●竜の飛来
眼下に臨む、蒼い星。無窮の闇に浮かぶ宇宙の中心、地球。
遥か日本列島の衛星軌道上で。
『……我らは、辿り着いた』
声なき声が、静かに唸る。
『あの牢獄に閉ざされてのち』
『星の全てを喰い尽くし』
『永き星の海を』
『禁断の法を繰り返して』
それらの声の中心に座すは、無数の捻じれた首に巻物を螺旋状に巻き付けた巨竜。
過酷な旅路の果て、かつての力は見る影もなく。
威容を誇った軍勢も、すでに生き残りはごく僅か。
だが。それでも。
『遂に……! 渡り切った!』
竜は、そう吼える。
『俺は望む……! 灼熱の闘いの中に見出せる、最高の……死を!』
そのうちの一体。身の全てを骨格と化した竜が、紫に輝く目に歓喜と激怒を燃やして、叫んだ。
『さあ、慈愛竜よ! 出撃を、命じてくれ! 俺の全てが、闘争を望んでいる!』
退屈に倦み、無駄に生きる意志などすでにない。星の海の中心へとたどり着いた彼が望むは、死するまでの闘い、破壊、殺戮のみ。
そして軍団を率いる長が、号令を下す。
皆、行け。あの星へと墜ちろ……! 殺し尽くせ!
『征こう……螺旋業竜・スパイラスよ! 同胞たちの遺した無念を抱いて! 今も屈辱を舐めて生き続ける、同胞たちのために! 牙角闘竜・セデアと共に!』
そして螺旋の巨竜は、全ての生き残りを引き連れて落下を始める。
彼らこそ、惑星スパイラス駐留部隊……『大ドラゴン軍団』。
あの闘いよりおよそ三年の月日を経て。
慈愛竜の軍勢は、遂に地球へ飛来する……。
●大ドラゴン軍団出現
集まった面々を見回して、望月・小夜が頷く。
「第二王女ハールの撃破と大阪城地下の探索、お疲れさまでした。エインヘリアルと攻性植物の同時侵攻は回避され、大阪地下ではドラゴニア本星の竜たちが竜業合体によって地球に向かっているという情報も得られました。素晴らしい戦果です」
だが、寿ぎながらもその顔に笑みはない。
「しかし地球に迫り来るドラゴンは、それだけではありませんでした。サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)さんが警戒していたのは、慈愛竜率いる大ドラゴン軍団……そう。彼らが竜業合体によって惑星スパイラスそのものを取り込み、衛星軌道上に出現する事が予知されたのです」
番犬たちの目が見開かれる。それは三年前、スパイラル・ウォーに敗北して、遠き星に閉じ込められた亡霊の名だ。
「黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)さんとエマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)さんが協力要請していた天文台からの情報、及び死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)さんが注意を喚起していたNASAによる解析によって、より詳しい情報が確認されました」
無茶な竜業合体によって大ドラゴン軍団はその戦力の殆どを逸失し、僅かに生き残った上位の竜も、グラビティ・チェイン枯渇によって戦闘力を大きく損なっているという。
だが。
「情報を総合した結果、慈愛龍は竜業合体した惑星スパイラス……すなわち『螺旋業竜スパイラス』を日本に落下させ、数百万から数千万の人々を殺害。グラビティ・チェインを略奪して、力を取り戻そうとしていると判明しました。実現すれば、地球は終わりです」
然るにこれを迎撃し、弱体化している慈愛龍らを撃破。螺旋業竜スパイラスを破壊する。
それが……。
「そう。今回の任務です」
●牙角闘竜・セデア
「衛星軌道上まで私の宇宙装備ヘリオンで輸送いたします。無重力空間での戦闘となりますが、スラスターなどの移動用装備はご用意しておりますので支障はありません」
お馴染みのジェットパッカーなども積んでいるし、勿論、個々に用意してもよい。
そして小夜は、スクリーンに巨大な骨竜の絵図を映し出す。
「皆さんに担当していただくのは『牙角闘竜・セデア』。今まで地球に飛来した記録のない……つまり、ゲートを通れないドラゴニアの主力竜です。永い生に倦んでいた武闘派で、闘いの果ての死を理想とする狂竜です」
