磨羯宮ブレイザブリクの大広間に聳える玉座に腰を下ろし、第九王子サフィーロは苦悩の表情を浮かべていた。
――何を考えている、ホーフンド。
――この磨羯宮が落ちればどうなるか、分からぬ筈はないだろうに。
防衛網を塞ぐはずだったホーフンドの王子軍が、アスガルドへ逃亡した――。
理解しがたい報せが届いた時の苛立ちを思い出し、サフィーロは忌々しげに舌打ちする。ホーフンドが空けた穴を埋められるのは、磨羯宮を任された自分と、蒼玉衛士団の兵士しかいない状況なのだ。
「……愚か者めが」
軟弱な兄弟への呪いを漏らし、サフィーロは広間の剣を仰ぎ見る。
ブレイザブリクの力によって生まれた幾千幾万を数える剣の中でも、ここに飾ることを許される業物は一握り。それはそのまま磨羯宮の、ひいては戦闘種族エインヘリアルの力と美を象徴するものでもあった。
(「この輝きはエインヘリアルのもの。死神にも、ケルベロスにも、汚させるものか」)
王子としての責を胸に刻み、サフィーロは息を吐いた。
この磨羯宮はエインヘリアル種族の最終防衛線だ。一向に援軍要請に応じない本国には妙な不安を覚えるが、まさか此処を捨てるほど愚かではなかろう。
そうしてサフィーロは思考を切り、玉座の足下へ目を向ける。
供の侍女団を引き連れ、静かに言葉を待つ妻の紅妃カーネリアに。
「カーネリア。私が死神の相手をしている間、お前には本国からの増援を受け入れ、万全の防衛体制を整えてもらいたい」
「はい、殿下。殿下の妃として、見事務めを果たしてご覧に入れましょう」
ドレスの裾を抓んで恭しく返答する紅妃カーネリアに、サフィーロはうむと頷いた。
やがてサフィーロが出陣のために立ち上がると、彼はカーネリアを強く抱き締める。
「しばしの別れだ。だが何、すぐに再会が叶うだろう」
「もちろんですわ、殿下」
「今は、サフィーロと呼ぶがよい」
「……はい、サフィーロ様」
口づけを交わして出陣する王子を見送るのは、紅玉侍女団の兵士たち。
紅の鎧に身を包んだ女たちは一糸乱れぬ動きで頭を垂れ、筆頭侍女の命令と共に持ち場へ向かう。その身に着ける銃と盾は、不埒な侵入者を退けるために存在するものだ。
「殿方ご出陣の折、家を平安に保つのが女のつとめ。まして紅妃の侍女たる者、魚一匹、狗一匹とて、お妃さまに近づかせてはなりません」
紅玉侍女兵たちは洗練された仕草で一礼すると、戦の準備を整え始める。
この神殿に存在を許されぬ曲者を、余さず迎え撃つために――。
「皆さん、お集まりいただき有難うございます」
ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は、事態の報らせを聞いて集まったケルベロスたちに一礼した。
八王子で行われた第八王子強襲戦――その勝利の結果、磨羯宮ブレイザブリクを制圧する好機が生まれたというのだ。
「敗走したホーフンド王子によって、アスガルドには『サフィーロ王子が裏切った』という情報が伝わったようです。現在エインヘリアル勢力はサフィーロを反逆者と見なし、磨羯宮奪還の準備を進めていることが判明しました」
故にサフィーロが援軍要請を送ろうとも、本国がそれに応じることは絶対にない。
そこへエインヘリアルの防衛網に隙を見出した死神勢力が、これを機会にブレイザブリクを奪還しようと、死翼騎士団の総力を挙げて軍を起こしている。
これを迎撃するため、サフィーロは妻の紅妃カーネリアとわずかな配下をブレイザブリクに残し、死神勢力との戦いに赴いている状況だ。
「この好機を利用しない手はありません。そこで今回の依頼では、ブレイザブリクを完全に制圧し、エインヘリアルの勢力を一掃して、東京焦土地帯をデウスエクスの手から取り戻す作戦を実行します」
ブレイザブリクは八王子地下のアスガルドゲートを守る魔導神殿であり、エインヘリアルにとっては正に最終防衛線だ。東京焦土地帯の奪還のみならず、ここを制圧する事の戦略的価値は計り知れないものとなるだろう。
死神を敵とする必要はないが、サフィーロ王子の首級とブレイザブリクの制圧は、どれもケルベロスが勝ち取るべきなのは論を待たない。死神もまた自種族の利益を最優先に行動している以上、いつ掌を返してもおかしくないからだ。
