ブレイザブリク攻略戦~紅と蒼のクルーエル

作者:波多蜜花

●己が為、君が為
 東京照度地帯、長きにわたり死神ザルバルクの制圧下にあったこの地に、エインヘリアル第九王子サフィーロが浮上させた磨羯宮ブレイザブリクはあった。
 ホーフンド王子がケルベロスの強襲により軍を退いた知らせが、かの王子へ届く。美しくも力強さを感じさせる剣で飾り立てられた、ブレイザブリクの壮麗にして畏怖を体現するかのような広間でサフィーロはその知らせを聞いていた。
「……あの愚か者めが」
 幾つもの剣が複雑に組み合った玉座に座るサフィーロの表情は、苦々しいものだった。
 それも当然のことで、ブレイザブリクをより強固足る前線基地とするはずが、防衛網の穴と化したのだ。
「……ホーフンドの愚か者めが!」
 一層眉間の皺に深みが増す。が、隣に寄り添うように控えた彼の妃、紅妃カーネリアが心配気に彼を見ていることで幾何かの冷静さを取り戻す。
「とはいえしかし、だ。無能なホーフンドの為に危機に陥ってしまったが、エインヘリアルにとって、ブレイザブリクは最終防衛線。必ず増援が来るだろう」
「はい、殿下」
「ゆえに、私が死神の相手をしている間、お前には本国からの増援を受け入れ、万全の防衛体制を整えてもらいたい」
 夫が戦に出ている間、宮殿を守るは妻の務め。女であることはそこに何一つ関係なく、またカーネリア自身も相当の力を持っている。愛する夫の言葉に、カーネリアが従順に頷いた。
「殿下に変わり、この磨羯宮ブレイザブリクは、わたくし紅妃カーネリアにお任せ下さいまし。殿下の妃として、見事務めを果たしてご覧に入れましょう」
 深紅のドレスの裾を楚々と摘まみ、優雅に一礼して見せる。それに従うように、壁際に並ぶ彼女の直属の側近である紅玉侍女兵や護衛の蒼玉衛士団が目礼する。その中でも、蒼玉衛士団の督戦兵であるバンディットは緩く口元に笑みを浮かべてその様子を見ていた。
 夫の身を心より案じていながらも、侵入者を叩きのめす愉悦を思い浮かべ、にわかにつり上がったカーネリアの口元に垣間見える底無しの高慢を――。
 面倒ごとは嫌いだが、楽しくなりそうだとバンディットが胸の内で零す間にも、妻に後を任せ、自らは出立する為にサフィーロが玉座から立ち上がった。
 カーネリアの手を引き寄せてその身を抱き締める。愛しい御方の胸の中、愛されている喜びにカーネリアはその身を震わせ、サフィーロは己が戦意を昂らせる。
「しばしの別れだ。だが何、すぐに再会が叶うだろう」
「もちろんですわ、殿下」
「今は、サフィーロと呼ぶがよい」
「……はい、サフィーロ様」
 見つめ合い、まるでそこには二人しかいないような錯覚に落ちる静寂の後、サフィーロがカーネリアの唇を奪った。
 名残惜し気にカーネリアを見つめた後、サフィーロがその手を離す。
「いってらっしゃいませ、サフィーロ様」
 カーネリアの言葉に頷き、サフィーロは振り返ることなく広間を後にする――。

●ヘリポートにて
「集まってくれてありがとうな! 第八王子強襲戦は皆も知ってると思うんやけど、この作戦が大成功を収めたんよ」
 皆の頑張りのお陰やな、と信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)が笑みを浮かべる。そして、すぐに表情を切り替えると改めて手にした手帳に目を落とした。
「もちろん、成功を喜ぶ為に皆を呼んだんとは違うよってな、ここからが本題や」
 何より特筆すべきはケルベロス達が立てた作戦により、サフィーロ王子が裏切ったという情報がアスガルドに伝わったということだ。これにより、エインヘリアル軍は『サフィーロ軍を敵として、ブレイザブリクの奪還戦』の準備を始めたのだ。
 更には、この情報は死神にも伝わっているようで、死翼騎士団が総力を挙げてブレイザブリクの攻略の軍を起こしたのだという。
 死翼騎士団が動いたことにより、第八王子強襲戦に参加したケルベロスの撤退も容易なものとなったけれど、ブレイザブリクが死神の手に落ちるのは見過ごすことはできない。
「これはウチらにとっても絶好のチャンスや」
