第九王子サフィーロ決戦~蒼玉を穿ち、漆黒を払え

作者:そうすけ


 本国からの増援到来を信じて、サフィーロ王子はあとの守りを『紅妃カーネリア』に託し、自ら大軍を率いてブレイザブリクを出た。
 迎え撃つは『死者の泉の奪還』を目論み、進撃してきた死神の黒い軍勢だ。
 四方向から攻め寄ってくる死翼騎士団に対し、サフィーロ王子も軍を四つに分けて対抗する。
 炎渦巻く地で、蒼玉と黒翼の軍勢は激突した。
 両軍一歩も譲らず。
 互いに今日こそは決着をつけるという高い戦意を示し、一進一退の攻防が果てるともなく続いた。
 だが――。
 幾度か衝突を繰り返したのち、少しずつ前線の均衡が崩れ始める。
 斬撃や砲撃の音がそこかしこに響く中、いつまでたっても来ない援軍に動揺しはじめたサフィーロ王子軍が、死翼騎士団の猛攻に押されだしたのだ。

「慌てるな。まさか本国がブレイザブリクの陥落を許すはずがない。
 近衛も含めて、残る戦力を前線に向かわせるんだ。それで当面は凌げるだろう」
 戦線維持の檄を飛ばしたサフィーロ王子の胸に、一抹の不安が兆す。
 果たして、兵力の増強で前線の士気は戻った。
 しかし、それもいつまでもつことか。
 それにしても遅い。遅すぎる。援軍はまだか――。
 サフィーロ王子は体の影で拳をにぎった。胸に兆した疑念を封じ込め、自身に王者の笑みを強いる。
 まさかの思いを、回りに、特に最前線で戦う兵士たちに知られてはならない。
 前線へ目をやれば、いまや激流と化した漆黒軍団がなだれをうって攻め込んでくるところであった。

 一方、死翼騎士団の長“シヴェル・ゲーデン”は、戦機は熟した、と漆黒の大剣を高く掲げて兵を鼓舞した。
「敵軍は孤立している、遮二無に攻めろ!」
 ホーフンドは軍を率いてここへは来ない。それは確実だ。ケルベロスたちがやつらを上手く退けてくれたのだから。
 それだけではない。情報によると――。
 シヴェルは意味ありげに口の端を上げ、紅瞳に不敵な笑みをたたえた。
 これは『死者の泉』だけではなく、我々死神がすべて手にするチャンス。いまさらケルベロスたちに何一つ、分けてやる必要などない。
「進め! 兵は拙速を尊ぶぞ!」
 腹にずしりと応える重低音の響きを伴って、死翼騎士団が地を駆ける。
 目指すはサフィーロ王子の本陣。
 裏切り者を討伐せんとアスガルドが挙兵する前に、なんとしても終わらせてしまわねばならぬ。
 一気呵成に眼前の敵を下し、この勢いのままブレイザブリクへ侵攻、落とすのだ。


