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激戦の末、ケルベロスは死神たちとともに、エインヘリアル第九王子サフィーロを下し、ブレイザブリクを制圧した。
エインヘリアルのブレイザブリク奪還作戦が始まる前に、深層を探索、ゲートと死者の泉を見つけるはずだったのだが……。
風雲急を告げる。
大阪城方面の情報を収集していた、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)らの情報により、エインヘリアルの奪還作戦に連携して、大阪城の攻性植物が動き始めたことが判ったのだ。
エインヘリアルと攻性植物。この二つの勢力から同時に戦争を仕掛けられれば、大ピンチに陥る。
この事実を受け、ケルベロスは大規模な先制攻撃を決断した。
要塞ヤルンヴィドに籠る『エインヘリアルの第二王女・ハール』の撃破を目指すと同時に、『ハール王女』への援軍を出させないよう大阪城に対しても攻撃を加えることになったのだ。
攻性植物とエインヘリアルとの連携に大きな役割を果たしていると思われる『エインヘリアルの第二王女・ハール』を撃破する事ができれば、当面、合同作戦は行えなくなるだろう。
もし、王女を撃破できなくとも、攻性植物勢力の『ハール王女への信用』を大きく下げる事ができれば、同様の効果が期待できる。
「ということで、ボクたちは連携の要である『ハール王女』の撃破を狙うよ」
ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)が、作戦の説明に立つ。
「まず、ハール王女の居所だけど……王女は、子飼いの軍勢をホーフンド王子の援軍に送ったんで、戦力が充分じゃない。だから、最前線の防衛拠点『要塞ヤルンヴィド』の最奥に籠っていると考えられている」
『要塞ヤルンヴィド』はダモクレス勢力の城塞である為、ハール王女の部隊とは別に、ダモクレスの軍勢が駐屯している。
両方を相手に戦っていると、ハールに逃げる時間を与えてしまう。それ以前に、こちらが不利だ。
「うん。まず、ハール王女に拝謁する前に、ダモクレスの部隊とハール王女を守る部隊を分断する必要があるよね」
分断方法は、戦闘によって物理的に距離を取らせる方法と、心理的な間隙を生む策略があるとゼノはいう。
「両方を組み合わせてもいいかも。……実際、どうするかは『ハール王女』に当たる他の班たちと話し合って決めてね」
そう言いながら、ゼノは作成した資料を自班のメンバーに配った。
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暫く、ヘリポートにページをめくる音が続いた。
読み進めていくうちにケルベロスたちの表情が険しくなる。
全員が一通り、資料に目を通したであろう頃合いで、ゼノが手を打ち鳴らした。
「じゃあ、ボクからも簡単に説明をさせてもらうね。ハール王女の元にたどり着く前に、突破しなくてはならない敵が、ハール王女の他に、大きく分けて四つある。資料を見ながら聞いてね」
一つ目、要塞ヤルンヴィド司令官インスペクター・アルキタスと炎日騎士部隊。
インスペクター要塞司令官は、要塞の中央と東側を担当している。
『量産型のダモクレス』を大量に配備した数の暴力で要塞の防衛を行っており、ケルベロスの襲撃があれば、量産型ダモクレスの性能実験も兼ねて、迎撃してくるだろう。
二つ目、戦鬼騎士サラシュリ、炎日とフェーミナの混成騎士団。
サラシュリは戦闘狂で脳筋であり、指揮能力は皆無だ。だが、高い戦闘力がある事から前線指揮官に任命されたらしい。
三名のフェーミナ騎士団騎士とともに炎日騎士部隊を率いており、要塞の最前線で警戒活動を行っている。
三つ目、槍剣士アデル、炎日とフェーミナの混成騎士団。
