狙われた12歳

作者:青葉桂都

●12歳以下を狙え!
 その日は気分がよかったので、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)はテンションも高く――それはいつもだが――鼻歌交じりに歩いていた。
「……あら?」
 ふと、トリュームは周囲を見回した。
「あれえ……そんなにワタシの鼻歌、うるさかったかな?」
 別に人通りが途絶えるような時間でもないのに、道には誰もいなかった。
 不自然に人がいないことにトリュームが疑問を感じていた時、事件は起こった。
 音もなく1人の男が現れたのだ。
「ほう――その見た目――」
 忍者頭巾をかぶって顔を隠した男。
 そんな格好で街を歩いているとすれば、ケルベロスかデウスエクスしかいない。おそらくは螺旋忍軍の一員だろう。
「――12歳以下でござるな。実に惜しいことでござる。鍛えればよき人材となってでござろうに……」
 値踏みする……というより舐めるような視線をトリュームは感じた。
 そして彼女は叫んだ。
「変態だーっ!?」
 螺旋忍軍は、顔以外は割と隠れていなかった。
 筋肉質な体のラインがはっきりと出る黒い装束である上に、胸元や太もものあたりはなぜかメッシュになっている。
 12歳の少女がきっと見てはいけないふくらみも、空間を歪める螺旋エネルギーの奥にうっすらと見えている気がする。
「素質ある12歳の少女を殺めねばならぬのは残念なことでござるが……死んでもらうでござる!」
 変態っぽいけど強力なその敵は、殺意を宿してトリュームへと襲いかかってきた。

●狙われたケルベロスを救援せよ
「大変です。デウスエクスによるケルベロス襲撃を予知しました」
 落ち着いた声で石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「襲撃されるのはトリューム・ウンニルさんです。ハイテンションな感じで道を歩いていたところを突然襲撃されてしまうようです」
 トリュームは単独で行動している。1対1で戦えば、敗北は必至だ。
「敵は螺旋忍軍で、ボルテックス・クランの長・ショウターレンという名のようです」
 極限まで鍛え上げた肉体による体術を得意とする螺旋忍軍だ。
 幼い人間を拉致して、螺旋忍軍として育て上げようとするという情報もあるが、真偽のほどは定かではない。少なくとも、今回トリュームを襲撃するのは殺すためだ。
「こちらからトリュームさんに連絡を取ろうとしましたが、残念ながら連絡は通じませんでした。どうやら一刻の猶予もない状況のようです」
 彼女が無事であるうちに、助けてほしいと芹架は言った。
 それから、芹架は敵の戦力について語り始めた。
「敵は螺旋忍軍のショウターレン、単独です」
 鍛え上げた筋肉による体術を得意とするデウスエクスだ。
「彼の肉体から繰り出される攻撃は強力です」
 まずは全身の筋肉を連動させて繰り出す連続攻撃。間断なく踊る筋肉により、追撃を受けてしまうだろう。
 螺旋を描くように回転しながら、範囲を薙ぎ払う技も持つ。螺旋の動きは非常に回避しにくい、命中しやすい攻撃となる。
 筋肉が武器だからと言って近距離攻撃ばかりではない。鍛えた口の筋肉により空気をもの凄い勢いで飛ばして遠距離攻撃を行うことも可能だ。
 なお、この空気の弾丸は体をマヒさせる急所を狙って飛ばしているらしい。
「現場はただの路上ですが、ショウターレンが筋肉の力で人払いを行っているようです。一般人を巻き込む心配はないので思うぞんぶん戦ってください」
 駆けつける時までトリュームが無事であるかどうかはわからない……が、少なくともすでに殺されているということはないはずだ。
「敵にどのような事情があるかわかりませんが、ケルベロスを狙うことを見逃すわけにはいきません」
 ショウターレンを倒し、トリュームを救ってほしい。
 芹架は最後にそう言って、頭を下げた。


参加者
楡金・澄華(氷刃・e01056)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)

