大阪地下潜入作戦~援護、更には次なる一手の為に

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 お堅い表情は相変わらず。都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を見回す。
「東京焦土地帯に於いて、エインヘリアル第九王子サフィーロとの決戦に勝利した事により、ブレイザブリクを完全に掌握するに至りました」
 既に、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索が開始されている。
「ですが、エインヘリアルが、この状況を良しとする訳はありません」
 ヘリオンの演算によれば、ホーフンド王子勢力から本星へ『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』と報告されているとの事。
「エインヘリアルが、ブレイザブリクを奪取する為の軍勢を起こすのは間違いないと思われます」
 そして、大阪城方面の情報を収集していた、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)を始めとするケルベロス達より、重要な情報が齎された。
「大阪城の攻性植物勢力が、軍勢を整えています」
 エインヘリアルのブレイザブリク奪還に合わせて、大阪城からも侵攻する心算か。
「エインヘリアルと攻性植物は長年の仇敵同士でしたが……近年は、ケルベロスを共通の敵として対立関係が緩和しています」
 近況を視るに、ホーフンド王子に援軍を派遣する等、大阪城のハール王女の『工作』が功を奏しており、エインヘリアルと攻性植物の合同作戦の可能性は、かなり高いと言わざるを得ない。八王子も大阪城も日本の大都市圏に隣接している為、同時侵攻が起これば、住民に多くの被害が出てしまうだろう。
「しかし、大阪城側の準備がまだ整っておらず、隙がある事も判明しています」
 多くのケルベロス達による調査の成果を、活かさぬ手はないだろう。
「皆さんには、複数のルートから大阪城勢力に攻撃を仕掛け、エインヘリアルとの共同作戦の実行阻止をお願いします」
 大阪城勢力は、プラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点で、侵攻準備を行っている模様。
「この地下拠点の破壊活動により、侵攻準備を遅延させる作戦となります」
 又、大阪城地下への攻撃は、同時進行のハール王女との決戦に対して、大阪城からの増援を阻止する意味もある。重要な作戦と言えるだろう。
「要塞拠点のハール王女の撃破が本命ではありますが……喩え王女の撃破に失敗しても、こちらの破壊活動が成功していれば、エインヘリアルと攻性植物の共同作戦の遅延は果たせますので」
 今回の侵入作戦は、敵拠点への潜入と破壊工作が目的である為、深入りが過ぎるとケルベロスとて帰還が難しくなる。
「撤退可能の範囲を考慮の上、その範疇の『有力な情報』を得たり『大阪城勢力に更なる打撃を与える』事が出来れば、大成功と言えるでしょう」
 大阪城の勢力については、多くのケルベロスの調査により、既に幾つかの情報が得られている。
「先に得られた情報を元に、攻撃及び調査対象を定めて下さい」
 
 まずは、「ドラゴン勢力」について。
「定命化で弱っていたドラゴン達は、現時点でも完全な回復には至っていないようです。しかし、攻性植物の力を取り入れた一派は、最強戦闘種族としての力を取り戻し、今回の侵攻作戦に加わるべく準備しています」
 次に「ダモクレス勢力」について。
「ジュモー・エレクトリシアンの勢力は、大阪城に集まった多くの勢力の技術を利用したダモクレス開発を行っています。前線の要塞にも戦力を送っていますので、ケルベロス側の戦力を集中させれば、ジュモー本人の撃破のチャンスもあるかもしれません」
 第3に「螺旋忍軍」について。
「大阪城に合流した螺旋忍軍のリーダー、ソフィステギアは既に撃破されています。しかし、残党の螺旋忍軍が、屍隷兵技術、ダモクレスの機械化技術、攻性植物の寄生技術等を利用して、螺旋忍軍の復興を目指しているようです」
 勢力としては「ドリームイーター」も壊滅しているが、大阪城にはパッチワークの魔女の一派が合流して生き延びているようだ。
「勢力としては弱小ですので、一定の戦力を投入すれば、滅ぼす事も可能かもしれません」
 更には、「レプリゼンタ」について。
「多くの調査が成された結果、レプリゼンタ・ロキと接触出来るタイミングを掴みました」
