第九王子サフィーロ決戦~猛将と石榴将

作者:沙羅衝

「ちっ……」
 死翼騎士団の将である『猛将』は、そう舌打ちをしながら、飛んできた銃弾を、蛇矛で打ち払った。打ち払われた銃弾は、鈍い音と共に地に着き刺さって埋まっていた。その手ごたえから、明らかなる殺意を感じる事ができる。
 ここはブレイザブリク近郊。
「どうやら、厄介な奴が潜んでいるようだなぁ」
 猛将は背後に続く『死翼騎士団』を一瞥し、辺りを見る。彼は以前、ケルベロス達と接触した死神の一体である。
「おう、このままブレイザブリクに向かいたい所だが、邪魔がいる。このまま進むが、油断すんじゃねえぞ」
 猛将はそう言って、部下に指示しつつ少し移動のスピードを緩め、ブレイザブリクへと歩を進めていったのだった。

「みんな、集まってくれて、有難うな」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、まず第八王子強襲戦の結果を纏めて話した。
「第八王子強襲戦は、みんなの活躍もあって、見事に成功や! ホーフンド王子はアスガルドに撤退。そんで、更にや! 皆の作戦である『フィーロ王子が裏切ったという情報』も、どうやらアスガルドに伝わったようやで!」
 その言葉に、ケルベロスの数人が思わず感嘆の声を漏らした。
「そんでその結果、エインヘリアル軍は『サフィーロ軍を敵として、ブレイザブリクの奪還戦』の準備を始めたようや! 凄い成果やで!」
 噂を広めただけではなく、どうやら本当に効果があったのだ。すると、先程の感嘆の声は、ざわめきとなった。
「それだけやない。これは言わばチャンスやけど、それを察知した死神の死翼騎士団が、総力を挙げてブレイザブリクの攻略の軍を起こした。この死神たちは、前にうちらと接触した死神でもある。
 実は第八王子強襲戦に参加したケルベロスの撤退が容易やったんも、死翼騎士団が動いた事も要因にはなってるねん。
 この間話はしたとこやけど、ブレイザブリクが死神の手に落ちるのは、うちらの本意でもないわけや。サフィーロ王子の撃破と、ブレイザブリクの制圧は当然うちらがやりたいわけやからな」
 ケルベロス達の作戦が功を奏した。それにより動く情勢にまた、此方も動かねばならない。ケルベロス達は、絹に次の作戦があるんだろ? と尋ねた。
「よう分かってるやん。せや。んで、次の作戦や。
 まず、サフィーロは『本国からの増援』を前提に、ブレイザブリクの防衛を『紅妃カーネリア』に託して、ほぼ全軍で死翼騎士団との決戦に挑むちゅうことが分かった。
 さっき話した死翼騎士団が4方向からブレイザブリクに向かってきてるっちゅうことから、サフィーロ王子軍も軍を4つに分けて、迎撃に向かったらしい」
「……つまり、この混乱に乗じてって事になる?」
「ビンゴや! そういうこっちゃで!」
 絹は一人のケルベロスの呟きに、頷いて続ける。
「今回はその蒼玉衛士団と死翼騎士団の戦闘中に、サフィーロ側の将を奇襲で撃破する作戦になる。戦力的にはサフィーロ軍が少し劣勢であるくらいの戦場やから、指揮官が暗殺されたら混乱するやろ。そうしたら死翼騎士団はサフィーロ軍を制圧するのは難しいことやなくなるってことや」
「あれ? でもそうしたら、死翼騎士団はブレイザブリクに向かっちゃうんじゃ?」
 すると、一人のケルベロスが、頭に描いた事を尋ねた。
「うん。そうなる。せやから、戦闘終了後は交渉とかで、それを阻止する必要が出てくる。
 前の話の通り、死神側はケルベロスとの全面抗争などは望んでいないから、情況を説明したら、軍を引いてくれる可能性は高い……。んやけど……」
「けど?」
「今回、みんなに向かってもらうのは、蒼玉衛士団の石榴将・グラナートと死翼騎士団・猛将との戦いになる。猛将って敵は、前接触した限りでは、結構感情で動くタイプでな。戦闘の横槍いれる事になるわけやから、ちょっと気をつけなあかんで。怒ってるやろし。
 ……そのへん、上手いことやってほしいわけや」
 説明を聞いたケルベロス達は、情況を整理し始めた。
「あ、そうそう。うちらの他にもう一班も動くから、そことの連携も必要になるやろ。どんな作戦にするかは皆に任せるけど、死神はデウスエクスやからな、信用は出来へん。でも、無駄な争いはせんほうがええ。
 折角生み出したチャンスや、気合入れて頼むな!」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●潜伏
「さてー。今回の作戦はー。上手く行くのでしょうかー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が、少し高くなっている場所から気流を纏い、ちらりと戦場を見ていた。
 眼下には、猛将率いる死翼騎士団が、仲間のケルベロス達を話をしている所だった。
「どんな感じになっているかな?」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は、フラッタリーの潜伏する場所を少し離れ、オオアリクイの姿を取っているオウガメタルと共に、建造物の陰に隠れている伏見・万(万獣の檻・e02075)に話しかけた。
「さぁな。あっちの事は、あっちに任せれりゃいい。ただ、この辺りを良く見りゃあ、狙撃しやすい場所が分かってくる。俺たちは、まず其処を特定することだな」
 万はそう言って、キュっとスキットルの蓋を開け、渇いた喉に染み込ませる。
 ケルベロス達は二班に分かれている。一つの班が猛将と交渉を先行して行い、もう片方のケルベロスが、軍を率い、潜伏している柘榴将・グラナートを見つけ出し、撃破するという作戦だ。
「お、動きがあったようだな。よし、俺たちも移動だな」
 軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)が、視線の先のサインに気がつき、仲間にそう促した。索敵をするにはまず、此方が見つかってしまっていては話にならない。集団で動いていてはそれも水泡に帰す。既に何人かに分かれて潜伏を行っているのだ。
 双吉が気付いたのは、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)のサインだった。近くの最前線には、月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が、紫織にサインを送り、また様子を窺っている姿が見えた。 どうやら、猛将と交渉しているケルベロス達が動き出したようだった。

