●幕間の時は過ぎ去りて
第九王子サフィーロとの決戦に勝利した。
これによりブレイザブリクを完全に支配下に入り、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索が本格的に開始。
「ですが、エインヘリアルがこの状況を座して待つ訳はありませんわよ」
オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の予測などから、ホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告も行われている。
オリヴィアは「ブレイザブリクを奪取するための軍勢を起こすことは確実ですわ」と断言した。
「この状況で大阪城方面の情報収集をしていたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)様らから、重要な情報がもたらされましたわ――大阪城の攻性植物が、軍勢を整えて侵攻の準備をしている、と。ゼリュティオ様の調査から、エインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせた『大阪城からも侵攻を行う合同作戦の可能性が高い』ですわよ」
エインヘリアルと攻性植物は長らく敵対関係にあったが、近年はケルベロスという共通の敵が存在し、対立関係が緩和していた。
さらに、大阪城のハール王女がホーフンド王子に援軍を派遣するなど、支援も行っていた。この合同作戦が行われる可能性は『かなり高い』と言わざるを得ない。
しかし、調査に赴いたケルベロスらのおかげで、大阪城側の準備がまだ整っておらず、攻め入る隙があることが判明したのだ。
「皆様は、複数のルートから大阪城勢力に攻撃を仕掛け、エインヘリアルとの共同作戦が実行されないようにしてくださいませ。鍵を握るのは、双方の連携でパイプ役を果たしていると思われます『エインヘリアルの第二王女・ハール』ですわね。彼女を撃破できれば、当面の合同作戦は行えなくなるでしょう」
撃破できなくても、攻性植物勢力の『ハール王女への信用を大きく失墜すること』が出来れば、相互助力は見込めなくなる。
同様の効果を期待できる上に、場合によっては、ハール王女を攻性植物側の手で排除させることも出来るかもしれない。
「攻性植物がハール王女を処断した場合、エインヘリアルと攻性植物との対立は以前より激化するでしょうね。気の毒ですが、ケルベロスが撃破するよりも良い結果になるやもしれませんわ」
ハール王女は多くの失態を重ねていることから、最前線の防衛拠点の守護に回されている。
「子飼いの軍勢はホーフンド王子の援軍に送ったため、戦力も充分ではありませんわ。件の最前線にある防衛拠点『要塞ヤルンヴィド』は、ダモクレス勢力の城塞であり、ハール王女の部隊とは、別にダモクレス軍も駐屯しております……ハール王女にとって屈辱的な待遇、でしょうね」
エインヘリアルの王女を門衛扱い、辛酸を舐める思いでいることだろう。
だが、ダモクレスと協力して出てくる状況は芳しくない。そこで、
「ダモクレス部隊と、ハール王女を分断する作戦が必要ですわよ。分断する方法としては『戦闘によって物理的に距離をとらせる』か、『心理的な隙間を生む策略』か……或いは、この双方を組み合わせてもよいかと思いますわ」
彼女は舞台に長く立ち過ぎた。舞台袖に下がるべき頃合いを自ら手放した、とオリヴィアは小さく息を吐く。
●舞台と役者
戦場は大阪城を護る『要塞ヤルンヴィド』
グランドロン城塞を失った後、大阪城の新たな防衛拠点としてダモクレスが建造した要塞だ。
「要塞司令官はインスペクター・アルキタス。ハール王女は配下の軍勢をホーフンド王子の援軍に派遣した際、かなりの数を失っている為、戦力は縮小されています」
要塞の主力であるダモクレス軍は強力だが、『なにがなんでもハール王女を護る』理由はない。
