●其は自己愛の権化
流星群、あるいは彗星のごとく地球へと飛来する大型ドラゴンの群れ。
その姿は衛星軌道上、それも日本への落下軌道に乗りつつあった。
螺旋業龍スパイラスと星の海を渡るドラゴンの中には、四足と二対の翼を生やす西洋龍を思わす威容が炎の吐息をこぼす。
「忌々しきはケルベロスども……我の、この我の、行く手を阻むとは、愚劣な下等生物めが!」
龍頭より伸びたるは角だけに非ず。
後頭部から流れるように蠢く触手はいつか何処かのオークを、前後の脚はドラグナーを彷彿とさせる。
黒い竜翼と白き翼をはばたかせ、数億光年の遠路より彼はついに辿り着いた――!
「我らドラゴンをここまでコケにして無事に済むと思うなよ……もはや一滴たりとも我が『慈愛』を受ける誉れはないと思え!」
――慈愛の通り名は偽りの名。
其は傲慢なる厄災にして、好色なる我欲を満たす絶竜。
自己愛に耽溺する者……慈愛龍ギルバレムは地球に到達したのだった。
「先日の第二王女ハールの撃破と、大阪城地下の探索、お疲れさまでした。パイプ役だった第二王女を撃破した事で、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の危機を回避できたと判断してよいでしょう。ひとえに皆様のお力添えあっての達成でしてよ」
柔らかく微笑むオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)であったが、それもすぐに仕舞い込まれてしまった。
「すでにご存知かと思いますが、大阪城地下探索にて、ドラゴン勢力が本星ドラゴニアを発ち『竜業合体によって地球に到達しようとしている』という情報も得られていますわ。しかし、地球に迫り来るドラゴンは、本星のドラゴンだけでは無かったのです」
それを危惧していたのは、サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)だ。
彼女は警戒していた、スパイラスに遺されたドラゴン達が竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、地球の衛星軌道上まで迫ってくる可能性を。
「まさか本当に起きようとしているなんて……この予知は、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)様、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)様が協力を要請していた天文台からの情報、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)様が注意を喚起していたNASAによる解析によって、より詳しい情報が確認されていますわよ」
オリヴィアはNASAから提供された、衛星軌道上の静止画をモニターに表示する。
そこに映し出されたのは、31体のドラゴンと螺旋業竜スパイラス。
「ここへ来るまで無茶な竜業合体により、慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は殆どが失われているようですわね。残ったドラゴン達も、グラビティ・チェインの枯渇によって、戦闘力を大きく損なっている事が判明しています……しかし螺旋業竜スパイラスさえ日本へ落としてしまえば損失を補えますの」
慈愛龍は、竜業合体した惑星スパイラス……螺旋業竜スパイラスを、衛星軌道上から日本に落下させ、その衝撃で殺害する数百万数千万の人間のグラビティを略奪しようというのだ。
過酷な道のりで衰弱しきった体を癒やしきるだけの、潤沢なグラビティチェインがあると知っていたから!
「これが実現すれば、地球は……人類は一環の終わりですわよ。ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントはすでに割り出されています。グラビティチェインが枯渇し、弱体化している慈愛龍らドラゴンを撃破し、螺旋業竜スパイラスの破壊に向かいます!」
ドラゴンを迎撃する形での戦闘となるが、地球落下を阻止できる場所はひとつしかない。
「戦場までの移動は各ヘリオライダーが宇宙装備ヘリオンで、皆様を『衛星軌道上』へお連れいたしますわ。無重力状態での戦闘となりますが、ケルベロスなら死ぬことはありませんし、戦闘には支障ないかと。機動性に不安があるようでしたら、大運動会で使用するジェットパックなど、推進機をご用意してくださってもかまいませんわ。次に対するドラゴンですが」
オリヴィアはケルベロスの顔をぐるりと見回し、意を決して口にする。
「皆様の相手は――慈愛龍ギルバレム。スパイラル・ウォーで惑星スパイラスに取り残されたドラゴンの一体です」
『慈愛龍』の名が出た瞬間、場の緊迫感が高まった。
頬を強張らせるオリヴィアはギルバレムについて解説を始め、
「ギルバレムは四脚のドラゴンで、後頭部には触手を生やしています。炎、雷、氷の三属性を内包する強力なドラゴンです。吐息には全てを燃やす炎を、はばたきには何者をも凍らす氷を、そして触手には鋼鉄すら貫く雷撃の触手が」
その強大なパワーゆえに、ゲートを通ることができなかった慈愛龍ギルバレム。
全盛期であれば苦戦必至だろうが、弱体化した今なら勝機はある!