「交渉は……、まあまあって所みたいだね」
 フラッタリー、シルディ、万、そして双吉が潜伏している場所とは反対方向に潜伏しているリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)もまた、紫織のサインを確認していた。
「ケルベロス達と戦闘になった様子は無いが、仲間になったという感じでもない。という事か。まあ、想定の範囲……というか、良くやっている」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は高台から飛び降り、リリエッタと合流する。紫織のサインは、その辺りも含めた情報となっており、良く出来ていた。
「少なくとも、共闘という形にはなったみたいだね」
「ああ、行こう」
 二人は頷き、敵に見つかる事が無い様に注意を払いながら、戦場に近づいていったのだった。

●作戦
 ケルベロス達は散開しながらも身を潜めた。少し先では、猛将軍とグラナート軍が激突している様子が確認できた。戦況は猛将軍が圧している様だった。
「あ、猛将の爺様おった……」
 朔耶の視線の先には、先頭でグラナート軍に突進していく姿。そして、周りのケルベロス達ともう将軍の力がグラナート軍を飲み込みつつあった。
「何と言いましょーかー。凄い『勢い』ですわー」
 フラッタリーが言うように、猛将達は、正に力押しという言葉がぴったりであった。有無を言わせず駆け回り、敵を圧殺していくのだ。
「あそこだ。いたぜ」
 その時、万が親指で一つの建物を指した。
「少し小高いし、隠れる場所もある。狙撃に最適な場所だろ」
 万の言う通り、良く見ればグラナートらしき姿がほんの少し見える。
「じゃあ、一気に行こうか……っと、なに!?」
 グラナートが潜伏している場所へと、ケルベロス達が足を向けようとした時、何と猛将がまさにその方向へと突進していくのだ。
「あれ……分かってて突っ込んでいるんじゃない、よね?」
「勘……だろうな。とすれば、恐ろしいものだな」
 リリエッタの言葉に、ジークリットが少し感心したように頷いて、少し回り込むように走り始めた。
「まったく、直感型もここまでくれば、才能よね」
 紫織もジークリット、リリエッタと共に、グラナートが潜む場所と、猛将が突進してく延長線上の向こう側へと回りこもうと走り出す。