だからこそ慈愛竜の軍団に入り、地球を目指したのだろう。弱体化しているとは言え、戦闘力はその辺りのデウスエクスとは比べ物にならぬはずだ。
「更に問題なのは『螺旋業竜スパイラス』です。竜業合体によって地球に向けて移動する以外に戦闘力はありませんが、その巨大質量を破壊するには作戦に参加した方が最大出力のグラビティで一斉攻撃する必要があるのです」
迎撃開始後、12分以内に『牙角闘竜・セデア』を撃破できない場合、スパイラス迎撃には間に合わない。敗北か時間切れでスパイラス攻撃に加われない班が5班以上あった場合、戦力不足によりスパイラスの落下を完全に防ぐことが出来なくなるという。
「つまり、弱体化しているとはいえドラゴニア主力級と激突し、どれだけ破壊できたかによって地上の被害が変動する質量兵器を相手取る……際どい作戦になります」
なるほど。負けられない闘いというわけだ。
「慈愛竜を筆頭とする大ドラゴン軍団はすさまじく強大な敵……それでも、阻止限界点までに螺旋業竜スパイラスを破壊してください。皆さんの双肩に、地球の命運が掛かっているのです……」
小夜はそう語り、頭を下げるのだった。
参加者 | |
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伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490) |
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102) |
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164) |
●
光さえ呑み込む闇の中に浮かぶ、瑠璃色の宝石……地球を、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が振り返る。
「皆さん、聞こえますか。この作戦には、地上の人達の命運が掛かってます。必ず阻止しましょう!」
離れていくヘリオンを見送り、新条・あかり(点灯夫・e04291)が耳元に手を当てる。
「雑音がひどいけど、聞こえてるよ。それにしても、星墜としとは恐れ入ったね。流石に容赦ない」
ざりざりとなる無線に、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は首をひねる。
「やっぱり、敵がくると、遠くまではつーじない、な。あんなんなっても、ジャミング、するのなー……」
恐らく防具特徴のように、グラビティに拠らぬ支援能力を削ぐ力だろう。
視線を戻した先には、小惑星の如き巨大さを誇る、螺旋に捻じれた竜の姿。
「あれが螺旋業竜……何キロあるか知らないけど、絶対に地球に落としたりしないよ。バラバラに砕いてやるもん」
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)と、ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)が、強く頷き合う。
「ああ。敵は殲滅する。スパイラス落下を阻止出来る可能性ある限り、私たちは決して撤退しない」
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)もまた、胸に炎を燃えたたせて。
「スパイラス……まさかその名を再び聞く事になるなんてね。今度こそ終わりにするわ。ドラゴンも、螺旋忍軍も!」
やがて見え始める、大ドラゴン軍団の怨霊たち。
「ついにドラゴンの主力級と戦闘だな。怯みはしないぞ。地球には、絶対に到達させてやるものか……!」
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)が構えるなり、それぞれの班へ、竜の群れが分散する。骨の巨竜がその目に紫炎を宿し、響き渡る力を発した。
『……早速の歓迎か! 来い!』
抱き留めるよう四本腕を広げる竜に、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)が牙を食いしばる。