だが、やるべきことはそれだけではない。
「ギルバレムとの戦闘後、そのまま螺旋業竜スパイラスの撃破に向かってください。螺旋業竜スパイラスは、竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力はありませんわ。ですが、その巨大質量を破壊するには、作戦に参加したケルベロス達が、最大出力のグラビティで一斉攻撃しなければ頓挫させることは難しいですの」
さらに迎撃開始後『12ターン以内に慈愛龍ギルバレムを撃破できない場合は、スパイラス落下阻止の攻撃が間に合わなくなる』と予想されている。
「敗北、あるいは時間切れによって、スパイラス攻撃不参加チームが『5チーム以上』となった場合……戦力不足によりスパイラスの落下を完全に防ぐことはできませんわ。阻止するためにも、まずはギルバレムから勝利することが前提条件となります」
進退極まった末、惑星スパイラスすら取り込んでしまったドラゴン勢力。
オリヴィアの表情からも、この戦いがいかに険しいものかが見て取れる。
「慈愛龍たちもスパイラル・ウォーで門前払いされた恨みがあり、激しい戦いになることが予想されますわよ。強大かつ意志の強い敵……気を引き締めてかかりましょう」
参加者 | |
---|---|
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474) |
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) |
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423) |
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049) |
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231) |
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983) |
清水・湖満(氷雨・e25983) |
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652) |
●CounterAttack
宇宙装備のヘリオンが一斉に天へ昇る。
成層圏へ突入して空の青は次第に色濃く変わり、星々の輝きがすこしずつ姿を見せていく。
――最前線を飛翔するヘリオンはひりついた空気で満ちていた。
(「地球にスパイラスを落とすって? ……冗談じゃない、地球にはアタシの家族と仲間と大切な人がいんのよ!」)
やり場のない憤りをごまかしたくてベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)はパズルで手すさび、心配そうにウイングキャットのビーストが寄り添う。
その一方で、おっとりながら真剣な面持ちの笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)はこっそり感心していた。
(「不謹慎かもしらんが……またなんというか、ドラゴン勢は覚悟決まりすぎていて格好良いんだよなぁ」)
これから対する相手は特攻隊だ。兵站は底を尽き、援軍も望めない。
失うモノはとうに失せた窮地の強行軍。けれど、進むべき道が交わることなし。
――重力の壁を抜けて、果てしない宇宙の向こうにケルベロスは捕捉する。
書巻や数体の竜と絡み合う超巨大生物――螺旋業竜スパイラス。
それを守護するように展開する31体のドラゴンを。
ひときわ怒りの炎を滾らす、四ツ足のドラゴンを。
「来ましたか、慈愛竜ギルバレム……地球を傷つけさせはしません! 全力を以て討ち果たしましょう!」」」
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)が号令をかけ、ケルベロスは無重力空間へ。
一直線に向かってくる敵影にギルバレムが殺気を放つ。
「来たかケルベロス! 忘れたとは言わせんぞ、三年前に我らが受けた辱めを!? 総てのオンナを献上しようと赦しはしない、生きたままハラワタを喰らってやる!!」
その怒声に対し、アラームを起動するタイムキーパー役の清水・湖満(氷雨・e25983)は一言。
「はぁ……? 寝起きじみたことを仰る『色狂い』が居てはるな、頭が回らんほどお疲れなん?」
上品な和装に見合うたおやかな微笑から、痛烈な京言葉が飛び出す――訳すならば『寝言は寝て言え、色ボケ野郎』
清々しいまでの女性軽視っぷり。他の女性陣からも非難されるのは必然だ。
「長い時間かけてごくろーさま! 地球の女はトカゲなんかにかしづくほど暇じゃないって教えてあげる!」
「ジェミさんに全面的に同意です――銀天剣イリス・フルーリア、参ります!」
『女の敵』と判断したジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)の砲撃と、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)の剣戟が竜鱗を鋭く斬りつける。
ギルバレムは護りを捨て、圧倒的なパワーで蹂躙する道を選んだ。
戦略も戦術も捨てた敵のスタンスにギルボーク達も真っ向勝負をかけ、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)もイリスに続いて具現化した刀剣で抉り込む。
(「この想いが報われる事はない。それでも……君の幸福は俺が守る。どんな手を使ってでも!」)
無重力の海を舞うハルの脳裏には、命より大切に思った人――この星に住むあの人と再びまみえるため、必ず帰る!