 ロキ側には、ケルベロスと命懸けで戦う理由は無い。一定以上の戦力で接触した場合、戦闘になる前に撤退していく可能性が高いだろう。少人数での接触の上、ロキの不死の秘密を撃ち破れば、好機となるかもしれない。
「又、レプリゼンタ・カンギとも、接触のタイミングを掴んでいます」
 レプリゼンタ・カンギ撃破については、ガネーシャパズルが大きな役割を果たすと判明している。尤も、護衛であるカンギ戦士団は精強であり、今回の撃破は難しい。それでも、攻性植物の重鎮から有益な情報を引き出せる可能性はあるし、少なくとも、カンギを長時間足止め出来れば、他のチームへの援護となるだろう。
 又、今回の作戦は、「攻性植物のゲート」の位置を探る機会でもある。
「かつての大阪城ユグドラシル地下での戦いで、ゲートの大体の位置は判明していますが……他種族も受け入れて数年が経っています。大幅な地形の変更も予想されます」
 ゲート周辺は厳重な警備が敷かれている筈だが、多くの戦力を投入して警備網を突破、ゲートの位置の特定が叶うかもしれない。
 同じく、ケルベロスウォー規模の作戦であれば、「堕神計画」も挙げられる。
「リザレクトジェネシスに於いて、死神のネレイデスが画策していた『堕神計画』。これを利用して、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性があるようです」
 或いは、聖王女に替わる何かについて。詳しく調査すれば、何らかの情報が得られるだろうか。
 最後に、地勢的観点から「大阪湾」について。
「かねてより、攻性植物が大阪湾から瀬戸内海に出る可能性について指摘されています」
 大阪城地下から瀬戸内海の海底に向けて、工作が行われているとすれば、早期発見が肝要と言えるだろう。
 
「以上……大阪城に関連して、多角的に調査を行って下さったケルベロスの皆さんに、感謝します」
 本作戦は、ハール王女撃破の側面支援がメインではあるが、それ以上の成果を得られるかもしれない。
「皆さんの尽力で得られた情報を活かし、必ずや、大阪城潜入作戦を成功させて下さい。宜しくお願い致します」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
美津羽・光流(水妖・e29827)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)

■リプレイ

●大阪地下潜入作戦
 長らくの因縁となったエインヘリアル第二王女ハールとの決戦と時同じくして、大阪城地下への潜入作戦が決行された。
 本作戦の第一の目的は、第二王女ハール決戦の援護。第二に、デウスエクス同盟とも言える大阪城勢力の情報収集だ。
 結論から言えば、大阪城全ての勢力を牽制した事で、ハール王女側への増援を完全阻止。まずは十分な成果だ。
 その一方で、『全ての情報を完全に得るには、戦力が足りない』状況から、何処まで中枢の情報が得られたのだろうか――。

「様変わりだね」
 手元の地図を眺めて、溜息を吐いたのはウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)。地図を訂正しながら進む心算でいたが、余りの変貌ぶりにいっそ作り直す方が速そうだ。
「しゃあないやろ……それ、爆殖核爆砕戦の頃の地図、やっけ? もう何年も前の話やしな」
 眉根を寄せるウォーレンを横目に、美津羽・光流(水妖・e29827)は肩を竦める。
(「顔色悪いなぁ」)
 ウォーレン本人は不調を隠しているつもりだし、実際、他には気付かれていないが、光流はお見通し。
(「終わったら、抱えて帰ったろ……その前に、任務はきっちりやるで」)
 さり気なく、フォローに回ろうとする恋人の存在は、確かに心強かろう。
 3体のサーヴァントを加えた総勢11名のチームは、攻性植物のゲート担当のチームと早々に別れ、独自の探索を始めている。
 彼らの目的は――堕神計画。
 リザレクトジェネシスに於いて、死神のネレイデスが画策した計画を利用し、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性があるという。
「『何か』が『誰』なのか、はっきり判れば良いっすね」
 帰り道を違えぬよう、マッピングを買って出た神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)は、独りごちる。
(「エインヘリアル、攻性植物、死神は、元を糺せば同じ星の住人みたいなものっすし……そこらへんの繋がりを、上手く見付けられれば」)
