決戦! 螺旋業竜~仲間の屍を越えた、その先に

作者:河流まお


(ああ、見えてきた……あれが、地球か)
 竜業合体を繰り返しながら、ついに星の海を渡りきることに成功した『旧神竜トゥルーナイト』が、渇望の瞳で地球を眺める。
(ようやく……ようやくだ……)
 共に星を渡ってきた仲間達へと視線を送るトゥルーナイト。
(……随分と少なくなったものだな)
 心の中で皮肉に笑うトゥルーナイト。
(スパイラスを発った時のあの大軍勢が、いまやこの数とは……)
 呆れるほどの苦肉の策。
 自殺にも等しい星の旅。
(――だがそれでも、こうして辿り着くことが出来た)
 それに、トゥルーナイトは仲間達を決して『失った』とは思っていなかった。
 それは、この『蟲毒』ともいえる環境の中で、既にトゥルーナイトが正気を失ってしまったせいなのかもしれないが――。
(ああ、聞こえているさ――)
 自分が喰らってきた仲間達が、己の中で今も息づいているかのような、そんな奇妙な感覚がトゥルーナイトにはあった。
(もはや身体の中に残るグラビティ・チェインも僅か……)
 意識を失いそうなほどの飢餓がトゥルーナイトの身体を蝕んでゆく。
 同時に『仲間達』の渇望の声が、身体の底から狂おしいほど響いてくるのだ。
(もうすぐだ……共に喰らうとしよう――。思う存分にな)
 そう小さく微笑み。
 最後の力を振り絞って、トゥルーナイトは地球を目指すのだった。


 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、ケルベロス達にペコリと一礼する。
「みんな、第二王女ハールの撃破と大阪城地下の探索、お疲れさまです!
 第二王女を撃破した事で、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の危機を回避できたのは、まさに僥倖なのです!」
 だが、この功績により地球に次の危機が迫っていることもまた明らかになったのだ。
「ドラゴン勢力――。
 本星のドラゴン軍団が、竜業合体によって地球へと到達しようとしている、という情報を得られましたが――。
 実は、地球に迫ってきているドラゴンは、本星のドラゴン達だけでは無かったのです……」
 耳を下げながら不安そうな面持ちのねむ。
「惑星スパイラスに隔絶されていた慈愛龍の勢力もまた、竜業合体を繰り返して星海を渡り、地球に近づいているのです」
 これはサリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)の悪い予感が的中した形である。
 そして――。
「さらに、そのドラゴン達の中でも『惑星スパイラスそのものと合体した個体』。
 螺旋業竜スパイラスの存在が確認されたのです!
 それはもう! おっきな、お~っきなドラゴンです!」
 両手を広げてその大きさをアピールをするねむであったが、当然ながら伝わりきるものではない。
「どのぐらい大きいの?」
 と、ケルベロスの一人が問いかけると「むむむ」とねむは考え込む。
「そうですね……。
 もし地球に激突しちゃったら、大都市が一瞬で蒸発して、衝撃で舞い散った粉塵で『冬の時代』が訪れちゃうかんじの大きさです」
 地球の命運が掛かっちゃうほどの大きさだった。

 この予知は、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)とエマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)が協力を要請していた天文台からの情報。
 そして死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が注意を喚起していたNASAによる解析によって、より詳しい情報として確認されることになった。
 詳細な予知によれば、無茶な竜業合体により、慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は殆どが失われており、残ったドラゴン達も、グラビティ・チェインの枯渇によって、戦闘力を大きく損なっている事が判明している。
 しかし、慈愛龍は、竜業合体した惑星スパイラス……螺旋業竜スパイラスを、衛星軌道上から日本に落下させ、その衝撃で殺害する数百万数千万の人間のグラビティを略奪する事で、失った力を取り戻そうとしているのだ。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントは既に割り出しています!
 みんなには、グラビティ・チェインが枯渇して弱体化している慈愛龍らドラゴンを撃破して突破して――。
 螺旋業竜スパイラスが地球に激突してしまう前に、破壊をお願いしたいのです!」


