
●傍から見てると楽しそう
夜も更けた街。
ひとけの失せた通りの一角に、小さな和菓子屋があった。饅頭や羊羹、煎餅など品数は揃っているが取り分け店の一押しとなっているのは飴である。
砂糖と煮詰めた水飴を練って、成形しただけのシンプルな飴。どこか懐かしみを覚えさせるツヤツヤの飴は不動の人気商品だった。
そんな和菓子屋の裏手には、1機の機械がぽつんと捨て置かれていた。
食感や光沢を作るために飴を練り上げる機械――製白機だ。数本のアームで飴を練り練りしてきただろうそれは、故障でも来したのか勝手口の横でひっそりと眠っている。まだちゃんと廃棄されていないのは、ひょっとしたら店主の愛着ゆえかもしれない。
けれどそれが不味かった。
不意に空からひらひらと、極小ダモクレスさんが落ちてきたのだ。ダモクレスさんは夜空をしばらく遊泳してから、導かれるように製白機へと軟着陸した。
――で。
「ネリネリーー!!」
案の定、製白機がダイナミックに復活した。
「ネリ♪ ネリ♪」
鼻歌でも歌うみてーにして歩き出す製白機は、全高3メートルはありそうなスーパービッグボディへと変身。ていうか待って。歩いてるってことは脚も生えてる。
「アメー♪ アメー♪」
ボディの横に突き出た回転式アームを、ぐいんぐいんと駆動させるダモさん。するとアームの先端からするするーっと透明な飴が排出されてゆく。
アームに絡めとられ、折り重ねられ、空気を含んで白くなってゆく飴。
……こ、こいつ!? 飴を自前で生成してやがる!!
●製造工程の飴ってデンジャラスな熱さらしいっすよ
「――という感じのダモクレスだ」
「飴が食べ放題、ですね……!」
ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が読み上げていた資料をパタリと閉じて顔を上げると、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)が緑色の瞳に星空を作っていた。
飴が食べられる。
その事実に、甘い物大好きっ子の心はすでに囚われていました。
「楽しみだね、地デジ……!」
「この製白機ダモクレスを放っておけば、いずれ人々に被害を出すのは明白だ。そんなことが起こる前におまえたちの手で破壊してきてくれ。それさえこなしてくれれば飴をいくら食べようが関知はしない」
仲良しの地デジ(テレビウム)と一緒にとっとこヘリオンへ駆けてゆくオリヴンをスルーして、猟犬たちへ真面目な顔を向ける王子。マスクって有利だと思う。
しかし破壊するにしても、まずは敵の情報を知らねばならない。
ってなことをそれっぽく話すと、王子はガチめの表情を崩さないまま説明してくれた。
「ダモクレスが取りついたのは、千歳飴などの飴を練り上げる機械――製白機だ。こう、数本の回転するアームに絡めて、何度も何度も伸ばしては折りたたむ感じで練るもののようだ。それが3メートルぐらいのサイズになっている」
ふむふむ、と王子の言葉をもとに情景を夢想する猟犬たち。
「練って空気を含むことで飴のツヤや食感が良くなるようだな。ただの機械でなくダモクレスだから、飴の色とか味も好きにオーダーできるらしいぞ」
至れり尽くせりですなぁ、と首を肯ける猟犬たち。
「おまけに自身で飴を生み出すから、ほぼ無限に食える」
最高だな! と猟犬たちは意味もなく王子にサムズアップしていた。
飴が無限。
その圧倒的な響きに抗う術はなかったのだ。
「ザイフリートさん、早く……!」
「善は急げという言葉もあるでござる。早急に出発するでござるよ、ザイフリート殿!」
すでにヘリオンに乗りこんでいるオリヴンと、ガルディオン・ドライデン(グランドロンの光輪拳士・en0314)も逸って王子を手招きする。
かくして、猟犬たちは魅惑の飴食べ放題祭りに出立するのだった。
参加者 | |
---|---|
![]() モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721) |
![]() 隠・キカ(輝る翳・e03014) |
![]() キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513) |
![]() オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322) |
![]() 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286) |
![]() アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846) |
![]() アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664) |
