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地球の衛星軌道に虹がかかる。
地上から空を観測する者が仮にいれば、さぞ美しい光景を見られたことだろう。
しかし、やがてある事実に観測手は気付き、恐怖するのだ。
虹の発生源が、莫大な力を内に秘めた龍であると。
「この俺様をあんな星に隔離するとは、舐めた真似をしてくれるじゃあないか、人間!」
宝石龍の異名を冠するラルク・アン・シエルは、激情と共に口を開く。
しかしその怒気の中には、どこか児戯が。これから巻き起こるだろう盛大な宴に心を躍らせているかのようにさえ感じた。
彼の移り気を証明するように、激情はどこへやら、いつの間にか宝石龍は子供のように澄んだ瞳で美しい蒼き星を睥睨していた。
同時に瞳に映るのは、彼の友ら。そして、スパイラス全てを竜業合体によって飲み込んだ『螺旋業竜スパイラス』だ。慈愛龍率いるドラゴン軍の精鋭は、この螺旋業竜スパイラスを利用し、生きたまま日本への落下軌道へ乗ろうとしている。
「この蒼き星に終末を齎さん! 喪った俺様の尊き力も返してもらうぞ!」
竜業合体とケルベロスとの死闘で数えきれない友の命は失われ、ゲートも破壊された。
激しく消耗した身にも関わらず、口から零れるは自信に満ち満ちた言葉。
これまでの戦争の経過ががどれだけ順調であろうとも、決して忘れてはならない事がある。それは宝石龍・ラルク・アン・シエル達は、最強たる龍種である事だ。少なくとも宝石龍は、誰が相手であろうとも、為すべきことを為せると信じて疑わない。
宝石龍は高笑いを上げ、友のドラゴンらと共に、螺旋業竜スパイラスを地球に直撃させるべく動く。
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「第二王女ハールの撃破及び大阪地下の探索、お疲れ様でした! 勝利と無事の帰還をお祝い出来、わたしも非常に嬉しく思います!」
山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、満面の笑顔でケルベロス達を迎え入れる。第二王女の撃破は、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の回避という、大きな戦略的功績を齎してくれるだろう。
「ただ、大阪地下からは、ドラゴン勢力の動向について、新たな情報が入っております。何でも、本星のドラゴン軍団が、竜業合体によって地球へ到達しようとしているそうでして……」
恐ろしい情報だ。そしてさらに厄介な事に――。
「地球へと迫り来るドラゴンの勢力は、どうやら本星からのものだけではない事が判明したのです。これは、警戒してくれていたサリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)さんから齎された精度の高い情報です。スパイラスに遺されていたドラゴン達が、竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、地球の衛星軌道上に出現する……と」
そして、予知が下った。
「予知に関しては、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)さん、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)さんの両名が協力を要請していた天文台からの情報に加え、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)さんが注意を喚起していたNASAによる解析によって、さらに詳しい実態が確認されています」
総合すると、慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は、無茶を伴なう竜業合体によってそのほとんどの勢力が失われている。残存するドラゴンも、グラビティ・チェインの枯渇によって、戦闘力を大きく損なっているようだ。
「ですが慈愛龍は、竜業合体した惑星スパイラス――螺旋業竜スパイラスを衛星軌道上から我々のいる日本に落下させ、その絶大なる衝撃力をもって遍く人々の命を刈り取り、グラビティの略奪を目論んでいます。…………成功させる訳にはいきません! 実現すれば、正真正銘の終わりがやってきます!!」
協力者達の活躍もあり、ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントは既に割り出されている。
成すべき事は決まっている。
弱体化している慈愛龍らドラゴンの撃破。
そして、螺旋業竜スパイラスの破壊だ!
