大阪地下潜入作戦~連鎖を断つ剣

作者:小鳥遊彩羽

●大阪地下潜入作戦
 第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、磨羯宮ブレイザブリクを完全に支配下に入れたことで、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索が開始された。
「けれど、エインヘリアルがこの状況を黙って見ているはずはない」
 トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう言いながら、この場に集ったケルベロス達へと説明を始めた。
「ホーフンド王子の勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告も行われているみたいだし、エインヘリアルがブレイザブリク奪還の為に動き出すのは間違いないだろう。さらに、エインヘリアルの他にも動きが見られるんだ」
 大阪城方面の情報収集に当たっていたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)を始めとする有志のケルベロス達の調査により、大阪城の攻性植物勢力が侵攻の準備をしており、エインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせて大阪城からも侵攻を行う合同作戦の危険性が高いことがわかったのだという。
「エインヘリアルと攻性植物は長年のライバルみたいな関係だったけれど、最近ではケルベロスを共通の敵とすることで対立が緩和していたようなんだ。これに加えて、大阪城にいるハール王女がホーフンド王子の軍勢に援軍を派遣したりといった工作も行われていて、この合同作戦が行われる可能性は、かなり高いと言わざるを得ないだろうね」
 でも、とトキサは続ける。
「皆の調査によって、大阪城側の準備がまだ整っていないことが判明した。この隙をついて大阪城勢力に攻撃を仕掛ければ、エインヘリアルとの合同作戦が実行されるのを防げるかもしれない。そこで、皆には大阪城に潜入して、この侵攻準備を遅らせてほしいんだ」

 大阪城勢力はプラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点で侵攻準備を行っており、その対象は様々だが、多くのケルベロスの調査によって得られた情報を元に、どの勢力への調査や攻撃を行うのかを考える必要がある。
 その1、ドラゴン。
 定命化で弱っていたドラゴン達は現時点でも完全な回復には至っていないが、攻性植物の力を取り入れたドラゴンの一派はかつての力を取り戻し、今回の侵攻作戦に加わるべく準備を進めているようだ。
 攻性植物、攻性植物化したドラゴン、その他のドラゴンが互いをどう思っているかや、竜業合体で地球に向かっているドラゴンについての情報などが得られるかもしれない。
 その2、ダモクレス。
 ジュモー・エレクトリシアンは大阪城に集結した多くの勢力の技術を利用してダモクレスの開発を行っており、前線に配備されている。戦力を集中させることでジュモーと直接戦い、撃破するチャンスもあるだろう。
 その3、螺旋忍軍。
 螺旋忍軍は勢力として壊滅してはいるものの、残党の螺旋忍軍が、屍隷兵技術やダモクレスの機械化技術、攻性植物の寄生技術などを利用して、螺旋忍軍の復興を目指しているようだ。
 この技術についての情報を得ることは意味があるかもしれないし、あるいは戦力を集中させて完全に滅ぼしてしまえば、今後の憂いが無くなるかもしれない。
 その4、レプリゼンタ・ロキ。
 多くのケルベロスの調査によりレプリゼンタ・ロキと接触するタイミングを掴むことが出来たが、ロキ側にケルベロスと命がけで戦う理由がない為、一定以上の戦力で接触した場合は戦闘になる前に撤退していく可能性が高い。
 少人数で接触した上で隙を見て戦闘を仕掛けつつ、ロキの不死の秘密を暴くことが出来れば、撃破の可能性はある。
 その5、レプリゼンタ・カンギ。
 ロキと同じく、多くのケルベロスの調査により、レプリゼンタ・カンギと接触するタイミングを掴むことが出来た。
 だが、護衛を務めるカンギ戦士団は精強で、今回の撃破は難しいだろう。
 しかし、攻性植物の重鎮であるカンギと接触することで、何らかの有益な情報を引き出せるかもしれない。そうでなくともカンギを長時間足止め出来れば、他のチームの援護になるだろう。
 その6、ドリームイーター。
 ドリームイーターは勢力としては壊滅しているが、大阪城にはパッチワークの魔女の勢力が合流して生き延びている。一定の戦力を投入すれば滅ぼすことも可能だろう。
 その7として、攻性植物ゲートの位置の調査がある。
 ゲートについてはかつての大阪城ユグドラシル地下での戦いで大まかな位置が判明しているものの、現在は大幅に地形が変わっている可能性が予想される。
 ゲート周辺は厳重な警備が敷かれている筈だが、多くの戦力を投入することで警備網を突破し、ゲートの位置を特定する手掛かりが得られるかもしれない。
 その8は、堕神計画について。
 リザレクトジェネシスで死神のネレイデスが画策していた『堕神計画』を利用し、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性があるようだ。詳しく調査すれば、何か情報が得られるかもしれない。
 その9、大阪湾について。
 攻性植物が大阪湾から瀬戸内海に出る可能性について指摘されている。
 大阪城地下から瀬戸内海の海底に向けて何か工作が行われているのならば、その早期発見が必要かもしれない。