 猛将がグラナートの元に駆けつける事に時間はそれ程かからなかった。そして、猛将と行動を共にするケルベロス達も、すぐに続いている。
「死神さん、何か言っているみたいだけど……」
 シルディは、獲物を見つけた猛将が今にも噛み付きそうな勢いで、グラナートに言葉を投げつけている様子を見て、仲間のほうを振り返った。
「どうやら、一騎打ちを申し込んでいるらしいなぁ……」
 万はまた、少しスキットルに口を付けながら、狼の耳でその声を聞いていた。
「……応じると思う?」
「まさか? 狙撃をするような相手やけ……無いやろ?」
「だよね」
 紫織の問いに、朔耶は掌を開きながら答えた。
「とすると……」
「逃走するな。部下を盾にしてでも」
「そういう事だな。今の位置関係からして、恐らく……」
 リリエッタとジークリットは、双吉の予測する範囲を頭に入れ、では我々はあちらから、と仲間に伝えて姿を消した。
 そして、他のケルベロス達も、身を潜めて配置についていったのだった。

●奇襲
 それは少く細くなっている道だった。道と言っても、かつて建造物だった、少し大き目の物体と物体の間で作られている、ただの通路と言っても良い。
 グラナートは単騎、駆けていた。恐らくは、次の角を曲がったところで、また身を潜めるつもりなのであろう。心なしか、その速度が上がっているようにも見えた。
「3……2……1……」
 それはハンドサインで行われる、簡単な合図。小細工などいらず、ただ、タイミングを合わせるだけの動き。紫織は指を折り、分かりやすく仲間に伝えた。
「合わせるぞリリ、フォートレスキャノン一斉射! て――ッ!!」
「そこっ!」
 ドゥッ! ドドドド!!
 そして、一斉にグラビティが討ち放たれた。ジークリットの砲撃と、リリエッタの跳弾が火を噴いたのだ。
「ぐ……!? 奇襲か!!」
 続いて即座に、自らの体が発火する。それはシルディが仕込んだ炎だ。
 攻撃を受けながら、周囲を見渡すグラナート。だが次の瞬間、脚に絡みつく違和感に気がついた。
『大地の精霊よ、彼の者を束縛せよ』
 いつの間にか紫織が創り出した砂の蔓が、両脚に絡みついている。
「く、クソっ!!」
 なんとか無理矢理動こうとするグラナート。だが、此処を逃がすケルベロスでは無い。
「どうだ? 自分が狙撃される気分は!」
 そして、万が上空から飛び込み、ジークリットの顎を正確に蹴り抜く。
「王子を脅迫した直後にイケメンを殴るとか、少年漫画みたいな日常になってきたな。リキは、前でな……よし、ええ子や」
 黄金の果実を、自分と万に施しながらそういうのは朔耶だ。
 額のサークレットが展開し、狂笑を浮かべたフラッタリーは自らを含め、前に立つ朔耶の指示で前に進むオルトロスの『リキ』、そして、遠くから狙撃を行ったリリエッタ、ジークリット、そしてシルディに紙兵を漂わせたのだった。

 こうしてケルベロス達の奇襲は、ものの見事に成功する。
 恐らく、グラナートは自分が影から狙われている事など考えてもいなかったのだろう。
 驚愕の表情を浮かべながら、自らの武器を構える。
「なんて事だ……」
 戦う意志は残っている様だが、情況を理解するのには、時間がかからないだろう。
 ケルベロス達の行動は、相手に行動を阻害する攻撃を与えながら、自らは強化する。一番効率の良いタイミングと、効果だった。
 それが、初手となったのだ。

