大阪地下潜入作戦~探れ、そして、壊せ。

作者:砂浦俊一


「第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、ブレイザブリクを支配下に入れた事で、エインヘリアル本星に繋がるアスガルドゲートの探索が開始されました。ですがホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』と報告されており、エインヘリアル側はブレイザブリク奪還に動くはずです」
 シャドウエルフのヘリオライダー、セリカ・リュミエールは説明を続ける。
 彼女の話では、大阪城の攻性植物勢力が侵攻準備を整えつつあり、エインヘリアルのブレイザブリク奪還に合わせて出陣する危険性があるという。両者は長年の仇敵だが、近年は対ケルベロスのため対立関係を緩和している。また大阪城のハール王女はホーフンド王子に援軍を派遣するなどの工作も行っており、この合同作戦が行われる可能性は高い。
「調査の結果、まだ大阪城側の準備が整っていないことが判明しました。皆様には複数のルートから大阪城勢力を攻撃して欲しいのです」
 大阪城勢力はプラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点で侵攻準備を進めている。ここを叩くのが今回の狙いだ。
「ハール王女の撃破が本命ですが、もしも撃破に失敗しても、地下拠点への襲撃は攻性植物とエインヘリアルの合同作戦の遅滞に繋がります」
 だが敵拠点への潜入と破壊工作であるため、深入りしすぎると帰還が難しくなる。
 撤退可能な範囲で『有力な情報』を得たり、『大阪城勢力へ更なる打撃を与える』ことが出来れば大成功だろう。
「地下拠点については、これまでの調査によって幾つかの情報が得られています。これを元に調査対象を選んでください」
 セリカが提示した調査対象は、以下の9つだ。

(1)ドラゴン勢力。
 攻性植物の力を取り入れたドラゴンの一派が侵攻作戦に加わろうとしている。
 ドラゴン勢力の新情報を得られる可能性がある。

(2)ダモクレス勢力。
 ジュモー・エレクトリシアンと配下のダモクレスで構成されている。
 戦力を集中させれば、ジュモー撃破のチャンスがあるかもしれない。

(3)螺旋忍軍。
 残党集団が屍隷兵技術、ダモクレスの機械化技術。攻性植物の寄生技術などを利用して螺旋忍軍の復興を目指している。
 これらの技術についての情報を得るか、あるいは戦力を集中させて完全に滅ぼすか。

(4)レプリゼンタ・ロキ。
 ロキと接触するタイミングを掴めた。
 だがケルベロス側に多数の戦力があると、ロキは戦闘前に撤退するだろう。少数での接触、隙を見て戦いを挑む、不死の秘密を打ち破る――ロキ撃破への道のりは険しい。

(5)レプリゼンタ・カンギ。
 カンギと接触するタイミングを掴めた。
 攻性植物の重鎮との接触は有益な情報を引き出せる可能性がある。
 情報を得られずともカンギの足止めは他チームの援護になる。

(6)ドリームイーター。
 大阪城へ落ち延びたパッチワークの魔女の生き残り。
 一定の戦力があれば滅ぼせるかもしれない。

(7)攻性植物ゲート。
 ゲートの大体の位置は判明しているが、他種族も受け入れ数年を経て、大幅に地形が変わっている可能性があるので、これを探る。位置を特定する手掛かりを得るには多数の戦力、それと厳重かつ厳戒な警備網の突破が必要だ。

(8)堕神計画について。
 死神のネレイデスが画策していた『堕神計画』を利用して、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性がある。詳しく調査すれば情報が得られるかもしれない。

(9)大阪湾について。
 攻性植物が大阪湾から瀬戸内海へ出る可能性がある。地下から瀬戸内海の海底へ工作が進められているのならば、早期に発見して対策を立てたい。

「今回の任務はハール王女撃破の側面支援ですが、それ以上の成果を得る事ができるかもしれません。皆様、どうかよろしくお願いします」
 セリカに見送られ、ケルベロスたちは発進準備を整えたヘリオンに乗り込んでいく。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)
皇・絶華(影月・e04491)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
シュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)

