「せっかく外の陽気が気持ちいい時期になんだけれど、地下深くに潜ってみる気はないかい? 場所は大阪なんだけどさ」
ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)が悪戯っぽい笑みで切り出した話は、そんな誘いから始まった。
「もちろん大阪、それも大阪城となれば攻性植物の一大拠点だ。そう気軽に近づける場所じゃないが、今ばかりは話が違う。僕たちがブレイザブリクを完全に支配下においたことで事態が動き始めたのさ」
ホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切り』という報告も受けているエインヘリアルがブレイザブリク奪還に動くのは、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の予測などからも間違いないと見なされている。
それに加えて、大阪城の攻性植物勢力もまた侵攻の準備を整えているという情報が、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)らから伝えられたのだと言う。エインヘリアルと協調しての共同作戦を企図しているとも。
「エインヘリアルと攻性植物は長年の仇敵だったけれど、僕たちという共通の敵を持って緊張が緩和している上、大阪城にはハール王女もいる。共同作戦に打って出る蓋然性は高いね――」
ここが肝だと、ユカリは指を立てた。
「でも得てして、動こうという時にこそ隙が生まれるものさ。多くのケルベロスたちが調査した結果、大阪城側の準備はまだ中途にすぎず、隙があることが判明している。今この瞬間に複数の経路から仕掛けて共同作戦を妨害してほしい。つまり、これが僕からのお誘いってわけだよ」
大阪城勢力はプラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点で、侵攻準備を行っていると推測されている。この拠点に対し破壊活動を行い、準備を遅滞させるのが作戦の目的だ。また同時に行われるハール王女への攻撃作戦側に対し、増援を出させないという意味もある。
作戦全体としての本命はハール王女の撃破だ。しかし王女の撃破がならずとも破壊活動が成功すれば、共同作戦の実施を遅らせることができる。また敵拠点へ潜入する以上、慎重に引き際を見極めることは必要だが、その範囲内で『有力な情報』を得たり、『大阪城勢力に更なる打撃を与える』ことが出来れば、大成功と言えるだろう。
「今回の破壊活動で目的とする対象は9つほどあるんだ。いくつか得られている情報をもとに、アプローチする対象を考えてくれないかな」
一つめ、ドラゴン勢力。
一部のドラゴンは攻性植物の力を取り入れて、力を取り戻しているという。そのドラゴンたちも共同作戦に加わるべく準備を進めているようだ。
二つめ、ダモクレス勢力。
ジュモー・エレクトリシアンが率いるダモクレスたちだ。大阪城に集まった種々の勢力が持つ技術を利用して、ダモクレスの開発を進めており、その成果が前線に配備されているという。
三つめ、螺旋忍軍。
勢力としては壊滅しており、残党が残るばかり。だがその残党が他勢力の技術を利用して復興を目論んでいるという。
四つめ、レプリゼンタ・ロキ。
レプリゼンタ・ロキに接触可能なタイミングが掴めている。もっとも、少人数で接触しない限り、ロキは戦闘前に撤退を選択するだろう。
五つめ、レプリゼンタ・カンギ。
レプリゼンタ・カンギに接触可能なタイミングも掴めている。強力な護衛がいるため、撃破は難しい。とはいえ長時間の足止めに成功すれば、他チームに対しての十分な援護となるだろう。
六つめ、ドリームイーター。
こちらも勢力としては壊滅している。残るはパッチワークの魔女の勢力。滅ぼすことも可能かもしれない。
七つめ、攻性植物ゲート。
ゲートが何処かにあるはずだ。以前の戦いでおおよその位置は判明しているが、周囲の地形が現在どうなっているかはわからない。敵の最重要拠点のため警戒は厚いと思われる。突破できるだけの戦力があれば、位置特定につながる手がかりが得られるかもしれない。
