電子ペットと遊ぼう

作者:星野ユキヒロ


●ケルっぴ
 電子ペット育成ゲームというのがかつて一世を風靡した。今もまだ、元祖のメーカーのものは形を変えて市場に残っているが、それではない。
 当時よく似てはいるが決定的に違っているいわゆる「パチモン」がいくつも誕生しそして消えていったものだ。
 海の泡のように浮かんでは消え浮かんでは消えしていったあまたのパチモンゲームの中に『ケルっぴ』というものがある。子犬を育てていくと、頭が三つのケルベロスになったり、はたまた原形もとどめないケルピーになったり、まあそういうゲームだ。
 そんなケルっぴが、群馬県の廃リサイクルショップの外に置いてある投げ売りワゴンに置き去りにされていた。
 ほこりをかぶっているそのケルっぴに忍び寄る怪しい影は小型ダモクレス。とても小さいそれは、カサカサと這い寄るなり小さなゲーム機本体に器用に潜り込むと、中枢機械に取りついた!
『ケルッピ!』
 ダモクレスと化し巨大化したケルッピはかろうじてケルッピと聞こえないでもない電子音を上げると、ワゴンを押し倒し歩き出した!

●電子ペット育成ゲームダモクレス討伐作戦
 群馬県で電子ペット育成ゲームダモクレスの事件が起こることをディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)は懸念していたという。
「ディミックサン、見事に的中ネ。皆サンには電子ペット育成ゲームのダモクレスを倒しに行ってもらうヨ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「今回のリサイクルショップは土地の持ち主が物置として使ってるところだカラ、用がなければ人が入ってくる恐れはないネ。とはいえ念には念を入れて警察に人払いと封鎖を頼むカラ安心するヨロシ。もちろんそのままにしておいたら危険すぎるので、ケルベロスの皆サンには、歩き回って人に危害をくわえる前に阻止してほしいアル」

●電子ペット育成ゲームダモクレスのはなし
「このダモクレスは、小さなゲーム機が巨大化、変形して丸みのある大きなメカ犬のような形になっているダモクレスネ。顔についたギザギザの歯が回転して、皆サンが使ってるチェンソー剣のような攻撃をしてくるヨ。見るからにおっかないネ。無害なゲームにしては攻撃的なダモクレスになったものヨ。万全を期してかかってほしいアル」
 クロードは手持ちのモバイルでショップ周りの航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と避難をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「ケルっぴ。ウーン! 全然聞いたことないアル! 今だったら逆にレアかもしれないアルネ。とはいえ、元は人を楽しませようと作られた機械。ダモクレスになって人を傷つけたなんて製作者が聞いたら悲しいに決まってるヨ。だから皆サン、頑張って止めて来て欲しいアルネ」


参加者
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
 

■リプレイ

●がらくたの城
 ヘリオンから降り立ったケルベロス一行は、事前に知らされていた現場の元リサイクルショップへ向かいながら話していた。
「電子ペットというのは猫とかもあるのかのぅ。子犬も悪くはないのじゃが。リサイクルショップというものも面白そうなんじゃが、聞いたところによるとどちらも期待できないんじゃな。面白くも可愛くもない上に一般人を襲うダモクレスになったんじゃったら退治するしかないのぅ」
「電子ペットの形に自分を変えたってこと? だったらもうちょっと可愛い姿になって欲しかったわ……。あ、でも可愛すぎると倒すの躊躇っちゃいそうね。複雑だわ」
 ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)と佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が金色のツインテールを四本揺らしながら並んで先頭を歩く。テレビウムの菜の花姫が足元をちょろちょろしていた。
「LSIゲームってやつかねぇ、懐かしいもんだぜ。正規品が手に入らなかったのも、今となっちゃいい思い出ってか。まぁ、バグが入りこんだんじゃあ壊すしかねえわなぁ」
「一見するとまるでコギトエルゴスムを弄んでいるようでおっかなくはあるが……架空の小さな命を見出すのは、それはそれで趣のある遊戯なのかもしれないねぇ。ケルベロスとの親しみに結びつけるのもなかなかの発想だ」
 鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)とディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)の大きい二人組がそのあとを守るようについていく。豪快と老獪、なかなか珍しい組み合わせだ。二人で航空写真を見せ合って、被害を抑える相談をしている。
「育成ゲーム、なんだよ、ね? ケルっぴ……早くここに来てたら、遊べてたのに。やってみたいって思うのは、私だけか、な」
「この手のゲーム、個人的には対戦モードが搭載されていたかが一番の焦点なのですが、割と無駄に排泄物処理させられたイメージがあります。現実世界でもその点だけでペットを捨てる飼い主結構いますからね……っと戦闘準備戦闘準備」
「電子ペットかぁ。やっぱり何かを育てるっていうのは楽しいものなのかな。人を楽しませるため作られたものがダモクレスになって人を傷つけるのは、止めないとね!」
 ボクスドラゴンの崑崙を連れた涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)の興味に答えながらも、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)とジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)は戦闘の予感に身を引き締めた。
 さびれた元リサイクルショップの駐車場に、そのダモクレスは立ち尽くしている。

