大阪地下潜入作戦~破壊工作へGO!

作者:大丁

 ケルベロスの1グループが、ブリーフィングルームに集合している。
 第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、ブレイザブリクを完全に支配下に入れたことで、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索も開始されている情勢。
 エインヘリアルの反攻に対する作戦依頼がなされていた。
 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、いつものレインコート姿で、壇上からプロジェクタースクリーンにむかって、差し棒を延ばす。
「ホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告も行われてて、ブレイザブリクを奪取するための軍勢を起こすのは間違いないってね。そうしたら、大阪城方面の情報を収集していた、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)ちゃんたちから、重要な情報が届いたのお。エインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせて、大阪城の攻性植物からも侵攻を行う合同作戦の危険性が高いということなのよお」
 画面には、勢力の略図が映写される。
「けど、アビスちゃんたちによれば、大阪城側の準備は、まだ整ってないみたい。みんなには、複数のルートから大阪城勢力に攻撃を仕掛け、エインヘリアルとの共同作戦が実行されないようにして欲しいのねえ」
 地図に示された光点は、プラントワーム・ツーテール事件で確認された、地下拠点。
 そこで行われている侵攻準備を、潜入破壊工作でもって遅らせる作戦だ。
「この大阪城地下への攻撃は、別のチームが攻撃するハール王女に対する大阪城からの増援を阻止するという意味もある。作戦の本命は、要塞拠点のハール王女の撃破となるけれど、王女の撃破に失敗しても、破壊活動が成功していれば、エインヘリアルと攻性植物の共同作戦の実施を遅らせる事が可能になるの」
 光点がひとつずつ拡大されると、入り組んだ敵拠点の図になる。冬美は、わずかに口元をひきしめた。
「敵拠点への潜入と破壊工作だからね。深入りしすぎると帰還が難しくなる。撤退可能な範囲を考えつつ、その範囲で『有力な情報』を得たり『大阪城勢力に更なる打撃を与える』ことが出来れば、大成功よお」
 情報は、36人ものケルベロスの調査によってもたらされたという。
「例えばそう、攻性植物化したドラゴンなんかは、強敵ね。ダモクレスが、新技術で開発された量産型や試作機、実験機を投入しようとしてるし、螺旋忍軍の残党も新技術があるみたい」
 冬美は、9つの勢力について情報を並べる。
「レプリゼンタ・ロキが単独でいるところ、レプリゼンタ・カンギはカンギ戦士団だけを連れているところを、それぞれ捕捉するチャンスがある。パッチワークの魔女の生き残りは、直属のブリキ兵やカカシ兵を率いてるのね」
 攻性植物全体への手掛かりも重要だ。
「彼らのゲート周辺には人間型の、『堕神計画』関連には少女型の、攻性植物が配置されているようよ。大阪湾への侵攻も企まれていて、水中や海に適応した敵がいると、予想されてるの」
 プロジェクターに映された、予測敵の面々を眺め、一息ついてから冬美は、皆を見た。
 白いレインコートがひるがえる。
「大阪城の攻性植物関連では、わたしも担当する機会が増えてきた感じねぇ。みんなで情報収集してもらえて大感謝よお。さあ、破壊工作にむかってレッツゴー! ケルベロス!」


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)

