ブレイザブリク攻略戦~紅き侍女の長

作者:白石小梅

●紅蒼の饗宴
 夥しい剣が、壁を彩る大広間。その下に紅い衣装の侍女たちが居並んでいる。
 そこは磨羯宮ブレイザブリク……その壮麗たる中枢であった。
『……愚か者めが!』
 剣の玉座で、宮殿の主が吐き捨てる。
 大軍勢で入城するとほざきながら、小勢の奇襲に肝を潰して逃げ出した兄。盤石となるはずの宮殿は今、その隙を突いた死神どもに攻め立てられている。
『しかし、だ……無能なホーフンドの為に危機に陥ってしまったが、エインヘリアルにとってブレイザブリクは最終防衛線。必ず増援が来るだろう』
『はい、殿下』
 隣に控えていた妃が、夫にしなだれかかった。
 夫の名は第九王子サフィーロ、妃の名は紅妃カーネリア。
 妃はドレスの裾をつまみ、王子はその顎に優しく指を掛ける。
『……ゆえに、私が死神の相手をしている間、お前には本国からの増援を受け入れ、万全の防衛体制を整えてもらいたい』
『殿下に変わり、この磨羯宮ブレイザブリクは、わたくし紅妃カーネリアにお任せ下さいまし……殿下の妃として、見事務めを果たしてご覧に入れましょう』
 抱き合うのは、透き通るような金と銀の髪、艶やかな紅と蒼……支配を望む野心と、その寵愛を恣にする驕慢。
 妃と王子は、残虐な絵画のように、口付けを交わす。

 そして、華やかな紅衣の列から侍女の一人が進み出た。
『侍女一同、お妃さまと共に殿下のご武運をお祈り申し上げております』
 笑いかける王子に向け、一斉に頭を下げる女たち。筆頭の侍女は、振り返って。
『殿方ご出陣の折、家を平安に保つのが女のつとめ。まして紅妃の侍女たる者、魚一匹、狗一匹とて、お妃さまに近づかせてはなりません』
 その身に紅を、その手に銃を、心の内に忠節を帯び、侍女たちは背を伸ばす。
『皆々、持ち場へ……励みなさい』
 筆頭侍女・ぺルラの指揮のもと、女たちは焔の如く銃を引き抜き、陣を構築する。
 彼女らの名は紅妃カーネリア直属、紅玉侍女兵。
 ブレイザブリクを護る、最後の兵団である……。

●ブレイザブリク制圧戦
 望月・小夜は部屋に集った番犬たちを見回した。
「先の第八王子強襲戦はこちらも打撃を被ったものの、成功に終わりました。ホーフンド王子とその軍勢はアスガルドへ撤退。ブレイザブリクへの入城は阻止されました」
 だがそれ以上に、情勢に巨大な変化が起こったという。
「皆さんの機転により『サフィーロ王子がアスガルドに叛逆した』という虚報が敵本国に流布した模様です。私たちがエインヘリアル勢力圏で伏撃を成功させたことに加え、吹き込まれた偽情報に揺れるアンガンチュールに、先陣の将ハティが保身のためこちらの部隊の実像を大きく報告したことも重なり……第八王子軍が撤退の自己弁護のためにサフィーロ叛逆説を喧伝したのが決め手となったようです」
 なるほど。第八王子としては情報の真偽以上に、自分の撤退を単なる失態ではないことにする必要があったわけだ。
「ええ。背の高い私の同僚という前例もあります。本国はそれを信じ『サフィーロを討伐してブレイザブリクを奪還する』準備を始めました。更にこの機に乗じようというのか『死翼騎士団』も総力を挙げ、ブレイザブリク攻略の軍を起こしました」
 図らずも死神と呼応した形になり、第八王子強襲戦に参加した番犬たちの撤退は容易に行えた。
 現在、サフィーロと蒼玉衛士団は覇権を懸けて死神との決戦に臨もうとしている。だが彼らが期待している本国の援軍は、来ない。
「さて、ここからが本題です。ブレイザブリクが死神の手に落ちるのは見過ごせません。こちらから死神と敵対する必要はありませんが、かの地の奪還は我らの手で行なうべきです。そうでしょう?」
 地球は、我々の地なのですから。
 小夜はそう言って、拳を握る。
 そう。ブレイザブリク制圧作戦を、今こそ発動させる時だ。

