●挑むは、破壊工作と
ケルベロス達は第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、ブレイザブリクを完全に支配下に収めた――そして、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索もまた開始されている。
「ああ。無論、敵もそれを黙って看過するはずが無い」
雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は視線に応じるように頷いた。
ホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告が行われており――これはフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の予測どおりの動きのようであった――エインヘリアル勢力による、ブレイザブリクを奪取する作戦実行は時間の問題だろう。
「更に――大阪城方面の情報収集をしていた者達から、重要な情報が入った。かの城を拠点とする攻性植物勢力が軍勢を整え、進攻準備に入っているようだ」
どうやら、エインヘリアルのブレイザブリク侵攻に時を合わせ、大阪城からも近郊侵攻を行う合同作戦が立てられている気配があるようだ。
双方は長年の仇敵であったが――近年はケルベロスを共通の敵とし、対立関係が緩和している。更に大阪城に身を寄せるハール王女がホーフンド王子の軍勢に援軍を派遣するなどの工作も行っていたことからも、合同作戦が実行される可能性は極めて高い。
これらが実行されれば、ケルベロスは大都市をめぐり戦力を二分された戦いに挑むことになる――これは何としても阻止したい。
そこへ、同ケルベロス達の調査は、もうひとつの情報をもたらしていた――曰わく、大阪城側の準備はまだ整っておらず、隙がある。
「ゆえに貴様らには複数のルートから大阪城勢力へ襲撃を仕掛け、共同作戦を挫いてもらう」
辰砂はそう告げ、双眸を細めた。
大阪城勢力は、プラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点で侵攻準備を行っているようである。ここへ破壊活動を仕掛けて、準備を遅らせる。
同時にこの大阪城地下への攻撃は、別のチームが攻撃するハール王女に対する大阪城からの増援を阻止するという意味も持つ。
作戦全体の本命は、要塞拠点のハール王女の撃破である――だが、それを損じようと、相手勢力に少なからぬ打撃を与えていれば共同作戦が遅延するのは確かだ。
「こちらの作戦は、敵拠点への潜入と破壊工作が主軸となる――よって、深入りしすぎると帰還が困難となる。撤退可能な範囲を見極めながら、何を得、何を破壊するかを選ぶか。その判断が必要となるだろう」
幸い、多くのケルベロスの調査によって幾つも事前情報が得られている――それを元に、調査対象を選ぶといい。
詳細は後で纏めるが――辰砂はひとたび区切る。
確認出来る敵勢力は『ドラゴン』『ダモクレス』『螺旋忍軍』『レプリゼンタ・ロキ』『レプリゼンタ・カンギ』『ドリームイーター』――。
そして、現状の手がかりは非常に少ないものの、内部には『攻性植物ゲート』、『堕神計画』、『大阪湾』にまつわる情報もあるようだ。とはいえ、限られた戦力で、これら全てを追えるはずもない。
「先程もいったが、重要なのは大阪城勢力を足止めする確実な破壊活動。情報を礎に、どう動くかは貴様らに任せるが――良き報告を待っている」
最後にゆっくりとケルベロス達を一瞥し――辰砂は説明を終えるのだった。
参加者 | |
---|---|
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) |
八千草・保(天心望花・e01190) |
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●潜入
大阪城までの侵入経路は、地下鉄からの亀裂。見張りも巡回の敵もなく、驚く程あっさりと侵入できた。
隠密気流を用いながら、ハンドサインを駆使し音も極力出さぬよう慎重に進み――成る程、情報は確かのようですね、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が声を抑えて囁く。敵の姿すらほぼ見かけぬ。
「駆け抜けちゃっても大丈夫だったかな?」
「……流石にその度胸はないな」
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が冗談をひとつ、タカラバコと見つめ笑うのに、笑い声だけ零し櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)がガネーシャパズルを眺めた。
