第二王女ハール決戦~王女と要塞を分断せよ!

作者:青葉桂都

●要塞内の第二王女
 ケルベロスたちはエインヘリアルの第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、磨羯宮ブレイザブリクを支配下に置くことに成功した。
「現在はエインヘリアルの本星につながるアスガルドゲートの探索を開始しています」
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は集まったケルベロスたちにそのことをまず説明した。
「しかし、エインヘリアルも座してこの状況を待つはずがありません」
 ホーフンド王子の勢力からサフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリク失陥に関する報告も行われており、奪還の軍勢を起こすのは間違いない。
 この状況下、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)から大阪城方面に関する新たな情報がもたらされた。
「どうやらエインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせて、大阪城からも侵攻をしかける合同作戦が行われる危険性があるようです」
 エインヘリアルにとって攻性植物は長年の仇敵だったが、ケルベロスが共通の敵となったことで対立が緩和している。
 大阪城のハール王女がホーフンド王子に援軍を派遣するといった工作も行われており、合同作戦が行われる可能性は高いだろう。
「ですが、大阪城側の準備がまだ整っておらず、つけいる隙があることがわかりました」
 複数のルートから大阪城に攻撃をしかけて、共同作戦が実行されないようにしてほしいと芹架はケルベロスたちへと告げる。
「特に連携に大きな役割を果たしていると考えられる『エインヘリアルの第二王女・ハール』を撃破できれば、当面合同作戦は行えなくなるでしょう」
 あるいは、撃破までいたらずとも、ハール王女に対する攻性植物からの信用を下げることができれば同様の効果を期待できる。
 場合によっては攻性植物がハール王女を排除してくれるかもしれない。そうなればエインヘリアルと攻性植物の対立は再び激化することが見込めるだろう。
「ハール王女は皆さんの活躍によっていくつも失態を重ねており、現在は最前線の防衛拠点『要塞ヤルンヴィド』の守護に回ることになっています」
 ホーフンド王子に援軍を送ったためハール王女の戦力は不十分だが、ヤルンヴィドはダモクレスの城塞なのでダモクレス軍も駐屯している。
 王女を撃破するには、ダモクレスの部隊を分断する作戦が必要になるだろう。
「戦闘によって物理的に距離を取らせるやり方と、心理的な間隙を生むやり方の、どちらも有効になるでしょう」
 もちろん双方を組み合わせる作戦を選んでもかまわない。
 戦場となる『要塞ヤルンヴィド』はグランドロン城塞を失った後ダモクレスによって建造された拠点だ。
 司令官の名はインスペクター・アルキタス。
「アルキタス率いるダモクレス軍は強力ですが、ハールを絶対に守ろうとする意志はありません。分断がうまくいけば少ない戦力でもハールを討てる可能性があります」
 担当しているのは要塞中央部と東側。大量の量産型ダモクレスを配備して防衛を行っている。ハールへの救援を出さない程度に攻撃しておいたほうがいいだろう。
 また、防御部隊である炎日騎士部隊はハールの軍勢に組み込まれているものの、アルキタスの命令をより優先するようだ。
 アルキタスの担当区域を激しく攻撃すれば、ハールの部隊から引き抜いて防衛を行うといった行動をとる可能性もある。
 戦力と作戦次第ではアルキタスも撃破することが可能かもしれない。
「目標となる第二王女ハールは、要塞の西側3分の1を担当しているようです」
 護衛であるフェーミナ騎士団の騎士と団員によって常に守られている。
「ハール配下の有力なエインヘリアルは3体います」
 まずは戦鬼騎士サラシュリ。戦闘狂で高い能力を持つが、指揮能力はない。3体のフェーミナ騎士団騎士の補佐を受け、炎日騎士部隊を率いて最前線の警備を行っている。
 次に、槍剣士アデルは3名いた副団長の生き残りだ。多くの敗戦をへて自信を失い、行動が消極的になっている。