「来いはこっちの台詞だぜ……テメエらの、その『覚悟』だけは認めてやらあ。だからこそ、止めて見せるッ!」
星を背負い、番犬たちは突貫する。
長き時の果て。
慈愛の軍勢と、決着をつけるために。
●
骨の躯体に紫の鬼火を纏い、巨竜は咆哮する。
『さあ、この俺に最高の死を寄越せ! 番犬どもォオ!』
真空さえも揺らす熱狂を、ミリムが振り払って。
「いいでしょう……! お望み通り、最高の死を与えてやりますよ!」
掴みかかって来る爪をすり抜けて。蒼炎を宿した大剣が竜の腕に火花を散らす。
すぐさま迸る、流星のようなカプセル。ミリムのつけた亀裂に向けて、次々と。
「僕たちが命を懸けて付き合ってあげるから。好きなだけ暴れなよ。死ぬまで、ね」
あかりの撃ち込むウイルスを気にも留めず、竜は笑う。それが望みと言うように。
「星辰の加護よ、仲間達を守り給え……さあ、リリ! 護りは任せろ。その一撃を、骨の髄まで響かせてやれ」
ジークリットが掲げる剣が、仲間たちに加護を広げていく。
「任せて、ジーク。リリ、行くよ。スパイラスの前に、この竜を粉々にしてあげないとね」
ジェットを吹かしたリリエッタは、過誤を纏って鋭角に突っ込む。その蹴りが、骨のひとつをへし折って。
『待ち焦がれたぞ……! この痛み!』
竜は狂喜に浮かされ身をねじる。刺々しい全身を旋回させ、竜巻の如く突っ込んで来る。
「待ち焦がれた、か。いいだろう! その命の残り火……叩きつけて来るがいい!」
足に炎を纏わせて、マルティナが渾身の蹴りで斬撃と激突する。さながら、紫の大渦にぶつかる白光の如く。それを追った竜弾が、共に巨竜を押し留めるべく爆発する。
「ええ! 徹底的にやるわ! さあ、行って! 援護が、アタシの仕事よ!」
リリーが花火の如く竜弾を散らす中、ランドルフは己自身を弾丸に、真空を跳躍する。
「ああ! 今回は一歩たりとも退かねえぜ! 例え最後の一人になったとしてもな!」
火花を散らす蹴撃が、竜の巨体を押し戻す。扇を振るって、合図をするのは勇名。
「いったん、はなれる、の陣」
互いに距離を取り、番犬と竜は睨みあう。一合馳せ合っただけで、護り手たちの身から血が滲む。扇から迸る癒しでそれを塞ぎながら、勇名は眉を寄せた。
(「むい……すごく、すごく、つよい。前衛、たいへんになる、な……」)
だが、決して退きはしない。
各宙域では、星の如く閃光が瞬いている……。
●
五分を示す光が点滅する。それを見る暇がなくとも。
『どこまで、もつかなァア!』
宇宙を迸る紫の炎が、前衛を丸ごと呑み込む。仲間の盾となりながら、ジークリットが火焔を払う。焼け焦げた戦闘服は、すでに血塗れ、焦げ塗れ。それでも。
「ヒビと亀裂を確認。そこだな! 突っ込む!」
渾身の激突で、骨の動きを押さえ込む。その間をリリエッタのスカートが翻り、竜の顎を蹴り上げた。
「リリが死んだって……ここは通さないんだから」
ただの相手ならば首も飛ぶ、渾身の一撃。それさえも、竜は狂笑で受け止めて。
『それこそまさに、俺の望む強さよ!』
振り上げられた四本の腕の周囲に、みるみる内に新たな腕が組みあがる。
『さあ! 俺を穿ってみろ!』
「身体強化か……! ならば、望みどおりにしてやろう!」
宙で身を捻り、マルティナの推進器がブーストする。直角に折れ曲がっての瞬断が、新たな腕を叩き切り、強化された力を抉り取る。
虚空へ散る巨大な骨を踊るように避けて、朱殷の槌が竜の背骨に突き刺さった。
「とことん、付き合うとも。死にたい竜には地獄の番犬がお似合いだ」
あかりが呟くと、亀裂に走る氷が、果てなき進化すらも凍てつかせていく。
竜は咆哮し、再び全身を回転させて攻め寄せる前衛を薙ぎ払った。
仲間たちが切り刻まれる刹那、壁に跳ね返る如く二段に跳んで、ミリムの体が割って入る。
「守りは任せて、攻めてください! 皆の背中は預かります!」
放たれた虚無の球体が、敵の爪を抉り抜く。
その軌跡を追うように、ランドルフが身を躍らせる。
「……コイツ、まるで退く気がねえ! ゴリゴリの削り合いだぜ!」
その刃【曼殊沙華】の切っ先が、螺旋を描いて骨を裂く。瞬間、敵に宿った氷炎が、爆発的に膨れ上がる。
まるで巨大な戦艦に、八機の戦闘機が闘いを挑む如く。激しく攻め合いが、容赦なく互いの身を削っていく。