 モニターに地球の衛星軌道上の画像を映し出しながら、ねむは作戦の内容を補足してゆく。
「迎撃場所は衛星軌道上。そこまでは宇宙装備のヘリオンで移動する事が出来ます。
 無重力空間での戦闘ですが、ケルベロスの戦闘に支障は出ないのでご安心ください。
 大運動会などでお馴染みのジェットパッカーもヘリオンに積んでおきますから、みなさんのほうで個別に準備をしなくても大丈夫です」
 れむがリモコンをピコッとすると画面が切り替わり、巨大な水晶で形作られたダイオウイカのような姿が映し出される。
「みんなに撃破をお願いしたいのが、この『旧神竜トゥルーナイト』です!
 見た目はイカっぽいですけど、その戦闘能力は『最強種族』の名に恥じぬものがありそうですね……」
 竜業合体を生き抜いた上位のドラゴン達……。
 戦うにあたっての事前準備、とくに仲間との連携や防具の選別はキッチリとしておく必要がありそうだ。
「螺旋業竜スパイラスは、竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力は持っていませんが――。
 その巨大な質量を破壊するには、作戦に参加したケルベロスみんなの、最大出力のグラビティで一斉攻撃して破壊する必要があります。
 でも、これには螺旋業竜が地球に到達するまでという時間制限があるので――」
 ねむの試算では、迎撃作戦開始から12ターン以内に『旧神竜トゥルーナイト』を撃破できない場合は、スパイラス落下阻止の攻撃が間に合わなくなるとのことである。
「もし、敗北とか時間切れでスパイラス攻撃に加われないチームが5チーム以上となった時、戦力の不足でスパイラスの落下を完全に防ぐことが出来なくなるので注意くださいね」
 その時は足りないチーム数によって、地上の被害が変化するはず、とねむは付け加える。
「もし、この慈愛龍の計画が実行されれば、地球は終わってしまいます――」
 真剣な眼差しでケルベロス一人一人を見つめてゆくねむ。
「でも、きっとみなさんなら……この予知を覆してくれるって信じています!」
 ケルベロス達を信じて、自らの不安を押し込みながら精一杯微笑むねむ。
 とんでもない状況だが、やるしかない。
 そう覚悟を決めて、ケルベロス達はヘリオンに乗り込んでゆくのだった。


参加者
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
名雪・玲衣亜(ナンバースリー・e44394)

■リプレイ

●1
 ヘリオンから飛び出すと、二つの星が視界に映る。
「あれが地球に落とされるってことか……。予想だにしてないことをしてくるな」
 思わず吐息を漏らすルーク・アルカード(白麗・e04248)。
「わはははははははっ! これが無重力という奴か! おお、回る廻るッ!」
 グルグルと回転しながら宇宙空間を突き進む服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が天真爛漫に笑う。
「ってか、宇宙で戦闘とかマジパないね!」
 同じくグルグル状態の名雪・玲衣亜(ナンバースリー・e44394)。相棒のハリネズミくんは今回さすがにあぶなそーだからお留守番中。
「お、落ち着いてください。
 地球かスパイラスのどちらかを下方向と定義して行動すれば、姿勢が安定するはずです。
 って、宇宙空間だから声は届かないのでしたっけ――」
 面倒見良さげな中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)は必死にジェスチャーでコツを伝えようと努力中。
「前にドラゴン、背には地球。負けられなイ戦いとは、このことダな」
 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が静かに呟く。
 その視線の先、二つの地平線の境界、太陽光を受けてキラリと輝くモノがある。
「お、アイツが『旧神竜トゥルーナイト』ってやつか」
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)の双眸が敵を映す。
 透き通るガラス細工のような敵の姿。
 胴体には謎の発光器官があるらしく、淡い光が連なるように幾筋も流れている。
 深海のヒカリクラゲと、巨大なダイオウイカを掛け合わせたかのような、おおよそドラゴンらしからぬ姿だ。
「ふむ。これは……帰ったらイカそうめんで一杯かな?」
 地球の命運がかかった一戦にも気負わぬ様子で浜本・英世(ドクター風・e34862)。
 ドラキュラ伯爵のようなマントの下にジェットパックを装着し、宇宙を縦横無尽に飛行する怪紳士スタイルだ。
「この12分に地球の命運がかかってます!」
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)が鉄黒を構えて気合を入れる。
 相棒のミミック『サイ』も内部から武装を展開し、臨戦態勢に突入だ。

 敵もケルベロス達の接近に気が付いたらしい。
 まるで力を溜め込むように、その身体の中の光が輝きを増す。
「お互いの射程内に入ると同時に戦闘開始ですね」
 牙の隙間から炎を溢れさせながら、竜矢は日本刀に手を掛ける。
「さて、そろそろ宇宙空間への適応は済ませたかい?」
 仲間達に問いかけるような視線を送る英世。その意図は宇宙空間でも仲間達に伝わったようである。
「おっけ~、アタシに任せといてよ」
「さぁ! いざ尋常に、勝負ッ!!」
 ニカッとしたVサインで応える玲衣亜と、既に気合十分の無明丸。
 さすがはケルベロスの身体能力。無重力への適応も早い。
 地球の命運を賭けた戦いの始まりだ。

