第九王子サフィーロ決戦~蒼玉の拳、死翼の刃

作者:天枷由良

 戦乱が新たな戦乱を呼ぶ。
 ホーフンド王子軍の撤退により、ブレイザブリクの防衛網には隙が生じた。
 その絶好機を、死神勢力の“死翼騎士団”が見逃すはずもない。
 死者の泉の奪還という宿願を成すべく、彼らはブレイザブリク制圧を目指して出撃する。
 対して、エインヘリアル第九王子・サフィーロも四方から迫る脅威に抗うべく“蒼玉衛士団”を四隊に分割。自ら一隊を率いて迎撃に出たが――。

「本国からの援軍はまだ来ないのか?」
「はっ……未だ、その様子はありません」
 努めて平静を装うサフィーロの問いに、供回りの一人が答える。
 両軍の衝突から暫くの後。
 増援到来を前提に布陣していたサフィーロ本隊は、死翼騎士団の長“シヴェル・ゲーデン”が指揮する部隊の猛攻を受け、苦戦を強いられていた。
「理解しがたいな……」
 サフィーロは爪を噛む。
 その間にも伝令が戦況悪化の報せを持ち込み、焦れた近侍が口を開く。
「王子、このままでは――」
「慌てるな。まさか本国がブレイザブリクの陥落を許すはずがない。
 近衛も含めて、残る戦力を前線に向かわせるんだ。それで当面は凌げるだろう」
「ですが、それでは王子の守りが」
「援軍が到着すれば、我が身に危機が及ぶ事など万に一つも有り得ん。
 督戦隊も全て動員して兵の士気を保て。必ず戦線を維持するんだ。さあ、行け!」
「……はっ!」
 近侍が頷き、周辺の兵士を取り纏めて本陣から出撃していく。
 それをごく僅かな護衛と共に見送るサフィーロの瞳には、自身の発した言葉と裏腹に、微かな疑念が宿っていた。

●ヘリポートにて
 第八王子強襲戦の成功によって、ホーフンド王子はアスガルドへと撤退した。
 それだけでも充分な戦果であるが――。
「皆の作戦は、当初の目標以上のものをもたらしたわ。逃げ帰った王子が『サフィーロ王子の裏切り』を喧伝したことで、アスガルドは第九王子サフィーロを叛逆者と定め、ブレイザブリク奪還の為の戦支度に入ったようなの」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は語り、称賛の意を込めて一度頷くと、再び言葉を継ぐ。
「本国からの援軍を受け入れる態勢であったサフィーロ王子側は、結果として防衛網に大きな穴を空けただけ。これを好機と、死神勢力の“死翼騎士団”がブレイザブリク攻略の旗を揚げたわ。それは先の戦いで、ケルベロスの撤退を容易にする一因ともなったけれど……」
 死翼騎士団の進撃を見過ごして、ブレイザブリクが死神の手に落ちるのは好ましくない。
「東京焦土地帯のエインヘリアルを共通の敵としているが故に、彼らとは共闘関係も在り得る……という状況ではあるけれど。先々の事を考えれば、サフィーロ王子の討伐とブレイザブリク制圧を、彼らに任せてしまう理由はないでしょう」
 ならば当然、ケルベロスもこの機に乗じて動くべきだ。
 狙いはブレイザブリクの制圧。その最大の障害となるであろう存在は勿論――。
「蒼玉衛士団の長、エインヘリアル第九王子サフィーロね」
 彼を討ち果たせば、蒼玉衛士団に与える影響は計り知れない。
 少なくともサフィーロが直々に指揮していた一隊は混乱の極みに至り、死翼騎士団に悉く撃破されてしまうだろう。

