●瑠璃将と勇将
八王子焦土地帯はエインヘリアルと死神の争う戦場と化していた。
ブレイザブリクへの援軍として向かっていた第八王子ホーフンドがケルベロスにより撤退させられ、援軍を前提としていた防衛網に隙が生じた。
そしてその好機を死神勢力――死翼騎士団が見逃すはずもなく、進軍を開始する。エインヘリアルの第九王子サフィーロは本国へと援軍を要請し、四方より迫る死翼騎士団の迎撃へと臨んだ。
しかし、サフィーロは気付いていなかった。サフィーロ王子が叛逆を企てている――ホーフンド王子にケルベロス達が吹き込んだ嘘を本国は信じ、増援どころか討伐の準備を進めている事を。
瑠璃色に輝く鎧を纏う指揮官がハンマーを振るう。瑠璃将ラズリエルという名のエインヘリアルもサフィーロ王子と同様、増援到着まで持ちこたえる事を胸に部下を鼓舞し、死神達へとその暴力を叩きつけていく。
一方の死翼騎士団もエインヘリアルに増援がない事は知らず、増援が来る前にと勇将を先頭に蒼玉騎士団へと圧力をかけていく。
騎士団の対決は乱戦の様相を呈していたが、好機を窺い牙を研いでいた死翼騎士団が優勢だ。
劣勢を覆す為に瑠璃将は勇将へと一騎討ちを挑む。武人たる勇将はそれを拒むことなく、青龍偃月刀とハンマーの撃ち合う音が、焦土地帯に響いた。
「第八王子強襲戦お疲れ様! 結果は上々、第八王子ホーフンドはアスガルドに逃げ帰ったようだよ」
ヘリポートに集まったケルベロス達に、雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が上機嫌に告げる。
「さらには逃げ帰らせるために吹き込んだサフィーロ王子の裏切りって話がアスガルドに伝わって、エインヘリアルはサフィーロを敵としてブレイザブリクを奪還する作戦の準備を始めたみたいだ。向こうにとっちゃ踏んだり蹴ったりだけど、こっちにとっては凄くいい展開だ」
だけどね、と白熊のヘリオライダーは声のトーンを少し落とす。
「そしてそのチャンスを嗅ぎつけたのか、死神の死翼騎士団が総力を挙げてブレイザブリク攻略へと向かっている。それがあったから強襲戦の撤退も楽にできたんだけど……サフィーロ王子の撃破とブレイザブリクの制圧はケルベロスの手で行うべきで、死神にやらせてブレイザブリクが死神の手に落ちるのはよくないと思う。だからもう一頑張りお願いしたいんだ」
頼んでいいかな、と知香がケルベロス達の意志を確認し、そして状況の説明を開始する。
「皆に頼みたいのは『瑠璃将ラズリエル』と『死翼騎士団・勇将』がぶつかっている戦場への介入だ」
四方から迫りくる死翼騎士団に対し、サフィーロ王子はブレイザブリクの防衛を紅妃カーネリアへ託し、ほぼ全軍を四つに割って死翼騎士団への迎撃に向かっているのだと知香は説明する。
其々の将軍は離れた位置で戦っている、これは将軍を討ち取る絶好の機会だ。
「現在の戦況はサフィーロ軍が少し劣勢。その上で指揮官が暗殺されて混乱してしまったのなら、死翼騎士団が一気に押し切るだろう。だから作戦としては数百のエインヘリアルと死神が交戦している戦場で、どちらの兵にも発見されないようにしつつ戦況を窺い、タイミングを見計らって奇襲を仕掛けて瑠璃将ラズリエルを撃破、そして撤退という流れになるはずだ」
知香は一つ一つ確認するように言葉にしていく。
「今回はアタシ達ともう一班の共同作戦になる。だから一班が奇襲を仕掛けてもう片方が混乱させたり囮として攪乱したり、もしくは死翼騎士団の勇将に接触して協力を要請するとか、やりようは色々あるだろう」
どう転ぶにしても瑠璃将を撃破した後は死神への対応が必要だ、そう知香は言う。
「サフィール軍を撃破した死翼騎士団は、放っておくとブレイザブリクの制圧へ向かう。だから戦闘終了後は可能な限り、交渉等で阻止しないとまずいだろう。死神の方もケルベロスとの全面抗争は望んでいないから、基本的にはきちんと状況を説明すれば退いてくれるはずだ」
だけど勇将自身が戦争で横槍を入れてきたケルベロスへ不満を持つ可能性も充分あって、話の進め方次第ではブレイザブリクへ攻め入る危険があるから交渉では気をつけてほしい、そう白熊は付け加え説明を終える。
