●星空より来たる
地表より遥か高高度、大気もほぼ存在しない衛星軌道上。
生命の気配など存在しないその空間に、巨大な一体のドラゴンとそれに連なりドラゴンの群が宇宙を渡りやってくる。
数十キロはあるだろう、巨大な一体のドラゴンは螺旋忍者の本星を喰らい尽くし、竜業合体によりその全てを束ね上げ、進化を果たした螺旋業竜スパイラス。
ただ地球へと辿り着く為にその全ての力を尽くした螺旋業竜は、けれどスパイラスに居た慈愛龍の配下達をこの星に連れてくることに成功していた。
その中にいる一頭の赤竜、名をジービーという。操る炎は破壊の具現、そして同時に再生をも司る炎――彼女の尊大さ故に、再生させたモノは自分自身以外にはないのだけれども。
雌竜はグラビティ・チェインの枯渇に苦しみながらもその心は喜びに満たされていた。
『ああ、ここが地球か』
スパイラスに彼女らが置き去りにされた原因は、この星でのスパイラル・ウォーにある。偉大なる竜にそのような屈辱を与えしめた地球、そしてケルベロス。
何とも醜い――傲慢な赤の女帝は考える。どのようにしてその自慢の炎でこの星を焼き尽くしてしまおうか。少なくとも、人間一匹たりと見逃すことはあり得ない。
邪悪に口元を歪め、ジービーは地球で為すべき事を考えながら落下軌道へと突入していった。
「先日の第二王女ハールの撃破と大阪城地下の探索お疲れさま! 同時侵攻の危機を回避できたのはすごく大きいと思う。これも皆の頑張りのお陰だな!」
集まったケルベロス達に上機嫌に話す雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)、しかしすぐに表情を引き締め直す。
「大阪城地下では本星のドラゴン軍団が竜業合体によって地球を目指しているという情報も得られている。だけど、地球を目指しているドラゴンはそれだけじゃなかったんだ。数年前のスパイラル・ウォーの結果で惑星スパイラスに置き去りにされたドラゴン達が、なんと竜業合体で惑星スパイラスと合体して地球の衛星軌道上に出現する事が予知されたんだ」
一部のケルベロス達が協力を要請していた天文台やNASAの情報によってもう少し詳細な情報が確認されているのだと、知香は言う。
「惑星スパイラスの慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は無茶な竜業合体で殆ど失われている。その上螺旋業竜を利用して地球へと生きたまま渡ってきたドラゴン達もグラビティ・チェインの枯渇で戦闘力はかなり落ちている。けれど慈愛龍はその枯渇を解消する為に、惑星スパイラスと竜業合体した螺旋業竜スパイラスを衛星軌道上から日本に落下させて数百数千万の人間をその衝撃で殺害、グラビティ・チェインを略奪しようとしている。そんな計画が実現したら地球は終わってしまうだろう」
そして知香はケルベロス達を信頼に満ちた瞳で見渡す。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントはどうにか割り出す事が出来た。だから皆には弱体化している慈愛龍とその配下を撃破し、さらに螺旋業竜スパイラスを破壊してきて欲しい」
そして知香はテーブルに資料を開く。
「今回の作戦で迎撃を行う場所は衛星軌道上、そこまでは宇宙装備のヘリオンで移動できる。無重力空間での戦闘になるけれど、望むならジェットパッカー等の移動用装備は準備できるし、戦闘には支障はないと予測されている」
そして知香は資料に描かれた巨大なドラゴンを示す。
「今回の最終目的は螺旋業竜スパイラスの破壊だ。移動に全ての力を使っているからか、地球に移動する以外の戦闘能力はない。それを地球に落とす為に生き残りの慈愛龍配下の上位竜達が守りを固めている。戦闘開始から大体12分、それまでにドラゴンを撃破して他の班のケルベロス達と共に最大出力のグラビティを叩き込まなければ降下阻止はできなくなる」
そして知香は資料を捲り、赤いドラゴンを指し示す。
