大阪地下潜入作戦~力を蓄えし者たち

作者:質種剰


「第九王子サフィーロとの決戦、お疲れ様でした!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・cn0031)が、まずは集まったケルベロスたちを労う。
「皆さんが決戦に勝利して、ブレイザブリクも完全に支配下へ入れたおかげで、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索が始まったであります」
 そして、真剣な面持ちになって日々流動する情勢の説明をした。
「ですがエインヘリアルがこの状況を座して待つわけもなく……」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の予測などから、ホーフンド王子勢力より『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告もいったという。
「やはり、ブレイザブリクを奪取すべく軍勢を編成するのは間違いないでありますよ」
 かけらはそう断じる。
「また、大阪城方面の情報を収集なさっていらしたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)殿が、重要な情報をくださいました」
 それというのも、大阪城の攻性植物勢力までが、軍勢を整えて侵攻の準備をしているらしいのだ。
「アビス殿の調査によりますと、エインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせて、大阪城からも侵攻を行う合同作戦の危険性が高いそうであります」
 エインヘリアルと攻性植物は長年の仇敵だったが、近年はケルベロスを共通の敵とみなしたおかげで、対立関係が緩和していた。
「さらに、大阪城のハール王女がホーフンド王子の軍勢に援軍を派遣するなどの工作も行っていたため、この合同作戦が行われる可能性はかなり高いと言わざるを得ないであります」
 しかし、多くのケルベロスたちの調査によって、大阪城側の準備がまだ整っておらず、隙があるとも判明している。
「皆さんには、複数のルートから大阪城勢力へ攻撃を仕掛けて、エインヘリアルとの共同作戦が実行されないよう邪魔して欲しいであります」
 大阪城勢力は、プラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点にて、侵攻準備を整えているらしい。
「この侵攻準備中な勢力に対して破壊活動を仕掛け、侵攻準備を遅らせるという作戦であります」
 加えて、この大阪城地下への攻撃は、他のチームが相対するハール王女への大阪城からの増援を阻止するという意味でも、重要な作戦といえるだろう。
「作戦の本命は、要塞拠点のハール王女の撃破でありますが、万一王女の撃破に失敗してもこちらの破壊活動さえ成功していれば、エインヘリアルと攻性植物の共同作戦の実施を遅らせられるであります」
 とはいえ、この侵入作戦は敵拠点への潜入と破壊工作である故に、深入りしすぎると帰還が難しくなる。
「撤退可能な範囲を考えつつ、その範囲で『有力な情報』を得たり『大阪城勢力に更なる打撃を与える』ことができれば、文句なしの大成功でありますよ♪」
 地下拠点侵入作戦については、多くのケルベロスの調査によって幾つかの情報が得られているので、その情報を元に調査対象を考えてほしい。
「さてさて、地下拠点はいくつもありまして、ほんとたくさんの勢力が侵攻準備中でありますよ」
 まずは、定命化で弱っていたドラゴン勢力。
「かの城ヶ島から渡ってきて大分経ちますが、現時点でも完全な回復には至っていないであります」
 しかし、攻性植物の力を取り入れたドラゴンの一派は徐々にその力を取り戻し、今回の侵攻作戦へ加わるべく準備を進めているようだ。
「お次はダモクレスたち、ジュモー・エレクトリシアンの勢力でありますね」
 奴らは前線の要塞にも戦力を送っているため、こちらが戦力を集中させればジュモーと直接戦って撃破するのも夢では無い。
「続いては螺旋忍軍の残党たち……勢力としては既に壊滅してまして、大阪城へ合流した螺旋忍軍のリーダー、ソフィステギアも撃破済みでありますね」
 だが、残党の螺旋忍軍は、屍隷兵技術、ダモクレスの機械化技術、攻性植物の寄生技術などを利用して螺旋忍軍の復興を目論んでいるらしい。
