ミッション破壊作戦~苦しい道はどこに続くのか

作者:ほむらもやし

●雨が降り緑茂る
「6月……2020年も半分が過ぎようとしている。例年より早い梅雨入りの知らせも届いている。というわけで、今月もミッション破壊作戦を進めて行こう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、理不尽に土地を追われた人たちの助けになるなら、出来ることは続けて行こうと言った。
「いつも繰り返して済まないけれど――まず、これがグラディウス。多少の違いはあるけれど70cmが標準的なサイズだと言われている」
 規格品とは違うようなので、大きさや形など、見た目は様々である。
「降下攻撃の際に魔空回廊の上部に浮遊する防護バリアに刃を触れさせるだけで能力を発揮する。叩き付けても突いても切りつけても――接触のさせ方は自由だが手放さずに使って下さい」
 ミッション破壊作戦の戦術はある程度確立されていると言えるが、経験者にとっては常識でも、初めての者には分からないこともある。
 この作戦では、ミッション地域の中枢部にある強襲型魔空回廊の上空までヘリオンで向かう。
 ヘリオンの安全や全員の降下時間を確保するために、通常よりも高い高度からの降下を行う。
 グラディウスは、一度使用すると蓄えたグラビティ・チェインを放出して主要な機能を失うが、捨てずに持ち帰る。1ヶ月くらいの時間を掛けてグラビティ・チェインを吸収させれば再使用できるからだ。
「ジグラット・ウォー以降、保有するグラディウスの数が増えて状況は変わって来ているが、戦略兵器である位置づけは変わらないから、くれぐれも紛失しないよう注意して下さい」
 何よりも、グラディウスは使用者の思いと共に、皆で繰り返し使い続けたものだ。
「ミッション破壊作戦は、グラディウスを使用した魔空回廊への攻撃と、撤退の二段階からなる。前半は個人の思いに基づいた叫び。後半は全員の協調と素早い行動が要となる」
 今から向かうのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。
 いくつかある地域の中から一箇所、参加したメンバーで相談して決定できる。
 山、島嶼、市街地……など、ミッション地域の地形や状況は、向かう場所によって異なる。
 山中を走るのに適切な作戦が市街地で同様に適切とは限らない。
 地形に応じた行動を心がけるだけでも、撤退のスピードは違ってくるだろう。
 攻撃を掛けるミッション地域中枢部は、通常の手段では立入ることが出来ない敵勢力圏だ。何が起こるかは分からない。時間をかけ過ぎれば、孤立無援のまま全滅することもあり得る。
「上空から叫びながらグラディウスを叩きつける。という攻撃は、相当に目立つ」
 グラディウス行使の余波である爆炎や雷光は、非常に強力で敵軍を大混乱に陥れる。
 発生する爆煙(スモーク)によって、敵は視界を阻まれ、連携など組織的行動が出来ない状況である。
「グラディウス行使を終えてからスモークが効果を発揮する時間は長くはない。多少のばらつきはあるけれど、数十分程度という印象だ」
 敵中枢に奇襲を掛けて、一度も戦わずに逃走できるほど甘くはない。
「グラディウスを使うときに叫ぶことを『魂の叫び』と呼ぶ。気持ちを高めて叫ぶと効果的と言われる」
 ミッション破壊作戦では、攻撃の繰り返しよるダメージの蓄積で、強襲型魔空回廊の破壊を目指している。
 この戦いはケルベロスたちが抱いている、様々な思いをぶつけ重ねて、魔空回廊を破壊し、最終的にミッション地域の開放という結果を目指すのだ。
 立ちはだかる敵の戦闘傾向は、ミッションで既に得られた情報も参考になるはずだ。
「攻性植物勢力の手に落ちたままの地域はまだある。少しでも解放に繋げられるように、頑張って行こう!」
 世界が平和に見えるのは、誰かが平和を守るために誰かが行動しているからだ。