 ――この大阪城地下への攻撃には、ハール王女に対する大阪城からの増援を阻止する目的もあり、重要な作戦だ。だが、敵拠点への潜入と破壊工作となるため、深入りしすぎると帰還が難しくなるのは言うまでもない。
 撤退のタイミングを考えつつ、その範囲内で有力な情報を得たり、大阪城勢力に更なる打撃を与えることが出来れば、大成功と言えるだろう。
「ハール王女を撃破するためにも、皆で力を合わせて何としてもこの作戦を成功させよう。……帰ってくるまでが作戦だから、どうか、忘れないでね」
 トキサは説明を終えると、ケルベロス達をヘリオンへいざなうのだった。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
四十川・藤尾(七絹祷・e61672)

■リプレイ

「……始まったようですね」
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)がぽつりと落とす。
 大阪城地下、攻性植物ゲートの外周部。
 飛び交うグラビティの数々に、遠くからでもよく響く剣戟の音。時折混ざる怒号は指揮官のものだろうか。
 今まさに繰り広げられているのは、同胞達による正面からの陽動作戦。対するこちらの目的は、攻性植物のゲートの位置の調査にある。
「気づかれてしまう前に、わたくしたちも参りましょう」
「ああ、こんな辛気臭い所に長居は無用だ。さっさと見つけて帰るぞ」
 四十川・藤尾(七絹祷・e61672)がゆるりと告げるのに、副島・二郎(不屈の破片・e56537)は素っ気なく言うが、これも内心は仲間達を案じてのこと。
「やる事は多いけど、出来る事を確実にだね」
 影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)はそう、決意を新たに頷いた。

