決戦! 螺旋業竜~死闘、阻止限界点!

作者:雷紋寺音弥

●妖星、迫る
 それは、遥か虚空の彼方より長きに渡る度を続け、地球の衛星軌道上へと現れた。
 巨大な惑星と、それを取り巻く多数の龍達。漆黒の宇宙を旅して辿り着いた先は、重力の鎖を産み出す母なる星。
「ようやく……ようやく、辿り着いたか。思えば、ここに至るまでに、実に多くの同胞を失ったものよ……」
 全身を鋼と氷で固めた龍が、静かに呟いた。彼は惑星を守る龍達の一柱ではあったが、他の龍達に比べても、どこか落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
「ドラグナーを送りこむことさえできずに隔離され、気が付けば己の身も朽ち果てようとしている……皮肉なものだがな。だが、今となっては、それも全ては些細なことよ」
 裏方で動き回るのも、もはやこれまで。ここから先は龍らしく、破壊と暴力によって事を成す。
「螺旋業竜スパイラス……止められるものなら、止めてみよ!」
 その間、せめて自分も微力ながら時間稼ぎをさせてもらおう。不敵に笑う龍の眼下には、蒼く美しい地球の姿が広がっていた。

●慈愛龍、逆襲!
「第二王女ハールの撃破と、大阪上地下の探索、お疲れさまだったな。第二王女を撃破した事で、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の危機を回避できたのは、僥倖と言えるだろう」
 大阪地下ではドラゴン勢力から、本星のドラゴン軍団が竜業合体によって地球に到達しようとしているという情報も得られている。しかし、地球に迫り来るドラゴンは、本星のドラゴンだけでは無かったのだと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、地球へ今までにない危機が迫っていることを告げた。
「サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)が警戒していた通り、スパイラスに遺されたドラゴン達が竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、地球の衛星軌道上に出現する事が予知された。黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)とエマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)が協力を要請していた天文台からの情報、そして死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が注意を喚起していたNASAによる解析によって、より詳しい情報が確認されているぞ」
 詳細な予知によれば、無茶な竜業合体により、慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は殆どが失われているようだ。残ったドラゴン達もグラビティ・チェインの枯渇によって、戦闘力を大きく損なっているようだが、何しろ元が元だけに、弱体化しているとはいえ油断の出来ない相手だ。
「慈愛龍は竜業合体した惑星スパイラス……螺旋業竜スパイラスを、衛星軌道上から日本に落下させて、その衝撃で殺害する数百万数千万の人間のグラビティを略奪する事で、失った力を取り戻そうとしている。これが実現すれば、その時点で地球は終わりだろうな」
 本来、慈愛龍は地球に現れた時点で、地球側の勢力の敗北が決定するとまで言われていた強力なドラゴン。そんなドラゴンが本来の力を取り戻してしまえば、もはや誰も止められる者はいなくなる。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントは、既に割り出しが完了している。お前達には、グラビティチェインが枯渇し、弱体化しているドラゴン勢力を撃破して、螺旋業竜スパイラスの破壊を頼みたい」
 無茶苦茶なことを言っているのは十分に承知している。それでも、ここで慈愛竜達を阻止しなければ、今までの戦いで守り抜いてきたものが全て無駄になると、クロートは鬼気迫る様子でケルベロス達に告げた。
「迎撃場所の衛星軌道上までは、俺が宇宙装備ヘリオンで移送する。無重力空間での戦闘だが、お前たちなら戦闘行動には支障はない。希望があれば、宙間移動に必要な装備は一式揃えるだけの用意もある」