「うまく分断すれば、少数精鋭でハールを討伐できるかもしれない」とオリヴィアは可能性を提示する。
「それとこの要塞、第八王子強襲戦にて氷月のハティ、炎日騎士スコルが指揮官でもありましたの。引き続き、炎日騎士部隊がハールの軍勢として、防衛部隊に組み込まれていますが……優先度は司令官のアルキタスのほうが上のようですわ」
それだけ、ハール王女に対する忠誠心に大きな揺らぎがある、と考えていい。
さて、ハール王女の実質的な戦力はフェーミナ騎士団と、3名の有力な女性配下となる。
「ハール王女は、要塞の西側の1/3を担当していますわ。護衛として常にフェーミナ騎士団騎士とフェーミナ騎士団員がついていましてよ。有力配下は、戦鬼騎士サラシュリ、槍剣士アデル、策謀術士リリー・ルビーの三名です」
三名の詳細は資料に記すため省略し、オリヴィアは三名の役割について触れる。
「サラシュリは炎日騎士部隊を率いて、要塞の最前線で警戒活動を行っております。ただし、指揮能力が皆無であるため3名のフェーミナ騎士団騎士が補佐にあたっています……わかりやすく単純な方ですが、そのぶん戦闘能力は高いのでしょう」
槍剣士アデルは要塞内にてフェーミナ騎士団を統括している。
「現在のフェーミナ騎士団はフェーミナ騎士団騎士を小隊長に、フェーミナ騎士団員と炎日騎士部隊の混成部隊5名が付き従う『小隊』ごとに、役割分担をしながら防衛を行っているようですわね」
アデルは戦死者をできるだけ減らそうと、自ら先頭に立って戦う騎士道精神を持っている。
うまく利用できれば、前線へ誘いだせるかもしれない。
「敗戦続きで自信を失していますが、アデル以外に全体指揮を執れる者がいませんの。アデルが前線に出てきてしまえば、要塞内部への潜入も容易になりましすわ」
最後に策謀術士リリー・ルビー。彼女は直属のフェーミナ騎士団魔術兵と共に、与えられた執務室で本国との調整など仕事を行っている。
「リリー・ルビーは襲撃があった場合、自らの身の安全を最優先に行動するため、発見して撃破するまでが難しいかもしれません。ですが配下は文官で、戦闘には不慣れ。見つけられれば撃破そのものは難しくないかと……リリー・ルビーの行動を予測して、罠を張ることが出来れば撃破できる可能性も上がりますわ」
最後に総大将――第二王女ハールは『最も警戒が厳しい要塞の最奥』に籠城している。
警戒が厳しい方へ向かえば、おのずとハールの居場所へ辿り着くこととなるだろう。
「『ダモクレスや大阪城からの援軍を抑えること』『十分な戦力を用意できること』この2点が達成できれば、ハール撃破も不可能ではありませんわよ」
なお、要塞司令官のインスペクター・アルキタスは、要塞中央部と東側の防衛を担当している。
「アルキタスは量産型ダモクレスを大量に配備した、人海戦術による防衛を行っております。襲撃があれば量産型ダモクレスのテストを兼ねて迎撃するようですわ。ハール王女の救援には積極的ではないのですが、救援を行わない理由がない場合は、やむなく救援を行うでしょうね」
裏を返せば、アルキタスがハール王女に援軍を出さない程度に、要塞中央や東側への攻撃が重要。それそのものが陽動となるのだ。
「中央を激しく攻撃されれば、要塞司令官の権限で炎日騎士部隊を中央の防衛に引き抜いたり、ハール王女側を混乱させる、弱体化させる指示をとるやもしれませんわ。十分な戦力と作戦があればアルキタスを撃破するチャンスもあるでしょうが……二兎を追う者は一兎をも得ず、ですからね?」
ハール王女、アルキタス双方を討伐できればベストだが「欲張りすぎないように」オリヴィアは釘を刺す。
「事ここに至っては、退路を断ったのは王女自身と言えますわ。第二王女という立場があったとはいえ……プライドの高さが己の首を絞める結果を招いてしまったのですから」
もう後戻りは許されない。第二王女はすでに絞首台の前に立たされた。
あとは、地獄の番犬が刑を執行するのみとなる――!