八つめ、堕神計画について。
リザレクトジェネシスで、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性がある。聖王女に替わる何か、だとも。
九つめ、大阪湾について。
攻性植物が大阪湾から瀬戸内海に出る可能性があると指摘されている。
「ハール王女撃破の側面支援のために、引っ掻き回すっていうのが皆にお願いしたいことだよ。でも『どうやって』引っ掻き回すかは皆の自由だし、うまく引っ掻き回せれば、側面支援にとどまらない成果だって得られるかも。――皆の活躍、期待しているね」
参加者 | |
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平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
立花・恵(翠の流星・e01060) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392) |
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168) |
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699) |
サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791) |
●
十分に準備を整えて、2組の班が大阪地下に侵入した。
情報によれば、この先がドラゴンの勢力圏なのだという。攻性植物化したドラゴンが巣くっているのだという。
(「ドラゴンハンター的に、ドラゴンの動向はとても気になるのです!」)
ひょっとすれば、今までにないドラゴン肉も手に入るかもしれないと、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は密やかな期待を抱えていた。
これから行うのは情報収集、しかる後に破壊活動である。衰えたりと言えども、相手はドラゴン種族だ。2班の戦力で、勢力壊滅までを狙うのはさすがに厳しい。
(「まぁちょっとは地味だけど、大切な仕事だ。気を引き締めていくぞっ!」)
立花・恵(翠の流星・e01060)は、熱情を胸中に秘めて意気込んだ。
そもそも自分たちの格好が少々地味だ。隠密行動なのだから当然だが、お祭り好きのサリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)からが祭り装束を脱いで迷彩外套を着こんでいる。好んでこんな恰好をしているわけではないけれど、これも大阪城を取り戻し、たくさんの楽しいお祭りを盛り上げるためだと思えば、サリナはいくらでも頑張れる。
「……瓦礫が邪魔だな。俺が片付けよう」
通路を塞ぐ障害物は、リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が細身の体に見合わない力で脇に寄せた。リューデはいつも通り無愛想な態度なのだが、どこか喜々とした雰囲気が漏れ出している。常日頃ならばしないようなことが、楽しいのだろうか。
ドラゴン勢力圏を進むにつれ、植生竜牙兵が徘徊するようになってきた。
この存在こそ、攻性植物化するドラゴン種族を端的に表すモノに違いない。
(「ドラゴンか、攻性植物と組むってどうなのかな……」)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は物陰から植生竜牙兵の様子を観察しつつ、タイミングを計っていた。十分に引き付けたところで合図を送ると、飛び出したタクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)が巻き付いた蔓ごと骨を砕く。それを嚆矢として殺到した攻撃が、何もさせぬままに竜牙兵を塵芥に返した。
タクティはバラバラになって交じり合う骨と草木を一瞥し、あのドラゴンも地に落ちたもんだとため息をつく。
(「まあ、生存競争だしね。仕方なしってやつなのだぜ」)
