地上を割り砕きしドラゴン

作者:小宮祭路

 何者かによってオラトリオの施した封印が破られ、混乱を呼ぶデウスエクスが解き放たれてしまった。
 昼下がりの街中に響き渡る轟音、目前の建物が突如ひび割れて崩壊していく。
 数瞬の後、ドラゴンの大きな瞳がビルの隙間から覗き、巨体が悠然と町中を進んで行く。
「グエエエエ!!」
 天に至る凄まじい咆吼に人々の足が竦み、倒れ伏す。それほど圧倒的な存在感、破壊の権化のもたらす絶望感が辺りを支配する。
 人々のグラビティ・チェインを奪ってしまえば、ドラゴンは空を再び舞うことができるのだ。
 ドラゴンは尻尾を叩き付け地面を割り、人々をドラゴンブレスで次々と焼き尽くしていった。そして、炎の中に隠れて破壊を続けていく……。

 ヘリオライダーである黒瀬・ダンテが軽い彼にしては珍しく、額に汗を浮かべていた。
「皆さん。予測で見えた今回の敵はなんと……ドラゴンっす。場所は長崎の佐世保市。先の大戦でオラトリオに封印されたはずの個体っす」
 周囲の静まりにダンテは頷く。
「ドラゴンの戦闘力はさることながら、大量のグラビティ・チェインを奪うと、羽根の機能が復活して街の廃墟を後にどこへなりと飛んでいっちまいます。そいつを止めるためには、出始めをぶっ叩くしかありません」
 ドラゴンが暴れれば、街は簡単に廃墟にされてしまう。グラビティ・チェインの奪取を邪魔するためにもなるべく早く撃破したいところだ。
「皆さん、ドラゴンの撃破、よろしく頼むっすよ……!」
 続いてダンテはドラゴンの戦力に言及する。
「ドラゴンのグラビティは3つ。ドラゴンブレス(炎)、ドラゴンクロー、ドラゴンテイルっす」
 ドラゴンの吐息、爪、尻尾には気をつけなければならない。また、その巨体だ。攻撃の予兆には気を配るべきかもしれない。
「でも、ドラゴンの図体ってめちゃデカいっすよね。背中に乗っちまえばこっちのモンじゃないっすか?」
 大きな体を逆に足場として使う算段だ。背中に乗ることができればチャンスが巡ってくるかも知れない。
 ここで、ダンテに街に対する被害や批難に関しての質問が飛んだ。
「大丈夫っすよ! 町が破壊されても建造物はヒールで直ります。また、町の皆さんには避難勧告が出ますから、そちらも気にする必要はないっす。戦いに完全集中してください」

 ドラゴンを相手にするということでケルベロスたちの中で緊張感が高まっていく。説明を聞いた相沢・創介が呟いた。
「相手がドラゴンだから、実は結構ワクワクしているんだね? 僕も頑張るよ!」


参加者
アルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)
広井・世界(地球人の巫術士・e00603)
クリスティーネ・ユーホルト(流浪の姫・e00751)
ルヴィル・コールディ(ドラゴニアンの刀剣士・e00824)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
ヴァルナ・ミア(ドラゴニアンの降魔拳士・e01412)
ヴァジュラ・ヴリトラハン(黒鉄の竜刃・e01638)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)

