第八王子強襲戦~テンペスト

作者:波多蜜花

●嵐の前
 繊細で緻密な造りでありながら、強固な守りも兼ね備えた絢爛豪華な宮殿――そのバルコニーに立つのはエインヘリアルの第八王子であるホーフンドであった。
 ホーフンドの眼下に広がるのは自身の軍勢に加え、ケルベロス達が聖夜に大阪城で撃破した第四王女レリと三連斬のヘルヴォールの残党。残党と言えど、その数は侮れるような数ではない。地面が見える隙間もないほどにひしめき合う兵士達は、ただホーフンドの声を待っていた。
 ホーフンドの傍には、彼とヘルヴォールの娘であるアンガンチュールとホーフンドの秘書官であるユウフラが立っている。アンガンチュールは戦争が始まることに喜びを隠せないのだろう、至極楽しそうに笑みを浮かべている。それとは対照的なのがユウフラで、心配気な顔でホーフンドを見守るかのように一歩下がった位置に控えていた。
 興奮気味にホーフンドの名を呼ぶ兵士達を落ち着かせるように、ホーフンドが高くその右手を上げた。
 瞬時に姿勢を正し、兵士達が黙る。水を打ったような静けさの中、上げた右手を握り拳に変える。
「僕の大切なヘルヴォールを殺したケルベロスを倒しに行くよ!」
 その声は小さく、微かに震えているようにも思えたが、ホーフンドの檄を待っていた兵士達には充分だったようで、特にヘルヴォール軍の歓声は凄まじい。出陣の士気が充分に高まっているのは間違いないだろう。
 今ここに、エインヘリアル第八王子ホーフンドとその軍勢が、東京焦土地帯への進軍を開始しようとしていた。

●ヘリポートにて
「集まってくれてありがとな、早速で悪いんやけどエインヘリアルの第八王子、ホーフンドの情報が手に入ったんよ」
 信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)がそう切り出す。
「先日のな、死神の死翼騎士団との接触で勇将から得られた『ブレイザブリク周辺のエインヘリアルの迎撃状況』に関する巻物を検証したんやけど、エインヘリアルの陣容に不自然な点が発見されたんや」
 分析によれば、エインヘリアルの迎撃ポイントや迎撃タイミングに明らかに不自然な穴があったのだという。この情報だけであれば、死神がこちらを撹乱する為に渡してきた欺瞞情報だとも思えたのだが、焦土地帯エインヘリアルの動向を探っていた副島・二郎(不屈の破片・e56537)と他のケルベロス達の情報と組み合わせた結果――。
「焦土地帯のエインヘリアルの動きがな、『大軍勢の受け入れの為の配置展開』によるもんやって判明したんよ」
 それに加え、之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)の調査とヘリオライダー達の予知により、東京焦土地帯に現れる大軍勢の指揮官はエインヘリアルの第八王子ホーフンドであることが判明したのだ。
「このホーフンドなんやけど、大阪城のグランドロン城塞でレリ王女と共に撃ち倒した三連斬のヘルヴォールの夫なんよ。それで妻を倒された報復の為に出陣したらしいんや」
 このホーフンド王子の軍勢には大阪城で撃破したレリとヘルヴォールの残党も合流しており、その戦力は計り知れない。この軍勢がブレイザブリクに合流することになってしまえば、攻略するのはかなりの難易度になるだろう。
「それにな、このホーフンド王子を放っておくとヘルヴォールの復讐に東京都民の大虐殺を行いかねへんのよ。せやから何としても合流は阻止せなあかん」
 そこで君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が提案した作戦――合流前のホーフンド王子の軍勢に奇襲を掛ける、強襲作戦を実行することになったのだ。
「作戦としてはブレイザブリクに合流しようとするホーフンド王子の軍勢に対し、ブレイザブリクの警戒網の穴をついての奇襲や」
 この奇襲作戦は今ここに集まってくれたケルベロス達のみの精鋭少数で行う、幾つかのチームに分かれての作戦になると撫子が続ける。
「そしてこの第八王子のホーフンドなんやけどな? 妻であったヘルヴォールの仇討の為に奮起して出陣してきたんやけど……どうにも臆病で慎重な性格らしいんよ。ケルベロスが本陣を強襲すれば、危機感を感じて撤退の判断を下すはずや」
 それほどに憶病……否、慎重だというのに前線に出てきたのも、ひとえに妻への弔いの為なのだろう。