「ホーフンド王子を撤退させただけではなく、東京焦土地帯を取り戻すチャンスを作る事が出来た。エインヘリアルの王子と配下の将軍を一度に仕留められるこのチャンスは何としても活かしたいところだね。……皆なら大丈夫、頑張りな!」
そう威勢のいい声で知香は締め括った。
参加者 | |
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マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685) |
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883) |
レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
浜本・英世(ドクター風・e34862) |
レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365) |
●徐如林
焦土地帯。
蒼玉衛士団と死翼騎士団が向かい合う中、ケルベロス達は少し離れた位置に身を隠していた。
彼らの身に纏うマントは周囲の焦土に合わせた色。さらに全員が隠れられるように周囲を隠密の気流で覆い、密かに戦場の様子を窺っていた。
竜人の男、レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)はマントに身をくるみ顔だけ出した純白のフェネックギツネ――ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)を肩に乗せ二人で周囲を警戒している。
(「横槍役、か」)
その役割は少々気は進まないもの、けれどもう一つの班の努力に恥じぬ成果を示す為に意識を尖らせる。
「……勇将の姿はないな」
藍瞳を細めマルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)が呟く。
彼女の背負ったバッグには覗き穴、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)のライオンラビットの瞳はその中から後方をしっかりと警戒している。
「指揮の為に下がっているんでしょうか」
フードの下の蒼薔薇の耳飾りを揺らし、レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)が返す。そんな彼女のナップザックの中からひょっこりと首を出し、周囲を警戒する白猫は富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)だ。何故だか死翼騎士団の側を重点的に見ている彼女、けれど異常はないようで至極大人しい様子。
(「富士野さん……猫……可愛い……」)
レミリアの方はと言えば猫好きの性質で気になっているのだけれども。
俄かに死翼騎士団の攻撃が激しくなる。
普段よりバケツ兜の内の炎は控えめなラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)がスコープを覗けば、死翼騎士団の先頭には交渉に向かった仲間達。
「――共闘、でございますか」
ふむ、と鉛色の兜の内の炎を疑問に揺らめかせる彼の言葉は恐らく正しい。
攻勢に押され、後方の瑠璃将護衛が前線へと加勢する。今、ほぼほぼ無人となった瑠璃将の陣。
アイズフォンの連絡はとれず実際の交渉結果は分からない、だが。
「ここが攻め時か」
マルティナの言葉。突破を待つには時間がかかる、ならこのタイミングで攻め込むのが最善だろう。
「ああ、瑠璃将の討伐を狙う……間違いないね。了解だ」
マルティナの言葉に返す浜本・英世(ドクター風・e34862)が返す。この場の将達に対し個人的な因縁はないが、一騎討ちに水を差すのはロマンに欠けるとは思っていた。作戦自体は性に合っていたが、状況が変わったのであればそれに対応するだけだ。
