第八王子強襲戦~キックバック・ホーフンド

作者:鹿崎シーカー

 豪奢な宮殿の中庭に集まった軍勢の囁きが、さざ波めいて周囲に満ちる。
 機械の大鎌を抱いた灰銀の髪をした乙女、黒衣と身の丈を超える長剣で武装した少女、白金の甲冑に盾と槍を手にした女騎士たち。水着めいた戦装束と仮面を身に着けた褐色肌の女性兵士軍。白髪と黒い軍服の女性たち、ロケットランチャーを担いだバニーガールたち。
 招集された兵たちは、武器も出で立ちも実際まばらだ。彼女たちをこの場に集めたのは、彼女たちが囁き合いながら見上げる先、宮殿のバルコニーに立つ少年である。
 黒いおかっぱ髪に気の弱そうなハの字眉。胸と肩に金の紋様を刻んだ黒甲冑を身にまとった彼の名はホーフンド。エインヘリアルの第八王子に他ならぬ! 彼の右後方に控えた、分厚い本を抱えた女子学生めいた服装の秘書官がそっと耳打ちをする。
「ホーフンド様、号令を」
「う、うん……」
 秘書官に促され、ホーフンドはおどおどと視線を泳がせる。彼の左後方、黒いドレスと一つ結びにした赤い髪を揺らす少女が、両手に持った剣と鉄槌を上下に振って催促をした。
「お父様ぁ! 早くしてよ! お母様を殺した奴らを叩き潰しに行くんでしょ!? 私もう待ちきれないわ!」
「わ、わかってる……わかってるから……」
 首を縮めて少女をなだめたホーフンドは小さく咳払いをした。改めて宮殿のバルコニーから集まった兵たちを見下ろすと、胸元から喉を通って下顎まで震えがせり上がって来た。ぐっと拳を握ったホーフンドは、なけなしの声を振り絞る。
「わ、我が声に応じた兵士たちよ! これより僕らは、東京焦土地帯に進軍する……! ぼ、僕の姉を、そして妻のヘルヴォールを殺したケルベロスたちを倒すため、その力を存分に奮ってほしい……! いざ、出陣!」
 ホーフンドが拳を突き上げると同時、一部の兵から熱狂的な、他から気の抜けた歓声が上がる。掲げた拳を震わせるホーフンドの後ろ姿を、秘書官は心配そうな面持ちで見守った。

「というわけでですね、第八王子が東京焦土地帯に攻め入ってくるそうで……」
 跳鹿・穫は紙束をめくりながら、解説を始めた。
 先日、死神の死翼騎士団と接触した際に得た『ブレイザブリク周辺のエインヘリアルの迎撃状況』に関する巻物を検証した結果、エインヘリアルの迎撃ポイントや迎撃タイミングに、明らかに不自然な穴があることが発覚した。
 これだけならば死神の嘘情報という可能性もあったのだが、東京焦土地帯の情報を探っていたケルベロス達の情報と組み合わせると、焦土地帯のエインヘリアルが『大軍勢を受け入る為に配置展開』をしているとの予知が得られたのである。
「で、ですね。この大軍勢の指揮官が第八王子のホーフンド。大阪城のグランドロン城塞は覚えていますか? そこで討伐した三連斬のヘルヴォールの旦那さんで、奥さんのかたきを討つために大軍勢を引っ張ってきたみたいです」
 ホーフンド王子の軍勢には、大阪城で撃破したレリとヘルヴォールの残党も加わっている。彼らがブレイザブリクに合流すれば、殲滅は難しくなってしまうだろう。
 加えて、ホーフンド王子は復讐のために東京都民の大虐殺なども行いかねない。そのため、大軍勢の合流を、なんとしても水際でせき止めなければいけないのだ。
「具体的な作戦は、君乃・眸さんから提案された案に従いますよー。簡単に言うと、ホーフンド王子の軍勢を奇襲します」
 ホーフンド王子の軍勢は、レリ及びヘルヴォールの残党軍を前衛としており、前衛と本隊との連携がうまく取れていない。
 また、ホーフンド王子の配下達はやや過保護で、危険が伴う地球への進行に消極的という情報も入っている。というより、ホーフンド王子本人も臆病な程慎重である為、ケルベロスの攻撃で本隊に危機が迫れば、狼狽して撤退を決断するだろう。
「つまり、まずは連携がとれてないうちに前衛軍を壊滅させて、その援護に来た本隊に応対しつつ、精鋭部隊でホーフンド王子を強襲する。これが大まかな作戦の流れになります。倒すのではなく、逃げてもらうための策ってことだねー」
 この作戦のネックは、『ホーフンド王子がブレイザブリクに到着』する前―――ホーフンドも撤退を決断できるタイミング、進軍中のみ可能な作戦となる。合流されてしまえばどうにもならないため、ここでなんとしてもホーフンドを追い返してほしい。
「さて、次に敵の戦力配分ですね。一気に公開しますよー」