 人々の苦痛を取り除く為に働く人たち、勇気と思いやりに満ちた行動を起こしている名乗らぬ人たちが、世界には数え切れない程存在する。
 困難な時代であるから、続けなければならない仕事はある。


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)

■リプレイ

●鈴鹿山脈解放に向けて
 目標への降下を開始した、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)の視界に広がるのは、人の気配が感じられない景色だった。
 今までにグラディウスを突きつけた魔空回廊のことを思い出す。
 どこの魔空回廊もドーム型のバリアで囲まれており、その大きさは半径30メートルぐらいだ。
「3つの県境の山脈、ここで攻性植物が繁殖してしまったら、いずれ人里に被害が及ぶことになりますね」
 バジルはグラディウスの柄の感触を確かめるように握り絞める。雲の合間にそれとなく確認できる魔空回廊はまだ指先ほどの大きさにしか確認できないが、その存在感には緊張を覚える。そこから現れる攻性植物は着実に周囲に広がって行く。
 近くに住む者にとって、ミッション地域は間近にある恐怖の対象であり、その撃破が待ち望まれている。
「絶対に人々に危害を加えさせる訳にはいきません」
 肌を打つ空気はもう6月だと言うのに冷たく、帯びた湿り気を強く感じる。
 落下速度は重力によって加速され、瞬きの間にも速くなっている。
「絶対に人々に危害を加えさせる訳にはいきません」
 到達まで後僅か、周りを見渡す余裕など無い、バジルは一面の壁のように見えるバリアに向けグラディウスを構える。
 瞬間、凄まじい衝撃と同時に閃光が広がる。
「ここでしっかりと倒してしまいましょう」
 閉じた瞼の裏が光に透けて赤く見えるのを感じながら、バジルは衝撃に逆らうようにグラディウスに力を込める。瞬間、跳ね返ってくる衝撃がスッと抜けるような気がして、硝子が割れるような感触が腕先から耳に抜けて行った。その感触が何であるか分からないままに、グラディウスの力を使い切ったバジルはバリアから離れて地上へと降下する。
 続いてバリアへの突入態勢に入るのは、御手塚・秋子(夏白菊・e33779)であった。
 最初の爆発で、魔空回廊の周囲の雨雲は消し飛んだ。猛烈な熱気を帯びた熱気が上昇してくるのを感じながら、視界の中での存在感を急速に増してくる魔空回廊のバリアに向け、鞘から引き抜いたグラディウスを向ける。
「山が元気じゃないと近くの海は生き物が住めなくなるんだって。川も汚れるから上手く栄養が廻らなくて作物や生き物も育たなくなるとか……」
 消し飛んだ雨雲の先に見える谷間や盆地には、水を張ったと思われる田んぼが空の光を反射している。
 そう、次第に迫ってくる、攻性植物という脅威を感じながらも、太古から続いた営みを絶やすまいと多くの人たちができる限りの努力を、命がけで続けていた。
 なんだよこれ。
 秋子の胸の内に得体の知れない熱い気持ちがわき上がる。
「山is根源! ここが荒らされ続けたら色んな美味しいもの食べられなくなっちゃう!」
 具体的に思い浮かんできたイメージを叫ぶ。
「魚介にお茶お米お酒各種、伊勢海老と海苔の佃煮に鮒寿司!」
 食材に関するものばかりだったが、それには豊かな自然と関わる人と、人の技が必要である。
「まだまだ色々沢山食べたいの!」
 秋子は全力でグラディウスを振り上げて、目の前に広がるバリアを目掛けて、振り下ろして、叩き付ける。
 爆発と衝撃に続いて激痛が来る。
「鈴鹿山脈はこれ以上壊させない!」
 それでもグラディウスをバリアに押しつけながら秋子は叫び続ける。
 グラディウスに蓄えられた力を出し切るまでのほんの短い時間、言葉にしきれなかった思い出がイメージとなって、脳裏を駆け巡る。瞬間、平滑に見えたバリアの表面に薄く――蜘蛛の巣を張ったような筋が広がった。