「そして、多くのケルベロスの調査によって、レプリゼンタ・ロキと接触できるタイミングを掴むことができたでありますよ」
 とはいえ、ロキ側にケルベロスと命がけで戦う理由が無いせいで、一定以上の戦力にて接触した場合は戦闘が起こらずに撤退していく可能性が高い。
「少人数で接触した上で、隙を見て戦闘を仕掛けつつ、ロキの不死の秘密を撃ち破れたなら、ワンチャンあるかもしれませんね」
 一方、レプリゼンタ・カンギとも接触する機会を掴めたという。
「レプリゼンタ・カンギを撃破する方法については、ガネーシャパズルが大きな役割を果たすと判明しているでありますが……」
 何分、護衛を務めるカンギ戦士団が精強なため、今回の撃破は難しいだろう。
「そうそう。ドリームイーターも勢力としては壊滅してるでありますが、大阪城にはパッチワークの魔女の勢力が合流して生き延びてるであります」
 勢力としては弱小なので、一定の戦力を投入すれば、今度こそ壊滅させられるだろう。
「あ、侵攻の邪魔も大切でありますが、せっかくの潜入作戦ですから、何班かは攻性植物のゲートの位置を探るのもアリかと存じます」
 かつての大阪城ユグドラシル地下の戦いにて大体の位置は判明しているものの、他種族も受け入れた上で数年を経ているため、大幅に地形が変わっている可能性も予想される。
「それと、リザレクトジェネシスで死神のネレイデスが画策していた『堕神計画』を利用して、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性もあります」
 こちらも詳しく調査してみれば、何か情報が得られるかもしれない。
「最後は大阪湾についてであります。攻性植物が大阪湾から瀬戸内海へ出る可能性について指摘されたであります」
 もしも、大阪城地下から瀬戸内海の海底に向けて何か工作が行われているのならば、その早期発見も必要になってくる。
「作戦としてはハール王女の撃破の側面支援でありますが、得られる成果はとても大きいでありましょうから、頑張ってくださいね♪」
 かけらはそう締めくくって、彼女なりに皆を激励した。


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)

■リプレイ


 8人は、螺旋忍軍の新技術について調査すべく、大阪城地下へ続く突入口に集まった。
 以前『大阪地下のユグドラシルルート』で発見された、地下鉄の亀裂である。
 螺旋忍軍残党を調査する班だけでも3班あったが、『調査に最適な侵入経路』を各ヘリオライダーが予知で割り出していたため、道中でかち合う事もなかろう。
「迷う心配はなさそうだけど、後はできるだけ敵に見つからないよう気をつけたいね」
 新条・あかり(点灯夫・e04291)は、身につけた消音靴や疑似光学迷彩ケルベロスコートの効力も借りつつ、懸命に息を殺して歩いた。
 穏やかな気性の大人しい少女だが、ケルベロスとして生きケルベロスとして死ぬのを『必然』と考える、義侠心の厚い一面も。
 とはいえ、決して行き過ぎた自己犠牲精神や破滅願望があるわけではなく、将来を約束した恋人のためにも任務を全うする意志は強い。
(「せっかく調査と施設破壊担当の班が2つあるんだから、多くの情報を持って帰りたいよね」)
 今回、複数の拠点を取捨選択するにあたって、8人を含む3班が螺旋忍軍の残党について調べると決めた。
 あかりは他の2班との連絡係を担って奔走したものだ。
(「こっちかな」)
 後ろを進む仲間へハンドサインで伝えるあかり。
(「どれだけ広大でも敵の本拠地だ、鬼が出るか蛇が出るか……?」)
 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が、あかりへ了解の意を示そうと軽く肩へ触れる。
 どこで誰が聞いているか判らないと最大限に警戒して、意思疎通へは専らハンドサインか接触テレパスを用いる8人だ。
(「どんな奴が今の螺旋忍軍を指揮しているんでしょうか……名前と顔だけでも知っておきたいところですね」)
 ちなみにこの日は、眼鏡にブレイズリアクターといかにも普段着っぽいコーディネートの計都。
 調査そのものにも勿論意欲的だが、その上で螺旋忍軍の強敵を撃破して、ハール王女との合流も阻止できればと考えていた。