 ハールへの忠誠も揺らいでいるが、部下を守るために今もハールの配下にいる。
 アデルはフェーミナ騎士団を統括している。騎士を小隊長として、団員と炎日騎士部隊から計5名を従わせた混成小隊をいくつも編成して要塞を防衛させている。
「襲撃時は騎士団の死者を減らすために先頭に立って戦う可能性が高いです。その人格を利用して誘き出すこともできるでしょう。彼女を倒せば全体の統率が崩れます」
 最後の1人はハールの腹心である策謀術士リリー・ルビー。アスガルドの情報工作も担当している。実務担当という点でハールと同様に重要な人物だ。
 リリーが残っていれば、ハールを倒しても短期間で攻性植物とエインヘリアルの連携が復活するかもしれない。逆に彼女がいなければ十分な連携が取れなくなる可能性がある。
 彼女は直属のフェーミナ騎士団魔術兵と共に自分の執務室で仕事をしている。
 襲撃が行われた場合は自分の安全を最優先するため発見は難しいかもしれない。ただ、配下が文官であるため見つけ出せば撃破は他より容易だろう。
「リリーの行動を予測して、罠を張ることができれば発見できるかもしれません」
 芹架は次に、ハールの行動について語った。
「ハールは警戒の厳しい要塞の奥におり、前線に出てくることはないでしょう」
 アデルに迎撃を命じるだろうが、自分は動かないはずだ。大阪城からの援軍を待つのがもっとも生き残る可能性が高いと判断しているのだろう。
 より警戒の厳しいほうに向かえばハールは発見できるはずだ。そして、できるだけ援軍を遅らせることが撃破するうえで重要となる。
「エインヘリアルと攻性植物に共闘されれば、厄介なことになるでしょう。長く続いているハールとの因縁に決着をつける機会でもあります」
 よろしくお願いしますと、芹架は頭を下げた。


参加者
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
一式・要(狂咬突破・e01362)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
輝島・華(夢見花・e11960)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)

■リプレイ

●ダモクレスの要塞へ
 大阪城を守るために作られた新たなる城塞。
 第二王女ハールとダモクレスが潜んでいる場所へ、ケルベロスたちは近づいていく。
「あれが要塞ヤルンヴィドなのね。敵がうじゃうじゃいそうねえ」
 女言葉でしゃべっているが、一式・要(狂咬突破・e01362)はれっきとした男だった。
 服装も、さほど女性的ではない。
「攻性植物に集う種族たちの情報も気になる所なのだけど……」
 マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が言った。
「エインヘリアルと宿敵とも呼べる攻性植物を繋ぐ王女ハール、彼女に楔を打ち込めるように私達の役割、果たすわ」
 しくじれば攻性植物の連合はさらに勢力を増すだろう。
 今回はそんな作戦だった。
「王女ハール……ようやく手が届くところへ着たわね」
 羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)は戦いを前にしても笑顔を崩すことはなかった。
「ハール、か。思えば長い付き合いだけど」
 要塞の西側へと顔を向けながら、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)が言う。
 今ごろ他のチームがそちらへと向かっているのだろうか。襲撃チームの様子は知りようがない。
「いや、今はダモクレスたちに集中しなきゃだね」
「ええ、分かってる。私達の役目は、直接ハールと戦うわけではない。けど、勝敗に直結する重要なものだもの」
 第二王女ハールとともに、いやハールよりも大きな戦力でこの要塞を守るインスペクター・アルキタスの軍を抑えなければならないのだ。
「今度こそは……皆様をお守りして頑張ろうね、ブルーム」
 箒のようなライドキャリバーへと輝島・華(夢見花・e11960)が語りかける。
 先日行われた戦いにおいて、華のチームは重要な目標を逃がすという失態をさらしてしまっていた。
(「苺おば様の機転により事なきを得ましたが……」)
 それでも悔しい気持ちが消えることはない。
