海嘯の揺り篭

作者:崎田航輝

 朽ちかけの木板を踏むと、ぎぃと軋む音が波間に残響を生む。
 足先にその古びた感触を味わいながら、折れた柱をまたいで歩んでいると、それだけでも楽しくて──少年達はわくわくとした笑顔を浮かべていた。
 打ち寄せる波で僅かに揺れるそこは、廃船。
 浅瀬に打ち棄てられるように放置されているもので、いつのものかは不明。岩礁地帯の陰に留まっているので、普段は人目にはつかないが──大きさも相まって、子供達には格好の探検場所になっている。
 浜から岩々を伝って、ようやくたどり着けるところも冒険心をくすぐるようで。薄闇になってきた空のもと、小学校帰りの寄り道にと数人で非日常の時間を愉しんでいた。
 子供心には、こうしているだけでも既に興奮気味だけれど。何かもっと面白いものが見つかったり、予想外の出来事が起きてくれないかとも期待している。
 勿論、そうそう変なことなんて起こらないともわかっていた──けれど。
 不意に大きな震動が床を揺らして、少年達はわぁ、と声を上げた。
 そして一瞬後には、そこに自分達以外の影が立っていることに気づく。
「こんな場所を探検か? 旺盛な好奇心、見上げたもんじゃねぇか」
 そう言って少年達を見下ろすそれは、比較にもならぬ程の体躯を持った男。
 鍔を折った幅広帽を被り、鋭い曲刀をぎらりと抜いて愉快げに微笑む罪人──エインヘリアル。
「だが冒険にはリスクがつきものだ」
 そうだろ、と。
 言うが早いか、問答無用に刃を掲げていた。そのまま逃げる暇も与えずに──罪人は見据える小さな背中へ刃を振り下ろす。

「集まって頂き、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「本日は、エインヘリアルの出現が予知されました」
 現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
 これを放置しておけば子供達の命が危うい。
「そこで皆さんに撃破へ向かってほしいのです」
 現場は岩礁地帯にある廃船。
 甲板上にいる子供達を、エインヘリアルは狙おうとするだろう。こちらもそのタイミングとほぼ同時に現場に到着することになるといった。
「子供はそれ程数も多くありません。戦闘に入りつつ、逃がすのも十分可能なはずです」
 こちらは岩場から戦場へ飛び移る形となる。子供達を守るよう立ちはだかったり、或いは敵の背後へ降りて急襲するなどが考えられるだろう。
「適宜動きを考えておいてくださいね」
 無論、敵の戦闘力自体も相応のものなので警戒を、とも付け加えた。
「子供達を護り、敵を倒すために──是非、頑張ってくださいね」
 イマジネイターは言葉を結んだ。


参加者
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
霖・炯(レイニーディプレッション・e46129)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)

■リプレイ

●深蒼
 波音が雄大なリズムを響かせて、薄闇に海色の濃淡を作り出す。
 凹凸の烈しい岩礁では、その音と揺れが集まって──波打ち際に留まる大きな影をゆっくりと揺蕩わせていた。
「廃船か」
 蹄で岩を蹴って駆け下りながら、シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)は視界に現れたその甲板を見下ろす。
「確かに探検には面白そうな場所だよね」
 けれどそれを愉しんでいた子供が、今まさに危機にあることが見て取れた。そこに居るのは数人の小さな影と、一人の巨躯の姿。
 それを幼心の代償と、言って終えるには余りに不条理な邂逅。
「──放ってはおけないね」
 呟けば、道を共にする番犬皆が頷いて。宵始めの空の下、巨大なその揺り篭へと舞い降りてゆく。