 死翼騎士団を敵とする必要はないけれど、サフィーロ王子の撃破とブレイザブリクの制圧は、ケルベロスである自分達の手で行うべきだと撫子が頷く。
「さて、これらを踏まえた上で今回の作戦なんやけどな」
 サフィーロは『本国からの増援』を前提として全軍を出撃させて迎撃に出た為、ブレイザブリクの防衛は今ならば『紅妃カーネリア』と紅玉侍女団、護衛の蒼玉衛士団のみという状態となる、と撫子が言う。
「つまり、このチャンスを利用してウチらがブレイザブリクを完全に制圧、エインヘリアル勢力を一掃、東京焦土地帯をデウスエクスの手から取り戻す――ってな塩梅や」
 作戦チームは幾つかに分かれており、ブレイザブリクの残霊を突破し、紅玉侍女兵の前線部隊と戦うチームが2チーム。
 前線の2チームが戦っている間に敵陣を強行突破し、紅玉侍女兵の指揮官である筆頭侍女ペルラを討ち取るチームが1チーム。
 筆頭侍女ペルラが撃破された後の混乱に乗じ、紅妃カーネリアの元に突入するチームが2チーム、そして突入するチームの一つは護衛の蒼玉衛士団と戦闘し、もう一つのチームが紅妃カーネリアと側近の侍女を相手にする事となる。
「ウチらが担当するんは紅妃カーネリアの元に突入するチーム、そのうちの蒼玉衛士団と戦闘を担うことになるんよ」
 この蒼玉衛士団の督戦兵は王妃の護衛を任される程の精鋭でもある為、油断はならない。それに加え、この督戦兵の中でも腕利きと言われるバンディットが護衛部隊の指揮を執っていて、強敵と考えていいだろう。
「統率の取れたチームの相手や、厄介なんは間違いないと思うんよ」
 これを撃破するのが当チームの最重要となる役割だが、自分達が蒼玉衛士団と当たる前にブレイザブリクの残霊を突破するチームを支援したり、蒼玉衛士団との戦闘が終了した後にカーネリアとの決戦の場に駆け付けるなどの支援行動を取ることが可能だ。
「同じ戦場におる仲間を支援するんも、作戦成功の秘訣の一つやね」
 勿論、無理をして蒼玉衛士団との戦いが疎かになってしまうのは論外ではあるが、作戦のスムーズな進行を思えば考える余地はあるだろう。
「今回のこのチャンス、逃さんようにせなあかん。けど、敵は少数とはいえ、紅妃カーネリアと紅妃を守る精鋭や。油断は禁物やで!」
 破竹の勢いとも言えるこの流れに乗り、東京焦土地帯を取り戻すならば今しかない。
「皆やからな、頑張ってきてくれるってウチは信じとるよ」
 精一杯のサポートはするからな、と微笑んで撫子はヘリオンへ向かうべくケルベロス達を促した。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
エマ・ブラン(紅鎧のヴァルキュリア・e40314)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)

■リプレイ

●突入
 先の強襲作戦の結果を受け、ケルベロス達は磨羯宮ブレイザブリク内部へと足を踏み入れていた。
「さすがに残霊の数が多いですね」
 先行する二部隊、そして同じ後続部隊の仲間に続き、特殊な気流を纏わせて上手く敵の目を欺きながら進む藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が小さく呟く。
「必要最低限の手伝いしかできないというのは、思ったよりも……です」
 磨羯宮の奥にいるであろう敵と戦う為、できるだけ力を温存しなければならないのは解っている。それも自分達が考えた作戦の内だというのも。けれど、全力で支援することができないというのは些か歯痒いものがあると、ビハインドを連れた天原・俊輝(偽りの銀・e28879)が頷いた。
「全員でぶっ飛ばしちゃえば早いんだろうけど、そういう訳にはいかないからね~」
 えい、と平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が先行する班を後ろから襲おうとしていた残霊に向かい、冷気の嵐を浴びせて笑う。