 第八王子強襲戦は、ケルベロスの勝利に終わった。
 ホーフンド王子が生き残った配下の軍勢とともに、アスガルドへ逃げ還ったのだ。
「それだけじゃない」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は興奮を隠そうともせず、声を大きくした。
「みんなが考えてくれた作戦が功を奏し、サフィーロ王子が裏切ったという情報がアスガルドに伝わったんだよ。その結果、エインヘリアル軍は『サフィーロ軍を敵として、ブレイザブリクの奪還戦』の準備を始めたらしいよ。これって、すごくない?」
 更に、この好機に死神の死翼騎士団も動きだす。総力を挙げてブレイザブリクの攻略を始めたのだ。
「そういうことで、ボクたちケルベロスも参戦するよ。
 死神と共闘? さあ、どうだろうね。よっぽどうまく立ち回らないと……死神は自分たちだけで、『死者の泉』だけじゃなくブレイザブリクそのものを全部取るつもりみたいだしね」
 死翼騎士団が動いた事で、第八王子強襲戦に参加したケルベロスの撤退も容易にできたとはいえ、ブレイザブリクが死神の手に落ちるのは見過ごせない。
 お前の敵はオレの敵と、利害が一致してなんとなく結ばれていた同盟関係もここで終わりか。
「まあ、死神側はケルベロスとの全面抗争は望んでいないみたいだから、状況を説明すれば、軍を引いてくれるかもしれない。あくまで可能性があるってだけの話だよ。
 でも、サフィーロ王子の撃破とブレイザブリクの制圧は、ケルベロスの手でやらなきゃダメだ。死翼騎士団を敵にまわす必要はないけど、彼らに全面協力してもいけない。ここんところ、よく覚えておいて」
 つづいてゼノは、ヘリポートに集まったケルベロスたちに、自チームが担う役割の説明を始めた。
「ボクたちは他の二チームと協力して、サフィーロ王子の命を狙う。戦いの真っただ中に、敵将の一人を暗殺するんだ」
 大局を見れば、サフィーロ軍のほうが死翼騎士団よりも戦力的に劣っている。
 サフィーロ軍は本国からの増援を信じ、なんとか持ちこたえてはいるが、指揮官である王子が暗殺されれば一気に崩れるだろう。
 あとは死翼騎士団が、混乱し足並みを乱したサフィーロ軍を撃破してくれるはずだ。
「うん。ここからが大事。
 サフィーロ軍を撃破した死翼騎士団は、放っておくとブレイザブリクの制圧に向かうよ。間違いなく。
 だから戦闘終了後、可能な限り、交渉するなんなり実力行使するなりして止めて欲しい」
 サフィーロ王子の本隊を攻める死翼騎士団は、シヴェル・ゲーデン団長が率いている。
 多くの兵を束ねている団長だけに、損得勘定はきちんとできるはずだ。
 状況を上手く説明し、説得することができれば、ブレイザブリクに攻め込む事はないだろう。
 死神はデウスエクスなので信用は出来ないが、無駄な争いは避けられれば、それに越したことは無い。
「せっかくだから友人になれ……とは言わないけれど、ゲーデン団長と情報交換できれば、何か今後に役立つものが得られるかもしれないね」
 つまり、死神たちを上手く動かしてサフィーロ軍の相手をさせつつ、ケルベロスたちだけで王子本隊に突撃、暗殺するのだ。
「ちなみに、サフィーロ王子は一人でも強いよ。なんたってエインヘリアルの王子様だからね。護衛の者が少ないからといって油断しないで」
 暗殺後は速やかに離脱し、今度は死神の動きを牽制しなくてはならない。
「やりようによってはサフィーロ王子だけでなく、ゲーデン団長も倒すことができなくはないだろうけど……」
 両軍の将を一度に倒すとなると、条件はかなり厳しい。王子と団長が一騎打ちするようなことがあれば、あるいは――。
「ボクは少なくとも、アスガルドのゲートを攻略するまでは、死神たちとうまく付き合った方が得策だと思うな」
 いずれにせよ、三チームでよくよく作戦を練る必要がある。
「東京焦土地帯を取り戻すチャンスだ。みんな、頑張ってね」


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)