「サフィーロ王子指揮下の部隊は、死翼騎士団の長“シヴェル・ゲーデン”が率いる一軍と衝突。受けに回った作戦もあって少々劣勢に陥り、戦いがある程度進んだところで、前線の崩壊を食い止める為に自身の護衛も含めた予備兵力の大半を差し向けると予知されているわ」
 そこでケルベロスは戦場の趨勢を見極めつつ、手薄となったサフィーロ本陣を急襲する。
「仕掛けるタイミングや、実際に戦場で採る作戦の内容は、サフィーロ討伐に携わる皆が一番だと思う方法で行ってもらうわ。……ただし、戦場では数百から千を超える軍勢が争っているから、敵軍と正面からまともに戦うという選択だけは有り得ないけれど」
 また、ケルベロス達がサフィーロの撃破に成功すれば、蒼玉衛士団を破った死翼騎士団も勢いに乗ってブレイザブリク制圧を試みるだろう。
「先に言った通り、シヴェル・ゲーデンは騎士団の長だから、話の通じない相手ではないはずだわ。そして死神が現段階でケルベロスとの全面抗争に入るつもりなどないだろう事を考えると、状況を説明さえすれば、シヴェルは一旦、退いてくれると思うのだけれど……」
 それも言葉一つで変わる可能性は否定できない。
 十二分に配慮しながら事情を説明しつつ――あわよくば、騎士団長という身分にあるシヴェルと、何か有益な情報交換が出来ればいいのだが。
「エインヘリアルのゲート攻略までは死神と上手く付き合うべきでしょうけれども。
 それはそれとして、最優先の目標はサフィーロの撃破よ。
 東京焦土地帯の奪還にも繋がるであろうこの作戦、皆の力で必ず成功させましょうね」
 ミィルはケルベロス達に信頼の眼差しを向けながら、説明を締め括った。


参加者
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
輝島・華(夢見花・e11960)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
一之瀬・白(龍醒掌・e31651)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

 ケルベロスたちの見据える先に、蒼が冴える。
 エインヘリアル第九王子サフィーロ率いる蒼玉衛士団の一隊だ。死神シヴェル・ゲーデン麾下の“死翼騎士団”相手に苦戦を強いられている彼らは、予知されていた通り、劣勢を覆すべく蒼の塊を割って前線へと送り始めた。
(「その調子で本陣空っぽにしてくれると助かるんやけど……」)
 如何に戦況芳しくなくとも、王子ただ一人だけが残される事はない。
 田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)は微かな期待を毟って焦土に投げ捨て、再び敵陣の様子をじっと窺う。
 彼方では慌ただしく伝令が行き交い、新たに隊伍を組んだ蒼鎧が出立しようとしていた。
(「事前の取り決めも考慮すれば、そろそろ頃合いでしょうか」)
(「ええ」)
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)の呟きに、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が短く肯定を示す。
 そして他の仲間たちも次々に頷いてみせれば、ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)はおもむろに手元へと目を落とした。
 過ぎていく一秒一秒がとても長く、しかし恐ろしいほどに早く感じられたのは、背負う使命の重み故だろうか。
(「……頑張ろうね、ブルーム」)
 輝島・華(夢見花・e11960)が杖を握り締めて、傍らの相棒へと声掛ける。
 花咲く箒の如き一輪“ブルーム”は僅かに身体を傾け、主の言葉に応じてみせた。