●凛々しい犬
 ダモクレスを視認した瞬間、ケルベロス達は素早く各自の戦闘位置につく。
「じゃれてくるなら、なるべく敵意のないように態度だけでも接してやりたいが、向こうが攻撃的ならばそれなりに対応しようかねぇ」
 ディミックが光の城壁を出現させ、前衛を守る。機械の体をもつゆえ、機械の犬を倒すのに少しばかり抵抗があるらしい。
「そろそろ内蔵電池も寿命だろ、大人しくスクラップになりやがれ!」
 道弘はエアシューズ、グラウンドタッパーで流星のきらめきと重力を乗せた蹴りを斜め45度から見舞った。
『ケルッピ!』
 蹴りを受けたケルっぴダモクレスは電子音で一声鳴くと顔についたギザギザの歯をギュンと作動させ、道弘を切り裂こうとする。
「そのギザギザの歯、筋肉で受け止めるッ!!」
 回転する歯が道弘に当たろうとする刹那、滑り込んだジェミが腕の筋肉で受け止めた!
「電子ペット、なかなかやるのぅ。ならばしっかり打ち抜いて行動させないのじゃ。皆もわらわに続くのじゃぞ」
 ミミのドラゴニックハンマーが砲撃形態に変化し、ケルっぴダモクレスに炸裂する! 菜の花姫もミミに続き、凶器を手にして躍りかかった!
「正面からぶつかるのは危なそうだし(チェーンソー怖いから……)横とか後ろから攻撃よっ」
 レイが光の翼を暴走させ、全身を「光の粒子」に変えて敵に突撃する。
「さぁ、かかってきなさいよダモクレスッ」
 先ほどチェーンソーの歯を受けた腕から滲む血潮をビッと振り切り、ジェミが星屑散る蹴りを撃ち込んだ。
「ケルっぴちゃんをじゃれさせて、翻弄させる……よ!」
 茜姫が轟竜砲をぶちかます間に、崑崙が属性インストールでジェミの腕の傷を治した。
「メカわんことか……嫌いではないのですけどね。デウスエクスならば容赦いたしませんよ。ぎゅってしたら、投げた勢いで穴掘って埋める!! ほぅら、高いたか~い」
 ジュリアスがケルっぴダモクレスを掴んで持ち上げ、グラビティを撃ち込み重力を発生させる。平衡感覚を失ったケルっぴダモクレスは地面に叩きつけられた。
 叩きつけられたダモクレスは、しかしすぐに起き上がる。まだまだ戦いは始まったばかりなのだ。