「オラトリオ的には、聖王女関係がとても気になるのよね」
 構えたカメラで周囲を録画する。興味津々な面持ちの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)とは対照的に、傍らを飛ぶボクスドラゴンのぶーちゃんはビクビクオドオド。ひっきりなしに首を巡らせる。
 まあ、敵地の真っ只中だ。警戒に警戒を重ねて丁度良い。実際、ケルベロスの半数は隠密気流を纏っている。
「聖王女様のサルベージなど、万死に値します」
 その実、オラトリオの言葉より、地球人の朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)の方が、堕神計画への憤りや嫌悪が激しい。
 昴にとって、聖王女への信仰が全てだ。デウスエクスのロクでもない計画が聖王女を利用した時点で許し難い。
「個人的には、マスター・ビーストのサルベージが脅威ですね」
 やはり、自らの種族に関わる『十二創神』は気になる所だろう。隠密気流を駆使し、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)と先行偵察を務めていたスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は、ウェアライダー――ぎんいろきつねみこだ。
(「ここは敵地ど真ん中。慌てず慎重になりすぎず……長居は危険、時間も敵」)
 それが何故、2人共偵察から戻ってきたのか。
「この先、路が塞がってるぜ」
 双吉は考え込む風情で仲間を見回す。
「動物変身で擦り抜けるスペースもありませんでした」
 スズナの見た所、行き止まりは大きな岩盤で蓋をしている感じ。
「あれもこれも怪しく見えますけど……岩の先に、何かありそうです」
「力仕事なら任せて」
 ボクスドラゴンのペレと進み出たのは、ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)だ。
 ――――。
 行く手を塞ぐ大岩に手を掛けるや、ググっと力を込めるノーフィア。程なくして――。
 ゴゴゴゴ――。
 よもや、華奢な細腕が動かすとは。防具特徴「怪力無双」の賜物だ。
「……これって」
 隙間から零れる予想外の光に、ノーフィアは眉根を寄せる。
「さて、聖王女か、マスター・ビーストか……それとも、イグニスか?」
 転生思想に傾倒する双吉にしても、堕神計画への関心は尽きない。
 だが、目下は周囲を警戒し、カバーリングの心積もりで、双吉はノーフィアが拵えた隙間に滑り込んだ。

●百花の野の先に
 此処は大阪城の地下、の筈だ……。
 隙間から向こう側へ抜けたケルベロス達は、一応に面食らった表情になった。
 淡い光降り注ぐ広大な空間を見回せば、奥に向かって徐々に緑が広がっている。
「立ちっぱなしも何だ。さっさと行こう」
 尋常でない光景に、警戒度も急上昇。まず双吉とスズナが先行し、続くケルベロス達も神経を尖らせて進む。
(「一体何を企んでるのかしら……」)
 敵にメンタルを抉られなければ良いけれど――カメラを持つ言葉はあちこちに視線を走らせる。
(「映像の転送は……流石に無理ですか」)
 やはりカメラを構えるスズナだが、敵地で通常の通信手段が遮断されているのはお約束。まだ、撮影や録画の余裕があるだけましだろう。いざとなれば、ウォーレンのアイテムポケットにカメラを預ければ良い。
 やがて、パステルカラーの花が野原を埋める。おどろおどろしさなど全く無縁の、可憐な花ばかり。
「何て言うか……長閑っすね」
 ふわふわと綿毛のように花弁が舞う。結里花の言う通り、平穏にして不思議な空間だ。
(「もしかしたら、この先に居るものは、『善の性質』があるのかもしれない……」)
 敵の拠点の筈が、安らいでしまう。ウォーレンが期待を抱いてしまう程に。
「此処の花、持って帰ってみぃひん?」
「うん……地下に花って珍しいよね」
 今の所、目に付く不思議は一面の花々くらいだ。光流の提案に肯き、幾つか摘んでみたけれど。花は忽ち萎び砕け散った。
「……」
 ノーフィアと姉妹同然のペレも、いつの間にか彼女の頭の上で寛いでいる。ともすれば、ノーフィアものんびりとしてしまいそうだ。何とか気を引き締めようと、パンッと両手で頬を叩いた。
 改めて警戒心を奮い立たせ、明媚な箱庭を往く事暫し――やがて、こんもりとした森に辿り着く。木漏れ日が光の階を描き、いっそ清らに神秘的な様相。苔生した小径が、森の奥へ続いている。
「……あなた方は?」