■リプレイ


 ケルベロス達の視線の先、町中に土煙と炎が立ちこめている……。周囲に散らばる瓦礫は、町を成していたビルなどの残骸だ。
 その奥から天を突くような雄叫びが面々の鼓膜をしたたかに打ち付けられる。
 煙を切り裂くように閉じた羽が見え、高層建築に届こうかというドラゴンの巨体が悠然と姿を現わした。
 金髪を風に揺らし、小柄なアルフレッド・バークリー(殲滅領域・e00148)は口を開く。
「さすがドラゴン、もの凄いプレッシャーだ。けれどここで食い止めなければ被害がどこまで広がるか。囮役の皆さん、ヒールドローンを使います。どうかご無事で!」
 小型治療無人機の群れが前衛の味方を警護する。
 ヴァジュラ・ヴリトラハン(黒鉄の竜刃・e01638)は金色の瞳を光らせながらドラゴンを見やり、筋骨隆々な体で走り出す。目標はドラゴンの目の前だ。
「囮というのも一興よ。さあ戦いだ! この為だけに我は在り!」
「1人で突っ込むなよ! 俺も囮班だ、行くぞ!」
 人型をとるドラゴニアンのモンジュ・アカザネ(双刃・e04831)は彼の後ろ姿に声をかけ、赤い長髪をはためかせながら自らも駆けだした。その後に数人の影が続く。
 自分に対抗する存在を認識したのだろうか、ドラゴンが巨大な瞳で小さな人々をその視界に収め、思案するかのごとく身じろぐ。
 ヴァルナ・ミア(ドラゴニアンの降魔拳士・e01412)とルヴィル・コールディ(ドラゴニアンの刀剣士・e00824)、広井・世界(地球人の巫術士・e00603)はいち早く物陰に隠れてドラゴンの背に乗るタイミングを待っていた。紫の瞳を持つヴァルナがドラゴンを見ながら口を開く。
「今の行動を見るに、ドラゴンの背に乗ろうとて振り落とされるであろうことは明白じゃ。攻撃後はすぐに離れ、再び背に乗って攻撃するのがよかろうて」
 途中、通りかかったクリスティーネ・ユーホルト(流浪の姫・e00751)が笑った。
「そうね、ヒットアンドアウェイでボコボコにしてあげるといいのかしら」
 世界が口角をひくつかせながら返事する。
「笑顔で言うことじゃない気がすんだけどな……」
「あら、そうかしら」
 笑顔を絶やさないクリスティーネにルヴィルが声をかけた。
「ま、確かにやることは変わらないよな」
 草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)はそんな4人を見て笑みを浮かべながら翼を羽ばたかせている。
「じゃ、俺は先に行くからな」
「尻尾に気を付けての、あぽろ」
「おう、その辺りは抜かりねーぜ。ギリギリまで隠れて飛び乗ってやる」
 オラトリオの少女は純白の翼をはためかせ、空に舞い上がった。
 ドラゴンの目前に着いた囮班は、改めて目にするドラゴンを見上げ、双方ともに視線を戦わせていた。
「でっけぇ獲物だな……いっちょ、首でも持ち帰るか!!」 
 モンジュが素早く接近し、テイルスイングを試みる。しかし、ドラゴンはその巨体に似合わない挙動でそれを避けて見せた。
「んだと? デカブツのくせに機敏に動きやがる」
 続けて後方から攻撃用に改修された正八面体のドローン群が飛来し、ドラゴンにオールレンジ攻撃を行った。
「舞え、『Device-3395x』!」
 アルフレッドのExterminate Fieldがドラゴンに直撃した。だが、ドラゴンは声を上げることもなく、悠々と進んでくる。
「さすがドラゴン、タフですね。でも、その余裕は命取りだ。足止めされていることに気付いた時にはもう遅いですよ」
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)は前線で「殲剣の理」を歌い上げる
「さて……、僕に気を向けてくれるかどうか」
「ガアアアア!!」
 ドラゴンは絶望しない魂を歌い上げた創介に怒りを感じ、圧倒的な速度で巨大な爪を振るった。ケルベロスでなければその一撃で世界の藻屑と化すであろう一撃だ。
「ぐああっ!!」
 創介の体が宙に舞い、地面に打ち付けられる。モンジュがすかさずマインドシールドでフォローに入った。
「おう、あんまりムリすんなよ創介。俺もディフェンダーなんだからよ」
 傷ついた体を即座に立て直す。
「ありがとうモンジュ、いや、ツインエッジと呼ぶべきかな。助かるよ」
「なに、礼はいらんよ。味方を守るのは、俺にとっては当然だ」
 遠い目をしたモンジュに、彼は次の言葉をかけるのをためらった。それはモンジュの過去に起因するのだろうと感じられたからだ。
 ヴァジュラは沸々と煮えたぎる自分の闘志に武者震いを禁じ得なかった。
「戦狂いとして、これ程までに愛おしい敵もあるまい」
 そのまま仁王立ちで鉄塊剣をぶん回す。
「食らえ、ブレイズクラッシュ!」
 地獄の炎を帯びた鉄塊剣がドラゴンに深々と突き刺さり、肉に食い込む重い手応えが直に伝わってくる。ドラゴンが怒りの雄叫びを上げた。