![]() 大森・桔梗(カンパネラ・e86036) |
●製白機さんを訪ねて
「アメ! アメー!」
「何よこれ……デカすぎじゃない?」
店の裏手に着くなり、モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)は呆気にとられていた。
「飴も巨大サイズなんでしょ? どうするのこれ」
「大きいアメ、楽しみです、ね……!」
「うん、楽しみ」
「私の話聞いてないわね」
雁首揃えてダモさんを見上げるオリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)と隠・キカ(輝る翳・e03014)の耳には、モモの言葉がまるで届いていない。
もう眼がキラッキラで釘付けなのだ。
飴を伸ばしては練ってゆく、製白機さんのアームに釘付けなのだ。
「アメー! ネリー!」
「アメの色がどんどん変わっていくね……」
「透明なアメもキレイだけど、練って白くなっていくのを見てるの楽しいんですよ、ね」
「本格的な大量生産の機械は初めて見ました……!」
飴が白く濁ってゆくのを観賞するキカ&オリヴン。そこへランタン持った地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)もとことこ歩いてくる。明かりを少し向ければ白い飴がツヤツヤと光って、それがまた綺麗だったり。
「アメー!」
興味津々な少年少女の視線を受け、いっそう張りきって飴を練るダモさん。
スピードアップするアームの回転を、アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)と大森・桔梗(カンパネラ・e86036)はしげしげと眺める。
「なるほど、こうやって練れば練るほど美味しくつやつやになるのですね」
「飴細工の職人の技はテレビで見たことがありますが、機械まであったなんて……一度に沢山作れるし、とっても便利ですね!」
「美味しいものは多く作れるに越したことはないでござる」
アリッサムたちの後ろで頷くガルディオン・ドライデン(グランドロンの光輪拳士・en0314)。
「今日はいっぱい飴を食べるでござるよ」
「ええ、飴うめぇしましょう」
「はい、飴うめぇですね」
期待に胸躍らせハイタッチする3人。
他方、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)はその場にしゃがみこんでテキパキと手作業をしている。
「……飴の調節、どれほどなのかしらね」
言葉の端にそわそわが覗くキリクライシャの手元で、林檎に割り箸がぶっ刺さった。
「……これで10個。先は長いわね、リオン」
「――♪」
同じく割り箸に刺さった林檎を持ち上げて、バーミリオン(テレビウム)が主人の言葉にぴこぴこと頷く。2人の横には箱買いしてきた林檎が何箱も積み重なっていた。
林檎飴に全振りだった。
「林檎飴か! オ祭りだナ!」
「……提灯も持ってきてるわ」
ひょこっと顔を出してきたアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)に、持参した提灯を見せるキリクライシャ。
が、彼女はアリャリァリャの姿を見て、暫し言葉を失った。
「……首に巻いてるそれは?」
「これカ? ダモさんから貰ってキタ飴だゾ! 熱々!」
うにょーんと首にひっかけていた長大な飴(成形途中)を見せびらかし、カラカラ大笑いしてはむっと齧るアリャリァリャ。
「出来立てアツアツの飴もおいしい!」
「……火傷はしないように、ね」
●制作過程
にょいんにょいん、と伸びる飴。
力を加えれば自在に形を変える飴(数キロ)で、アリャリァリャは遊びまくっていた。
「伸ばすのモ結構難しいナ! でも楽しイ!!」
「アリャリァリャ殿、元気でござるなあ」
まるで幼子のように飴を振り回してその場を駆けるアリャリァリャを見物しながら、大きな腕を上に伸ばすガルディオン。彼が和菓子屋の屋根の縁に吊るしたのはランプだ。
「桔梗殿、ランプはこの辺りでいいでござるか?」
「ありがとうございます、ばっちりです」
「では、次はキリクライシャ殿の提灯でござるな」
桔梗が持参したランプを巨体をいかして高所にセットしたガルディオンが、足元に置いていた提灯を拾い上げて歩いてゆく。十分な明かりが猟犬たちを照らすまで時間は長くかからなかった。
「……明るくなったし、これで作業がしやすくなるわね」
割り箸の刺さった林檎が詰まった箱を抱えて、ダモさんに近づくキリクライシャ。
「……いいかしら?」
「ダモ?」
「……これを飴でコーティングしてもらえる? 色や味を自由に変えられるのなら、いけるわね?」
「ダモォ!」