●2
「来ルぞ!」
 戦闘宙域に入ると同時、先手を取って動いたのはトゥルーナイトだった。
 雷属性のブレス『天雷一閃』が前衛陣を薙ぎ払う。
「防具耐性を意識しテなお、この威力か――」
 今の衝撃で回転負荷がかかったらしく、視界が目まぐるしく回転している。
 鈍い痺れを感じながら、思わず痛苦に顔を歪める眸。
「クッ――」
 立て直さなくては――、と眸が思った瞬間。背中がなにか大きなものに触れて、回転が停まった。
「大丈夫か? 眸」
 振り返ると、そこには広喜。
 強い絆で繋がった相棒同士の二人である。
「お前コそ」
 感謝を込めて、広喜の胸元をトンと右腕で叩く眸。
 最強種たるドラゴンを相手に盾役を引き受けた以上、今回の作戦で最も危険な立ち位置にいるのがこの二人と言えるだろうか。
(だガ、不思議と恐怖ハないな)
 レプリカントとして『心』を得てからこれまで、様々な戦いを経験してきた眸。
 似たような境遇である広喜と出会い。
 共に数々の死線を潜り抜け――。
 マキナクロス、大阪城、次元の狭間……ついには宇宙空間にまで来てしまった。
『それにしても。すげえ、でかくて綺麗な個体だなあ』
 トゥルーナイトを眺める広喜が、その瞳を輝かせながら手話で一言。
『こんな手酷い攻撃を受ケて、出ル感想がそれか』
 眸は思わずフッと微笑む。
 だがこうして、背中を預けられる相棒がいることは素直に心強い。

「ちょ、どったの二人ともこんなときに笑って。ダイジョーブ?」
 すぐさま玲衣亜が前衛のサポートに入る。
 彼女が懐から取り出した小瓶を投擲すると、高濃度の回復グラビティが振りまかれてゆく。
 玲衣亜の固有グラビティ『なんか回復するやつ(ナンカカイフクスルヤツ)』である。
「なんだかモリモリ回復しすぎて、逆に不安になってくるぜ……」
 メタリックバーストを放ちながらも広喜が呟く。
 その表情を察したのか――。
「身体への悪影響はないからだいじょーぶ! たぶん!!」
 と、太鼓判を押す玲衣亜。
 少なくとも短期投与なら安全は実証済み! え、長期だったら? そんなのしらんし。

 ともかく、態勢を立て直したケルベロス達。
 作戦の都合上、今回はじっくり攻めるというわけにいかないのが辛いところである。
 多少無理にでも、攻めて行く必要がある。
「星の海を渡り、遠きところをよくぞ参った! 歓迎しよう!」
 ただ真っ直ぐに敵に突撃してゆく無明丸。
 たとえ宇宙空間であろうと、彼女の戦闘スタイルに変わりはない。
 真っ直ぐに、一直線に、得意のストレートでもって、相手の顔面をぶん殴るだけだ。
「ぬぁあああああああーーーっ!!」
 その拳に渾身の力が宿る。
「ッ!?」
 敵は咄嗟に顔を庇うものの、その一撃は触手のガードを撃ち抜いて余りあるものである。
 脳震盪のように揺らいだ敵に、追撃で攻撃を撃ち込んでゆくケルベロス達。
「ドラゴンも必死なのは分かりますが……負けられません!」
 まずは仲間の命中率を安定させるため、捕縛と足止めに専念してゆく竜矢。
 その日本刀が弧月の軌跡を残し、敵に裂傷を刻み込んでゆく。
「どうにも板前にでもなった気分だね」
 英世の凶騒秘剣ギルシオンが黒煙を噴き出しながら振動する。
 そのチェーンソー刃を敵に叩き込むと、派手に火花が飛び散ってゆく。
「ふむ、まるで水晶のような硬さ……。それでいて柔軟性があるのだから面白い」
 敵の生態を考察しながら英世。
 酒のつまみにゲソを一本持ち帰りたいところだが、たとえ一本でもヘリオンには収まりきらないであろう巨大さだ。
「――っと危ない」
 四方八方から他の触手が襲い掛かってくる。あと一歩で切断まで持っていけそうだったが――。
 ここは一度退くべきかと冷静に判断する英世。