アデルは要塞内のフェミーナ騎士団を統括している。ケルベロスの大規模な襲撃があった場合は、騎士団の死者をできるだけ減らす為に、自ら先頭にたって戦う騎士道をもっている。それを利用すれば、誘き出せるかもしれない。
アデル以外に全体の指揮をとれるものがいない為、アデルが前線に出てきた後ならば、要塞内部への潜入も容易になるだろう。
四つ目、策謀術士リリー・ルビーとフェーミナ騎士団魔術兵。
リリーは、直属のフェーミナ騎士団魔術兵と共に、自分に与えられた執務室で本国との調整などの仕事を行っている。
そのため、ハール王女と同じく、見つけ出すまでが大変だ。だが――。
リリーはハールの腹心で、アスガルドの情報工作を担当している。そのため、ハールを撃破しても、リリーが残っていれば、短時間のうちにエインヘリアルと攻性植物とのパイプが復活する可能性があるのだ。
逆に、ハールを逃した場合でも、リリーさえ撃破していれば、実務を行う担当者が居なくなる為、両勢力の連携が円滑に進まなくなるだろう。
「次に、それぞれの攻略ポイントみたいなものをあげていくね」
まずはインスペクター要塞司令官から。
「ハール王女の救援に積極的じゃないみたいだよ。救援を行わなずにすむ理由があれば、助けに行かないかも……」
例えば、ハール王女に援軍を出せない程度に、要塞の中央や東側に対する攻撃を仕掛ける等か。
要塞中央を激しく攻撃すると、要塞司令官の権限で、派遣している炎日騎士部隊を防衛のために引き抜く可能性が高い。
「要塞司令官を撃破するためには、大量に沸く量産型ダモクレスを倒すだけの充分な戦力と作戦が必要だけどね」
続いて戦鬼騎士サラシュリの攻略ポイント。
「サラシュリはハール、或いはリリーの命令で動いているよ。だけど脳筋だから、陽動や挑発にはまると、命令を忘れて勝手に行動しちゃう。ちょっと残念な子みたいだね」
サラシュリ配下の炎日騎士部隊を、実際に指揮しているのは三名のフェーミナ騎士団騎士だ。
サラシュリを単独行動させることができれば、撃破しやすいだろう。
「で、槍剣士アデルなんだけど……」
指揮能力に優れている将だが、多くの敗戦を経て自信を失っており、行動が消極的で防御的になっていると思われる。
主君であるハールの行動に疑問を持ち始めており、忠誠心が揺らいでいるのでは……という情報もあるようだが、いまのところは、部下の騎士団員たちを無事アスガルドへ帰還させる為もあって、ハールに従っているようだ。
「フェミーナ騎士団は、アスガルドでは戦犯扱いになっているようだよ。手柄の一つも立てずに帰れば、犯罪者としてコギトエルゴスム化ちゃうだろうね」
団員想いのアデルにとって、それは耐えられないことだろう。
「じゃあ、最後に策謀術士リリーについて話すね」
リリーはケルベロスの襲撃があった場合、自らの身の安全を最優先にして行動する。そりため、発見して撃破するは難しい。
「配下がみんな文官だから、見つけ出す事さえできれば撃破は難しくないよ。リリーの行動を予測して、罠を張る事が出来れば……撃破のチャンス大だ」
最後に、ケルベロスたちを送り出す言葉を口にしかけて、ゼノは急におでこを叩いた。
「いけない。肝心のハール王女のこと忘れてた」
ハール王女は要塞の西側の3分の一を担当しており、常に護衛として、フェーミナ騎士団騎士、フェーミナ騎士団員に護られている。
王女はケルベロスの襲撃があっても、自ら前線に立つ事はない。
「大阪城は要塞のすぐ近くだし、向こうから援軍が来るまで耐えるだろうね」
ハールが隠れているのは、最も警戒が厳しい要塞の奥だ。より警戒が厳しい方に向かえば、発見できるだろう。
「ハール王女を倒すには、要塞司令官からの援軍や、大阪城からの援軍を抑えつつ、十分な戦力を揃える必要があるよ」
出発の時間が来たようだ。
ヘリオンのブレードが回転し始める。
「サフィーロ王子との決戦に勝利したばかりだけど、頑張ってここで、因縁重なる第二王女ハールとの決着をつけよう!」
参加者 | |