「ダモさんが、任せろって言ってます……!」
「ん、キカにもわかるよ!」
サムズアップ的なムーヴをしたダモさんの両隣で、オリヴンとキカがはしゃぐ。飴ちゃんを前にして色々と高まっているのだろう。空耳が過ぎます。
「……色は赤と、緑と、色なしの3種類で。味を林檎にあわせて整えられるなら是非。……沢山準備したのよ」
ダモさんに迫ったキリクライシャが、緑の瞳をキラキラさせて自身が来た方向を指差す。
その先ではバーミリオンが完成した林檎飴を透明袋で包装すべく片膝立ちでスタンバっている。
その意気に、ダモさんも揚々と応えた。
「アメーー!!」
「……すごいわ。色とりどりの飴がこんなに……」
どばっと放出した透明の飴が林檎を包む。キリクライシャはその美しさに眼を奪われ、キカやアリッサムは乙女の笑顔を浮かべた。
「すごいね、製白機さんすごい!」
「カラフルな飴は綺麗ですね……」
「アメェ!」
「わっ、アメがいっぱいふってきた!」
2人の拍手に気をよくしたダモさんが生成力を全開。1個数十キロぐらいありそーな飴が降りそそぐとキカ&アリッサムはきゃいきゃいと喜んだ。
「きぃも何か作ってもらおうかな。いろんなお花とか」
「飴のお花畑なんかできたら素敵ですね……!」
「お花畑……いいね! 製白機さんにいっぱい作ってもらおう!」
ててて、と最速でダモさんにお願いに行くキカ。
アリッサムとの連携オーダーをダモさんは快諾。アメアメ言いながら花を模した飴を作りまくった。
「きれいでかわいいアメがどんどんできてく……すごいね……全世界の人の夢だね」
「ええ、夢ですね……」
ずどどど、と積みあがる飴の山にウットリする2人。赤や紫の薔薇はイチゴやブドウの味がするし、黄色や橙のひまわりはレモンとオレンジの味がして、花飴は目にも舌にも楽しい品々になっていた。
なのでキカとアリッサムが飴山にダイブして飴をざざぁーっぶちまけたのは仕方ないことだったんだ。
「たのしいね、アリッサム!」
「飴うめぇ……飴うめぇです……」
「あの2人……全力で楽しんでるわね」
「ふふ、そうですね……」
飴の花畑の上でばたばたしてる2人を見て微笑むのは、モモと夏雪だ。
その場に立つ2人の前には、大きな飴の塊が鎮座していた。少し前にダモさんが大放出してものだろうそれは、所々へこんだり削られたりして何やら立体的な陰影を作っている。
そして、モモはノミと木槌の二刀流だった。
「しかしこうも大きいと削り甲斐があるわね」
「はい……彫るのも大変です……」
氷の細剣を手にしている夏雪が困り笑いを浮かべる。その足元には塊から削り出された飴の屑が足の置き所もないほどに積もっていた。
この人たち、当然のように彫像してる……。
「……うん、美味しい。口当たりも滑らかで程よい甘味を感じるし」
「ですね……! ついつい食べるのに集中して、制作が疎かになりそうです……」
削った飴を口に含んで味わいながら、並んで飴の塊に得物をあてがうモモと夏雪。木槌をカーンする女と慎重に細剣を動かす少年はもはや彫刻家の空気すらある気もする。
現に、2人が手掛ける飴像は徐々にその正体を見せはじめていた。
「夏雪さんが作ってるのは……兎かしら?」
「はい……バレンタインのお菓子作りで練習したので、兎さんや猫さんならお手の物です……! モモお姉さんは鶴ですか……?」
「まあ、ね」
ノミを手元でくるりさせてウインクするモモ。キカたちに負けず劣らず楽しんでるように見えるのはきっと気のせいじゃない。
一方、オリヴンやアリャリァリャは――。
「ダモさん、大きな柱や壁を沢山沢山作ってもらえますか? ボクは、ここに御殿を建てたいんです……! 壁はノーマルな白いアメで、柱はコーラ味、屋根はソーダ味の瓦にしてほしいんですけど……」
「アメェ!」
「ウチは御殿の中にでっカイ食堂を再現すル! 家具とか装飾とか、食器とか長ーいテーブルもゼンブアメで! だカラそれっぽいパーツ頼むゾ!」
「アメアメェ!」
注文を次々にぶつけてダモさんに飴の建材を作ってもらっていた。
壁に使えそう平たい飴や柱に使えそうな長い飴、長テーブルによさそうな長大な飴やら食器用の細かい飴がアームから降ってくると、オリヴンたちは飛びついた。
が、別に着工するわけではない。
「まずは味見、です……地デジもチェックしてね」
「飴をバリバリ食べるのも快感だよナ! 味もバラエティがあるカラ食い足りネー!」
オリヴンが地デジ(テレビウム)と一緒にコーラ味の柱に齧りつき、アリャリァリャが長テーブル用の飴をぱっくりと噛み千切る。
潔いほど食い気優先であった。
「おいしい、もう一口……!」
「ウチももう少シ……あ、ソーダ味の屋根チョット食べてイイか?」
「お2人とも……建築に使う分が残るんでしょうか……?」
もはや普通に飴食ってる2人を見てちょっと心配になる桔梗。