 子供達は事情も判らぬまま、ただそれが危険な存在なのだということだけを理解して恐怖に立ち竦む。
 罪人、エインヘリアルはそこへ歩み寄りながら鞘を握った。
「不運だったな」
 そうして決定づけられた死を与えようとするように、曲刀を振り上げる──が。
 突如風が鳴ってその視界が遮られた。
 氷晶の光を棚引かせながら、ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)が面前へと着地していたのだ。
「……ホント、子供を狙うような輩は気に入らないんだよね……」
 一歩出ながら、平素柔い声音に鋭さを交えて。
 身を凍らすような冷気と、夜闇よりも黒いオーラを零れさせているのは、怒りの心が滾っているからに他ならず。
「思い通りになんてさせないよ」
 瞬間、強い風のように闇を発散して濃密な殺戮衝動を広げていた。
 それに罪人が微かに怯んだ一瞬に──宙からウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)も降り立っている。
「思ったよりも広くて動けそうだ」
 足場を踏みしめ、素早く視線を奔らせつつ。言ってみせると次には巨躯へ好戦的な笑みを見せて、肉迫。
 刹那、鈍色の凶器を至近から投擲。はっとした罪人が避ける暇もなく、鋭い打撃を顎へ叩き込んでいた。
「ケルベロスが来るとは思っていなかった?」
「……!」
 よろめいた罪人は、漸く目の前の敵を把握して刀を持ち上げる、が。
 その後方から別の風が吹く。
 夜に映える縹の翼で、鋭く風を叩いて翔び降りる霖・炯(レイニーディプレッション・e46129)。細腕に武骨な程の杭打ちを握り締めていた。
 罪人は仰ぐが、一瞬遅い。
 炯は見下ろすその顔へ静かな視線を落として。
「無防備な子供の背を襲うような痴れ者は見逃せんのでな。無粋な『密航者』には、“下船”してもらうとしよう」
 これはその挨拶代わりだ、と。
 鋭利な杭を放ち強撃、巨躯の肩口を烈しく貫いた。
 罪人の体勢が崩れる間に、炯は床に降りて前方を見遣る。
「子供の秘密の冒険に大人が水を差しちまうようで悪いがね、今日はおとなしく家路についてもらうよ」
 子供達がその声と皆の姿に、助けが来たのだと理解し始めた頃。
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)も丁度少年らの傍へと駆け寄っていた。
「待たせたな、ケルベロスのお出ましだ!」
 そのまま自らを壁にするように立って、誘導を始める。
 そうして動き出した子供達を、シルフィアは背に乗せて。岩礁まで駆け上がって逃し始めていた。
 怖がる子供がいればランドルフが抱き上げ、逆にケルベロスとの出会いにはしゃぐ子供がいれば、そちらもランドルフがしがみつかせたままにして。
「Autographは後でな! とりあえず向こうだ!」
 言いつつ自身も船縁から外へと登り始めていく。
 無論、罪人もそれを看過しようとはしない、が──急襲は未だ終わらない。
 深い蒼の空に、真珠色の銀髪を柔く燦めかせて。
 純白と漆黒、二対の翼を羽ばたかせながらキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が降下していた。
「……リオン、お願い、ね」
 と、声を向けるのは抱きかかえているテレビウムのバーミリオン。
 応えて腕から離れ、ひらりと着地したバーミリオンは──巨躯へ眩いフラッシュ。精神を掻き乱す光を直射していく。
 罪人は自然、少年らから視線を外してそちらへ狙いを定めた。が、攻撃も自由にはさせまいと、小気味よく板を跳ねる影が在る。
「邪魔させて貰うね」
 それは冷気を纏うナイフを握る、笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)。
 倒れる帆柱を軽やかな足取りで避けて、靴音でリズムを響かせて。奔らせる剣撃は『血祭りの輪舞』──踊るように、愉しむように巨体の膚を斬り裂いた。
 血潮を零しながら、罪人はそれでもバーミリオンへ剣先を伸ばす。ただバーミリオンもこの数瞬でしかと防御態勢を取り、正面から受けきっていた。
 ダメージは決して低くない。だが直後にはふわりと降り立つリュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)が手元に白妙の光を湛えている。
「これですぐに、癒やすから……!」
 風に踊る綿毛のように、柔く散った光で覆って傷を融かす。
 同時にリュシエンヌは、逆側に立つ頼れる夫──ウリルへ声をかけていた。
「うりるさん、こっちは大丈夫よ!」
「ああ」
 優しい声を返したウリルは、腕を突き出し一撃。組んだパズルより闇色の雷撃を放出し、罪人の背を烈しく灼いていく。
 その間に、キリクライシャもバーミリオンへの治癒を怠っていない。役割を担ってくれたことへの想いも込めて、今の自分に出来る備えを、と。
「……受け取って」
 眩く『陽光の珠』を燦めかせて。黎明の輝かしさで、清浄な加護を前衛へ与えていく。
 罪人は前後、どちらに警戒を向けるか思案していた。が、次にはそのどちらでもない──船縁にシルフィアの蹄が響いている。
「避難は済んだよ、全員無事に」
 それに続いてランドルフも降りてくれば──皆は頷き合って。
「じゃあ、もう遠慮はいらないね」
 と、氷花が疾駆。隙を見せていた罪人へ迫ると一撃、紅蓮に燃える焔を伴った靭やかな蹴りで巨体を吹き飛ばしてみせた。

