おにぎり戦車大暴走

作者:星野ユキヒロ


●ほかほかごはんの記憶
 春爛漫。気温もすっかり暖かくなって、おべんと持っておでかけしたい季節である。そんな中群馬県のゴミ捨て場で、古い炊飯器が捨てられていた。
 この炊飯器は近くの食堂でずっと使われていた業務用のものであるが、店を切り盛りしていたおばあちゃんがもう引退、継ぐ者もなくお役御免になり、古い型過ぎて引き取り手もないので廃品として捨てられることになったのだ。
 その眠りを妨げる不届きものは、小型ダモクレス。かさかさとした虫のような動きで這い夜と、内部機械に入り込み、中枢部分に取りついた。
『おにぎりーーーーーーーー!!!!!』
 ダモクレスと化した炊飯器は巨大化すると、キャタピラと砲身を生やし、小さな戦車のような姿になってそのままキャタキャタと動き出した!

●炊飯器ダモクレス討伐作戦
 群馬県のゴミ捨て場で炊飯器の事件が起こることを影守・吾連(影護・e38006)は懸念していたという。
「吾連サン、見事に的中ネ。皆サンには炊飯器のダモクレスを倒しに行ってもらうヨ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「このゴミ捨て場はかなり山に近くて、ごみ収集の人か山の持ち主くらいしか立ち寄らないようなところヨ。だからまだ被害者は出てないアルけど、このまま放っておくと人の多いところまで出てきて傷つく人が出てきてしまうネ。そうなる前に撃破してほしいところヨ」

●炊飯器ダモクレスのはなし
「この炊飯器ダモクレスは、キャタピラと巨大なガトリングガンがついていて、砲身と言っていいほど太い銃身から次々とおにぎりの弾丸を撃ち出すおにぎり戦車とでもいうべき代物ヨ。ほかほかのおにぎりもぎゅっと握られてカチカチの状態で高速射出されるのでは殺傷能力も馬鹿にならないネ。油断は禁物アル」
 クロードは手持ちのモバイルで周辺の航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と避難をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「炊飯器が使われていた食堂ではおばあちゃんが握ってくれたおにぎり弁当が人気で、それを持って山仕事に行く人も多かったようヨ。みんなに愛されたお弁当の思い出を汚さないためにも頑張ってきてほしいアル」


参加者
鉄・千(空明・e03694)
御影・有理(灯影・e14635)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
鉄・冬真(雪狼・e23499)
影守・吾連(影護・e38006)
 

■リプレイ

●桜の山
 ヘリオンから降り立ったケルベロス達はまだ桜の残る山沿いの道を歩いていた。
「おにぎり……それは日本人のソウルフード。皆のお腹を満たして幸せにしてくれるものだ! 件の炊飯器も、元は皆を笑顔にしてたはず。誰も傷付かないうちに事件を解決しないとね!」
「おにぎり……それは無限の可能性を秘めたおいしい食べ物である。それを弾丸みたいにぽんぽん打ち出すのは、ちょっと面白いけど勿体ない気がするぞ! 全部千とごんたのお腹に収めてやる! ……という意気込みで頑張るぞ!」
 鉄・千(空明・e03694)と影守・吾連(影護・e38006)、通称どらごにあんずの二人はなぜかちょっとカッコつけたポーズをとりながら今日の戦いの意気込みを表明している。にゃんこーでとわんこーでで相変わらず仲良しだ。
「……炊き込みご飯を要求しても出てくるのかしら……食べる時間的猶予とか……興味はあるのよね」
 キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)はおにぎり砲弾の内容に興味津々のようだ。サーヴァントのバーミリオンにお皿を渡し、今回もキャッチを狙っているようだ。
「おにぎりか……どんな具でも、有理が作ってくれるものが一番好きだな。僕が作るよりも一回り小さくて可愛いんだよね」
「おにぎりは食べてもらいたい人のことを思うとより美味しく握れたりするよね……」
 鉄・冬真(雪狼・e23499)と御影・有理(灯影・e14635)の夫婦は、サーヴァントのリムを間に挟んでおにぎりの形をした愛について語り合っている。
 花びらの落ちる道をわいわいと歩いていくと、やがて現場にたどり着いた。