■リプレイ


 死神の黒い軍勢が前へ前へと進む。
 エインヘリアルの将兵たちは前線で踏み留まる。
 両軍の凄絶な争いは、東京焦土地帯に烈風を引き起こしていた。
 流す端から隠密気流が乱され、散る。
 しかたなく物陰に潜み、保護色のマントなどで姿を隠すケルベロスたちのわずか数百メートル先で、怒声とともに激しく刃を打ち合わせる音が、ひっきりなしに飛び交う。
 壁の割れ目から土埃と血飛沫で煙る戦場の様子を窺っていると、青い甲冑を着こんだ大柄な兵士たちが、整然と足並みをそろえて、戦の音が高まる先へ向かっていった。
 もう、ここから先、潜行は無理だろう。
 幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)は壁から目を離して座り込むと、横にいるシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)の手を握った。
「シルさん……」
「絶対、大丈夫っ」
 そういうシルも、笑顔の下に不安を渦巻かせていた。
 平然として見えるのは、大切な人――鳳琴に握りしめられた手が、体全体の震えを押さえてくれているからだ。
 当初、目指していたエインヘリアル第九王子サフィーロの本陣まで、まだかなりの距離があった。
 両軍合わせて万に兵数が届こうかという激戦地。一瞬の隙が死と直結する。どちらの兵士も、戦場の端に紛れ込んだごくごく僅かな異分子を、いちいち見止めていられない。
 つまりは見逃されていた。ここまで誰にもとがめられることなく、進んでこられただけでも幸運というもの。
 だが、ここから先、サフィーロ王子の元までは――。
「一分が経過しました。行きます」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が立ちあがる。
 前線の苦戦を知ったサフィーロ王子が、護衛の兵をさらに割き、増援として送り出してからちょうど一分。
 三班、総勢二十四名のケルベロスたちが動く。