すでに各々の宇宙装備から紅が球と散り、所々から白く空気が漏れていく。
(「まえの五人が……狙われつづけてる。ぼくだけじゃ、まに合わない……」)
勇名が幾度も振るう羽扇。だが幻影で直撃を逸らしてやれるのは、一度にただ一人。
誰を残し、切り捨てるのか。僅かでも可能性のある者を、その目で見抜くのだ。
「前衛は、もう限界だわ!」
渾身で星の気弾を蹴り撃ちながら、リリーが叫んだ。
戦線は、これより崩壊を開始する。
それでも。
「振り切って……攻め抜くわよ!」
そう。これは、そういう闘いなのだ。
●
空気が尽きる。声が潰れる。血が出ていく。紫炎に焼け、真空に凍りつく。無限の闇が、招いている。
ひび割れた腕を握り締め、竜はとどめの格闘戦へ移行する。
『さあ! 終わりの、始まりだ!』
その突貫に狙われたのは、リリエッタ。この一撃を受けて、立っていられる者など、もういない。
だが。
「させるか!」
前へ飛び出て、角に掴みかかったのは、ジークリット。
「ジーク……!」
竜は、力比べを楽しむように声を歪ませ、その角を燃え立たせる。
「私に構うな、リリ……! 攻め抜くんだ」
肺の中に残った僅かな吐息で、名を呼び交わす。紫炎に呑まれて行きながら、ジークリットは敵を押さえ続けて咆哮する。
「重力の癒しの風よ! 空気なき宇宙に駆け抜けろ! 炎を吹き消せ……! 最期まで闘う力を……皆に!」
吹くはずのない風が虚空に舞う。
纏わりつく紫炎を消し飛ばして……ジークリットの身が竜の一撃に吹き飛んだ。
……勇名は扇を振るい続けている。
執拗に前衛を攻める竜は、続けざまに全身を刃の如く回転させて迫り来る。
「うー……うー……こっち、な」
だが、リリエッタは静かに首を振った。回復したとて、もうあの攻撃の前に身が持たぬことがわかったから。
「言われた通り、リリは行くよ。ミリムを、回復してあげて」
「りりえった……」
飛ぶように竜へと向かいながら、彼女は呼び寄せる。強き想いを繋げた誰かの影を。手を結び、銃に限界を超えた魔力を込めながら。
「ルー……リリに、力を貸して!」
放たれた弾丸が巨竜の頭蓋を穿つも、竜は止まらない。刃の骨が嵐と化して、迫り来る。それでも彼女は、引き金を引き続けた。
幻影と共に引き裂かれ、虚空へ紅く撥ねるまで。
……虚空へと、仲間たちが、墜ちていく。
それでも身を退かぬ番犬たちと、狂喜を胸に飛翔する巨竜。
『捉えたぞ!』
その渾身の爪牙が次に狙うは、リリー。
「しまっ……!」
前衛を狙うと見せかけ、竜は陣の隙を突いた。人体など軽々しく両断する爪撃で、攪乱者を一撃で屠らんと。
紅い雫が、弾け舞う。
「……!」
だが貫かれた腹腔を押さえて、リリーの前に出ていたのは、マルティナだった。
『次々と身を挺してくるな! ハハハ、面白い!』
「リリー……言ってくれたろう……あの時。私は、護る者だと。その通りだ……! 私は、後ろの仲間たちを。地球を……!」
彼女は貫かれたまま、震える腕で細剣を構える。追撃を掛けんとして、腕を振り上げる竜に向けて。
「マルティナさん! もう戦闘不能よ! 逃げて!」
舌の上に溢れる鉄の味を噛み潰して。彼女は二本の剣を振り抜いた。
「いいや。私は最後まで……護り抜く!」
虚空に走った二刀の閃光が、竜の腕を十字に斬り飛ばす。
叫びを上げる竜を押し返して、血に塗れた白い軍服が、闇へ溶ける……。
すでに十分を過ぎた。
竜は全身に広がったひびにも構わず、楽し気に吐息を漏らす。
『まだだ! 俺の死には、まだ足りない!』
その前に浮かぶは、最後の守り手。ミリム。死に物狂いで戦場にしがみ付いたが、もはやこれまで。魂をどれだけ燃やしても、擦り切れた身は、もう限界。
「……貴方が満足する死は、今から訪れますよ。私の仲間たちが、必ずそうする」
竜は笑った。心底、楽しそうに。
『ならば共に逝こうッ! 愛しい、宿敵ども!』
炎の化身と化しながら、竜は紫炎の劫火をまき散らし、周辺の空間ごと焔の中へ呑み込んでいく。
「でも……誰も、逝かせません」
ただ独り、盾としてその中に飛び込み、ミリムは目を閉じる。燃え尽きる隕石のように、炎の中を突撃する。
「逝くのは……貴方だけです! さあ……ッ!」