■リプレイ


 大阪城の攻性植物を襲撃することでエインヘリアルとの合同作戦の実施を遅滞させ、各地下拠点からは有力な情報を持ち帰る。それが今回の潜入作戦の要旨だ。うまくいけば、別チームが攻撃するハール王女への大阪城からの援軍も阻止できるだろう。
 各地下拠点には、かつてユグドラシルルートで発見された地下鉄の亀裂周辺から侵入を開始する。潜入先に応じた最適なルートは事前にヘリオライダーが予知しており、ケルベロス側で調査対象を決定した際にそれらの情報提供を受けていた。
 ジュモー・エレクトリシアンの地下拠点の調査チームも既に侵入を開始している。
 予知情報での潜入になるので拠点までの経路は把握できている。移動中の危険も少ないだろうが、用心は欠かせない。
 隠密気流を使えるメンバーは3名。それ以外のメンバーは潜入調査用にフード付きのコートを纏い、この集団を前後から挟むようにティユ・キューブ(虹星・e21021)と皇・絶華(影月・e04491)が立って周辺を警戒。尾神・秋津彦(走狗・e18742)は仲間たちから少し先行して、曲がり角や分かれ道での偵察を行っていた。
(問題ないでありますな……よし)
 向かう先に敵兵がいないのを確認した秋津彦は後続にハンドサインを送る。
『敵影ナシ。移動サレタシ。無事二帰レタラ、ステーキ食ベタイ』
 ティユ・キューブ(虹星・e21021)は、茶目っ気のあるハンドサインの内容に微笑んでしまう。見れば秋津彦は尻尾を振りつつ、実質保護者の彼女に熱い目線も送っている。
『了解。終エタラ良イノヲ焼イテアゲル』
 ハンドサインを返したティユは、隣でシュネカ・イルバルト(翔靴・e17907)が瞳をキラキラと輝かせていることに気づいた。
「いいなー、お肉。私も食べたい」
 どうやら両者のハンドサインでのやりとりを読み取ったらしい。
「ああ、いいよ。まとめてご馳走しよう」
 ティユは微笑みを返すと、秋津彦の場所まで後続集団を連れていく。
「今回は静かに、静かにですね。シアも、しー……ですよ」
 仲間たちともに慎重に歩き出した華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)は、相棒の翼猫の顔を見ながら自分の唇に人差し指を当てた。普段ならノリと勢いで突っ走る元気溌剌な彼女も、潜入作戦なので声も小さく抑えている。
「フフ、情報収集をしながら敵を倒す……忍者にとっては容易い事なのだ。静かなのも好都合だ。……まあ、静かすぎる気もするが」
「ジュモーがここで新型のダモクレスを開発しているのなら、前線の要塞にも量産型を送っているのでしょうね。だから拠点が手薄になっている?」
 耳鳴りのしそうなほどの静けさに神門・柧魅(孤高のかどみうむ缶・e00898)は眉をひそめ、撤退時の目印用にアリアドネの糸を展開していたリビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)は小首を傾げた。
「エインヘリアルとの合同作戦用に、ハール王女への増援用……それらのダモクレスが拠点のどこかで出撃準備中なのかもな」
「ジュモーに接触できるかどうかも、気がかりですの」
 絶華は赤外線センサーで周辺を警戒しつつ地形の把握に努め、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)は隠密行動を心がけて移動する。
 シエナには、もうひとつ気がかりなことがあった。
(わたしの知る限り……お母様は欠陥品上等で我が道を行く生粋の技術者ですの……誰かを指揮するようなタイプではなかった……でも現在では指揮官級のような……? もしや、そこに上り詰めるまでに人格の調整が……?)
 事前に得た情報から彼女は現在のジュモーに違和感を抱いていたが、疑問は本人に聞くしかない。


