最終決戦投票の結果、ケルベロスは大阪城の攻性植物との決戦を決定した。
これに伴い、エインヘリアルへの磨羯宮ブレイザブリクの返還は拒否。ベルンシュタイン伯爵の軍勢を撃破し、メリュジーヌのコギトエルゴスムを奪取することとなった。
「今回の作戦では伯爵と死神勢力への交渉を行った後、伯爵軍に包囲殲滅戦を仕掛けます」
ムッカ・フェローチェはそう言って、ケルベロスに説明を開始した。
ブレイザブリク攻略戦において戦死した紅妃カーネリアの実父、ベルンシュタイン伯爵。彼は磨羯宮失陥の罪を問われるのを避けるため、妖精種族メリュジーヌのコギトエルゴスムを材料に、磨羯宮を明け渡すよう取引を持ち掛けていた人物だ。
「伯爵は保身の強い性格で、普通に襲撃をかけても撤退してしまいます。それを防ぐため、まずは別働隊の手による『交渉』を仕掛けます」
この交渉は偽装工作で、伯爵を油断させて磨羯宮へ誘い出すものだ。
うまく交渉が成立すれば、伯爵は軍勢を率いて磨羯宮へ向かってくるので、そこで彼らが宮殿へ到着する前に包囲殲滅を実行、しかる後にコギトエルゴスムを奪取する。
「メリュジーヌのコギトエルゴスムは、伯爵の配下であるベルンシュタイン私兵団が全員で少量ずつ所持しています。一か所にまとめて保管することを避けたのは、ケルベロスに奪取されるリスクを警戒してのことでしょう」
これと合わせ、死神勢力『死翼騎士団』へも事前交渉が行われる。伯爵との戦闘中に介入されることを避けるための根回しだ。
「包囲殲滅戦は、私の班を含めた4チームで行います。コギトエルゴスム奪取のためにも、伯爵と私兵団を1体も残らず撃破して下さい」
そうしてムッカは、作戦の詳細な説明へと移った。
ムッカのチームが担当する仕事は、大きく二つに分けられる。
一つ目は、他の3チームが包囲を完了するまでの時間稼ぎだ。
「皆さんは伯爵が磨羯宮へ接近してきたところを確認次第、迎えを装い接触してください。伯爵は交渉成立を信じていますので、彼の陣地へは問題なく入り込めるでしょう」
その後は伯爵を相手にうまく時間を稼ぎつつ、他班が包囲を完了すると同時に奇襲攻撃を仕掛ける事となる。陣中での奇襲となるため、孤立状態での戦闘を強いられるだろう。
「保身の強い伯爵は、奇襲を受ければ足止めの兵士を残して陣地から撤退します。その後、待ち伏せ班が伯爵を逃がさずに撃破し、私兵団を殲滅してコギトエルゴスムを回収します」
陣地には多数の兵がいるため伯爵の撃破は困難だが、攻撃を行うこと自体は可能なので、手傷を追わせられれば待ち伏せ班の戦闘はそれだけ有利になる。
ちなみに奇襲を受けた伯爵が、どの班の潜む場所へ逃げていくかは全くの不明だ。
「二つ目の仕事は、敵陣の私兵団をかく乱することです」
伯爵の撤退後、ムッカの班はひたすら敵陣で暴れ回り、私兵団を混乱させねばならない。
敵に態勢を整える余裕を与えれば、それだけケルベロス側が不利になる。敵に包囲されるリスクは当然あるが、今回の戦場では4班で連携して戦うため、伯爵が来ないチームに増援に来て貰うといった作戦も可能だ。
本作戦では、多数の敵との激しい戦闘が予想される。
伯爵の勢力を撃破し、メリュジーヌを奪取するためにも、万全の準備と連携で臨む必要があるだろう。
「大阪城決戦の前哨戦です。良い結果を掴めるように頑張りましょう」
ムッカはそう言って、作戦の説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
不知火・梓(酔虎・e00528) |
スウ・ティー(爆弾魔・e01099) |
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433) |
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434) |