「倒して来て欲しいのはこのジービーという名の赤竜だ。破壊と再生の炎を操る竜で、実力相応にプライドも高い。惑星スパイラスに置き去りにされた事に酷く歪んだ屈辱を感じているようで、その原因であるケルベロス達へ抱いている憎しみも相当なものだ。攻撃手段は全てを焼き尽くす炎、聞いた者に強烈な圧を与える咆哮、そして体に薄らと纏う破壊再生自在の炎を全身に広げ傷を修復したり、破壊の炎として飛ばしてくるようだ。回復が強力な上に攻撃の度にこちらの加護を砕かれる可能性があるようだから注意が必要だろう」
時間制限付きに再生も得意とする強力なドラゴン、言った白熊のヘリオライダーは困った顔になるが、首を振って真剣な表情で再度ケルベロス達を見る。
「惑星スパイラスを竜業合体させるなんて無茶苦茶な事をやってきたドラゴン達だ。だが、ここを凌ぎ切れば強大な慈愛龍の一派を返り討ちにできる」
皆ならできると信じてる。そう締め括ると、知香はケルベロス達を宇宙の戦場へと送る為に、ヘリオンへと乗り込んだ。
参加者 | |
---|---|
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) |
燈家・陽葉(光響射て・e02459) |
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024) |
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044) |
空木・樒(病葉落とし・e19729) |
アトリ・セトリ(深碧の仄暗き棘・e21602) |
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604) |
●宙の竜星たち
宇宙装備のヘリオンが大気圏を抜け空へ、宙へと飛び立つ。
「ドラゴンらしい力業ですね」
楚々とした戦乙女、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)はヘリオンの外の光景を見ながら言う。
彼女が好む月は見えない。代わりに見えるのは暗き星々の中、衛星軌道上の竜達の姿。
その向こうには力業の権化たる螺旋業竜の巨大な姿。
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)もフードの下、鋭い目で睨みつけている。
「スパイラスに残されたドラゴン達もまた竜業合体で地球を目指していたのね……」
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が青の瞳で装備の調子を確認しながら呟く。
宇宙空間でもケルベロスであるなら問題なく活動できるが、それでもあるに越したことはない。
「地球にそんな危険物を持ち込もうなんていい度胸してますわね」
同じく移動用にジェットパッカーの各部を点検している瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)が言う。新しモノ好きの彼女がこんなチャンスを逃すはずもない。
(「積もり積もった一族の負債、できる時に清算しておきませんと」)
いつも笑顔を崩さない空木・樒(病葉落とし・e19729)も装備の具合を確認しながら思う。
かつて祖先が暗殺したデウスエクス、それが信望していた竜の一体がジービーだったという。
被害者近辺に恨まれるなど、暗殺を生業とする一族の樒にはありうる事という認識だ。
けれど、牙を剥くならば被害者の仲間入りにしてやるだけ。
「ゲートが使えなくなったから飛んできたなんてご苦労様、だけど……」
其方の意味でも被害者でもある。けれどそこに害意があるのであれば穏やかな燈家・陽葉(光響射て・e02459)も受け入れるつもりは当然ない。
「地球にあんなものを落とすわけにはいかないから全力で行くよ」
気合十分な様子の比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)、そしてその隣でアトリ・セトリ(深碧の仄暗き棘・e21602)は傍らのキヌサヤという黒翼猫を軽く撫でながら冷静に状況を整理している。
阻止の為の限界時間、時刻合わせは既に済ませ、そして総攻撃のハンドサインも決めている。
あとはこのジービーという竜を突破し、螺旋業竜に全力を叩き込むだけだ。