「できる限りの支援を……致しましょう……」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)の指先が動き、ケルベロスチェインが残霊と前線で戦う者達へ守護の力を与えていく。
 順調に進んでいるかのように見えたが、前方から残霊の何体かがこちらへ向かってくるのを発見し、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が一番手前の一体を撃ち落とすと、素早く身を隠すように隠密気流を纏い仲間の傍へ寄った。
「敵に見つかってしまったようだ、少し下がろう」
「ちょっとばかし見慣れない場所になってきたし、もうすぐ本陣って奴かもしれねえから丁度いいかもな」
 ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が辺りを見回すと、同じく後続部隊である二班も物陰に身を寄せているのが見えた。
 作戦を成功させる為に、慎重な行動を――逸る心はあれど、それが東京焦土地帯を取り戻す一手になるのならばと前に向かって進む。そうして見えたのは、道を切り開く為に駆ける二部隊の行く手を阻むような紅の隊列。せめてもの援護にと、ラルバが霊力を帯びた紙兵を二部隊の前列に向かって放った。
 迎え撃たんとする敵部隊に向かい、一切の躊躇もなく前線部隊が突撃する。それは紅の扉を破らんとする番犬の牙であった。
「道ができたな」
 確かに通ったその道、それを逃すべきではない。ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)の言葉に、支援を行っていた仲間達が再び隠密気流を纏い、前線部隊が作り上げた道を駆け抜ける。そして扉の内側で足を止め、前線部隊の援護をする為に布陣を敷いた。
 奥へ駆け抜けていくのはペルラを倒さんとする部隊、自分達はその先にいる蒼玉衛士団が相手だ。ならば、紅妃を守らんと扉から奥へ向かおうとする、前線部隊の打ち漏らしを倒す援護を!
「ここから先は、行き止まりだよ!」
 敵の紅とは違う、凛とした紅の甲冑を纏ったエマ・ブラン(紅鎧のヴァルキュリア・e40314)が手にした武器を振り上げて、前線部隊への支援とばかりに塗料を敵兵に向かって撒き散らした。

 一方、本陣に向かって息を切らした侍女が駆けていた。
『ぺルラ様、敵襲です!』
『理解しています。来たのは魚ですか?』
『あれは……狗のようですわ』
 ペルラと侍女の会話は、勿論蒼玉衛士団にも聞こえていた。退屈そうな目をしていたバンディットの目が、不意に鋭くなる。
『ならばこれは小勢の奇襲。狼狽えてはなりません。蒼玉衛士団は健在です。不埒な客に、お帰りを願いなさい……!』
 ペルラの号令により、侍女達が隊列を組む。そして、訪れたのはケルベロス達。それを眺め、形ばかりだが剣の柄に手を掛けると、バンディットが紅妃コーネリアを守る為の布陣を組む。
『ここが突破されりゃ、俺達の出番になるからなぁ』
 そうなれば面倒臭くはあるが、いい退屈しのぎになるだろう。ケルベロスを痛め付けるのは存外に面白いものだからな、とバンディットが口元を歪めた。

●矜持
 それは、向かってきた一体の敵をリューディガーが如意棒の一突きで倒した時だった。背後で行われているペルラとの戦いの状況を注視していた俊輝が、声を上げたのだ。
「ペルラが落ちたようです、行きましょう!」
 戦況は上々、皆が作り上げた好機を繋げる為に紅妃コーネリアを担う部隊と共にケルベロス達が広間に向かう。指揮官であったペルラが落ちたとあって、侍女兵達は既に烏合の衆にも近かった。
 それでも、紅妃の元に向かわせまいと襲い来る侍女兵をヴァルカンがその口から吐いた炎で焼き払い、再び前へと向かう。
「ヴァルカンさん、いってらっしゃい!」
 と、ペルラとの闘いを担い、今もなお侍女兵と戦うさくらが奥へ向かう夫へ声を掛けた。
「……ここは任せる、また後でな」
 瞬間、絡みあう視線に全ての想いを託し、ヴァルカンが前を向き走る。無様な姿は見せられんな、と呟けば、隣を走るラルバが負けられねえな、と笑った。
 そうして、侍女兵のラインを突破した二部隊の前に、蒼に守られる紅の妃が姿を現す――!