●レインボー犬
「盾はいきわたった様だねぇ、この手のゲームはよく振るものもあるようだが、この犬はどうかな?」
 ディミックが不可視の虚無球体で上から下へ攻撃した。
「電源ボタンがこのへんにあるんじゃねえのか!?」
 道弘が如意棒を取り出し、電源のありそうなところをドスっと押した。
『ケルッピぃ!!!!』
 ケルっぴダモクレスはすさまじい轟音を上げて再び道弘に襲い掛かった!
「仲間を守るのじゃ~!!」
 ミミの号令に飛び出した菜の花姫が間に飛び込み、斬撃を受ける!
「ずいぶん痛がっておったのぅ、ここが弱点か?」
 攻撃を受ける菜の花姫の横をすり抜け、さきほど道弘が押した部分にミミが痛烈な一撃を叩き込んだ。菜の花姫はピカピカと光っている。
「知らなかった家電を見るのもためになるわよねっ」
 ジェミが肘の先を内蔵モーターで回転させて、威力を増した打撃を与えた。しかし、駆けだしたダモクレスに躱される。
「犬同士、じゃれあいましょうかっ!」
 躱した先で駆けて待ち構えていたジュリアスが再びケルッピダモクレスを掴んで投げる。犬のじゃれあいとはこのことか。
 投げられたダモクレスは一度叩きつけられたものの、すぐに起き上がった。
「怖くなくなるようにカラフルpopな塗料でお化粧するわよ~。べ、別にあたしは怖くないけどねっ、他の人のためよ! 他の人の!!」
 振りかぶって誰にともなく言い訳すると、レイは激しく塗料を飛ばし、ケルっぴダモクレスをビビッドなカラーに塗りつぶしてしまう。
「足止めはもう十分そうだ……ね!」
 茜姫が天高く飛び上がり、美しい虹をまとう急降下蹴りを浴びせた。塗り替えられたカラフルなボディの周りを虹色の光が彩ってとても綺麗だ。崑崙は菜の花姫の傷をせっせと癒している。

●ドッグラン
 ケルっぴダモクレスはケルベロス達の攻撃を唯々諾々と受け続けている。命中もしているのだが、決定的なダメージは通っていなかった。
「なかなか長丁場になりそうだねぇ」
 菜の花姫の盾がブレイクで破られたので、ディミックは再び光の城壁を呼び出し、付与した。
「いくわよートルネード投法!!」
 光の城壁を飛び越えて、レイが懐から取り出したデリンジャーを投げる投げる!
 箪笥の角に小指をぶつけたくらいの地味な痛さにうめくように頭を振ると、飛び上がって反撃しようとする!!
「それは私には通らない!!」
 ジェミが鍛え上げた腹筋で回転する刃を受け止め、上から斧で殴りつけてダメージを相殺した!!
「なかなか豪快じゃねえか! 追い込んでいくぜ! 覚悟しやがれ!」
 道弘が握りこんだチョークを砕き、破片を投擲すると地面に当たり跳ね返ったそれが敵を切り裂く!!
「わらわのぬいぐるみは特別製じゃ。遊んでくれると嬉しいのぅ」
 大きな猫のぬいぐるみを顕現させたミミは、そのままそれをケルっぴダモクレスに突撃させる。猫対犬、大スペクタクルだ。菜の花姫も凶器攻撃で応戦していた。
「犬ですが、猫さんに加勢しましょうかねえ!」
 ジュリアスは突撃している猫に続いて雷の霊力を帯びた武器で、神速の突きを繰り出す。
「ケルっぴちゃん……手のなるほうへ……」
 茜姫は遠くから精神を集中させ、突如ケルっぴダモクレスを爆破に巻き込んだ。爆発をよけながらブレスを吐く崑崙。
 駐車場はかなり踏み荒らされ、爆発の穴があちこちに開いている。それでもまだまだダモクレスは膝を折らず、戦いはまだまだ続く。