「そうですね。計画は阻止させて頂きます」
セレナが返す。人々を守るのがケルベロスの――そして騎士の使命なのだから。
本当に、察知できたのは幸いだと、マキナは思う。
かつては地球に招けば全滅確実の力量の差があったと予知されていた。
けれど、今はその頃よりも成長している。
「もっと運びやすいように、ドラゴンもろともバラバラにしちゃいましょうです♪」
明るく千紘が言い、ヘリオン内の空気が少しだけ和らぐ。
そして、目標の赤竜が近づく。
ケルベロス達はヘリオンから同時に飛び降り、慣性のままに赤竜へと仕掛けた。
●破壊と再生の女帝竜
ファーストアタックは千紘。
「触らぬ神に祟りなし♪」
勢いのままにくるりと一回転しつつ可愛らしく狐尾を振れば、ふわりと飛び出した綿毛が赤竜に命中。大爆発を起こし動きを阻害する。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
そして同時、乙女座の星辰を宿す白銀の騎士剣を抜き放ち、名乗りを上げたセレナが斬りかかる。
その卓越した技量は宇宙空間でも一切の翳りはない。炎宿す赤竜の皮膚を切り裂けば、浸透するような呪縛を刻むことに成功。さらに陽葉の白銀の靴が眩い軌跡を残し赤竜に突き刺さる。
『ケルベロスか! 楽に死ねると思うな!』
怒れる女帝はその獄炎のブレスを以て不届き者への返礼とする。狙いは妖狐や推進機を纏うレプリカント。
瞬時に宙域が炎熱地獄と化す。が、樒が冷静に薬液の雨を周囲に散布。霧のように宙域に広がったそれらにより傷の殆どが癒される。
さらにアトリが忠実なオウガメタルの粒子を後方に展開、重ねられた清浄なる風の流れが後衛のケルベロス達の傷を癒し、加護を与える。
「この時期にストーブは季節外れだ、帰んな」
そしてジグが飛び込みチェーンソー剣、骸音・【死神熱破】を唸らせ竜の堅牢な鱗を崩す刃を突き立てんとするが、赤竜はその翼を羽搏かせ回避。
そこに推進機により回り込んだマキナの竜の槌より放たれた砲弾が翼に命中。動きが僅かに鈍り、
「全力で思いっきり叩きつける」
そこに黄泉が加速させた神撃槌アニヒレイトスマッシャーを振るい叩き飛ばす。
追撃のセレナのサイコフォース、けれど赤竜はそれを読み身体を大きく移動させ回避。
「この青さの良さが理解できないなんて貴女と仲良くなれないです」
千紘が赤竜に自慢の螺旋機関砲の銃口を向け炎を放つ。
正義だとかそういうものではなく、彼女が地球を守るのは青くて綺麗で、欲しいと思ったから。
螺旋業竜達の計画が成功すればこの青も台無し、欲しいモノを破壊しようとするなら。
「赤く爛れる地獄の炎がお似合いね」
『地球に向かわせた配下も既にいない、なら全て焼き尽くしても問題はない』
放たれた炎への女帝が吼える。それは恐ろしい圧を伴い千紘を痛めつける。
竜の咆哮に傷ついた千紘に樒が薬匙を模った雷杖を向け雷撃、彼女の生命活動を賦活化する。
「わたくしが居る限り、誰一人戦闘不能にはさせませんよ、貴方とは違いますから」
表情を崩すことなく樒は言う。敵は上位ドラゴンの一体、無傷の生還というのは難しいだろう。
けれどそれを宣言したのは眼前の竜への無意識の嫌悪感からか。
「そんな馬鹿デカイ物を丸ごと持ってこねぇと星1つ攻略できねぇ羽の生えただけのトカゲ風情が随分とでかい口を叩けるな」
赤竜にジグが挑発。竜はそれを無視する。それはまるで民の言葉を聞かぬ冷徹な女帝のよう。
推進機で加速し、ジービーの真下に潜り込んだマキナがカプセルを投擲。
命中したそれに気を取られた瞬間、黄泉が妖精のレイピアで一気に切り抜ける。その刃は竜の鱗すらも容赦なく切り裂き、続くジグの鎖刃が斬り破る。
だが、ジービーの体から炎が溢れだす。
破壊と再生の炎、それにより傷と呪縛を一気に焼き払ったのだ。
炎が消えた後にはほぼ完全な見た目の女帝竜。
「あーんもう! やっかいですわね!」
じわりと響く炎の痛みを堪えながら千紘が不満げに口にする。
螺旋大宝槌【ガールズトーク】を砲撃形態に変化させ思い切り振るい、ピヨと可愛く鳴らしながら砲弾を放つ。
戦いは続き、ケルベロス――特に後衛の負傷が重なっていた。
セレナも陽葉も出来るだけ庇いに入るが、宇宙空間全周が利用できる戦場では全てを守り切る事は難しい。