参加者 | |
---|---|
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) |
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683) |
レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518) |
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671) |
アレクシア・ウェルテース(カンテラリア・e35121) |
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173) |
●軍靴を鳴らせ
分厚い鋼の外壁によって堅牢さを誇る、泰山のような機構『要塞ヤルンヴィド』
ダモクレス軍の注意が中央から以東へ注がれている中、西側に回り込んだケルベロスのうち、サラシュリを引きつけるチームが挑発をかけていた。
煽られた戦鬼騎士が黙っていられるハズもない――サラシュリは案の定、鋼鉄の門を開放。
闘争を好む数人の側近とともに出撃――だが、取り残された炎日騎士には動揺が広がっていた。
門を閉ざせばサラシュリは孤立してしまう。判断に迷う炎日騎士部隊に対し、3班が急襲をかける。
「ミサイル全弾発射ーー! いっけーーー!!」
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)とミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)の放つミサイルの多重爆撃を衛兵に浴びせかけ。
「外道なことはしたくないですが……」
「ごめんあそばせ、あなた方に用はないのよ」
突破口を切り開く二人を、レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)は黄金の果実で、陣をえがくアレクシア・ウェルテース(カンテラリア・e35121)は軽やかなステップでソロ達を鼓舞していく。
「妹すら捨て駒にしたハールに従う愚か者共よ、音に聞け、目にも見よ! 我らはケルベロス、お前らを地獄に案内しにやってきた!」
巨大な絵筆を振り回し、アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)は「念仏の用意が済んだ者から……さあさあ、掛かって参れ!」ダイナマイト変身から大見得を切って砲撃で敵に圧力をかける。
注目を引くソロ達を支えるクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)は、オルトロスのお師匠に前衛のサポートを指示。
密星のペンデュラムで地上に魔方陣を敷いていく。
「止まってはあげられないんだ、通してもらうね」
倒れ伏す門番を一瞥し、クローネは開放されたままの門めがけて走る。
他の2斑を追うように残る炎日騎士を押し切って強行突入するも、
「いけない、ケルベロスが要塞内に!?」
「侵入を許すな! 追うぞ!」
青ざめた炎日騎士は慌ててケルベロスの追撃に移った。
内部は外壁の耐久性を重視してか、通路にはコードやパイプが剥き出しのまま。まるで生き物の腹の中だ。
レミリア達は殿となって、迫る数十人の炎日騎士を相手しながら前方2班を追う。
前方から放たれたオウガ粒子を受けながら「あなた達に構ってるほど暇じゃないんだよね」ミスティアンのエネルギー光線に、また一人が倒れ伏す。
それでも足止めしなければ、と構わず他の女性エインヘリアルは食い下がる。
「ミスティアンさん、なるべく体力温存しないともたないよ!」
パズルから竜雷を飛ばしながら駆けるアンヴァルに炎日騎士が肉薄し、そこにレミリアが飛び込みはじき返す。
ひるんだ隙に紫電を放つコルセスカで胸を刺し貫き、仰々しく槍につく血を振り払う。
派手な立ち回りに反して、寡黙で表情をフードで隠す姿のギャップは威圧感すら与える。
「これ以上、行かせるわけにはっ!」
「そんな及び腰で私達が止まると思っているのか? 思っているのだな!?」
窮迫する炎日騎士をソロは一喝し、体ごと戦斧に勢いをつける。
割り込みヴォイスによって、本来の声量の何倍にも大きく聞こえることだろう。
前方チームから賦活の電気ショックを送られ、威力の増したソロの一撃に炎日騎士が薙ぎ倒された。
「しつこいったらありゃしないな、レミリア?」
「そうは言ってもソロさん、こちらが同じ状況なら逃がさないでしょう……持ち場は放棄しませんが」
――背後から迫る敵を払っては走り、走っては払い。これを何度繰り返しただろう?