「道はこっちで合っているようやね」
後方を警戒していた八千草・保(天心望花・e01190)が頼もしげにパズルを見つめる。カルナが手にする如意棒と同じく、カンギのいる方角を報せるように反応を示す。針路の根拠として、頼もしいガイドとなっていた。
「随分、内部に近づいたと思いますが」
ゆらりと赤く燃ゆる輝きが、言葉を放つ。
今は甲冑から零れる炎は控えめに押さえつつ、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が思案する。迷宮化している大阪城では今の地点がどれほどの深部かは計りかねる――。
ふとハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)を振り返った。彼女の知る限り概ね穏やかな男は、その姿勢を崩してはいなかったが――僅かな差異を覚えた。緊張してんのかとでも軽口を叩けば、笑みと冗談を返してくるだろうが、流石のハンナも今そんな気にはなれなかった。
「拓いたところに出られるようだぞ」
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)が訝しげな眼差しを向け、告げる。道中が平穏極まりなかったことに、少しだけ肩すかしを喰らった気分なのだろう。
千梨が景臣とハンナに視線を送ると、二人も頷き続く。先導に向かうはその三者。
「間違いないようです。此処からはより慎重に行きましょう」
警句を放ったのは景臣だった。
この近くにカンギがいる。パズルが、そう教えてくれるのだ。
●邂逅
それは玄室のような空間だった。如何なるルートで何処へ向かう中途か――戦士団を連れたカンギは、ふと脚を止めた。麾下たる者達は驚き振り返ったが、彼は強く威圧するような気配を放って、正面を見据える。
部屋を繋ぐ通路を塞ぐように、ケルベロス達が居並んでいた。
「御機嫌よう、カンギ……そして戦士団の方々。ああそう構えずとも。少し、戦う前にお話ししたいだけです」
地獄の炎で藤色に揺れる双眸を笑みの形に、景臣が穏やかに声を掛けた。
「ボクら、カンギはんのいう救いに興味があるよ。お話、聴かせてもらえますやろか? ……人間も、救われるんですやろか?」
言葉を継いだ保が向こう反応を注意深く観察する。
さあ、どうでるか――然し、カンギはケルベロスを一瞥するなり、失策を自戒するのみであった。
「……ケルベロスがここまで侵入してくるとは。無秩序に戦力をかき集めたのが、やはり間違いであった」
その一言が孕む意志を察し、ハンナが腰を落とす。
構わない、告げるように千梨がパズルを励起させる――滅びた種族の幻影が、双方の距離を埋める。
「ユグドラシルの目的、目指す世界を知りたい。共生を受け入れると俺達はどうなる――アンタは、それが救いになると信じて、母星を委ねたのかな?」
「攻性植物の何がそんなに良いんだか教えてくれ。あんた、良い将兵みたいだしよ。古巣を捨てた選択には意味があんだろ」
彼の問い掛け、幻影が消えやらぬ後をハンナが追う。拳を振るい、打ち貫く。だが、打ち込んだ先は植物の壁――盾と割り込んだ攻性植物の巨人であった。
「同胞たるガネーシャを裏切った、本当に? 貴方が友と呼ぶカンギ騎士団とは随分扱いが違いますが、それともガネーシャは友として共生を選んだのでしょうか」
ラーヴァが重ねた問いと共に、細く、研ぎ澄まされた光線をその隙間をつくように放つ。
これを受け止めたのは別の巨人。二体の巨人が、まさしく壁となり彼らの前に立ち塞がっていた。
「人間に何を望んではる?」
保が声を張り上げる――だが。
「後は任せた」
カンギは既に元来た道を引き返そうとしている。足止めしようにも、他の戦士団の厚い壁の前には届かぬ。
それでも諦めず、反応を窺うように。光の蝶が舞う中でカルナが問う。
「他種族のコギトを侵して攻性植物化するのはユグドラシルの能力なのでしょうか」
声は、カンギの背に響くばかり。次の句は、その背にも届かぬ。
言わんこっちゃない、ティーシャが冷ややかに零す。
「おーっと、交渉決裂だー! 暴れるぞー!」
切り替えを促すように、ひなみくが声をあげる。鼓舞するように、加護を与えながら。
「例えば素敵な王子様を見つけたら、女の子の視界は光り輝く」
解っていたことではある。
彼らだけでは無理矢理にで解を得ることも、撤退を阻害することすら出来ぬ。あちらとの戦力差が変えられぬ以上、足止めすら敵わぬ。
「可哀想な方々……でも、安心なさって。私が送ってあげましょう」
だが――そこに残ったのは、攻性植物の巨人のみではなかった。