●一
ケルベロスの制圧下にある磨羯宮ブレイザブリク。
そこを目指して行進してくるベルンシュタイン伯爵の軍勢を、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の目が捉えた。
「……来たよウだな」
意気揚々とした足取りで歩くのは、隊列を組んだ紅鎧の私兵団。
彼らはケルベロスが防衛する磨羯宮の目前で足を止め、堂々と陣地を築き始めた。
「『交渉は成功、メリュジーヌの事前情報についても相違なし』――交渉班の報告通りか。伯爵は、よほど満足しタと見えル」
「へへっ。なら、きっちり『歓迎』してやらねえとなっ」
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は笑顔で頷きを返した。
今頃は待伏せの3チームも準備を進めているはず。伯爵に気取られぬよう注意しながら、広喜たちは軍勢に近づいていく。
「ふぅん。メリュジーヌのコギト玉は、連中が小分けにして持ってるわけか」
私兵団に向かって手を振りながら、不知火・梓(酔虎・e00528)は彼らの出で立ちにそれとなく目を向けた。
(「見たとこ、全員ゾディアックソード持ちか。……ちと面倒そうだなぁ」)
「どうも。伯爵様のお出迎えに来ました♪」
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)が先頭の兵にぺこりと頭を下げると、兵団の隊列が左右に分かれ、通るよう促された。迎えが来ることも了承済みなのだろう。
全員で奥へ進みながら、めぐみは伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)に耳打ちする。
(「どうですか、アイズフォンは?」)
(「むい……だめっぽい」)
勇名いわく、作戦エリア一帯が圏外で不通とのことだ。
だが、この程度は想定内。広喜と眸は素早く目線で合図を交わし合う。
(「通信は無理みてえだな」)
(「時刻は分かル、問題なイ。プランBで行こウ」)
行動指針を速やかに共有しながら、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)は帽子を目深に被りなおした。目に浮かべる期待の色を気取られぬためだ。
(「兵の数はざっと100か。いいねぇ、ワクワクしちゃうよ」)
敵陣の只中に飛び込む危険は、無論知っている。だがそれ以上に、この軍勢のど真ん中で派手な花火をばら撒ける――その高揚感が勝ってしまう。
いっぽうセントールのオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)はというと、同族のローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)と共に、人間形態で行動していた。
(「大丈夫……怖くなんか、ない……」)
大勢の敵に囲まれる恐怖を押し殺し、二本の足で奥へ進むオルティア。
その横で、ローゼスが小声で仲間たちに告げる。
「皆さん。どうやら着いたようです」
●二
『おお、よく来た! 歓迎するぞケルベロス!』
伯爵は床几にふんぞり返ったまま、鷹揚な笑みでケルベロスを迎えた。
『メリュジーヌについての情報は、そちらの交渉担当に伝えてある。ああ、玉の確認などは後にしてくれたまえよ?』
歓迎はするが、面倒なことには応じない――無言で釘を刺してくる伯爵に、オルティアと眸はひとつの要求を伝える。
「磨羯宮に……仲間が、まだ残っている……」
「彼らを退去させルため、少し時間をいただきたイ。良イだろうカ」
『フフフ、構わんとも。好きにしたまえ』
皆まで言わずとも良い、そんな態度で伯爵は意味深な笑みを浮かべる。
