●宵闇の翼
此処は地球の衛星軌道である。その軌道から大きな塊が見えていた。
螺旋業竜スパイラスだ。その大きさは30km程にもなり、もはや『巨大』という言葉が妥当であるかも判らない。
そして、更に数十体の竜が出現していく。スパイラスよりは小さいが、比較対象が間違っているだけかもしれない。ドラゴンについて間近で対面した事があるケルベロスであると、その小さなドラゴンも、かなりの大型であるという事がわかるだろう。
ドラゴンの衛星軌道の先、つまりこのまま墜ちた先は日本だ。
「ケルベロスの首。さて、幾つ並ぶ事かな……」
その中の1体のドラゴンが、そう呟いた。良く見なければこの宇宙空間では、姿を確認する事も容易では無いだろう。漆黒の体には、時折無数の宵闇色の文様が時々姿を現しているが、その闇の体は、光を跳ね返す事無く吸収する為だ。
そのドラゴンは『コル・ディコル』と呼ばれていた。
●宇宙へ
「さて皆、第二王女ハールの撃破と、大阪上地下の探索お疲れさんやったで!
ハールも撃破できたし、エインヘリアルと攻性植物の同時侵攻も回避できたし、言う事なしやな!」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)はそう言って、先の戦いを手放しで喜んだ。
「で、その大阪地下でや、ドラゴン勢力から情報が手に入った。どうやら、本星のドラゴン軍団が竜業合体によって地球に到達しようとしてるらしい」
ドラゴンか……。ケルベロスの一人がそう呟く。ただ、絹の言う情報は、実はそこで終わりではなかった。
「うんまあ、ドラゴンはドラゴンやねんけどな。その情報とは別で予知することが出来た情報があるねん。サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)ちゃんが警戒してたんやけど、惑星スパイラスって知っとるかな? そう、螺旋忍軍のやつやな。んで、前スパイラルウォーで、その召喚を阻止したわけや。実はそこに遺されたドラゴン達が竜業合体によって惑星スパイラスと合体して、地球の衛星軌道上に出現する事が予知できたんよ……」
驚くケルベロス達。どうやらすっかりと忘れてしまっていたケルベロスもいるようだが、絹はかまわず説明を続ける。
「この予知は、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)ちゃん、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)ちゃんが協力を要請してた天文台からの情報、それと、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)ちゃんも注意を喚起してたNASAの解析で、より詳しい情報が確認されたで。
その詳細な予知によったらや、無茶な竜業合体から、慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は殆どが失われてるみたいでな、残ったドラゴン達も、グラビティ・チェインの枯渇によって、戦闘力を大きく損なっている事が判明してるんやけど、慈愛龍は、竜業合体した惑星スパイラス……螺旋業竜スパイラスを、衛星軌道上から日本に落下させて、その衝撃で殺害する数百万数千万の人間のグラビティを略奪する事で、失った力を取り戻そうとるらしい。
これが実現したら、ほんまに地球は終わってしまうで……」
絹は手に持ったタブレット端末の情報を確りとケルベロスに伝える。当初は作戦の内容が大きすぎて、よく分からないかもしれなかった。ただ、時間をかけて飲み込むことで、これはとんでもない作戦であることが、理解できた。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントはもう分かっとる。当然、止めるで。
皆には、グラビティチェインが枯渇して弱体化している慈愛龍とかのドラゴンを撃破して、そいで螺旋業竜スパイラスの破壊を頼む」
絹の顔には、いつになく真剣な表情が浮かんでいた。ごくりと唾を飲み込むケルベロス達。少しの時間を置き絹が詳細を説明し始める。
「まず、1チームごとに、スパイラス以外のドラゴンを1体受け持つ。うちらは、『コル・ディコル』っちゅうドラゴンが担当や。うちが其処まで宇宙装備のヘリオンで、衛星軌道上まで運ぶから、其処で迎撃をお願いしたい」