そう思えども、一縷の寂しさは否めない。
幸いにして、植生竜牙兵はデウスエクス間で自らの勢力圏を主張するのが与えられた役目らしく、少々手間取っても警報を発するような様子さえ見せなかった。今一つ和合できないデウスエクス同士の関係性を肌身に感じながら、植生竜牙兵を排除しつつ進んだ先で、一行は明確に上下に分かたれた岐路に立つ。
「ここからは別れていくしかないですね」
「ええ。では私たちが下層へと向かいましょう」
桃色髪の女性とレベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)は、互いの帰り道を潰してしまわないように、アリアドネの糸を見せ合った。
もとより、戦力の集中を意図していたわけではない。二手に分かれるのは既定路線である。もう1班に別れを告げ、一行はさらに地下深くへと潜っていく。
●
最後に植性竜牙兵を見たのはいつだったか。ユグドラシルの根が張り巡らされた中を下層に降りるほど、敵は稀にしか現れなくなった。まさか、見当違いの方向に来ているのだろうか。そんな疑念すら浮かんできた頃。
「……ちょっと待ってくれないか。静かに頼むよ」
突如立ち止まったピジョンが仲間たちを制止して、幽かに聞こえた音に耳を澄ませた。
「なんだ、この音。……なにか、噛み砕いてる?」
「何か食ってるっていうのかだぜ?」
ピジョンが漏らした声を耳にして、タクティが不思議そうな顔をする。
「近いのか?」
「いや、近くはないと思うんだけどねぇ……」
簡潔に問うリューデだが、ピジョンの答えは自信なさげだ。
「危険な相手がいるから、植性竜牙兵なども近寄らないみたいな話でしょうか」
「嫌な感じがしてきたな……。でも、道は前にしかないものな」
レベッカは小首を傾げる。恵は敵が姿を見せないことに不気味さを感じたが、二手に分かれてからずっと一本道なのだ。
「とにかく、いままで以上に慎重に、だね」
サリナの言葉に頷いて、一行はさらに下層へと進む。
進むにしたがって、誰の耳にも咀嚼音が届くようになっていた。空間に反響して聞こえる音は距離も数もはっきりとしない。加えて、剣呑な敵の気配もし始めた。
通路はやや急な下り坂になって続いている。和が身体を支えようと太い根に手をのせた、そのとき。
「わっ!」
和は予期せぬ感触に驚いて手を離した。それから再度、恐る恐ると手を伸ばす。
「この根っこ、なんだか揺れてない?」
根の表面が、びりびりと振動しているのだ。
「どうやら、さっきから聞こえる音の正体が近そうですね」
レベッカも根に触れて、振動を感じ取る。少なくともこの振動は、聞こえてくる咀嚼音と何らかの関係はあるだろう。
「俺が前に行くんだぜ。恵は後ろを頼むんだぜ」
「ああ、任せてくれ」
一行は再度隊列を確認し、タクティを先頭に、恵を最後尾において、隠密気流に気配を隠しながら進む。
――そして、音はより明瞭になっていく。
これまでも聞こえていた、何かをかみ砕く音。それに加え、嚥下している音。這いずり回る音。
それらの音は、明らかに生半可な数ではない複数の対象から生じている。無数の音が重なって響いている。
音のうねりが耳を塞ぎたくなるほどにまで達したとき、通路に沿って伸びていたユグドラシルの根が、唐突に途切れているのが見えた。その先はこれまでの狭苦しい通路と異なり、広大な空間が広がっているようだ。
きっと、その空間に音源の正体がいるに違いない。ケルベロスたちは慎重に通路の先を覗き込む。
「なんだ、これがドラゴンだとでもいうのか……?」
リューデは眼下に広がる広大な空洞を見て、息を呑んだ。大抵のことには動じないリューデですら色をなすほどに、それは異常な光景だったのだ。
空洞では蛇のようなドラゴン、ニーズヘッグたちがユグドラシルの根を一心不乱に貪り食っていた。ニーズヘッグは、黒い筒のような身体の先に大きく開く口蓋を備えた、不気味な姿をしている。
それらの個体が空洞を埋める奥に、巨大な姿をした個体が1体だけいる。もしその1体だけが存在していたのであれば、奇妙あるいは奇怪なドラゴンだという感想で終わったかもしれない。少なくとも見た目は純粋なドラゴンだ。攻性植物化している、なんてこともないように見える。