「バンディット……!」
 宿敵を前に、エマの顔付きが厳しくなる。それに呼応するかのように、必ずや蒼玉衛士団を抑え、共にここまで駆けてきた部隊をカーネリア撃破に専念させてみせるとケルベロス達の士気が上がっていく。
「エマさん、無駄に余裕ぶったあの督戦兵に、今度は目に物見せてあげてくださいな」
 いざ、と踏み込む直前、カーネリアを担う部隊の響がエマに声を掛けた。
「……勿論! 今度は勝つよ!」
 響の一言で、頭に上りかけた血が落ち着いたのだろう。余裕の笑みを浮かべると、互いの勝利を信じてエマがそう返した。
「行きましょうか」
 景臣がするりと抜いた眼鏡をコートの内側へ仕舞うと、彼を先頭にして俊輝とラルバが剣を抜いた督戦兵へ向かう。まずはカーネリアと蒼玉衛士団を分断するとばかりに、景臣が攻撃を仕掛けた。
「お相手……願えますでしょうか」
 言葉は柔らかくとも眼光は鋭く、グラビティチェインを此咲の刃に乗せて紅へ向かう部隊を通す為の一刀を振り下ろす。続く俊輝が阻もうと動いた督戦兵を抑えるように位置取ると、エマに向けて妖精の祝福を授け、俊輝が阻んだ敵を美雨が背後から攻撃の一手を落とした。
 崩した横から紅へ向かう部隊が走る。その邪魔をさせぬよう、ラルバが己のグラビティチェインと雷を織り交ぜた力を両手に宿し振り放つ。
「雷撃纏え、豹の爪! 走って走って引っ掻きまくれ!」
 その爪は数体の督戦兵を捉え、瞬きの間動きを制限する。その数瞬の間は、別部隊がカーネリアの元へ辿り着くには充分だった。
「まずはボク達の第一目標は突破かな~?」
「では、あとは……死線を超えるとしましょうか……」
 見事足止めを行った三人へ和が光り輝く粒子で感覚を研ぎ澄まさせると、刃蓙理が床に描いた魔方陣で守護の力を重ねていく。
「ハッハァ! あんまり調子に乗られちゃ困るんだがなぁ!」
 両の手に持った禍々しい二刀の紅剣を振りかざし、バンディットが妖しく輝くオーラを回復手である刃蓙理へ放つ。それを景臣が両手で握った此咲で受け止めた。
「……っ!」
 重い、受け止めた手がじんと痺れる。外傷こそないが、景臣に掛けられた守護の力がなければ危なかったかもしれない。
 小手調べだとばかりに嗤ったバンディットに続き、部下である督戦兵が動く。星座のオーラが続けざまに放たれ、それを俊輝とラルバが受け止めると、今度はそれよりも更に重い一撃が二人に向かって放たれた。
「覚悟はしていましたが、これは中々……ですね」
「実力は本物ってことか! だけど、まだまだあ!」
 二人が受けた傷の程度を踏まえ、リューディガーとヴァルカンが視線を交わす。恐らく先に攻撃してきた三名がディフェンダーを担い、残りの二名がクラッシャーを担っているのだろう。
 ならば、とリューディガーとヴァルカンが残りの二名、クラッシャーに狙いを付けた。
「貴様等は俺達ケルベロスによって完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめろ!」
 鋭い警告と共に威嚇射撃の発砲音が響き、リューディガーの気迫と威圧感が督戦兵を襲う。それに続き、ヴァルカンが雷の霊力を帯びた刀で渾身の突きを放った。
 エマが黒曜の砲身を構え、バンディットへの牽制と足止めを兼ねて弱体化の効果がある光弾を撃ち込むと、一人の督戦兵がそれを庇う。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるバンディットに、エマの瞳が険しくなる。もしかしたら――エマの脳裏に浮かんだその違和感は幾度か刃を交え、敵のクラッシャーとディフェンダーが一名ずつ倒れたことで確信へと変わっていく。