 幸い、螺旋業竜スパイラスは、竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力はない。要するに、今は単なる質量弾でしかなく、ドラゴンとしての特殊能力は持っていない。
 もっとも、その巨大な質量を破壊するには、作戦に参加したケルベロス達が最大出力のグラビティで一斉攻撃して破壊する必要がある。そして、当然のことながら、螺旋業竜スパイラスの周囲には、それを阻止すべく多数のドラゴン達が集まっている。
「お前達に相手をしてもらいたいのは、『カクウ』という名のドラゴンだ。氷や鉱物を取り込んだ肉体を持っていて、ドラグナーを使った戦術に長ける。本来は、頭脳派なドラゴンだったようだからな。だが、見た目で判断して力押しに走れば、却って拙い事になるかもしれないぞ」
 カクウは自らの肉体を構築する鉱物を、ドラグナーを模した多数の兵士に変えて攻撃させる能力を持つ。それらの兵士は未知の鉱毒を注入し、こちらの体力を奪って来る。
 また、カクウ自身の吐く氷のブレスも強力な武器であり、これらの能力を駆使して攻撃力の低さを補って来る。おまけに、自らの肉体を硬質化させ、防御力を更に高めつつ肉体の損傷を修復してしまう能力も持つ。
「迎撃開始後、12分が経過した時点で、敵はこちらの阻止限界点を突破する。そうなると、もはやスパイラス落下阻止の攻撃は間に合わない。あまりに多くのチームが敗北、あるいは時間切れに陥ると、スパイラスの落下を完全に防ぐことが出来なくなるので注意してくれ」
 自ら惑星と合体して特攻を仕掛けるとは、相変わらずスケールの違い過ぎる相手。だが、阻止しなければ、地球はそこでおしまいだ。
 正に絶対絶命の状況だが、それだけに、この戦いには地球の命運が掛かっている。敵は強大であり、勝利することは難しいかもしれないが、地球が駄目になるか否かの瀬戸際、最後まで抗ってみる価値はある。
「俺は、お前達を戦場へ送り届けることしかできない。……すまないが、この地球を守るため、お前達の命を俺達に貸して欲しい」
 ケルベロス全員が力を合わせれば、スパイラスとて巨大な岩塊に過ぎない。そんなものは気合いで粉砕し、地獄の番犬が伊達ではないことを見せてやれ。
 最後に、そう言って鼓舞しつつ、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)

■リプレイ

●鋼と氷の竜
 漆黒の宇宙を静かに進む巨大な惑星。追い詰められた竜達の起死回生の策として放たれたそれは、間近で見ると想像以上に大きかった。
「これがスパイラスか……。一刻も早く食い止めねばらなんが、その前に倒すべき障害があるようだな」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が正面を見据えれば、そこには既に獰猛な牙を剥き出しにした竜の姿が。氷と鉱物でその身を成し、自らは手を下さずドラグナーを操ることで、人々の命を持て遊ぶ存在。カクウと名乗るドラゴン勢力の知将が、彼らの眼前に迫っていた。
「ふふふ……やはり来たか、ケルベロスよ……」
 力の衰えた身体でありながら、しかしカクウは笑っていた。強敵と戦える喜び? 否、違う。弱体化してもなお、自らが矮小と嘲る人間を……それも、人々の希望であるケルベロスを甚振り、殺すことに対して、至高の喜びを感じている顔だ。
「準備はいいね、ペレ。私たちだって、同じものを背負ってるんだ」
 相棒のボクスドラゴン、ペレに声を掛け、ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)は改めてカクウの方へと向き直った。
 敵は巨大で強大だ。しかし、ここで負ける理由も、負けて良いという理由もない。だからこそ、敢えて敵の雄姿に敬意を払い、全力で迎え撃とうと思っていたのだが。
「黒曜牙竜のノーフィアより、ドラゴンの勇士たるカクウへ。剣と牙の祝ふ……っ!?」
 口上を紡ぐよりも先に、カクウが全てを凍て付かせる氷の吐息を吐き出して来た。それはノーフィアだけでなく、彼女と同じく後方を守っていたビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)や、奏真・一十(無風徒行・e03433)をも巻き込んだ。