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「ドラゴンについての詳細に話題を移す前に、迎撃地点の説明をしておきましょう。迎撃地点は、衛星軌道上です。宇宙装備ヘリオンで、わたし達が皆さんを送り届けます」
戦場は無重力空間となる。が、ケルベロスの戦闘に支障はないだろう。必要を感じれば、ジェットパッカーなどの移動用装備を持参する事も可能だ。
「さて、次はいよいよドラゴンに関してですね。皆さんに担当して頂くドラゴンの名は、『ラルク・アン・シエル』。全身に様々な種類の宝石を取り込み、強靭な肉体を構成しているようです。特に巨大な背びれと尻尾の先には夥しい数の宝物類が確認でき、まるで宝物庫のようです。虹のように煌びやかかつ、タフで頑強さを感じさせる見た目をしておりますね。そして一点。ラルク・アン・シエルは、ドラゴンを名乗るに相応しく、弱体化してなお強力な戦闘能力を有しますが、特にブレスを用いた攻撃にはお気をつけください!」
宝石龍が最も得意とし、自信を持つ攻撃方法のようだ。
「最後に、螺旋業竜スパイラスについて。螺旋業竜スパイラスは、竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力はありません。ですが、その巨大な質量を破壊するには、作戦に参加した全てのケルベロスにより、最大出力のグラビティを一斉に叩き込む必要があります」
だが、破壊するためには時間との戦いも覚悟してもらわなければならない。与えられた猶予は12ターン。その時間内に宝石龍を撃破できなければ、スパイラス落下阻止の攻撃には間に合わなくなる。
「敗北か時間切れでスパイラス攻撃に加われないチームが5チーム以上となった場合、戦力不足によりスパイラスの落下を完全に防ぐことは……困難です」
その場合、どのような被害が地上を襲うか、想像もできない。
「――それにしても、まさか惑星スパイラスと竜業合体を行うなんて……!」
桔梗が、信じられないと天を仰ぐ。その仰ぎ見た先に、彼らはいる。
「文字通り、地球の命運が皆さんの双肩にかかっています! 宝石龍らの力は、悔しいですが我々からすれば今なお強大。苦戦は必至ですが、なんとか、なんとか螺旋業竜スパイラスの破壊を!!」
参加者 | |
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エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557) |
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161) |
ミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083) |
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921) |
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455) |
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360) |
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(「地球の命運が私たちにかかってる。……ご先祖様も、こういう気持ちだったのかな?」)
衛星軌道上にて、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は多くの命が懸命に生きる地球を見下ろし、その美しさに自然と笑顔を浮かべていた。必ずあそこへ帰るという、希望に満ちた決意を固めながら。
「支援組織から調達した機材は大丈夫そうね。後は、時計合わせをしておきましょうか。現時刻は――」
安全区域に離脱する宇宙装備ヘリオンを見届けながら、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が時刻を口にする。
「…………問題ない」
「んっ、こっちも大丈夫なんだよ~、義姉さん」
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)が平坦な声色で応じ、エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)はチーズケーキを頬張りながら、指先でマル印を形作る。
「これで打ち合わせも万全だと思うです。準備完了ですね!」
「さて、なら俺達も出撃といくか。遅れる訳にはいかないからな」
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)ら全員がハンドサインやライトの色等の共有を終えた頃、ミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213)が周囲をみやる。到着した他の宇宙装備ヘリオンからも、順次ケルベロス達が出撃を始めていた。
「そうですね。では、行きましょうか。デウスエクスの元へ」
仲間へは柔らかな物腰の為か、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が口にした『デウスエクス』という単語に込められた冷たい感情が際立つ。
(「とはいえ、強さも、在り方においても、ドラゴンが別格であるという事は私もよく知る所ではありますが……」)
無線で言葉を交わし、ジェットパッカー等を利用して、暗黒の宇宙空間を出来うる限りの速度で移動しながら、エステルはスノーエルの横顔を伺い見る。彼女が普段のほわほわとした表情を決意で覆い隠し、見据える先には、
「いたね、あそこだ。さすがに強そうじゃないか! もう戦う機会はないと思っていただけに、ね……!」
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が、隠しきれない高揚と共に口端を釣り上げ、強敵との邂逅を告げた。
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「……うむ、竜業合体とやらの影響もあるのだろうが……並々ならぬ怨念、業を感じる……」
ドラゴン本体が発するものだけでない。贄となったドラゴンや惑星スパイラスらのそれも内部で渦巻いているのだろうと、イミナは感じ取る。
他のケルベロス部隊も、標的のドラゴンへと強襲を仕掛けていく中。
「驚いた。こんな所にまで遙々現れるとはな、人間。俺様達のやる事を余程恐れていると見える」
彗星の如く現れたケルベロスに一瞬だけ驚く素振りを見せつつも、宝石竜・ラルク・アン・シエルは余裕の笑みでもって、ケルベロス達を迎え入れる。限界まで消耗した己をおくびにも出さず。
「あなたは私のことを知らないだろうけど、私はあなたのことを知っている。悪いけど、あなたの思い通りにさせるつもりなんて、これっぽっちもないんだよ!」
宇宙の端々で閃光が瞬き、戦端が開かれる中、スノーエル達もまた宝石竜と雌雄を決するべく、猛然と迫る。
「口だけではないといいのだがな!」
手始めとばかりに宝石竜が巨体から繰り出す攻撃により、盾となった蝕影鬼が吹き飛ばされた。
(「まるで、星空のようです。宝石竜の異名に偽りなし、なのですね!」)
しかし、ケルベロスは怯まない。
宝石竜が纏う様々な宝玉と神秘の輝きに真理は瞳を奪われかけるが、生憎と彼女はもっと美しい宝石を知っている。ゆえにその煌めきと重力を宿した蹴りに一切の緩みはなし!