ハルの刃に外皮を傷つけられながら、慈愛竜は大きく旋回。
「ハハッ、それほど前菜になりたくば並べ。手足から喰らってやろう」
笑い飛ばす声をそのまま轟炎のブレスに変える。
「君と、君と共に生きる星を守る! ――鐐さん!」
「ああ。明燦、前に出るぞ! さあ偉大なる慈愛竜。我々は疲れ切った貴君等を集団で襲う、正々堂々の対極だ!」
広がる炎をギルボークと鐐、ボクスドラゴンの明燦が壁となる。
真空状態のような空間だが、肌が焼けて爛れていく不快感が鐐達を蝕み始めた。
二人と一体が塞き止める背後より、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)がすり抜けていく。
(「役目は果たすさ……Shangri-Laの皆と一緒に、地球の皆のために!」)
「治療は頼むぞ、ベルベット!」
ギルボークの放つ護りの太刀、鐐の起こす爆風の鼓舞が前衛に並ぶ者とソロの前進を後押し。
此処に集う者はソロの率いる旅団に属する者が多い。それもあってか、ソロの武器を振るう手は普段以上に力が入っていた。
躍り出るソロの得物とギルバレムの触手が激しく打ち合う。
「まっかせてソロさん! ビーストも回復お願いね!」
火花を散らしている間にベルベット自身は光の蝶をイリスに、ビーストは邪気払いの風を起こして魔炎を払う。
じわじわと消耗させるブレスやはばたきなど、厭らしい異常状態付与への対策は必須と言えた。
弱体化しているとはいえ、相手はゲートを破壊しかねないほど強大な力を持ち主なのだから。
●SelfLove
ギルバレムとの接触から3分が経過。
暴走も辞さない――不退転の決意を胸に挑むケルベロスをギルバレムは嘲笑う。
その巨躯より放つ滑翔と触手での絡め捕りは、湖満達の体力を容赦なく食い潰した。
「見えるぞ、貴様らの焦りが。いい気味だな。まさに溜飲が下がるという奴よ!」
三年前のスパイラルウォーでは戦場に立たずして敗北を味わわされ……あの日から募らせる憤りを込めた触手の殴打に明燦の固定化が大きく乱れる。
「一撃が、これほど重いなんて……!」
歯噛みするギルボークの言うとおり、攻勢特化でありながら放つ一撃は精確たるもの。
さらに積極的に引き受けようと奔走するギルボーク、鐐は攻め手のハル達に比べると特に消耗が激しい。
治療に専念するベルベットの存在は文字通り『生命線』となっていた。
(「悔しいけど、弱体化してもこれだけの火力を出すなんて……けど、それでも皆の覚悟を無駄にはさせない!」)
ドラグナーの手慰みに血の繋がった家族と顔を奪われた。慈愛竜もまた怨敵を放った忌むべき者。
だが、復讐のために拳は振るわないと誓ったのだ。
仲間を守る為に役割を全力で果たす――誓いを胸にベルベットの極炎が燃え盛る!