 その変化は攻撃態勢に入った、帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)の目にも映る。
 以前はなかなか破壊できなかったはずの魔空回廊の破壊が急に相次いでいることは薄々気づいていたが、いったい何が起こっているのか? 疑問が一瞬、脳裏を過るが、ひとつでも多く魔空回廊を破壊できるなら、それでいい。翔はグラディウスを確りと握り直し、目の前に立ちはだかるバリアに意識を集中させる。
「攻性植物……植物を名乗り、自然を守ることを謳いながら、植物を歪め、自然を穢す!」
 植物と名前がつけば何でも安全で有益なものとは限らないが、攻性植物勢力は侵略と災厄をばかりを齎す。
「この地も本当は、自然豊かで綺麗な場所だったのに……」
 山頂部が熊笹に覆われて羊の群れのように見える山から、お釈迦様の寝姿に似ている山、尖った槍のような山容、浸食された花崗岩が見せる不思議な世界などなど。鈴鹿山脈の山々にはそれぞれに違った個性があった。
「てめぇらはそれを穢した! 物言わぬ植物を利用して!」
 攻性植物『ゲヘナマザー』は、種子をばらまき、成長したそれを回収することで、己を強化すると言われる。
「許せねー!」
 元の姿には戻せない奇妙にねじ曲がった異形の木々に思いを巡らせながら、翔はバリアを目掛けて満身の力と共にグラディウスを叩き付ける。
「こいつは今まで踏み躙られた植物達の痛みだ! 受け取りな!」
 爆発――破片のように飛び散った雷光が無数の矢のごとに降り注ぐ。
 矢のような雷光が落ちた場所で爆発が起こり、そこを起点に火の手が上がる。
 炎に包まれた異形の植物たちは逃げることも出来ないまま、炎の輝きの中で灰を散らせて消えて行く。
「鈴鹿の山々は特色があって良いところだって聞いてるよ!」
 作戦決行前、アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)は、鈴鹿山脈がどのような場所かが気になっていた。出発までの短い時間ではあったが、ネット上には攻性植物に侵略される前の美しい景色の写真や、山登りをした人々の楽しげな体験談がたくさん記されていた。
 様々な思いが頭の中を巡るが、十数秒後にはグラディウスをバリアに叩き付けなければいけない。
「そんな良いところを、攻性植物一色に塗り替えるだ?! 許せるもんじゃないよ!」
 実際に自分の足で登ったことが無くても、其処を知る者の思いに触れれば、想像して知ることは出来る。
「鈴鹿山脈はこの山で根付いてきた動植物達のもんだ! 返してもらうよ!」
 この土地を愛する人たちの為に、鈴鹿山脈を地球に住む人たちの手に取り戻してあげたい。真心を込めてアリアナは持てる力の全てと共にグラディウスを叩き付けた。
 煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)の目に、青白い光の粒を舞い上がらせながら、振動する巨大なバリアが映った。
「物言わぬ鈴鹿山脈の植物達を利用し、己の侵略の道具とするなんて……許せません!」
 このまま壊せるかも知れない。漠然とした期待が頭を過るも気を緩めずに、グラディウスを持つ手に力を込めるカナ。壊せなかった時に後悔しない為にも全力を尽くす。そう本気でクロージングに掛かっていた。
「人間を破壊者と非難しておきながら、自分達も植物を都合よく歪めて道具にする……どちらが破壊者ですか!」
 確かに敵が非難するように我欲を最優先に手段を選ばない人間もいる。しかし人間はそれが良くないと知っているし、民主主義というイデオロギーがそれを抑止する。強者の専制が当然とされるデウスエクスとは違う。
「あなた方こそ破壊者です! そんな外道の所業、ここで終わらせます!」
 叫びと共にカナがグラディウスを突きつけた瞬間。