「――時間です」
 最後の派兵から一分後。
 ディミックが開戦を告げると、ケルベロス達は各々得物を手にした。
 一歩踏み込めば戦場。其処で隠密という言葉は意味を成さない。
 即ち、後は猛然と大将首目掛けて襲い掛かるのみ。
 それは駆け出した八人だけではなく、同じ役目を担う他の二班も同じ。
 彼らもまた“それぞれに”敵陣へと向かっていく。
「敵襲――!?」
「死神の伏兵……いや違う! 彼奴ら、ケルベロスかッ!?」
 不意の襲撃に敵方がざわつく。
 だが、それも束の間。
「――狼狽えるな!」
 本陣の中心から芯の通った声が響く。
 言わずもがなを敢えて言えば、それは第九王子サフィーロのものだ。
 彼が蒼玉衛士団を取り纏める長であり、磨羯宮ブレイザブリクの守備という重要な任に就いている事を考えれば、たとえ内心で奇襲に動揺していたとしても、それを表さずに指揮を執るだけの器量は備えていて当然。
 そして一喝を受けた兵士たちも、すぐさま迎撃態勢を整える。王子の側に在る事を許された近衛とは、即ち蒼玉衛士団選り抜きの精鋭だ。彼らはサフィーロの直率であれば、どのような状況下であれ優れた矛にも盾にもなり得るだろう。
(「やはり強敵……正念場ですね」)
 絶奈はより一層気を引き締めてから、口元を大きく歪ませる。
 刹那、彼女の眼前には幾重も魔法陣が開いた。
 其処から覗く巨大な槍の如き輝きは、まず護衛の排除を目指すという作戦方針に則り、サフィーロを守る兵士の一人を大きく死の淵へと近づける。
 そのまま一気に護衛を屠り、王子の首までも――!
 ウィッカが無言のままに殺戮の衝動を放つ。それを浴びたマリアが砲撃形態に変じた巨鎚より竜砲弾を撃ち放てば、霧崎・天音(星の導きを・e18738)は華が戦場に散りばめた煌めきを浴びて集中力を高め、大地を蹴りつけて宙に舞った。
「おのれ、ケルベロスめ……ッ!」
 光槍と砲撃に何とか踏みとどまっていた敵が、兜越しに憎悪をぶちまけてくる。
 それに天音が返すものは、流星の如く墜ちて繰り出す蹴撃。
 金糸の刺繍をあしらった真紅の靴が鎧を砕き、散った破片が焼け焦げた大地を蒼く飾る。
 衛士が倒れて――そして、新たな兵士が王子へと至る道を塞ぐ。
(「……いけませんね、これでは……」)
 ディミックは心中に湧いた不安を奥へと押し込めて、背部に生成した曼荼羅型の後光から光線を撃った。
 続けざま、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)も時空凍結弾を放ち、二射に貫かれた蒼鎧の懐へと踏み込んだ一之瀬・白(龍醒掌・e31651)が、縛霊手を力いっぱい叩きつける。
 強烈な殴打は敵を吹き飛ばすと見せかけて、放射した霊力の網で絡め取り――。
「そうはさせん!」
 銃剣振りかざして来た別の兵士が、すぐさま罠を断った。
 ならばと、追撃に掛かろうとした白だが、肌で感じた危険から本能で後方へと跳ぶ。
 半拍遅れて来たのは、敵陣後衛からの銃撃だ。青い軌跡を描くそれは更に白へと迫り、咄嗟に庇い立てた瑠璃の肩を貫く。
 途端、盾を務める青年が込み上げてくる怒りのままに敵陣奥深くへと目を向ければ、その視界に紛れ込んだ首魁は蒼い闘気を迸らせながら、兵士たちに新たな指示を送っていた。
(「……遠いな」)
 瑠璃は思わず胸中で呟く。
 その感覚は、恐らくこの戦場に立つ全てのケルベロスが感じたに違いない。

 とはいえ、まだ戦いは始まったばかり。
 ケルベロスは王子を討つべく、今一度、各々に戦意を漲らせる。
 反撃に出てきた蒼の波を防ぐのは瑠璃と華、そしてブルームに、絶奈のテレビウムを加えた四枚の盾。
 彼らは蒼鎧の一団の斬撃や銃撃を凌ぎ、仲間達が攻勢に転じる機会を作り出す。
(「一刻も早く、護衛を払い除けないといけませんね……」)
 自身の役目を果たすべく、絶奈が巨鎚を振りかざして蒼鎧の一人に迫った。
 その一撃は進化の可能性を、即ち未来を奪う超重の一撃。勇猛果敢な衛士でも容易く凌げるものではない。
 轟音と衝撃の後、蒼鎧はもんどり打って倒れ、それでも王子の盾として気概だけで立ち上がった刹那、鋼に覆われた天音の拳で死を打ち込まれる。
 そうして一つ一つ、敵を屠った先にサフィーロは居る。
 彼を討ち取り、その首級を土産に死神との交渉へ臨むのだ。
 ウィッカが再び殺戮衝動を奔らせて、奮い立った瑠璃が巨大な霊弾を護衛へと撃ち放てば、一瞬の隙に華のライドキャリバー・ブルームが唸り、炎を纏ってサフィーロへと突撃を掛ける。
 その果敢な挑戦は別の護衛に阻まれたが、先述の通り、まず敵の盾役を排除するのがケルベロスたちの作戦。結果として護衛の兵士に傷を負わせられたのなら意味はあるはず。
 マリアの飛び蹴りも、白が繰り出す鋭い回し蹴りも、常にサフィーロを狙う機会は窺ってはいるが、全体で定めた方針から逸れる事はない。
 全ては王子を討ち果たす為。
 ケルベロスたちは使命を成すべく愚直に、一心不乱に護衛の排除へと勤しむ。