『大方、新たな城主の一族が明け渡しを拒んでいるのだろう? 磨羯宮の玉座は、さぞ座り心地が良いのだろうな、ワッハハハ!』
追従するように私兵団からもどっと笑いが上がる。どうやら全員、交渉の成功を疑っていないようだ。それを見たローゼスは小さく頭を振って、
(「上が上なら、配下も配下か」)
(「んぅ。けど、ぼくたちには都合がいい」)
勇名はそっとアイズフォンで時刻を確認した。
プランB。電波不通の場合は、予定時刻と同時に奇襲を実行する――。
それから連絡を取るフリで時間を稼ぐこと暫し、伯爵はしびれを切らしたように、横柄な口調でケルベロスを呼びつけた。
『おい君たち、退屈だぞ! なにか笑える趣向でも見せて歓待したまえ!』
「はいはーい。『退去の進捗』はどうですか、皆さん?」
めぐみの問いに、スウが無言で頷く。信号弾、機雷の散布、共に準備OKだ。
広喜と眸もウインクを返す。もう時間稼ぎは十分だろう。
「お待たせしました。伯爵様、お楽しみ下さいね♪」
『下がれ兵士たち! 番犬どもの馬鹿踊りが見えんではないか!』
後列で床几にふんぞり返ったまま、伯爵は目の前の兵士を退かせた。兵士もまた、そんな伯爵の機嫌を取るのに忙しいのか、いまだ剣を鞘に収めたままだ。
そして――残り10秒。
てきぱきと隊列を組み終えて、オルティアは震える声で告げた。
「お望み通り、受けるといい……とびきりの、歓待を……」
『おお、早くせい!』
残り5秒。斬霊刀に剣気を送り込んだ梓が、楊枝を吐き捨てる。
「ま、『本番』の前哨戦にゃ丁度いいかね」
『ん? 何だね、それはどういう――』
2秒。1秒。ゼロ。
邪魔な妨害は、何ひとつない。
胸で三角に組んだ両手の奥、眸のコアがまばゆく光る。
「準備完了ダ」
展開された胸部装甲の奥で渦巻くグラビティが収束し、いま放たれた。
「ベルンシュタイン伯爵。覚悟」
発射されるコアブラスター。一斉に飛びかかるケルベロス。
奇襲は、最高のタイミングで開始された。
●三
「お受け取り下さい伯爵様。……来なさい、ニガヨモギ!」
火蓋の切られた戦場に、めぐみの『第三のラッパ』が鳴り響く。
空から降り注ぐ巨大隕石。コアブラスターを浴びた伯爵は、眸のビハインド『キリノ』が飛ばす石礫の妨害で回避もままならない。
『な、何をすっ、ぎゃああああああああ!!』
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
隕石の衝突で毒を浴び、床几から転げ落ちる伯爵。間髪入れず梓が『試製・桜霞一閃』で斬りつける。
『お、お前たち! 裏切る気か!?』
「んー、裏切ってはいないねえ? だっておたくら、最初から敵だし?」
「うごくなー、ずどーん」
裏返った声で叫ぶ伯爵に、スウが苦笑で返した。
人体自然発火装置、起動。続けて勇名も小型ミサイル群を発射する。
火達磨になって飛び回る伯爵の足元を、カラフルな爆炎が包んだ。
『ま、待て! 望みを言ってみろ! 地位か、コネか、何が欲しい!?』
「つくづく、眠たいことを言ってくれる――」
ローゼスはケルベロスマントを一動作で脱ぎ、その全身に鎧装を装着。オルティアと共に人馬形態へ変身すると、セントールランの疾駆で敵陣を攪乱し始める。
「ここを交渉の場と見誤ったな、伯爵! 我らセントールから逃げられると思うな!」
「蹂躙の意味……今一度、知るといい」
言い終えるやオルティアは蹄に魔力を注ぎ込み、突っ込んだ。
地を蹴る爆音と共に繰り出すは『蹂躙戦技:逸走単撲』の超加速。体当たりを浴びて吹き飛ぶ伯爵へ、ローゼスの鎧装から『Nike velos』の追撃が飛ぶ。
「縫い留める!」
『ぐふっ……ま、まさかホーフンド一派の差し金か!?』
貫通力に優れるフレシェット弾が命中。鎧を穿ち貫かれて悶絶する伯爵の問いに、広喜は竜の稲妻を浴びせて返答とした。
「ひとつ覚えとけ。ここはアスガルドじゃねえ、地球だ」