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比良坂・陸也(化け狸・e28489) |
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360) |
水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841) |
●
要塞ヤルンヴィド外壁前を、四機編成のダモクレスが三隊、等間隔をあけて巡回していた。
オーズボーグと呼ばれているダモクレスだろう。蔦を絡めたボティに武器、それにカメラやマイクなど情報収集に必要な機器を装備している。
いくら気配を殺そうとも、これだけの数の『目と耳』の前では無駄だ。ましてやここはもう敵の陣中、あと数十メートルも近づけばすぐに見つかってしまう。
「……簡単に近づけさせてもらえませんか」
静かに息を落としたカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)のかたわらで、罠箱『フォーマルハウト』が蓋を開け閉めしてカラカラ笑う。
問題ないね、まったく――。
「そうだね。キミの言う通りだよ、フォーマルハウト。彼らに見つかっても問題はない。なぜなら……」
カロンは仲間たちを振り返った。
言葉を受け継いだアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)の声に、どこかイタズラ子めいた、楽しそうな響きがこもる。
「ボクたちは陽動部隊として、『彼らに見つかる必要があるから』ね。ついでに、ボクたちでダモクレスと要塞の耐久テストをしてあげよう」
「わくわくしてきた。難しいことなんて考えずに、好きなだけ派手に暴れていいんだろ?」
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)がクリティカールSのキャップを捻って、一気にドリンクをあおる。
「要塞ごとぶっ潰してやろうじゃないか!」
「少し待ってください」
いまにも殴りに行きそうな幻を、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)が落ちついた声で止める。
奇襲を仕掛けるなら、三班同時に、なるべく派手にやらなくては。いや、そうでなければ意味がない。
和希は、幻から今少し猶予をもらうと、共同で作戦に当たる他の二班の様子をみるため顔を横へ向けた。
とたん、結衣菜と目があった。
瞬きひとつで互いに意をかわす。
「どうやらあちらの班も隠密行動を止めて、奇襲突撃を決めたようです」
そうかい、と言って比良坂・陸也(化け狸・e28489)は首の古傷をそろりと撫でた。
さりげなく視線を流して、アンセルムを盗み見る。
人形遣いの青年は、同行班にいる環と無言のやり取りをかわしていた。
二人の様子を見て、それとなく察する。
「……向こうの班も動きだすようだぜ」
見える距離にいるとはいえ別班、互いの危機にすぐさま手を差し伸べられるわけではない。
何も言わないが、さぞや彼女の事が心配だろう、と陸也は友の心中を慮った。
「――へん、気合入れて全員帰さねえとな」
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)は長い銀髪を、後ろで緩くまとめた。
取りだした『知識の書』の表紙を、手でポンと叩く。
「回復はお任せください。みなさんが心おきなく戦えるよう、僕がしっかりフォローします。あ、ボイスで他班に飛び出しの合図を出しましょうか?」
「そこまでする必要はないだろう」
そうですか、と陸也に返して、菫色の瞳を双子の姉弟へ向けた。
フォローといえば、弟思いのお姉さんもしっかりと癒してあげなくては。彼女はきっと弟を守って、人一倍、敵の攻撃を受けるに違いない。
