魔法少女界の頂点を決めるための底辺の戦い

作者:星垣えん

●下っ端しか出てこない邂逅シーン
「すいませんっす。あっしが悪かったっす」
「いや誰っすか」
 ネトゲ疲れから路上を散歩していたシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)は、知らない女に土下座されていた。
 ガチで見知らぬ女である。
 リボン付きの白いハットと、これまた白いコート風の衣装、おまけに犬耳でツインテールなのである。会ってたら忘れないインパクトである。
 そんな女が、曲がり角から横滑り土下座で出現したのである。
 めちゃくちゃ怪しかった。
「どこの誰だか知らないっすけど、あちしに謝る理由があるんすか? あちしは土下座を要求される理由はたくさん思い当たるっすけど、土下座される理由は思い当たらないっすよ」
「申し訳ないっす! 命だけは見逃してほしいっす!」
 訝しげに問うシルフィリアスに、女は平身低頭を維持。
 今日はバイトをサボってゲームしてたという事実を責められこそすれ、逆に謝罪されているという状況にシルフィリアスは普通に困った。なんか自分が許さないと事が終わりそうにない。
「……まあよくわからないっすけど許すっすよ。これでいいっすか?」
「本当っすか! ありがとうっす! 心の広い人でよかったっす!」
 シルフィリアスがポンと肩を叩くと、女はぺこぺこ頭を振りながらすくっと起立。
 で、後ろ手に持っていたステッキを振りあげた。
「隙ありっすー!」
「ぎゃーー! っすーー!!」
 突然の暴行! 油断していたシルフィリアスは易々と吹っ飛ばされた!
 急に現れて土下座する女はやはり敵だった! 案の定だった!
「きゅ、急に何するっすか!」
「ふっふっふ。あっしの名演技に見事に騙されたっすねシルフィリアス! しかしあの瞬間であっしの攻撃を防御し、致命傷を避けるとは大した奴っす!」
「いや別に何も防御とかしてないっすけど……」
「精神的優位に立とうってことっすか? 無駄っすよ!」
 殴られてちょっと痛い腕をさすさすするシルフィリアスに『いやいや知ってますよ? 腕いってますよね?』と言わんばかりにニヤニヤする女。
 残念な奴だった。
 弱いうえに残念な奴だった。
「よくわからないっすけど、あんたはあちしの敵ってことでいいんすね?」
「ふっ、そうっす! あんたを倒して……あっしが一番の魔法少女になるっす!」
 ビシッとステッキを差し向けてくる女。
 どうやら魔法少女界のトップを狙っている方らしい。そして彼女の頭の中ではシルフィリアスさんは暫定トップであらせられるらしい。ソースはよ。
「いくっすよシルフィリアス! あっしの伝説の礎になるっすー!」
「色々と言いたいことはあるっすけど、それなら返り討ちにするまでっすー!」
 ぴょこっ、と愛用ステッキ『カラミティプリンセス』をかざすシルフィリアス。
 魔法少女界の頂に立つ者はどちらか――。
 とゆー雰囲気だけはある三下同士のタイトルマッチの火蓋が、切られた。

●下っ端しか喋らない出撃シーン
「皆さん大変っす! シルフィリアスさんがなんか大変っす!!」
 迫真の表情で語りかける黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。
 彼のいかにも下っ端な話し声を聞きながら、集まった猟犬たちはとりあえず椅子に座って茶で一服していた。
 シルフィリアスが大変ということは、まあ大したことではない。
 そう思っているかのような落ち着きようだった。焦ってるのはダンテだけだった。
 ちなみにダンテの説明によれば、シルフィリアスは街中でいきなり襲われて暫定タイトルを争う戦いを強要されるらしい。
 バイトサボった天罰なんじゃないかな、とか思う猟犬たちだった。
「すぐ伝えようとしたっすけど、どうにもシルフィリアスさんと連絡がつかないっす!」
 きっとまだネトゲに没頭してるんだよ。
「だから皆さんには現場に急行し、救援に入ってシルフィリアスさんの暫定タイトルを守ってもらいたいんすよ!」
 あれこれダンテくんも大して焦ってなくない?
「敵は『アプリコーゼ』という名のエインヘリアル魔法少女っす! 土下座から命乞い、不意打ちまで何でもござれの戦いを仕掛けてくる雑魚っす!」
 もう雑魚って言ってる!
「ちなみに魔法少女っぽい衣装で魔法少女っぽい攻撃をすると、場を盛り上げるためにとりあえずくらってしまうという芸人気質の持ち主っす!」
 雑魚にも程があるじゃねえか!
 というかもう雑魚でもねえよ! 単なる賑やかし以外の何物でもねえよ!
「あと幼児体型を馬鹿にするとキレるっす!」
 シルフィリアスとのキャラ被りがすごい!
 下手したら戦ってるはずの2人が手を組んでしまう未来が見えるよそれ!
「というわけで、状況は理解したっすね皆さん! それではヘリオンにどうぞっす!」
 がーっ、と搭乗口をあけるダンテ。
 なんだか戦いに行くって感じの空気じゃない。
 サムズアップするダンテを見てそう思いながら、一同は渋々ヘリオンに乗り込んだ。