「ギルボーク君、すぐ回復するからっ」
痺れて動きの鈍るギルボークめがけてベルベットはすかさず練気を飛ばす。
開始早々、互いに潰し合っていたが時間的猶予があるのはギルバレムのほう。
「すでにスパイラスは落下軌道の中、大人しくそこで地球の破滅する様を眺めていたらどうだ? ハッハハハハハ!!」
慈愛竜が邪悪に嗤えば四枚羽から凍える風が吹きつける。
広域に放たれる暴風ながら、狂風は容赦なく鐐達の骨身を凍てつかせ。
「ふざけたこと言わないでよね! ハルさん!」
「私が合わせよう、なんとしても守りきるぞ」
突撃するジェミの声に、寒気を振り払ったハルが同時に胸ぐらを蹴り上げた。
――鉱石じみた竜鱗に蹴り足のほうがじんじんと痛むよう。
だが強固な鎧を蹴り抜こうとジェミ達は攻撃を続ける。
「あなた、自分で思うほど言うことおもろないよ。冗談ならそれらしいユーモアがないと……ね」
湖満も攻勢を途切れさせまいと、高下駄からのスライディング・キックを見舞う。
無重力の中でもすり足の要領で挙動は最小限に、かつ軽やかさは変わらない。
「小賢しいオンナだ。口の利き方には気をつけるのだな!」
一人、中衛で動く湖満はかえって狙いやすいのか……ギルバレムは湖満めがけ無作為に触手を伸ばす。
湖満は細剣でいなし直撃を避けるも、着物の色は次第に血の色へと変わっていく。
復帰したギルボークが湖満に蒸気障壁を飛ばし、側面よりイリスが迫る。
「今なら、いけます――ソロさん!」
光の蝶がイリスの第六感に道を示した。
必中を確信してオウガメタルをガントレットに変え、イリスは殴る拳で鱗を引き剥がしにかかる。
「戦場で剥こうとは……酔狂な。だが我に働いた不遜は赦さぬと言ったぞ!」
「貴様こそ下卑た目は引っ込めろ!」
触手を振り上げる触手めがけソロの拳が突き上げた。
高速回転する勢いに数本が巻き込まれ、ちぎれ飛ぶのも構わずギルバレムは速度をあげて二人を振り払う。
立て直す隙に鐐の紙兵が戦場を飛び交い、全方位に漂う中。
「そろそろ私も攻撃に回りたいが……!」
じれる鐐の声が届いたのか、湖満の手から一発目の照明弾が撃ち出される。
真っ赤な火花は血の雨の先触れとなるか。勝利のサインと成り代わるのか。
●LoveMeDo
落下阻止限界まで残り6分。
ここから5分間、回復役のベルベット以外は攻撃へと転ずる。
「ハル!イリス!一気に行くぞ! この星でこれ以上、好き勝手はさせない!」
「そうだな。あの傲岸不遜なツラの皮、剥ぎ取るとしよう」
「ギルバレムもスパイラスも止めてみせます!」
ソロの号令に応じて両名も積極攻勢に。
動きが変化したことにギルバレムも気づき、厳つい口元をすぼめて燃えたつ吐息で壁を作る。
だが行く手を阻むほどではない。火の手を裂いて突破せしめたソロは、竜鱗の脆くなった部位に滅多斬りをかけた。
「私は……この星のために命を賭けられる。いや私だけじゃない、ここにいる全員がそうだ!」
ソロの言葉に慈愛竜は「滅び行く星と同価値か」 嘲弄の笑みを浮かべる。
「ならば共に消え失せろ!」
死角から伸びた触手を防いだ明燦とビーストの姿が消え、入れ替わるように限界まで刀剣を具現化したハルが迫る。
「今は、ただ前へ……舞い踊れ剣、そして散れ!」
剣が形作る翼がハルに絶技を、慈愛竜には焦燥の火種をもたらす。
「――天翼崩陽刃ッ!!」
荒々しい剣舞に竜の鱗鎧に亀裂が走り、その裂け目をイリスは見逃さなかった。
「この瞬間を待っていました――時空を歪めし光」
ふわ、手のひらに現れる光の弾。『漆』の魔弾・歪光。
その周囲は波紋のように揺らいで空間を歪曲している。
「汝、此れ避くるに能わず!」
時空魔弾を放ったイリスは、ハルのつけた亀裂めがけて急接近し、鱗を突き破った妖刀が刺し貫く!
「っ、ぐ……!? これしき、後でどうとでもなる!」
わずかに表情を歪めた慈愛竜だが、スパイラスさえ落とせば豊富なグラビティチェインで回復も――ある種の開き直りで激痛を抑えこみ、ギルバレムは竜翼を大きく広げる。
「この程度で我が下回ったなどと勘違いするなよ!」
「分かっているさ――我等が命のため、我等を見下したまま墜ちろ!」
どこまでも傲慢極まりないギルバレムの態度には、鐐の顔つきも熊特有の猛々しさが際立ってきた。
ベアナックルで豪快に殴りつけるとともに、鐐が縛霊手から網状の捕縛糸で強引に動きを鈍らせにかかる。その間も、他のケルベロスを守ろうとくいついてみせた。
さらにはブラックスライムを両手にまとい、ジェミが怒り心頭に発した気配を押しだし殴りこむ。
「慈愛竜みたいな上位竜とこんな人数でやりあえるなんて――って、ちょっとは思ったけどっ!」
馬上槍のごとく、細く長く伸びた黒い粘体がさらなる穿穴を作る。
……が、ジェミの怒りがその程度で収まる訳がない。
「何が『慈愛』よ、どすけべ好色ナルシストカゲぇ――――!!」
ジェミの引き締まったしなやかな身体を構成する、全筋肉をフル稼働させ、肉体をバネにした渾身の右ストレートを顔面に叩きこむ!
