●
「集まってくれてありがとう」
礼を述べる高田・冴は、集まったケルベロスたちをぐるりと見回す。
「決選投票の結果が出た。ブレイザブリクは明け渡さず、大阪城の攻性植物のゲートに決戦を挑むことになったよ」
メリュジーヌのコギトエルゴスムを使って交渉しようとしているベルンシュタイン伯爵については撃破することになるだろう。
「撃破することで、メリュジーヌのコギトエルゴスムを奪取する――これが、今回の作戦だ」
そう言って、冴は言葉を続ける。
「別の班のケルベロスのみんなが交渉をしてくれる。ベルンシュタイン伯爵がブレイザブリクに近づいたところを襲撃、撃破するのが目的だね」
ブレイザブリクの機能をベルンシュタイン伯爵が用いるリスクを考え、強襲はベルンシュタイン伯爵がブレイザブリクに到着する前に行うことになるだろう。
「ここにいるみんなには、交渉をしてくれる班とタイミングを合わせて、後方から襲撃をしてほしい」
後方からの襲撃のほか、右と左からもそれぞれ別のケルベロス部隊が襲撃を仕掛ける手はずになっている。
「ベルンシュタイン伯爵は逃げ出すはずだが、どこへ逃げるかはまだ分からない。もしもベルンシュタイン伯爵が来た時には、絶対に逃がしてはいけないね」
とはいえ、ベルンシュタイン伯爵が必ず来る、と決まったわけではない。
「ベルンシュタイン伯爵が来ない場合は、私兵団が運んできたメリュジーヌのコギトエルゴスムの奪取をしてほしいんだ」
更に、ベルンシュタイン伯爵と戦うチームや、奇襲を行ったチームへの助力も求められることだろう。
ベルンシュタイン伯爵が来た場合の戦い。
ベルンシュタイン伯爵が来ない場合の、コギトエルゴスムの奪取と助力。
「考えなければいけないことは多いから、出発までの時間で、しっかり意見のすり合わせをした方が良さそうだね」
参加者 | |
---|---|
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
櫻井・クロ(スピーディキャット・e15554) |
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007) |
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102) |
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678) |
●
兵士一人ひとりが持つコギトエルゴスム、兵たちを率いるベルシュタイン伯爵。
戦場がどうなるか、誰を相手取ることになるのかはまだ分からない――裏地に碧結晶模様を描くコートを纏うタクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)は、仮面越しの視線を周囲に巡らせる。
(「信号弾はまだみたいだぜ」)
かたわら、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)は耳もとに手を当てるが、あきらめたようにかぶりを振る。
連携のために使う予定だったアイズフォンは、どうやらここでは使えないらしい。
頼りは信号弾……思いを一つにして、ケルベロスたちは「その時」を待つ。
――その瞬間が来たことは、兵団の動きが知らせる。
彼らが一斉にケルベロスたちに敵意を示し、動き出す――戦いの音が高らかに響くと、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)らは空を見上げる。
直後、鳴り渡る砲声。
青であれば後方に来る、事前に決めた計画を思い出しながらウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)が空を見上げると――。
「し、白、です」
方向は不明。
しかし、櫻井・クロ(スピーディキャット・e15554)の言葉に迷いはない。
「包囲して、確実に倒していくのにゃ」
言いつつも、依然として隠密気流は八名のケルベロスたちを取り囲んだまま。
伯爵への奇襲の利を最大限生かすために、戦いが始まる直前まで隠密気流で身を潜めると決めていた。
その結果として――、
「――来たのですね」
満月を思わせる煌めきが、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の掌から戦場へと。
煌めきを受け取ったリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は、目の前に現れた敵を見おろす。
「うん、やるよ」
白薔薇の蔦の髪留めを着けた髪を揺らして、リリエッタは敵に迫る。
――敵の名は、ベルンシュタイン。
大きな傷を負ったベルンシュタイン伯爵は武装を完全に解いており、油断しきっていたことが明白。隠密気流でここまで接近出来たのは、その油断のお陰だろう。
「なッ……!」