「皆様の為にも、そしてフローネ姉様の力添えとなるためにも、私達がやるべき事はきっちりと果たして見せます」
 華がそんな決意を固めた時だった。
「ダモクレスが潜んでるよ! 気をつけて」
 植物の間に隠れる緑色のダモクレスを瑪璃瑠が発見した。
 他のチームでも同じタイプの敵を見つけたようだ。
 とっさに華が飛ばした電撃とブルームの射撃が、おそらく索敵用であろうそのダモクレス――オーズボーグを撃破する。
 索敵タイプのダモクレスは、他にも徘徊していた。それらを破壊しながらケルベロスたちは要塞へと急ぐ。
 だが、ヤルンヴィドまでたどりつくことはできなかった。
 ダモクレスたちの部隊が要塞から出撃してケルベロスたちへと向かってくる。
 インスペクター・アルキタスが守護する中央部へと接近しているケルベロスのチームは3チーム。敵部隊も3隊に分かれて接近してくる。
「ダモクレスが来ましたね。力を合わせて戦いましょう、フローネ」
 ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)の言葉に、並んで移動していた彼女の恋人がうなづいた。
「ええ。要塞そのものにも警戒しなくてはいけないでしょう。油断はしないでください、ミチェーリ」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は宝石の名を関した武器を構えて、ミチェーリに寄り添う。
 各チームに数十の敵が接近してくる。
「せいぜい派手に暴れてやろうぜ。俺たちを無視できないようにな!」
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は空を飛ぶかのごとき動きで、ダモクレスの軍に挑みかかる。
 そして、戦いが始まった。

●機械の襲撃
 無数に出現するダモクレスのほとんどは、人の姿をしていた。
 ただ人に似せているだけではない。機械の部品を装着した人間――の、死体だ。
「……悪趣味な連中よね」
「ダモクレスにとって、死体は部品に過ぎないのね」
 要の声は不快そうだったし、応えたマキナの声は悲しみが混ざっていた。
 ほとんどが前衛という前のめりな陣形でケルベロスたちは戦いを挑む。
「冷たいことを言うようですが、ハールを倒すために相手が誰であれ戦わないわけにはいきません。行きましょう」
 ミチェーリが言った。言葉と共に、彼女は手足に冷気のオーラを纏う。
 だが、クールに振る舞う彼女が決して冷たい人物ではないことを、恋人であるフローネや、普段から彼女を知る者にはわかっていた。
 やるべきことを皆に思い出させただけだ。
 アメジストの盾を構えたフローネが、真っ先に敵へと向かっていく。
「一体でも多く倒せば、それだけ全部隊の助けになります! 踏ん張りましょう!」
 凛とした表情で、彼女は盾と同じ材質のボルトに宿った力を解放。敵を薙ぎ払う。
「この身は獅子でもあるんだよ!」
 瑪璃瑠も気弾を放って攻撃を加えた。
 そして、他の者たちも2人に続く。感情はいろいろあろうが、他の2チームも同じく攻撃を始めていた。
「いままで散々攻め込まれてきたお返しをするつもりだったんだがな。それだけじゃあすまなくなりそうだぜ!」
 数汰は己の魂の輝きを限界まで高めた。
「蒼き星の力、今この掌の中に――これは、明日を切り開く希望の力!」
 魂をグラビティ・チェインと反応させて聖剣を手の中に生み出す。
 悪しき者を薙ぎ払う輝く剣で、彼は邪悪な機械を切り裂く。
「生きてるんだったら、水でもかぶって正気に戻ってもらうところなんだけどね。もう死んでるんじゃ……楽にしてあげることしかできないわ」
 水の闘気を脚に集めて、要は思いきり薙ぐ。
「吹っ飛べ!」
 激流となった闘気が寄生された兵士たちをまとめて吹き飛ばす。聖剣による傷も受けていた敵のうち、当たり所が悪かった何体かがそのまま倒れた。
 機械に寄生された死体、寄生兵は強敵ではない。
 ただ、その数は数十もいるようだ。
「ダモクレスといえば数、という部分はあるのだけど。けれど、数で潰されるほど今のケルベロスは弱くは無いわ」
 マキナが決意と共に加速し、突撃する。
「嫌がらせに死体を使うことはありませんわよね。機械より手軽に作れるから……なのでしょうか」
 華は考えつつ攻撃から仲間をかばう。
 1体1体は弱くとも、数十の攻撃を受ければバカにできないダメージとなる。