 こがらす丸も決して音を立てず、静かに計都の後をついてきている。
 一方。
(「螺旋忍軍の技術……機械化技術も寄生技術もいずれは屍隷兵みたいに地球人を改造して、手駒にしたりも出来るようになるんじゃないか……?」)
 屍隷兵のような非道な実験を繰り返させはすまいと、螺旋忍軍の新技術の調査や破壊にやる気をみせるのが、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)。
(「螺旋忍軍が復興を目論むのなら戦力増強は必須だろうし、そんな技術はここで潰しておいた方が良さそうだな……」)
 などと深刻そうな面持ちで危惧する蒼眞だが、隠密気流を纏って息を殺す彼は全体的に砂塗れで、黒いジャケットの背中にはやっぱり足跡が。
 心にどれだけ憂悶を抱えていようとも、送迎役へのおっぱいダイブを欠かさないあたり、見上げた根性である。
(「……本当なら、相変わらずなソウマを見て呆れているのは、彼女だったハズなのに」)
 そんないつもの光景を目の前に、どうしても気持ちが沈みがちになるのはマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)。
(「彼女の分まで、なんておこがましいけど……頑張らなくちゃ」)
 懸命に自分を奮い立たせる彼女も、アクアカーモを被り衝撃吸収ブーツを履いて隠密行動に対する備えは万全。
 迷彩コートを着せられたアロアロは、大人しくマヒナの後をついてくるものの、敵地で落ち着かないのかずっと小刻みに震えていた。
「大丈夫だよアロアロ。みんなと一緒だからね」
 アロアロだけ聞こえるように囁いて、頭を撫でるマヒナ。
「螺旋忍軍も大概しつこいデスネー。ここはいっちょ、ばばっと秘密を暴いちゃいマショー」
 そんな仲間を気遣ってか、努めて明るく振る舞うのはスノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)。
「とはいえ、ここは敵地なのであんまり派手なことはデキナイネー。スニーキングミッションとイキマショー」
 音を立てずに張り切るスノードロップは、美しい金髪とそれをより際立たせるスノードロップの花を生やしたオラトリオの女性。
 生来の妖艶な出で立ちに染色した真っ黒な翼もよく似合っていて、自称する『パンクな堕天使』たる雰囲気作りに一役買っていた。
 他方。
(「何がどこにあるかの情報はないが……いかに共闘しているとはいえ、螺旋忍軍も情報は独占したいだろう」)
 千歳緑・豊(喜懼・e09097)は、攻性植物の根城を間借りしている立場の螺旋忍軍残党について、鋭い考察を思い巡らせていた。
 流石は年の功——と言いたくなるぐらい老成した見た目の壮年男性だが、あくまでも本人がわざと高齢に見えるよう調整しているに過ぎない。
 実のところ、地球侵略に従事していた元ダモクレスというのが彼の来歴であり、心を得てレプリカントになったそうな。
(「何かあれば直ぐに持ち出せるようにしているのではないかな?」)
 と残党の取りそうな行動を推測して、豊は壁や床を埋め尽くすユグドラシルの根をつぶさに観察、拠点直通の隠し通路や秘密扉がないか念入りに確かめている。
「糸が伸びるたびにスカートがほどけて短くなったりは……しないわね。流石に」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)はふと後ろを振り返って、いつも着ている白いワンピースの裾から伸ばした赤い糸が自分の足首へ繋がっているか確かめていた。
 迷子防止のため、地下へ降りる直前に発動させたアリアドネの糸である。地上の亀裂から今8人が歩いている通路まで、道しるべがわりに伸びているはずだ。
(「拠点に潜入するのも、これで何回目だったかしら……?」)
 すっかり見慣れてしまったユグドラシルの根を見上げて呟くかぐら。
 彼女と大阪城ユグドラシルの縁は深く、ユグドラシル迷宮へ続く真田の抜け道や植物の壁、地下道の奥から漂う腐臭など、昨日の事のように思い出された。
(「大阪城を攻性植物に占拠されてから、随分時間が経ったのですね」)
 イピナ・ウィンテール(剣と歌に希望を乗せて・e03513)も、グランドロンへ攻め入ったりアイスエルフを助け出したりと何度も大阪ユグドラシル地帯へ赴いているだけに、複雑な胸中を吐露する。
