ナンパ! しようぜ! されようぜ!

作者:芦原クロ

 ひと気の無い公園内、噴水広場にて。
『俺はナンパが好きだ。自分は見る側だということが絶対条件だ。ナンパをし、され、上手くカップル成立になるか!? という、あのドキドキ感がたまらない。性別も年齢も関係無い。だが嫌がる相手を無理に誘うのは、ナンパとは認めん!』
 羽毛の生えた異形の者が、老若男女10名の信者に向け、力説している。
 ナンパをされてみたかった、またはナンパをしてみたかった、という強い想いが、信者たちから伝わって来る。
『さあ、みんな。幸せなナンパをしようじゃないか! 存分にナンパをしあってくれ!』
 両翼をバサリと広げ、異形の者は期待に満ちた瞳を信者たちに向けた。

「あんたさん達は……ナンパをしたことが有るか? もしくは、されたことは有るか?」
 トンデモナイ予知をしてしまったと、少々苦々しげに尋ねる、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。
「ナンパというのは、意味は多々有るが……今回の場合、相手に好かれるような口説きをすること、のようだ。今回はただ戦えば良いわけじゃなく、ナンパをし合わなければいけない。その光景を見て満足したビルシャナなら、簡単に倒せるぜ。もしも、満足する前に攻撃すると、逃亡する可能性が高いので気を付けてくれ」

 つまり、ナンパをする、される、は不可避ということだ。
 相手は信者でも、仲間内でも、構わない。
 幸いなことに、信者は20代から40代までと老若に差が有るものの、全員顔だちはわりと整っている。

「降下地点は公園の入り口付近だ。このビルシャナが、自分の考えを布教して配下を増やそうとしている所に割り込む形になるな。噴水広場でナンパを繰り広げるわけだ……」
 放っておけば、行方不明者が続出するだろう。
 恋愛ごとが関わって来るので、頭に血がのぼったりし、被害が広がって死傷者が出る可能性も有り得る。
 信者も、このまま放っておくと、配下になってしまう。
 一般人が配下になるのを防ぎ、ビルシャナを確実に撃破する為には……ナンパが必要不可欠ということだ。

「信者以外の一般人は、公園内には居ない。信者の性別は男性5名、女性5名だ。全員ナンパをしたかったり、されたがっている。出来るのなら、顔だちが整っている者に、だな。個性的なナンパ、口説き文句や言動などで攻めたり対応したりすれば、信者も我に返るだろう」
 伝え終えてから、「そういえば」と付け足す。
「ソメイヨシノはもう葉桜に変わったが、この公園にはヤエザクラが咲いている。無事に討伐した後は、息抜きに花見をしてみたらどうだろうか」


参加者
井之原・雄一(快楽喰いの怪物・e05833)
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
佐竹・レイ(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e85969)
 

■リプレイ


「よっしゃぁ、気合いいれていくぜっ」
 いつもと違った服装で、気合い充分の柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)。
 バイカラーのジャケットに白を合わせた、春らしく爽やかなコーディネートは、女子にモテそうな清潔感が有る。
「この日のために勉強してきたよ。ナンパとは、面識ない者に対して、公共の場で会話、遊びに誘う行為……って意味らしいね」
 同じく、いつもより少しだけオシャレをして来た、月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)。
 他のメンバーがナンパ慣れしていそうに感じられ、足を引っ張ることだけは避けたい、と。
 京華は密かに、気合いを入れていた。
(「ビルシャナはなんていうかわりと俗っぽいことで生まれるよね。まぁ、今更だけど」)
 両翼を広げ、ナンパ開始の合図を送っているビルシャナを横目に、井之原・雄一(快楽喰いの怪物・e05833)は思案する。
 秦野・清嗣(白金之翼・e41590)は到着後、翼を使ってふわりと空へ舞い上がる。
(「ん~、天使宜しく空から降って行ったらば効果上がるかね? 何なら男性のうち3人は落とす!!」)
 試せるものは試してみよう、と。
 効果を期待しつつ、目標も忘れない清嗣。
「ナンパしに来たよ~」
 清嗣が翼をはためかせて空から降りて来れば、信者たちは衝撃を受ける。
『私をナンパする為に、空からイケメンが降って来た!?』
『違うわよ! 彼がナンパしてくれるのは、私に決まってるでしょ!?』
 女性信者が清嗣を巡って、争い出す。
「イケメンは正義! 秦野さん、かっこいいわね。……まあまあ、イケメンなんじゃない?」
 信者を相手にする筈だった、佐竹・レイ(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e85969)は、思わず清嗣をナンパしそうになる。
 ツンデレ気質ゆえに、まあまあと、付け加えるレイだった。