■リプレイ

●変態の登場
 体操服にランドセルの少女を筋肉質の男が狙う――犯罪的な光景が展開されていた。
「ところで筋肉の力で人払いってどういうことなの」
 トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は目の前の変態、もとい螺旋忍軍のデウスエクス、ショウターレンに向かって呟いていた。
「フッ、知りたいでござるか。ならば冥土の土産に教えて進ぜよう……」
 そして、ショウターレンは半身になって手首をもう一方の手で握り、胸の筋肉を強調する……いわゆるサイドチェストのポーズで筋肉を誇示した。
 敵はさらに何種類かのポージングを決める。
「こういうことでござる。ご理解いただけたかな?」
「ごめん、なに一つ分からない」
 トリュームも思わず真顔で突っ込んでしまった。
「仕方があるまい。理解を得られないのは残念だが――そろそろ死んでもらおう!」
 改めて螺旋忍軍が身構える。
「超すごいケルベロスのワタシがくそざこ変質者に負けるはずないでしょ!!」
 不敵に笑ってトリュームは応じる。もっとも、目の前の変態が自分をはるかに超える力を持っていることは、彼女にもわかっていた。
 ショウターレンは全身を捻じ曲げる奇妙なポーズをとった。だが、それが弓を引き絞るように全身の筋肉を引き絞っているのだとトリュームにもわかる。
 矢のごとくにデウスエクスの筋肉が動き出そうとする――寸前、横合いから冷静な声が2人へと投げかけられた。
「12歳でしたら、ここにもいますよ」
 長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)の一言にショウターレンは即座に反応した。
 敵は電柱の上に立つ少女を凝視する。
 だが、油断はしていない。敵はケルベロスの1人が気を引くために投げつけた縦笛を指先一本だけで受け止めたかと思うと、牽制の砲撃を跳んで回避した。
 そして、ショウターレンはケルベロスたちを見て、覆面の下で表情を歪めた。
「へ、変態?」
 声には戸惑いが含まれている。
「貴様に言われる筋合いはないっ!」
 思わず叫んだのは楡金・澄華(氷刃・e01056)だった。
 漆黒の瞳と髪を持つ長身の凛々しい彼女は、なぜかランドセルを背負っていた。
「当時とは身長や体格が変わってるし……私が変態認定されないかとは思ったけど……」
 13年ぶりのランドセルはやはり無理があったかもしれない。
「どうも、変質者です……」
 臆面もなく言ったのは瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)だった。
「相手が何歳だろうが、殺すのは感心しないでゴザル」
 彼自身はランドセルを背負ってはいなかったが、ブラックスライムの「濃厚なめんつゆ 3倍濃縮」を少女形にして、保護者みたいな顔で横に立っている。
 助けに来たケルベロスたちは、なんらかの形でランドセルを身に着けていた。
「では、ランドセルを背負って現場に急行という事で……」
「ランドセル!? つけ髭を外し素顔も晒しましょう……」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)とイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)のそんな会話が交わされたのは、つい先ほど。
 きっとデウスエクスの気を引く作戦なのだろうが……。
「人払いしてくれるのは有難いですが……何気に許されざる行為ですね……許せん……」
 刃蓙理の体から殺気が放たれる。
 すでに人払いは行われているはずだが、それでもあえて殺界を作り出したのは、譲れないこだわりなのか。
「トリュームさんが筋肉に襲われると聞きましたがまさか……ショウターレン、悪い冗談の塊のような姿と力ですね」
 語るイッパイアッテナのそばで、ミミックの相箱のザラキが付け髭を着けていた。
「変質者と殴り遭いを成せば好いのか。貴様も私の仔ならば相応の態度を咀嚼するが良い。我が胎内に還るならば幾等叫んでも構わない。愛おしくも愚かな仔」
 すべての生命を自らの仔と認識するユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)が、ショウターレンへと声をかけた。
 そんな彼女もまた、ピンク色をしたランドセルを背負っている。
 ユグゴトでもさすがに三十路でランドセルは恥ずかしかったのか、自らの仔に語りかける彼女は遠くへ視線を向けている。
「トリュームには何かと世話になってるからね! 変なもんに襲われてるんだったら助けてやらなくっちゃね!」
 両手にランドセルを握り、背中にランドセルという名のバックパックを背負ってアリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)が力強く言う。
 緊迫しているのに、どこか変態的な空気が流れていた。
 覆面の下に見えるショウターレンの目は、ケルベロスたちを値踏みしている。
「実はこれはアンタみたいなランドセルを狙う変態を囲んで棒で叩く計画だったのよ! さー観念してハイクを詠みなさい!」
「フッ、数が増えたところで鍛え上げた我が筋肉の前には無力! 12歳以下が数人混ざっているのがもったいないが、そのことを教えてやるでござる!」
 改めてショウターレンが身を引き絞る。
 今度こそ矢のごとく放たれる筋肉質の忍者を、ケルベロスたちは迎え撃った。