●揺り篭
 罪人が大きく後退すると、波音と戦いの間隙に短い静寂が訪れる。
 その一瞬に、リュシエンヌはふと甲板を見回していた。
 古びた木の匂い、褪せた色。好奇心を抱かせて、少年らの心を虜にする怪奇の景色。
「男の子ってこういう場所が好きよね」
 ──うりるさんも子供の頃冒険していたの?
 なんて、夫の子供時代を想像して尋ねそうになるけれど。
 それでもすぐに首を振った。平和な言葉を交わすには、まず目の前の戦いに集中しなければならないと識っているから。
 そうして前へ向き直ると──罪人は視線を巡らせて呆れた声を零していた。
「……子供を逃すなんて無粋じゃねえか。俺に斬られて死んじまっても、それは勇敢な冒険の結果だろ?」
 それは当然のリスクだと、言ってみせるように。
「それとも若人の冒険心を否定するかい」
「いいや、子供に冒険心は必要だよ。それで危険に遭うことも、確かにあるだろう」
 けれどと、ウリルは言葉を返す。
「このリスクは見過ごせないな」
「そうだね。それが意図的に発生させられるリスクだっていうなら……こっちもそれを容赦なく排除するだけだよ」
 氷花が声を継げば、リュシエンヌも静かに頷いた。
 決して未知に手を伸ばすことを否定しない。
 子供の頃体験した冒険は、大人になっても思い出となって。困難にぶつかったときに必ず力になるのだから。
「その場所も、子供たちの命も、守るべき大切なものなの」
「そういうこった」
 ぎしりと床を踏みしめて、ランドルフはくるりと刃を握る。
「冒険も命もいつかは終わる、だがなあ……テメエの都合で好きにされる謂れはねえ!」
 何よりも、と。
 間合いを一瞬で詰めると、銀毛靡かす腕を振り上げて。
「子供の冒険ってえのはHappy Endと相場が決まってるんだ。テメエなんざに笑顔も未来も奪わせねえ!」
 刹那、無数の斬閃を奔らせ、巨躯に鋭い裂傷を刻みつけていった。
 よろめく罪人は、それでも刀を構え直す。
「やるってんなら、いいぜ。子供じゃなくお前たちが死ぬ結果になるだけだ……」
「威勢の良いことだ」
 と、返るのは対照的な声音。
 巨躯の戦意にも怯まずに、真っ直ぐ佇んで。白髪で隠れた右眼から青白い混沌の火を揺らがせる──炯。
「久々の娑婆の空気が、嘸旨いのだろう。今のうちに存分に吸っておけ」
 鋭い刃を細指に持つと、それに、と。誘うような言葉を続けて。
「戦への滾りも、檻の中で持て余していたのだろ? 来な──お前がか弱いもんにしか手を出せん腑抜け野郎じゃないならな」
「……!」
 投げられた言葉に、罪人は目を見開いて踏み込んできた。だが忿怒の刃よりも疾く、炯は懐へ入り連閃、傷を抉っていく。
 よろけながらも罪人は反撃を目論む。が、その足が突如止まった。
 それはシルフィアがそっと息を吸い、夜の風に歌声を乗せていたから。
 ──あなたに届け、金縛りの歌声よ。
 美しく、それでいて深い呪いを宿した旋律はしんしんと宵闇に響き渡り、罪人の魂を縛り付けて動きを封じ込める。
「さあ、攻撃を」
「うん。任せてー!」
 と、そこへ氷花が朗らかに跳び出していた。
 転がる帆柱を足場に、船室跡の壁を蹴ってさらに高所へ。巨船を見下ろす程の高度へ至りながらパイルバンカーへ冷気を籠めていく。
「その身を、凍えさせてあげるよー!」
 瞬間、打ち下ろされるのは雪片を舞わせる魔氷の杭。肉と骨を抉るよう、強烈な速度と威力を以て罪人の腕を貫いた。
 呻く巨躯は、それでも海嘯を呼び込んでぶつけてくる。が、盾役がしかと衝撃を抑えれば、キリクライシャが煌めく光をその手に抱いて。
「……大丈夫、すぐに治すから」
 手を伸べると円く艷やかなオーラを結実させて、バーミリオンの躰を甘やかな輝きで包み傷を消失させてゆく。
 同時にラグエルも氷片の煌めく魔力で己を治癒すれば、戦線は万全。
 リュシエンヌが翼猫のムスターシュに猫パンチを繰り出させれば、ウリルが『Aurore』──闇色の虚無より伸ばす深淵で巨躯を囚え拘束。リュシエンヌ自身も煌めく光の粒子──『Coin leger』を注がせ罪人を縫い止めていた。
 生まれた隙にシルフィアが脚を撓らせ強打を加えると、機を合わせた氷花も刃を振り抜き一閃を叩き込む。
 下がった巨体へ羽撃いて、キリクライシャも一撃。くるりと宙で優美に廻って翔び蹴りを打ち込んでいた。
 連撃に膝をつく罪人は、それでも戦意を緩めず嗤いを見せる。
「……今に、見てるんだな。お前達を斬った後は、子供も同じ運命を辿らせてやるさ」
「させるわけ、ないだろう」
 歩み寄るのは、零下の声音を零すラグエルだった。
 子供を襲う蛮行だけでも、弟と生き別れた過去を思い出して怒りに塗れそうになる。
 なのに──先刻の子供達を思い出す。その中で寄り添っていた、顔の似た二人の男児。きっと兄弟だろう──あの姿がまるで自分達と重なるようで。
「そんな運命は訪れさせない」
 努めて冷静に、けれど夜を染める程黒い靄を溢れ出させて。
 ラグエルは『氷華咲檻』──侵食する氷で巨躯を飲み込んで、膚も臓も、内外から斬り裂いて血の花を咲かせていった。