「皆さんにお願いしたいのは、磨羯宮内部を徘徊する残霊を撃破しながら、本陣を防衛する紅玉侍女兵の前線部隊を撃破する事です。これは紅妃カーネリアを強襲する道を切り開くための、非常に重要な戦いとなります」
なお今回の作戦では、5つのチームが同じ戦場で戦う事になるため、チーム本来の目標に加えて他チームを支援するなどの行動が可能だ。カーネリアと戦う仲間の援護や、前線の仲間の支援、あるいは退路の確保など、多数の選択肢が揃っている。
「参考までに、前線部隊を突破したあとの撃破目標をお伝えしますね」
本作戦において、突破後に排除すべき目標は3つ。
磨羯宮の中枢を守る『紅妃カーネリア』と、側近の紅玉侍女兵たち。
督戦兵『バンディット1』を指揮官とする、紅妃を護衛する蒼玉衛士団。
そして本陣から侍女兵を統率する『筆頭侍女ペルラ』。
いずれも数こそ少ないが、強力なエインヘリアルばかりだ。
「今回の作戦では、サフィーロ王子の軍勢は別働隊が強襲する手筈となっていますが、万が一という事もあり得ます。そちらへの警戒も必要かもしれません」
そう言ってムッカは説明を終えると、最後にケルベロスへ一礼した。
「この作戦は東京焦土地帯を取り戻す大きなチャンスです。危険な戦いが予想されますが、どうか皆さんの手で作戦を成功に導いて下さい」
参加者 | |
---|---|
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264) |
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434) |
●一
戦いの熱気が、焦土を覆っていた。
ケルベロスとデウスエクスが三つ巴の争いを繰り広げる東京焦土地帯。そこで戦いの火蓋が切られると同時、40名のケルベロスは磨羯宮の奥へと突入していく。
「皆、注意して。敵が来るよ」
黒革のエアシューズで駆けながら、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が次々に湧き出る残霊を狙い定めた。
軽快に宙を跳び、アイスエイジを発射。それと時を同じくして、後続班の支援攻撃が一斉に残霊の群れめがけて降り注ぐ。
「雑兵に用はないよ。さっさと退いて」
氷に包まれ悶絶する残霊を、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が時空凍結弾で打ち砕いた。その横ではグラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)がプリンセスモードを発動し、仲間を励ましながら駆けていく。
「いくぞー! この場所もびしっと制圧するんだー!」
飛んできた斧を受け止め、返す刃でグラニテが描くは『月白の時』。蛍のように輝く綿雪に包まれ、残霊が瞬時に蒸発する。残る敵群はなおも必死に抵抗を続けるが、先行班の猛攻と後続班の支援の前に、為す術なく消し飛ばされるしかない。
「さーて、思いっきり暴れて頂戴! 回復はきっちり引き受けるわ!」
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は息を合わせて番犬鎖を展開、守護の魔法陣でグラニテら前衛を包み込む。
残霊との戦いは前哨戦。無駄な消耗は避けねばならない。
後続の仲間達もそれを承知するように、手厚い回復グラビティの支援によって、先行班に保護や耐性をもたらしていった。
「もうじき目的地、でしょうか」
通常の磨羯宮とは異なるエリアへ突入しながら、之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)が呟いた。その言葉を示すように、残霊とは明らかに異なる敵の気配が前方の通路から漂って来る。
「ここからが本番だね。行こう皆!」
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は魔法陣を展開し、残霊めがけ発射。後続班から発射されたドローンを浴びて宙を踊る敵を、鮮血色のビームで粉砕する。攻撃を浴びて受けた傷は、しおんがマインドシールドで即座に塞いだ。
「ほらほら、キミ達の相手はこっちだよ」