 やがてケルベロスたちは、ジュモーの地下拠点の勢力圏内へ足を踏み入れた。
 おおよそだが、どこからがジュモーたちダモクレスの縄張りなのかは事前に得られた情報から判明している。
 潜入もここからが本番だ。
 監視カメラやセンサーの類は慎重に避け、地下通路を進んだ先で見つけたのは、開け放たれた鉄製の扉だった。
 先行する秋津彦が足音を立てずに近づき、扉の向こうを覗き込んだ。
(ここは……?)
 手早くハンドサインを送り、彼は後続の仲間たちを招き寄せる。
 室内は広く、左右に多数のコンテナや木箱が並び、隅にはパレットが積み重ねられていた。天井には複数のクレーンも見える。
「倉庫……?」
「ふむ。中身はダモクレス量産用の部品や、地下拠点の設備用の資材か? ここへ一時的に置いているのだろうな」
 灯と柧魅は周囲を見回す。
 ここまでの地下通路と同じく、この場所も静けさに包まれている。
「ジュモーの勢力圏内だけど、ここまで巡回や警備のダモクレスにも遭遇しなかった。連中、出払っているのか?」
「他チームが潜入先の地下拠点で派手に暴れているので応援に行ったとか……いや、それはないか。他種族のシマに首を突っ込めば、大阪城内に余計な火種を作ってしまうしな。既にハール王女の増援として出撃した……とは考えたくないな」
 コンテナと木箱に視線を走らせていたシュネカと絶華は、倉庫の奥にまた別の通路を見つけた。そこを抜ければ地下拠点のさらに奥まで進めそうに見える。
「他種族と言えば」
 ふと、何かを思い出したようにティユが口を開いた。
「以前ジュモーは他種族のコギトエルゴスムを味方に搭載していたっけ。今も他種族を糧に進化という方針は……」
 不意に、倉庫奥のコンテナの向こうから、ジャラジャラと鎖のようなものを引きずる音が聞こえてきた。
 ケルベロスたちの全身に電流の如く緊張が走る。
 身構えた彼らの視線の先、倉庫右側のコンテナの陰から姿を見せたのは、四肢に付けられた鎖を引きずる人型の攻性植物。
「マキナドライバー……プラントマーダー……」
 大型のチェーンソーを携えたライダースーツ姿の攻性植物は、昆虫の複眼を思わせる赤く大きな眼を爛々と輝かせた。
「オーバースペック……!」
 次いで倉庫左側のコンテナ上から不気味な声。
 そこには、いつの間にか複数の腕を持つ異形の兵士が立っていた。体は生身と機械の継ぎ接ぎ、バイザーで覆った顔には瞼のない眼。生気のない両眼がギョロリと動き、ケルベロスたちを睨みつける。
 さらに天井から床へと黒髪のマネキン人形が降り立ち、木箱が中から弾け飛んでオーク型のダモクレスが姿を現す。
「ノット・オール」
「オーク・レプリカァァァ!」
 ドリームイーターのデータを元に作られたのか、マネキン人形の球状関節と左眼はモザイク化していた。
 オーク型は背部のケーブル類を触手のように動かしてケルベロスたちを威嚇する。
「……話に聞いていた試作量産機のようですね」
「他種族を糧に進化の方針は、変わっていないみたいですの」
 リビィがアームドフォートを構え、戦闘を前にシエナは相棒のヴィオロンテに抱え上げられた。


 敵はオーク・レプリカとプラントマーダーを前衛に、次いでオーバースペック、最後尾にノット・オールという陣形をとった。
「ペルル、サポートをお願い。さあ、導こう」
「試作機どもめ。実戦テストの相手になってやろう」
 相棒を護衛に付けたティユが飛び出し、グラビティチェインを星の輝きへと変える。極星一至、星の輝きをもって星図が投影され、この加護を受けた絶華がオーク・レプリカへ飛び蹴りを浴びせた。鈍く重い衝撃。装甲に阻まれて内部までダメージは届いていない、そういう感覚が絶華の脚に伝わる。
「シアは私と一緒にディフェンスです。皆さんを守るのです!」
「格好悪いところは見せぬよう頑張りますぞっ」
 サーヴァントとともに盾役を務める灯は秋津彦へと壊アップル。漲る力に後押しされ、秋津彦は愛刀を手にプラントマーダーへ斬りかかる。相手の手にしたチェーンソーと刃がぶつかり合い、激しい火花を散らす中、彼は敵の特徴や能力をしっかり記憶に留めようと努める。
 敵はどれもタイプが違う。それぞれ得手、不得手があるはずだ。
「Question……ジュモーは今の立場に望んでなりましたの?」
 縛霊手から敵を牽制する光弾を撃ちつつ、何か情報を引き出せないかシエナが問う。
 その返答はオーク・レプリカの野太く粗雑な雄叫び。
 この4体は施設防衛の任務を割り当てられた試作機にすぎないのだろう。
「くっくっく……部品でも持ち帰って解析すれば、何か情報が掴めるかもな」
 脇から敵前衛を突破した柧魅がノット・オールに迫るが、オーバースペックが素早い動きで割って入った。左右の腕以外に6本の補助腕を持つ相手と、柧魅は近接での殴り合いになる。
「あいつ、すばしっこい。だったら、まとめて足を止めるっ」
「今回の目的は調査です、皆さん無理はしないでください。ただ、後ろはお任せくださいね」
 シュネカがアイスエイジを敵へと放ち、リビィは支援のためヒールドローンを展開する。
 対する敵は、盾役のオーク・レプリカが手にした工具や背部のケーブル類でケルベロスたちに応戦、プラントマーダーはチェーンソーをブン回して果敢に斬りかかってくる。
 オーバースペックは素早い動きと複数の腕でケルベロスたちを攪乱、ノット・オールが回復役を担っていた。
 ケルベロスたちはダモクレス側の戦い方から、どの勢力の技術が使われているのか、運用思想は、前衛型か、支援型か、司令塔か、それらを見極めようとする。
 だが時間にも限りがある。
 引き際を誤れば、撤退の余裕がなくなってしまいかねない。