 ケルベロス達は更に奥への侵入を試みるべく、手薄になっている箇所を探る。
 幸い、同胞達が向こうで派手に戦ってくれているおかげで、通り抜けられそうな場所はすぐに発見出来た。
 行く手には半身が植物化した屍人達が数体、これならば容易く抜けられるだろう。
「ライブをしている時間が今はないのが残念デスが、ここは通してもらうデース!」
 弾けるような声を響かせ、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は大きく息を吸い込むと、炎のブレスを吐き出した。
「――御免遊ばせ?」
 炎に塗れた屍人の一体を藤尾が素手で引き裂き散らす。
 そのまま、ケルベロス達は一気に駆け抜けた。
 迷彩柄のマントのおかげか、残る屍人も呆気なくこちらの姿を見失ったようだ。
「おいそこ、何しとんじゃワレェ!」
 そしてどうやらこちらの動きに気づいた指揮官らしき男の叫ぶ声が聞こえてきたが、既に遠く。
 ケルベロス達は陽動を引き受けてくれた同胞達に後を任せ、奥へと向かっていく。
 その時、後方から明滅した光にイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)が振り返った。
 ライトの持ち主は同胞の一人。そのすぐ近くでドワーフらしき小柄な青年が何かを伝えようとしてくれていた。既に互いに声の届く距離ではなく、聞き取ることは叶わなかったものの、おそらくはこちらへの激励だろう。イズナも代わりに魔術による光の蝶をふわりと羽ばたかせて応えた。
「行ってくるね。みんなも気をつけてね!」
 届かなくとも互いの健闘を祈る気持ちは、同じだ。
 目的はこの大阪城地下のどこかにあるという、攻性植物のゲートの位置を探ることだ。
「やっぱり使えないようね」
 片目を閉じた橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が溜め息交じりに首を振る。
 事前の調査から大阪城地下の立体地図を作成していたのだが、ここは大阪城の地下に広がる広大な植物迷宮――敵の本拠地であり、アイズフォンを使うために必要な電波が届かなかった。
「一先ず先に進んでみましょう。先行するわ」
 闇を纏い、ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)が足音を消すべく翼を広げて少し先を行く。
「陽動で大慌てしてる間にいっぱい調べちゃおうね。ゲート、どこにあるかな?」
 イズナは先程同胞達に合図を送ったのと同じように、明かりの代わりに光の蝶々を飛ばす。
「何かしらの情報は持ち帰りたいところですね」
 以前に大阪城の調査に赴いたことがあるウィッカにとっても、ここから先は未知の領域だ。
 色濃く漂う森の匂いを辿るように奥へと進むにつれて、周囲の景色が次第に変化していくのがわかった。
「まるで、熱帯のジャングルのようですわね」
 鬱蒼と生い茂る木々を見上げ、藤尾が零す。
 広げられた枝葉がそれ自体が天井であるかの如く頭上を覆い、無造作に垂れ下がった太い蔓が道を塞いでいる場所もあった。
 そこは、例えるならば藤尾の言葉の通り、熱帯のジャングルのようだった。
 自然のものではない、攻性植物達が作り上げた迷宮内だからだろう。場所によっては人一人が通るのがやっとな幅の道もあるが植物達は路を開いてはくれず、低木や蔓に覆われた地面は少し歩き難くもあった。
 天然の迷路のような場所を、ケルベロス達は隠密気流を纏い、木々の間に身を隠しながら慎重に進んでゆく。
「大阪もすっかり変わったよね……」
 リナがぽつりと、悲しげに落とす。
「大丈夫だよ。皆で力を合わせれば、絶対に取り戻せる」
「……うん」
 励ますように明るく告げるイズナに、リナは小さく頷いて。
 デウスエクスに奪われたこの地を一刻も早く取り戻したい――込み上げる想いを胸に、けれど奥へ急ぎたい気持ちを落ち着けながら、リナは皆と共に進んでいた。
 足元に這うように伸びる木々の根や、幹を取り巻く蔦のような茨。そういったものにも気をつけながら、僅かでも気を緩めないよう心掛けて。
「美味しくなさそうデスねー……」
 シィカが眉を潜めつつ見上げる先、頭上に生っている果実の鮮やかな色はいっそ毒々しいほど。
「ああいった見た目のものほど、存外果実は美味しいかもしれなくてよ」
 ほんの少しばかり悪戯めいた色を瞳に乗せて藤尾が答える。惜しむらくはそれを試す時間も今の自分達にとっては惜しい所か。
「……待って」
 先行していたルベウスが足を止め、振り返る。
 すぐにウィッカが、何かに気づいたように耳を澄まして。
「何か、聴こえませんか?」
「……ああ、巨大な何かが近くを移動しているようだな。体を引き摺っている。鳥などの類ではないだろう」
 二郎の言葉の通り、そう遠くない場所で巨大な生物が動き回るような気配や音を、ケルベロス達は感じていた。
「この木の向こうにいてもおかしくないわね……」
 大樹の幹を撫でながら声を潜める芍薬に、テレビウムの九十九も口をバツの形にして、こくこくと頷いてみせた。

