荒ぶる、電動鉛筆削り機！

■リプレイ

●都内某所
「……実は『鉛筆削りって何っ！？』と思っていたから、しっかり勉強してきたわ。いまどき鉛筆なんて使うひともいるのね。鉛筆よりもシャーペン……と言うか、シャーペンで事足りるから、鉛筆削りの存在自体知らなかったけど、でも……木の匂いはちょっと好きかもっ」
　佐竹・レイ（ばきゅーん・e85969）は仲間達と共に、廃墟と化した倉庫にやってきた。
　ダモクレスと化したのは、ここに捨てられていて電動鉛筆削り器で、通常の鉛筆削りと比べて切れ味が鋭く、槍の如く尖ってしまうのが問題視され、リコールされてしまったようである。
　そのため、鉛筆削りではなく、槍製造機と揶揄され、違った使い方をされる事もあったらしい。
「……なるほど、子供がよく勉強するようにと工夫して、色々な便利道具が作られているんだねぇ。おそらく、こういったモノを、プレゼントしたりしていたんだろうけど……。しかし、削り過ぎて肝心の鉛筆がなくなってしまうとは、これまた本末転倒というか、何と言うか……」
　ディミック・イルヴァ（物性理論の徒・e85736）が、事前に配れた資料に目を通した。
　資料には、電動鉛筆削り器が原因で起こった事件について書かれており、その事が引き金となってリコールが加速された事についても、事細かに書かれていた。
「切れ味が悪くて返品されたんじゃなくて、切れ味が良すぎて返品というのも、ダブルで倒錯していて面白いと思いますが……。鉛筆より随分と高いもので鉛筆を削るというのも、なかなかゴージャスというか、興味深いというか、何とも言えない気持ちになりますね」
　伊礼・慧子（花無き臺・e41144）は複雑な気持ちになりながら、何処か遠くを見つめた。
　何やら色々な感情が沸き上がってくるものの、電動鉛筆削り器の方が高いのは、ある意味で常識。
　逆に、電動でありながら鉛筆より安い鉛筆削り器が存在していないため、深く考えたら負けかも知れない。
「……とは言え、こういう商品があるとオウガでも使いやすくていいねー。だって、ほら……普通に削ったら、ついつい力を入れ過ぎちゃうからさ。電動じゃなくて良ければ百均でも買えるみたいだけど、普通の人じゃ手が疲れちゃうもんね」
　山科・ことほ（幸を祈りし寿ぎの・e85678）が自分なりの考えを述べつつ、仲間達にニコッと笑った。
「デ、デ、デ、ン、ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　次の瞬間、ダモクレスがケモノの如く咆哮を響かせ、廃墟と化した倉庫の壁を突き破った。
　その姿は、まさに巨大な電動鉛筆削り器。
　そこに蜘蛛のような脚が生え、カサカサと音を立てていた。
「どうやら、のんびりしている暇はなさそうですね。早めに手を打っておかないと、被害が拡大しそうですし……」
　そう言って慧子がテープで簡易バリケードを作りつつ、人払いをするため殺界形成を発動させた。