■リプレイ

●潜入経路
 螺旋忍軍へ向かうと手をあげたのは3班であった。
 情報収集、特に屍隷兵についての手掛かりを重視したケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)たちには、地下鉄路線にできた亀裂から、生産場所への最短ルートの予知が授けられる。
 他の新技術情報を目指す2班とは、地下鉄構内で早々に別行動となり、それぞれの侵入経路へと向かった。
 そこから先は、ケイトが地図にスーパーGPSの光点を当てて進むことになる。
「精密機器や生物科学分野では、部品洗浄や培養等で大量の用排水が必要なんですよ。上下水道側でまとまった規模の地下空間があって、地上へのアクセスもしやすいなら秘密基地にはうってつけ……」
 大阪の地底に掘られた洞窟網だ。
 曲がりくねってはいるが、一定距離ごとに灯りがある。
 叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が間近に寄って、照明器具を視てみると、飾りか本物かわからないが、ドクロのロウソク立てだった。
(「なんだか、ニンジャっぽくてワクワクするのです!!」)
 ケルベロスたちは、警備らしき人影を数度やり過ごした。
 隠密行動用に、黒っぽい服やマント、コートを着用していたし、ハンドサインの打ち合わせも入念にしてきている。
 やがて、神宮・翼(聖翼光震・e15906)が後続に、『みんな、こっちに、来て、見て』と送った。
 歩哨がふたり、挟んで護っているのは、出入口のようだ。
 岩肌に、人が立って通れるくらいの丸いくり抜きがあり、朱色の金属板で塞がれていた。
 金属板の上から下まで縦スジが一本、入っている。おそらく、そこから左右に開くスライドドアのような仕掛けなのだろう。
「何が出てくるのやら、と思っていたら、はっきり書いてありますね」
 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)によれば、朱色地に赤で描かれた紋様には、『屍隷忍・金狐死忍衆』という意味があるらしい。
 秘密のはずが看板を出している。蓮(れん)は口元をおさえて笑いをこらえた。
(「まるでTVで見る悪の秘密結社みたい」)
 かの歩哨は、実用化された屍隷兵だ。
 青白い顔の美女で、首から下は銀色の、ピッチリとフィットする全身タイツのような服を着ている。
 例えばクノイチが、光沢ありのボディラインをあらわにする装束を纏っている例はよく聞くから、螺旋忍軍による技術の習得が推測できる。
 それが、『屍隷忍』であろう。
「もう、隠密行動とはいかないかもしれないわね」
 黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)が妙に楽しげなつぶやきをもらした。
 実力行使に同意して、グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)も、静かに頷く。
 こちらもふたり選ぶことにした。
 セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)と、ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)が任につく。
 『祈りの骨籠(サクリフィキウム)』で、セレスティンは闇に溶け込む。
 ロディは、リボルバー銃にグラビティ・チェインの銃剣『ブリッツバヨネット』を携えて、岩壁の暗がりに張り付いた。
 歩哨へとにじり寄る。