分岐路に到達するたび、アレクシアは一瞥を向けるが、同じような構造が多いせいか満足に確認できずにいた。
「他の幹部も探せたらと思ったけど……探している余裕がないわね、クローネ?」
「そうだね……けど、僕達に注意しているならハール狙いのみんなも入りやすくなる。大変だけど乗り切らないと」
激励するクローネの言葉にアンヴァル達は頷き返した。
アンヴァルが筆先から放つ炎に併せ、再び通路を塞ぐようにミサイルが飛び交う。
派手な爆音が焦燥感を煽り、侵攻されるほど炎日騎士たちは要塞内部へと追いすがった。
……西門からさらに別動隊が侵入する可能性など、想像だにしていない。
「人気者はつらいね、ひっきりなしに追いかけられちゃって!」
努めて明るく振る舞うアンヴァルだが、体力温存を図るには敵の数が圧倒的に多い。
回復では補いきれない疲れが、6人をじわじわと蝕み続けていた。
●忠節の槍
まとわりつくような疲労感を押し殺して辿り着いた先は、地球人の規格には大きすぎる大広間。
そこにいたのは騒ぎを聞きつけた防衛部隊の二小隊。
――そして、ナイフより鋭い視線で侵入者を見据える槍剣士アデル。
「サラシュリめ、これだけの侵入を許すとは……!」
女騎士は怒りをにじませ、視線で射抜かんばかりの殺気を向けてくる。
「後方はわしらに任せろ! お前達はアデルを!」
「わかったわ、先に突入させてもらうわね」
コクマ・シヴァルスをはじめ先行隊の声に、アレクシア達は入れ替わるように前面へ。
怒りに言葉を震わすアデルに口火を切ったのは、真っ先に躍り出たミスティアン。
螺旋氷縛波を放ちながらミスティアンは距離を詰めていく。
「アンタも阿呆だよね、こんな状況になってもド阿呆のハールに従うなんて」
「こうしている間にも、貴殿の部下は討ち取られているというのに……とんだ指揮官がいたものだ。これでは部下も無駄死にではないか?」
御業に寄り添われたレミリアが呟けば、アデルの片眉がピクと跳ねる。
「相変わらず数だけは多い地球の害虫たるエインヘリアルの雑兵。及び、虫けららしく巣の奥に潜む槍騎士アデルに告ぐ」
得物をアデルに向けてソロは堂々と宣告する。
「――我々ケルベロスがお前達を、今日この場で粛清する!」
これだけの罵倒を受けて無視できるほどアデルに精神的余裕はない。
……アデルの槍持つ手に力が入り、
「手負いの犬がさえずるか!」
怒号とともに彼女は天高く跳ね上がった。
前衛の射程内に捉えるより早く、アデルの刺突と剣閃の暴雨がアレクシア達を襲う。
「かは、……っ!?」
仲間との連携よりも、とにかく前へ出ようとしていたミスティアンはガクリと膝をついた。
「っ、く……本番前に、目立ちすぎちゃったかしら……!」
とっさに反応できなかったのはアレクシアだけではない。連戦に次ぐ連戦での疲労によって、チーム全体の動きが鈍っていた。
対してアデルは万全な状態。
どちらがアドバンテージを握っているかは、火を見るよりも明らか。
「怒りに燃えているとはいえ、ここまで重い一撃を……やはり一度は刃を交えておきたかったものだ」
それだけ仲間を大切にしていた――ソロが実感するほど、アデルの激情がいかに複雑であったか。
だが、このまま集中攻撃を受ければ、撤退も視野に入れなければならない。
勢いが落ちるとみるや、アデルはすかさず次の攻撃態勢に。
「どうした!? 厚顔無恥と罵ったのだ、相応の態度を見せよ!」
(「いけない、こっちにアデルの注意を向かせ過ぎた!」)
状況を打破しようとアンヴァルは瞳に意識を集中させ、
「あなたの相手、私らじゃないんだよね……!」
撃ち出した炎をアデルが剣で払う。その一瞬、注意が逸れた。
「師匠、アレクシア達とこっちに!」
急ぎサークリットチェインを展開させるクローネの背後より、尾方・広喜が駆けてくる。
「下がって回復してくれ。代わりに出るからよ。さあ……俺たちの出番だぜ」
「ありがとう、後はよろしくね!」
体力を温存してきたアデル討伐本隊に後を託し、アンヴァル達は体制の立て直しを図る。
●天運
クローネだけでは手が足りないと、アンヴァルとアレクシアの歌声が痛む体を癒やしていく。
「ミスティアン、まだ動ける!?」
師匠が担ぐようにして後退させたミスティアンに、クローネが母なる大地の協奏曲を奏でる。
地母神の祝福もあってか、自力で立ち上がれるくらいには持ち直すと、ミスティアンは前線へ戻ろうとした。
「待て、一人で突っ走るな」
ソロに引き留められたものの、ミスティアンは視線だけ返す。
「まだ、やれる……私が、仲間を助けなきゃ」
「なら私達は、あなたが倒れても仲間のピンチにはならないの?」
アレクシアは諭すように柔和な眼差しをほそめる。聖母を思わす微笑みをうかべ、彼女は全員の顔を見渡す。
「私一人ではここまで来られなかったと思うの、けれど支え合う存在が導いてくれた。楽団だって、自分本位な演奏では音の調和が乱れてしまうもの。けれど、ひとり欠ければ魅力も減ってしまうわ」
だからこそ、今こそ支えあって立ち向かわなきゃ――アレクシアは力強く呼びかけた。
(「……私にも、その言葉を向けているのでしょうか」)
万が一、自分が消えても何ら問題ない……捨て鉢な決意を抱いていたレミリアはひどく驚かされたが、
『――……炎日騎士! 貴様ら、なぜ門から離れた! 持ち場に戻れ!』
アデルの叫びによって現実に引き戻される。
抑えに回っていたコクマ達がフリーになり、矛先をアデル随伴の2小隊へ変えていく。
「……行きましょう、ここが最後の戦場です」
「ごめんあそばせ、飛び入りさせていただくわよ」
アレクシアが軽妙な舞踊で百戦百識陣を広げ、強化されたレミリアの御業が炎弾を撃ち出す。
――小隊騎士を挟撃するように再び攻撃へと移る!