しかし、それ以上に宝石竜の反応は早かった。
続けざまにアウレリアが黒鉄の拳銃から目にも止まらぬ弾丸を放つが、そちらも躱される。
炎を纏うプライド・ワンが、ようやく初撃を命中させた。
「エヴァ!」
「了解だよっ! ……それと、遙々来たっていうのはこっちの台詞だと思うなぁ。惑星スパイラスの件だって、そっちが勝手に自滅しただけだと思うんだよ」
サインを受けたエヴァリーナが、阿吽の呼吸で即座に前衛に対してオウガ粒子を放出させた。
「……エヴァリーナの言う通りだな。……逆恨みというやつか。……ならば諸共、呪詛返ししてやるまで」
イミナが、オウガ粒子を重ねて散布する。
「宇宙の藻屑となるのはどちらか、楽しませてもらうよ!」
「なら、俺も混ぜてもらおうか。龍殺しは剣士の誉ってな。懐かしい気分なんだ、今だけはな!」
――斬る。幻の火力に特化した太刀が、赤き軌跡を宙に名残として残して閃くと、
「狐月三刀流奥義、待宵!――この二撃、見切れるか!」
ミツキが浮遊させた符を足場に、影の如く連携して宝石竜の懐に瞬時に飛び込み、刀型に改造した武装にて疾風の如き二段突きを放った。
「気が合うようだね」「お前こそ。そういう所はオウガらしいんだな」幻とミツキは互いに剣を通じて会話を交わす。
「なるほど、友らが遅れを取るだけはあるようだ、人間」
しかして受ける側の宝石竜は、悠然さを崩さない。
「ミツキさんの攻撃が命中した事実は、私達に流れがある証拠です! ――宝石竜、すぐに貴様の足腰を役に立たないようにしてやるから、覚悟しておけ!」
エステルがドラゴニックハンマーから竜砲弾を放ち、高精度な狙いで命中させる。
「あなたが立ち向かっているのが誰なのか、改めて見せつけちゃうんだよ?……さぁここに、おいでっ!」
スノーエルの偽りが、ボクスドラゴンであるマシュの姿も借りて、強大な咆哮となって宇宙に木霊した。
まずは、格上のドラゴンから機動力を奪い取る算段。
「行くわよ、アルベルト」
アウレリアが内蔵モーターを猛回転させ宝石竜へと突き立て、アルベルトが金縛りを仕掛ける。
「あら? ……この感触は……!」
だが、ふいに違和感がアウレリアを襲う。手応えが、あまりにも硬すぎた。
「――遊びは終わりだ、人間。戦場において、俺様達ドラゴンこそが主役であると知れ!」
どこか児戯を交えて宣言する宝石竜の巨体は、宝石の連なりでより強固に。刻んだはずの傷も、いくつか癒されていた。
「ヒールされたのなら、それ以上に攻撃を叩き込むまでなのです!」
すかさず真理が、捕食形態に変型させた攻性捕食を嗾け、毒を注入する。
エヴァリーナが中衛の二人の攻撃精度を助力し、幻の渾身の溜め斬りは僅かだけ逸れて宝石竜を捉えられない。
「私の痛みを思い知れ!」
エステルが、思わず眼を背けたくなる暗黒のエネルギー光球をぶつけ、ヒールを阻害する。
「……ふむ、どうやらあの龍は、メディックではないようだ。……朗報……という訳ではないが……祟りやすいようで何よりだ」
イミナが微かにではあるが、ニタリと嗤う。
(「……祟った傍から呪いを解除され……その上で何度も何度も祟ってやるのも悪くはない。……が、今は時間もない事だ。……存分に呪いを背負わせてやろう」)
……見えるか、ワタシの貌を――イミナの美貌が、呪いとなって宝石竜を縛り付ける。
マシュがタックルで、宝石竜の守りを崩す。
「ナイスだよっ、マシュちゃん!」
そこへ、スノーエルが星型のオーラを蹴り込んだ。
蝕影鬼が、心霊現象を巻き起こす。
ミツキが氷結輪を射出し、敵を切り裂いた部位から凍てつかせた。
「時間がない以上、ここからどれだけあいつを氷漬けにできるかだが……簡単じゃねぇな、こりゃ」
呟くミツキの眼前で、宝石竜はブレスの構えを取っていた。
「思い知るが良い、人間!」