「邪魔です。道を開けてください」
 カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)の指先で静かに回る氷結輪が、極寒の吹雪を呼ぶ。
 千手・明子(火焔の天稟・e02471)もすらりと伸びた白い脚を蹴り上げて、地に業炎を走らせる。
 刹那、王子を護衛していた百名のうち、不意を突かれて油断していた数名のエインヘリアル兵が、呻き声をあげて地にひれ伏した。
 シルが紅翼の闘魂に守られて、カルナたちが転がした兵士に駆け寄る。
「すっ飛んじゃえっ!」
 威勢よく足を振りぬいた。
 ゾディアックソードの柄に手にかけて、腰をあげた兵士の首がすっと横へずれる。
 那岐が構えた竜砲の口が轟然と火を吹き、地に落ちた仲間の首をあぜんと見つめる兵士を焼いた。
「敵だ。敵襲だ!」
「死神の伏兵――いや、ケルベロスだ!」
 奇襲のショックが解け、怒声がとどろき渡る。
「なにをしている、王子をお守りするのだ!」
 激を飛ばしたのは小隊長だろう。
 奮戦命令を受けて兵士たちが体を起こす。
 エインヘリアルたちはあっという間に反撃態勢を整えた。見事というほかにないが、王子直属の先鋭部隊であれば当然の反応か。
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は、ケルベロスチェインを地面に這わせ、仲間たちの足元に巨大な魔法陣を作りあげた。
 魔法陣に沿って立ち上がる加護の光を透かし、敵の陣容を観察する。
「さてさて、これまた大軍だね」
 前線へ兵を送り出してなお、五十体に近い先鋭兵士が残っている。
 対するこちらは二十四人、いや、班ごとに分かれているので八人と一体……。
「それでもアタシらは獲物をとことん追い詰め、喉元を狙う。猟犬らしくね。アンタたちが大事にしている蒼玉を穿つよ」
「やれるものならやってみるがいい。王子には手を出させん!」
 小隊長らしきエインヘリアルが吼える。
 意を受けた兵が列から抜け出して突撃してきた。
 『シロ』が翔子の腕に巻きついたまま、白竜の息を吐いて牽制する。
 イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は、取りだしたルーン秘石を陽光に当てて光らせると、彼の国より『フロスト・ランスナイト』を呼び出した。
「じゃあ、やらせてもらうね」
 たたらを踏んで立ち止まった兵士に、イズナが人差し指を向ける。
 『フロスト・ランスナイト』が、槍先を電光の迅さで繰り出し、兵士の太ももを貫いた。
 エインヘリアル側が一斉反撃に出た。
 とっさに仲間を庇ったディフェンス陣が、命中弾を浴びて突っ伏す。
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)は、倒れた仲間の上空にヒールドローンを派遣し、回復薬を雨のように降らせた。
「次がくるぞ!」
 叫ぶその一方で、目を凝らして向かってくる敵の中に癒し手を兼ねる小隊長を探す。みな同じような甲冑姿なので、見分けがつきにくい。
 真っ向勝負と宣言し、通り勢いに乗ってこちらの壁を崩そうとする巨漢の敵と、ケルベロスたちは正面からぶつかり合った。
「――くっ」
 鳳琴の顔が苦痛に歪む。
 敵の前面に六芒星を広げ、精霊収束砲を放った恋人を突撃から庇ったのだ。
「琴ちゃん!」
「だ、大丈夫……下がって」
 鳳琴は体にぶつかってきた青い甲冑に手をつくと、炎弾を放った。しかし、寸で相手に気づかれ避けられる。
 那岐がドラゴンハンマーを振るって畳み掛けるが、横から別の兵士が差し出したゾディアックソードにはじき返されてしまった。
「押しつぶせ!」
 巨体な津波が押し寄せてきた。至近距離から全体重を乗せたタックルを受ける。
 あまりの衝撃の強さに『シロ』と翔子が宙を舞い、那岐たちが倒れた。後ろにいたカルナとイズナ、アジサイ、明子が後ろへぐっと押される。
「堪えろっ」
 アジサイがヒールドローンをフル回転させて、仲間たちを次々と癒していく。自分自身は、後ろに回した明子に衝撃が及ばないよう、太い足でしっかり踏ん張った。
 翔子は口元の血をぬぐうためにだけ片手を上げた。
 腕の『シロ』が、赤い舌を伸ばして切れた唇を舐める。
「やるじゃないか、いいアタックだ。だけど、アタシたちはまだ立っているよ」
 かかっておいで、と軽く挑発してから、仲間たちのすぐ前に雷の壁を構築した。
「今度はそうやすやすと崩されない」
 再びスクラムを組んで、エインヘリアルたちがぶつかってきた。が、翔子の宣言通り、ケルベロスたちは一歩も引くことなく突撃を受け止める。
 一刻の猶予を得たカルナは、氷結輪で空に次元異相の扉を描いた。
『風よ、嵐を告げよ』
 詠唱とともに開いた扉から、絶対に溶けることのない氷晶が暴風に乗って吹き出る。
 嵐に襲われた一体が、凍りついたように動かなくなった。
 イズナが螺旋を描いて飛ぶ氷を撃ち込む。
 制止する一体を起点にして、蒼い波が砕けた。
「見つけた! 指揮官は三列目、真ん中だ。アキラ、頼んだぞ!」
「ありがとう。かならず期待に応えてみせます」
 明子は『赤日』を砲撃形態にした。星の煌めき放つゾディアックソードの間に小隊長の蒼兜を捉える。
「お命、頂戴!」
 重力弾の轟音がこだまするなか、小隊長は自分の剣を構える暇もないうちに、滑稽とも思える音を立てて、どさっと地に倒れこんでいた。