「……」
 注意深く進みながら、二郎は周囲の状況を慣れた様子でメモに纏めていく。
 とは言え、特筆すべきは奥に進むにつれて森の風景が色濃くなっていくことと、生き物らしき何かの気配が変わらず周囲に満ちていることくらいか。
 地図を作ろうにも、ここが攻性植物によって作られた迷宮であるならば、次に来る時には地形が変わっている可能性もある。
 紫外線塗料で目印もつけているが、どこまで有用なのかは未知数だ。
 ――その時。
「いたわ」
 ルベウスが再び足を止めた。
 その先には少し開けた場所。茂みに隠れてそっと覗き見やると、先程から聴こえていた音の正体――それがようやくわかった。
「わあ、大きいね~。みんなハールに唆されてるのかな? 攻性植物も大人しくしてたらいいのに……」
「大きいデスね~……怪獣みたいデース」
「見たことのない攻性植物ですね」
 イズナとシィカが感嘆にも似た声を零す傍ら、ウィッカは興味深げな眼差しを『それ』らへと向ける。
「あれは蛇と……蜥蜴かしら? 蟷螂みたいなのもいるわね」
 芍薬が言うように、周囲を徘徊していたのは、複数の頭を持つ蛇に蜥蜴、それから蟷螂のような生き物と植物が合わさった――そんな姿の巨大な攻性植物達だった。
 見張り役かと思いきや、攻性植物達は特に警戒している様子はなく、まるでのんびりと散策でもしているかのような雰囲気すら窺えた。
 とは言え見つかればただでは済まないだろう。
「あの攻性植物達に真正面から挑むのは、得策とは言えない気がするけれど」
 ルベウスの言葉に、一行は顔を見合わせて思案する。
 見える範囲にいる攻性植物は三体ほど。しかし、この迷宮のどこかにゲートがある以上、彼らがここに配備されているということはそれなりの力を持ということなのだろう。
 ここでもう一チーム陽動を担う班がいれば迷わず奥に進むことを選んでいただろうが、自分達だけでは少々厳しいかもしれないとケルベロス達は考えた。
 だが、逆に考えるならば、あれ程大きな攻性植物が徘徊しているということは、即ち、ゲートへより近づいているとも言えるだろう。
「幸いまだ此方には気づいてない様子。迂回してもう少し進んでみる手もありますわ」
「うん、行ってみようよ。見つかっても狭い道に逃げ込んじゃえば、追いかけてこれないと思うし」
 藤尾とリナの言葉に頷き、一行は覚悟を胸に、巨大攻性植物達を避けながら更に奥へと踏み込んでいく。