 衝撃から来る激痛の代わりに、いま手にしている1本のグラディウスに継がれて来た何十人ものケルベロスたちの願望や憤り、怒りや無念、喜びや失望が、光る空気かオーラのような気配と湧き上がり、その光がバリアに蜘蛛の巣模様のように走る亀裂に沿って広がって行く。
 あとはお願いします。
 聞こえるはずのない言葉が最後の攻撃を掛ける、八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)の耳に聞こえたような気がした。
「ふうん、わかったわ。――って誰なの?」
 グラディウス行使の余波の爆炎は皮膚が焼けるように熱く、息をするだけで肺が焼かれるように苦しくなる。矢のように煌めく雷光は、激しい上昇気流に巻き上げられた異形の物体を空中で貫いて塵に変えて行く。
「この山、動物たち、木々や草葉の一本一本まで、皆が力強く生きてたっていうのに」
 山肌で燃え上がる炎は異形の植物を焼くだけでなく、まだ正常な植物も燃やすだろう。
 だから、こんな戦いは一刻も早く終わりにしたい。
「これほどの雄大な自然が元の姿を取り戻すまでにどれだけ年月がかかるか、分かってるのかしら?」
 その年月は定命の時間を生きる豊水や、この土地を追い出された人たちにとっても長過ぎる。
「寿命知らずの植物もどきだからって好き放題してんじゃないわよ!」
 叫ぶと同時に、豊水は振り上げたグラディウスを振り下ろし、叩き付けた。
 衝撃は意外な程に少ない。
 しかしグラディウスから噴き出る破壊の奔流が生み出す閃光で目に見える全てが真っ白になっている。
 このまま消えて無くなってしまえ。いっそう強く気持ちを込めて刃を押しつける。
「自然とその恵みを愛する者を代表して、私が成敗してあげるわ」
 遠目にはグラディウスの刃が接触した所を起点にバリアは氷が溶ける様にして崩れ、同時にその融解は魔空回廊を巻き込みなながら、上昇気流に撒き散らされて行く。

●撤退
 かくして鈴鹿山脈の魔空回廊の破壊に成功した。
 合流した6人は互いに所持するグラディウスの確認を終えるとバジルと敵の不意打ちに備える秋子が先導する形で撤退を開始する。
「それでは急ぎましょう」
 濃霧と同様のスモークが景色を満たしているが、不思議と方向感覚を失うということはない。
 山頂付近の木々もともと背丈の低いものばかりで、多くがグラディウス行使の余波で焼けていた。
 標高が下がるにつれて森の気配が強くなって行く、整備された林道などに出るまでは基本的に森の中を進むことになるが、進路の植物が行き先を示すように左右に開いて小路をつくる。アリアナの用意した『隠された森の小路』の効果である。
 果たして、順調に撤退を進め、2つめの谷間から林道に出ようとした地点で、秋子が飛んできた巨大な蔦の一撃を受け止める。
「水が流れる音がしたから、ヤマを張ってみたけど、当たりみたいだね」
 偶然に敵に鉢合わせてしまう不運もあるが、敵の立場で考え、待ち受けやすい状況に目星をつけておけば、先に発見は出来なくとも、咄嗟の対応ぐらいは出来る。
 前腕で受け止めた蔦の力に圧されて身体がじりじりと後ろに下がりはじめる。
 やはり一対一となると厳しいと感じて、力を斜めに受け流すように払いのけて、秋子は横に跳ぶ。
 そこに機を合わせたかのように、バジルが蔦の発生源を狙って、鎖状に連なる薔薇の蔦――ケルベロスチェインを投げ飛ばした。
「この鎖で、貴方を縛り付けてあげますよ!」
 スモークが掛かってよく見えない部分もあるが、谷間を埋めるほどの巨躯をもつ、攻性植物『ゲヘナマザー』の全貌が明らかになる。
「悪い物は取ってやるよ」
 アリアナの突き出したアニミズムアンクの先ににゅるにゅるとエクトプラズムで疑似肉体作り出して前衛に差し向ける。
「八尋流正当後継・豊水並びに李々、参るわよ!」
 堂々と言い放ち、豊水はビハインド『李々』をその場に残したまま跳び上がり、眼下に見える敵に狙い定める。