「新技術を取り入れ、ダモクレスの開発技術は確実に上がっているですの。でも――」
「くっくっく。単体ではそこまで脅威じゃないな」
 それがシエナと柧魅の、この4体への評価だった。シエナのストラグルヴァインがオーク・レプリカの脚を止め、次いで柧魅の放った鋼の糸、柧魅式忍殺術が繰り出される。糸から走る電流で片膝を破壊されたオーク・レプリカは、その場に足止めされる。
「大量生産されて物量で攻めてこられたら面倒そうだが――」
「この場では自分たちが上回っているでありますっ」
 シュネカのドラゴニックハンマーがプラントマーダーを叩き伏せ、床が大きく陥没する。これを飛び越えた秋津彦は、その先のコンテナをさらに蹴り、死角からオーバースペックを蹴撃。吹っ飛ばされたオーバースペックは反対側のコンテナに叩きつけられる。
 自らの前面がガラ空きになったことで、回復役のノット・オールが攻撃に転じた。左眼からモザイクを飛ばし、ケルベロスたちを近づけまいとする。
「全然っ、そんな攻撃、痛くないです、私が守りますから!」
「時間が惜しい。これで決めてくれ」
 灯がスチームバリアでモザイクを阻み、ティユが味方の火力をブレイブマインで高めた。
 試作機はここで一気に破壊する――しかし、その狙いは阻まれてしまう。
 倉庫奥の通路、その向こうから高速で接近する脅威を、ケルベロスたちは察知した。
 敵の増援だ。
「指揮官機ヴァーレス。これより侵入者を排除する」
 声の主は重武装の少女型ダモクレス。頭上に光輪、背中に光の翼を持ち、4体の試作量産機とは桁違いのプレッシャーを放っている。おそらくは完成度の高さと性能も比較にならないだろう。
 この指揮官機が、試作量産機の群れを率いてこちらへ向かってくる。
 さらに撃破寸前まで追い込んでいた4体も戦線に復帰しつつあった。
 ここが引き際か。
 踏み留まれば撤退の機会を失いかねないが、今なら全員無事に脱出できるだろう。
「ダモクレス、これだけの戦力をまだ残していたとは。是が非でもこの情報は持ち帰らせていただきます。私たちの邪魔をするなら撃ち抜きますよ」
「ならば心を失った悲しき機械たちよ。貴様らに心が宿らぬ理由は一つだ。それは単純に……パワーが足りない! だが安心しろ、我が圧倒的なパワーを秘めたチョコで貴様らは覚醒による歓喜の叫びをあげるだろう! 私が作ったチョコを喰らえい!」
 リビィはヴァーレスめがけてアームドフォートを一斉射、絶華は自律機動するチョコという名の狂気の産物、心に込もるバレンタインチョコレートを敵群に突撃させた。
 フォートレスキャノンの砲弾はヴァーレスが手にした剣で弾かれたが、荒れ狂うチョコが倉庫内のものに手当たり次第ぶつかりながら膨れ上がり、突進していく。
 チョコの排除に敵が追われている隙に、ケルベロスたちはアリアドネの糸を頼りに撤退を開始した。
 ジュモーに研究を続けさせるのは阻止したいところだったが、敵勢力を地下拠点に釘付けにすることはできた。あとは戦った試作機や新型機の情報を持ち帰れば潜入調査の任務を果たしたと言える。
 しかしジュモーは、次にどんなダモクレスを送り出してくるだろうか?

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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