 胸の内のワイルドが痛みを伴いザワリと波立ち、昴の手に力が籠る。
 森に入ろうとしたケルベロス達を遮ったのは、5人の少女。
「ここから先は、アンジェローゼ様の寝所です」
「立ち入りは禁止されています」
「即刻、お引き取り下さい」
 歌うように、だが人形的な無機質も混じった声音で、少女達は口々に。
(「えっと……魔法少女って奴か?」)
 身に纏う彩も、装飾の花も、構える武器も各々違う。その割に、確たる個性が感じられないのは――攻性植物であるが故か。
(「少なくとも、メリュジーヌが材料、やないみたいやけど」)
 目配せし合うケルベロス達。所謂『門番』との遭遇だが、少なくとも、対話が可能な相手だ。意志の疎通は試みたい所。
「私はノーフィア・アステローペ。こっちは妹分のペレ」
 妹はそっちだろうと言わんばかりの視線は黙殺してのけ、ノーフィアは友好的な表情でお菓子を取り出す。
 すわ強敵かと恐れ戦くぶーちゃんを背中からひっぺ剥がしながら、言葉は少女達の反応窺う。
「君達の名前も聞きたいな!」
 食べる? と差し出したノーフィアの菓子は見事に無視されたが、今の所、少女達に事を構える気配はない。
「柴崎・菫」
 まず返答してきたのは、スミレの花を飾った弓を持つ薄紫の少女。ロップイヤーのようなうさ耳ツインテが活発そうだ。
「桃野・桜」
 後ろ手を組んだ小柄な少女の髪飾りは、サクラの花を大きくしたよう。大きな瞳が愛らしい。
「黄地・菊」
 キクの花のリボンで淡黄の髪と短めの薙刀を彩る少女は、物静かな微笑を浮かべる。
「赤池・椿」
 4人目がリーダー格だろうか。ノースリーブの装いは、2人目の少女と似て非なる彩り。赤いツバキの花が、凛とした面とレイピアを飾る。
「青井・竜胆」
 最後は、清楚な青き少女。水色の長い髪と長柄の斧に、リンドウの花が美しく咲く。
「あー、先輩方、お疲れさん」
 いっそ、胡散臭いまでににこやかに口を開いたのは光流だ。
「自分ら、新参で……攻性植物に雇われたばっかりの螺旋忍軍なんですけど」
(「『アンジェローゼ』って『何か』の護衛、ってヤツっすかね」)
 少女らをじっと観察する結里花も、地球人ならではの親しみ易さ全開に笑みを浮かべる。
(「本命は……奥だよな」)
 森の奥を見やり、双吉は逡巡する。どうにかして、一目なりとも『アンジェローゼ』を拝みたい所だが。
(「そう言えば、遭遇した敵を誤魔化す方法とか、考えてませんでした」)
 今の頼りは、光流の口八丁。内心でハラハラしながら、スズナは状況を注視する。
「あー、その……自分ら、レプリゼンタ様の伝令なんですけど。ここを通して貰う訳には」
「いけません」
 にべもなかった。
「喩え、カンギ様やロキ様ご自身であっても、立ち入り禁止です」
「レプリゼンタ本人でも、駄目なの?」
 怪訝そうなウォーレンの疑問が聞こえたのか、少女達の唇が揃って柔らかな曲線を描く。或いは、笑んだのかもしれない。
「アンジェローゼ様は、私達攻性植物の聖王女なのですから」
「……攻性植物の、聖王女」
 屁理屈にもなっていない、意味不明の理由。だが、けして許す事の出来ない言葉に、昴の理性が沸騰する。
 偉大なる我らが聖譚の王女よ、その恵みをもって我を救い給え――。
 昴の全身が、濁流に変じる。色彩淡やかな光景の中、異端と化したその右腕が無造作に――己が左肩の肉を抉り取る。
 彼の者を救い給え、全てを救い給え――。
 抉った傷口が忽ち再生する間に、昴は己がワイルドスペースを投げ付ける。激痛を憤怒で捻じ伏せ――赦せざる冒涜を言った黄地・菊目掛けて。

●次なる一手の為に
 ――――!!
 混沌の軌道を、青井・竜胆の長柄斧が遮る。
「あちゃ~」
 一斉に武器を構える少女達の様子に、言葉は苦笑い。
「まあ、仕方ないかなぁ……何であれ、ケルベロスとして叩き潰さないとね!」
 幸い、ディフェンダーは知れた。言葉のスターゲイザーが狙い澄まして青き少女に突き刺されば、今にも泣きそうなぶーちゃんのタックルが飛び蹴りの軌跡を追う。
「光流さん!」
「よっしゃ! 行くで!」
 光流が勢いよく爆破スイッチを押せば、ウォーレンのチェーンソー剣が唸りを上げた。
 だが、続いて結里花が動くより早く、隊列を整えた攻性植物達が一斉に動く。
 ――――!!
 柴崎・菫がエネルギーの矢を放ち、赤池・椿が幻のツバキ舞う華麗な剣戟を繰り出す。同時、桃野・桜の放つ光の戦輪が前衛を真一文字に斬り裂いていく。
 ザ―――!
 黄地・菊の薙刀の一閃が、鋭刃なる菊の花弁を雨あられと降らせ、最後に花の魔力を励起した青井・竜胆の斧が強襲する。
 ガキィッ!