 前衛1、旧レリ軍。
 『白百合騎士団一般兵』を主軸に据えた一団。有力敵は白百合騎士団の『氷月のハティ』と第二王女ハール配下の『炎日騎士スコル』。

 前衛2、旧ヘルヴォール軍。
 ヘルヴォールを初めとする指揮官が全滅したことで解散・本国へ帰還していたが、ホーフンドの報復に同調して参加したようだ。『連斬部隊勇者兵』がエインヘリアルで、その他『連斬部隊一般兵』『連斬部隊魔法兵』『連斬部隊防衛兵』は全員シャイターンで構成されている。

 本隊左翼。
 『ホーフンドの秘書官ユウフラ』が率いる部隊。ユウフラはホーフンド軍の実質的な指揮官であり、ハイスペックな実力者。『ホーフンド斥候隊』、『ホーフンド攻撃隊』で構成されている。
 ホーフンド王子至上主義である為、ホーフンド王子の本隊が攻撃されたのを知ると、全力で本隊に合流する為に前衛のヘルヴォール残党軍は見捨てて合流しようとするようだ。
 ユウフラを撃破すれば、ホーフンド王子軍を大きく弱体化させる事が出来るかもしれない反面、ホーフンド王子軍の撤退を指揮する者がいなくなる為、取り残されたホーフンド王子軍がブレイザブリクに合流してしまう。
 どちらを選ぶかはケルベロスにゆだねることとする。適宜判断してほしい。

 本隊右翼。
 『ホーフンドの娘アンガンチュール』が率いる部隊。アンガンチュールはホーフンド王子とヘルヴォールの娘で、好戦的な気質のようだ。『ホーフンド斥候隊』、『ホーフンド攻撃隊』を指揮している。
 ユウフラからは本陣の守りを任されているが、本人は勝手にレリ軍の援護に向かうつもりの模様。
 アンガンチュールの撃破は比較的簡単だが、娘もケルベロスに殺されてしまえば、いかに臆病なホーフンド王子も簡単に撤退できなくなってしまう。
 アンガンチュールの軍勢を壊滅させ、ホーフンド王子の軍勢に合流させれば、ホーフンド王子も撤退を選びやすくなるだろう。

 本隊中央。
 『ホーフンド王子』直属の部隊。『ホーフンド親衛隊』、『ホーフンド補給隊』、『ホーフンド衛生隊』で構成される。
 ホーフンド王子は極度のビビリで泣き虫なショタ系の王子。とはいっても王子であることに変わりはないため、今回は戦力的にホーフンド王子を討ち取る事は不可能。彼をビビらせて撤退させるのが作戦の趣旨だ。

 最後に作戦の流れをおさらいする。
 今回の作戦は、ブレイザブリクに合流しようとするエインヘリアルの王子の軍勢に対し、ブレイザブリクの警戒網の穴をついて精鋭部隊での奇襲を仕掛けるというもの。
 第八王子ホーフンドは、ケルベロスが本陣を強襲すれば危機を感じて撤退の判断を下す。
 前衛は、グランドロン城塞の戦いでレリやヘルヴォールの配下として戦っていた部隊の残党。士気は高いが、ホーフンド王子の本隊との連携に隙がある為、各個撃破が可能である。
 前衛の右翼はレリ配下だった部隊、前衛の左翼はヘルヴォール配下だった部隊。
 前衛部隊を壊滅させれば、救援のためにホーフンド本隊の部隊が駆け付けてこようとするので、この部隊を迎撃、ホーフンド王子の本隊に合流できないように足止めする。
 救援のために手薄になったホーフンド王子の本隊に派手に襲撃をかけ、ホーフンド王子をビビらせる。ホーフンド王子が撤退していけば作戦成功。
「一見複雑な作戦ですが、要は前衛を全滅させて本隊を驚かしてやろうってことです。ホーフンドは手ごわい相手なので、派手にドカーンとやれば撤退してくれると思います。頑張ってきてくださいねー!」