「ナンパの標的は男性になりがちなんだけどねぇ」
 早くも、女性信者2人の心を掴んでしまった清嗣。
 対象は異性では無いのだと、やや困ったように指先で頬を掻く。
 その仕草と言動がダブルで衝撃となり、女性信者2人は、もう満足というように去って行った。
(「今日のオレは、かつてねえほどのやる気だぜ!」)
 先手を取られたものの、今から巻き返しを図ろうとする、清春。
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる! いざ出陣ーっ」
 普段はやや適当な頑張りで依頼をこなしている清春だが、今日は違う。
 ものすごいやる気に、満ちている。
『ねぇねぇ、貴方カッコイイね? ちょっと不良っぽい顔も好みなんだけど』
「寂しいオレにも春がきた!」
 女性信者が1人、清春をナンパする。
 清春は思わず拳をグッと握り、ガッツポーズ。
『ひょっとして元ヤンさんとか?』
「んー? オレってそんなに凶悪そうに見えちゃう? スゲー紳士だと思うよ?」
 チャラ男となり、女性の肩に手を置き、微笑みを向ける清春。
『えー? 紳士はこんな風に触ったりしないよー、面白い人ね』
 女性もまんざらでも無さそうで、清春と暫し、ウフフアハハとイチャつきながら、盛り上がっている。
(「それじゃナンパしよっかな。信者の男の人相手に」)
 雄一は20代から30代後半までの男性をターゲットとし、信者に近寄る。
「ねぇ、お兄さん。俺と一緒にイイコトしない?」
 くだけた調子だが、ほんの少し色気を含んでいる。
 ナンパされた男性は驚き、戸惑う。
 男性はどうやら、京華のほうへ行こうとしていたようだ。
「あれ? ひょっとして、ナンパしようとしてた? だとしたらごめんね?」
 でも、と。言葉を続ける、雄一。
「ナンパされるのも悪くないでしょ?」
 信者の目を、上目遣いで覗き込むようにして、僅かに首を傾げる。
「俺、お兄さんのこともっと知りたいな? ダメ?」
 ラブフェロモンを展開し、信者の手をそっと握る、雄一。
 付き合い始めたばかりの恋人、の状態となった信者は、恋愛ごとに慣れていない様子で赤面し、完全に雄一に落とされた。
「かっこいい年上男子がいたら声かけてみるわ」
「男女関係ないみたいだけど、女性から男性に声をかけるのは逆ナンって言うんだってね? ……皆、慣れてるね」
 男性信者たちを見回すレイに対し、京華はメンバーの手慣れた様子に舌を巻く。
「身長は? 年収は? 結婚してる?」
 イケメンの信者を、質問責めにする、レイ。
 唐突な質問責めに信者は少し、逃げ腰だ。
 まさか年収を訊かれるとは思っていなかったようで、やや引き気味である。
(「良いカンジの人だったら、あたしの兄貴認定してあげなくもないんだから」)
 かっこいい男性を兄貴と呼んでは連れ帰ろうとし、いつも失敗しているレイは、信者に更に質問を投げる。
「どんなことが好き? 年下ってあり? ピーマンは食べられる?」
『あの、えっと……』
 困り果てている信者に対し、レイは嘆かわしげに溜め息を吐く。
「会話が弾まないけど、草食系? たよりないわねぇ。顔はいいんだから王子様にならなきゃ損じゃないの」
 レイの言葉にショックを受け、男性は逃げてゆく。
「もうちょっとカッコよかったら、あたしの兄貴にしてあげたんだけどなぁ」
 後ろ姿を見送り、レイは再び溜め息を吐いた。