だが、すぐに己の使命を思い返すと、彼はスススッとダモさんの横にすり寄った。
「私もお菓子の家が作りたいので……同じように建材をお願いできますか? 家具やドアや、窓硝子なんかも作ってもらえると嬉しいです」
「ダモォ!」
「貴方は有能なダモクレスさんとお見受けしましたので、勿論、摺加工を施したグラデーションな硝子飴も朝飯前で出来ますよね? 中に食用ハーブを入れて良い香りのする、お洒落な雰囲気の食器も幾つか出来ますよね?」
「ダ、ダモォ……!」
丁寧な物腰でしかし圧をかけてくる桔梗にたじろぐダモさん。だが彼もまた歴戦の製白機さんである。職人魂でも刺激されたのか張りきって飴をネリネリした結果、桔梗は飴のドアやら摺硝子やらに囲まれていた。
「では……とりかかりましょう!」
目指すはリアルサイズの家。
その初めの一歩たる礎石(飴)を、桔梗はそっと地面に置くのだった。
●完成間近
「……提灯型の飴も面白いわね、リオン」
「――♪」
「アメェ!」
胸を張るような仕草をするダモさんの足元で、キリクライシャとバーミリオンが飴のくっついた割り箸を振っている。先端から器用にぶら下がる飴は提灯の形をしていて、2人が左右に振るたびにゆらゆらと揺れた。
「……余った割り箸が活用できて、よかった」
別の手に持った林檎飴を、ぱき、と齧るキリクライシャ。彼女の言に頷くバーミリオンは個包装された林檎飴が詰まった箱をポンポンする。業者の風情である。
業者といえば、飴像制作に勤しんでいた2人もそうかもしれない。
「ここ、欠けてるわね」
立派な翼をひろげる『鶴』に、モモがとろりと柔らかな飴を塗りつける。ダモさんに作ってもらった補修材の飴である。像も直せるし食べても美味しい優れもの。
「思ったより熱が入っちゃったわね。夏雪さんのほうはどう?」
「あ、僕もいい感じです……」
柔らか補修飴をぺろりと舐めながらモモが振り向くと、夏雪が大勢の兎さんや猫さんに囲まれていた。丁寧にどれも模様が違っていて、おまけのポージングも凝っている。
モモの像の出来も素晴らしければ、夏雪の像もまた会心の作だった。
「みんなは建物を作ってるみたいだし、いい飾りになるわね」
「そうですね、モモお姉さん……」
「ところで夏雪さん、その手に持ってるのは?」
「これですか?」
握っていた棒のようなものをモモに見せる夏雪。
「どこで切っても同じ柄が出てくる棒飴です……ダモクレスさんに飴をいっぱい出してもらって作ったんですが……太すぎて食べれなくなっちゃいました……」
(「夏雪さん、結構抜けてるのね……」)
えへへ、と苦笑する夏雪くん。
「まあ、その飴はきっと建築組の人たちが食べてくれるわよ」
「そう、ですね……」
モモと夏雪が、少し遠くで肉体労働に従事している仲間たちを見る。
信じられねーことに、飴御殿とか飴ハウスとかは割と普通に6割ぐらい出来上がっていた。
「イチゴ味のアメ、美味しいです、ね……」
「うむ。しっかり風味を感じるでござるなぁ」
「重くないので何個でもいけちゃいますよね……」
「にょいーん……にょいーん……た、楽しいです!」
オリヴンもガルディオンもアリッサムも夢中で飴もぐもぐしてるけど、桔梗に至っては飴を伸ばしてネリネリするのにハマっちゃってるけど、本当に建物は出来ているんだ。
食べかけの飴をもぐっと口に詰めると、オリヴンは改めて飴御殿を眺めた。
壁部分はすべて作れていて、もう建物の体は成している。あとは屋根をはっつけて、内装外装を仕上げれば立派な御殿の完成だろう。
「……ガルディオンさん、アリッサムさん、天井はどうです、か……?」
「ソーダ味の瓦屋根、着々と敷いてるでござるよ」
「どこに出しても恥ずかしくない日本式屋根にしますから安心してくださいね」
尋ねてくるオリヴンにそう答えて、ガルディオンが己の胸を叩き、アリッサムが翼をひろげて上方へ飛んでゆく。御殿の上部は2人に外部委託しているというわけだ。
「みんなが住める飴御殿、完成間近です……!」
「そちらもですか。私の飴の家もそろそろ出来上がりますよ!」
完成予想図を頭に描いてわくわくするオリヴンに、桔梗が自身が手掛けていた飴の家のほうを指差して示す。
そこには普通に戸建ての家があった。飴の光沢がてらてらしてる以外は何も差はないと言っていい。入口には巨大なペロペロキャンディ(赤と白)が立てかけられていて、巻きつけられた植物っぽい装飾が桔梗の情熱のほどを窺わせてくれた。
「作るのは大変でした……」
「おっきな飾り、可愛いです、ね……!」
ペロキャンを見て眼をキラキラさせるオリヴン。
すると彼の袖を、キカがくいくいと引いた。
「ね、ね、オリヴン」
「キカさん? どうかしまし――」
キカへ振り返ったオリヴンが、ぴたりと止まる。
自身の飴御殿の門前に、なんか人間大のロボットみてーなのが突っ立っていたのだ!