参加者
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)

■リプレイ

 双眼鏡越しに見える遠くの風景に、軽装のシャイターンたちが並び立つ。
 行進してくる彼女たちは、旧ヘルヴォール軍『連斬部隊』の戦士たち! 傍らに浮遊する翼猫と共に双眼鏡を下ろしたフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)は、神妙な面持ちで口を開いた。
「見えて来たわね。……ヴィクトル」
「ああ、確認できている。ついでに、他の班の連中もな」
 フィストの隣で片膝立ちのヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が双眼鏡を覗きながら応じた。旧ヘルヴォール軍が織りなす影は既に地平線を越え、徐々に近づいてきている。軍勢を肉眼で確認したウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)はボソリと呟く。
「第八王子……シャイターン……。ああ……これは……まだ、まだ、東京では面倒な事態、が、続きそうです、ね」
「そりゃま、ブレイザリクだのなんだのが残ってるしな。イグニスの野郎だってまだ生き残ってやがるしよ」
 ウィルマの足元、屈みこんでいた軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)が立ち上がり、首をゴキゴキと鳴らす。黒い翼をやや広げ、両拳を打ちつけた彼は不敵な笑みを浮かべて見せた。
「まァなんにせよだ! 敵討ちたァ、ろくでなしが多いシャイターンにしちゃあ見上げた根性じゃあねーかァ! せっかくだ、しんどいけど受けてやんぜッ!」
「後もつっかえてることだし、本格的にぶつかる前に微差でも優位を勝ち取って重ねておかないとね」
 峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が同意し、大欠伸をかます太った翼猫を抱き上げる。その時、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が銀髪から突き出した獣耳をピクリと動かして首を巡らせた。数秒耳を澄ませ、頷いて言う。
「他班の準備は出来たみたいですね。皆さん、行けますか?」
「あ、もう始まるんですね」
 小ぶりな四枚翼をぱたぱたと羽ばたかせたマロン・ビネガー(六花流転・e17169)は、デフォルメ・ネコヘッドの氷ハンマーを持ち上げた。彼女を背後に、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は両腕に白銀の鎖を巻きつけ、強く握り込む。
「こちらも戦闘準備完了……行くわよ」
「了解だ」
 ヴィクトルが立ち上がり、コートの懐から猫の顔をかたどった金属箱を取り出す。軽く宙に放られたそれは、各部から蒸気を吹き出しながら変形展開。上部のフタを開き、エクトプラズムを八つ吐き出した! ケルベロスたちの上空を飛び交う人魂から歓声!
『ィィィィィエエエエエエエエエエ!』
 ケルベロスたちが怪訝そうな顔で見上げる中、エクトプラズムひとつひとつが逆三角形の頭部と手足を生やし、白黒ストライプの模様を胴体に刻む。囚人服姿のネズミウェアライダーの姿に変化! 双吉が眉根を寄せてヴィクトルを見た。
「なんだ? こいつら……」
「ゴーストだ。……時間が無い。始めてくれ」
 ゴーストたちを見上げるヴィクトル。それを聞いたゴーストたちは呆れた顔で肩を竦めた。
「ケッ! 始めてくれだと!」
「ったくしょおがねえなァ! 早いモン勝ちだァ!」
「あッ、テメ、ずりィぞコラ!」