敵を挑発するようにビームを乱射する恵。
その時、氷結輪の斬撃で残霊を葬った葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)が、新たな敵の姿を捉えた。
「注意して下さい。前方に、敵の前線部隊です」
かごめが指さした先で待ち構えるのは、紅鎧まとう侍女兵の一団だ。
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)はガトリング連射で邪魔な残霊を粉砕し、己の血を滾らせるように戦気を練り上げる。
「さて。それではひと暴れといきましょうか」
後続班の支援のおかげで、護りの力はどれも十分。これなら戦闘に専念できる。
ローゼスは潜伏した後続班に黙礼を送り、ガトリングの砲撃を突撃の号砲と為した。
「伝令と蹂躙を司るセントールの力、存分に振るってみせましょう!」
●二
華やかな神殿の一角を、濁った殺意が包み込んだ。
侍女兵の隊列から放たれる銃撃からエルスを庇い、ローゼスが仲間達を鼓舞する。
「突撃! 突撃! 紅玉侍女兵の前線部隊を蹂躙せよ!」
「異界に渦巻く虚無、千の刃となり、罪深き者を打ち砕け!」
白翼を広げるエルスが生成するは、虚無から召喚した無数の黒針。追尾の力を帯びて射出された針に貫かれていく前衛の侍女兵達を見下ろし、エルスは嫌悪も露わに言い放つ。
「邪魔しないで逝きなさい。お前らの妃も王子も、すぐに同じ場所へ送ってやるから」
『防御態勢を! 奴等を通してはなりません!』
「きらきらの光で、制圧するぞー!」
なおも耐えようとする侍女兵へグラニテが突撃。プリンセスモードの煌きを身にまとい、氷の吐息を吹きかける。
「私も、クルクル回ってキラキラ光るね」
呻き声と共に膝をつく侍女兵の頭上を、ダブルジャンプでプランが舞う。それを見た別の侍女兵がさせじと檄を飛ばそうとして、
『食い止めなさい! 絶対に――っ!?』
その言葉が、ふいに途切れた。
狙いを付けようと仰いだプランの『ある物』が、目に入ってしまったのだ。
『な……っ』
「見たね? 私の下着、『ぱんつはいてない』を」
直後、九尾扇が放つ十八本の光線が眼下の侍女兵達を蹂躙する。
対する侍女兵は忠節の心で踏み止まろうとするが、プランら16名の番犬が繰り出す猛攻はそれを凌ぐ勢いで、隊列を押し込んでいった。
そして――。
「ボク達もどんどん行くよ!」
恵のファミリアに傷口を切り開かれた侍女兵が、銃を構えたまま麻痺で倒れ込むと同時、本陣への道が開かれる。
機を逃さず駆け出すのは、潜伏していた本陣強襲チーム。
間を置かず、カーネリアらを強襲する2つの班も戦場へと現れ、いつでも突入できる態勢を整えながら先行班に回復と攻撃の支援を開始する。
『何をしているの! 止めなさい!』
「あなた達の相手は私です」
かごめは格闘術で組み付こうとする侍女から先行班を庇うと、彼らの背を見送りながら、反撃のスパイラルアームで侍女の心臓を貫いて絶命させた。
「正念場ですね。頑張りましょう!」
「ワッショイ! ワッショイ!」
檄を飛ばすかごめ。そこへ隣班のアイスエルフも大団扇を掲げ、割り込みヴォイスで仲間を鼓舞する。それに背を押されたように、ケルベロス達は隊列を乱した侍女兵達へ次々に襲い掛かった。
「覚悟しなさい! まずは洗濯物が乾かない呪いからよ!」
「エインヘリアルは家族の仇。八王子を返して貰います」
篠葉が発射する虚無球体は、直撃を浴びた侍女兵を消滅させた。
召喚した赤髪の少女と共にしおんが繰り出す『真剣卍払い』は、必死に踏み止まる侍女兵の隊列を容赦なく削り取る。
荒れ狂う先行班の猛攻。それを後押しするは、後続2班の支援。
ケルベロスの連携に隙は無い。息の合った連携で侍女兵の前線部隊に攻撃を浴びせ続け、その数をはじわじわと削り続ける。
程なくして本陣から届いたのは、強襲チームからの報せだった。
「敵将、ぺルラ! 討ち取ったわよッ!」
『そ、そんな……!』
銀光を放って告げるオラトリオの吉報に、敵部隊のあちこちで悲鳴が上がる。
統率者を失った侍女兵の隊列が決壊を始めると同時、カーネリアの居座る広間を目指し、後続の2班が本陣奥の広間へと殺到していった。