「余計な事は考えるな。まずは目先の敵からだ」
 苦言を呈するムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)。戦闘生物であるドラゴンにとって、大切なのは前口上ではなく結果である。
「ドラゴンは生命より名誉を重んじるみたいですから、言葉は要らないでしょう……。全力で行きましょう」
 同じく、若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)も、カクウと言葉を交わす必要はないと言い切った。
 戦闘生物であるドラゴンは戦いの中の名誉を重んじるが、しかしそれが、必ずしも相手への敬意へ繋がるとは限らない。
 人心を惑わすドラグナー。女性を凌辱し、その子を惨殺することでグラビティ・チェインを得ようとするオーク。憎悪と拒絶を撒き散らすためならば、無差別殺戮も厭わない竜牙兵。そして、生命への冒涜としか呼べぬ存在である屍隷兵。
 ドラゴン勢力が眷属として使役し、あるいは生み出して来た者達は、そのどれもが人間の尊厳を悉く踏み躙り、命も心も弄ぶような存在だった。彼らにとって、人間は所詮、グラビティ・チェインを得るための糧に過ぎない。そして、好敵手ではなく餌にしか過ぎない存在に、彼らが敬意など払うはずもない。
「同胞を失い為す行動が無茶な特攻とは呆れたものだ。この力は護るために。全力で止めさせていただく……!」
「ああ、止めてみせるさ。此度も必ず勝利する。何度もやってきたことだ」
 拳を構えるビーツーに続き、奏真・一十(無風徒行・e03433)もまた相棒のボクスドラゴン、サキミと共にカクウへと向かって行く。一刻も早く、目の前の竜を撃破して、スパイラスの破壊に尽力するために。
「遥々ようこそ地球への旅。片道切符のその切符、ここで破らせてもらうぜ!」
 同じく、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)もまた大鎌を振り被ると、カクウへ向かって一直線! そして、そんな彼らの背中を眺めつつ、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は身体の震えを力に変えて、しっかりと目の前の敵を瞳に収めた。
「……覚えてる。冷たい牙、真っ赤な雨、消えない疵を……。嘗て成す術もなく見上げた存在を……。ケド、揺らぎはしない。繋ぎ、掴んだ今がある」
 身体の震えは、恐怖ではなく興奮によるものだ。なにしろ、この手で己の因果を断ち切り、前へと進む機会を得られたのだから。
 漆黒の宇宙空間を背景に、激突する巨大な竜とケルベロス達。螺旋業竜スパイラス。その落下まで、残り時間は12分。

●Beyond The Hurt
 地球に迫り来るスパイラス。その巨大な影を背に戦う竜もまた、凄まじい力を持っていた。
 凍て付く吐息は全てを凍らせて粉砕し、その身に纏った鋼の鱗は、それぞれがドラグナーの姿を模した操り人形として敵を屠る。おまけに、肉体も外見通りに凄まじく堅牢で、多少の損傷も自らの肉体を構築する鉱物を使って瞬く間に再生させてしまう。
 攻防一体で隙のない要塞。多対一であってもなお、戦いを有利に運べる強敵だ。果敢に攻撃を仕掛けるケルベロス達であったが、瞬間火力よりも撹乱や防御、狙撃等に特化した布陣が災いして、なかなか致命傷を与えられない。
「どうした? 貴様達の力は、その程度か?」
 肉体の損傷など全く顧みることなく、カクウは自らの身体を隆起させ、そこから生じた金属塊を傀儡として差し向けて来る。その手に剣や槍といった様々な武器を持った兵士たちが、宇宙を駆けて襲い掛かる。
「抜かれた!? ……狙いは後ろか!!」
 攻撃を受け止めつつ、しかし自分の真横を敵の傀儡が通り過ぎて行くことで、サイガはカクウの狙いを悟った。敢えて、攻撃の要ではなく、その後方に立つ者達を狙うことで、戦列の維持さえままならぬ状態にしようということか。
「そうはさせませんよ! ……らぶりん!」
「ナ、ナノ~ッ!?」
 傀儡の手にした武器が後列に立つ者達へと迫った瞬間、めぐみが咄嗟に身を呈して刃を受け止める。その胸に抱かれたらぶりんもまた、思い切り敵の攻撃の盾にされていたが……まあ、元より身体を張って攻撃を受け止めるつもりだったので、役割としては間違っていない。
「いかん! もう、時間がないぞ!」