●おにぎり戦車登場
『おにぎりーーーーーーーー!!!!!』
 おにぎり戦車は事前に聞いていたとおりキャタピラと砲身を生やした炊飯器だった。
「おにぎり捕獲してみるのだ! おいしいおにぎりは食べてこそおいしいのだ! むん!」
 千は羽根をひろげると、電光石火の蹴りを繰り出す!
「おにぎり捕獲……捕獲? やる気みたいだから手伝ってみようかな。ものすごく固そうだから食べるのは危険だと思うけれど、中身は気になるね」
 千の思い付きに乗っかってみる冬真が螺旋を込めた手で炊飯器部分に触れると、外装に衝撃が走った。
『シャケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』
 おにぎり戦車は一声叫ぶと、手を触れていた冬真に向かっておにぎりの弾を連続発射するが、すんでのところで飛び退った冬真には当たらなかった。
「ちゃんと準備してきたから、ご飯は戦いの後にね、リム?」
 飛んでいくおにぎりを目で追うリムに一言いうと、有理が地面に守護星座を描く。星座が輝き、前衛に耐性を付与していった。
 おにぎりから目を離して振り向いたリムは箱ごとタックルで攻撃した。
「おにぎりの弾丸、具は何が入ってるのかな? 味も気になるね……よし、確かめてやる!」
 吾連が激しい雷撃を放つ。
「……攻撃された時に、タイミングよくお皿に入ったらいいわね……香りばかり、嗅覚ばかり刺激されると……味覚も予想通りか確かめたくなるのよ……照らして、全てを明るみの中へ」
 そんなことを言いながら、キリクライシャは光の珠に変換した浄化の力を後衛に飛ばして、耐性を付与。お皿をかかげたバーミリオンもがしがしと攻撃して手伝う。
「たしかにご飯が炊けたおいしそうなにおいがするのだ……炊き立てのもあーとした蒸気を嗅ぎたいのだ!」
 千が両手の人差し指を立てて開閉ボタンにちょあちょあと突き立てると炊飯器の蓋がぱかっと開いて蒸気がもあーと溢れたが、吾連の「千! 鼻の穴やけどしちゃうよ!」の声にはわわと顔をひっこめた。
「うちでもたまにそれやってるよね……やりたくなる気持ちはわかるけど気を付けるんだよ」
 千に気を付けながら冬真が稲妻を帯びた超高速の突きを繰り出す。
『辛子明太子ーーーーーーーーーーー!!』
 突きを受けたおにぎり戦車が辛さに燃え上がるおにぎり弾を発射、バーミリオンがすかさず構えたお皿で受けるが、衝撃で吹っ飛ぶ。お皿は黒く煤けていた。
「焼きおにぎりではないんだ……」
 バトルオーラ白月ノ守護に溜めたオーラで有理がバーミリオンの傷を回復する。その間にリムがブレスでBSを嵩増しした。
「さっきから聞いてると中身の具は自己申告制なんだな――目を逸らすな」
 吾連は利き腕に装填した混合魔力を打撃に乗せて一気に敵へと放つ。
「……リオンのお皿にひびが入っている……食べられたものじゃないのね……! もったいない!」
 キリクライシャの赤いリンゴのような竜砲弾が轟音のように放たれる。食べ物への知的欲求からくる彼女の前のめりさが見て取れた。バーミリオンは動画で応援している。
 戦いは始まったばかりだ。

●わんこおにぎり
「しかし、次々と出してくるな。さすが業務用というところかな」
 冬真の飛ばす半透明の御業がおにぎり戦車を炎に巻く。
「これだけたくさん炊けるならそれはおべんとおお売れだったに違いないですのだ!」
 千がルーンを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろした。
『うめぼしーーーーーーーーーーーー!!』
 斧がヒットする瞬間、突然ギャリっとキャタピラを返して避けたおにぎり戦車が、小さめのおにぎりを弾幕の嵐のようにばら撒く! おにぎり弾幕は直近の千たちをすり抜け、後衛に襲い掛かった。
 背後に向かう弾幕を追いかけ、ディフェンダーの三人が走る。冬真が有理を、吾連がキリクライシャを、千はリムを抱え上げ、攻撃の肩代わりをした。
「冬真……! みんな、今傷を癒すから!」
 有理が再び守護星座を描き、三人の傷を治す。 リムはタックルで向かっていった。
「ありがとう有理さん!」
 治療を受けた吾連は前衛に戻りながら、零の境地を乗せた拳をおにぎり戦車に叩き込む。
「……思ったよりすばやいのね」
 キリクライシャが如意棒で砲身をさばいて一撃を加える。バーミリオンも加勢をしたがかわされてしまった。
「むむう、ちょっとおとなしくしてもらわないといけないのだ。またぱっかんしちゃうかもしれないけど、ちょあー!!」
 千が再び指天殺で石化を試みる。
「なるべくボタンは避けて」
 反対側から冬真が螺旋掌でパァンと叩き、逃げる方向を封じる。
『おかかーーーーーーーーーーーー!!』
 その時叫びとともにおにぎり戦車が至近距離で爆炎の魔力を込めたおにぎり弾を連射した!! あまりに近いためディフェンダーの肩代わりが間に合わず、勢いよく弾け飛ぶ冬真!
「冬真ーーーーーーーーー!!」
 後衛から有理が駆けだした。
「冥き処に在して、三相統べる月神の灯よ。深遠に射し、魂を抱き、生命の恵みを与え給え……!」
 有理の口ずさむ詩編に現れた白き光の加護は倒れ伏しそうになる冬真をふわりと抱き留め、その傷を包み込んで癒す。リムも心配そうにしたが、千と冬真の頑張りを無駄にできないと思ったのか、ブレスで戦闘を続行。
「こんなふうに人を傷つけたらだめだ! 炊飯器!」
 吾連が激しい雷を放ち、かつての機械の名前で呼んだ。バリバリと散る火花で、おにぎり戦車もダメージを受けているのがわかる。
「……あと少し……おにぎりには合わないけど、りんごのお替りいかがかしら?」
 キリクライシャのドラゴニックハンマーが唸りをあげ、バーミリオンの応援動画も最高潮だ。
「炊いたご飯は残らず食べて大満足! ごんた! 手を合わせてください。いただきます!」
 千がぱちんと手を合わせると、ふわふわもこもこの眠そうな幻影のワニ『ごんた』が召喚される。ごんたは、外殻を傷ませた炊飯器をまるごとくわえ込むと、はむはむと咀嚼した。
『完食……ありがとう……』
 ごんたが消えるのと一緒に、おにぎり戦車も炊飯器に戻り、そして消えていった。
 戦いは終わった!