●破壊工作
「その身全てを……。すべてを……チョウダイ?」
 歩哨の片割れが囁き声を聞くと、グッと呻いただけで、白骨の刺突を受けてうずくまった。
 もうひとりが一歩前に出たところで、ロディは素早く背後をとり、銃剣で打ち倒す。覚悟のヒマも与えずに。白骨が消えて、セレスティンが実体化した。
 もはや、突入しかなかろう。
 はたして金属板は、紫織が前に立つだけで自動で割れた。うぃーんとわざとらしい音をたてる。
 ケイトが、ぽっかり空いた丸穴に飛び込んで、床へと伏せたが、試作型剣鎚の砲口を向けた先には誰もいない。
 周囲は、もう洞窟ではなく、扉と同じ朱色の壁で組まれた大きな部屋だ。
 ろうそくの代わりに、青や緑色をしたスポットライトのようなものが幾本も、ぐるぐると旋回して照明になっている。
 数歩前に見えるのは、手すりのついた柵だ。ケイトの這う場所が、バルコニー状の構造物なのだと気付く。
 さきほどのドアの開閉音が気にならないほどの音量で、ぴこぴこだか、ぴゅんぴゅんだかといった単調な電子音が絶えず流れている。
 仲間のうち5人が、丸い穴をくぐってきて、それぞれの武器を構えた。
 蓮は、両手に喰霊刀。セレスティンはアニミズムアンクだ。
 フィルムスーツの迷彩を解き、オウガメタルを融和させているのは、翼である。
 身を屈めてグレインが柵に近づくと、テーブルを並べたような空間を見下ろせた。左手には、そのフロアへと下る階段がある。
 ここが目的地だ。
 円形の台は、4×4列で16。ひとつずつに、×字に拘束された女が載っている。
 半数の格好が、ドアを守っていた歩哨と同じ服を着せられたものだから、生産性をあげるために共用化した装備なのだろう。
 屍隷忍への改造を行う手術台なのだ。
 他に、白衣を着た、医者と忍者が混じったような数人が、行き来している。寝かされている者たちへの施術じたいは終わっているらしい。
 手術台の側面にある装置をいじっては、なにかを調整しているようだが、動作は淡々とした様子だ。
 すなわち、螺旋忍軍残党による屍隷技術はすでに確立し、量産体制に入っているとみて間違いない。
 グレインは、そう悟ると、攻撃開始の可否を問うサインを送った。
(「準備完了、いつでも良し」)
 黒スーツの袖に巻き付けた鎖を見せながら、シフカが応える。
 蓮が先陣を切って柵を乗り越え、魔力マフラーをなびかせながら、階下へと飛び降りた。
 それに続いて、翼も跳躍し、階段からはシフカと、ケイトも下って、生産場所に踊りかかった。
 まずは、蓮の喰霊刀が器具だけ持った白衣の忍者を斬る。翼のキャバリアランページは、数人を蹴散らした。
 ケイトは、少し唇をかみしめて、寝たままの完成品へと押しつけるように轟竜砲を使った。グレインは、手術台ごと、タウラスのゾディアックソードでひっくり返す。
 ロディは、脱出口の確保に残り、紫織に攻撃参加を促した。
「警戒なら、オレひとりで務まりそうだ。翼たちに手を貸してやってくれ」
「わかったわ。大地の精霊……」
 紫織のアースヴァインが、洞窟から丸穴を通って、召喚され、彼女といっしょに手術台に降り立つ。
「大地の精霊よ、彼の者を束縛せよ」
 白衣忍者を締め上げて倒した。
 大手術室の騒乱最中、白衣のひとりは、ドラフターのような製図台に取りつこうとし、同僚らしき者らに制止され、動転した様子のまま3人の白衣はその階にもあった自動ドアから外へと逃れた。
 翼が追いつこうとした鼻先で、ドアは閉まり、もう開かない。
「あーん、もうっ!」
 逃げた奴らは何者だろう。ドアを壊して追うことも可能だったが、ここは情報の収集と、設備の破壊、すでに完成している屍隷忍の処理が優先される。
 シフカは、寝かせられている1体のそばに寄った。
 やはり、施術は済んでいるようだが、ぴっちりスーツはまだ着せてもらっていない。肌に直線的な紋様が刻まれている。
「いったい、どのような意味があるのでしょうか」
 下半身側へと周ると、用心深くも大胆に、指を延ばしてみる。
 それが届かぬうちに、紋様が発光しはじめた。ほかにも数体が、手術台から起き上がる。
「始末せねばいけないようですね。……では」
 優しい指使いに代わって、腕に巻き付けられていた鎖が、眼前の裸女を打ちのめした。