「軍の前衛はレリやヘルヴォールの残党軍やよって、士気はめちゃくちゃ高いんやけどホーフンド王子の本隊との連携に隙がある。せやから、各個撃破も難しいことやあらへん」
 前衛の右翼はレリ配下だった部隊、左翼はヘルヴォール配下だった部隊となる。問題点を上げるとすれば、この前衛部隊を壊滅させると、救援のためにホーフンド本隊の部隊が駆け付けるであろうという点だ。この部隊を迎撃、ホーフンド王子の本隊に合流できないように足止めするのも作戦に必要な行動となる。
「で、救援の為に手薄になったホーフンド王子の本隊にな、派手に襲撃を掛けるんよ。要はホーフンド王子をビビらせたろってことやな」
 慌てたホーフンド王子が撤退していけば、今回の強襲作戦は成功と言って差支えないはずだ。
「ホーフンド王子の軍勢は前衛の士気は高いんやけど、他はそうでもないんよ。うまく立ち回れば、皆やったら余裕をもって撤退に追い込む事ができるはずや。そうやな、例えるなら嵐のように戦場を搔き乱せってとこやろか!」
 ホーフンド王子による大量虐殺を防ぐ為にも、絶対に成功させなくてはならない。そう告げると、撫子はケルベロス達を送り出す為にヘリオンの扉に手を掛けたのだった。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)
レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

●春嵐
「あれがヘルヴォール軍の残党だな」
「ざっと見たところ……四百人前後ってとこだねぇ」
 進軍を続ける部隊を窺いながら、ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が小さく呟くと、フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)が相槌を打つように状況を確認する。
「ボクらを入れて七チームだから、一チームあたり五十人ちょっと倒せばってところだね。いけるいける、ぎったんぎったんにしてやるんだから!」
「ええ、身内の敵討ちという気持ちは良く分かりますが、無辜の民を巻き込む可能性があるなら見逃しておけません」
 東京都民の大虐殺なんてさせるもんか、と平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が奮起すると、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)も静かに頷く。
「倒せない数ではないでしょう」
「勇者兵を優先的に倒せば、あとは烏合の衆だと思います」
 皆が無事に帰る為、全力で皆を守る盾になろうとレミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)が胸の内で誓い、西水・祥空(クロームロータス・e01423)が敵部隊を壊滅する為の最適解を述べた時だった。
「覚悟決めて、いきましょうか」
 少し離れた場所で同じようにヘルヴォールの残党を確認していた黒住・舞彩(鶏竜拳士ドラゴニャン・e04871)がそう声を上げた。頷く者、小さく声を上げるもの、手を上げて同意する者、ケルベロス達の動きは様々であったが、その意思は一つ。
 他班が先陣を切って走り出す中、立ち上がり、眺める景色はいつも見ていたものとは違って、七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)が小さく息を飲む。けれど竦んでいる時間はない、作戦は始まろうとしているのだ。仲間達から一歩遅れて足を踏み出したさくらの手を握り、ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)がさくらの頬に瞬きほどの合間、温もりを分け与えた。
「大丈夫だ、俺がついている」
「……はい!」
 後れを取った分だけ歩を早め、揃った八人で顔を見合わせる。
「私達も行きましょう」
 落ち着いたレミリアの声に皆が頷くと、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が放った派手な火球を合図に、次々にケルベロス達が戦いの狼煙を上げる。
 そして、彼らも過たずその身を戦場へと投じていく――!