 より慎重に木々に紛れ、足音を殺し、息を潜めながら。
 奥へ、奥へと進んで、――やがて。
 どれほど奥まで踏み込んだだろう。
 ケルベロス達は、未だ見ぬ更なる奥地に渦巻いているであろう、恐ろしい力の奔流を感じ取っていた。
「何でしょうか、これは……」
 常に冷静に物事と向き合うウィッカでさえも、思わず息を呑むほどだった。
「うう、肌がビリビリするデース……」
 ふるふると震えながら、シィカが愛用のギターを抱き締める。
「いよいよこの先がゲート……なのかな?」
「ゲートがあったとしても、こんな圧倒的な力があるものなの?」
 そっと首を傾げるイズナに、芍薬は眉を寄せる。
「まるで、世界そのものが迫ってくるような……」
 ぽつりと落としたルベウスの赤い翼は、ぶわりと毛羽立っていた。
「……行ってみましょう」
 藤尾が呼び掛けた、その時。
「待て、敵の動きが変わった」
 そう声を上げたのは二郎だ。
「気をつけて、みんな……!」
 リナもまた、焦燥を滲ませた声で振り返る。
 先程まではのんびりとしていた巨大攻性植物達が、まるでスイッチが切り替わったかのように機敏に動き始めていた。
 ――そして、攻性植物は何かを探すように、硬い木々で閉ざされた路を、抉じ開けようとしてくる。
「どうやら、冒険はここまでのようですわね。撤退致しましょう、皆さん」
 柔らかくそう告げる藤尾の眸は、既に、『敵』を捉えていた。
 そして、敵もまた、同時に――。
 ケルベロス達が身を潜めていた茂みが無理矢理破られ、巨大な蜥蜴型の攻性植物が鋭い牙に覆われた口を大きく開く――。
 敵を避けられないと判断したケルベロス達の動きは迅速だった。
「レッツ、ロック! ケルベロスライブスタートデスよー!」
 早速とばかりにシィカが己の存在をアピールするようにギターを掻き鳴らし、『幻影のリコレクション』を歌い始める。
「先を越されてしまいましたわね、では、わたくしも」
 続いて動いたのは藤尾。眼前に迫る脅威を前に、そのかんばせは怯えるでも震えるでもなく、ただ、戦う者のそれをしていた。
 オオオオッ――!!
 放たれたオーラの牙に喰らいつかれた攻性植物が、苦しげな声を上げる。
「速攻で仕留めないと次が来るぞ」
 二郎は素早く黒鎖を地面に展開させ、守りの魔法陣を編み上げる。
「ええ、わかってるわ。避けられない戦いならばやるだけよ」
 ルベウスの翼はまだちょっぴりぶわっとしていたが、そのまま軽やかに地を蹴って流星の尾を引く重い蹴りを攻性植物へと。
「放つは雷槍、全てを貫け!」
 すぐさまリナが素早い動きで翻弄するように続き、稲妻の幻影を宿した穂先で攻性植物を穿つ。
「リナが雷なら、こっちは氷!」
 ルーンが刻まれた秘石を媒介にイズナが召喚したのは『フロスト・ランスナイト』――氷属性の騎士のエネルギー体だ。
 氷の騎士も先程リナがそうしたように、氷の槍で攻性植物を貫いた。
 その時、攻性植物が先端に鋭い爪がついている尾を、勢いよく振り回してきた。
 前衛ごと薙ぎ払うように振るわれたそれを、芍薬とリナ、そして九十九が受け止める。
 盾役がいたからこそ被害は最小限。まともに食らっていたらひとたまりもないだろう。
「この、……っ」
 つい反撃に打って出てしまいそうだったのを何とか堪え、芍薬は鳥の羽のように軽いナイチンゲール――妖精靴で軽やかにステップを刻んだ。
 戦場を彩る美しい舞が、仲間達を癒やす花弁のオーラを前衛に降らせていく。
 九十九は大急ぎで芍薬を応援する動画を顔の画面に流し。
「――黒の禁呪を宿せし刃。呪いを刻まれし者の運命はただ滅びのみ」
 攻性植物の元へ一息に迫ったウィッカが素早く魔術文字を刻んだ魔剣で突き刺し、傷口に黒の禁呪――致死の呪いを撃ち込んだ。
 呪いに侵食された蜥蜴の攻性植物が、乾いた呻き声と共に内側からぼろぼろと崩れ落ちてゆく。
「まだまだ行きますデスよー!」
 懐に滑り込んだシィカの渾身の拳が叩きつけられ、熱情秘めた雷が爆ぜる。
「轍のように芽出生せ……彼者誰の黄金、誰彼の紅――」
 ルベウスのは澄んだ声が、己が内に眠る力を呼び覚ます。
 胸元を彩る宝石が光を帯びて、黄金色の巨大な槍のような魔法生物が放たれた。
「……長じて年輪を嵩塗るもの……転じて光陰を蝕むるもの……櫟の許に刺し貫け」
 赤い瞳が煌めいて、飛び出した『槍』が、物理法則を無視した速度や軌道で宙を翔け、蜥蜴を執拗に追い詰めてゆく。
「――『正しく』在れ、我が混沌」
 二郎が放つのは、デウスエクスに『喰われた』己を補う青黒い混沌。
 それは正しきものを癒し、邪なるものを喰らう青。
 容赦なく喰らいつかれのたうち回る蜥蜴へ、口の端を緩やかに釣り上げた藤尾が迫った。
 強者と出逢うのはオウガの藤尾にとっては僥倖であり、血潮が猛るというもので。
「ですけれども、今暫し……お別れですよ、ねえ――『あなた』」
 絡まり、根付いた怨嗟の連鎖。断ち切る楔を、打つ為に。
 藤尾が告げれば、攻性植物の動きが止まる。
 春告げの夢の水底より湧き上がった焔のような毒が、悶える蜥蜴の命ごとその全てを呑み込んだ。

 蜥蜴型の攻性植物は何とか倒したが、この戦いの音が他の攻性植物達の元に届いていないはずはなく。
 見ればそう遠くない所から、顔を覗かせた蛇型と蟷螂型――二体の巨大攻性植物達がこちらへ向かってきているのがわかった。
(「安全を望むなら全て……いいえ」)
 ふと胸の内に沸き起こった針のような衝動に、ルベウスは小さくかぶりを振った。
 争いなど、避けて通れるならばそうするほうがいいに決まっている。
「みんな、行こう! 帰るまでが作戦だから、気を抜いちゃダメだからね」
「ええ、――皆さん、撤退です!」
 イズナとウィッカが声を張り上げ、ケルベロス達は元来た道を全力で戻っていく。
「一昨日来やがれデース!」
 去り際にシィカがそんな叫びを残したりもしつつ、ひとまずは八人全員揃っての帰還を果たすこととなった。

 攻性植物のゲートそのものを実際に見ることは叶わなかったが、あの恐ろしい力が渦巻いている場所がおそらくそうなのだろうという確認はできた。
 それだけでも、次に、そして更なる戦いへと繋がる戦果を得られたと言っても過言ではないだろう。
 大阪での戦いは、未だ終わらない。
 だが、終わらせるための一歩は、少しずつ着実に明日へ、未来へと続いている――。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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