場違いなほど穏やかに微笑むは、あどけなさすら感じる貌。ふわりふわり、白き花を咲かせた純白の女。
「――フューネラル」
その名を呼んだ景臣の声音は低く、微かに震えていた――殺意による、震えを。
●開宴
「あれが、景臣はんの……」
そう呟いたのは保であった。然れど――先程カンギの盾となった攻性植物の巨人は、死神への接近をも許さぬように躍りかかってきた。
人ほどの大きさに迫る太い腕を、太刀を合わせて凌ぎながら、景臣は苦々しくそれらを見やる。
同じくオーラを焔へと変じて衝撃を和らげながら、千梨が表情ひとつ変えず驚いたと呟く。守りに専念して受けたというのに、芯まで響く衝撃に身体が痺れるようだ。
「雑な外見だが、雑兵じゃないらしい」
「一応、それなりの対応をいただいたということでしょうか?」
甲冑よりミサイルを次々と放ち、ラーヴァが皮肉を口にする。表情のない彼は、炎の揺らぎで感情を察するしかない――ただ、戦意に満ちた猛る炎の輝きは、変わらず強い。
「カンギは逃しましたが、強敵は歓迎ですよ――穿て、幻魔の剣よ」
ふわりと髪を踊らせカルナは微笑むと、魔力を圧縮し精製した不可視の剣を放つ。
強靱な蔓の束で精巧な石像と作られた巨躯のそれは、その身を盾と受け止めながら突進してくる。先程の攻撃も合わせ、全く効いていないように見えた。
「ったく、うざってぇな」
吐き捨て、ハンナは鎖の力で魔法陣を描く。
藤守、千梨が小さく名を呼んだ。解っていると頷いた景臣は、思考を切り替えるように頭を振る。
「御出でなさい」
焔蝶が火の粉をはらはらと落とす。敵を燃すためでなく、仲間に新たな加護をもたらすその力を割るように、千梨が御業を操り炎弾を放つ。
「――む」
炎弾に合わせて戦場を貫いたのは、竜砲弾。狙い澄ましたティーシャの一矢は、蔓で編んだ身体を見事に貫いたが、即座に再生が始まる。
その様を忌々しげに見つめるが、彼女はそのまま次弾の準備に掛かる。
ケルベロス達の戦いを悠然と見つめる死神が、指先に花々を絡めて弄ぶ。
「まあ……そんなに急く必要があって?」
途端、白百合の香りが戦場を包み込むように広がった――眠りを誘う、ひどく甘美な芳香。それが肺腑まで穢す毒であると知りながらも、抗えないもの。
膝から下の力が抜けるようで、カルナは棍を支えに敵を見やる。
「カンギ様は適当にあしらうよう仰っていたけれど――此処で眠りましょう?」
誘う声は笑いを含んでいる。余裕を滲ませる死神の――自信に即した力が、そのたった一度の行使でよく解る。
「こないけったいなとこ、お断りやなぁ――おいで……咲き乱れて」
保の真摯な祈りが大地に共鳴し、色鮮やかな花々の幻影を生み出す。
「タカラバコちゃん、起きて!」
相棒を叱咤しつつ、ひなみくがスイッチ手繰る。カラフルな爆風が仲間を鼓舞すると同時、煙を吹き飛ばす。幻影の花と揃って、とても綺麗だった。
その光景の向こうに滲む、緑の巨人と白い死神。種族を越えて、共に立ち塞がる者達。
彼らの在り方から、カンギの考えの一端が見えるのだろうか――。
ただ、もし解ったとして。それは少しだけ怖くもある。
(「――だってそうしたら、倒すのを躊躇ってしまうかもしれない」)
相手にも事情があるかもしれない――そんな事を知っても、辛いだけかもしれない。だが、譲れぬもののために戦っているのは自分も同じ。
ひなみくは頭を振って前を見る。
「理解しても其れでも、いつか必ず、倒すんだ!」
緑の瞳が意志に煌めく。簡単にあしらえる存在ではなく。より脅威となるように――目の前の敵を討つのだ。
●散華
それから何分過ぎたであろう。
部屋中に広がった美しき葬送の花々が、庇うために立ち塞がった者達の四肢を縛り、裂く。珠と弾けた朱色の中で、荒い息を吐き、ケルベロス達は依然立ち塞がる敵を見る。
盾である巨人は随分と削ることに成功していた。然し未だ倒すに至らず――並の敵ではないそれらに守られる死神の力は常に猛威を振るい――彼らの守りを剥いだ。
元々強大なるカンギの足止めを役割と心得ていた彼らは、あらゆる技をもつ敵への備えと長期戦の覚悟をもっていた。ゆえに、何とか凌いできたが。
この盾となる一体すら、精鋭の戦士ということだろう。
「まったく、信頼の篤いことです」
やれやれと両手を広げラーヴァはわざとらしく嘆息し、身の丈を越える脚付き弓に矢を番える。
「でも、そんな相手を打ち破った時のカンギを、是非見てみたいではありませんか」
眩しく輝くほどに灼けた重い金属矢が一点を狙って次々と放たれた。前を遮る巨人が腕を伸ばす。矢は掌から肩までを貫いて、裡から熱でいたぶり続ける。
彼らは痛覚が無いのか、表現する方法がないのか、顔色も変えなければ一言も発さぬ。ゆえに、その内心も窺えぬ――仲間、か。愛刀を強く握り、景臣が囁く。戦士団はカンギを信頼し、彼も又それらを信じる。だがそれは真のものなのか。当人を問い詰めることは出来なかったが。