 ルヴィルは翼をはためかせながら世界を抱えている。その分動きが制限されるため、物陰から様子を伺いながら飛んでいた。
「おっ、世界、そろそろドラゴンの意識があっちにいったみたいだぞ」
「よっしゃ、んじゃ攻撃をしかけようぜ」
 彼らが物陰から出た瞬間、ドラゴンはそれを予期していたかのように首を回して2人に目を留める。ドラゴンの口から漏れ出ているのは炎の呼気だ。ドラゴンは背後で全ての見方をサポートしているアルフレッドにも目を付けている。
「あっ、おい、やべーぞルヴィル! 俺達とアルフレッドにブレスを叩き付けてくるつもりだ」
「くそっ、少し出るのが早かったか」
 怒りに任せた炎のドラゴンブレスが後衛を焼くべく、まるで火炎放射器のように吐き出された。自由自在な軌道で距離の離れた3人を襲う。
「うおおっ!!」
 炎にまかれながらもルヴィルは世界を離さない。2人とも少なからずダメージを負った。
 後方のアルフレッドも炎にまかれ、後退を余儀なくされる。ブレスが止まると同時に創介からブラッドスターによる回復が飛んできた。
「助かります! 2人にヒールドローンを飛ばさなきゃ」
 ビルの屋上に移動していたヴァルナは、自分の目の前にドラゴンを来たのを見計らって跳躍する。
「ふむ、味方を傷付けたとあっては黙ってられん。当たる当たらんより一発殴ってやらねば気が済まぬのう」
 ぐんぐんとドラゴンの巨体に近付き、ヴァルナはバトルガントレットに包まれた指一本の突きをドラゴンの背に叩き込んだ。
「ほれ、これでも食らえ、指天殺じゃ」
 ヴァルナはドラゴンの気脈を断ち、その動きを緩慢にさせる。
 地上にいた予めクリスティーネはヴァルナの作った隙を見逃さず尻尾を駆け上がった。しかしドラゴンは自らに近付いた人影を機敏に察知し、尻尾を振り上げた。
「やばっ!」
 強力な痛打にクリスティーネの体は近くビルまで吹き飛ばされる。
「きゃああっ!!」
「おい、クリスティーネ!」
 尻尾の動きを警戒していたあぽろは距離を取っていたが、とっさにクリスティーネに声をかけ、ドラゴンの背に降り立つ。
「ちっくしょう……、調子に乗りやがって。禁縄禁縛呪を食らいやがれ!」
 半透明の『御業』がドラゴンを鷲掴みにする。ドラゴンは自らを拘束する攻撃に不満げな声を上げた。
 瓦礫から体を起こしたクリスティーネは砂埃を落としながら笑顔を浮かべていた。口の端に血が滲んでいる。
「ふふ……さっきはよくも尻尾なんて叩き付けてくれたわね。おねーさん、怒っちゃうかも」
 彼女は魔導書を手に、生と死の境界線から、無数の触手を召喚した。触手はドラゴンに次々と殺到し、その手を突き立てていく。
「いつもより多めに召喚してまーす!」
「ゴァアアア!!」
 ドラゴンがはっきりとした痛みの声を上げる。
「ま、それくらいのダメージは受けてもらわないと、ワリに合わないわ」
 パタン、と魔導書を閉じる。
「んじゃ、俺達も続こうか」
「だな」
 続いてドラゴンの背に降り立ったルヴィルと世界の2人が攻撃を開始する。ルヴィルのブラックスライムが雷の霊力を受け、音速の唸りを上げた。
「雷刃突!」
 ドラゴンが叫び声を上げた。雷刃突で与えたダメージでドラゴンの堅牢な守りが突き崩される。
 背にいる2人に対し、ドラゴンが背中を掻くようにして爪を振り上げると、世界のボクスドラゴン、ディアが自分に気を引くため、ドラゴンの目の前をけなげに横切って自らに意識を向けさせた。ドラゴンは爪の軌道を変化させてドラゴンクローをディアに叩き付ける。ディアは鳴き声を上げながらビルの屋上に激突した。
「ディア!」
 世界は目を剥いてディアに呼びかけるが、はたしてディアは砂煙より顔を覗かせた。彼はほっと胸をなで下ろして、一瞬で闘志むき出しの目に変わる。
「【黄金の融合竜】でやり返してやるよ! ドラゴンにはドラゴンを、ってな!」
 世界が黄金の融合竜のエネルギー体を召喚し、金色に光る融合竜がドラゴンに攻撃を加える。融合竜は痛烈なダメージを与えた。
 地上ではモンジュが降魔真拳を使い、魂を喰らう降魔の一撃を放っていた。その一撃で細かく受けていた自分のダメージも回復させる。
「次はまた足止めしてやるぜ」
 そのモンジュに流星・清和の可変式機関装甲によるサポートが飛来する。
『情報ダイレクトリンク完了。補助ユニット射出…、ユニットパーツリビルド…パーツドッキング開始!』
「おお、サンキューな!」
「いや-、ドラゴンの戦いってのはすごいね」
「ふむ、ここで俺に気を引くか」
 ヴァジュラが続けてデストロイブレイドを発動させた。自らの腕力だけで叩き潰す剛剣でドラゴンの視線を支配する。即座にドラゴンクローの一撃がヴァジュラを狙うが、ルヴィルのビハインドであるエメラルディアが間に割って入り、代わりにダメージを受けた。白い羽角と水色の髪が宙に舞う。倒れ伏すものの、体勢を立て直した。ルヴィルは彼女の働きに目を細め、距離が離れている彼女に呟く。
「エメラルディア、ありがとう。1人にさせちゃってごめんな」
 物陰から緑の瞳のシグナル・ランフォードがヒールドローンでエメラルディアを回復させる。
「今回は前線には出られませんが、私も後方から支援させてもらいます。ケガした方は私に言ってくださいね!」
 彼女の呼びかけで戦場に一時の安らぎが訪れた。
『慈悲は無い』
 視界の誘導を共に行っていたアシュリー・ウィルクスの黒き者の吐息が、怒り狂うドラゴンにまとわりつく。
「ふふふ……自由を奪ってあげるよ」
 少女は艶然と笑む。
 あぽろは再びドラゴンの背に乗り、月光斬でドラゴンに斬りかかっていた。
「はっはぁ!ザマァミロ!っと危ねっ!」
 ドラゴンの動きが徐々に遅くなっていたおかげで、あぽろは軌道を見て避けることができた。冷や汗をかくあぽろだが、その顔には堪えきれない笑みが浮かんでいる。