 ディフェンダーである華や結衣菜、それにミチェーリは数分もたつうちにそれなりの傷を負っていた。
「かもしれないね。でも、そんな奴らにやられるわけにはいかないわ。みんなと一緒に、誰かが欠けることなく無事に帰りたいから」
 結衣菜の手の中に、緑色をした光が集まる。魔法の木の葉を出現させたのだ。
「だから、私が全力でみんなを守り、そして癒やすわ! フローネさん、マキナさん、ミチェーリさん……そしてみんな。頼りにしているからね! そして、背中は私に任せて!」
 木の葉を持った手で傷を包むと、彼女が負った傷は癒えていった。
 後衛では、瑪璃瑠と共に結衣菜のまんごうちゃんも回復に努めている。
 視界内で戦う他のチームと時折援護したり、されたりしつつもケルベロスたちは戦いを続ける。
 寄生兵たちはすぐにその数を減らしていったが、より強力な敵が中に混ざっていることがわかってきた。
 他のものより強力な、強制戦闘ユニットをつけられた死体が3体。
 そして、各チームと戦う集団の中にただ1体ずつ、すべてが機械でできた完全なダモクレスがいる。
「指揮をとっている機体は……アパタイト・アーミーですか」
 バズーカと機関砲を装備した敵を見てフローネが言った。
 死体に寄生しただけの敵とは動きが違う。バズーカが放たれるが、ミチェーリがフローネをかばった。
「大丈夫ですか、フローネ?」
「ええ。ありがとう、ミチェーリ」
 言葉を交わした2人を、凶悪そうな爪を備えた強力な3体の寄生兵も襲う。
 だが、華とブルームがそのうち2体からの攻撃をかばった。
「あなたに私の力を。しっかりなさって……!」
 華が手のひらに魔力の花を生み出し、舞う花弁によってミチェーリを癒す。
 その支援を受けて、ケルベロスたちは強敵との戦いに向かった。
 フローネの持つエメラルドの剣が、強制戦闘ユニットの1体を貫く。
「この一突きで穿ち抜く! 露式強攻鎧兵術、“氷柱”!」
 ミチェーリはガントレットに冷気をまとわせ、氷の杭を作り出した。高速で射出した氷の杭が敵を貫き、痛打を与える。
「まだまだ戦い続けなきゃならないんでね。片付けさせてもらう!」
 ジェットブーツで加速した数汰の蹴りが鋭く敵を狙い、戦闘ユニットを断ち切った。
 さらにもう1体が倒れたのはその数分後。
「Code A.I.M……,start up」
 青い粒子状のエネルギーをマキナが要に付与する。
「あら、狙いやすくなったわ。助かるわね」
 視界内に現れたターゲットスコープを見ながら、要が起こした爆発で2つ目のユニットが砕け散った。
 戦闘時間は10分を超え、ケルベロスたちへのダメージも蓄積している。
「生きるんだよ、生かすんだよ。それがボクたち瑪璃瑠の選んだ道だ!」
 クリフォトを手にした瑪璃瑠やまんごうちゃんが、仲間たちを支えている。
 その頃には、弱い寄生兵はもうほとんどいなくなっていた。
 マキナの伸ばした如意棒が3体目を打ちすえて倒すまでにさらに数分。
 残る敵が自分だけになっても、宝石の名を持つダモクレスがひるむ様子はなかった。
 薙ぎ払う機関砲から、結衣菜がフローネをかばう。
「この恵みを以て、癒やすわ。絶対に最後までみんなを支えるの」
 再び魔法の木の葉を集めて彼女は自らを癒す。
 全員の集中攻撃が、アパタイト・アーミーを追い詰めていく。
 そして、最後の瞬間が来た。
「ミチェーリ! 剣の舞を!」
 翠晶剣を構えたフローネがダモクレスへと接近する。
「私達の絆を見せましょう、フローネ!」
 ミチェーリの手が手刀を作ると、そこに冷気が宿った。
 アパタイト・アーミーへと踏み込む2人は、まったく同じタイミングで攻撃をする。
「“翠晶剣“と“雪風”の剣舞、貴方に受け切れますか」
 緑と白が踊る。2人の刃がダモクレスを切り刻んでいく。
 呼吸を合わせて舞い終えた2人がアーミーの背後に並ぶと、ダモクレスは残骸となって崩れ落ちた。
 前後して他のチームも自分たちに向かってきた敵を倒したようだ。
 不気味な静けさが、要塞の前に訪れた。

●要塞の正体
「ハールは倒せたのかしら」
「どうかな。まだ撤退した様子はないように思うけど」
 結衣菜の疑問に、後方から瑪璃瑠が応じる。
 サーヴァントを除けば唯一の後衛である彼女は、できるだけ視野を広く保つように心がけていた。望遠鏡でうかがってみるが、はっきりとはわからない。