●作戦手順
「決戦のため、サフィーロはほぼ全軍を率いて出撃。まさか謀反人扱いされているとは思わず、本国から要衝を護る援軍が派遣されてくるものと信じて、己の妃と侍女に留守を任せています」
 その合戦に介入する作戦は別に行う。指揮官を討てば、蒼玉衛士団は宮殿へ帰還できなくなるはずだ。
「皆さんにはその間隙を突き、ブレイザブリクを制圧して頂きます」
 内部への潜入が可能なのは、5班のみ。
「まず2班が中の残霊を駆逐しつつ中枢へ向けて侵攻。『紅妃カーネリア』を守護する『紅玉侍女兵』らの前線部隊と戦闘を行います。侍女兵は戦闘力こそ高くはありませんが、カーネリアに対する忠誠心は強く決死の防衛を行うでしょう」
 2班が前線部隊と闘う間に、もう1班が強行突破。侍女兵の防衛本陣に突入する。
「本陣では『筆頭侍女ペルラ』が防衛指揮を取っています。有能な指揮官である彼女が健在である限り、侍女兵の防衛線は破れません。皆さんの担当はこの『紅玉侍女兵本陣を強襲し、筆頭侍女ペルラを撃破する』ことです」
 指揮官を撃破し侍女兵が混乱した隙を突き、そこまで温存していた2班をカーネリアの元へ突撃させる。彼女とその護衛を殲滅すればブレイザブリクを制圧できる。
「しかしペルラとてあの男尊女卑のアスガルドで身を立てた女。忠節の侍女であり、冷徹な指揮官であり、二丁拳銃を操る戦士でもあります。お気をつけて」
 また今回は、と、小夜は付け加える。
「5班全てが近い戦場におります。基本は班役割が優先ですが、任務の前後など軽度の支援行動程度なら連携も可能でしょう。その一手が、戦局を左右するかもしれません」
 小夜はそう忠告して言葉を切る。

「敵は少数とはいえ、王子の妃とその精鋭。油断は出来ません。蒼玉衛士団は別働作戦で釘付けにする手筈ですが、万が一の可能性もあります。危険ではありますが……」
 この作戦が成功すれば、因縁の東京焦土地帯を取り戻すことが可能になるかもしれない。それならば。
「……何をか言わんや、ですね。出撃準備を、お願い申し上げます」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)