ベルンシュタイン伯爵からすれば、突如目の前にケルベロスたちが出現したようなもの。
絶句するベルンシュタイン伯爵へと、伏見・万(万獣の檻・e02075)は即座に距離を詰め。
「さァて、骨までしゃぶってやるかァ」
轟音と共に、砲撃を奔らせる。
●
偽りの黄金が敵陣を照らす中、タクティはドラゴニアンの力を籠めた手を私兵団の一人に突き出す。
「ぐっ……!」
私兵は剣こそ携えてはいるものの、突然のことに剣を抜く余裕はない。身を護ることも出来ずに竜爪撃の一撃を受けた私兵へと、タクティは呟く。
「……まあ、うん。生存競争なのだぜ」
思う所は無いでもない――しかしそれは口に出さず、タクティは私兵団らに目を向ける。
数はおよそ二十といったところか。奇襲への対応が出来ず慌てふためいているうちにと、ミリムは破壊の力を仲間に授ける。
「騙して悪い気はほんのちょっとしますけれども」
情けは不要、と気持ちを引き締めるミリムに、リリエッタはうなずく。
「確実に、倒していくよ」
短いスカートをひらりと揺らして跳躍。
すらりとした脚が覗くのもお構いなしのキック――リリエッタが着地したすぐ横を、ライドキャリバーの藍に乗ったことほが駆け抜ける。
「絶対逃さないよー」
ベルンシュタイン伯爵を囲うように疾駆する藍は炎を纏って突撃を仕掛け、追ってことほの放つエクトプラズムがベルンシュタイン伯爵に叩き込まれる。
「ぐうっ……!」
ベルンシュタイン伯爵の声をかき消して、万の砲撃が放たれる。
砲撃を浴びた兵が倒れ伏し、周囲の兵がギクリと足を止めたところに殺到するのはマキナが発射したミサイル群だ。
――地面を揺らす、ミサイルの大群。
火線が私兵団を焼く中、マキナの視線はベルンシュタイン伯爵に注がれて。
「ケルベロスの牙は地球を害する者には死するまで離れないと身を以って識りなさい」
凛々しく宣言するマキナに対し、ウィルマは「申し訳ありません」と口にする。
「何分、上からのお願い、でし、て、はい」
ウィルマの手の中で紅く輝く金属糸は複雑な模様を作り出し、仲間のための護りとなる。
支援に専念するウィルマの代わりに攻撃を行うのはヘルキャット。
太っちょな体を緩慢に羽ばたかせては私兵団の鼻面を引っ掻くヘルキャットを見上げて、ふんすと力を入れるクロの姿。
「負けられないのにゃー!」
飛びかかっての猫キック――もとい、グラインドファイアが敵兵の一人を焼き尽くす。
敵が倒れると同時に地面に落ちるコギトエルゴスムは拾い上げると即座に収納。アイテムポケットも準備しているから、戦いの邪魔になることはないだろう。
「コギトエルゴスムは分散して持ってるにゃ、私兵団を逃しちゃダメにゃ!」
クロの声に、一同は大きくうなずく。
成功した奇襲の後、私兵団らは慌てて剣を手にケルベロスたちへと斬りかかる。
「くそおおっ!!」
剣を受け止めるタクティは魂を喰らう一撃でカウンター。
トドメにミミックが齧りつき、膝をついたところにハンマーを手にした万が飛び掛かった。
「喰い尽くしてやらァ、覚悟しとけ」
二つのハンマーが万の手中で歪み、合体したかと思えば地面に叩きつけられ。
――衝撃、次いで振動。
ひび割れた大地が威力を物語る。
ひとり、ふたりと戦闘不能に陥る私兵の屍を顧みることなく、ミリムは混沌の『絶望』スライムを兵士の一人に放ち。
「さあ! さっさと死になさい! いま! すぐ!」
「うわっ、うわあああああっ!!」
ミリムの放ったスライムが兵士の背中に張り付いたかと思えば、上体を覆って呼吸を奪う……絶命した兵士の足元に転がるコギトエルゴスムは、スライムが拾い上げてミリムの元に届けた。
兵士らは分散してコギトエルゴスムを所持しているから、討ちもらしはあってはならないこと。
だからこそ、ケルベロスたちはベルンシュタイン伯爵も私兵団も包囲して、逃がさないように戦いを進める。
「裏切者が……!」
ベルンシュタイン伯爵の怒声に、ウィルマは厚い前髪の下で目を伏せる。
「ああ、これは良心が痛み、ます……」
どこか、安堵の色が感じられる声。
ウィルマの目の前には、蒼い炎を纏う巨大剣が出現している。詠唱に合わせて宙を舞う剣は斬撃と火焔の合わせ技で兵士を苛んでゆく。
――奇襲に成功してから数分。
歯噛みする伯爵は、ケルベロスたちから逃れるために動き出す。
「させないにゃっ!」
大きな胸が揺れるのもお構いなしに、クロは手近な兵士を殴りつけながら包囲を狭めようと猛追。
藍は高らかにエンジン音を響かせて伯爵の眼前に回り込もうとするが、守りに長けた兵士の刃がそれを阻む。
「どいてっ……!」
ことほが放つ矢もまた、兵士が身代わりになって伯爵までは届かず。
藍が力任せにスピンすることでようやく兵士は退き、伯爵までの道が開かれる。
しかしことほが次の攻撃に移るよりも、ベルンシュタイン伯爵の逃げ足の方が早く。
「このままだと、逃げられる……!」
荊棘の魔力を籠めた弾丸で兵士を蹴散らすリリエッタが声を上げた。
ケルベロスたちは、伯爵も兵士も取り囲んでいる。