 我先にとケルベロスたちを猛禽めいてかっさらうゴーストたち。そのまま急上昇した彼らは、等比級グラフめいた軌跡を描き、直後に急降下! シャイターンの軍勢へ空中から奇襲をかけた!
「そ、それでは、開戦、の、合図、を……」
 ウィルマがボソボソ呟きながら、青黒いオーラを灯した指先で円を描いた。ケルベロスを抱えたゴーストたちは、進行方向に現れた青黒いオーラ鎖の巨大円を貫通! 直後、異変に気づいた連斬部隊勇者兵が空を仰ぐ! 両腕に黒液の砲を作り出した双吉が吠えた!
「さァて派手に行くぜェ! 祝砲ぶっ放してやらァ!」
「はいです! 氷晶石のニャノン!」
 マロンが応え、両手を振り上げた。彼女の頭上にダイヤモンドダストが集中し、デフォルメ・ネコヘッド型の巨大氷塊を生成! 黒砲をシャイターンたちに向けた双吉と共に、対地砲撃!
「おらよ! あいさつ代わりの一発もってけ!」
「てりゃーっ!」
 双吉の黒砲が漆黒の光線を放ち、マロンの氷塊が隕石めいて軍勢へと落下する! 勇者兵は足を止め、空を見上げたシャイターンたちに怒号を飛ばした!
「総員散開しろッ! ケルベロス共の奇襲が来るぞッ!」
 素早くバックジャンプする勇者兵、一拍遅れて四方八方に飛び分かれるシャイターンたち! 空になった地面に二重螺旋を描く黒光線と氷塊が激突し、爆轟を引き起こした! 空中のゴーストたちが笑う!
「イヒヒヒヒヒヒ! 派手にやったなァおい!」
「タクシー役はもうお役御免かァ!? そんじゃあ投げるぜ! せいぜい生きてまた会おうぜ!」
 甲高い声で叫び、ゴースト二体がミリムとシフカをカタパルトめいて投げ出した! 空中を斜めに突っ切った二人は両足を地面に向けて着地! その勢いのままロケットスタートを決め勇者兵へと突っ込んでいく!
「本星で惨めに生き伸びるより、殺されに来るのを選ぶなんて嬉しいです。派手に散らしてあげましょう!」
「とっととヘルヴォールの後を追わせてあげます。覚悟!」
 ミリムが大戦斧を振りかぶり、シフカは鎖を巻いた両拳を打ち合わせる。それぞれ刀身にルーンが、鎖に白雷を輝かせながらの特攻! 勇者兵は表情を憎悪に歪め、フランベルジュを引き抜いた!
「総員迎撃! ヘルヴォール様を殺した地球の犬どもを! この場で殺せ! 行くぞォッ!」
『オオオオオオオオッ!』
 周囲から上がる鬨の声を合図に、勇者兵はミリムとシフカにダッシュで肉迫! 前に出たミリムの戦斧を振り下ろしをステップ回避し、彼女の顎下に刺突を繰り出す! バク宙回避するミリムの真下を潜りシフカがスイッチ!
「螺旋忍法、『白雷手甲連』!」
「ぬァァァァッ!」
 白い電光まとったシフカのラッシュをフランベルジュ一本を振るってさばく勇者兵! 激しく撃ち合う二人の左右から飛び出した一般兵が、拳銃を構えてシフカに駆け寄る!
「死ね! ケルベロス!」
「我らが将を殺した罪、ここで清算するが良い!」
 疾走しながら拳銃乱射! シフカを挟み撃ちにする銃弾の片方に、インターラプトした恵が両手を突き出し桃色のバリアを張ってガード! 恵は斬りかかる一般兵の斧もバリアでブロックしながら叫ぶ!
「ウィルマさん、反対側お願い!」
「りょ、了解、しました」
 もう一方の一般兵の前に立ちはだかったウィルマの肩や膝に銃弾が突き刺さった。しかし彼女は表情を変えずにオーラをまとった右手を一般兵にかざし、念力投射! 一般兵の首にオーラの首輪が巻き付き、彼女の首を真後ろに圧し折って殺害! 爆発四散!
「数、は多いです、が、だいぶ泥縄っていう感じです、ね……まあ、付け入る隙が多い、のは、こちらとしては助かるのです、が」
 ぼやくウィルマに三人の防衛兵が緑の円盾を構えて突進してくる! 後方には杖構えた魔法兵が三人! ウィルマが左手にもオーラをまとわせて身構えた瞬間、防衛兵のすぐ目の前をガトリング銃弾が横切った! 翼を広げて浮遊するフィストだ!
「ヴィクトル! 援護してあげて!」
「任された!」