(「この戦いで、少しでも奪還に近づきたいものです」)
 礼儀正しく愛嬌のあるお嬢様だが、アイドルとして人々の希望の光となるべく己を磨く努力家でもあった。
(「ただ、螺旋忍軍には散々苦汁をなめさせられましたからね。残党とはいえ、油断せずに行きましょう」)
 まるで背負ったギターケースが這っているように姿勢を低くしつつ、仲間の先頭に立って移動するイピナ。
 彼女と蒼眞が起こす特殊な気流を隠れ蓑に、6人も後に続いた。


 辿り着いた拠点は、残党という呼び名が似つかわしくないぐらいの広さを誇り、それでいて無機質な生産プラントだった。
 大きな音を立てて動き続ける機械がそこかしこに配置され、鈍色の刃やベルト、手甲などを一定間隔で生み出し、コンベアへ流し続けている。
 ダモクレスの技術を利用した螺旋忍軍の開発が行われているらしい。
「うーん、これはいい趣味してる、って言っていいのかしらね……?」
 思ったより広大な地下空間と設備に、圧倒されるかぐら。
「あれ……」
 イピナが驚いた声を上げた。
 何と、金属製の装備の生産装置に混じって、螺旋忍軍らしき狐の頭、四肢、胴体や尻尾までもが、それぞれバラバラに量産されていたのだ。
 ふさふさした金色の尾が機械からボトポトと振り落とされて生産レーンを流れていく姿は、異様としか言いようがない。
「……アロアロ、見ないでおこうね」
 マヒナ自身はウェアラブルカメラを向ける傍ら、アロアロの顔を両手で覆い隠す。
「誰もいないにしては、空気がおかしいデスネー」
 スノードロップは稼動中の地下工場を見回して、首を傾げる。
「幹部が尻尾を巻いて逃げたのかもしれないわ」
 かぐらは自分たちが入ってきたのと別の出入り口から外を覗くも、幹部の足取りは掴めそうになかった。
「誰もいないならそれはそれで。今のうちに情報収集と破壊を済ませましょう」
 そう皆へ声をかけながら、自分でも床に散らばった書類を集め始めるイピナ。
 近未来的な設備の多い工場において紙の書類は浮いている気もしたが、すぐに設計段階のラフスケッチかもしれないと思い直す。
「オーケー。螺旋忍軍の研究資料は拾っておきたいネ。メリット、デメリットが分かると、色々と攻略するのに便利そうデスネ」
 スノードロップが頷いて資料の整理を手伝った。
「これがホストコンピュータでしょうか」
 計都は数多の生産機へ有線で繋がれたコンピュータの画面を見て、操作を試みていた。
「できればメモリを抜いて持ち帰りたいですが、無理なら破壊しておきましょう」
「なら、連動した機械が止まる前に、盗めるものは盗んでおくぜ」
 蒼眞はコンベアを流れる螺旋忍軍の身体パーツをひとつずつ拝借。
「こんな役の立ち方をするとは、いささか予想外だったけどね」
 それらを豊が受け取って、アイテムポケットへ仕舞っていく。
 マントは螺旋忍軍の頭部パーツを包むのへ使った。
 背中を丸めたり四肢を折り畳んで、何とかギリギリ収まったが、その分他の装備やメモリを入れる余裕はない。
「ベルトやトゲトゲは僕が持つよ」
「じゃあ私は苦無を持つわね」
 あかりやかぐらが残った荷物の分担をする。
「アロアロはこれをよろしくね」
 マヒナは纏めた紙媒体を相棒の目隠しがわりに持たせた。
「では、いよいよ破壊ですね」
 計都がホストコンピュータをシャットダウンした上で、こがらす丸に跨ってアクセルを踏みこむ。
「了解」
「全身全霊をかけて暴れさせてもらおう」
 蒼眞やアイズフォンによる撮影を終えた豊も、螺旋忍軍生産機へ狙いを定めて武器を構えた。
「切り裂ケ! 血染めの魔刀」
 スノードロップが機械へ斬りかかるのを皮切りに、生産プラントは凄まじい戦闘音に包まれた。


 元より生産プラントには複数の機械の駆動音が断続的に響いていたが、ケルベロスらの総攻撃による爆発や破砕音は、比較にならない大きさである。
 機械と共に防音設備が壊れたせいもあってか、異変を察知した螺旋忍軍が拠点へ駆け戻ってくるのは仕方ない事だ。
 恐らく、8人が侵入に使った亀裂以外の出入り口を警備していた人員たちか。
 現れた集団は、両手に携えた苦無と狐らしき頭と尻尾が特徴的な、痩身の螺旋忍軍。
 その獣人らしい姿だけを見れば、螺旋忍軍の施した新技術が屍隷兵寄りのものか、ダモクレス寄りのものか、はたまた攻性植物絡みかは判別できなかったろう。