●躍動する脅威の筋肉
 高速で迫りくるショウターレンとトリュームの間に、素早く割り込んだのは彼女のボクスドラゴン、ギョルソーだった。
「ギョルソーさんはご無事ですか? 回復は私に任せて、トリュームさんは身軽さと勢いで変質者を打砕く大活躍してください」
 イッパイアッテナは、守りを固めたギョルソーがまだ体力に余裕があることを確かめながら、パズルを組み上げて蝶を召喚した。
 光の蝶はトリュームに止まり、彼女の第六感を呼び覚ます。
「任せて。体操服のストレッチパワーで、今日は筋肉痛のことを考えずに最初から全力で動けるもの!」
 蝶の輝きの中で、トリュームの体もまた光に変わった。
 光の粒子と化して突撃する彼女の鎌をショウターレンがもっこりとしたなにかで受け止める――が、逆手のナイフは螺旋忍軍の体をとらえた。
「その調子です、トリュームさん! 相箱のザラキも応援していますよ!」
 ミミックが彼女を追いかけて走り、大きな口を開けて敵に噛みつく。
 ショウターレンの動きは早かった。
 変態でもデウスエクスは侮れないということか。
 アリアナは後方から素早い動きにしっかりと狙いをつける。
 グランドロン風ランドセル……と、本人は考えているジェットパックで加速しつつ、デウスエクスの動きを見極める。
「仲間のピンチと聞いて黙ってるわけにはいかないからね。プラズムキャノンとっときなー」
 ランドセルを振り回しながら作った霊弾が、デウスエクスを確実に撃ち抜く。
 治癒の力に目覚めた彼女だが、むしろ暴れまわるほうが性にあっているのかもしれない。親しい仲間の危機とあれば、なおさらだ。
 足を止めたところにしかけたのは澄華だ。
「貴様、先ほど私を見て変態と言ったな。つまり……私が12歳以下ではないと見抜いたということか」
「むしろどうして12歳以下に見えると思ったかを知りたいくらいでござるが……」
「黙れ。やはり貴様を生かしておくことはできんな。御首をもらおう」
 一見ヒートアップしているようだが、澄華はあくまで冷静だ。蒼く美しい刃紋を持つ愛刀の力を解放する。
「凍雲、仕事だ……!」
 冷気をまとった空のごとく、容赦のない斬撃がショウターレンを切り裂く。
 他の者たちも攻撃するが、一部は回避された。色物めいていても敵が強いのはいつものことだ。ケルベロスたちはかわされても攻撃を繰り返す。
 燐太郎の命令を受けて、ランドセルを背負った幼女が槍となって敵を貫く。
「子供を攫って戦力にするという情報が事実であれば――」
 電柱から飛び降りざまに、鏡花が『雫=429』を鋼の鬼に変える。
「……何にせよ迷惑な存在には違いないですね。冷静に、狩らなくては」
 生体金属装甲を用いた攻撃はショウターレンの服を引き裂いていた。
 ケルベロスたちは少しずつデウスエクスの体力を削るがら、デウスエクスの反撃も容赦なくケルベロスたちの体力を削っている。
「大・回・転!」
 ショウターレンの筋肉が躍動し、ケルベロスに襲いかかる。
 ユグゴトは素早くトリュームの前に飛び込んだ。
「仔と仔の争いは絶えないが、貴様の如き仔は赦し難い。自分の価値観を人に押し付ける、残念な仔は抱擁せねば。おいで――しかし。私の種と観れば羨ましい螺旋。観察するだけで目が回る」
 2人分の打撃を受けながらも、彼女は慈愛に満ちた瞳をデウスエクスに向けた。
 このような変態……もとい悪党であっても、彼女にとっては愛すべき仔なのだ。
 ミミックのエイクリィやギョルソーと共にユグゴトは攻撃を引き受ける。
「それでは……治しますよ……」
 死の気配をまといながらも、刃蓙理の手から伸びたケルベロスチェインは傷ついた仲間たちを癒していく。
 攻撃をしのぎながら、ケルベロスたちはショウターレンとの戦いを続ける。