●撹乱
 ケルベロスの奇襲だ! と叫ぶシャイターンの兵がその隊列を崩すのを見逃さず、目指すは連斬部隊、エインヘリアルの勇者兵だと巨躯の戦士を目指してひたすらに駆ける。
「数では我らの方が上だ! 恐れるな!」
 勇者兵の兵士を鼓舞する声に、シャイターンの兵士が纏まって襲い掛からんとケルベロス達の前を塞いだ。
「さすがに数を減らさないと辿り付けなさそうだねぇ」
「仕方ないですね、露払いと参りましょうか」
 フィーの言葉に行く手を遮る十数名のシャイターンを見るが、脅威ではないと祥空が頷く。先頭を走っていた沙耶が足を止め、ならばと手にした木槌、The Mallets of Sluggerを構えると向かってきたシャイターンを迷うことなくその一撃で仕留める。
「覚悟のある方から、どうぞ」
「こっちはとっくに覚悟の上ってやつだからねー! メタルちゃん、みんなを助けて!」
 和が無邪気な子どものように笑って言うと、祈りを籠めて光輝く粒子を沙耶とさくらに向けて放つ。
「そちらも覚悟は出来てるだろうけどねぇ。悪いけど、挫かせてもらうよ」
 仲間の力となるようにとフィーが糸紡ぎの糸によって守護の魔方陣を描き、レミリアと祥空への加護を願う。守護の力を身に纏い、レミリアが白刃のコルセスカに青白い雷光を纏わせて敵を貫くと、止めを刺すように祥空が対なる日本刀、十三仏光背と十王浄玻璃を振るった。
「さぁ、蹴散らしてやりましょう!」
 シャイターン兵士に時間を取られるわけにはいかないと、さくらが高速演算によって弾き出した敵の弱点に向かって容赦のない一撃を放つ。
「これ以上、お前達に何一つ奪わせねぇ!」
 刃を振り上げたシャイターンに向かい、ラルバが超鋼金属製の大槌を砲撃形態に変形させるとその力を解き放ち、敵を穿った。
「その通りだ。その為にも東京焦土地帯に向かわせるわけにはいかないのでな」
 ぐん、と伸ばした如意棒を構え、ヴァルカンがさくらに向かおうとしたシャイターン兵士を貫くと、ぶんと回して兵士の身体を敵部隊に投げて如意棒の先を地面に突き下ろす。
 瞬く間に幾人かの兵士を倒され、シャイターン兵に軽い動揺が走る。けれど、その戸惑いを払拭するかのようにケルベロス達が目指す先にいる勇者兵が叫んだ。
「恐れるな! ヘルヴォール様の無念を晴らすのだ!」
 オオオオオッ!! シャイターン兵が己の士気を高めるように叫ぶと、次々にケルベロス達へとその刃を振るう。けれど、襲い来る白刃も灼熱の炎塊もケルベロス達の連携を崩せるようなものではなく、シャイターン兵が次々に崩れ落ちていく。
「これだけ減ったなら、あとは押し通れちゃうんじゃないかなー?」
「そうですね、体力の消耗が低い今のうちが好機かと存じます」
 周囲の敵の様子や他班の動きを見つつ、祥空が和の案に頷く。目指すは的確な指示を出し、兵に向けて檄を飛ばすエインヘリアル勇者兵だ。
 シャイターンを振り切り、再びケルベロス達が走り出す。途中、数名のシャイターン兵を地に伏せさせ、それでも止まることなく駆ける彼らは正に戦場を駆け抜ける嵐の如く。その嵐は兵達の隊列を立て直そうとする勇者兵の前に立ち塞がる。
「何故我らの進軍が貴様らに……! よい、これをヘルヴォール様の仇討の前哨戦としてくれよう! 我が名はアンナ、いざ参る!」
 騒めくシャイターンを手の一振りで黙らせ、アンナと名乗った巨躯の勇者兵がケルベロス達に対峙し、剣を構える。その姿は、ヘルヴォールを倒したケルベロス達への憤怒に満ちていた。
 シャイターン兵とは違うその気迫に、ケルベロス達は一歩たりとも退かぬという意思の元、手にした武器を構えた。

●殲滅
「名乗る程の名は持ち合わせていませんが――こちらの方が手っ取り早いでしょう?」
 自分よりも遥かに大きい身体に向かい、沙耶が鳥の形を模した木槌を構える。加速したそれは、アンナの身体を捉えてなお減速することなく振り抜かれた。
 シャイターン兵であれば既に倒れているであろうその打撃にも耐えるアンナに向かい、和が大きな瞳をパチリと瞬かせ、
「纏めて薙ぎ払っちゃうぞー! 目から~……っビーム!」