●決着
 グラナートが体力を一気に奪われていくのは、既に明らかだった。特に、中衛の二人、朔耶と万が与える攻撃の効果が大きかったからだ。
「な、める……なあ!」
 だがそれでも、渾身の力を振り絞り、自らの周囲に、弾丸を召喚する。
「喰らえ!」
 ドン!
 幾つもの弾丸が一度に弾け、前衛のメンバーへと降り注ぐ。
「させません!」
 シルディと、フラッタリー、そしてリキが同時に動く。なんと、その弾丸をそれぞれが受け止め、全て弾き飛ばしたのだった。
「紅蓮ノ華、地獄ノ景色。吾ヶ腕ニテ御覧アレ」
 そしてそのままフラッタリーは、己が掌の『廻之翅』を振り上げ、力任せに殴りつける。フラッタリーに続き、シルディも星形の鉄球がトレードマークの『まう』で、追い討ちをかけるように叩き付ける。
『開放……ポテさん、お願いします』
 朔耶の白い梟『Porte』が踊り、魔法弾を放つと、
『引き裂け、喰らえ、攻め立てろ!』
 万が飢えた獣達を幻影として呼び出し、咆哮と共にグラナートを噛み切った。
 その傷口が、幾重にも重なるようにグラナートを襲う。既に思考は次に何をするのかを考える事すら出来ていない。
「ジーク!」
「分かった! 前は任せろ。援護を任せたぞ、リリ」
 リリエッタの言葉にあわせ、ジークリットが突っ込む。
『風よ……その勇猛さを重力の暴風で示せ! 烈風!!』
 斬霊刀にグラビティ・チェインを集中させ、下段から薙ぎ上げると、そこから真空の刃が生み出される。
 余りの速度で迫る真空の刃を避けることも出来ず、グラナートはきりつけられる。
『ルー、力を貸して! ――――これで決めるよ、スパイク・バレット!』
 そして、ジークリットの後方から、リリエッタが荊棘の魔力を持つ魔法の弾丸を着弾させた。
「あ……」
 既に事切れようとしているグラナート。だが流石にエインヘリアルだけあるのか、彼の体力が、自らを倒れさせる事を赦さない。
「終わらせてやるぜ」
 双吉がフラフラの状態のグラナートを見据え、『BSリング』をはめた人差し指を無造作に向ける。
『形質投影。シアター、顕現(スタンド)ッ!! 』
 すると、其処から黒い物体が出現し始める。程なくそれは蝙蝠のような大きな翼を持つ人の形を形成していった。
「テメーの最期の相手は、この悪魔……。さあ、殺してやれ」
 双吉の言葉と同時に、裂けた口から牙が除く。そして、すうっとその相貌がグラナートを捉えた。
 ドッ……!
 次の瞬間、その悪魔の腕がグラナートの胸を貫通していた。
「まさか……僕がこんな感じでやられてしまうなんてね……。侮った……ね」
 双吉の悪魔はそのまま崩れ、グラナートもまた、膝をついて消滅していったのだった。

「猛将殿!」
 その時グラナート軍の何人かが遅れて駆けつけてきた。
「石榴将、グラナート。討ち取ったぞ!」
「さあ、まだ戦い足りないなら、リリ達が遊んであげるけど?」
 ジークリットが周辺で狼狽えているグラナートの部下たちを一瞥し、勝ち鬨を上げ、リリエッタがを睨んだ。すると彼らは、お互いに顔を見合わせながら、撤退していったのだった。
「取り敢えずは……俺らは俺らで目的は達成?」
 朔耶が引き上げていくグラナート軍を見てそう言うと、
「任務完了ー。でしょうかー?」
 フラッタリーも戦闘形態を解いて頷いた。彼女の口調は、普段のものに戻っていた。
「ええ。どうやら、戦いは終わりようね」
 気がつくと、戦いの音は余り聞こえなくなっていた。それは他の現場からの音も含めてだ。紫織は頭の上の大きな耳をピクピクと動かして、頷いた。
「ここまでは、上手く行ったが……さて、あっちはどうだろうなぁ……」
 万がスキットルに残った最後の一滴を口の中に落とした時、一つの声が聞こえてきた。 シルディはその声に聞き覚えがあった。ゆっくりとその声の主を見る。
「死神さん」
 そこには、もう一班のケルベロス達と、猛将の姿があった。シルディは、以前会話をした死神の姿を見て、悔しそうな彼を見て、そして、想像通りの姿を見て、ゆっくりとお辞儀を返した。
 すると猛将は少しだけ此方を見た後に何かを言い、そして去って行った。
 何を言ったのかは分からないし、表情さえもよく見えなかった。
 だが、ブレイザブリクの方面に向かっていないという事だけは分かった。
(「きっと、届くよね」)
 シルディは願いをこめて、そう想ったのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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