それに、状況を見るに勇将と接触した顔見知りの首尾は万全のよう、ならば無様は見せられまい。
むぃ~とマルティナの背から同意するような兎の鳴き声が聞こえる。
「では、速攻で仕留めましょう」
背中を揺らさぬよう気を払いながらレミリアはすっと立ち上がる。
そして死翼騎士団へと軽く一礼したマルティナが顔を上げると同時、ケルベロス達は気流に隠れながら瑠璃将の元へと走り出した。
●疾如風
瑠璃将の周囲には三人の督戦兵がいた。
回り込み奇襲を仕掛けようと武器を構えたその瞬間、殺気を感じ取ったか瑠璃将が前線からケルベロス達へと向き直り槌を構える。
『伏兵かっ!』
その瑠璃将の声に慌てたように、護衛の兵はケルベロス達へとその剣を構える。
が、遅い。
性に合わない隠密などもはや不要とばかりに、西洋甲冑のレプリカントはその兜の中の炎を大きくして大袈裟な身振りで一本の銀矢を前衛に放ちオウガ粒子を展開すれば、レミリアとレフィナード、そして英世が同時に飛び出す。
レミリアのナップザックから飛び出し、彼女の肩を足場に瑠璃将に向けて跳躍して白亜が変身を解くと、そのまま真上からエクスカリバールを振るう。先端が瑠璃将を庇い割り込んだ護衛の鎧を突き破りその守りを砕けば、連携してレミリアが青白い雷光を纏ったコルセスカその護衛へと突き出し正確に鎧を貫く。
「レフィ、往くぞ」
レフィナードの肩から飛び降り変身を解除したディークスが駆け、ああ、とレフィナードが返す。
一騎討ちに水を差すような形にならなかったのは幸いか。そんな事を思案しながらディークスは晶樹の手鎚を変形させ水晶の砲弾を別の護衛に向け放つ。その着弾と同時、レフィナードが穏やかな風貌に見合わぬ気迫で縛霊手を纏う腕を思い切り叩きつける。その一撃は剣にガードされたが、彼に連携したマルティナと英世の流星の飛び蹴りが護衛を蹴り飛ばす。
しかしそのタイミングで瑠璃将が前に出、槌の頭を赤く輝かせてエネルギーを噴出し加速。その重量を白亜に向け叩きつけんとする。
レフィナードが割り込むも衝撃に呼吸が一瞬止まる感覚。更に続いて前衛の兵がその手の剣で斬りかかり、やや後方の督戦兵がスイッチを押し込み爆破を引き起こす。
だが、マルティナが竜人の居た位置に割り込み両の手のレイピアで剣を受け流し、爆破を身代わりに受ける。巨体から繰り出される一撃は重いが耐えられない程ではない。
「ティナさんレフィナードさん、いま治すよ」
既にバッグから飛び出していた瑪璃瑠が混沌の水を護り手二人に飛ばしその傷を癒やせば、重ねマルティナにラーヴァが光の盾を展開する。
(「出来る限り耐えて見せるとも」)
想定していた耐久戦とは異なる。けれどもこれは千載一遇のチャンス、だからこそ護り手の責任は大きい。
死神に対しては思う所もあるが、けれどもこの一時、力を貸してくれた分を行動で返す為に彼女は耐える決意を固めている。
そして攻撃は続く。
「とりあえず開いてみようか」
元に戻せはしないけれどね、と冷徹な声で呟いた英世の周囲にメスが大量に召喚される。魔術操作で傷ついた兵の傷口を正確に狙い、医療用のそれで開き抉る。守りを突き崩す風穴がこじ開けられ、さらに背後に回り込んだレミリアが螺旋を込めた掌でとん、と触れれば解き放たれたエネルギーは兵士を内側からも破壊。
『怯むな! ここは我等が陣、援軍が来るまで耐え抜くぞ!』
檄を飛ばす瑠璃将に駆り立てられるように護衛兵はケルベロス達へと刃を向ける。
しかしあまりに状況は悪い。
数合切り交わし一人の護衛が雷槍の前に倒れた後、後方の兵がディークスに張り付けた透明な爆弾を起爆、その身に重圧をかける。
だが即座にレフィナードの飛ばしたオーラの塊が着弾、重圧は霧散する。反撃の為、ディークスはその黒き爪に刻まれた紋様へと魔力を通す。練り上げられた魔力が虚無の魔力球を象り、敵対者を喰らい消滅させルよう放たれ後方の護衛の体を削り取った。更に白猫の魂を喰らう降魔の拳がぐらついた兵の顔面を容赦なく殴り飛ばし、その残りの生命力を奪い取る。