その姿が、弾き飛ばされる。余裕を持って、竜が距離を取ろうとした、その時。解き放たれていたブラックスライムが、炎を破って竜の頸椎に喰らい付いた。
『……がッ!?』
相討ち覚悟の、最後の一撃。
竜がのけぞり、姿勢が崩れたその一瞬。庇われた軌跡を縫い、緋と黒に塗れたあかりが、炎を突き破る。
「一緒に、踊ってあげるよ。劫火のダンスを……最後まで。だから……、」
前衛は壊滅した。これが最後の攻撃だ。ここを逃せば、全てが終わる。
『させる、かァア!』
その身を叩き落とさんと竜が手を伸ばした時、二つの影がその後ろから炎を破る。
「ランドルフさん! 叩きつけるわよ!」
「応、リリー! コイツに『終わり』をくれてやる!」
すでにその手に、握りしめた渾身を紡ぎあげて。
「これでも、喰らって……ッ!」
「……爆ぜやがれ! よね!」
螺旋と銃弾。二閃の射撃が、巨竜の両目に突き刺さる。目を奪われた竜の悲鳴が轟き、爪の隙間をあかりの体がすり抜ける。
「堕ちろ。落ちろ。これで……! ……墜ちろ!」
ひびの入った喉笛に、ハーブの種子が突き刺さった。急成長していくカルミアの枝葉が、骨を突き破りながらその躯体を蝕んでいく。
『ウ、ォ、ォオオ!』
断末魔を上げる巨竜が、花を散らしながら砕けていく。
(「やっ……」)
だがその枝葉が頭を侵食する寸前。残された骨腕が、頸椎をへし折った。
『俺の……負けだ! 素晴らしい! だが!』
砕けていく躰から頭蓋を切り離し、竜は吠える。
『俺にも、護るべき友がある! 地獄に、付き合え!』
「!」
振り返る番犬たちに、最後の火焔が向けられる。
「なかよし、たくさんなんだ、な。ぼくは、なかよしを、はなればなれに、しない……」
瞬間、その眼前を赤い影が飛び抜ける。濃縮された紫炎の中に、熱弾を滑り込ませて。
『ッ!?』
「てきも、な……どかん」
勇名がボタンを押し込んだ瞬間、牙角闘竜セデアは爆散する。
音のない真空さえ揺れるほどの、衝撃と共に……。
●
ちかり、ちかり。
無音の虚空で、時計が光る。宙を漂うマルティナは、薄れる意識でそれを見る。
(「十二分、目……今の、爆発は……間に合ったんだな。みんな……」)
その周囲で、竜たちの屍が地球へ滑落しながら燃え尽きていく。
(「さらばだ……大ドラゴン軍団……あとは、あれだけ……か」)
ジークリットの目が捉えるのは、迫り来る螺旋業竜。先に勝った仲間たちは次々と攻撃を始めているが、散発的な射撃ではびくともしない。
(「火力を、集めないと……私たちが、邪魔にならぬよう……回収を……」)
ミリムの指が、緊急信号のボタンを押し込む。その手を、傷ついたもう一つの手が握って。
「頑張ったね、みんな……あとは、任せよう……きっと、止めてくれるから」
重傷者たちを回収するリリエッタが、三人を引いて飛んでいく。近づいて来るヘリオンの機影に向けて。
迫り来る螺旋業竜の前に、宙域中から番犬たちが集まって来る。
だが。
「みんな……数が、へってる……ぜんりょくで、うち込まないと、な」
勇名は息を吐きながら、胸の核へと力を込め始める。
「うん。地球には指一本触れさせない。人にも。動物たちにも。草木にも」
身構えるあかりの背後に息づくのは、数千万の命と、その笑顔。
「それを消そうなんざ許せるかよ。奴らの行先は、あの世への門だけだぜ」
例え傷だらけでも、ランドルフは再び渾身を練り上げる。
集結した中にも、もはや一人とて無事な者はいない。それでも。
「マルティナさんや、みんなの想いと一緒に! 終わらせるわ! スパイラス!」
リリーの聖歌に合わせて三人が……いや、全ての番犬が一斉に、全霊を解き放つ。
螺旋に捻じれる力の本流が、小惑星の如き捻じれた竜へと吸い込まれていく。
……目を焼くような閃光。
凄まじい衝撃。
そして、番犬たちは見る。
螺旋業竜スパイラスが、ゆっくりと砕け散っていく姿を。
「Star dustにでもなりな……!」
ランドルフが銃を仕舞う向こうで、無数の小片が大気摩擦で燃え尽きていった……。
作者:白石小梅 |
重傷:マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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