だがその周囲に広がる小型の個体が、あまりにも多い。隙間を埋め尽くして蠢きながら、まるでシロアリの如くユグドラシルの根に齧りついているのだ。
リューデはその姿に、ドラゴン種族特有の誇り高さを微塵も感じなかった。哀れにすら、感じた。
「――! すこし下がってほしいんだぜ」
そのとき、1体のニーズヘッグが急に通路へと飛び込んできた。大口を開けて噛みつかんとする敵の横面に、飛び出したタクティが左腕のガントレットを叩きつける。
「我々は贄なれば……」
ニーズヘッグは漠然とした言葉をつぶやき、それでもなお噛みつこうとする。
「何が贄なのかしらないけど、ワタシたちは食べ物じゃないよ。――ソイヤッ!」
その顎下をサリナが投げ放ったケルベロスチェインがかちあげて、無理矢理に口を閉ざした。
「いくぞっ、サンダー!」
そして和が放った雷の竜を真っ向から受けて押し込まれたニーズヘッグは、足場を失い空洞へと落ちていく。
「今ので気付かれてしまうかな?」
ピジョンはすぐに仲間を庇えるように身構えながら、空洞を見下ろした。
しかし下へ落ちたニーズヘッグは、仲間を呼ぶでも、ケルベロスのいる通路へと戻るのでもなく、すぐそばに露出していたユグドラシルの根に齧りついたのである。
「……あいつら、俺たちのことを根と勘違いしただけなんだな」
「不意を打たれたのも敵意がなかったせいかもしれませんね」
すわ奇襲かと身構えた空気が弛緩して、恵とレベッカは顔を見合わせた。
●
通路から観察するかぎり、小型のニーズヘッグはどの個体も知能が低下しているようで、自律的に動いているようには見えない。違うとすれば、空洞の奥にいる1体の『母なるニーズヘッグ』とでもいうべき巨大な個体だけではないかと思えた。
「ドラゴンたちは根に夢中みたいだし、邪魔されず奥まで行けるんじゃないかな? そしたら、大きなのを倒せちゃうかも!」
「そうだねぇ、無謀な挑戦ってわけじゃなさそうだ。聞いてみたいこともあるしね」
ぴん、と手を挙げて行われた和の発言に、ピジョンがふんわりと同意を返す。倒せたら儲けもの、たとえ倒せずとも、母なるニーズヘッグが攻性植物に同化していない有力なドラゴンであるならば、その情報には価値があるだろう。
「気になることだらけだったのに、さらに増えたからな。少しでも情報が欲しい」
恵にももちろん異論はなかった。危険を冒さずに、成果は得られないものだ。
空洞の壁を滑り降りたケルベロスたちは、慎重に、けれど大胆に歩みを進める。先ほど落とした個体と同様に、ニーズヘッグたちはただ根を咀嚼することに専心し、こちらを振り向きもしない。
「我々は増えねばならぬ……」
「たどり着けども力尽き……」
断片的な言葉を漏らしては根を食む姿は、あたかも狂信者のようだ。
「心ここにあらずって感じで、気持ち悪いんだぜ」
タクティたちは虚ろな言葉にさらされながら、根と間違われて噛みつかれることだけは無いように気を付けて奥へと進む。
「待ってください、あのニーズヘッグは根を食べていません」
巨大な個体までもう少しのところで、目ざとく特異な個体を見つけたレベッカが仲間に注意を促した。
「……さすがに護りが全くないわけではないか。だが1体だけだ」
リューデは地獄を纏わせたレイピアを手に、間合いを図る。
「アイツさえ倒せたら、狙いの相手はもうすぐそこだね!」
サリナも鎖をだらりと垂らした。
「よし、畳みかけるぞ」
恵が先陣を切って飛び出し、目にもとまらぬ速さで蹴りを浴びせた。
ピジョンもこの時ばかりは守りよりも攻撃を優先し、集中させた精神力で敵を爆破する。サーヴァントたちも加わった集中攻撃の最後に、
「退けてもらおう」
リューデが叩きつけた地獄の炎が敵を包み込み、敵の姿を灰塵へと変える。
さすがに仲間をやられたら反撃があるかもしれないと警戒したが、それでも周囲のニーズヘッグたちはこちらに目を向けもしない。だが、他にも母を護ろうとする個体がいる可能性はある。邪魔が入らないうちに、一行は狙いの相手へ一気に距離を詰めた。
巨大なニーズヘッグもまた小型の個体と変わることなく、その巨体に見合った太い根を齧っている。