その弟はといえば――。
「予想……当たっちゃったな、和奏。……絶対、止めないとな」
姉の水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)は拳を固めると、親愛の情を込めて水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)の胸を叩いた。
「そうね。がんばりましょう。私が前で押さえる。後ろから仕留めて」
「わかった。でも、和奏……くれぐれも無茶はするな」
「翼もね」
指切りげんまん。古く懐かしい約束の儀式をかわす。
最初に動きだしたのがどこなのかはわからないが、ケルベロスたちは一斉に哨戒中のダモクレスたちに襲い掛かった。
●
先鞭をつけたのはカロンだ。
「キミがそのカメラで見るのは、死の悪夢だ」
カロンはとっさに振り向けられたカメラごと、ダモクレスの頭部を、星光る深夜の布を縫い合わせて作ったブーツで蹴り砕く。
ぐしゃりと凹みながらも腕を振り回すオーズボーグを、罠箱『フォーマルハウト』がかみ砕いた。
残り三体に向けて、アンセルムが火の玉を一斉に飛ばす。
「要塞の壁に当たって砕けてしまえ」
ボディに食い込む火の玉に押されて、オーズボーグが要塞側に下がる。が、壁まではまだ距離があった。
できるだけ多くの敵を要塞の中から引きだし、ハール女王の元へ援軍を送らせないようにするのが第一の目的ではあるが、今後のためにも要塞そのものにもダメージを与えておきたい。ついでにデーターが取れれば上々だ。そのためにも、あまり早く内部に通報されたくなかったのだが――。
「残念。火力が足りなかったようだね」
ならばもう一撃、とアンセルムが蔦の絡まる杖を振り上げる。
敵機接近を告げる警報がけたたましく鳴り渡った。
「気づかれてしまったか」
幻はロープのように長く伸ばしたブラックスライムで、二体のオーズボーグを縛りあげた。
「どんどんでてくればいいさ。一体残らず倒してやるよ。――と、その前に。邪魔になる屑鉄を片づけておかないとね」
派手な音と共に、ばらばらに砕けたダモクレスの体が地に散乱する。
「くー! 私としたことが。一体、縛り損ねた。和希君、頼む!」
「いいですよ」
和希は黒い呪縛縄から逃げおおせた一体に狙いをつけると、アナイアレイターの引き金を絞った。
凍てついた波動を後に残しながら、氷弾が足掻くオーズボーグ目がけて飛んで行く。
着弾の瞬間、逃げるオーズボーグの背を何かが隠した。
「――!?」
トマトが潰れたような、濡れた音がした。
オーズボーグを庇った男の頭が割れ、赤黒く変色した肉から血が吹き出し、べちゃべちゃと潰れる。
「これは……」
崩壊は一部にとどまらず、首から胸、胴、足へと肉が骨伝いに落ち、骨そのものも脆くも崩れ、人の形を成していたものは、あっという間にドロドロとした腐肉の山になった。
原型をとどめる機械部分から出るケーブルが、地中から引きずり出されたミミズのようにのたうっている。これが寄生して死体を操っているのだろう。
「まさか、これが性能実験中の『量産型ダモクレス』……なのか……なんて悪趣味な」
潰れた死体から顔をあげたとたん、和奏が声を張り上げた。
「敵襲! 翼、早く私の後ろへ!」
アームドフォートから浮遊砲台を展開しつつ、翼は姉の背の後ろへ回った。
本当は自分が守ってあげたいのだが、そうするにはまだまだ力不足。いまは悔しい思いを胸の奥底に沈め、一体一体、確実に敵を仕留めることに専念しよう。いずれは姉と肩を並べて戦う日がくるはずだ。
でも、でも――。
「いつまでも後ろにいちゃダメなんだ!!」
迫りくる敵群にむけて青白い閃光を放つ。
強烈な欄光が辺りを白く照らし、膨れ上がった幾筋もの光が一つの矢となって寄生体を焼き払った。
しかし、寄生体たちは数をもってすぐ群れに穿れた穴を塞ぐ。
――上等だ。
陸也は渋皮色の体躯から闘気を吹きあげた。