「やっぱり……敵のディフェンダーはバンディットしか庇ってないよ!」
 皆も薄々感じていたのだろう、ディフェンダーが庇うのは基本的にバンディットばかりなのだ。これならば押し勝てる可能性が高くなるかもしれませんね……と刃蓙理がぼそりと呟いた。

●因縁
 戦う内に分かってきたことは、バンディットの指揮能力は確かに高く督戦兵の動きも敵ながら目を見張るものがあるけれど、攻撃から守られるのはバンディットのみであること。そしてそれは、ケルベロス達が練り上げてきた作戦とは酷く相性が良かった。
「強敵ではありますが、だからこそ崩し甲斐があるというものです」
 そして、強い相手と戦うのは存外――燃える。なんて、怒られるでしょうかと景臣が小さく笑みを浮かべ弱っているディフェンダーを狙い、迸る雷を纏わせた一刀のもとに叩き伏せた。
 残りはバンディットを含む三名、こちらの損害は私達ディフェンダー三名のダメージがやや溜まっている……といったところですか、と即座に判断した俊輝がケルベロスチェインを振るい、自分達に向けて守護の陣を描く。淡い輝きが床から放たれる中、美雨が周囲に飾られた剣を念動力で動かし、敵ディフェンダーの足を止めた。
「チャーンス! 燃えちゃえー!」
 和が己の身に宿した半透明の御業から、業と燃え盛る炎弾を放つ。それは和の狙い通り全ての督戦兵を巻き込んだ。
「必ず……持ち堪えさせてみせます……」
 これまでの督戦兵との交戦の間、誰一人落とさずに耐えているのはディフェンダー三名の立ち回りもあるが、刃蓙理の的確な判断によるところも大きいのだろう。爪先で床をトン、と蹴ると刃蓙理を中心に仲間を癒す花びらのオーラが降り注ぐ。
「おら、グズグズしてんじゃねぇ!」
 容赦のないバンディットの激が飛ぶと、バンディットを中心とした連携により星座の守護を纏った一撃がリューディガーを襲う。
「ぐ……っ」
 武器で受け止め力を削ぐが、その一撃は重い。重ねるようにリューディガーを狙った攻撃をラルバが庇った。
「助かる!」
 ラルバの後ろから、その脇すれすれを通してリューディガーが如意棒での一撃を相対する督戦兵へ放つと、ラルバが至近距離のそれを睨んで笑い、
「ハッ、まだまだこんなもんじゃオレは倒れねえ!」
 と、止めとばかりに音速を超える拳で地面に沈める。残るはバンディットと督戦兵一名、ならば最大火力で敵を穿つのみ。
「煉獄より昇りし龍の牙――その身に受けてみるがいい!」
 内なる地獄を解き放ち、ヴァルカンの身体が巨大な炎の龍へと変わる。その顎は督戦兵を捉えて一切を焼き尽くす。その後方から、エマがグラビティにより生成した眩いばかりに輝く砲身をバンディットに向ける。
「ファイアー!」
 撃ち放たれるPBW――『Powerful Blast Weapon』に気付いた瀕死に近い督戦兵が、バンディットを庇って沈む。使える駒が無くなったと、バンディットが舌打ちをしながらエマを見た。
「お前……あの時の小娘か」
 かつてこの磨羯宮で相まみえたケルベロス、その技には見覚えがあるとバンディットの目が細まる。
「ちゃんと覚えててくれたなんて光栄だね、恰好が違うから気が付かないと思ったよ」
「ハッ、また痛い目に遭いに来たのか?」
「今回は陽動じゃないからね、磨羯宮はケルベロスが貰い受けるよ!」
 エマの啖呵と共に、意思を同じくする仲間達が持てる力の全てをかけて、バンディットに挑む――!