●眠れ犬
 激しい攻防戦が続いた。ダモクレスとケルベロス、どちらも傷を負い、疲労を背負っている。
「疲れも疲労も、飛んでって?」
 茜姫はネット動画で見たチアの真似をしてハイブイのポーズを決める。底抜けに明るい声と自己暗示の力、よく言えば信じる力でみんなのダメージが列ごと癒されていく。崑崙も列から外れた仲間に属性インストールで癒しを与えた。
「悔悟も遺恨も奥底に沈めて、空いた心の層に新しい想いを。地球ではこう言うのだったか――1、2の、……ポカン!」
 ディミックが手にした層をなす瑪瑙。それは濁った機械仕掛けの深層心理を一時的に圧縮する。
「雁字搦めにしてやらぁっ!!」
 ゲシュタルトグレイブ、ロングハンダーを構えた道弘が、稲妻を帯びた超高速の突きを見舞った。
『ケルッピィいいいいぃ!!!!』
 ケルっぴダモクレスは電子音の叫びを上げると、顔の刃を激しく回転させ、一番近くにいたレイに襲い掛かる!
「筋肉で……受け止めっ……!!!」
 すばやく割り込んだジェミが何度目かの防御を試みるが、鍛え上げられた筋肉をさらに食い荒らす回転鋸の衝撃に吹っ飛んだ!!
「それは、砕くわ! 師匠譲りのこの体に、通じるもんですかっ」
 吹っ飛びながらも、ジェミは腹筋に渾身の力を入れた。切り裂かれた筋肉がみるみる盛り上がり、元通りになっていく。そこまで鍛えるには眠れない夜もあったろう。
「見えるぞ見えるぞダモクレス、今わらわにそこを突かれたら崩壊するのではないか?」
 ミミが高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を叩き込んだ。菜の花姫は応援動画で応援中だ。
 ミミの言う通り、ケルっぴダモクレスの外殻はひびが入っていた。
「良し、大部弱ってきましたか。このまま終わらせましょう」
「ばきゅ~んで決めるのよ~!!」
 ジュリアスとレイは顔を見合わせうなずきあうと、右と左に別れ、ふらつくダモクレスに攻撃をしかけた。
 雷を帯びた刀と光の翼の突撃が、刃こぼれしかけていた刃にぶつかり火花を散らす!!
 ギャインという音は金属の擦れ合う音か、はたまた機械犬の断末魔か。判断する間もなく、ケルっぴダモクレスは爆発四散した。
 戦いは終わった!!

●ネットショッピング
 ケルベロス達は、その後現場の後片付けをした。
「官憲に終了報告して一件落着ってな」
 道弘が道端で任務完了の一報を入れている。
「なんだかんだで、デウスエクスが行きつくくらいには誰かの愛着あったんでしょうね、このゲームにも。……そういえば排泄物って研究対象として優秀なんですよね、まあ、デウスエクスがするのかどうかは知りませんけれど」
 掃除をしながら、ジュリアスがしみじみとつぶやく。
「有機物を食べる機能があるなら、するかもしれないねえ。憶測だけど」
 片付けながらディミックが相槌を打った。
「育成か……パワー型重視に育てられないかな。無事なゲームがないか探してみよう」
 あんなに強烈な攻撃を何度も受けていたのに、ジェミは戦闘要素のあるゲームを求めているようだ。鍵の閉まっているリサイクルショップには入れず、ワゴンにもろくなものがないのであきらめたようだが。
「どんなものか興味があるのぅ、ネットオークションで探してみるのじゃ。猫のケルっぴはないのかのぅ」
 ミミがモバイルで検索し始めて、興味のある仲間はわいわいと覗き込んだ。
「あんまり高くないじゃない。おうちに帰ったらお小遣いでポチろうかな。へー、面白いわねそれ。どんなケルっぴが育つのかしら。よーし、しっかり育ててあげるからねマメシバッ!」
 レイはまだ買ってもいない電子ペットに勝手に名前を付けているようだ。
「折角、だし。ケルっぴちゃんはダモクレスになっちゃった、けど、一緒に遊んでおきたい、かな。もしかしたら、私たちみたいに人型に育ったのかもしれないよ、ね」
 崑崙はあきれ顔で見つめていたが、そんなことを言って晴れた空を見上げる茜姫。
 ケルベロス達がきゃっきゃとはしゃいで、リサイクルショップは今だけ再開したようなにぎやかさだった。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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