 怒りと狂気をその眼に宿し、暴れ狂う旧神竜トゥルーナイト。
 強力無比な天雷と、鉄骨をも易々と折り曲げる恐るべき膂力の触手。この二つがケルベロス達を苦しめてゆく。
「まずはこれで――」
 印を結び螺旋氷縛波を放つルーク。氷を攻めの起点として、そのままジグザグで増幅してゆく。
「50年前のようにはいきませんから!」
 天雷一閃の予兆を見逃さぬように敵の動きを警戒しながら、スズナもルークに協力して足止めとジグザグを振るう。
 敵の回避能力を下げ、毒と氷結効果を維持しながら短期決戦を狙ってゆくケルベロス達の戦術。
 無音の宇宙空間で激しい戦いが加速してゆく。

●3
 やがて振動付きのアラームが10分経過を告げる。
 この頃になると威力重視の攻撃も十分に狙えるようになってくる。
「――あれは!」
 敵の胴体が一際輝くのを見て、天雷が来ると気が付くスズナ。
 これまで盾役の一翼として必死に耐え凌いでくれていたサイだったが、流石に次の攻撃では戦闘不能にされてしまうに違いない。
 それならば――と、素早く判断するスズナ。
「力を貸して、サイっ!」
 護符を放ち、敵の動きを一瞬鈍らせるスズナ。
 この無音の宇宙空間ではスズナの声はサイに届いていないはずである。
 だが、サイは『そのタイミング』が判っていたかのように敵の懐へと飛び込んでいた。
『即興連携:影刃(コンビネーション・スラッシュ)』。
 最後の力を振り絞るかのように、強烈なラッシュをお見舞いするサイ。
 敵の意識がサイへと向いた瞬間を狙い、スズナも距離を詰めて鉄黒の刃を振り上げる。
「いつでも仲間達と一緒なのは、貴方だけじゃない!」
 同胞を喰らいながら星の海を渡ってきたというドラゴン。
 きっと敵にも背負うものや、譲れぬ思いがあるに違いない。
 でも、それは此方も同じ。
「絆の強さだったら負けてないから!」
 スズナの刃が敵の触手を切り落とす。
 続くトゥルーナイトの反撃。予想通りの天雷一閃を受けてサイがついに戦闘不能となるが――。

「サンキューなサイ。お前、本当にすげえヤツだぜ」
 共に守りの一角として肩を並べた広喜が、消えてゆくサイに感謝を表す。
 残る盾役は広喜と眸。
 敵の攻撃の激しさを考えれば、この二人が倒れることは即ちパーティー全体の崩壊を意味する。最悪、仲間のために命を賭ける覚悟が必要になる場面である。
 だが――。
(なんだか妙に落ち着いてるな、俺)
 戦闘中だというのに、そう感じる広喜。
 ただの楽観? それとも恐怖心の欠如? いや、ちょっと違う気がする。
 眸にふと視線を向けて、気が付く。
 そう、これは言うなれば『信頼』だ。
 互いを信じ背を預け、共に同じものを守るため戦う二人。
「俺たちはヒトを守る」
 ヒトを、地球を、共にこの身が砕けようとも。
「壊れるときは一緒だぜ」
 その言葉は、この宇宙空間では『音』としては届かない。だが、眸のほうもきっと同じ思いだろうと広喜は思うのだ。
「でもそいつは今じゃねえ」
 必ず一緒に帰る、と笑う広喜。
 互いを支え合いながら、敵の攻撃を耐え凌いでゆく二人。

●4
「12分経過~。じゃ、アタシも行くとしよっかな!」
 一際長いアラームを確認し、玲衣亜はガジェットを握りしめる。
 スパイラスへの攻撃に参加するための最後のターンである。
「そーいやコレ、失敗すると地球ヤバイんだっけ」
 と、玲衣亜が思い浮かべるのは、幼い頃から慕っている祖母のことである。
 大病を患って入院中の玲衣亜のおばーちゃん。
 あまり心労はかけたくないから、この作戦に参加することはナイショにしてきちゃったケド――。
「ま、勘づかれてるよーな気もするんだよね~……」
 ふと地球を見下ろすと、ちょうど足元に日本列島の姿が確認できる。
 おばーちゃんが入院している病院は、あの辺りかな? と、アタリをつける玲衣亜。
「もしかしたらおばーちゃんも、病室の窓からこっちを見上げてるかもね」
 なんせ地球の命運を賭けた大作戦である。きっと今日は、多くの人々が空を見上げているに違いない。
 背負っているものが大きすぎて、ちょっと押し潰されそうになる。
 でも――。逃げるわけにはいかない。
「よーし、やるときはやるかー!」
 どうせなら最後なら、派手にビシッと決めちゃおうよっ!
 玲衣亜の意思に呼応してガジェットがパリピスイッチへと変形してゆく。
「くらえっての!」
 色とりどりの爆炎がトゥルーナイトを包み込む。
 敵のシースルーボディに小さなヒビが刻み込まれ、その巨体が大きく揺らいだ。
「ナイスじゃ、玲衣亜! もういっぱぁつっっ!」
 無明丸が連携して追撃を仕掛ける。
「ぬぅあああああああーーーッッ!!」
 無明丸の渾身の力を籠めた拳が撃ち込まれ、敵の胴体のヒビが大きくなる。