 と、アンナを援護しようと並び立ったシャイターン兵ごと眩い光線を放つ。正確には目から出ているわけではないが、インパクトって大事だよねと和が戦場には不釣り合いなほどの可愛らしい笑みを零す。
「負傷者はなし、あっても掠り傷だね」
 仲間の状態、そして自班の状況と敵の動向も視野に入れ、フィーが次に自分が取るべき行動を即座に判断すると、沙耶とさくらに向かって糸で描いた守護を付与する。
「調子に乗るな、ケルベロス共!」
 ルーン文字が刻まれた、その身に相応しい大きさの斧をアンナが構え、沙耶に向かって振り下ろす。
「させません」
 巨躯から放たれたその一撃を手にしたコルセスカでレミリアが防ぐが、斧に乗せた呪力はそのままレミリアにダメージを与えていた。僅かにレミリアの口元が歪んだその時、コルセスカで防いだままの斧に向け祥空が手にした一対の白刃が煌く。
「その手……斧ですか、レミリアさんから退けてもらいましょうか」
 弾くかのように振り抜かれた刃は回避すら許さぬ、空間ごと斬り捨てる妙技。アンナが怯んだ僅かな隙を突いて、レミリアがコルセスカを天に翳す。その白刃に宿るは天の怒り、荒ぶる雷を乗せて放つは『天號雷刃衝(テンゴウライジンショウ)』。
「雷竜の牙――轟け咆哮! 我が敵を貫き滅せよ!」
 逃れ得ぬ雷光が、アンナの巨躯を貫く。
「そこ!」
 その威力に後退ったアンナに向かい、さくらが見抜いた弱点を狙って一撃を放った。
「はは、頭がお留守だぜ!」
「図体がでかいばかりでは、な」
 軽くよろめいたその隙を逃さず、ラルバが星の形をしたオーラを叩き込むと、ヴァルカンが戦場に轟かんばかりの竜の砲撃を打ち込んだ。
 その間にも、アンナの加勢をしようとシャイターン兵がケルベロス達へと弓を向ける。主力であろう沙耶とさくらに向けて放たれた矢を、レミリアがコルセスカを回転させるように弾き、祥空が刃を振るい叩き落す。落としきれない矢は二人の身体を傷付けるけれど、それに怯むような決意でここに立ってはいない。
 矢の雨が止むと同時に、沙耶がアンナに向かって凛とした声を響かせた。
「意志を貫き通す為の力を!!」
 それは占いを得意とする沙耶がその力を持って運命を示す言葉、『運命の導き「太陽」(フェイト・ガイダンス・サン)』だ。強い意志の力を剣の形に変え、沙耶がその柄を握り締めるとアンナに向かって力強く振り下ろす。
「悪い子はこれで、こうだ! 縛っちゃえー!」
 和が両手を上に振りかざして何かを握り潰すような動きをすると、半透明の「御業」がアンナの動きを阻害するように鷲掴んだ。
「ウィッチドクターとしての僕の矜持、見せてあげるよ」
 榛の枝を銀と柘榴石で飾った小ぶりなロッド、cardiumをフィーが掲げ、レミリアと祥空に向かって雷で構築した壁を作り出す。それは傷を癒すと同時に、二人の耐性能力も上げているようだった。
「羽虫の如き分際で……!」
 思うように倒れぬケルベロスに、アンナが高く飛び上がると怒りのままに掲げた斧をフィーへと叩き付ける。
「フィーちゃん!」
「大丈夫、自分の身体のことは僕がよくわかってるからねぇ」
 流れる血は致死量でもなく、戦線を離脱するようなダメージでもない。心配するさくらの声に、ひらりと手を振って心配ないとフィーが笑った。
「不甲斐ない……っ」
 フィーが受けたアンナの凶刃を肩代わりできなかった事へ、レミリアが短く息を吐くように小さく言うと、意識を切り替えるようにパチリと稲妻を帯びたコルセスカを握り締め、超高速の突きをアンナへと繰り出す。
「……集中」
 祥空が金色の瞳をアンナに向け、精神を集中させる。極限まで高められたそれは、気合と共にアンナの身を爆破させた。
「ヴァルカンさん! 一気に行くわよ! 例のアレ……ラブラブアタックで!」
「……流石にそれは勘弁してくれ」
 ふん、と意気込んでみせたさくらに、ヴァルカンが小さく顔を横に振りつつも寄り添うように隣に立つ。さくらが真白の翼を羽ばたかせると、闇を払うかのような雷が辺りを満たす。それはアンナの巨躯を覆い、ヴァルカンが紅蓮に染まる刃を迷うことなく振るう。二人の息の合ったその攻撃は、アンナを満身創痍に陥れるほど。
「息ピッタリ、って奴だな」
「夫婦ですから!」