「お返し、だぜ!」
 優美な見た目に違う重撃からノーフィアを庇い、双吉の小柄が銘通りの火花を散らす。
「こちらも大分、大所帯ですけれども、デウスエクスも仲は良さそうですね」
 攻性植物の標的となったノーフィアには、ペレが大急ぎで属性インストール。前衛へはスズナがキュアウインドを吹かせる。
「自然の力は侮れない、ですよね!」
 心霊治療士の肩書は伊達ではない。サイと魂を分かつが故に、スズナ本人の回復量の減少は致し方ないが、ノーフィア曰く妹分も回復に回っているし、キュアに関しては、ジャマーたるウォーレンがフォローの術を調えている。
「誰も欠けずに帰還しないと!」
「確かに、調査は安全に。おうちに帰るまでっすからね」
 いっそ呑気に呟いて、ぺろりと結里花が舐めたのは甘酒か。
「二人心を合わせれば、その一撃は金を断つ!!」
 一転、佇まいも凛々しい結里花の傍らに、親友の幻霊が顕れる。
「連携奥義断金一式!! 疾風迅雷!!」
 雷纏う竜巻が、敵の前衛を薙ぎ払う。青井・竜胆のみならず、桃野・桜と黄地・菊もその身を震わせた。
「我、流るるものの簒奪者にして不滅なるものの捕食者なり――」
「本願投影。シアター、展開(オン)ッ!!」
 更に畳掛けんと、ノーフィアの収縮する世界、双吉の黒液投影・可憐なる夢双の乙女、オリジナル・グラビティが次々と青井・竜胆に炸裂する。
「死神の計画のどさまぎで何を手に入れたんだ、お前ら?」
 歴戦のケルベロス達が集中攻撃すれば、耐え切れまい。眼力が報せる命中率が、攻撃の手応えが如実に示している。
「俺らぁ死翼騎士団って連中と手ぇ組んでんだが、連中にチクられたら困るか。アァ?」
 故に、双吉にもカマを掛ける余裕があった。悪人面の青年の背後には、全身ワイルド化したままの昴が蠢いており、傍から見れば、どっちが正義の味方か怪しい光景ではあったけれど。
「黒曜牙竜のノーフィアより青井・竜胆へ。剣と月の祝福を」
 早々に引導を渡すべくノーフィアが愛剣を構えたその時。
「え……」
 愕然と目を見開く結里花。よもや、森の奥から溢れ出た光が少女達を包むや、総ての傷を完全に癒してしまうとは。
 ――――!!
 構わず、昴が己がワイルドを攻性植物に叩き付けようと、その度、少女達の傷は癒しの光が完璧に治癒し、厄を掃ってしまう。
「これは……あかんな」
 3度目の癒しの光を目の当たりにして、光流は頭を振る。瀕死の呈であろうと凌がれれば、次の瞬間には元の木阿弥。寧ろ敵地で戦闘が長引けば、援軍に包囲されて一網打尽にされかねない。
「まだ、誰も倒れてねぇけどよ」
 双吉も不満そうであったが、今ならば、撤退もスムーズに出来そうだ。
「不浄を焼き払え、如意御祓棒」
 結里花が放った紅蓮大車輪を目くらましに、ケルベロス達は身を翻す。
「昴さん、ここは退きましょう」
 スズナの言葉に歯噛みする昴だが、単身特攻する程、理性は蒸発していない。その肌が常の褐色に戻ると同時、踵を返した。
 攻性植物達は、撤退したケルベロス達を追おうとはしなかった。追い払うように何発かグラビティを放って後、速やかに森の奥へと撤収する。
「潮時、だろうね」
 遠目からその様子を確認したノーフィアの言葉に否やは無い。
(「攻性植物は、死神と通じているのかな……」)
 ヴァナディース――死の淵を覗き、世界樹を手懐けたアスガルドの女神の情報を期待していたウォーレンだが、堕神計画なる大きな謀に対し、割かれた戦力は彼ら1チームのみ。少ない手数で核心まで触れようというのは相当に無理がある。
(「あの『癒しの光』が、攻性植物の聖王女『アンジェローゼ』なのかなぁ……?」)
 言葉の推測は、恐らく正しいだろう。その『何か』の姿さえ確認出来なかったのは心残りだが、断片であろうと集めた情報を持ち帰る事が、今は最優先。
 次なる一手の為に、ケルベロス達は岩戸目指して百花の野を駆け戻った。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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