絹の話では、無重力空間での戦闘となるが、ケルベロスの戦いには支障がないという事だ。
「この『コル・ディコル』やねんけど、暗殺のような攻撃が主体や。大型のドラゴンの癖に、その暗闇に紛れて攻撃をしてくるで。太陽の光があるだろうって? いや、どうやらその光も反射せえへんから、基本黒いんや……。そんで、特に恐ろしいのがその暗闇からの爪になる。気を抜くと一気に急所を持っていかれるから、ほんま気をつけてな。
せやから、攻撃を当てるための工夫を考えんといかん。良く見ればネオンみたいに光る文様があるから、確りとそれを狙うことや。
他の攻撃は闇のブレス。これもキツイ。喰らってしもたら、こっちの動きが制限されていくからな。それに尻尾の攻撃も……。と、注意だらけやけど、基本的に後手に回らん事をオススメするで。ドンドンこっちが不利になっていくからな」
ドラゴンと言えば、その巨大な力だ。しかしこのドラゴンは、じわりと忍び確実に葬ってくるとの情報だった。作戦は必要であろうという事は間違いなさそうだ。
「あと、もう一つ注意点がある。今回の目的はそれだけやない。そう、スパイラスや。スパイラスは、竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力はないんやけど、その馬鹿でかい質量を破壊するには、他のチームもあわせて、最大出力のグラビティで一斉攻撃して破壊する必要があるねん。
で、その制限時間が12分や」
少しぽかんとするケルベロス達。担当した1体のドラゴンを撃破するのに加えて、時間制限まであるという事実が、ケルベロス達の思考を支配する。
「まあ、無茶を言ってるのは分かる。でも、やってほしい。
敗北とか時間切れで、5チーム以上がその破壊に加われへんかったら、完全に落下を食い止められへんのや……。せやから、それだけは良う頭にいれといてな」
ざわつくケルベロス達。しかし、この作戦が成功しなければ、スパイラスは日本に落下し、甚大なる被害が発生する事になる。
「ええか。さっきも言うたけど、ホンマに無茶苦茶な情況や。でも、やらなアカン。やり遂げてもらわなアカンのや! せやから、いつも以上の気合で、頼むで!」
参加者 | |
---|---|
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
エヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365) |
●闇からの爪
「ここに居る……のか?」
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、宇宙空間をクルクルと見渡しながら、そう呟いた。
ケルベロス達は、絹のヘリオンから降りた後、様子を窺っていた。
「絹様は確かに、このあたりやで。確りな。とおっしゃっておられました。間違い御座いませんでしょう」
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)のバケツヘルムからは、地獄の炎がチロリと揺れている。ケルベロスたちの目の前には宇宙空間。そして、巨大なドラゴン『螺旋業竜スパイラス』の体の一部が視界に入っている。背後には地球。ケルベロス達は、地球の衛星軌道にいるのだ。
少し遠くからは、別の班の戦闘が始まったのだろうか、グラビティの光と禍々しいブレスが見えた。
「エヴァンジェリン殿、万殿。既に戦闘は開始されていると見て良いでしょう。アラームを……」
「そうね。……そちら、任せるわ。アタシはこっちを」
少しだけ、ふうっと息を吐いたエヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968)は、翼を広げるレフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)に背中を任せて前方をくまなく見た。彼女の手にはカラーボールが準備されてあった。
絹の情報では、コル・ディコルは視認するのが困難な敵であるという事だった。暗闇に紛れ、こちらの隙を付いてくるはずだ。ならば、こちらの見えるものをぶつければいい。
「じゃあ、俺は下か? まずは……相手を確認しねえとなぁ」