遍く力を吸収されそうな、背筋が凍り付くような気配。前衛に向けて放たれたそれは、攻撃に本領を置く者に相応しい威力で、全てを結晶に変えていく。
「う゛っ……ぐぁあああ!!」
「………………これが奴の業か」
生命力を直接奪われた真理の膝がガクガクと震え、イミナの白蝋のような肌が青白さを増す。
しかし驚異的な暴力にもケルベロス達は屈さず、その後も打ち合わせた戦術に従って不退転の覚悟で攻め続けた。
「みんなー、報告だよ~!」
その時、エヴァリーナが、12分の内、半分が経過した事をライトで報せた。
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「サンキューな!」
ミツキが感謝を告げる。彼に対し、無数の宝玉の輝きを発し、猛烈な勢いで襲い来る宝石竜の単体攻撃が襲い掛かった。
「……蝕影鬼、後の呪いはワタシに任せろ」
それを庇った蝕影鬼が消失し、イミナが小さく呟いた。
「フハハハハハハッ! まずは一体! 貴様らも消耗が激しく映るぞ?」
「黙っていろ! やせ我慢をしているのは貴様の方だろう!」
高笑いを弾けさせる宝石竜に、瞳を鋭く細めたエステルがアイスエイジインパクトを叩き込む。彼女の言通り、宝石竜の回避率は著しく低下していた。
「もう避けられないですか!?」
真理の改造チェーンソー剣が、強固であった宝石竜の外殻を削り取る。
「あなたの宝石は確かに美しいわ。だけど、私達はあなたのそれよりも遥かに美しく貴重な宝石を背負って此処にいるわ」
「どれだけ痛めつけられようと、私達はここを引きはしないよ。特に私はね。ここで負けて死ぬならそれで本望。だけど、その気はまったくないけどね!」
アウレリアが振るうジグザグの刃が、既にエンチャントを失った宝石竜を抉る。
雷を纏った幻の竜牙が高速で乱舞し、宝石竜を麻痺させる。
「――俺様とて龍の未来を背負う一翼。そのためにも、俺様は最強にして究極でなければならんのだ!」
宝石竜が、幾度目かの水晶化ブレスで薙ぎ払う。
「……よくやってくれたわ、アルベルト」
衰えの一切見えぬその一撃に、威力を抑えてなおアルベルトが沈み、アウレリアは間一髪回避して難を逃れた。
「ぐっ……強烈なのですね! でも、まだです!」
真理の結晶化した背中の一部が、ボロボロと崩れていく。
「兄さっ――10分経過だよー!!」
ただいまと言うため、そしてお帰りと言ってくれる人達を守るため、アラームの振動を確認したエヴァリーナが、ライトの点滅させつつ、ウィッチオペレーションで真理を癒す。
だが宝石竜も回復を兼ねたブレスとエレメンタルクラッシュで猛攻を。全員を安全な状態に保つ事は不可能に近い。
「あと少し! 奴を倒して、みんな一緒に無事に帰る! 一気に攻めましょう!!」
エステルが仲間の気勢を上げる。
「さぁ、総攻撃だよ!」
傷だらけの身体ながら、幻がそうとは感じさせない軽い口調で促した。
「地球をデウスエクスの手から守ろうとしたその末裔として、オラトリオの私はあなたの行いを絶対に見逃さない! あなたたちの願いは決して叶わないと知るんだよ!」
最早、回復に手数をかけている暇はない。スノーエルが時空凍結弾を、マシュがブレスを放射する。
「…ワタシの呪いを宇宙に刻もう。祟る祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ…!」
ケルベロスから攻撃を受ける度に、宝石竜はほぼ毎回、複数の氷によって苛まれている。ヌラリと接近したイミナが打ち込む杭と呪術は、アドレナリンによって忘れさせていた痛みを宝石竜に思い出させるかのように執拗だ。
(「あそこには、大切なものがあるんだよっ! 守るために攻める! 龍殺し、果たさせてもらうぜ!!」)