●死忍衆
 グレインの螺旋手裏剣が、改造クノイチの投げた同等の武器を撃ち落としたうえで、美しい顔の眉間に刺さる。
「俺は、修行を重ねてきたんだぜ」
 動き出した屍隷忍のほとんどは、命令を与えられていないためか、簡単に倒されるばかりである。
 だが中には、応戦できる個体もあった。
 女の片目が光る。
 ケイトは痺れを感じて、わが身を顧みた。
「って……やっぱりここでも服破りですか!?」
 なんと、黒い軍服の胸元がズタズタになっているではないか。
 屍隷兵関連の報告に、単眼光線があるのは見つけていたが。
 おいおい、嫌な予感がしてきましたよ、と、試作型武器にフレイム装置を追加した。
 強化しての砲撃で反動が増え、ケイトの生の乳房が派手に揺れた。
 かわりに、光線を撃ってきた量産型忍者は、燃えて炭となる。
「ケイトさん、案ずることはないわ」
 バルコニーの柵から身を乗り出し、セレスティンがアニミズムアンクを掲げた。すすけた肌に、艶が戻る。
 続いて、エクトプラズムのボディヒーリングが施されると、ケイトの軍服は、ほぼ元通りに直った。
 お礼の敬礼を受け、彼女らが対する残りは数体であると、高所からは見て取れた。
「みなさん、敵に応援が来るにしても、時間は十分にあるはずよ」
 発光するラインを刻まれたほかは、すっぱだかの女がふたり。
 その女の手裏剣を、蓮は紫織から庇って受けた。
「今日のボクは、矢面に立ってお姉ちゃんたちを守る役なのだよ!」
 返す刀で、喰霊殲神剣。斬って捨てる。
「優しいのね、ボク? 私はそうでも無いけどね」
 紫織は、もう一体を無貌の従属で浸食し、悪夢を見せる。
「やめろー、ニンジャー、ぶっとばすよお」
 肢体を×字に広げて身もだえしているので、ほんのさっきの改造手術がトラウマになっているのでなないか。
 ケイトは哀れに思って、フォーチュンスターのオーラを蹴り込み、トドメを刺した。服破りを与えるまでも無かったが。結局、よそからの応援はこない。
 そして、ドラフターには、もろ設計図が張ってあり、それを引き剥がして拝借する。
「これ以上……屍隷兵にされる命が増えないように」
 壁際には他に機械類もあって、翼がUSBメモリをつまんでウロウロしていた。
「挿入するとこがないよ~。コピー完了までドンダケ%ってやりたかったし……シフカちゃん!」
「神宮さん? ああ、機械の使い方で困っているんですね」
 銀髪の螺旋忍者は、赤い箱型をした端末のレバーを、奇妙な動作で捻った。
 すると、足元に口がパカっとひらいて、巻物がいくつも転がり出てくる。
「持てるだけ持ち出しましょう。私も残党がどんな研究をしていたのか、興味ありますから」
「ありがとう! ……想像してたよりアナログだった」
 手術台のひとつにはグレインが面し、白衣忍者が操作していた辺りから、情報の妖精さんを引き出す。
「しゅぢゅちゅだいに、かいぞーしかたがそなわってるよ。しにんしゅーをもっとふやそー」
 聞きたかった返事が得られた。手術台については、とにかく全部破壊すればいい。
「やはり、ロクなもんじゃなかったな。実際に使われたぶんは、しょうがない。なんとか生産を止められそうだぜ」
 天面に手を触れ、螺旋を送り込むと、火花が散って改造設備は両断された。
 野望は防げたか、あるいは大幅に遅らせられたであろう。
 得られた資料を帰って分析すれば、まだわかることもあるに違いない。
 7人が大手術室から、出てくる。
 見張りだったロディが、岩の地面を指し示した。
 帰り道が、鮮やかな赤い線で、ケルベロスみんなの目にはっきりと映っている。
 アリアドネの糸を仕掛けていた翼が、胸を張った。
「ふふーん。いつもの調子だったら、抜けた糸で服がなくなっちゃうとこ。残念だったねぇ、ロディくん。今回は真面目です」
「さ、最後の最後でアレな発言……。まぁ、希望していた戦果は上げられたんだから、いいか」
 抱えた巻物の数をみれば判る。
 仲間たちも、サムズアップやら敬礼やらを返してくる。
 ロディとグレインは、仕上げに戸口からナパームミサイルとゾディアックミラージュを放り込む。
 焼夷弾のばら撒きに施設は爆炎に満たされ、金牛星座のいななきが漏れたところで、アリアドネを辿って場を離れる。
 この破壊工作が螺旋忍軍のかく乱となり、別隊のケルベロスたちによるハール撃破に繋がればよいが、と願いながら、一団は洞窟を駆け抜けた。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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