伏見・万(万獣の檻・e02075)は彼等の足元から下に配置を取った。無重力空間であるが故に、どこから攻撃を仕掛けてくるかが判らない。警戒するに越した事はない。
「……アレはー。やはりー」
そして、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が何かを見つける。そして彼女の額のサークレットが展開していく。
「スパイラスのちょっと上! 来るよ!!」
その時、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が力の限り叫び、即座に動いた。
「え!?」
エヴァンジェリンは完全に虚を付かれることになる。巨大な殺気がいきなり自分に向けられたと思うと、目の前にキラリとしたネオンがよぎったからだ。
「させない、よ!」
咄嗟に身体を投げ出すシルディ。防御を固めた彼には、その刃が『見えている』
だが、瞬く間に肩をばっさりと切られる感覚が、彼を襲った。
「あっ……!?」
そして遅れてくる激しい痛みと、宇宙空間を舞う鮮血。
「速い……」
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)がシルディを中心とした前衛に、即座にヒールドローンを張り巡らせる。
「流石はドラゴンといった所でしょうか」
レフィナードは、シルディの傷口を見て、マインドリングから光の盾を施す。
「だい……じょうぶ。だよ。……皆! 次は右から来るよ!」
シルディの傷はかなり深かった。防御を固めた装備と、其処への専念により、ダメージを抑える事は出来たが、さもなくば一撃でという事もあり得た。
「……見える?」
「うん……かろうじて」
シルディは無月にそう答えた。それは彼がドワーフという種族である証拠だった。暗闇でも少しの光であれば、何でも見通せるのだ。ただ、少しいつもと違う感覚ではあった。
「おかしいくらい黒いドラゴンの影だけ……だけどね」
コル・ディコルは光そのものを反射しなかった。しかしそれは逆に、ドワーフである彼には、影絵のように見えるのだ。
「でも、速いね……。皆、よく狙って!」
まだ完全に癒しきれていない肩を抑えながら、シルディは叫ぶ。それに呼応するように、エヴァンジェリンと万が、チラリと見えるネオンの光に狙い澄ませ、グラビティを打ち込む。だが、それは空を切る。
「ちっ……。見えねえ上に、はええってか……」
万はスキットルに手を伸ばそうとして、それを懐に押し込んだ。
「ここか!」
泰地が精神を集中させ、爆破を図る。だが、手ごたえがない。
「後衛の泰地様でも……と言う事は、こちらの力を上昇させるしかありませんね」
ラーヴァは情況を把握し、後衛のフラッタリー、泰地、レフィナードに、オウガ粒子を展開する。この光り輝く粒子は、超感覚を覚醒させる。そして、ラーヴァはその効果を幾重にも張り巡らせた。
その時、フラッタリーが狂気の表情を浮かべて、ドラゴニックハンマー『曼荼羅大灯籠』に地獄の炎を纏わせ、竜砲弾を打ち放った。
ドゴッ!!
明らかなる手ごたえだ。フラッタリーは軌道衛星に辿りつくまでに宇宙の星を観察し把握ていたのだ。そしてその光の見えない箇所、即ち光の遮られている箇所が、敵の居場所と見抜いたのだ。それはまさしく突破口といえる一撃だった。
すると、その暗闇にネオンのような光がすっと点滅し、其処から声が聞えてきた。
「首切りディコル。コル・ディコル……。今日は、幾つ並べようか……」
●託すこと
ケルベロスたちの初手は、敵の動き把握することに特化した。まずシルディが目標の位置を抑え、数々の支援を受けたフラッタリーと泰地が、その動きを徐々に弱めるグラビティを叩き込んだのだ。
そして、ラーヴァが宇宙空間でも消えない地獄の炎を着弾させた。
「グガガ……中々にやるものだな……」
コル・ディコルは、身体に付着した炎を一瞥し、それだけ言った。
『真の闇でも決して迷わず、獲物を捕らえるその力。一部を借り受け転換し…解き放つ!』
『足元……注意……。……もう遅いけど』
そして、シルディのコウモリが超音波を撃ち放ち、無月が足元に大量の槍を召喚して貫く。
しかし、それらの攻撃は、紙一重の所で避けられた。コル・ディコルの動きを視認する事は出来たが、まだ敵は速い。幸いに、炎のグラビティが付着したという事で、視認性はアップした。自分達のつけたグラビティの力が、戦闘終了後まで尽きる事はないのだ。