「……彼の言う絆とは何なのでしょう」
「帰依する気になりまして?」
思わず問うた言葉に、死神は揶揄するように微笑した。
「カンギの説く世界は……デウスエクスにとっては理想郷となるかもしれない――だが、人の心を操り揃えて、得る平穏は御免だな」
今の世界が割と好きだし、千梨は肩を竦め、薬指の指輪へと視線を落とした。懐には親しいオウガの娘から貰った花。ふたつの護符がある――多分、死亡フラグではない。
「幸運なら、俺にも付いてる――踊るは心火、結ぶは浄火」
重い鐘の音と共に、炎の大蛇が蜷局を巻いて巨人を燃す。内側から噴き出すような火の粉に巻き取られるが、重い一歩を以て、踏み込んでくる。
そこへタカラバコが果敢に跳び込む。反撃と財宝を撒き散らしながら、身を挺し――愛らしい装飾がへしゃげていく。「ガンガン味方を守るんだよ!」というひなみくの頼みを全力で果たしている。その姿から彼女は目を逸らさず、掌に溜めたオーラをハンナへと向けた。
「『お話』出来たところで……ヤツが何を想っているかは知らねぇが――どのみち、理解はできねぇんだろうな」
散々に裂けたスーツ姿でハンナは不敵に笑うと、爆炎の如き輝きを纏いながら、カルナを庇い敵前へ送り出す。巨人の腕を潜り抜けた彼の、竜の尾が起こした烈風が巨人双方の脚を払う――そこへ、駆け込むはティーシャ。
「切り裂け!!デウスエクリプス!!」
彼女は吼えるように発し、爆ぜるように跳んでいた。自身を打ち込むような強烈な一撃は、巨人の片腕を切り裂いた。
「ご託はいい。削り取る!」
すぐに地を蹴り距離を取りながら、ただ殲滅の意志をティーシャは見せる。
畳み掛けなら今やなぁ――扇を手に、保が陣を整える。景臣とラーヴァが、雷と空の霊気を纏う刃を連続で叩き込む。
内側から裂けるように、一体の巨人の身体が解けていく。後一手、地を這うような姿勢から、カルナが如意棒を突き出した。ぐんと延びた棍は、身体を動かす事も儘ならぬ巨人の脳天を貫く。
一体を打ち破った――そう思った瞬間、再び眠りに誘う芳香が皆を包み込む。強烈な眠気と痛みに耐えようと踏みとどまった隙、もう一体の巨人が大きく双碗を振り乱す。嵐の中心に割り込んだのは、千梨。
痛みと言うよりは感覚を喪失したような衝撃に、彼は吹き飛ばされた。慌てて駆けつけたひなみくに彼は平気だと手を振ると「やっぱり慣れないな」と小さく零す。
気ぃ抜かたらあかんよ、保が叱咤する。楽園の花々を広げるものの、回復量は微々たるもの、しかも、蓄積したダメージが重い。
ちらりと視線を向けた先は、景臣だ。彼は瞬きもせず、ずっと死神を見据えていた。
戦闘継続するも、そろそろ限界だ。盾に剣と振るってきた彼らは、今は気力で立っているようなものだ。
然し、ならば、すべき挨拶がある。ハンナが唇を笑みに歪めて、死神へと告げる。
「隠れて澄まして、とんだ高嶺の花だな」
拳を構え挑発するが、フューネラルの泰然たる態度は変わらぬ。
「薄汚い戦場はお断り――この美しい身体が汚れてしまうでしょう?」
その一言に景臣は何故か解らず――視界が赤く染まった。怒り、突如として湧いた感情が、身体が震える。
こいつを斬らねば、せめて一太刀与えねばと双眸の地獄が揺らめく。
そんな彼を見つつ、最後の一撃だと、ラーヴァに目配せひとつ送ってハンナが駆け出す。だが先に敵に触れたのは、ラーヴァの一矢であった。
「そこで止まっていていただきましょうねえ」
彼の巨人の脚を縫い止めるように射貫くと、向こうの攻撃のタイミングに合わせてハンナが拳を振るう。合わせた拳から、鋼が砕けるようなひどい音がした。だがハンナは背を向けた儘、景臣に告げる。
「ほらよ、行ってこい」
景臣の掌で、白花のピースが雷帯びる。竜を象った雷光が巨人の傍らを走る。一陣の雷霆が、死神を撃つ――その光の中で、女はひどく険しい貌を見せた。ほぼ同時、ハンナが崩れ落ちる。追撃はティーシャのレーザーが撃ち抜いて留める隙に、カルナが彼女を担いで跳んだ。
「皆さん――」
「今は生きて帰る……そう約束しましたから」
判断を仰ぐ彼の声に、納得していると景臣は頷く。
「よーし! 話の途中だが撤退だー!!!」
最後の手当とオーラを紡いで、ひなみくが告げる。殿は任せろとティーシャが牽制の掃射を放ち、瓦礫を落とした。
崩れゆく玄室の出口から追撃は無く。
数多、苦い物を残す一戦ではあったが――作戦の成功を彼らが知るのは、脱出後のことであった。
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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