「更に前へ、そして前へ!」
ローゼスはそんな彼らを鼓舞しながら、狼狽える侍女兵に剣を突きつけた。
本来の職分を超えて戦う境遇には、哀れみを覚えぬでもない。
だが――ここは戦場なのだ。
「戦場に立てば区別なく戦士。貴様達の寄る辺、尽く踏破させていただこう!」
『Aimatinos thyella』。高速駆動に膂力をのせて叩き込むゾディアックソードの一撃が、侍女兵の心臓を跡形もなく破壊する。
あちこちで戦列を崩壊させながら、なおも散発的な抵抗を繰り返す敵をエルスは翼飛行で見下ろし、戦況をこう結論付けた。
「敵部隊の全滅は、時間の問題ですね」
指揮官を失った侍女兵は、もはや烏合の衆と同じ。後は彼女達をカーネリアと合流させぬよう、1体残らず殲滅するのみだ。
「よーし、ばしばしっとやっつけるぞー!」
外周へ警戒に向かう前衛突破チームを見送って、グラニテが本陣の方へと視線を移すと、そちらでも侍女兵の掃討が始まっている。
紅妃らと戦う仲間の為にも、憂いを残すわけにはいかない。
グラニテと仲間達は慎重かつ迅速に、生き残った前線部隊を撃破していった。
●三
「さてと。こっちは大体片付いたかしら?」
負傷した仲間を回復しながら、篠葉は周囲を見回した。
掃討はほぼ完了し、本陣の敵も残りわずか。間を置かず、侍女兵は一掃されるだろう。
「では今のうちに、退路を確保しましょうか」
「そうですね。万一の事態に備えて損はありません」
マインドシールドで負傷者を癒すしおんに、剣で守護星座を描きながらローゼスが頷く。
恐らく、紅妃や親衛隊との戦いは激戦となっているだろう。事前に退路を確保しておけば援軍要請にも万全の状態で向かえるはずだ――。
と、その時。
「んっ? 誰か来る……?」
仲間の負傷をゴッドグラフィティで癒しながら、辺りをうろちょろしていたグラニテが、退路の奥から駆けて来る影を認めた。
敵ではない。それは、黒馬に変身したウェアライダーの女性だった。
「確か、あのひとってー……」
「間違いありません。警戒班の1人です」
ローゼスは妙な胸騒ぎを覚えながら、駆けつけて来た彼女に尋ねる。
「何かあったのですか?」
「サフィーロ軍が――」
ウェアライダーは、一言一句を噛み締めるように言う。
「サフィーロ軍が、接近中ですの」
衝撃の報せに言葉を失う8人に、彼女は把握した情報を伝えていった。
サフィーロの手勢は僅かで、王子も兵士も恐らくは手負いであること。
このままでは、直に彼らが磨羯宮へと到達してしまうことを。
「……まずいですね。防衛と迎撃の準備を整えなければ」
かごめの呟きは、仲間全員の心を代弁するものだった。
此方の戦力は僅か40名。負傷者も少なくない。サフィーロが磨羯宮に逃げ込めば、制圧どころではなくなってしまう。
「やるなら、磨羯宮に逃げ込む前ですね」
「んっ。みんなには、カーネリアを倒した後に伝えた方がいいなー!」
かごめとグラニテの言葉に全員が頷いた。
この情報が敵側に洩れるのは、絶対に避けねばならない。ローゼスは伝令の内容を余さず頭に叩き込むと、ウェアライダーの女性に向き直る。
「状況は分かりました。他の方々にも、急ぎ伝えましょう」
「お願いしますわ。急ぎ準備を!」
ウェアライダーを見送り、最後の侍女兵を片付け、急ぎ準備を始める8人。それと同時、紅妃と戦っていた仲間が広間の方から駆けて来た。
「カーネリアと直属の配下一同の撃破をご報告させて頂くのよ!!」
制圧は無事に完了した。あとは此処を死守し、王子を討つのみだ。
8人は頷きを交わし合うと、託された伝令を漏らさないよう、エルスとローゼスを筆頭に走り出した。
「伝令です! サフィーロ王子が磨羯宮に接近中との報せあり!」
「サフィーロ王子が磨羯宮に接近中! 急ぎ防衛の準備をお願いします!」
制圧した磨羯宮を守るため。敗軍の将となったサフィーロを討つため。
慌ただしさに包まれながら、ケルベロス達は戦いの支度を整え始めるのだった。
●四
それから程なくして――。
磨羯宮の外周で隊列を組み終えたケルベロスの前に、サフィーロの部隊は現れた。
『……そう、か……』
サフィーロはそう呟いたきり、制圧された磨羯宮を静かに仰ぐ。
迎えが来るはずの場所で迎撃態勢を整えたケルベロスを見て、全てを悟ったのだろう。