 ヴィクトルは襲い来る爆炎の津波を横目に、手元のネズミ型スイッチをおしこんだ。地面を吹き飛ばして突き上げたトゲトゲの氷壁に背を向け、勇者兵と撃ち合うシフカの背中にスイッチを向ける!
「Vallop!」
 スイッチを押した瞬間、ヴィクトルの腕先から虹色の爆風が吹き出した! 荒野を駆ける熱風は勇者兵と丁々発止を繰り広げるシフカの背を押し、打撃を加速させていく! 勇者兵の爪先がジリジリと下がり始めた!
「ちっ……強化か!」
「はあああああああッ!」
 シフカ渾身の右ストレートをフランベルジュの腹でガードする勇者兵! 一時拮抗するも押し負け後方に吹き飛ばされる彼女に、シフカの真横を突っ切ったミリムが走る! 彼我の距離5メートル! ミリムは戦斧を横薙ぎに振り、目前に5つの紋章を召喚!
「風槍よ! 穿て!」
 翡翠色に輝く紋章が風槍を発射! ドリルじみて回転しながら飛来する風の槍。両足を踏ん張ってブレーキをかけた勇者兵は声高に命じる!
「防衛兵、前へ!」
『はッ!』
 勇者兵の左右を駆け抜けた五人の防衛兵が円盾を構え、風の槍にシールドバッシュ! 衝突と同時にインパクトが周囲に広がる。防衛兵たちはタールの翼をいっぱいに広げ、前傾姿勢で風の槍を押し留める! ミリムは獰猛な笑みを浮かべて呟いた。
「へえ、やりますね。でも隙だらけですよ」
 刹那、防衛兵五人の首が飛ぶ! 円盾ごと胸を貫かれた5つの首無し死体が爆発四散するのを余所に、五人の首をまとめて斬り飛ばした双吉が漆黒の剣を構えて勇者兵に打ちかかった! フランベルジュとスライム凝固剣がぶつかり金属音を奏でる!
「やっぱかたき討ちつったら、こうやってなガチタイマンしねえとな。黒液連斬とでも名付けようか……。俺なりの剣術、見せてやんよ!」
「連斬……だと? 貴様ッ!」
 見開いた瞳に怒りを燃やした勇者兵がスライム剣を振り切り、烈火の如き高速剣戟を繰り出した! 双吉は上体をやや引き気味にしてこれをギリギリのところでいなす。一条の斬撃が頬を掠め、浅い切り傷を生んだ。
「オラオラどうした! もっと来いよ!」
「おおおおおおおッ!」
 加速する勇者兵の斬撃が双吉の各所を引き裂き始める! しかし双吉は不敵な笑みを崩さないまま半歩後退。勇者兵が踏み込み斬撃を放った瞬間、カウンターじみて黒剣刺突! 液状に戻り膨張したブラックスライムが勇者兵の右半身を飲み込んだ!
「何ッ、これは……!?」
「引っかかったな」
 左鎖骨から右脇腹までを掻っ捌かれた双吉が笑う。剣の形から解放されたブラックスライムは勇者兵の肉体に癒着し、融け合いながら貪っていく。さらにワン・インチ距離を保つ二人を照らす蒼の輝き。上空に浮遊するマロンが巨大なカボチャ型蒼炎を掲げていた!
「必殺のー……ハロウィンボム! ですっ!」
 小型ジャックオランタンを大量にあしらった青い巨腕を振るってカボチャ蒼炎を投擲! 轟とうなりながら双吉と勇者兵を押し潰さんとする炎の真下に、6人の防衛兵が飛び込み盾で炎を受け止める! 爆音が大気を震わせる中、防衛兵の一人が地上に叫ぶ!
「今だ! 部隊長を……その汚らわしいオラトリオを殺せッ!」
 次の瞬間、斧と拳銃を構えた一般兵、赤いダイヤ型ヘッドの杖を掲げる魔法兵が組み合う二人を取り囲み突っ込んでいく! 殺気立った雄叫びがマロンの轟音を掻き消す中、フィストは両腕と翼を広げて上空を大回りに旋回! 白銀色の燐光を雪めいて降らせる!「……いくわよ、ヴィクトル!」
「ああ。カウント入るぞ! ドライ……」
 ヴィクトルがネズミの頭部を模したスイッチに力を込める。彼の背後から首を狩りにかかる一般兵の胸を、ミリムの黒槍が背後から貫く! 高々と掲げられたシャイターンが血を吐きながら呪詛を呟いた。
「がふッ……! 地球人風情が……許さんぞ……! 亡きヘルヴォール様の元に、這いつくばらせて……!」