だが、それだけでは、まだまだ相手を屠るまでのダメージ量になっていない事は、彼らにはわかっていた。前衛で強大なダメージを与えるべく準備をしている、エヴァンジェリンと万の力が必要になるはずだ。
エヴァンジェリンは、既にカラーボールの必要性が無いとわかると、ドラゴニックハンマーを握り、上段から相手の頭上目掛けて、それを力任せに振るった。だが、敵の状態は漸く此方と五分になった程度だ。
「当たらない……」
空を切った武器。感じるはずだった衝撃がそこから返ってこない。すると、最初のアラームが鳴り響く。
「そろそろ、本格的にいかねぇとなァ……」
そのアラームは6分経過を知らせるものだった。万は惨殺ナイフを握りこみ、不敵に笑う。
「首切りだァ? 喉笛食い千切られンのはテメェの方だぜ」
「強い……ですね」
レフィナードは敵の効果を防ぐ守護星座の力を張り巡らせたあと、そう呟いた。当然敵の攻撃は強大であり、その度に、効果的な回復を施すべく、瞬時に情況を把握しつつ、支援の力をばら撒いた。
その効果があったのか、ブレスの攻撃の麻痺の効果や、尾の攻撃の効果も何とかやり過ごすことに成功していた。だが、それが完成した時は、既に8分のアラームが鳴り響いた時だった。
メンバーのダメージの蓄積も、相当の量となっている事が痛いほどわかる。
「シルディ殿。もう、余り無茶は……」
「だいじょうぶ……だよ。まだ、立てる……よ。泰地さん、今度は左下にいます!」
その中でもシルディのダメージ量が、一番酷かった。この作戦のキモである後衛へのブレスを、少しでも通さないように受け続けているからだ。
『見える』という事が彼を突き動かしていたのかもしれなかった。
「KAァ亜!!!」
フラッタリーは己のダメージを掻き消すように叫び、泰地が飛び込む。
『とりあえずじっとしてろ!』
泰地の筋肉が膨れ上がり、強烈な蹴りをコル・ディコルの左翼に叩き込む。するとその翼が、あらぬ方向に折れ曲がった。
しかしその時、コル・ディコルが泰地の眼前から消え失せた。
「どうやら、全ての元凶はキミのようだ……」
シルディの目の前に突如現れたドラゴンはそう言って、前に出した爪を『引き抜いた』
「あ……」
彼の胸には大きな傷。途端に大量の血が噴き出す。
「シルディ殿!!」
駆けつけるレフィナード。続けて、少しほっとした表情と状態を仲間にハンドサインで送る。
シルディは既に気を失っており、その大きな傷が治るには、幾日かかかりそうな状態であった。でも、まだ生存している事が確認できた。彼は目を瞑り、続きのサインを送る。拳を握り、振り下ろす。ただそれだけのサイン。
「レフィがそれだけを伝えてくる。……ええ、わかってる。アタシも覚悟を決めた」
ここで後手になるわけには行かない。刻一刻と迫り来る時間。そして、シルディがここまで作り上げた状態を無駄にしない。
託されたのは、残った我らである。
「……行こう」
無月が日本刀『星刀【蒼龍】』を抜き放ち、残っている右翼を、弧を描いて静かに斬り付けた。
「怒り……かな……いいじゃないか……」
片方の翼に傷が入るところを確認しつつも、コル・ディコルに慌てた様子はなかった。
すると、万がコル・ディコルの首筋に、一気に接近した。
「張り付いちまえば、見えるも見えねえもねェだろ」
振るわれるナイフが、コル・ディコルの血を噴き出させる。そして続けるように、エヴァンジェリンがその血飛沫の中から突っ込んで行く。
「貴方たちが此方の事情など関係ないように、アタシも貴方たちの事情など、知らない。ただ……奪わせない」
そして、その頭をエレメンタルボルトの拳で殴りつけたのだった。
●そして、最後のグラビティ
「いよいよか……」
泰地はアラームが10分を告げたのを確認し、ギリっと拳を握りなおした。
「ここまでやるとは……予想外だったぞ」
コル・ディコルは自分の爪が動かない事を認識しているのか、右腕を見てそう呟いた。
ケルベロス達は、自分達の攻撃が十分に命中しだしたタイミングから、その攻撃手段を封じるグラビティの攻撃に切り替えていた。既に当初のスピードはなく、炎のおかげで敵の位置も良くわかる。
だが執念だろうか、コル・ディコルは口を大きく開き、喉の奥に闇を集中させた。
「ガァアアアァァアア!!!」
その闇のブレスは、目の前にいるエヴァンジェリンと万を一瞬で飲み込む。
ドンッ!