 振り下される竜の爪、否、カルナのドラゴニックハンマーが氷像と化したエインヘリアルを砕く。
 相手は身を守る盾と癒し手を失った。あとはここを突破して、ティーシャたちの班とともに、王子に肉薄する天音たちの班と合流するのみ。
 前方に目を向けると、本陣があわただしい。
 白だろうか、待て、と叫ぶ声も聞こえてくる。
 直後、喧騒に包まれた焦土地帯の戦場に、撤退を告げる声が響き渡った。
 あれよという間に、敵味方入り乱れての大混乱になる。
「まさか、サフィーロ……部下を見捨てて逃げ出したか」
 アジサイが仲間の受けた傷を急いで回復させる。
「冗談でしょ。絶対、逃がさないよ!」
 シルは身をひねって兵士の銃剣をかわすと、勢いのまま相手の顔に、精霊石の指輪をはめた拳を叩き込んだ。
 折れた巨鼻から吹きだした血と魂を、生命の糧として食らう。
 鳳琴と翔子たちが二体の攻撃兵を押さえている間に、イズナが左の一体に惨殺ナイフをジグザグに振るって切り刻む。
「どう、フロッティの切れ味は?」
 明子がしっかりとした足さばきで、涼やかに舞う。
 風に遊ばせた名物『白鷺』の刃が、兵士の体の上をジグザグに走る切り傷をなぞり、広げた。
「次は那岐の番」
 疾風の舞姫がこくりと頷く。
『さて披露するのは我が戦舞の一つ、風よ、進むべき道を切り開け!!』
 地を踏む足で軽妙な韻律を奏で、舞姫は空間をいっぱい使って、手を振り、回転し、舞い狂う。手捌き、足捌き、体の捌きが、息を呑むほど美しく荒々しい。
 手にした鋭利なカードが、兵の持つ銃剣の身を切り落とし、蒼い甲冑に血の筋を引いた。
 目の前に枝を広げた満開の桜が現れる。
 刹那、強い風が吹き、落花――しぶいた血が地に散り落ちた。
 これでほぼ道が開かれた。あとは明らかに狼狽している狙撃兵を蹴散らすだけだ。
 このまま一気に王子まで駆け抜けるぞ、と誰もが気合を入れたとたん、前線方向で雄叫びが上がった。
「ひけー、ひけー」
 前線で隊を指揮していた指揮官が大音声を張り上げて命じる。
 およそ数千の兵がすかさず踵を返し、ブレイザブリク目指して疾駆し始めた。
 例えでもなんでもなく、本当に大地が揺れる。
 目路を塞いでいた土埃の向こうから、五百人ばかりの兵が踊り出て来た。
 先頭を駆けるのは、ケルベロス襲撃の直前に前線へ送り出されたサフィーロ王子の近衛兵らだ。
 ゾディアックソードを高々と掲げ、こちらに突っ込んでくる。
 前後から挟まれる形になったケルベロスたちに、交戦する余裕はない。
 もみくちゃにされながら、思わず左右へと逃げ散る。
「アジサイー!」
「アキラぁ!!」
 アジサイは伸ばされた明子の腕を、岩のような手でしっかりと掴みとった。引き寄せ、胸に抱く。
 来るなら来い、と二人は武器を構えたが、近衛兵たちはケルベロスに深く構わず、王子の元へ向かった。
 別班の憐や沙耶たちが、近衛兵をブロックして合流を阻む。
 その周りを、前線で戦って傷だらけのエインヘリアル兵たちが、メチャクチャに動きまわっていた。
 ケルベロスたちはこの混乱を巧みに利用して、一か所に集まった。
 全員が大なり小なり傷つき、疲弊していた。
 翔子が、乱れた髪をかきあげながらいう。
「どうやら撤退命令が出たようだね。この混乱具合……サフィーロ軍の戦線は完全に崩壊したんじゃないか」
 鳳琴はシルと目を合わせると、手を強く握った。二人とも考えていることは同じ――、と仲間に顔を向ける。
「でしたら、チャンスです。この機に乗じて、私たちもサフィーロ王子を追って撃破しましょう!」
 明子も、このまま王子を逃がしてしまうぐらいなら暴走してでも止める、と意気込む。
 カルナがゆるく首を振った。
「無理です。死翼騎士団に追われたサフィーロ軍が、こちらに逃げてきている……このままここにいては危ない」
 そうですね、と那岐が言葉を継ぐ。
「多勢に無勢、両軍の戦いに巻き込まれればひとたまりもありません。ここは死翼騎士団との接触を急ぐべきです。シヴェル団長の軍勢にブレイザブリクを攻めさせないためにも」
 提言の声に悔しさが滲む。
 イズナは胸の前で両の拳を握った。
「じゃあ、じゃあ、他のチームと一緒に! 団長を説得するにもわたしたちだけじゃ、押しが弱いよ。みんなで行かなきゃ」
 イズナのいうことはもっともだ。
 ケルベロスたちは一つに纏まると、他の二班との合流を急いだ。