宇宙では、チェーンソー剣の爆音は響かない。しかしその威力に陰りはなく、ミツキは宝石竜を切り裂き、いくつかの宝玉が宇宙空間に散った。
「諦めぬ。俺様は友らのように往生際は良くはないぞ! 勝利を! 最強の名の元に、友のために、そして何より、俺様のためにな!」
積み重なったバッドステータスにより崩壊寸前となりながら、宝石竜が戦線維持のためにヒールの準備をするエヴァリーナを狙い打つ。
「っっ……!」
Dfが間に合わず、一気に体力を削られながらも、エヴァリーナは耐え忍ぶ。
その間もケルベロス達は最後の猛攻を仕掛け、宝石竜は水晶化ブレスで真理を戦闘不能に追い込んだ。プライド・ワンが赤いヘッドライトで怒りを表現しながら突撃する。
「その意気や良し、だよ。ここまで来たら、互いに後は根性だ!」
幻の神速の抜刀術が、宝石竜の尻尾を斬り捨てた。
――12分。
イミナがフラつき、幻が膝をつく。しかしその表情は、未だに祟りへの執着と好戦的な色に満ち溢れている。
エヴァリーナの肉食獣の霊気を宿した拳が、エステルのエース530DMRから放った凍結光線が、ミツキが獣撃拳を叩き込み、宝石竜を終末へと追い込む。
「地球にいる大切な人達や、ご先祖様に情けない姿は見せられないんだよ! 私はあなたを倒して帰る! だって私は、一人じゃないから!」
「――――」
誰かのための強さ。スノーエルの一喝と覚悟に、さしもの宝石竜が気圧された。星型のオーラを込めた蹴りを受け、巨体が力なく落下を始める。
「地球という宇宙の青き宝石と其処に生きる全てを守る為……此処で、果てなき闇へと沈めてあげる」
落下する宝石竜の核目掛け、アウレリアがスパイラルアームでの一撃で追撃をかける。そして最後の虹を描く宝石竜の息の根を止めた。
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それは宝石竜・ラルク・アン・シエル撃破直後。
重症を免れた真理に成功を誓い、それぞれの部隊ごとに宇宙空間で散開しつつ、ケルベロス達は一斉掃射の準備をしていた。
「みんな一緒に無事に帰る。みんなが待ってる場所へ!」
スノーエルが笑顔で口にし、誰もが抱いていた願いをかなえるための時が。
「もちろんです、スノーエルさん! このエステルにお任せあれ、です!」
「何としてもスパイラスを止めなきゃなんねぇな。俺たちの星に手出しさせるものか! 狐月三刀流、ミツキ・キサラギ。参る!」
「……宇宙のみならず、惑星と化した龍を祟るか。……相手にとって不足なし。……絶対に祟りきってみせよう」
「同意だね。強者であるドラゴンに続いての巨大な相手。最後まで楽しませてくれる!」
「お仕事の後はお家に帰ってお腹一杯になりたいし、そのお家がなくなっちゃうのは困るよねー、アウレリア義姉さん?」
「ええそうね、エヴァ。ご馳走を期待してくれていいわよ。そのためにも、邪魔なアレを片付けておきましょう」
一瞬の静寂の後。
タイミングを合わせ、全ケルベロスが螺旋業竜スパイラスへ一斉攻撃を敢行!
幻影が唸り、斬撃が迸り、美貌が呪い、弾丸が打ち込まれる。
多種多様のグラビティが、宇宙を地球の守り手の強い想いで染め上げた。
やがて――螺旋業竜スパイラスの各所で爆発が起こり、分離しながら大気圏へと墜ちていく。
「……やった、ですね……!」
「君の力もあってこそだよ」
幻が、怪力を駆使して真理を抱える。
そして、地球に影響を及ぼしかねない大きな破片を粉砕しつつ、ケルベロス達は回収に来てくれたヘリオンに乗り込むのであった。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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