しかしそのタイミング、瑠璃将は後方の瑪璃瑠へと蒼の衝撃波を飛ばす。庇いは間に合わず瑪璃瑠へと蒼の衝撃は到達、けれど傷ついた彼女は即座に周囲の剣や岩と精神を同調、まるで夢だったかのように傷を癒やした。
(「少しだけ、他人には思えない名前なんだよ」)
瑪瑙、玻璃、そして瑠璃。自身の名の由来である三つの宝石の一つを背負う将に傷を癒やしながらそんな事を考えているけれど、瑪璃瑠の支援は的確。
序盤より支援を重点的に行っているラーヴァの力もあり、連携万全、負傷を抑えつつ多数の利を活かし護衛兵を掃討する事に成功していた。
状況としては最善に近い。
(「しかし私とは全く関係なさそうだ」)
宝石の名を冠するエインヘリアル、気になる事があったから見に来たラーヴァであったがどうやら彼の抱える因縁とは異なるようだ。
「立場の違いだ。……一手、御教授願おう」
それ以上の言葉は不要とばかりにディークスは水晶の手槌を構え、横薙ぎに手槌を加速させながら振るう。
同じハンマー使いとしての真っ向勝負。だが瑠璃将は真下から突き上げるようにかち上げ直撃を逸らすと、振り上げた動作のまま蒼の衝撃を直に叩きつけんとする。
だが、空より流星の軌道で瑠璃将の頭へとマルティナが飛び蹴りを敢行。瑠璃将はその蹴りを片腕で防ぎ弾くと、即座にハンマーを地面に叩きつけ着地直後の白の軍人へと蒼の衝撃波を放つ。
レイピアを交差させ受けるが刃は軋み、衝撃も殺しきれず弾き飛ばされてしまう。
将の一撃は酷く重い。だが、即座に瑪璃瑠が夢を司るアンクを掲げ、自身と大地、そして受け止めたマルティナを霊的に接続。治癒能力を活性化しその傷を癒やす。
入れ替わり白亜の変形したナイフの刃がラズリエルの鎧を切り裂かんとするが、槌の先端に防がれる。振るう槌から逃れるように軽やかに飛び退く白亜の思考はぶん殴る事に集中。
エインヘリアルだけをぶん殴る。別の敵と交渉している状況も変な気分であるが、自身の役割はぶん殴る事で、それ以外は気にしない事にする。
白亜と入れ替わりにレフィナードの地獄の炎弾がそれに続くが、瑠璃将の裂帛の気合と共に振るった槌の一撃で相殺、しかしそれと同時に英世がライフルより放った凍結光線は正確に命中。
『……援軍が来るまでは倒れぬ!』
声は力強いが、その疲労は見て取れる。
「援軍をお待ちなのですよねえ? それは残念でございましたねえ」
現在このブレイザブリクを取り巻く状況を作り上げた嘘、それを囁いた一人でもあるラーヴァは、如何にも真面目そうな眼前のエインヘリアルの様子を見、愉快そうに炎を揺らめかせながら巨大な機械弓より魔法光線を放つ。
光線は瑠璃将の鎧を穿つ。しかし、
『ラズリエル様! 大丈夫でしょうか!』
前線より後方の不穏を察知し、三人の一般兵が駆けて来る姿があった。
●侵掠如火
「大地よ、地の底より沸き上がりその手を伸ばせ。大地を走る彼のもの脚に」
コルセスカの石突で地に突き立てれば、銃剣を構えて突撃体勢で向かってきていた一般兵の足元が突如隆起、その足を挟み込み圧迫する。足を取られた一般兵に竜人が地獄の炎弾を放つ。回避しようとする一般兵だが叶わない。直撃し生命力を奪われ、それでも強引に拘束を砕きケルベロス達へ向かってくる。
それを援護するように瑠璃将の槌の先端、赤の輝きが増す。それを力強く地に叩きつければ瑠璃将を中心とした円形の衝撃波が発生、同時に隆起する焦土と合わせたタイミングで一般兵が銃剣を構え突撃する。
「レフィナードさんの治療は任せて」
後ろからの声、レフィナードとマルティナと視線を交わし、白亜とディークスを其々が庇う。崩れた足元ながら冷静にマルティナは銃剣を双剣で受け、同時気合と竜人のオーラで傷が癒やされる。同じく衝撃波と銃撃から仲間を庇ったレフィナードの傷はタイミングを完全に見切ったような瑪璃瑠の大自然の護りに治療された。
さらに突撃がもう一人、それをラーヴァは炎の紋様の手甲で防ぐ。衝撃で火花が散り、視界を奪った瞬間にラーヴァは空の霊力を纏う一撃で突撃兵の足の傷を抉る様に切り裂き、