錫杖で地を突き、金具をシャランと鳴らす。
「雲霞のごとく、とはまさにこのことだな」
さも愉快そうに、口の端を持ち上げる。
エルムは出す声に呆れを忍ばせた。
「よく笑っていられますね。僕たちに向かって押し寄せてくる敵の数だけ見ても、量産型……寄生体といいなおしましょうか。男と女、合わせて四十体ほど、さらにその後ろには別のダモクレスも来ているようですよ」
そういうエルム自身も、大軍に少しも動じることなく、自然体でいる。
寄生体はケルベロスの敵にはならないことを知っているからだ。
和希と翼の攻撃で判ったことだが、寄生体自身は驚くほど弱い。囲まれなければ、どうということはないだろう。
問題は、寄生体の後ろに控えている連中だ。
雑魚同様、一撃で倒れてくれるとは思えない。
「同感だ。あの量産型の後ろで偉そうにしているやつが指揮官、その前にいる三体が指揮官の護衛……。先に哀れな死体人形たちと遊んでやらなければ、相手をしても らえそうにないな。まあ、どのみちやることには変わりない。せいぜい派手に蹴散らして、要塞に籠る司令官を慌てさせてやるとするか」
陸也は鉄靴を履いた足を蹴りぬいた。唸りを上げて旋回しつつ飛び上がり、逆巻く風で前方の敵を薙ぎ払う。
「さあ、かかって来い! 地獄の番犬が相手だ」
挑発に応えるかのように、呻くような叫び声があがった。
四十体近い寄生体の放つ暗い気が、怨念の塊となって駆け寄せてくる。
ケルベロスたちは、巨大津波のごとくに押し寄せる寄生体たちに飲み込まれた。
●
同行班とは声が届くほどの距離にありながら、完全に分断された別々の戦闘になっていた。
大勢の敵を相手に、動かなかったら、たちまち囲まれて不利になる。
カロンは次々に体へ伸ばされてくる腐った手をかわし、罠箱『フォーマルハウト』とともに左へ走った。
理屈よりも先に体が動いていた。
敵群の左側にムラがある。左側からなら、囲まれることなく一体一体相手ができるだろう。いくつもの戦場で生き残って来た経験値が、最適解を自然と導き出したていた。
「いつまでも現世を彷徨わせていては可哀想だ。フォーマルハウト、彼らに冥界の河ステュクスを渡る黄金を貸してあげて」
わかったよ、と罠箱が大きく蓋を開いた。
眩い黄金の粒が、洪水のようにあふれ出る。
生前の記憶と欲望を刺激されでもしたか、寄生体たちの動きが鈍った。やはり女性は光物に弱いのか、女寄生体のほうが強く暗示にかかっている。
カロンは両手で黄金をすくい取ろうとしている女寄生体の前に立った。流星の蹴りに、祈りと贖罪を込める。
「もう二度とデウスエクスに利用させないから……安らかに眠れ」
あるかないかの僅かな笑みを残し、女寄生体は星に流され、消えた。
幻が紅魔の槍を頭上で旋回させつつ気を吐く。
「どんなに弱い敵であろうとも、全力で粉砕することが相手に対するオウガの礼儀だ!」
全身から発し、背中で広がる白熱の隣光は、幻の闘気。紅魔の槍の槍を正面で構えるや、ゾンビの壁に突貫する。
縦横無尽に走り回る炎の線に包まれた寄生体の身体は、黒こげになった。
やがて地面を走り抜ける炎の線が次第にその勢いをなくすと、運よく煙に巻かれただけですんだ寄生体たちが息を吹き返した。
陸也が胸の前で複雑な印を結ぶ。
「そのまま寝ておけ! 無駄に苦しみを長引かせるな」
退魔の光が少年の寄生体の胸を貫く。
寄生体は悲鳴をあげることもなく、空を掴むような仕草をしながらよろめき、地に崩れ落ちた。
アンセルムは襲い掛かってくる寄生体たちの向こうに、高みの見物を決め込んでいる四体のダモクレスを見た。
細いが道が開けている。
思考だけが異様な速さで回りだした。が、考えられても体の動きに反映できなければ意味がない。
一瞬で腹をくくった。
「和希、一気に駆け抜けるぞ」
「ああ、行こうアンセルム」
和希は全身を覆っていたオウガメタルを拳に集めた。静かな狂気を練り込んで、黒き鬼の拳を作りあげる。