■リプレイ


 死神と勇者の軍勢が激突する中、番犬たちは磨羯宮へと滑り込む。
「東京焦土地帯を取り戻すためにもこの戦いも成功させるよっ」
 そう言って爆炎を散らす、先行班。
 各勢力の思惑を絡ませ、いくさは苛烈さを増していく。
「流石に一筋縄じゃ行かない状況ね……それでもあと少し。この地を開放する為にも! 皆と運命を切り開くわ!」
 先行班に合わせ、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)の歌声が、次々と湧く残霊たちを蹴散らした。
「んうー。ざんれいに、てこずってるわけには……いかない。ん。てつだう、よ。さー、たくさん、飛べー」
 ぴょんと跳んだ伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)の手から、無数のドローンが飛翔した。残霊たちにすぐ落とされるも、その間に前線二班は敵を圧し潰す。
「後方からの支援、とっても助かるね」
「ええ。後で必ずお返ししなければ」
 背中越しに届く、感謝の合図。40人もの番犬の前には、残霊など塵芥に等しい。
「見慣れなイ風景になって来タな……恐らくそろそろダ。東京焦土地帯を取り戻す好機。この作戦、絶対成功させルぞ」
 キリノと共に無数の槍を降らせて前線を援護していた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が、続く番犬たちに潜伏を促す。
 走る先行班の先に見えるは、紅の列だ。
『敵襲……!』
 迎撃態勢を取る敵陣に、先行二班が激突する。観音開きの扉を押し開けるように、その中心に亀裂が走る。
(「今だ……!」)
 ライドキャリバーのバックファイアが、隠密気流を吹き飛ばした。
「よぉっし! 行くよ、藍ちゃん! あの間を、真っ直ぐ駆け抜けるから……みんな、ついてきてね!」
 エクトプラズムを散らして先行班を援護をしながら、山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)が、焔を纏って突貫する。
『後ろからもう一隊! 突き抜ける気よ!』
(「「俺は、ここでまた苦い経験をした。だからこそ、この作戦を成功させ皆で帰る。焦土地帯を……ヒトの手に返すために」)
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が乱射される火線の中に飛び込んで、銃弾を弾き返す。
「止まりは、しねえぜ」
「皆が作ったチャンス……その為の道を切り開くよ!」
 笑顔で走り抜ける彼の後ろで、先行班の一人が刃を振るってそれを見送る。
 そして振り向きざま、七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)の発した声が闘う者たちの耳朶を打った。
「ありがとう、皆! ここはお願いね! 私たちも、必ず道を切り開くから! さあ……気合入れていくわよ!」
 阻もうとする一体を、氷の弾丸で撃ち抜いて。
 先行二班の咆哮を背に、番犬たちは敵の横列を突き破る。

 ……一方。
 控える本陣に、侍女の一人が走り込む。
『ぺルラ様、敵襲です!』
 響くのは、巨躯の女の冷えた声。
『理解しています。来たのは魚ですか?』
『あれは……狗のようですわ』
 打ち破られる前線を見て、女は眼鏡を持ち上げる。
『ならばこれは小勢の奇襲。狼狽えてはなりません。蒼玉衛士団は健在です。不埒な客に、お帰りを願いなさい……!』
『……はい!』
 長に一喝され、侍女たちは肘に銃を構えて陣を組む。
(「即座に状況を見極めて動揺を鎮めた。敵ながら見事な統率だね……でも」)
 乾いた音と共に引かれる火線の中を、新条・あかり(点灯夫・e04291)が駆け抜ける。その手から、純白の雪を散らしながら。
「僕らは……負けてはあげないよ」
 凄まじい吹雪が舞い上がり、敵の前衛を吹き払う。思わず侍女たちが目を閉じたその頭上を、獣の影が跳躍して。
 慌てて持ち上がった銃を白銀の銃で打ち払うのは、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)。
「オタクらの『忠義』ってヤツに昔、痛い目見た事があってな。今でも時々夢に出てきやがる。Trauma解消の為にも……勝たせてもらうぜ!」
 落ちる引き金。跳ねる弾。弾ける炎。
 鮮血を散らして、番犬たちは紅の嵐に雪崩れ込む。
 紅玉侍女兵本陣・強襲戦は、こうして幕をあけた。