●戦いの後のご飯は最高
「炊飯器さん……なむなむなのだ……」
「俺たちだけでもお疲れ様しよう」
 跡形もなく消えてしまった炊飯器を想って、黙祷するどらごにあんず。
「有理、怪我はない?」
「冬真こそ、大丈夫なの?」
「有理のおかげで無事だよ」
 冬真と有理の夫婦も、お互いの体の無事を確かめ合う。二人の無事にリムもうれしそうだ。
「……やっぱり消えてしまった……食べ物の弾丸、どこからきてどこへ行くというの……」
 キリクライシャは炊飯器と一緒に消え去った無数のおにぎりの行方が不思議で仕方がないようだ。
 各自気が済んだところで、現場のヒールや任務完了の連絡などをし、ケルベロス達は今回の仕事を最後まで終えた。
『ぐぎゅる~、ころころころ~』
「そして……来ましたのだ……いつもの……! おなかの虫!! みんな! おにぎり持ってお花見行かないか?」
「千のお腹の虫が訴えてるね……やっぱり動いた後はお腹すくよね。春のピクニックか、いいね」
 千のおなかの虫の鳴き声とお花見の申し出に、冬真が顔を山に向けるとまだ残っている桜。
「お花見いいね、行こう行こう! おにぎりは作ってきた分もあるけど、近くにコンビニがあったら寄りたいな。変わった具に挑戦するの、好きなんだよね! リムも俺たちとおいでおいで!」
「色んなお味のおにぎりわけっこすれば色んなお味が楽しめるのだ! これはお得である! たくさん買っていくぞ、リムいっぱい食べるからな」
「リムも行きたいの? ふふ、いいよ。行っておいで」
「有理、僕らは夫婦水入らずで過ごそうか。キリクライシャ、吾連と千を任せても良いかい?」
「……安心して。二人には勉強中の和食をたっぷり味わわせてあげる」
 各自どう動くか擦り合わせると、ケルベロス達は思い思いのレジャーに出発した。

●おにぎりパーティーと桜デート
「皆の推しおにぎりをチェック! である。皆の推しおにぎり並べると壮観である……わくわくなのだ」
「俺は明太子や鮭みたいな海産物のおにぎりが好き! 珍しいおにぎり見つけるとつい挑戦しちゃうんだけどね。見てこれ、卵かけご飯おにぎりだって! リムはどれが……あはは、全部好きみたい。やっぱり花よりおにぎりになっちゃったなあ」
「……甘く煮付けた鮪や緑色のお漬物……今回は高菜。お花見用に今日は持参ね。……リオンは日本茶を……お茶、煎れられる?」
「千はツナマヨを作ってきたぞ! コンビニでは鶏五目が一押しなのだ! ふお、そ、それは天むす? ごちそうなのだ! む、もちろん桜も見るぞ!」
 どらごにあんずの二人とキリクライシャ、サーヴァントたちは和気あいあいとおにぎりパーティ状態のお花見を楽しんだ。
 そして。
「お弁当用意してきたの。冬真の好物の塩むすびにおかずはだし巻き卵や唐揚げ、あとはほうれん草の胡麻和えだけど、喜んでくれると嬉しいな」
「有理の作ってくれるものはなんでも最高だけど……おにぎりもおかずも、どれも僕の大好きなものだ。全部おいしそうでどれから食べようか悩んでしまうな。有理、食べさせてくれる?」
「もちろん、喜んで」
 冗談半分、希望半分でのおねだりが予想以上に優しく叶い、ややきょとんとした冬真と微笑む有理の頬をひらひらと舞い散る花びらが掠めていく。
 冬真と有理。愛し合う二人はお互いを見ていれば、頭上の花など目には入らないようだった。
 散りかけの花見でも、大事な人とならその思い出もまたとても大事なものとして楽しめる。ケルベロス達の春はもうすぐまぶしい夏へと移り変わって、それでもそれぞれの心に残っていくのだ。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月16日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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