 ラルバが思わず漏らした言葉に、さくらが得意気に答える。それになるほど、と頷いてラルバが音を鳴らして胸の前で手を合わす。
「負けてられねえな!」
 ラルバの竜の尾が、気合を入れるかのように地を叩く。復讐による大虐殺などさせるわけにはいかない、人々の笑顔を曇らせるわけにはいかないのだ。
 ラルバの周囲に、風が巻き起こる。それはただの風ではなく、風を司る御業。そして自身が降魔で得た力と己のグラビティチェインを練り合わせ、両の掌にその力を集約させる。
「宿れ神風、轟き吹き抜け切り刻め!」
 膨れ上がった力が、アンナ目掛けて放たれる。仲間が付けたアンナの傷をより深く抉るような突風は、まるで風神の力そのものだ。
「ぐ……っ」
 堪らずよろめいたアンナに向かい、ヴァルカンがさくらに向かって叫ぶ。
「これで決める、いくぞさくら! 我等が放つ比翼の乱舞、エインヘリアル共に見せつけてやるとしよう」
「オッケー! 出し惜しみなしで行くわよ!」
 再びさくらの放つ雷が辺りを満たし、アンナの巨躯を包む。先程よりも、鋭く、正確に。どの斬撃も外すことなく、ヴァルカンが紅蓮の刃による刃を振るった。
 シャイターン兵の動きを仲間が牽制する中、さくらとヴァルカンの猛攻は激しくも美しい、まるで舞踏のように続けられる。比翼連理の如く、言葉を交わさなくともお互いの動きを理解し、最適な動きで互いを助け敵を討つ。『桜火繚乱(オウカリョウラン)』咲き乱れ、二人の動きが止まった時には、アンナがその巨躯を地に落としていた。
 アンナ様! と叫ぶシャイターン兵の声が響く。
「おのれ、ケルベロス!」
 斬り掛かるシャイターン兵の攻撃を躱し、ケルベロス達が一気呵成に残りの兵士達を倒していく。他班の状況を確認しつつ、自分達の周囲にいる兵士達を倒す頃には、辺りの敵兵は一人も残っておらず、ケルベロス達だけがその場に立っていた。

●追撃
「一先ずは私達の勝利……と言ったところでしょうか」
「他班の様子を見た限り、戦闘不能者もいないみたいだし上々ってところだねぇ」
 祥空が己のグラビティで作りだした小型の治療無人機を操り、フィーが傷を負った仲間達を治療するのを助けながら言うと、丁度治療を終えたフィーが答えた。
「フィーちゃん! 自分の怪我もちゃんと治したの?」
「あー、今からね、今から」
 さくらの言葉に、フィーが自分を後回しにしていたのがバレたか、と薬瓶を取り出して藍色の液体を撒く。夜空と、浮かぶ星座を思わせるような魔方陣が描かれると、フィーの怪我が癒えていく。
「さて、どちらの班も無事、私達も無事とあるならば」
「他の軍勢に向かってるお仲間の手助け、だ・よ・ねー!」
 ヴァルカンの言葉を継いで、和がゴーゴー! と手を振り上げる。
「そうですね、まだやれる事が私達にあるのでしたら、やるべきです」
「行くとするなら、本隊が一番いいでしょう」
 沙耶の声に、レミリアが静かに頷いて言う。
「よし、それじゃ他班にも連絡だな!」
 ラルバがそう言って声の調子を整えるように、あー、あー、と何度か発声した後に割り込みヴォイスを使って他班へと呼び掛けた。
『こっちは無事だ! 皆も無事みたいだな? 俺達はこれから本隊に向かう、余力がある奴らは一緒に行こうぜ!』
 その呼び掛けに無事を示すように各班から反応が返ってくると、ラルバが安堵したように仲間に向かって笑みを見せた。
「よーし! それじゃ皆でいきましょう! ヴァルカンさん、遅れないでよ?」
 さくらが悪戯っ子のような笑みを浮かべてヴァルカンを見る。
「心配は無用だ、さくらの後ろ姿は見失わんさ」
 軽口を叩き合いながら、ケルベロス達が他班の応援の為に次の戦地へと向かう。
 彼らが、いや彼らだけではなくこの強襲作戦に赴いた者達が戦場に巻き起こした嵐は、彼らが思う以上に大きな戦果を残すだろう。
 けれどまだこの戦場を駆け抜ける彼らには、知る由もなかった。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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