 ぺルラは即座に腰の拳銃を引き抜いて。
『前線は防衛を継続なさい! 飛び込んできた小勢は、私たちで片付けます……!』
 その指揮に応じ、紅の侍女たちは舞うように広がって銃弾を放つ。翻る紅に飛び込むのは、仲間たちの盾となる蒼い焔。
「返してもらいに来たぜ、この土地を。大切なものがここにあるんだ。お前らもなんだろ? だからよ……ぶつかろうぜ」
 広喜は笑って、蒼炎を解き放った。焔に押された侍女の一人が舌を打ち、その膝を狙う。だが渾身の一射は、三叉の槍が弾き返して。
「前線の兵を慌てて戻せば脇を抜けられルと読んだな。流石ダ。しかし有能な指揮官は、裏を返せば弱点になり得ル」
 そのまま身を回転させて広喜と背をつける眸。その手からはいつの間にか槍が消え、侍女の長がハッと頭上へ向き直る。降り注ぐ槍雨に飛び退いた女を追うのは、氷の弾丸。
「ええ! 謀られた第九王子はほんの少しだけ可哀想だけど……アタシ達がこれまで受けてきた仕打ちに比べれば! 悪いけど、ここで終わって貰うわよ!」
 紅い銃弾と螺旋の氷結が衝突する。火花を散らした二射は、リリーとぺルラの肩を掠めて緋を散らす。
 眼鏡の奥で、ぎらりと睨む女の目。すぐさまその前に、数人の侍女が飛び出して。
『狗め! お妃さまには……!』
『……近付かせません!』
 追い討ちを掛けようとしたあかりの道を阻み、侍女は丸盾で小さな肢体と打ち合う。
(「ぺルラも、侍女たちもだ。カーネリアのこと、慕ってるのがわかる……」)
 男尊女卑の世界で、男の所有物となる以外の道を選んだ女たち。その誇りと意地を感じながら、あかりは身をひねって敵の肩へと飛び乗った。
「でも、統率と信頼なら僕たちだって負けない。なにより……約束したんだ。『生き延びて』って……ね」
 その約束を、守るために。
 カプセルが弾丸の如く、侍女のうなじを撃ち抜いた。血を散らしてたたらを踏むその面前で、銀の狼が銃を回す。
「お前らが護りたいのは『主』か。俺が守りたい物は……名前も知らない誰かの笑顔……! ソレが俺の『誇り』だッ!」
 侍女は銃を構える。致命傷ながらもまだ戦意を示す女の弾丸をいなし、ランドルフは銃を螺旋にスピンさせ、その胸を打った。
「眠りな、ガンマン」
 侍女の呼吸が止まり、糸が切れたように崩れ落ちる。
『くっ、前衛が。ならば我が心の忠節を……皆に!』
 後衛の侍女が祈るように手を合わせ、癒しの力が迸る。援護の中、前衛の侍女は火花を散らして前線を疾駆する藍と打ち合った。その後ろで、ことほが服の裾を翻して。
「忠節、貞淑、誇り……否定するわけじゃない。でもそういうの、息が詰まるし友達だってできないよ。自分の幸せは、誰かに預けるものじゃない……きっとね」
 苛烈な戦場に降る、ことほの桜吹雪。キリノが飛ばす剣の軌跡に舞い、撃ち落とそうとする銃弾を柔らかく弾く。そして剣は、侍女の胸へと突き刺さった。
 身を挺する覚悟ながら、敵の力は従者でも闘える程度。個々では番犬たちの敵ではない。
『皆、時を稼ぎなさい』
 その時、戦場の後方から、ぺルラの二丁拳銃が火を噴いた。紅の嵐と化した銃弾が、侍女たちと格闘していた番犬たちを薙ぎ払う。だが。
「ひゅーん……ぴかっ、と」
 くるくると前衛の前に立った勇名の指先から、光の盾が展開する。灼弾を眼前で押し留め、盾越しにじろりと睨みを交わして。
「むい……ぼくは、なんどもだれかに、たすけてもらった。なにもできなかったと、おもった、けど……」
 自分を助けた誰かは、ほんの僅かな差で、自分が助ける誰かだったはず。どの戦場も、それだけ過酷だった。なら、今こそ。
「ぼくが、だれかをたすける、ばん」
「ええ、そうよ」
 勇名の頭上を、さくらが跳ねる。その手に弓を、引き絞って。
「女のつとめ、ね。私もあの人の妻として、負けられない。内助の功って奴のお手本、私が見せてあげるわ!」
 弾雨の中を、閃光の如く矢が翔る。ぺルラの脇を裂かれながら、身を回す勢いで引き金を落として、さくらの前に出た藍を貫いた。
「藍ちゃん!」
 ことほが叫ぶ中、藍の姿が砕け散る。
『……躾のなっていない、雌狗ですこと』
 決然と上目に睨むさくらと、眼鏡を上げて見下げるぺルラ。その視線は、戦火の中で絡み合う……。


