてロロットは惨殺ナイフをケーキに向かって突き出した。
「ほんもののケーキなら、ロロたべたかったぞっ」
 ケーキの構造上の弱点……クリームが挟まっている部分に刺しこまれたその衝撃でケーキの上下がずるりとずれる。
 そのずれを戻している隙に、リリはギターを取り出し歌いだした。
「あなたもモフってシルブプレ?」
 自分の役目は仲間の回復。
 ゆっくりと紡がれるその歌がビハインドの傷を癒せば、彼は主と共に元の形に戻ろうとしているケーキへと攻撃を繰り出した。
 ビハインドがケーキの動きを止め、アウレリアがそれに狙いを定める。
 彼女の持つガトリングガンが、爆炎の炎を纏わせた弾丸を大量に吐き出す。
 ぼすぼすぼすぼすという音と共にその弾丸はケーキの中へと潜り込み、その姿を蜂の巣模様に変えて。
 飛び散るクリームが地面に落ちるよりも前に、ゼフトの呼び出した御業の炎弾がケーキ全体を包み込む。
「誰も食べないんだ。飾りは不要だろう?」
 苺が焦げ、ヒイラギとクリームが炎弾の炎の巻かれて溶けて行く。
 べちゃり、と音を立てて落下した巨大ケーキは内側から弾けるようにばらばらになり、モザイクを光らせて跡形もなく消え去ったのだった。


 戦闘で壊れた道路や壁を補修し終え、リリはふぅ、と息をついた。
「ちょっと食べられてみたかったかも……」
 大きなケーキに食べられて生クリームまみれになるなど、中々できることではない。
 サンタの格好の者を狙うと聞いていたのだから、それを着て来ればよかったかもしれないと反省しつつ振り返れば、同じように掃除をしていたロロットもアスファルトのかけらを集め終った所であった。
 避難を優先する為に放り投げていたキャンディスティックをかき集めた玉穂が、その残数を数えていけば、思った以上に残っていて、どうしようかと思案する。
「お疲れ様でしたー、ちょっと用意しすぎちゃいましたね、これ……」
 持って帰っても到底一人で消費しきれる量ではないし……ちょっと早いクリスマスパーティーでもしましょうか、という彼女の言葉に同じように店の片付けをしていたゼフトがそれもいいなと同意した。
「実はこれが終わったら飲もうと思って持って来たものがあってな」
「何を持ってきたんだ?」
 彼が荷物からちらりと見せた酒にアルトゥーロが反応する。
 度数の高い酒だがつまみもあるしな、とちらりと売れ残ったケーキに視線を移せば、同じく店を開いていたアゴネリウスも持って来たアップルパイを取り出した所であった。
「熱々ではなくなりましたけど、冷めても美味しいですわよ♪」
「外でのクリスマスパーティーですか」
 彼女の言葉にイロハが頷けば、玉穂が備品として用意してあったナイフを片手にケーキへ向かう。
「じゃあ決まりですね。私が切り分けますよっ」
 リリの用意したクリスマスソングが流れる中、ケルベロスたちは一足早いクリスマスパーティーを開始したのであった。

作者:りん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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