●海風
「まだ、だ……」
 倒れ込む罪人は、喘ぎながら自己を癒やす。
 だが既に、形勢は傾いていた。
 キリクライシャはブーツで床を跳ねると、煌めく髪に宵空を映しながら。紅花を戦がせて宙を滑ると光を拳に抱いて一撃、鮮烈な打突で加護を砕く。
「……このまま、畳み掛けて」
「うん、行くね」
 頷く氷花は横に廻って斬線を、縦に廻って鋭利な蹴撃を。雨と注がすことで巨躯の全身の傷を深く抉り込んだ。
 ラグエルがそこへ吹き荒ぶ氷雪を繰り出せば、煽られた巨体へシルフィアも手を伸ばし。
「パズルに潜む竜よ、敵に稲妻を放て!」
 艶めく知恵の輪をきん、と解き放ち、夜を裂く雷光で巨躯を貫いた。
 同時、そこへランドルフも銃口を突きつけて。
「テメエに飛びっきりのBad Endをくれてやる! コギトの欠片も 残さず逝きな!!」
 赫く弾丸を炸裂させて『バレットエクスプロージョン』。閃く爆炎で巨体を包み込む。
 倒れゆく罪人の、零距離へ炯は迫っていた。
 繰り出すのは刺突、殴打、剣撃。
 殴り、抉り、刺す、それは単純で兇猛なまでの暴力。
「──Bon voyage」
 たっぷりの皮肉を、酷薄な表情から紡いで。『Spade』──炯の与えた慈悲無き連撃が、罪人を跡形もなく散らせていった。

「子供たちは、みんな無事かな!?」
 岩礁へと戻った氷花が視線を向ける──その先に少年達の姿はあった。
 浜に近い平坦な岩場でじっとしていて、こちらの成り行きを待っていたようだ。歩み寄ったシルフィアは、皆に怪我がないことを確認する。
「大丈夫みたいだね」
「……そうか」
 良かった、と。
 ラグエルはそんな様子を見やりながら、ほっと胸をなで下ろしていた。
 安堵の顔を浮かべている子供達を見ると、自分達が戦った意味がここにあったと、実感する思いだ。
 ありがとうございました、と頭を下げる彼らに、ランドルフは頷きつつ口を開く。
「冒険をするなとは言わないが。俺達もいつでも助けに来れるわけじゃない。それを判っておいてくれよ」
 怒られるならいいが誰かを悲しませるような事は許さない、と。
 言葉に少年達は静かに、けれどしっかりと頷く。それからランドルフが頭をぽんと叩いてあげると、また笑顔を見せていた。
 それから求められたサインやハグに応じて──ランドルフは去っていく少年らに手を挙げる。
「忘れんなよ! 家に帰るまでが冒険だ!」
 それに手を振って子供達が帰っていくと、キリクライシャは皆を見回した。
「……皆は怪我、ないかしら」
「こっちは平気だ」
 皆と共に頷いた炯は、船へ戻っていく。
「元々襤褸船とはいえ、坊やたちにとっては愉しい冒険の場だからな」
 言うとヒールをかけ、荒れた箇所を修復。氷花も手伝い、元通りの廃船へと直していった。
「これで、大丈夫だね」
 静けさが戻ると、船は前と変わらず緩やかに波に揺れる。
 そこで海を眺めているウリルへ──リュシエンヌは尋ねたかったことを聞いた。
「うりるさんの子供時代ってどんな感じだったの?」
 想像の中の男の子はやっぱりカッコよくて。
 その時に逢っていても、自分はやっぱり好きになっていただろうと思うから。
「子供時代? さあ、どうだったかな……」
 と、ウリルはそれに対し何とも言わない。
 ──昔は希望も光も何もなかったから。
 妻にはただ笑顔のみで応えて、薄闇が落ちていく水面を見つめていた。
「あの子供達もまたここへ冒険をしにくるといいね」
 実際、この景色は子供だったらきっと心躍ったとウリルも思う。だからまた、彼らの冒険心が続いていけばいい、と。
 思いながらゆるりと踵を返す。リュシエンヌもムスターシュを腕に抱きながら、その隣についていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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