「かかれ、かかれっ!」
 死神の軍が最前線に向かって雪崩を起こす。
 数千の喚く声と駆ける足音が一体となって戦場にとどろき、無数の甲冑や肉体がぶつかる音が響いた。
 最前線でエインヘリアル兵があげる悲鳴と怒声が飛ぶ。
 もはや掃討戦だ。
 シヴェルは不満そうに鼻を鳴らした。
「ふがいない敵よ。まあ、これだけの人数に寄せられては仕方がないか」
 シヴェルはそう呟くと、さらに攻勢を強めるべく手勢に指図をした。
 直後、漆黒の翼の壁が割れて、ボロボロの一団が進み出てきた。
 集団の中に肩を担がれている者がいるのを見つけ、シヴェルはニヤリと笑う。
「来るのが遅かったな、ケルベロス。我々の後ろでブレイザブリクが落ちる様をみているがいい」
 シルが一歩、前へ進み出る。
「ちょっと待って。サフィーロたちを追うのはいいけど、もし、あなたたちが単独でブレイザブリク陥落を強行するなら……止めさせてもらうからね」
 シヴェルの形の良い右眉が、ひょいと跳ね上がった。ケルベロスたちを馬鹿にするかのように口の端が吊り上がる。
 那岐たちも前に出でて並ぶ。
「すでにエインヘリアルからサフィーロに対して討伐軍が出ています。ここで私達と戦って消耗した形でブレイブサブリクを占領したとて、奪い返されること必然でしょう」
「消耗? ふん、バカらしい。いまのお前たちなど――」
「敵ではない?」
 カルナが微笑む。
「ですが、僕たちと戦っている間にエインヘリアル本国からの援軍が来たとしたらどうでしょうね」
 鳳琴が闘気を発して、まだ戦えるぞ、とシヴェルを見据えた。
「我々ケルベロスと戦うのは得策ではないと思いますが」
 張りつめる空気を、さばさばとした翔子の声が和らげる。
「まあまあ。あんた達にしちゃ、余計な消耗なしでサフィーロが倒せたほうがいいだろう? それどころかアタシたちと組めば、もっと楽にブレイブサブリクを落とせる。結構オトクな状況じゃないか?」
 イズナも共闘を持ちかけた。
「わたしたちはゲート、シヴェルたちは死者の泉。どっちもまだ先なんだから、エインヘリアルの制圧部隊を退けるのが先だよね? あなたたち死神は、今は戦力を温存してほしいの」
 そうだ、とアジサイが声を張る。
「もしブレイザブリクを制圧できても、貴様らは大きな被害を受けるだろう。果たして戦いに疲弊した状態で、サフィーロを潰す気で編成された軍相手にどれだけやれるかな」
 最後を明子が締めくくった。
「ここでわたくし達が現れたことの意味を、どうか読み取ってほしい。エインヘリアルの援軍が迫るいま、無駄に兵を損なう余裕はないはず。
 シヴェル団長、ご決断を」


 沈黙ののち、シヴェルはケルベロスとの共闘を決めた。
 同時に、サフィーロ撃破の時点で『ブレイザブリク』がケルベロスの制圧下にあるならば、ケルベロスの『ブレイザブリク』支配を否定しない、と約束をする。
 一方でシヴェルは、サフィーロがブレイザブリクに合流した場合はその限りではない、と釘を刺すことも忘れなかった。
「その場合、サフィーロを撃破した勢力がブレイザブリクを支配する。いいな」

 漆黒の翼とともにまだ戦える者は、サフィーロ王子を追ってブレイザブリクへ進撃。
 長時間にわたる激闘の末、サフィーロ王子と紅妃カーネリアを失ったブレイザブリクを落とした。

作者:そうすけ 重傷:幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039) 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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