周りを巻き込まぬように、それは言い換えれば危機に陥っても互いの支援を行い辛いことでもある。
赤竜もその戦闘経験を活かし距離と位置関係を上手く制御し、効率的に攻撃を重ねていく。
アトリが注意を逸らす為愛用の銃で赤竜の頭部へと銃弾を撃ち込むも、赤竜は一瞥すらしない。
ジービーが纏う炎が小型の竜巻のように樒を包み、炎上する。
だが、それは赤竜にとっての悪手。女帝の炎は樒を焼き尽くす程ではない。
即座に樒は芽生の枝を手に周囲の無機物――宙域に漂う小型の岩石と精神を安定させる。
樒の裡にほんの少し、もやもやとした何かが疼いているのだけれども。
「護って!」
陽葉の言葉と共に杖より三本足の金色の烏の姿に戻った清光が羽ばたき、羽より生み出された分身達が樒の周囲を飛び回り守りを固める。
「上位のドラゴンと聞いたのだけど――目の前のケルベロスすら満足に倒せないのね?」
「来いよゴミストーブが」
『成程、余程死にたいらしい』
マキナとジグの挑発に軽く翼を振るい跳ね除けようとする赤竜。それを推進機の加速で回避しながらマキナは思案する。
回復の頻度こそ少ないが、傷も呪縛も致命にならない段階で回復している。言動にしてはかなり堅実な性格のようだ。
キヌサヤが緑のマントを靡かせ、後衛に羽搏きの風を送るが、直後放たれた獄炎のブレスはその加護をも焼き払い炎で包みこむ。
厄介なのはこれだ。加護も呪縛も全部崩される。
千紘の前にはセレナが割り込んでいる。身を焼かれる痛みは耐性のある装備でも尚厳しい。
だが、この程度に騎士の意志が屈する訳がない。
「この剣が、そして私の意志が折れない限り、その炎には屈しません!」
ジグがその竜尾を、更に陽葉が鋼の拳を叩きつけんとするが、それらは爪に防がれてしまう。
その隙に前衛へと加護を再び与える為に、アトリは再び銀の粒子を展開しようとする。
しかし、ジービーの体より溢れた賦活の炎が攻撃へと転じ飛来。
狙いは黒き翼猫。とっさに護り手二人が反応するが間に合わない。炎の蓄積に削られ、そこに強烈な業炎の直撃を受けたキヌサヤはその身体を消失させる。
黒猫の消滅に表情を曇らせながらもアトリは銀の粒子を展開、活性化された感覚を以てジグが降魔の力を宿す一撃を赤竜に見舞った。
――残りは、五分。
●力の使い途
既に十分の経過を示すアラームは鳴っている。その間に回復が行われたのは三回。
三回目はアトリに呪縛を増幅させられた直後、回復量自体は呪縛のお陰で相当減ってはいたが、呪縛の多くが解除されている。
時間制限を考えるなら、これ以上回復された場合非常に厳しい。
宇宙空間、ジービーの額を狙いマキナの気弾と黄泉の槌の一撃が命中、その身体がぐらりと揺らぐ。
赤竜の攻撃が前衛に向くようになっている為、マキナも攻撃に専念できているのは幸いだ。
反撃の獄炎が前衛に放たれる。
巻込まれそうな位置にいた千紘は宝槌を変形、砲弾を放った衝撃とジェットパックの加速で離脱。その直後にブレスの余波の熱がちりりと彼女の前髪の先を焦がした。
(「お、おっかなかったです」)
ぶわりと尻尾を三倍ほどに膨らませ、それでも表情には出さない女狐。
黄泉を焼かんとする炎、けれどそれは陽葉に防がれた。攻撃が前衛に向けられているから幾分守りやすくなったが、その分護り手達にかかる負荷も増大している。
「テメェみてぇなくずと同類だとは思われたくねぇな。死んでもだ!」
一方で、ジービーの身体にジグが鎖刃を叩きつける。モーターの唸りと共に竜の血が飛沫き、玉となり周囲に散る。
その間に無重力の中、鋭いステップを刻み花弁のオーラをアトリが降らせ、さらに陽葉のブラッドスターの歌声が後衛の仲間達の傷を癒やし炎の呪縛を解除する。
マキナが胸部を変形させて出現させた発射口から必殺の光線を放つ。それが命中し赤鱗を穿ったと同時に鎧装から伝わる微弱な振動。
アトリも大きく手を振り合図を出す。ここが阻止限界、その報せだ。
そして樒は一瞬だけ思案し、樒が秘薬を取り出し、それを惜しげもなく前衛に振る舞う。
それは夜闇に沈む小さき星すらただの獲物に貶める程に夜の視覚を強化する樒が改良・再現した遊牧民の国の秘薬。彼女の癒し手の能力と安定した精神により振るわれたそれは傷ついたケルベロス達を一気に癒す。