「誰に声をかけようかな。あの大人しそうな人にしようかな」
 やや迷ってから、よし、と気持ちを引き締める、京華。
「こんにちは! こんなところに集まって何してるの?」
『うわ、可愛い子から声掛けられた。俺らは、遊んでくれる人を捜してるんだ。きみは?』
「私? 私は……最近、仕事ばっかりでさー、誰か遊んでくれないかなーと思って! おにーさん優しそうだから声かけちゃった」
 慣れないナンパに頬を赤く染めつつも、京華は笑顔を見せる。
「もし、暇なら私と遊んでよ。一緒に楽しいことしようよ!」
『いいよー。ていうか、異性に声掛けるの慣れてる感じ? 結構遊んでる系?』
 男性は興味津々に、京華に問う。
「……慣れてそうに見える? こう見えてナンパなんて初めてだから緊張してるんだ……」
『ほんとに? 初めてに見えないのは、きみが明るくて可愛いからかな?』
『待った! つ、角の生えたキミ……笑顔がとても、か、可愛いねっ』
 レイから逃げて来た男性信者が割り込み、慣れていない様子で京華をナンパする。
「え? 私? そ、そんなことは……あの、その……」
 顔が整っている信者を前に、ただでさえ緊張し、相手にされなかったら、と。
 不安も抱えていた京華は、しどろもどろになり、ゆでだこのように耳まで赤面する。
 男性と京華は暫し、もじもじとして言葉を交わせない状況になっていた。
『ピュアだ……そこからどう変わってゆくのか、カップル成立となるのか? ぬう、目が離せん!』
 ビルシャナはただひたすら、ナンパの光景を眺めているだけだ。
(「背の高さは170だからちょっと低いかぁ……でもまぁ大丈夫だろ。響銅と言うモフモフもいるしね」)
 腕にくっつけた響銅に、ゆるく微笑み掛ける、清嗣。
 そして視線を、残りの男性信者たちに向けた。
 いつもより胸元を大きく開き、白色ベースの清潔な服を緩めに着こなし、大人男性の色気を全開にしている。
 ソッチの気が無い男性でも、思わず見惚れてしまう程だ。
(「新しい世界を開くその時が来たのだ!!」)
 イイ男と言うならば頑張るしかない、と。
 男を落とす為に、攻めてゆくつもりの清嗣。
「同性にもモテるんじゃない? いい男だし~」
 男性信者2人は顔を見合わせ、自分たちが清嗣にナンパされていると遅れて気づく。
『イケメンはそっちだと思うよ』
『ああ。俺はノーマルだけど、それでもドキドキするし』
「そうかい? 嬉しいことを言ってくれるね~。おじさんまで……少し、ドキドキしてきたよ」
 不快感を与えないボディタッチをしながら、清嗣は全力で、男性の耳元で甘く、低い囁きを零す。
 その気にさせる為に、彼らの手や足に触れたりし、巧みな話術で趣味を聞きだしては上手く会話を合わせる。
 時折、モフモフした響銅に触れさせることで、甘美な毛ざわりを駆使して、相手をとろけさせるという作戦まで行なう。
 自分の沽券をかけて全力で口説いてはいるものの、清嗣に必死さは無く、いつも通り飄々としている。
(「文学少女系の子には逆の立場から説得するかねぇ」)
 先ほど清春がナンパした相手は、イチャつくだけイチャついた後、正気に戻って逃げて行った。
 残りの、いかにも文系で真面目そうな女性信者2人に、狙いを定める清春。
 ナンパされたいししたいけれど、そこまで踏み込めない。そんな様子の2人だ。
 清春が優しい口調で声を掛けても、乗り気な反応を見せない。
 しかし清春は、そんなことぐらいで諦める男では無かった。
 美女を前にして、諦める気持ちなど、清春の中には微塵も無い。
「知識は大事だろうけどさぁ、経験も大事だよ?」
 女性の頭を優しく、ぽんぽんっと叩いてから撫でて、微笑む。
 もう1人の女性には大胆に接近し、長い髪を指ですくい、リップ音を立てて口付ける。
「想像力は感受性を刺激されて生まれるもんなんだから、ドキドキすることしないとねぇ」
『カッコ良すぎて無理……』
『ドキドキし過ぎて、限界』
 清春の勝利である。
「男への説得が足りないようなら、きゃり子をけしかける気でいたんだがねぇ。秦野はすげえっつーか……井之原もソッチだったのなぁ」
 信者全員が正気を取り戻した結果だが、清春の表情は少しばかり引きつっている。
「ってか、コイツどっかに埋めときゃよくね?」
『ならん! 俺は大いに満足した。さあ、潔くやるがいい!』
 残った敵を見て、戦うのが面倒というように、投げやりな清春。
 だが敵は覚悟を決めているようだ。
「鳥さんもナンパしてみる! だって公共の場で遊びに誘う行為がナンパだもんね! 鉄拳制裁!」
 遊び、と書いて、戦い、と読む京華。
 響銅や、きゃり子の攻撃に合わせ、全力で拳骨を敵に叩き込む。
「なんとなく罪悪感的なものがあるけれど、さっくり倒そうね」
 無抵抗の敵に対し、なるべく痛くしないようにと、雄一は敵の頭部を素早く撃つ。
「あたしは後ろから攻撃しまくるわよ。当たらないように注意しなさい!」
 光の粒子となり、レイは敵に突撃。
「優しく送ってあげるね」
 順番を後回しにして待機していた清嗣が、嘉留太の札を1枚光らせ、敵を光で包み込む。
「仕事としちゃ倒すしかねーけどさぁ。害がねーってのは厄介だねぇ」
 そうぼやきつつ、清春は達人の一撃を叩き込み、敵を完全に消滅させた。


「はじめての戦いだったけど、どうにかなったわね」
 戦闘後、安堵の息を吐く、レイ。
「とりま八重桜の下で元信者の子と楽しくお話しでもすっかねぇ……って、女の子1人も残ってねえし!」
 ふてくされ、清春は横になって寝ようとする。
「終わったし、お花見しようよ!」
「そうだねぇー。月宮ちゃんみたいな可愛い子と、花見しないなんて勿体ないよねぇ」
 京華の誘いに、素早く起き上がって態度をころりと変える、清春。
「彼らと花見の後は、良い所へ~。いいお友達になれると良いな~」
 フルーツを配って労った後、清嗣は元信者の男性2人をお持ち帰り。
「この後大丈夫?」
 ラブフェロモンの効果がまだ続いている為、残っていた男性は雄一の問いに頷く。
「それじゃ、ちょっと出かけようかな。どこかって? それは秘密」
 艶っぽさを残し、雄一は男性と共にオトナの空間へ向かう為、その場を立ち去った。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月19日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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