「無月!?」
咄嗟にエヴァンジェリンを突き飛ばす無月。それは一瞬の判断だったのだろう。自分が残るより、攻撃に特化した彼女が残ることを選んだのだ。
「ごめん……これ以上は、無理……みたいだ」
「わかりました。後は、私達に……」
ブレスに吹き飛ばされた無月を、レフィナードが支え、決意と共に力強く頷いた。
これ以上長引かせるわけにはいかなかった。
もう時間がない。そして、次の攻撃は封じる事が出来ているかもわからない。
次で決めきらない場合は……。と、幾人かのケルベロスは、その先の事を考えながらも、己の武器を確かめた。
「ルナティーク。行くんだろ?」
「ええ」
レフィナードは万に短く伝えると、『ザルバルクソード』を抜き放った。
「まず、アタシが行くわ」
エヴァンジェリンはレフィナードと万に言い、自分の周囲に光を召喚し始めた。
「ええ、続きます。しかし、これで終わりと言うわけではありません。余力を残しつつ……全力で」
レフィナードは、彼女そう応える。
『その終わりを導きましょう』
宇宙空間に広がっていくエヴァンジェリンの創り出した光。それがひとたび停止すると、それらは閃光となって、コル・ディコルに降り注いだ。
「其処です」
そしてその光の中からレフィナードが飛び出し、呪詛を載せた一振りをコル・ディコルの喉元を切りつけた。それでもなお、コル・ディコルは動こうともがく。
だが、ケルベロス達に攻撃の手を緩める考えは無い。フラッタリーが瞬時に背後に周りこむ。
『恨ミ辛三妬mI無苦。唯々渇キ、飢ヱ、欲ス。アァ……ョ!……ヨ!焚ベヨ!!クbEヨ!!焔ニ擲テェ――!!!!』
フラッタリーの口角から地獄の黒い牙がむき出しになり、あわせて牙が伸び、尖っていく。
「この距離なら太陽にだって負けませんよ、ねえ。暗い敵だっていくらでも灼いて差し上げますよ。やりがいがあるというものです」
そして、ラーヴァが眩しく輝くほどに灼けた重い金属矢を弓に番えて引き絞った。
『我が名は光源。さあ、此方をご覧なさい』
ラーヴァの打ち放った矢が、コル・ディコルの額に突き刺さる。
「影ナルモノ、影二溶kEヨ」
フラッタリーが首元に噛み付き、食いちぎる。更にラーヴァの矢がむき出しにした額にある影の鱗を、凶悪な爪で剥ぎ取るかの様に両腕を振るう。
「ここで、てめぇを阻止する!」
泰地は両手に装着した『虎爪刃手甲』を、鋭い刃へと変換させる。そして、腕をクロスさせてコル・ディコルの顔面で、舞う。その舞いは、コル・ディコルの牙を、そして角をズタズタに切り裂いた。
「終わりにしようや……」
最後に万が、獣の幻影呼び出す。己の奥に潜む黒き禍竜の頭部だ。それは酷く大きな顎を持っっていた。
『喰い千切れ、飲み込め、塗り潰せ!』
コル・ディコルの頭部よりも大きく練り上げたグラビティの竜が、噛み付く。すると、まずその角がボロリと砕け散る。しかし、それでも禍竜は動きを止めない。次に噛み付いたのは首。
「ガアアアァァ!!!」
叫び、その竜を振りほどこうとするコル・ディコル。だが、その顎は決して獲物を逃さない。
「ガ……!?」
コル・ディコルの最期の声は、信じられないというような表情と共に出た呻きだった。
ガツン!!
そして終に、禍竜の上下の牙が重なりあった音が響き渡った瞬間、コル・ディコルの首は切断され、消滅していったのだった。
「ふぅ。何とかなったなぁ」
万は懐にしまいこんでいたスキットルを探し、うまそうに口に含んだ。
「シルディはどうだ?」
泰地は己も含めて序盤に体を張って護ってくれた仲間を気にかける。
「……ん。寝てる、ね」
無月に抱えられたシルディは、穏やかな表情をしていた。
「じゃあ、アタシたちだけでも」
「どうやら他のチームも、勝っているようですね」
「あのデカブツにー、攻撃を叩き込めばー。良いのですよねー」
エヴァンジェリンとレフィナードが頷き、フラッタリーが火を灯した槌を手にする。
「さあ、本番でございます」
衛星軌道上に散会したケルベロス達から一斉攻撃が行われる。その攻撃はスパイラス目掛けてあらゆる方向から打ち込まれた。
各所で大きな爆発が起きる。その力によって部位はバラバラになって飛び散り、幾つかは消滅し、残りの破片は大気圏に突入して光を放っていった。
迎えのヘリオンが見えた。
空気の摩擦で燃え尽きるそれらを確認しながら、彼らは意気揚々とヘリオンに乗り込んだのだった。
作者:沙羅衝 |
重傷:シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|