「……お前に、視えるか?」
静かに狐が息を吐く。同時に、恐ろしい速度で踏み込み連打。獣の力と重力に強化された連撃は肉食獣の爪牙の如く引き裂く奪命の業。
終いに力強い狐尾を叩きつければ焦土に突き立つ剣に衝突し、そのまま起き上がる事はなかった。
一方の英世は凶騒秘剣ギルシオンの刃の回転速度を上げ、他の兵へと斬りかかる。禍々しい魔剣のようなそれに斬り抉られた傷は呪縛を増幅するもの。
部下を守るかのように、加速した槌の一撃を以て瑠璃将が飛び込もうとしたが、レフィナードがその出鼻をヌンチャク型の如意棒で受け、勢いを流し強烈な反撃の一撃をぶち当てる。
(「援軍も少ないようね」)
雷光の槍で応戦しながらレミリアが思案するように、前線の状況がよくないからか配下も戻って来られないようだ。
そして程なく援軍も倒れ伏した。それでも傷だらけの瑠璃将の心は折れない。
瑠璃の槌を地面に叩きつけ、円形に広がる衝撃波を放つ。加護を砕く強烈な一撃は、まだこれ程の力が残っていたのかと思わせる程。
しかし、足りない。
「「――リミッター限界突破! 廻れ、廻れ、夢現よ廻れ!」」
完全に揃った二つの叫び。瑪璃瑠が二人に分身――両目が金、あるいは緋色。彼女のオッドアイを二つに分けたような彼女達が光刃を発する得物を其々掲げれば、傷ついた仲間という現実をただの悪夢へ、そして傷ついていない夢が現実へと入れ替える。
「生きるんだよ、生かすんだよ! それがボクたちだ!」
瑠璃将の攻撃は確かに強烈。だが、一人だ。
完璧に噛み合うケルベロス達の連携はその強大な力でも一人たりとも落とせない。
回復と同時飛び込んだディークスの槌が振るわれる。進化の可能性を途絶えさせるような強烈な一撃、瑠璃将の足が一瞬止まってしまう。
その隙を見逃さず、
「我が名は光源。さあ、此方をご覧なさい」
ラーヴァの身の丈を超える程に巨大な機械仕掛けの弓から銀矢が放たれる。それは光の雨となり一点に降り注ぐ。それを瑠璃将は衝撃波で弾き飛ばそうとするが、灼けた金属矢を全て弾き飛ばす事は叶わない。光の矢が装甲を穿てば、矢の炎熱は動きを阻害するように滞留する。
さらに無数のメスが瑠璃将へと殺到。英世の操るそれは鎧の継ぎ目、傷口を正確に抉り開く。一気に増した呪縛に顔を顰める瑠璃将、反撃の為に槌を真上に掲げる。
だが、掲げられた槌に植物の蔓が絡みついた。レミリアが放った拘束の植物、それに止められた瑠璃将の正面に白い影。
「ん、すぐに従うといい」
そっけない言葉と共に重力を無視したような軽やかさで白亜がとん、と飛び上がり優雅に瑠璃将の胸につま先を触れさせると、その仕草とは真逆の強烈な衝撃。瑠璃の槌によるそれと並ぶ程の一撃は敵対者を容赦なく従わせる一撃。
瑠璃の鎧が砕け、蒼の破片が散る。衝撃にどう、と仰向けに倒れた瑠璃将はそれでも立ち上がらんとその槌を杖に体を起こそうとする。
けれど、そこまで。
限界をとうに超えていた瑠璃将の腕から力が抜け、柄を握っていた手は焦土へと落ちた。
●不動如山
白猫の耳を機嫌よく動かす白亜は、散っていくラズリエル配下を見ていた。指揮官を失った蒼玉衛士団の状態は語るまでもないだろう。
念の為撤退ルートを確認していたラーヴァだがその必要もなさそうだ。
それでも焦土に合わせたマントを再度装着したディークスはレフィナード、レミリア、マルティナと共に周囲の警戒を怠らない。だが、残党も死翼騎士団もこれ以上こちらに何かしようという訳ではないようだ。
結果を見れば交渉は成立、話を聞こうとしてくれた事に『ありがとう』を言いたい瑪璃瑠だったが、勇将の姿は見えない。
お疲れさま、と声をかけようか。そんな事を考えながら英世は前線で戦っていたもう一つの班を見遣った。
そしてそう時を置かずして、ブレイザブリク制圧の報がケルベロス達に届いたのであった。
作者:寅杜柳 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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