アデルと小隊を引き剝がそうと、ソロ達は残る力を振り絞ってぶつけていく。
「肉親を散々利用し尽くした報い、それに従うお主らもまとめて……ここが死に場所ぞ!」
ヴァルキュリアの一人として、アンヴァルが報復のペイントスプラッシュで染め上げる。
フェーミナ騎士が塗料に動きを制限されると、ミスティアンの五芒星手裏剣が脇腹に深く抉りこむ。
「師匠、ここを乗り切れば、あと少しだから……っ」
固定化が解けそうになる師匠の無事を、クローネは祈り、願いを込めた紙兵を前衛の守護に回す。
指揮官に比べれば実力は劣るが、こちらも余力があるわけでもなし……一気に片をつけようとソロは内蔵ギアを起動する。
「赫灼の雷で文字通り消してやるよ、封印コード『Furfur』……解放!」
落雷のごとき赤々と光り輝く雷撃が周囲にはじけ、地べたを放射状に削りとる。
追い撃つ赤雷に合わせ、レミリアも最大火力の一撃を放った。
「大地よ、地の底より沸き上がりその手を伸ばせ――」
詠唱に合わせ隆起する大地がエインヘリアルの四肢を絡めとり、ミシミシと骨の軋む音が聞こえてくる……だが、奮戦しようという姿勢は相手も同じ。
フェーミナ騎士団、炎日騎士の混合小隊も必死の抵抗をみせる。
「このっ、しぶといんだから!」
時間を稼ごうというのか、堅固な守りをみせる女騎士達に、ミスティアンは思わず悪態をこぼす。
そして、
「いけない、アデルと戦っているチームも押され始めています」
「そんな……このまま終わっちゃうの!?」
レミリアとアンヴァルの言葉に6人の焦燥感は高まっていく……だが、光明は差した。
「新手か!?」
アデルの声の後、足音がするほうへ向けた目をクローネは丸くさせる。
「あれは……リリー・ルビー捜索班の人たち?」
「まさしく天恵ね。なら、ここが終章よ。さあ最終楽章を奏でますわ!」
女神からは祝福を、勇士達には賞讃を!
アレクシアの情熱的な歌声が戦場に流れ、レミリアを赤く染める痛みを鎮めた。
増援に気付き、合流を阻止しようとする騎士団員を抑え、クローネ達も戦線維持に奮起し。
――いよいよ騎士の数が減り始めた頃。
騎士達の背後より、燃え上がる炎の柱が天まで伸びていく。
「……この、私……が!?」
アデルの愕然とした声が、勝敗を決したことを報せる。
思わぬ援軍の登場と指揮官アデルを失った防衛小隊は混乱状態に陥った。
その隙に、戦闘を切り上げた3チームは窮地を脱し、リリー・ルビー捜索の支援に加わる……だが、道中で遭遇するのは錯乱するフェーミナ騎士や炎日騎士のみ。
突入時の消耗もあって長時間の探索は厳しい……ヤルンヴィドからの撤収を決断すると、クローネ達は遭遇した敵戦力を各個撃破しながら出口を目指した。
6つの足音で奏でるは、甘美なる勝利のカプリッチオだ。
作者:木乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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