射程内に巨体を捉えたケルベロスたちは、まずは会話を試みることにした。
(「さすがに攻性植物に『食べせてもらってる』ってことはないだろうねぇ」)
少なくとも、この個体が攻性植物と共生するを良しとしていないことは明らかだと思いながら、ピジョンは、
「ドラゴンと攻性植物、どっちが上?」
と問うたが反応は返ってこない。ならばと和が、
「なんで降参して定命化しようと思わないの? ゲートが破壊されて負けが確定したのに。受け入れるよ?」
と不思議そうに質問を投げかけても、視線すら向けないままだ。
「あくまで無視するのでしたら、力づくでも目を向けて――」
このままでは埒が明かないと、レベッカがアームドフォートの砲口を巨大なニーズヘッグへと向けたその瞬間。
――いままでこちらに一瞥もくれなかった小型のニーズヘッグたちが、根から口を放し、一斉にケルベロスたちへ視線を向けた。
すべてだ。この空間に存在するすべての小型個体が、例外なくケルベロスたちに敵意をぶつけていた。
その中で巨大な一体だけが変わらず、悠然と根を喰らっている。
「――ッ」
引いた瞬間、周囲に犇めくニーズヘッグたちが押し寄せてくる未来が見えて、引鉄にかかったレベッカの指が硬直する。そろそろと砲口を下すと、ニーズヘッグたちはまるで何事もなかったかのように、ユグドラシルの根へと向き直っていく。
「いつか来る竜業合体を果たした竜たち……」
「地球は遠い……」
そして彼らはまた、断片的な言葉をつぶやきながら、根を齧り始めるのだった。
●
この空間にひしめく個体をすべて相手取ることは、さすがに不可能だ。巨大なニーズヘッグを倒すことは諦め、断片的な言葉を聞き集めることに方針を切り替えた。攻撃しようとさえしなければ、彼らの言葉を集めることには何の障害もない。
「『母なるニーズヘッグ』と言葉を交わすことはできなかったけど、ニーズヘッグから漏れ聞こえた言葉は、母なる個体の意志だと思っていいよな」
「ああ、俺もそう考えている」
恵の言葉に、リューデがうなずく。
「まずは、竜業合体を行って強大な力を得た竜たちが、ゲートを用いずに地球へたどり着くってことかな。さすがに、力は使い果たすみたいだけどねぇ」
「だから長旅でお腹が空いた竜たちのために、ご飯を用意するつもりなんだね」
ピジョンはとんでもないことをしようとするものだと肩をすくめる。続けた和の言葉は可愛らしいが、それが意味するところは残酷だった。
「それで贄か。ゲートを失った責任を取るために、ユグドラシルの根を喰らって増え続けるだけの存在と化し、あげく仲間に喰われるというのか」
吐き出すように言いながら、リューデはこの在り方が誇りの現れなのかもしれないと感じてもいる。だが、その先にいったい何が残るというのだろう。
「こんなんじゃ自殺志願者と区別がつかないんだぜ。そんな狂気にひっくり返されるわけにはいかないんだぜ!」
タクティはそう気色ばむ。地に落ちたと思ったドラゴンにも、攻性植物との同化を拒む者たちがいたのだ。だがタクティが、彼らの選択を肯定することはない。
「こいつらは増殖することにしか興味がないし、今ここで多少削っても焼け石に水だな。少しだけでも竜業合体のことがわかったことで、良しとするか」
「ええ、ここに破壊工作を仕掛けても意味はないでしょうしね。自分たちのことしか頭になさそうです」
恵は竜業合体のことを気にかけていたが、少なくともその一端は明らかになった。そしてレベッカが言うように、ここにいるドラゴンたちがハールの応援に出るとは思えない。
「それに見方を変えればさ、あの子たちが大阪城からユグドラシルを駆除してくれてるってことだよね!」
そう冗談めかして言って、サリナは明るく笑った。
ケルベロスは帰還するため通路へと戻り、最後に空洞を一瞥した。
滅びへと向かう竜たちが、其処でひしめき合っている――。
作者:Oh-No |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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