●消えゆく筋肉
 戦いはすぐには終わらなかった。変態的な耐久力を打ち破るのは容易ではない。
 ただ、体にぴっちりとした衣装はボロボロになり、より不快感は増している。
「普段人は顔を晒すために尻を隠すが、なるほど顔を隠せばよろこんで尻を晒せるわな」
 燐太郎はそんなデウスエクスの姿を見て唇を歪める。
 もっとも、彼の眼はまったく笑ってはいなかった。
 トリュームにも支援してもらった自らの戦いを思い出す。ダモクレスの素材にされた婚約者や、サイボーグ忍者との戦い……けして忘れられない戦いだ。
 抑えきれないデウスエクスへの殺意を、燐太郎は地獄の炎と混沌の水に変えた。
「ほんの悪意(きもち)だ。お口に合わないかも分からんが……とりあえず喰らっておけッッ」
 反発しあう2つの力をショウターレンの中に注ぎ込む。
 威力はともあれ、敵の抵抗力をそぐ。燐太郎の呪いは確実に敵を弱体化させる。
 敵の弱体化を試みているのは1人ではない。
「ナックルモードに移行」
『――ready!』
 鏡花の声に応じて装着した機械兵装が拳打兵装へと変化して拳に装着される。塀を蹴って接近した少女の拳が、デウスエクスをとらえた。
「行きます――ハイボルテージ・インパクト」
 高圧のグラビティが炎や水と共にショウターレンを内部から壊していく。
 デウスエクスと言えども、少しずつ動きは鈍っていく……。
「だいぶ厳しそうな顔になってきたわね! ざーこざーこ!」
 その瞬間を逃さず、トリュームがショウターレンに煽りをいれた。
「我が筋肉忍法に……まだ限界はないでござる! ひゅーっ!」
 甲高い音が響く。空気の弾丸がトリュームの頭を吹き飛ばして思いきりのけぞらせる。
「図星を指されたからか……冷静さを欠きましたね……」
「そうですね。でも、最後まで油断は禁物です!」
 刃蓙理とイッパイアッテナが言葉を交わしながら、素早くトリュームを回復する。
「精霊よ……お願いします。何でもはしませんけど……」
 大地の加護を刃蓙理が願うと、地面から光があふれた。次いで救護のオーラも飛んで少女を癒していく。
「怒りはよくないな。それは零式忍者の得意とするところだ。動きが読みやすくなる」
 素早く接近した澄華が『零の境地』を込めた拳を顔面に叩き込んだ。
「敵も必死みたいだね。だけど、負けてやるつもりはないんだよ!」
 アリアナが構えたライフルからエネルギーを中和する弾丸が飛んでいく。
 ショウターレンの筋肉にみなぎる力……それが徐々にハリボテへと変わっていくのがケルベロスたちにはわかる。
「殺せ。殺せ。殺して終え。奴が我等を滅ぼすものだ。殺される前に殺して終え」
 ユグゴトの言葉が風に乗って敵の殺意を煽る。
 精神を操るその言葉がさらにショウターレンを追い込んでいく。
 そろそろ戦いも終わりに近づいた――そう判断して、鏡花は痛烈な一撃を加えた。
「ちなみに12歳だったのは昨年までです」
 冷凍光線と共に放たれたその言葉は、攻撃以上に敵の動きを凍らせる。
「あ、私もただのドワーフです」
 朗らかな顔でイッパイアッテナも追い打ちをかけた。
「なん……だと……。お主らは本物だと……思っていたのに……」
 動揺したデウスエクスにケルベロスたちの攻撃が集中する。
 瀕死になった敵の姿を見て、仲間たちのうち幾人かがトリュームへと視線を送った。
「ショックを受けてるみたいだけど変態にかける慈悲はないわ! キャッハー! ステキー! 正義の味方ってサイコー!!」
 トリュームが大きく腕を広げると、身に着けていた空っぽのランドセルが分解して機械脚へと変化した。
 敵に背を向けて駆けだしたかと思うと空を駆けあがり、捻りを加えて急降下。
「無念でござるっ!」
 必殺の一撃を受けたショウターレンはその場で爆散四散。
 覆面と網状の装束だけがひらひらと舞い降りて、変態の脅威が終わったことをケルベロスたちに伝えてきた。

●ランドセルの怪
 戦いは終わり、ケルベロスたちは息を吐いた。
「清掃、完了。皆さんお疲れ様です」
 鏡花が仲間たちに告げる。
「いやー、助かったわ。みんなありがとねー」
 普段通りのテンションでトリュームが仲間たちへと礼を述べる。
「どうしいたしましてだ。さて、まずは傷の手当てをするか。さすがに、無傷というわけにはいかないからな」
 ランドセルを背負ったまま、凛とした声で澄華が応じる。
「トリュームさんが無事でなによりですよ」
 イッパイアッテナは相箱のザラキにランドセルを背負わせ、代わりにザラキに預けていた付け髭をつけ直した。
「全員無事ならば有難いが」
 そう言いながら、ユグゴトはショウターレンがいたあたりへと歩み寄る。
 抱きしめてやるべき亡骸さえ残っていないことを確かめると、彼女は少し残念そうな様子を見せた。
「では、私はこれにて。トリュームさんも帰り道にはお気をつけて」
 手当と片づけを終えて、燐太郎が去っていった。
「そっちも気をつけてねー。うーん一年分のキタナイもの見た気がするわ」
 手を振りながらトリュームがため息をつく。
「しっかり除菌と消臭をしておいたほうがいいかもしれませんね」
 ランドセルからスプレーを取り出して、鏡花が周囲に振りまき始める。
「こういうのは綺麗なもん見て忘れるのが一番さ。どっかいいとこはないかい?」
 アリアナに問いかけられて、トリュームが首をひねり始める。
「心の傷まではヒール出来ない……と思ってましたが、大丈夫そうですかね……」
 刃蓙理が元気そうなトリュームを見て、言った。
 歩き出した少女を、去っていったはずの燐太郎がこっそり見守っている。
 29の男が12歳の少女を物陰から見守るのは少しだけ変質者めいていたが、それを指摘する者はいなかった。
「ところでなんでみんなもランドセルしてるんだっけ?」
 最後に発せられたトリュームの問いに、答えられるものは誰もいなかった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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