 番犬と紅玉侍女兵の闘いは苛烈さを深め、数に勝る侍女兵は番犬たちを圧し包んで攻勢を押し戻さんとする。だが。
『……まだ立ちますか』
 肩を押さえて、筆頭侍女が一歩退く。激しい弾幕を相棒と共に突き破り、詰め寄るのは広喜。
「この程度じゃ……まだ壊れねえよ。俺たちは頑丈だからな」
 すでに関節から火花が散り、にっと笑った片頬には弾が抜けている。
 女は一発だけ残った弾倉を回転させると、己のこめかみに銃口を突き付けた。
『お妃さま。我が忠節、証明いたします……!』
 がちりと一回、引き金を引き、女は退かぬ覚悟を示して立ちはだかる。
「行こウ。相棒」
「ああ、一緒にだな」
 広喜は、腕部を換装しながら突っ込んでいく。一発、二発、三発……女の銃弾が、その身に痕を穿っていくも。
『もう倒れなさい……!』
「ああ。倒れるさ。だが、ここから一緒に帰るのは……俺たちだぜっ」
 倒れるその瞬間までその身を盾とし、腕から稲妻を解き放つ。それが女の拳銃を弾いた瞬間、背後から眸が跳躍して。
『……っ』
 女のもう一方の銃が引き金を落とし、眸の左腕を砕く。だが残された右腕が放った白いモモンガが、弾丸の如く女の胸を打った。
 女はよろめきながらも、最後の弾丸で眸のことを撃ち落とすと、即座に弾込めへ入る。だが。
「見事だ、ペルラ。だがこれでワタシたちを……倒しタと思うか? お前の敵はどこにいル? 見てみルがいい……」
 崩れ落ちた眸にそう言われ、女はハッと顔を上げる。
『……!?』
 見えたのは、周り中から迫る二人の姿。慌てて放った銃弾が、貫いたのは。
『ぺルラ様。何……を』
『え、あ……っ!』
 背を撃ち抜かれた侍女が、崩れ落ちる。
 指揮官の乱心に敵陣が乱れた一瞬を、ことほは見逃さない。
「催眠にかかったわね! 敵が騒然としてる、今だよ! 背中は任せて突っ込んで! とどめを、刺すの!」
 銃弾の中、走り抜ける攻め手二人の傷をことほがエクトプラズムで塞いでいく。
 かろうじて反応した侍女が、その行く手を阻もうと前へ出るが。
「じゃま、したら、だめ」
「ああ。これでも喰らって、緋に爆ぜな」
 勇名の鎖が腕を絡め取り、ランドルフが顎に銃を突きつける。引き金が落ち、その後頭部から鮮血が舞って、侍女は崩れ落ちる。
「冥土の土産だ、メイドさん……ご主人サマの到着までに、拷問台でも綺麗にしときな」
「んう。ぼくが、ささえる。なかよしがたおれたなら、ぼくが、つれてかえる」
 二人は交差して、道を塞ぐ敵へと飛び掛かった。
 リリーとあかりがその間を駆け抜ける。幾度も弾雨に晒された身を支えるのは、ことほとさくらの援護のみ。すでにその身は傷だらけ。
 それでも。
(「綺麗な戦い方だけじゃどうにもならない。だからこそ、ここで終わらせる。狙うは……ただ一つよ!」)
(「動け僕の足、僕の腕。あの指揮官の胸を貫くまで。衣ではなく……紅の血液が彼女を貫くまで……!」)
 ぺルラがハッと振り返る。渾身で跳んだリリー。かつての激戦を生き抜いた仲間たちの影と共に、星の槍が一閃する。
 ぺルラの首から紅が散った。
『お妃……さまッ!』
 それでもなお、崩れかかった膝で床を蹴りつけ、侍女の長は銃を上げる。
「「……さよなら」」
 瞳を閉じて、二人が呟いた一言。
 引き金の落ちる寸前に、あかりの矢がぺルラの胸を貫いていた。
『……申し、訳……』
 そして侍女の長は、崩れ落ちる。炎が、消えるように。
「敵将、ぺルラ! 討ち取ったわよッ!」
 キリノに守られながら、さくらが銀光を放ってそう叫ぶ。その一報は戦場を駆け巡り、前線の侍女兵たちがびくりと後ろを振り返る。
 その瞬間、城門を押し破るように、突入二班が敵陣をぶち抜いた。さくらは夫の姿を認めて。
「……ここは任せる、また後でな」
「家を守るのも、夫の進む道を切り開くのも、妻のつとめよ。いってらっしゃい! 元気なただいま、待ってるわ……!」
 手を打ち合うように夫婦は交差し、侍女たちがその背を追うのを押し留める。
 先行二班の内、一斑は退路の確保のために来た道を戻る……つまり自分たちの役割は、残存の侍女兵が突入班を追撃せぬよう、防ぐこと。
 いくさはまだ、終わらない。