大気圏内ならば奥歯が折れる音が響いたことだろう、これも一発で済むと思ってはいけない。
「キ、サマァ……!! よもや我の顔を殴りつけたな!?」
「当然やろ。あれだけ女性を軽視した台詞、地球じゃ今どき耳にせぇへんくらいには時代遅れやわ」
血染の着物姿に変わってしまった湖満だが、しとやかな微笑は変わりない。
違いがあるとすれば、オウガメタルが左手を包んでいることか。
「ついでに、これ私からや。たぁんと食らいや」
――腰の入ったシャドウリッパーで湖満は反対の頬に強烈な手刀を叩きこむ。
亀裂を中心に鱗が剥がれはじめ、露出した素肌にジェミ達の全力攻撃が集中する。
傲慢、自己中心、自己愛あふれるギルバレムの辞書に『敗走』や『戦略的撤退』などという単語はあってはならないのだ。
自らを侮辱する者は存在が許し難い。即座に潰さねば気が済まないのだ。
「皆、もう少し、もう少しだよ……!」
祈るようにベルベットが花びらのオーラと声援を送る。
蓄積させてきた弱体化の効果によって、慈愛竜の力は大幅に落ち込んでいた。
ベルベット達も興奮状態で疲労感を鈍らせていたが、限界に近づいたこと身体中の痛みが否応なしに駆け巡る。
「全ての命の源たる青き星よ。一瞬で良い……私に力を貸してくれ!」
さざ波に似た蒼き光がソロを包み込んでいく。
光から創造された刃は輪廻の剣。水の星よりこぼれ落ちたひとしずくの星剣。
「滅びろ邪竜ギルバレム!」
魂送りの長剣は吸い込まれるようにギルバレムの喉元へ――。
「カ、ァ、ガァァ……ッッ」
喉を引き裂かれてなお、敗北を認めないというのか。
悪足掻きを始めた慈愛竜は無軌道に攻撃を仕掛け始める。
「なりふり構わんとは、始末に負えないな!」
サーヴァント2体が脱落し、湖満にめがけて飛来する触腕を体で止めた鐐の腹が遂に貫かれた。
……そんな中、ギルボークは心の奥でなにかに駆り立てられる衝動が芽生えていた。
(「僕が『君』を守ると言い続けてきたけれど……最後の最後、いつも僕を守ってくれたのは君の存在だった」)
だから必ず地球を守って君の元へ帰る。
僕の愛はただ一人、君のために。君の愛する全てのために――ギルボークはここに誓いを立てる。
「――勇者の名を継いで、剣を振るい続けてきた意味はここにある!」
聖天護奏剣・護の太刀【慈愛】――ひとつの誓いと心の光が、仲間を守る盾となる!
鐐の傷をかろうじて塞ぎ、ハルがヘリオンへ向けて鐐を流す。
「アァァ、ゥウア、ァァァァァアアア……ッッ!!」
ジェミと湖満が遠距離からの火力支援を行う中、ギルボークはついにわめきちらす慈愛竜と接敵する。
錯乱状態だったギルバレムの触手に脚や脇腹を抉られながらも、
「これで、終わらせる……!!」
ギルボークの持つジユーシア家相伝の刀が喉の傷を致死傷に変える。
血の泡を吹き零すギルバレムは目が飛び出すほど見開き、次第に動きが鈍くなっていく……程なくして彼の竜が動くことは二度となかった。
湖満が二発目の照明弾を放つ――10分経過のサインだ。
ギルボークもヘリオンへ向かわせると、痛む体に鞭打ってジェミ達は螺旋業竜の元へ。
「ものすごい大きさだとは思ったけど、どこまで近づけば攻撃が届くのこれ!?」
「近づけてる気がしないよ!」
ベルベットとジェミの感想はイリス達も感じていた。
あれだけの大質量ならば落下速度も体感以上だ。
他の討伐チームもスパイラスに向かう姿が増えて、ついに一斉攻撃のとき。
――ケルベロスからの一斉攻撃を受けたスパイラス各所から爆発が始まった。
砕けた破片の一部は分離しながら大気圏内へ。
流星雨ならぬ、『竜星雨』が地上へと降り注いでいく。
作者:木乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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