王子はしばし沈黙したのち、満身創痍となった兵士達を振り返った。
『我が蒼玉衛士団の兵達よ、よくついて来てくれた』
そうして彼は、磨羯宮の中心部を指さして、厳かに言う。
『ブレイザブリクは目の前だ。今一度、私を玉座へと送り届けて欲しい』
それが、戦いの合図となった。
鬨の声と共に、衛士団の全員が王子の盾となり、一斉にケルベロスの隊列へと迫る。己が仕える主君の望みを、命を賭して叶えるために。
「……来ます!」
そうエルスが告げた刹那、ケルベロスと衛士団が真正面から激突した。
恵は先陣を切って魔法陣を展開、鮮血色の魔力塊を最前列の兵士めがけて発射する。
「――加速魔法陣三重設置。オープンファイア!」
『サフィーロ様……万歳……!』
心臓を穿たれ、絶命する兵士。その屍を踏み越えて前進するサフィーロと兵士へ、一斉に攻撃が降り注ぐ。エルスは兵士のライフル弾で負傷するのも構わず、上空からサフィーロを睥睨しながら告げた。
「此処はもう、貴方達の土地ではない。――覚悟しなさい」
無言を貫く王子めがけて、針嵐殺滅陣の黒針を発射するエルス。
立ち塞がる全ての敵を貫く針の嵐を浴びて、供回りの兵士が1体また1体と斃れていく。
「この地を踏みにじり、人々の命を奪った罪、その命で償ってもらいます」
エルスと息を合わせたしおんが、真剣卍払いの構えを取って跳躍。赤髪の少女と共に描く卍形の斬撃で、王子を庇った手勢を斬り伏せる。間を置かず降り注ぐケルベロスの攻撃を浴び続け、わずかに残る兵士達も為す術無く数を減らしていった。
「残念ですが、望みが叶うことはありません。何故なら――」
かごめは篠葉を銃撃から庇うと、最後に残った兵の喉を氷結輪の刃で掻き切り、氷よりも冷たい視線をサフィーロへと向ける。
「あなた達の支配は、ここで終わるからです」
『是非も及ばずか。だが私は、まだ死ねない』
あくまで敗北を拒むように、蒼いオーラを帯びた刃が牙を剥く。
矜持、決意、覚悟――サフィーロが己の全てを込めて放った一撃は、しかし標的となったプランの命を奪う事は出来なかった。
「わたし達だって、負けられないんだー……!」
驚愕するサフィーロを真っすぐに見つめるのは、盾となったグラニテ。
王子の刃を懸命に受け止める彼女に、篠葉は神籬を振って御霊を呼び出すと、共鳴の力と共に傷を塞いでいく。
「もう少しの辛抱よ。ちょっぴり背筋がひんやりするかもだけど、我慢してね!」
「んっ、ありがとー!」
感謝の頷きを返したグラニテは、月白絵具で純白の輝きを描き出した。
かつて過ごした極寒の地を再現した綿雪の光が、サフィーロを照らす。
瞬く間に氷に覆われていく王子を狙い定め、プランが黒革のブーツで疾走。加速をつけたダブルジャンプから流星蹴りを叩き込み、足を封じ込めた。
「皆、後はお願い。サフィーロを!」
その一言が、合図。
ローゼスはゾディアックソードを構えると、警戒班の先導を務めるように高速駆動で駆けながら、練り上げた膂力を込めた一閃でサフィーロを捉える。
「誇りと栄誉を賭して、その首頂戴する!」
砕ける蒼鎧。解かれる守り。
間を置かず、ケルベロスの攻撃が余すことなくサフィーロへと集中し、そして――。
「――祟れ、血染めの白雪」
黒翼のオラトリオが呪詛を載せて放った斬撃が、蒼い鎧を刺し貫く。
『すまない、カーネリア……約束を……』
妃への詫びの言葉と共に、サフィーロは光に包まれ消滅する。
後にはただ、傷だらけとなった鎧だけが、佇むように遺されていた。
●五
「……何とか、勝ったわね」
安堵するように、篠葉がふっと息を漏らす。
サフィーロ王子を撃破して、磨羯宮の制圧にも成功した。これからアスガルドゲートへの手がかりを掴めば、エインヘリアルとの決戦も近づくことだろう。
とはいえ――。
「果たしてこの状況を、奴らが座視するか……ですね」
エルスの呟きに、頷きを返す仲間達。
新たな戦いの予感を抱く彼らの傍らで、磨羯宮の剣は冷たい光を静かに湛えていた。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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