 アルフレッドのペトリフィケイションがドラゴンに炸裂した。ドラゴンの動きは目に見えて遅くなってきている。
 アルフレッドは冷静な微笑みでドラゴンを見据えた。
「よーし、見立て通り。余裕を見せてた罰だよ、ドラゴンくん。皆、足を止めよう! ここで集中攻撃ができそうです!」
「了解だぜ。紅刃の理でいく」
 後方から全体を見渡していたアルフレッドの言葉にモンジュが呼応する。
『紅に染まりし我が腕よ。拭わぬその身を今見せろ!』
 モンジュの斬霊刀が赤く染まっていき、ドラゴンの正面から血が躍るかのような紅刃の幻影を見せる。気付いた時にはドラゴンの体に斬線が生まれていた。ドラゴンは苦痛に地団駄を踏み、その度地面がヒビ割れていく。
 世界は揺れる背の上絶妙なバランスを取り、着地した。
「へっへっへ、背中に乗るっつーのはいいもんだな。ディアの分も食らいな!」
 腕を振り上げシャーマンズカードを高々と上げる。
『死にたくなければ避けやがれ! シビれさせてやるよ!!』
 稲妻鎌鼬がドラゴンを貫く。見た目は稲妻が走ったように見えるが、ドラゴンは鎌鼬を幻視したはずだ。何故ならこの攻撃は雷撃ではなく斬撃なのだから。
 彼に続いて背に飛来したルヴィルが攻撃する。
「よっしゃ、ここでもっと動きを止めてもらうぜ! 絶空斬!」
 世界の作った傷跡をルヴィルは正確になぞり、ドラゴンの動きを更に遅らせることに成功した。
 続いてクリスティーネも背に駆け上がり、ブレイジング・インパクトでドラゴンを内部から炸裂させる。
『ああもう、かったるいわねえ、吹っ飛ばすわよ!』
 敵の内部から炸裂するこの技に、さしものドラゴンの口からも血が吹き出た。
「内部にダメージが通ったか。ならばこの瞬間を逃す手はあるまい」
 ヴァジュラが信じられない身体能力で大跳躍を行う。飛び立った後のアスファルトに彼の足跡が残るほどだ。
『我が一撃、古の蛇が如く、天より降りて地を穿つ』
 続いて鉄塊剣を振り上げ、戦いへの歓喜から獣性を見せつける咆吼を上げた。
「龍星弾!!」
 鉄塊剣による最高火力の一撃がドラゴンの脳天に達し、そのまま口蓋を砕く。
 ドラゴンはかなりのダメージを負ったが、その瞳はヴァジュラを見据えており、ドラゴンクローで落ち行く無防備のヴァジュラを吹き飛ばした。
「ヴァジュラさん!? ヒールドローン!」
 即座にアルフレッドからドローンが飛ぶが、ヴァジュラは今の一撃に喜びを感じていた。
『紡ギシハ雷、織リシハ神ノ怒リ、断チ切ルは汝の命運…!』
 ヴァルナはドラゴンの攻撃後の隙を逃さない。鋼鉄の拳を握りしめ、紫電をまとった一撃を放つ。周囲に落雷にも似た轟音が鳴り響いた。傷付けられていたむき出しになっている部分が耐えきれず炭化していく。ヴァルナは眉を上げる。
「ふむ、これでもまだ倒れぬとはな、ドラゴンとはまこと難儀な存在じゃのう」
「だが瀕死だ。いっくぜぇ陽々さま!」
 ヴァルナの後方から翼をはためかせたあぽろが殺到し、詠唱を破棄して右手の先に光を集中させる。力が集まるにつれて彼女自身が光を放つ。
「俺は『超太陽砲』…! 草火部あぽろだぁあああああ!!」
 超極太の光線がドラゴンの体に突き刺さり、灼いていく。
「グォオオオオ!!」
 ドラゴンはついにその巨体を町に沈めた。あまりの重量で地面が割れ、砕ける。
 町を覆い尽くす恐怖を未然に防ぐことができたのだ。