 そして、その機会は意外にも早く訪れた。
 絶奈が使い魔を弾丸として撃ち出し、テレビウムが振りかぶった凶器で一撃。
 さらには瑠璃が降魔の力を宿した拳で護衛を叩き伏せれば、王子の周囲には一瞬の空白が生まれる。
(「今だ!」)
(「まずは手堅く――!」
 最前で猛攻する白と、後衛からより正確な攻撃を行うマリア。二人がほぼ同時にサフィーロへと狙い定めて動く。
 一方は拳を叩き込むべく間合いを詰め、一方は砲撃形態の巨鎚、その砲口を向けて引き金に指を掛ける。
 そして――放たれた竜砲弾は、射線を切るように立ちはだかった護衛を吹き飛ばして。
 さらに力強く、体勢低く一歩踏み出したドラゴニアンの拳が、この戦場で最も蒼い蒼へと振り抜かれる。
「――ッ!」
 サフィーロの表情が歪む。
 それを間近で確かめつつ、白は王子の喉元を喰い破る牙の最先として縛霊撃を叩き込む。
 手応えはあった。深い蒼の鎧が大きく後退る。
(「このまま一気に――!」)
 仲間たち全てが灯したであろう炎を、白も瞳に宿して王子を見やり――。
「……!」
 対するサフィーロは、ケルベロスでなく彼方のブレイザブリクへと目を向けた。
「……まさか……!?」
 ぽつぽつと溢れた言葉が、蒼い闘気をさらに色濃く変えていく。
 それは抵抗の意志であると同時に、彼の中で燻っていた疑問が一つの答えを見出した証でもあった。


「――撤退だ! 全軍撤退!!」
 サフィーロの声が戦場に響き渡る。
 しかし発せられた命令は、ケルベロスだけでなく近衛の兵士たちですら予期せぬもの。
 襲撃に渦巻く混沌が、困惑も加えてより深いものへと変わっていく。
 その中心点たる蒼の王子は、ケルベロスたちを牽制しながら尚叫ぶ。
「すぐさま前線にも使いを送れ! 我らは――我らは死神とケルベロスに謀られたのだ!」
 刹那、最も王子に近い兵士をはじめとする幾人かも彼方を見やる。
 察しの良い者は王子の言を受けて気付いたのだろう。迎撃部隊の分断を狙ったような死神たちの四方からの進撃。偶然重なったとは言い難いタイミングでのケルベロスによる本陣奇襲。二者の結びつきを示す完全な証拠はなくとも、両勢力が何を求めて挑んでくるのかは既に明白だ。即ち――。
「ブレイザブリクが別働隊の攻撃を受けているかもしれん! 急ぎ撤退せよ!」
「で、ですが王子! ここで撤退などお命じになられては前線が総崩れとなりますぞ!」
「言われるまでもない!」
 元来は涼し気な表情ばかり浮かべているであろう顔を憤怒と焦燥で歪ませて、サフィーロは意見を具申する近衛に吼えた。
「それでも戻らなければならないのだ! ブレイザブリクの失陥など許されるはずもない! 身を粉にしてもあれを守るのが私とお前たちの――蒼玉衛士団の責務であろう!」
「王子……」
「事態は一刻を争う! アスガルドの興廃すらも我らが双肩に掛かっていると心得よッ!」
 断じるように一際大きく叫ぶと、サフィーロは脇目も振らずに駆け出す。
「……すまないカーネリア! 私が戻るまで、どうか無事で居てくれ……ッ!」