宮廷の駆け引きも、王侯貴族の策謀も、ここでは関係ない。
磨羯宮、そして焦土地帯の平和は、ケルベロスが命がけで勝ち取ったもの。それを易々と差し出すほど、自分や眸や仲間たちの流した血は、安いものではない。
「だから――渡さねえ」
『こ、こ、殺せ! こいつらを殺せ!!』
足を挫き、金髪は焦げ、毒と麻痺で這う這うの体となった伯爵の命令に、ようやく兵士も我に返ったらしい。側近たちに担がれながら、伯爵は脇目も降らず逃げだした。スウはその進路を凝視し、行先を割り出そうと試みたが――。
(「これは……ちょいと厳しいかな」)
私兵団は足止めの兵を40ほど残すと、伯爵の所在を悟られぬよう部隊を複数に分けて一目散に逃げていく。その手際の良さに舌を巻きつつ、スウは急ぎ信号弾を打ち上げた。
色は白。進路不明を示す色だ。
「さぁて、こっから第二幕だね? 派手にいきますかぁ!」
スウの透明化機雷が礫となって撃ち出され、敵前衛の足を縫い留める。
かくして、番犬と私兵団の戦闘は開始された。
●四
それからの戦闘は、熾烈を極めるものとなった。
足止めの兵士たちが間断なく放つ攻撃を、盾役のケルベロスは身を挺して食い止める。
「さあ、派手にいきましょう!」
ナノナノ『らぶりん』のバリアで身を守りながら、めぐみがオウガ粒子を散布する。
それを浴びた眸は、白金のセントールランスの穂先を敵前衛へ向けた。
「広喜。背中は任せル」
「おう、派手にブッ壊そうぜっ!」
広喜が放った祝福の矢で氷を溶かし、眸は敵陣へ突っ込んだ。
私兵団は盾と癒しに比重を置いた編成らしい。足止め役を果たすために、1秒でも時間を稼ぐ心算なのだろう。
(「奇襲の手応えはベストに近かっタ。そウ簡単に逃げられはしなイだろウ」)
待ち伏せチームの成功を祈りながら、眸はペガサスランページを発動。背から噴出させたオーラを翼のように展開させて、敵兵を焼き払っていく。
「ケルベロスを、地球ヲ、侮るなよ」
実に5倍の兵力差をものともせず、ケルベロスは敵の盾役へと攻撃を集中させた。
メリュジーヌのコギトエルゴスムを奪取するまで、この戦いは終わらない。全滅を目指す以上、ディフェンダーの排除は最優先だった。
「びりびり、くらえー」
勇名がドラゴンサンダーを発射し、深手を負った兵士を直撃で仕留める。息を合わせて梓が放つは桜花剣舞だ。
「斬り結ぶ、太刀の下こそ地獄なれ……ってなぁ」
剣気を帯びた刀が敵陣を舞い、桜の吹雪が私兵団を催眠へと誘う。
梓に続いてスウは手榴弾を投擲し、絶対零度の破片を敵兵に浴びせかけた。
「桜吹雪に氷の花火、お代はそちらの御命よ、ってね!」
中衛二人が放つ催眠と氷の連続攻撃に、敵の隊列が綻びを見せる。
好機だ。ローゼスは星辰の宿る剣を構え、共に戦場を駆けるオルティアへ声をかけた。
「援護します、突破を!」
「任せて……残らず、蹴散らす……!」
包囲突破のチャンスは、今をおいてない。
ローゼスの意図を察したオルティアは、敵陣めがけて一直線に突っ込んでいく。
「突撃! これより敵の包囲を突き破る!」
ローゼスは焦土を蹴飛ばすように加速。殺到する兵の斬撃からオルティアを守りながら、剣で守護の星座を描き出し、彼女の護りと為した。
「この程度で、我らを止められると思うな!」
四方八方から押し寄せる、エインヘリアルの敵意。
内気な性格ゆえに感じやすい恐怖を、オルティアは戦意に転換し、ガトリングガンの斉射と共に敵陣へと突っ込んでいく。
「寄らないで……それでも来るなら、踏み潰す……!!」
『お、おのれ……!』
機関砲が嵐のごとく弾をばら撒き、兵士の群れを蹴散らした。それを皮切りに、包囲網を一気に潜り抜けるケルベロスたち。
こうして戦いは後半戦にもつれ込む。いまだ勝者の分からぬままに――。
●五
「皆さん、ファイトです!」