 ヴァルナはドラゴンが倒れたことを疑っている。
「最後まで気を抜くことはできんからな、ほいっと」
 一撃を叩き込むが、やはりドラゴンは沈黙したままだ。
「ふむ、どうやら本当にドラゴンに勝利したようじゃぞ。やったのう。皆の衆」
「いやー、ブレスにまかれた時はどうなるかと思ったけどね、案外勝てるもんだ。エメラルディア、お疲れ様。じゃあ皆、またな。俺は町のヒール手伝ってくるから」
 ルヴィルが破壊された町を修復するため、ヒール役の手伝いを買って出た。心優しき青年の助力もあれば、町の復興速度も上がることだろう。ルヴィルの後ろを水色髪の半身姿のビハインドが追っていく。
 アルフレッドが金髪を揺らして笑った。
「しかし、ドラゴンの後始末は大変そうだ。とはいえ、救助は先に済んでいたみたいですし、人的被害を抑えられたのが何より」
「そうだな。それは本当によかったぜ」
 世界が腕を組んでうんうんと頷いている。傍に回復したディアが寄って来ていた。
「いやー、ドラゴニアンとドラゴンに関連性はないけどさ、俺の融合竜を含めたら今回はもの凄いドラゴン尽くしの戦いだったよな」
 ディアは可愛らしい鳴き声で返事をする。
 ヴァジュラは最後に吹き飛ばされた瓦礫の上で座り、今回の戦いを振り返っていた。
 そこにモンジュが通りがかる。
「お、ヴァジュラ、お疲れさん」
「うむ。モンジュ、お前もな」
「そこで何やってんだ?」
「ああ、此度の戦いの反芻をな。俺はより高みを目指したい」
 創介が3人のサポートメンバーと労いの言葉を掛け合ったあと、空を見上げていた。
「こうした戦いがこれからも続くのか……僕達の音楽がどこまで通用するか、毎日が大変そうだ」
 言葉とは裏腹に彼の口角には笑みが浮かんでいる。
 あぽろはクリスティーネと戦いを振り返っていた。クリスティーネは戦いで広がった髪に手櫛を入れながら、あぽろは瓦礫に座って足をぶらぶらさせていた。
「集中してれば詠唱破棄してもイケるもんだな」
「それにしても尻尾で叩き付けられた時は握りつぶしてやろうかと思ったわ!」
「ははは、いやーあれは俺も見てて肝が冷えたぜ。無事でなによりだ」
「あれくらいで倒れてたまるもんですか」 
 アルフレッドは回復するまで廃墟となる町を振り返る。
「僕達は平和のために……これからも自らの力を使わなきゃね」

 ケルベロス達は思い思いに戦場を離れていった。彼らの未来をあらわすかのように、空から煌煌とした太陽が降り注いでいる。

作者:小宮祭路 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。