 腕のアラームが振動したことで、ジョルディが叫んだ。このままでは、仮にカクウを撃破したとしても、スパイラスの破壊には間に合わない。破壊に回れる戦力が減ってしまえば、その分だけ落下を阻止することが難しくなる。
「ペレ! 敵の動きを止めて!」
 ノーフィアの掛け声に合わせ、ペレがカクウ目掛けてブレスを吐いた。同じボクスドラゴンである、サキミやボクスもそれに続く。が、3つのブレスを同時に放たれても、カクウは身じろぎ一つせず、氷の吐息で迎え撃った。
「ふん……小賢しいわ! 貴様達の攻撃など、纏めてねじ伏せてくれる!!」
 氷の吐息がボクスドラゴン達のブレスを相殺し、漆黒の宇宙に氷雪の華が咲く。砕け散った氷の粒は、銀河に瞬く星雲のように広がって、戦場を薄い白色に染めて行く。
 既に瀕死の状態でありながら、それでもなお格の違いを見せつけるカクウ。しかし、ブレスこそ相殺されてしまったが、それはケルベロス達にとっても承知の上だった。
「ノーフィア嬢、めぐみ嬢、仕掛けるぞ!」
「ええ、任せて!」
「こっちも、準備完了です!」
 ジョルディの言葉に続け、ノーフィアとめぐみが氷雲の中から飛び出した。思いもよらぬ形で距離を詰められ、これにはカクウも受け身を取ることさえできなかった。
「なんだと!? 貴様達……まさか、私の吐息を利用し……ガァァッ!?」
 気が付いた時には、既にジョルディが大上段に斧を構え、そのままカクウの脳天に叩き込んでいた。それだけでなく、今度はノーフィアとめぐみが左右から同時に、手にしたハンマーで挟み込むようにして、カクウの顔面を殴打した。
「ぐぅっ! お、おのれぇ……」
 衝撃によって氷塊や金属塊が飛散し、カクウが苦悶の表情を浮かべた。やはり、究極の戦闘生物といえど、肉体を限界以上に破砕されるのには耐えられないのだろう。
「俺たちはその先に用がある。だが、全てはカクウ、お前を倒してからだ」
「なにを! こちらとて、退けぬ理由があるのは同じこと! この身がここで朽ちようとも、スパイラスさえ落とせれば、それで我等の勝利は決まる!」
 横薙ぎに払われたムギの刀を口で受け止め、カクウは喉の奥から唸るような声で叫んでいた。いったい、どうやって喋っているのかさえ分からないが、その執念の凄まじさだけは健在だ。
「さすがはドラゴンと言ったところか? だが……足元注意、だな」
 それでも、まだ奥の手は残されていると、ビーツーは周囲に浮遊する岩塊や、果ては敵の放った傀儡の残骸さえも炎で包み、それらを燃え盛る礫としてカクウへと放つ。威力そのものは、正直なところ決して高くはないのだが、それでも意識を逸らすには十分であり。
「どうやら、竜とはいえ後ろにまで目がついているわけではないようだな。背中がガラ空きではないか?」
 一瞬の隙を突いて背後に回った一十が、攻性植物をカクウの首に絡み付かせ、その自由を奪っていた。
「ぐ……ぅぅ……おのれ、姑息な真似を……」
「うるっせえぞトカゲ! コレでも食ってろ!」
 続けて、サイガが手にした鎌を、カクウの口内目掛けて放り投げる。空気の抵抗がない宇宙空間では、高速で飛翔する物体は、それだけで対象に致命的な損害を与える武器となるわけで。
「ガッ……ハァァァ……」
 高速回転しながら飛翔する大鎌は、勢いのままにカクウの口内を蹂躙し、その後頭部を貫いたのだ。
「さあ、そろそろ借りを返してやらねぇとだな」
 その瞳に氷と焔、そして鋼の牙を映しながら、キソラがカクウを見据えて言った。
「借り……だと? 貴様、我に恨みを持つ者か?」
「恨み? どうだか。ケド、いつかのオレはこれでも感謝してるってよ。喰われて得た力で今、殴れる事を!」
 恐らく、目の前の竜はキソラのことなど記憶にない。その強過ぎる力によって、地球に長期間留まれぬドラゴンは、余程のことがない限りは自ら直接手を下さない。
 故に、彼らが直々に人を屠るのは、気まぐれによる戯れが大半であり、獲物の顔など覚えていないのだ。それは、人間が今までに殺して食べて来た動物の数や、あるいはパンの枚数を覚えていないのと同じこと。
 もっとも、そんな気まぐれで運命を狂わされる者がいる以上、その怒りをぶつけないという道理はない。
「……ドウゾ、とっておきを」
 受けた傷は、疵として返す。キソラの瞳より放たれた力は、まるで刃の牢獄の如くカクウを蝕み、漆黒の闇へと溶かして消した。

●落下阻止限界点!