 だが、既に拠点を荒らし回った8人には、奴らが『カラクリ忍』金狐カラクリ忍衆だと判っていた。
 すかさず計都がベルトのカバーを開けてレイヴンズコアを装填、周囲に現れた装甲を装着した。
「初めに言っておく! 俺は……地球人だ!!」
 そう凄んでみせたのは、第二王女ハール決戦の間接的な援護だと悟られまいとの意図からだが、ワイルドレイヴンの姿で言われてもいまいち説得力に欠ける。
 ともあれ、砲撃形態の機巧廻転鎚【荒徹】を振り抜く計都。
 撃ち出した竜砲弾はカラクリ忍衆の足を貫き、激痛を与えると共に動きを鈍らせた。
 こがらす丸も計都と息を合わせてカラクリ忍衆へ突進、強烈なスピンで奴らの足を轢き潰していく。
「ふふ、自分が暗殺される側になった気分はどうですか? 螺旋忍軍!」
 イピナも忍衆たちへ啖呵を切るや否や、激しくバイオレンスギターを掻き鳴らす。
 立ち止まらず戦い続ける者達の歌を響かせて、まずは前衛陣から守りを固めた。
 カラクリ忍衆たちは、手にした大きな苦無を投げつけたり、ナイフがわりに使って斬りつけて攻撃してくる。
 投げ苦無の被害は後衛にも及んだし、イピナやかぐらが咄嗟に仲間を庇って複数回斬られたりもした。
 とはいえ、忍衆1体1体はそこまで強くない事もあってか、あかりやアロアロの治癒で充分態勢を立て直せる程度の負傷に収まった。
「新技術で『開発』された螺旋忍軍……?」
 蒼眞は、カラクリ忍衆の実物を目の前にして、ふと疑問がよぎっていた。
「……もし螺旋忍軍を改造したものではないのなら、ベースにしたものは……?」
 接収した資料には、カラクリ忍衆の素体について記されたものが無かったから。
 屍隷兵のように罪もない一般人が犠牲になってはしないかと危惧する蒼眞だが、虚空より召喚した刀の群れを忍衆たち目掛けて降らせるのは忘れなかった。
「さっきの資料をざっと見る限り、螺旋忍軍をダモクレスの技術で改造したみたいだけど」
 雷の霊力を帯びたフェアリーブーツで、神速の蹴りを繰り出すのはかぐら。
 カラクリ忍衆へ鋭い一撃を浴びせて、棘のついた手甲を打ち砕いてみせた。
「でも、あの身体それぞれのパーツを別個に生産しているのは、変よね。完全なロボットじゃあるまいし」
「もしかすると、壊滅寸前までに追い込まれた残党が、進退窮まって自分たちを改造し始めたのかもしれない……?」
 2人の会話を受けて、そんな推測を立てるのはあかり。
 不可解なカラクリ忍衆の仕組みについて、どちらの推測も確証は無いと解りながら、皆議論せずにいられないのだ。
 と同時に、あかりはIVYを自在に伸ばして地面へ展開し、魔法陣を描いて前衛たちの傷を癒した。
「ナル、力を貸して」
 マヒナは、意思を持つかのごとく独りでに動くさざ波をカラクリ忍衆へけしかけて、足元へ纏わりつかせた。
 動きを阻害された忍衆が、足のバネを活かして跳ぼうとするも、いたずらな波が体力のみならず平衡感覚までも奪われてしくじっている。
(「どうか、うまくいきますように……この作戦も、ハールの方も……」)
 主が祈る傍ら、アロアロも召喚した『原始の炎』を忍衆たちへどんどんぶつけて火傷を負わせた。
「さア、アタシと一緒に踊りマショ!」
 ひとたび鞘から解き放つと生き血を浴びるまでは納まらぬ魔剣を創り出すのはスノードロップ。
 召喚された魔剣は美しくも残酷な円舞を舞って、刀身が閃くごとに忍衆を斬り刻んだ。
「新技術というからには、それなりに強いんだろうね?」
 豊は戦いを楽しんでいるかのような口ぶりで、地獄の炎でできた獣を忍衆へ嗾ける。
 五つ目の大柄な獣が鋭く牙を剥き、忍衆にしつこく纏わりついて威圧感を与えた。
 類稀な跳躍力を持つ忍衆らの機敏な動きのせいで、どの個体を仕留めたのか、またどの個体が生き残っているのか咄嗟に判別しづらかったが。
 戦闘開始から十数分経った頃には、忍衆全員が物言わぬ屍と化していた。
 乱戦中も少しずつ増援が来ていたが、その中に別系統の強化を施した螺旋忍軍が混ざっていないだけ、他の2班も首尾良く調査や撹乱を終えたようだ。
 これで螺旋忍軍残党は当面、何もできはすまい。
 8人は安心して工場跡を離れた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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