●決着
「――火加減は苦手でして」
 朧げな紅が景臣の瞳を彩り、此咲を手にした景臣が彼の敵を切り裂く。神経を灼き切る苦痛に僅かに苦痛の声を漏らしたバンディットに、全身をオウガメタルで覆った俊輝の拳が放たれる。
「美雨!」
 短い呼び掛けに美雨が応え、バンディットの背後から攻撃をすると同時に和が叫ぶ。
「く・ら・えー! ビリビリつんつんだー!」
 和が槍をくるりと回し、稲妻を帯びたと同時にバンディットを貫いた。
「精霊よ……お願いします……」
 刃蓙理が豊穣なる大地の加護を願う。その願いを叶えるように、景臣を大地の温もりを感じさせる光が包み込み傷を癒す。
「ハ、全く……やってくれたもんだぜ!」
 バンディットの唇が、歪な笑みを刻む。そしてその視線の先、エマの手前にいた俊輝に向け、邪魔だとばかりに禍つに輝く二刀を十字に振り下ろした。
「く……ッ」
 耐え切れず、倒れそうになるのを堪えた俊輝の膝が床に突く。
「貴様!」
 リューディガーがバンディットに向け主砲を一斉に放つと、駆ける勢いに乗せてラルバが星を模るオーラを蹴り放った。
 自分達の攻撃は確実にバンディットを弱らせている、そう確信してヴァルカンが渾身の力を籠めた拳を打ち込み、エマに叫ぶ。
「エマ殿、本懐を果たす時だ!」
「縁の結びは、貴方の手で……!」
 なんとか立ち上がった俊輝が、その道を通す為僅かに動く。
「わかったよ!」
 仲間の想いを受け、エマがバスターライフルを構えた。紅の甲冑を纏ったヴァルキュリアがバンディットの心臓部を狙い、持てる力の全てを籠めた光弾を放つ――!
「ハ、小娘……が……ッ」
 胸に風穴をあけたバンディットがエマに視線を遣る。
「さよなら、バンディット。あの時負けた相手が王子の信任厚い近衛だったのはせめてもの慰めだったよ」
 クク、と嗤ったバンディットの身体が、スローモーションのように冷たい床に転がる。そして、もう二度と立ち上がることはなかった。
「果たせたな」
 ラルバの言葉にエマが頷き仲間達に向けて、ありがとうと微笑んだ。
「さあ! まだ終わってないよ!」
 和が玉座に向かって視線を移す。そこには、紅妃コーネリアを倒すべく戦う別部隊の姿が見えた。
「応援に向かう前に……どうか治療を……」
 重傷者こそ出してはいないが、その手前の傷を負う者や連戦を行うには傷が深い者もいる。
「態勢を整えなければ、足手纏いになるだけだからな」
 刃蓙理の言葉は尤もだと、リューディガーが頷いた。
 磨羯宮の戦いの火はまだ消えていない。再び刃を振るう為に、彼らは癒しの力をその身に受けて再び走り出す。
 その先に、自分達の勝利が必ずあると信じて――。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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