「よーし、ばしばしっとやっつけるぞー!」
 残った先行班で、緑の瞳の少女が叫んでいる。
「ええ。こっちは、かなりきついけど……掃討するわ!」
 息を切らしながら、リリーは敵を蹴りつける。
 眸はその後ろで、亀裂の入った腕を押さえて、壁に背をつけた。
「最後まで闘えなイのは歯がゆいな。……皆を頼む、キリノ」
 頷いて、キリノが次々と剣を飛ばし、息を切らしながらことほの癒しの矢が乱れ飛ぶ。
「敵は統率を失ってるの! 支えるから、もう少しだけ頑張って!」
 もはや攻め手二人は、身を支えるだけで限界。
 殴りかかって来る侍女の拳には、ランドルフが割り込んで。
「この状況で後ろに隠れてるわけにはいかねえ! さあ! やってやれ!」
「ええ……どこにも、いかせないわ」
 さくらの赤い糸が敵の心臓を縫い留める。
『ぺルラさまの……後を……』
 一人、また一人と侍女が沈み、最後に残った数人も先行斑に追い詰められて。
 決着はついた……そう思った時。
 広間の奥から金髪の娘が走り出て、勝利を告げた。
「カーネリアと直属の配下一同の撃破をご報告させて頂くのよ!」
 胸を押さえながら、あかりが片膝を落とす。ほんの僅かな間、彼女は目を閉じて。
(「勝っ、た……あなたたちの愛したお妃さまと……どうか安らかに」)
 だが今度は先行班から、一人のセントールが伝令に走り抜けていく。
「サフィーロ王子が磨羯宮に接近中! 急ぎ防衛の準備をお願いします!」
 番犬たちの間に、激震が走る。
 サフィーロ対応班の手を逃れ、敗残の蒼玉衛士団が帰還しつつあるのだ。
 さくらが、顔を上げる。
「大丈夫……敵だって無事じゃないはずよ! 負傷者を匿って、前に出ましょう」
 番犬たちは入口へ向けて取って返す。
 仲間たちの背を追う勇名が、くるりと振り返って。
「いって、くる。こんどは、ぼくが、ちゃんとまもる……だいじょうぶ」
 広喜は笑顔を返して、手を振った。
「応。たのむぜ。俺たちも少し休んだら、すぐそっちに加わるからよ」

 ……制圧した城塞で、迎撃の陣を組み上げる番犬たち。
 その防衛線を突破できぬまま、蒼き王子が潰えるまで、あと数分。
 紅蒼の軍勢は、大地に突き刺さる無数の剣を墓標に、永遠の眠りについたのだった……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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