めぐみは竜鎚で敵兵の刃を弾きながら、ブラッドスターの歌声を戦場に響かせた。
私兵団は盾の多くを失い、残りは20体ほど。対するケルベロスは戦闘不能者こそいないものの、全員が満身創痍の状態だ。
「コア出力最大……Oath/Emerald-heal……承認」
めぐみの歌で氷を溶かした眸は、コアエネルギーを生命力に転換して傷を塞ぐと、なおも殺到してくる斬撃の嵐から、仲間たちを庇い続ける。
「へへっ。今日も一緒に帰るんだからな、眸っ」
「……ああ、そウだな」
変わらぬ笑顔を浮かべながら、『治シ詠』で味方を癒す広喜。
励ましの声を聞いて、眸はつい微笑が漏れてしまう。
(「もウ少しの間、感情を出すまイと思っていタのに……まっタく」)
戦況を覆す報せが届いたのは、まさにその時だった。
「右翼の方角! 信号弾!」
ローゼスが指さす先、大空で緑色の光が弾ける。
それは待伏せチームから届いた、最高の贈り物。合図の意味は――。
『これより救援に向かう』。
果たして右翼の方角から、8名のケルベロスが一斉に駆けつけてくる。私兵団の背後を、挟撃するかたちで。
「植田さん、三刀谷さん、相馬さん! こっちです!」
友軍の面々に呼び掛けながら、手を振るめぐみ。
援軍の仲間たちもまた、手を振って返すと、我先にと戦場に飛び込んでいく。
「待たせたみたいだね。でも、無事で良かった」
「間一髪って所か?」
仲間を敵兵の刃から庇う者。薬液の雨を降らす者。冥府深層の冷気で敵を葬る者――。
防御と支援と攻撃が同時に行われ、形勢は瞬く間に逆転した。
「右翼側にいた貴様らの仲間は俺達が排除した。直に貴様らもそこに送ってやる」
応援の一人が放った一言を皮切りに、スウは生き残った敵の後衛めがけて、透明化機雷をありったけ散布する。
『悪神の狡知』。派手で楽しいスウとっておきの花火だった。
上げるのは今を置いて他にない。
「最後のヤツ、いっちゃおうかな。――より派手に、盛大に彩ろうかねぇ!」
「んぅ。ぼくも手伝うー」
スウの機雷が、一斉に炸裂した。
切り開かれた傷口を氷で包まれる兵士へ、勇名がマルチプルミサイルを浴びせかける。
攻撃を庇おうとした最後の敵前衛を、梓が達人の一撃で斬り伏せた。挟撃を受けた私兵団にもはや為す術はなく、残るは僅かな後衛のみだ。
(「皆、来てくれた……ありがとう……」)
オルティアは唇を噛み締めて、大地を蹴る。
こみ上げる感謝と嬉しさが恐怖を塗り潰す前に、最後の一撃を叩き込むのだ。
勝敗を分けたのは、仲間同士の阿吽の呼吸、そして互いを信じる心。そのふたつが最後にものを言った。
「これで、決める……!」
「これで最期だ、覚悟せよ私兵団!」
そうして叩き込んだセントールチャージと、ローゼスの射出した氷結輪が、瀕死の兵士を屠って程なく――40体の兵士は全て討ち取られた。
「私たちの勝利です!」
星辰の剣を天に掲げ、ローゼスは勝鬨を挙げる。
誰ひとり欠くことなく、掴み取った勝利。八王子の焦土地帯に、ケルベロスたちの歓声はいつまでも響き続けるのだった。
●六
そうして磨羯宮は、ふたたび仮初の平穏を取り戻す。
私兵団を撃破し、コギトエルゴスムは回収完了。逃げ出したベルンシュタイン伯爵も、左翼チームに撃破されたようだ。
「んう。皆おつかれ、おつかれー」
作戦の成功を喜ぶ勇名。いっぽうオルティアは、掌に乗せた宝玉を眺め、ふと思う。
(「メリュジーヌ……どんな未来を、選ぶの、かな……」)
願わくばそれが、共に歩むものであることを祈るばかりだった。
そうして戦いを終えたケルベロスは、新たな妖精族と共に帰還していく。
来たるべき、決戦の刻に備えるために――。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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