「ふむ……報復ですか、私も報復したいですね」
 脳裏に無数の死に顔を想起しながら、ミリムはシャイターンを投げ捨てる。それを肩越しに見たヴィクトルは、煌めく燐光がスノードームの雪じみて舞う空間―――囚われた勇者兵と、彼女を助けんとして足止めされる連斬部隊の周囲を見つめ、カウントを進める。
「ツヴァイ……」
 フランベルジュを振り上げ、拘束を脱っせんとする勇者兵! だが剣を握る手首を、彼女の後方から伸びた青黒いオーラ鎖が縛り上げて引き寄せる! 鎖の先にはウィルマ!
「ここが、チャンス、ですので……逃がす、わけには、いきません……」
「ぐッ……おのれぇぇぇぇッ……!」
 腕に力を込めて唸る勇者兵! それを見た一般兵の二人が直角ターンを決めてウィルマに銃撃しながら疾駆する! ウィルマの胴体に次々と銃弾が突き刺さるが、彼女は意に介さぬ! 彼女の足元で呑気に毛づくろいをしていたデブ猫が、申し訳程度に羽ばたいた。
「ぶにゃうん」
 デブ猫が扇いで作った微かな風がウィルマの足から胴体へ螺旋状に這い登り、生まれた銃創を塞いでいく。デブ猫はさらに尻尾のリングを外して無造作に投擲! 回転しながら飛来する輪を、一般兵の片割れが銃剣で叩き落とした!
「舐めるな! この程度の攻撃で……!」
「では、これならどう?」
 瞬間、一般兵の前に滑り込んだシフカが赤黒い刀で刺突を繰り出した! 目を見開いた一般兵はとっさにブレーキをかけ、手斧でブロック! シフカは回転斬撃で彼女を打ち払い、真横に低空ジャンプパンチ! ウィルマに向かっていたもう一人を殴り飛ばす!
「ヘルヴォール軍はこれにて全滅。まとめて指揮官の下へ送ってあげる」
「と、ともかく、じ、時間切れ……です、ね。退避……」
 ウィルマが腕を振って鎖を断ち斬り、デブ猫を拾ってバックジャンプ! シフカがそれを追って周囲に散る燐光の範囲から飛び出すと同時、ヴィクトルのファイナルカウントが響く!
「アイン……ヌルッ!」
 スイッチを押すと共に、煌めく白光が虹色に爆発! それらは鋭利な光の剣と化し、勇者兵とシャイターンたちに狙いを定めた! フィストが握り拳を振り上げる!
「我が敵に死の雨を!」
 フィストが思い切り腕を振り下ろしたのを合図に、虹光の剣は一斉に飛翔! 範囲内のシャイターンたちを次々と串刺しにし、極光の中で爆散させていく! 怨嗟と屈辱を込めた断末魔がいくつも上がる中、範囲内から恵が飛び出した。桃色の霧をまとわせた双吉を背負って走る!
「もう、無茶苦茶し過ぎだよ。ボロボロじゃん」
 恵が呆れたように溜め息を吐く。彼女の霧と、フィストの子猫の羽ばたきを受ける双吉のちょうど反対側で、ウィルマは串刺しにされ光に包まれて爆発四散するシャイターンを眺めながらうっそりと言った。
「お、お疲れ様、でした。我々の勝利、です。……で、済めばいいのです、が」
「きっと大丈夫ですよ」
 シフカが応えた直後、ミリムの声が周囲に轟いた。後陣のホーフンド軍に向けた勝利宣言!
「聞こえますかホーフンド軍! 前衛部隊は皆殺しにしました! さあ逃げてみなさい、逃げられるものならね!」
 木霊を引き、波のように広がっていくミリムの声。恵はホーフンド軍がいる方に視線を飛ばし、じっと呟いた。
「これで、なんとかあっちの数削れたかな?」
「多分な。ま、少なくともあの貧弱王子は帰るだろ……」
 恵の背から降りながら、双吉は跡形も無く消し飛んだ勇者兵が居た場所を眺める。
(なあ見てんのか? イグニス。お前と遠深かった種族のシャイターンが命を燃やしてんぜ。名前だけじゃねぇ、そろそろ転生した姿を見せてくれよ)

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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