後ろから親友が炎をまき散らして作る道を、時には盾として、時には剣として、拳を振るいながら突き進む。
二人の両脇でしぶく血肉は、さながら花畑に散る繚乱の花吹雪。怒声の中に渦巻き、まき散らされる血潮さえ、一片の花びらを思わせた。
陸也も鉄靴で大地を踏み轟かせ、二人のあとを追う。
この動きに追われ、敵の隊列が乱れて重なり合ったと見るや、和奏は間をおかず、前にいる相手めがけて攻撃を撃ち込んだ。
周囲に群がる敵を次々と撃ちおとし、翼が存分に力を発揮できるよう舞台を整える。狙いは離れたところでカメラを回すオーズボーグだ。
データを取らせてなるものか。
「今よ!」
和奏の声を聞いて、翼は引き金を絞った。
砲の口から飛び出した閃光が、竜のように割れた敵の間を駆け抜けていく。
仲間たちと戦う三体の護衛ダモクレスの上を飛び越し、指揮官の頭の横を抜け、こっそりと実験体のデーター収集していたオーズボーグを食らった。
弾は的確に的に命中し、固い装甲を砕け散らせた。
「やったわね」
和奏は全身から喜びをかき集めたような笑顔で振り返った。
「すごいじゃ――」
「後ろっ!」
六体の寄生体が上から姉弟に飛びかかった。
敵の群れの中から聞き慣れた声で悲鳴があがる。
エルムは群がる寄生体たちをかき分け、水瀬たちの元へ急いだ。
姉弟は四方を敵に囲まれながらそれをものともせず、たどり着いたときには鬼神のような強さで寄生体たちを払いのけていた。
とはいえ、二人とも傷だらけだ。弱い相手でも囲まれてしまえば、無傷でいることはできない。
「すぐに癒してあげますよ」
書を開き、指で空に魔法陣を描く。
はらり。灰色の空から六花が舞い落ちてきた。血で赤く穢れた大地を覆い尽くす、穢れなき自――。
『雪も積もり積もれば盾となる』
その言葉通り、傷が癒えた姉弟は体に薄く、白銀の光を纏っていた。
「この戦いもそろそろ終り……。もうひと頑張りしましょう」
三人でアパタイト・アーミーらと戦う仲間たちの元へ走った。
エルムは戦う仲間たちを癒しながら、他班の動向にも注意を傾けた。
どの班もほぼ寄生体を倒しつくしていた。頑張れば、これから撤退までの間に、要塞に幾らかダメージを入れられるだろう。
突然、強風に襲われたように要塞前の一角がざわめき、砲を撃ち合う音が起こった。
アイズフォンが同行班の誰かが発した声を拾う。
(「……要塞自体がダモクレス!?」)
刹那。
凄まじい衝撃とともに、視界が閃光で覆われた。
●
幸い、要塞の砲撃はこちらを狙ったものではなく、被害はなかった。
翼が牽制に、要塞の砲台部分を狙ってナパームミサイルを飛ばす。
幻は護衛ダモクレスの拳の下をかいくぐると、冷たい鋼の胸に手をついた。声とともに真紅の稲妻を放つ。
「吹き飛びな」
これでのこりは指揮官と護衛の兵が一体のみ。
カロンは星磯のような蹴りで、護衛兵の左足を粉砕した。
「壁のあれ、顔だったんですね」
バランスを崩して傾くボディを、陸也が振るう錫杖が突く。
「いくつかのブロックに分かれているように見えるな」
アンセルムは、苦し紛れにミサイルを乱発射するアパタイト・アーミーに、大蛇のごとき蔦を絡ませた。
二体の動きを封じたところで、和希と和奏が一斉に攻撃を撃ち込み、大破させた。
「これで遊撃部隊は全滅ですね」
エルムが、純白の花びらが風にたゆたって泳ぐように舞い踊る。
傷が癒えると、幻は拳を強く手に打ちつけた。
「要塞を壊して、司令官の顔を拝みに行こう!」
「残念ですが、それはまたの機会に。どうやらハールの討伐に成功したようです。同行班も引きあげ始めましたし――」
えー、とあがった声を苦笑で押さえ、エルムは撤退を宣言した。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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