「――待てっ!」
 絞り出されるような声を追って、白が一歩踏み出すが――。
「この先へは行かせん!」
「余力のある者は王子に続け! 此処は手負いの我らが引き受ける!」
 混乱からいち早く抜け出した近衛兵が、凄まじい気迫を滲ませながら行く手を阻む。
 ならばと天音が蹴り掛かれば、マリアや絶奈も突破口を開くべく攻撃を集中させた。
 しかし、一人を倒して穿った穴は二人が埋めに来る。
 如何に浮足立っていても、彼らは組織、訓練された軍隊だ。
 それを打ち破るに、ただ漠然と仕掛けるだけでは足りない。
 そも、雑兵を幾ら狩ったところで無意味に等しい。ケルベロスたちが狙うべきは本陣の壊滅でなく、サフィーロ王子の首ただ一つ。
 だが、この戦場に臨んだ三班二十四人の戦い方は、それを目指したものとは言い難い。
(「……陽動、撹乱、敵戦力の分断、時間差をつけた攻撃……三部隊の存在を有効に活用し、供回りを引き剥がしてから……いえ、最早何を考えたところで……」)
 時は戻らない。取り乱さなかったからこそ、ウィッカは冷静に失敗を悟る。
 そして誰も、こうした状況になることを想定していない。
 現状を好転させることは出来ない。


 サフィーロの撤退は戦場に混迷をもたらした。
 彼に続いてブレイザブリクを目指そうとする者。
 追撃をさせまいと立ちはだかってくる者。
 秩序を失って乱れる蒼の狭間で、ケルベロスたちも徐々に疲弊していく。
 当然だ。仕損じた暗殺者に訪れるものなど危機以外にはない。
 その状況を更に悪化させたのは、最後に前線へと送り出された予備部隊の存在。
 ケルベロスたちの本陣襲撃は、彼らが出撃してから僅か一分後。
 つまり、彼らはまだ一分で戻ってこられる程度の距離に居た訳だ。それでは異変に気づかないはずもなく、少々転進に手間取ったとしても、ほんの数分で帰陣してしまう。
 そして、幾ら敵陣が混乱の最中にあるとはいえ、挟撃されては全滅必至。
 状況を真っ先に理解した一班が予備部隊を抑えるべく戦いを仕掛けて、一先ず難は逃れたが――それも束の間。
 次なる脅威として訪れるのは、敗走同然で退いて来た前線の兵士たち。
 死翼騎士団に追い立てられた彼らの撤退に巻き込まれれば、やはりケルベロス達は壊滅するだろう。そうなっては、シヴェル・ゲーデンとの交渉もままならない。
「それだけは、それだけは何としても、成し遂げないといけませんわ」
 もはや盾としての役目も果たせないほどに傷ついた華が、息も絶え絶えに呟く。
「せめて、死神がブレイザブリクに向かうことだけは、防がなければ……」
「……そうだね」
 死神、という言葉で込み上げた何かを噛み殺して、白は無意識のうちに腰の寒椿へと手を添えながら続ける。
「他の仲間と合流して、一度退こう。……僕達にはもう、それ以外ない」
 絞り出すように言語化された現実を覆す材料は、誰一人として持ち合わせていない。
 無論、この戦場の何処を探しても、そんなものはないだろう。
 在るのは、ただ王子が残した混乱だけだ。

 かくして、八人は同様の結論に至った他班と合流。
 辛くも戦場を脱した後、死翼騎士団の長シヴェルとの交渉に臨むのであった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:失敗…
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