「あれ、は……!」
「キキの大きいバージョンだよ! 大きいキキが飴御殿を守るよ! しゃきーん!」
両手で飴ロボットを示すキカ。ちなみに『キキ』とはキカが肌身離さず持っている大事な玩具ロボのことであり、それを模した飴をダモさんに作ってもらったのだ。大小ふたつ生まれたキキ飴は大きいほうが門番に、小さいほうはキカの口の中に入りました。
「飴御殿がまたレベルアップ、です……!」
「アリャリァリャの食堂もできてたよ。中に入ってみよ?」
「はい……!」
きゃっきゃ、と飴御殿の中に入るオリヴンとキカ。飴らしくペタペタする床を駆け、広い食堂に到着すると、中央に飴でできた食器や料理がこれでもかと並ぶ長テーブルが置いてあった。
そしてそのテーブルの上に、アリャリァリャも大の字で寝ていた。
「どこヲ見ても飴ばかリ……壮観だ……シャンデリアも食べらレル……料理を食べタラ食器も食べらレル……天国じゃネーか!!」
「床や壁も、食べられますしね……!」
「テーブルも椅子もだよね。すごいね。お食事に困らないね……」
テーブルによじ登ったオリヴンとキカが、アリャリァリャを挟んでごろん。
そのまま3人は暫し、夢の園に酔いしれるのだった。
●忘れちゃいけない
ボッコボコに大破した、製白機さん。
それを隅っこに置いといて、猟犬たちは飴御殿や飴ハウスを見上げていた。
「綺麗ですね……」
「夢が現実になったみたい、です……」
「……リオン、そこに林檎飴を持って立って。御殿をバックに、そう……」
夜桜よろしくライトアップされ、キラキラ輝く建物にカメラを向けるアリッサムとオリヴン。キリクライシャもバーミリオンにポーズを取らせてパシャパシャとシャッターを切っている。
せっかく作ったのだから、と一同は盛大な撮影会に興じていました。
だが飴であるならばやはり最終的には食うことに帰結する。御殿や家の周りに配した飴像たちの撮影を終えたモモは、名残惜しさを感じながらも鶴の羽をぱきりと噛んだ。
「あれ、こことここの飴、味が全然違う……? 同じ色でも味にバリエーションがあることもあるのね」
「そんなコトもできたノカ……ダモ……惜しい奴だっタナ……」
ゴージャスな椅子を食いながら、アリャリァリャが亡きダモさんに思いを馳せる。甘くて美味しい飴がもうタダで食えないと思うと非常に惜しまれます。
ペロキャンをもぐもぐしていた桔梗は、お茶を飲んで息をついた。
「でもダモクレスさんのおかげで今日はたくさん食べられました。向こう一月分ほどの飴を食べた気分ですね」
「うん、きぃもたくさん食べちゃった。お腹いっぱいでねむいね」
「じゃあそろそろ帰りましょうか。あ、寝る前はちゃんと歯を磨いてね」
「は、歯みがき?」
モモの何気ない一言に、びくりと肩を揺らすキカ。
「するよ、ちゃんとするよ。きぃいい子だもん」
「僕も、しっかり歯を磨きます……」
そわそわと挙動不審ムーヴを繰り出すキカの横で、夏雪が頬に手を当てる。
そんな彼の手には、飴のぎっちり詰まった袋が提げられている。
「お土産、皆さん喜んでくれるでしょうか……」
作者:星垣えん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2020年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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