「時間的に、これが最後のチャンスになりそうだな」
 地球へと迫るスパイラスを見上げるルーク。
 これが地球に衝突すれば、隕石映画そのままの、地獄の光景が繰り広げられることになるだろう。
「そんな企みは必ず阻止して、皆で地球に戻るぞ」
 その赤い瞳に決意を宿すルーク。
「さて、どう攻める――」
 思考を巡らせるルーク。
 やはり最大威力を狙うのならば、一か八かで直接その身体に叩き込むしかないのだが――。
 少しでも近づけば、敵は触手による堅牢な守りを展開してくる。
 だがそれは裏を返せば、敵にとって『胴体』が弱点である証拠ともとれる。
「……」
 もし失敗すれば、たちまちその顎に喰いちぎられるに違いない。
 危険な賭け。だがそれでも――。
「この力は誰かを守る為にある……だろ?」
 自分に言い聞かせるように呟き、ルークは敵の懐へと飛び込んでゆく。
「――!」
 巨大な触手が自在に動き、ルークを絡めとろうと迫る。
 だが――。
「虚を実に、実を虚に……俺の居場所が分かるかな?」
 敵の触手が虚空を掴む。
『影遁・虚実変転(ファントムガイスト)』。偏在とオリジナルを自在に入れ替えるルークの切り札である。
 一見、影分身に近い術だが『虚実を入れ替える』というところに、この術の強みがある。
「……間に合え」
 2体目、3体目――。次々と影遁が屠られてゆく。
 狙う箇所は、先ほど玲衣亜と無明丸の攻撃で大きくひび割れた箇所だ。
「――間に合えぇえええッ!」
 最後の影遁がかき消された。無数の触手がルーク本体へと迫る。
 だが、こちらのほうが僅かに速い!
 身を旋風の如く翻し、敵のひび割れた胴体に惨殺ナイフを突き立てる。
 あとはもう一瞬だ。両側へこじ開けるように、敵の傷口を引き裂くルーク。
「――ッ!」
 敵の発電器官が、急速に力を失って光を消してゆく。
 それは、ここで潰えてゆくトゥルーナイトの命の光そのものだった。

●5
 旧神竜トゥルーナイト、撃破完了。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 試合に勝ったボクサーのように拳を突き上げて勝利宣言する無明丸。
「なんとか勝ったみてえだな」
 数多くの攻撃を庇い、満身創痍となった広喜は少しフラつきながらもそれでも笑みを崩さない。
「生きテいるか? 広喜」
 傷ついた相棒に肩を貸す眸。
「まだもう一仕事が残っていますよ」
 スパイラスを見上げる英世。激闘を終えたばかりのケルベロス達であるが――。
「皆の力を合わせて勝ち得た、この貴重な攻撃機会を逃すわけにはいきません!」
 迫り来る圧倒的な質量に思わず気圧されそうにもなりながらも、スズナはプラズムキャノンを構える。
「絶対に最後まで諦めません……どれだけ苦しくても、私が守りたいものなんですから!」
 一回こっきりのチャンスに賭けて、最後の力を振り絞る竜矢。
「我が身に宿る炎よ! 今閃光となって敵を焼き尽くせ!」
 口内から溢れ出す炎を押し込め、口の中でプラズマに変換してゆく竜矢。
「シューティングレイ! ブラスター!」
 青き熱線が、一直線に宇宙空間を駆ける。
 いや、放たれたグラビティはこのチームのものだけではない。
 作戦時間に間に合った他の班のケルベロス達も、同時に最大威力のグラビティをスパイラスに向けて放ったのだ。
 幾筋もの光が、スパイラスへと撃ち込まれてゆく。
「やったか?」
 そして爆発が巻き起こった――。

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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