 わかるのはリリー・ルビーがこちらに来なかったことくらいだ。
 とりあえず西と中央で行き来がある様子はなかった。少なくともこの場にいる3チームの活躍でハールへの増援が防げているのは事実だろう。
「ダモクレスの新手も来ないわね。どうせ敵のボスもこっちの事は見てるでしょうに。はろー?」
 要が、まだ遠巻きにケルベロスたちを観察するオーズボーグに向けて手を振って見せる。
 反応はなにもなかった。
「別動隊を警戒しているのかもね。今のうちに回復しておきましょ」
 肩をすくめた要の言葉にうなづいて、ケルベロスたちは癒しのグラビティをそれぞれ発動する。
 戦いが終わっていないならこちらも撤退はできない。
 要塞に向けてケルベロスたちは接近した。
「どこから入れるかわからねえが、壁をぶっ壊しちまえば問題ないよな。お前らもこの要塞も、二度と立ち直れないように粉々にしてやるぜ」
 数汰がそう叫んで前進する。
 フローネとミチェーリのコンビもだ。遠距離攻撃手段のない3人は仲間たちよりもさらに要塞へと踏み込んでいく。
 ただ陽動を行うだけでなく、物資に余裕がないダモクレスへの嫌がらせに、要塞そのものに打撃を与えるつもりでいた。
「寧ろここで更に戦力と資材の出血を強いる結果に導いてみせるわ」
 マキナが放つミサイルが要塞の壁にぶつかり、爆発する。
 要の飛ばす光の輪や、結衣菜の漆黒の弾丸、華の電撃もだ。
「攻撃が来る! きっと壁の向こうに敵がいるんだよ! 気をつけて!」
 瑪璃瑠の警告の直後、要塞の壁から反撃が飛んできた。
 白い顔が並んだ気味悪い壁。敵は出撃してこなかったが、壁に備えつけた砲をケルベロスに向けてくる。
「「――リミッター限定解除! 廻れ、廻れ、夢現よ廻れ!」」
 そのまま、彼女は2人に分身して、夢と現を入れ替えて仲間たちを回復する。
 他のチームも同じく、要塞の壁を挟んで射撃戦を行い始めたようだ。
「ハールを倒すまで、絶対にみんなを守りきろうね、ブルーム」
 華はライドキャリバーにそう語りかけた。
 しばしの間、壁越しの戦いは続いた。
 要塞の壁の一角が、やがて砕けた……その時、フローネは思わず声をあげていた。
「あれを見てください!」
 紫水晶の盾越しに砕けた個所を指差す。
「どうかしましたか、フローネ?」
 恋人が指差した場所を、すぐそばにいたミチェーリがじっと見つめる。
 砕けた壁から機械部品が覗いている。
 そして壁の向こうに攻撃してきていたダモクレスはいない。
「ダモクレスです。あの要塞の壁の一部は、ダモクレスで構成されているんです」
 数多の有力なダモクレスと戦ってきた経験がフローネにその事を看破させたのだろう。
 元より彼女がこの要塞そのものを警戒していたこともある。過去のダモクレス要塞の技術を使った、新たな要塞なのではないかと。
「要塞の中まで進めなかったのは、むしろ幸運だったかもしれませんね」
「あまり壊せなかったのは残念だがな。まあ、壁を壊せただけでも損害は与えただろう」
 さらに言葉を続けるフローネに、数汰が言う。
 戦いを続けながら、ケルベロスたちは白い顔のついた壁がダモクレスだということを改めて確かめておく。
 西側で騒ぎが起きたのは、それからほどなくのことだった。
「決着がついたみたいね。勝ったか負けたかはわからないけど……ううん、勝ったって信じなきゃね。みんなでがんばったんだもの」
 結衣菜が言った言葉に、仲間たちが同意する。
「きっとそうだ。ボクたちはね、ハール。君と違って独りじゃないんだよ」
 瑪璃瑠が西に顔を向けて告げる。
「撤退しよう。さあ、正真正銘脱兎といこうじゃないか!」
 ライオンラビットの少女に頷き、他の2チームとも協力してケルベロスたちは要塞から撤退していく。
「できれば敵の指揮官を一目くらい見ておきたいところでしたが、仕方ありません」
 フローネが言う。
 要塞ヤルンヴィド。そして、まだ見ぬ強敵、インスペクター・アルキタス。
 ハールを無事倒せたなら、次はこのダモクレスを撃破しなければならないだろう。
 だが今は、西側に向かった者たちの勝利を信じて、ケルベロスたちは撤退していった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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