 敵の力量は計り知れない部分もあるが、極端に強い部類ではないことは分かる。
 足先の輝きは流星の如き尾を引き、そのまま強烈な蹴撃となってゲヘナマザーを打ち据える。
 動物とも人とも言えない咆吼の如き悲鳴があがる。
「いったいどれだけの樹々を犠牲にしてその大きさになったのでしょうか?」
 カナは氷結の槍騎兵を発動する。召喚した氷属性の騎士のエネルギー体からの繰り出される斬撃が巨躯の表面を凍結させて、ダメージを刻みつける。

 攻撃を外すことは一度も無かったが、いくら当てても倒れない。このゲヘナマザーはとにかくしぶとい。
 そしていつの間にかにスモークは目に見えて薄くなっている。
「長い間、好きにさせてしまいましたからね」
 前回の攻撃時期を鑑みれば、ゲヘナマザーが力を増したことは想像に難くない。
 バジルはBlue Roseと名付けた惨殺ナイフ横に向け、その茨が纏ったが如き刀刃を敵に向けた。
 そこに映る像は、ゲヘナマザーが記憶の奥底に隠しているトラウマを呼び覚まして、具現化する。
 瞬間助けを求めるようなが如き咆哮を上げる。数秒後、呼応するような咆哮が遠くからだが、いくつも響いてくる。
「切羽詰まって来てるのではなくって?」
 自分たちも苦しいが、単独で踏ん張っている敵はもっときついはずだと豊水は確信し、李々に攻勢に出るよう促し、自身もまた積極的に撃破を狙う。
 豊水は二本の手にそれぞれ惨殺ナイフを持ち、舞うようなステップを踏みながら絡み合った蔦の要所を切断してゆく。直後ゲヘナマザーが動かそうとした触手が、ぼとりぼとりと音を立てて落下し、追い打ちをかけるように、背後に回り込んだ李々が得物を突き立てる。
「アンタもう十分にがんばったよ。だから、もう落ちなよ」
 時間のリミットが近づいていることに気が付いた、アリアナは味方への支援を中止してバスターライフルを構える。そして脱落した蔦を繋ごうとするゲヘナマザーに向けて巨大な光弾を打ち放った。
 光弾が命中して爆ぜると同時に翔は混沌の力を開放する。自身の極限まで放出した混沌はゲヘナマザーの巨躯を飲み込み、その不規則性を増大させ存在を曖昧なものとして行く。
「てめぇの肉片一つ……いや、魂まで残らず全て喰らい尽くしてやるぜ! 消えちまいな!」
 だが、まだ終わらない。
「これ以上は流石にまずいよね」
「確かに……ですが、あと少しのはずです」
 混沌の不規則性を孕んだゲヘナマザーの蔦が前よりもグロテクスに湧き上がる。
 秋子とカナは目で合図しあうと、それぞれに敵と向き合う。
「師匠……これが私なりのあなたの剣です!」
 最適の間合いから、己の霊力で作り出した刃を乱舞させる。腕の動きという物理的な制約を取り払われた自由な刃の動きに切り刻まれたゲヘナマザーは放っておいてもバラバラに崩れそうに見えたが――。
「あとはお願いします」
「分かった!」
 カナの声に応じながら、全身を鋼の鬼と化したオウガメタルに包まれた秋子は、オウガメタルが齎す破壊の力と己の力の全てを拳に乗せて、ゲヘナマザーの中心に打ち込んだ。
 瞬間、ゲヘナマザーの巨躯は腐朽した木材が砕けるようにして崩れ去った。
 かくしてゲヘナマザーを撃破して、谷間の突破に成功した一行は間もなく林道に出るが……。
「去年の台風の被災がそのままになっているようですね」
 流木に押し流された橋の跡を目にして、バジルがちょっと残念そうに空を見上げた。
 家に帰り着くまでには、もう少し時間がしばらく掛かりそうだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月19日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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