●ダモクレス
「ガァァァァァァァァァリ・ガリ・ガリ・ガリィィィィィィィィィィィイ！」
　ダモクレスが咆哮を上げ、放って来たのは、鉛筆状のビームであった。
　それはまるで槍の如く鋭く、弾丸の如く速かった。
　そのため、通常であれば、見る事さえ叶わぬスピードであったが、ケルベロス達の反応は違っていた。
「ちょ、調子に乗っていると、痛い目に遭うのは、そっちよ！　後ろからばきゅーんって狙い撃ってやるんだから！　だ、だから、覚悟しておきなさい！　絶対に後悔するんだからねっ！」
　その事に気づいたレイが、物陰に隠れるようにして横に跳んだ。
　そのおかげで最悪の事態を免れる事が出来たものの、先程までレイがいた場所の壁に、細長い穴が開いていた。
「うわっ、予想以上の破壊力……。あんなのに当たったら、怪我だけで……済むといいんだけど……。そう言う訳にもいかないよね……って、まだ考えている途中なのに！　どうして、攻撃を仕掛けてくるのかな！？　少しくらい空気を読んでよ！　だ、だから、こっちに撃たないで！」
　ことほが涙目になりながら、鉛筆状のビームから逃げた。
「えっ？　なんで、こっちばかり狙ってくるの……！」
　だが、鉛筆状のビームは、ことほの逃げ道を塞ぐようにして、ザクザクとアスファルトの地面に突き刺さった。
「空気を読まないところがダモクレスらしいというか、何と言うか……。まあ、変に空気を読まれても困るけどねぇ……。……とは言え、あのビームは厄介だねぇ……」
　ディミックが複雑な気持ちになりながら、ゴーストヒールを発動させ、大地に塗り込められた惨劇の記憶から魔力を抽出し、仲間達を癒やしていった。
「……時間稼ぎは任せてください。さあ、あなたの相手は、私です！　私を倒さない限り、誰も傷つける事なんて出来ませんよ！」
　その間に、慧子が一気に距離を縮め、月光斬を発動させ、緩やかな弧を描く斬撃で、ビルシャナに攻撃を繰り出した。
「エ、エ、エ・ン・ピ・ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　そのたび、ダモクレスが悲鳴にも似た機械音を響かせ、どす黒いオイルを血のように流した。
「脚がいっぱいあるのが失敗だったわね。みんな纏めて、へし折ってやるわ……！」
　それに合わせて、レイがヴァルキュリアブラストで光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えて、ダモクレスに突撃しつつ、後を何本かへし折った。
「デ、デ、デ・ン・ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ！」
　その途端、ダモクレスがパニックに陥った様子で、鉛筆型のアームを何本も伸ばし、へし折れた脚代わりにして歩き始めた。
「これは、また面白い事を考えたねぇ。ある意味、これも戦いながら、進化していると言えるのかも知れないね……」
　ディミックが感心した様子で、ダモクレスに視線を送った。
　これぞ、蜘蛛型の強み。
　だが、それはケルベロス達にとっては、不利な状況。
　しかも、ダモクレスは鉛筆状のアームを上手に使いこなし、へし折れた脚と同様……いや、それ以上に軽やかに素早く動いていった。
「……えっ？　嘘、嘘、嘘！　まだ治療の途中なのに……。本当に空気を読まないダモクレスなんだね。……というか、なんて私ばかり狙うの！？　何か悪い事をしたって、私！？」
　それとは対照的に、ことほが驚いた様子で、ボディヒーリングを中断すると、自分の身に降りかかった不幸を呪いながら、再び猛ダッシュで逃げ出した。
「あなたの相手は、私だと言ったはずです。それとも、怖気づいているのですか？　だとしたら、情けないですね。違うのであれば、いますぐそれを証明してください」
　その行く手を阻むようにして、慧子がダモクレスの前に陣取った。
「エ、エ、エ、エ・ン・ピ・ツ・ケ・ズリィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスが苛立った様子で、鉛筆型のミサイルを飛ばして、ケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「……と言うか、攻撃方法って、全部鉛筆絡みなの……！？　もっと有効的な攻撃方法があるはずなのに……。まさか、そのハイパワーな回転刃を内蔵したまま使わないつもりなの……！？」
　それを目の当たりにしたことほが、信じられない様子でダモクレスにツッコミを入れた。
　まさに、性能の無駄遣い。
　使うべきモノを使わず、鉛筆にだけこだわった残念仕様ッ！
　それ故に、恐怖心よりも、残念感の方が、勝っていた。
　しかも、ケルベロス達に当たらない程の命中力。
　これでは傷つけるどころか、当てる事さえ難しかった。
「そう言えば、鉛筆って木と炭で出来てるんって聞いたわよ。……ふっふっふ、それを削ってお腹にいれてるんなら、つまりはよく燃えるってことよねっ。あたしって冴えてるぅー」
　レイが含みのある笑みを浮かべ、グラインドファイアでダモクレスの身体を炎に包んだ。
「エ・ン・ピ・ツ・ケ・ズ・リィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　その途端、ダモクレスが悲鳴にも似た呻き声を響かせ、全身炎に包まれながら、狂ったようにアームを振り回した。
「……随分と怒っているようだねぇ。でも、それじゃ駄目だよ。当たるどころか、かすりもしないよ。その証拠に、ほら……全く当たらない。殺気が溢れているせいで、避けてまれと言っているようなモノだよ、それは……」
　ディミックが素早い身のこなしで、鉛筆状のアームを軽やかに避けた。
「……ですか、こちらにとっては好都合です。私達を敵に回した事が、そもそもの間違いでしたね」
　それと同時に慧子が憑霊弧月を繰り出し、武器に無数の霊体を憑依させ、斬りつけたダモクレスを汚染した。
「デ、デ、デ、デ……デ、デ、デ、デ……」
　その影響でダモクレスの挙動がおかしくなり、ガタガタと振動しながら、見当違いの方向にビームを撃ち始めた。
「それじゃ、あたしの華麗な銃技でフィナーレよ。このまま全弾撃ち尽くしてやるわ！」
　次の瞬間、レイがクイックドロウを仕掛け、目にも止まらぬ速さで弾丸を放ち、ダモクレスのコア部分を破壊した。
「デ、デ、デンド……ウ……」
　それはダモクレスにとって、予想外の攻撃ッ！
　ケルベロスに反撃を仕掛けようとも、思うよりに機能せず、眠るようにして崩れ落ちた。
　そして、ダモクレスは耳障りな機械音を響かせた後、すべての機能を停止させた。
「ハイパワー過ぎて駄目だったのなら、木矢の先を尖らせるのに使えそうかねぇ……」
　ディミックが妖精弓と比較しつつ、何やら考え事をし始めた。
　このままでは駄目かも知れないが、色々とカスタマイズする事で、化けるかも知れない。
　そんな気持ちが脳裏に過ったため、何台か持ち帰る事にした。
「ところで、みんな暇？　せっかくだから、今から何処かに出かけない？　もちろん、嫌ならいいんだけど、出来れば……ね？」
　ことほが言葉を選びながら、仲間達を食事に誘った。
「それでは画材屋に言った後でも宜しいでしょうか？」
　そう言って慧子が、ことほに対して、答えを返すのであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年5月8日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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