 螺旋業竜スパイラス。刻一刻と迫る落下阻止のタイムリミットにも臆さず、ケルベロス達は全身全霊で攻撃を集中させた。
 1つ1つは小さな火花でも、それらが合わされば星さえも穿てる。ケルベロス達の活躍により、日本を破滅させ兼ねない巨大な惑星は、木っ端微塵に砕かれて行く。
 だが、それでも完全に消滅したのは惑星の半分。残りの半分は大小様々な岩塊となり、流星と化して地球へと降り注ぎ。
「これで……終わったのでしょうか?」
「いや、まだだな。大半は大気圏との摩擦熱で燃え尽きるが……質量次第では、完全に燃え尽きずに地表へ落下するぞ!」
 めぐみの問いに、ビーツーが叫んだ。見れば、残された岩塊の中でもとりわけ巨大な塊が、地球の引力に引かれて落下を開始している。
「ちっ……! この大きさじゃ、俺が鎌をブン投げただけじゃ壊せねぇ……!」
 大鎌の柄を握り締め、サイガが唸った。カクウとの死闘に続け、螺旋業竜スパイラスを全力で破砕した後なのだ。残された力も僅かであり、このままでは岩塊を完全に破壊できないかもしれない。
 最悪、軌道を変えて海にでも落下させる他にないか。そんな、諦めにも似た考えが何人かの頭を過った時、我先に飛び出したのはムギだった。
「ぬぉぉぉぉ! 舐めるなぁぁぁ! こんな石ころ如き、俺の筋肉で押し返してくれる!!」
 なんと、自身の何十倍もの大きさを誇る岩塊に取り付き、そのまま力だけで押し留めようとしているではないか!
「む、無茶苦茶だよ! あのまま一緒に落っこちたら、それこそ無事じゃ済まないよ!?」
 あまりに無謀なムギの行動に、ノーフィアが半ば呆れた様子で叫んでいた。
 ケルベロスは、グラビティ以外ではダメージを受けない。が、しかし、隕石と一緒に大気圏を突き抜けて落下などすれば、その身体が受ける痛みと苦しみは想像を絶する。
 下手をすれば、あまりの苦痛から精神が先に崩壊してしまうかもしれない。しかし、そんなデメリットなど元ともせずに、他の者達も次々と岩塊へ取り付いて行く。
「一人だけで、カッコイイ真似はさせないってね!」
「どうせ片道切符なら、最後まで付き合うのが当たり前だろ?」
 キソラとサイガが、ニヤリと笑った。それを見ためぐみが、らぶりんを引き連れて岩塊へ向かえば、それに触発されてノーフィアもまた覚悟を決め。
「地球壊滅とかにならないよう、もう一頑張り……いや、ここからが本番ですね。頑張りましょう」
「うん、そうだね。……行くよ、ペレ!」
 ボクスドラゴンのペレも加わり、彼女達もまた岩塊を押し留めて行く。それだけでなく、一十もビーツーも、自らの相棒と共に岩塊の勢いを殺すべく奔走し。
「たまには、こんな無茶も悪くないな、サキミ?」
「耐えろ、ボクスよ! ここが正念場だ!」
 それぞれ、持てる力の全てを使って岩塊にぶつかって行く中、最後に飛翔したのはジョルディだった。
「超絶変形武機一体! 飛行形態『フライヤー・フォーム』! 受けよ! 全てを貫く超必殺! ジョルディィィ……スゥトラァァァァイク!!」
 武器と変形合体し、飛行形態となったまま、グラビティエネルギーを纏いながら岩塊目掛けて特攻して行く。目指すは、岩塊の中央にある巨大な亀裂。あの中に飛び込んで、内部から全ての火器で攻撃すれば、大気圏で燃え尽きるサイズにまで岩塊を破砕できるはず。
「ぬぅ……俺は……俺は、絶対に死なんぞ!」
 大気圏の熱によって装甲が溶解しながらも、ジョルディは岩塊の亀裂に突っ込み、躊躇いもなく零距離射撃! 瞬間、岩塊はついに限界を迎え、今度こそ粉々に破壊された。
「……やった!?」
「ああ、今度こそ……な」
 流星となって散って行く岩塊の中、こちらへ向かって来る飛翔体を確認し、ノーフィアとビーツーが胸を撫で下ろす。満身創痍になりながらも、爆発の光の中から現れたのは、飛行形態となったジョルディの姿であり。
「まったく……大したやつだ」
「でも、あの人なら無事に成功させられると思いましたよ……なんとなく、ですけど」
 ムギの隣で、らぶりんを肩に乗せためぐみが苦笑する。かくして、螺旋業竜スパイラスは宇宙の塵と化し、日本の破滅はケルベロス達の活躍によって免れたのだった。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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