ベルンシュタイン伯爵は戦いに打って出るよりも、兵士の後ろで身を守ることに専心している……ベルンシュタイン伯爵を討つには、厳しい状況だ。
ベルンシュタイン伯爵のみを狙う集中攻撃が出来ていれば、何かが変わったかもしれない――しかし、それも仮定の話。
「……逃しはしないわ」
兵士が向ける凶刃を回避し、マキナは逃げようとする伯爵の背中に狙いを定める。
砲弾は兵士らの間をすり抜け、ベルンシュタイン伯爵の背中に命中する――――でも、その一撃は、伯爵の動きを止めるには至らない。
遠ざかるベルンシュタイン伯爵の背中は、既にケルベロスたちのどの攻撃も届かない場所まで。追いかけようにも、押し寄せる私兵団がそれを許さない。
「に……逃げられたにゃあ!」
悔しそうに、クロは声を上げる。
ここまで伯爵に迫ることが出来たというのに、逃走する伯爵を押さえきれなかった……悔恨の表情を浮かべるクロへと、マキナは呼びかける。
「出来ることはまだあるわ」
周囲にはいまだ、私兵団の姿。
彼らの所持するコギトエルゴスムを残らず回収することもまた、ケルベロスたちの帯びた重要な使命だ。
――粒子状の光が、マキナの足元から広がる。
「ハ」
息を漏らす万は、私兵団を睨む。
「まァな、もう逃がさねェ」
万の黄金の瞳が敵を射ると、地を這う獣影が私兵の一人を絡め取る。
昏い影に突き落とされた兵はもがき、デタラメに剣を振り回す。その切っ先が何かに触れたと思って顔を上げれば、間近にまで迫っているのは大口を開けたミミックだ。
「――――ッ!!」
兵士の絶叫は、ミミックがひと齧りすれば途切れて。
「こうなったら、ひとつ残らず回収するぜ」
告げるタクティの指先は、敵兵に向けられている。
「セット……咲誇れ愚者の華! 晶華ァ!」
言葉と共に炸裂する結晶の弾丸。
「ぐっ……くそォ……ッ!」
爆風の中、どうにか攻撃を受け流した兵士は、反撃のためにそれぞれの剣を振り上げて抵抗を示す。
「敵、確実に体力は削れてるぜ!」
そんな様子を見たタクティは、仲間へ向けて声を上げた。
包囲した対象が多かったからこそベルンシュタイン伯爵を討ち漏らしたケルベロスたちだったが、包囲した私兵にも攻撃をおこなったお陰で、彼らの体力の消耗は早い。
ベルンシュタイン伯爵にのみ集中攻撃を浴びせていれば、ベルンシュタイン伯爵を討ち取れたことは事実……しかし敵の数を見れば、その後は数の暴力に押し負けた可能性だってあるだろう。
それを思えば、彼らの作戦とその結果は、決して誤ったものではないのだ。
「悪くねェ」
万もそう考えたのだろう、獰猛に笑みながら、敵の向ける剣を受け流す。
斬撃、刺突……多様な技を用いて歯向かう彼らは、しかし癒しの手立てだけは持ち合わせていない。
「殺す――のは、少しだけ我慢です」
ミリムの気持ちは大いに滅殺に傾いているものの、負傷した仲間を思ってぐっと我慢。
「傷を塞ぐのは任せてください。紋章、発動!」
代わりに、指先のグラビティで紋章を描く。
共鳴し合う癒力は、敵陣から味方を護り続けることほを包み込んだ。
「ありがとねー」
速度を上げた藍の上、ミリムに笑いかけて。
私兵団を翻弄する藍に攻撃を任せ、ことほは桜色のエクトプラズムを舞い踊らせる。
ふわり、ひらり。
やさしい桜色に目を細めることほは、手に入れたコギトエルゴスムをてのひらに。
「もうちょっと待っててね、いっぱい地球の楽しいこと教えてあげるから――」
優しく、彼らに呼び掛ける。
クロもまた、コギトエルゴスムを手に入れるために気合十分。
嵐のような連撃を繰り広げながらもコギトエルゴスムの回収は忘れず、軽やかに跳躍しては取りこぼしがないかどうか目を光らせている。
「クロ、さんが……回収を手伝って、く、くださるなら……」
呟くウィルマは手にした紅糸で、兵士の首を背後から締め上げる。
「げ、撃破に、専念します」
容赦なく絞めて、動きが止まれば放り捨てるウィルマ。
ヘルキャットは重たい身体で敵の顔面にのしかかっては頭で爪とぎ。鋭い痛みに悶えようとも、ヘルキャットはお構いなしといった表情だ。
敵数は残り一体、地を蹴り迫るリリエッタは、思う。
(「メリュジーヌのコギトエルゴスムもお話したら……」)
仲間に。
友達になってくれるかな、と。
「くっそおおおおっ!」
吶喊を仕掛ける兵士を前にしても、リリエッタは冷静さを欠くことはない。
薙ぐような蹴撃は刃のように。
確かな手応えと共に兵士は吹き飛び、力なく倒れ込む……彼の懐から、コギトエルゴスムがひとつ、転がり落ちる。
リリエッタは駆け寄って、そっと、コギトエルゴスムを拾い上げる。
――ケルベロスたちが持つコギトエルゴスムの数は、倒した私兵の数と同じ。
メリュジーヌのコギトエルゴスムの回収は、大成功に終わったのだ。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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