しかし、炎はまだ残っていた。
ジグが動くと同時、癒やされた端から炎は体力を危険域にまで削っていく。
だが、知るか。
炎に焼かれながらもジグは前に出、
「舐めるなよ? てめぇら如きにあの星が殺れるなんて思うな」
かつてデウスエクスに家族を奪われた恨みを解放。
「あの星には番犬がいる。縄張りに入った奴を真っ黒に焼き殺す……俺らケルベロスがよぉ!」
眼前の赤竜に赤き右腕を叩きつける。荒々しい一撃は獰猛な獣のよう。
しかし、攻撃が続かない。
その一瞬、ジービーは逡巡する。傷を癒やすかそれとも攻撃に出るか。
だが竜が弱気になるなどあり得ない。獄炎のブレスを至近のジグ、そしてその周囲へと吹き付ける。
護り手もこの距離では間に合わない。ジグはブレスに焼かれながら大きく弾き飛ばされる。
けれど、この選択がジービーの最大の過ちであった。
陽の輝きを宿した瞳を眇めた陽葉が清光を放つ。金色のオーラを纏う烏は赤竜の胸に突き刺さり、その身の呪縛を取り返しのつかない程に増幅させる。
「地球のケルベロスとして、そして騎士として。貴殿のその首、貰い受けます」
騎士の声が赤竜に届く。
「ジービー殿。今こそ、断罪の時です。アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
魔力を巡らせ向上させた運動能力全てで、セレナが奥義たる閃光のような一閃を放てば逃れんとする赤竜は怜悧に切り裂かれ。
更に赤竜の真上からアトリが強襲。獄炎の間隙をすり抜け竜の真上に到達した彼女は、
「――我が閃は稲妻より疾く奔り、刃より鋭きと識れ!」
頭から胴体を切り裂く雷撃の如き一線を見舞い、そのまま通り抜ける。シャドウエルフの一閃に連携した千紘の宝槌の砲弾が命中、急所に命中したそれを祝うようにピヨピヨと音が鳴る。
(「その強大な癒しの技能を自分に使っていれば危なかったのでしょうが」)
樒は思う。ここで攻撃でなく回復に回っていたなら総攻撃には間に合わなかっただったろう。
「相手を喰らい未来を奪うだけの種に負けないわ!!」
マキナが竜の砲弾を撃ちこみ、その意志を黄泉が繋ぐ。砲弾と同時、残像すら伴う速度で黄泉がジービーをすれ違い様に切り刻んだ。
その傷を塞ごうと竜の炎を展開しようとしたが、もう手遅れだ。
炎が広がり切る前に、赤竜から生命の灯火は消えたのであった。
●螺旋業竜の終わり
女帝は斃れ、急ぎケルベロス達は衛星軌道に散開する。
もう時間の余裕はない。速度的にも距離的にも取りつくには厳しい。
セレナは星月夜を納め、精神を極限まで螺旋業竜へと集中させる。
マキナの胸部が変形。既に疲労も限界に近いが、ここで倒れる訳には行かない。
大目的の為に意識を失ったジグを担いだ樒が薬匙型の雷杖より電撃を放ち、
「星砕き、やってみせるよ」
生命を賦活化された黄泉は弾丸とする為に気を練り上げる。
尾を九本に増やした千紘が白い毛玉に、そして陽葉は金の烏の姿へと戻した杖に全ての力を込めて。
そして、準備を整えたケルベロス達が一斉にグラビティを放つ。
衛星軌道から一斉に放たれたグラビティが次々に螺旋業竜に突き刺さると、各所で爆発が起き、破片が分離。
本体の過半は程なく消滅、残る破片も重力に引かれ、流星となり大気圏で燃え尽きてゆくのだろう。
アトリの雷光の如き鋭き一閃が分離したスパイラスの巨大な残骸の一つを断ち切り、そして、金色の烏が主の元へと帰還した頃には殆ど全ての残骸は燃え尽きる程度の大きさとなっていた。
災厄の螺旋業竜より地球を守りぬいたケルベロス達をヘリオンが迎えに来る。
この光景は地球ではどんな風に見えているのか――きっと、悪いものではないだろう。
そうしてケルベロス達は地表へと帰還したのであった。
作者:寅杜柳 |
重傷:狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月5日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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