参加者
モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
藤林・九十九(藤林一刀流免許皆伝・e67549)

■リプレイ

●負ける気がしない件
 平凡な街並みの中に、一条の眩さが昇る。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 迸る光が晴れた路上に現れたのは、裸にリボンが巻きつく例の変身バンクを終えたシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)だ。
 お約束を済ませた魔法少女は、ロッドをアプリコーゼへと差し向けた。
「魔法少女のトップに立とうとするのに魔法少女の何たるやがわかってないみたいっすね。変身シーンはどうしたんすか! 変身シーンもなしに魔法少女を名乗ろうだなんて片腹痛いっす」
「ふっ、現代の魔法少女は変身バンクを省略することもザラなんすよ!」
「やっぱり魔法少女の風上にも置けない奴っす!」
 互いに相手を認めず、ぽこぽこロッドで殴りあう魔法少女たち。
 その平和すぎる戦闘を、ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)は黙って眺めていた。
「何がどう大変というのか、ヘリオライダーへの訴訟も辞さない」
 呆れてもいた。
「シルフィちゃん……この展開、なんかもうお約束になっちゃってますね……」
 頭を押さえて首を振るルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)。
「さぼらないでお店に来ていたら安全だったのに……」
「ま、まぁ、それはあとで言い聞かせるとして、ね……?」
 ため息をつくルーチェをポンポンと撫でて、モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)はシルフィリアスたちのほうへ向き直り、リボルバー銃『竜の爪牙』を構える。
「魔法少女グレートモモ! あなたのハート、撃ち抜いちゃうよー!」
 プリンセスモードを発動し、赤とピンクのフリフリ衣装に変身するモモ。
 ポージングまで決める姿に、藤林・九十九(藤林一刀流免許皆伝・e67549)に連れられてきた妹の璃珠(ビハインド)は全力で拍手。
「――♪」
「なんか照れるわね……」
 ありったけの憧憬を向けてくる璃珠から、そっと顔を背けるモモ。
 その様子を微笑ましく見ながら、九十九は持っていたポテチ袋から1枚をぱりっ。
「今日はのんびり見学させてもらうか」
「良い天気だからナ!」
 袋ごとポテチを頬張るアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)。その荒業に一切ツッコむことなく九十九は熱い茶を飲んだ。ちなみに璃珠ちゃんは自信満々に変身ポーズを披露しております。
 その可愛らしさに、ルーチェとモモもパチパチ拍手していたが――。
「って、ゆっくり変身してる場合じゃありません!」
「そうね、そうだったわね!」
 和んでる場合じゃねえ、とシルフィリアスたちへ介入する2人。
「きらめく愛の魔法少女! ぷりずむ☆ルーチェ、参上で――」
「すいませんっすー!!」
「えっ」
 登場シーンを終える間もなくアプリコーゼが土下座した。
「悪気はなかったっす」
「せっかく決めセリフだったのに食い気味に……」
「申し訳ないっす」
 ぐりぐり、と頭を地面にねじこむアプリコーゼ。
 性懲りもなく土下座戦法だった。
「お金あげるんでどうか」
「カツアゲしてるみたいになってる!?」
「そう言って不意打ちするつもりなんでしょ?」
「くっ……!」
 じっと見下ろすルーチェ&モモ。看破されてるっぽい雰囲気にぐぬるアプリコーゼ。
 そのときだ。
「あ、実はあちしこの間タイトル戦に負けてタイトル失冠してるんすよ。こちらが現タイトル保持者のルーチェさんっす」
「えっ!?」
 シルフィリアスが、ルーチェの手を掴んで上にあげる。
「つまりあんたがキングオブ魔法少女!」
「いやいや何の話ですか!? というかキングじゃなくてクイーンでは!?」
「問答無用っす! お命頂戴っすー!」
「くっ、仕方ありません……!」
 アプリコーゼが振りかざしたステッキを見て、身構えるルーチェ。
 ステッキが腕にぶつかる。
 ルーチェが目をぱちくりさせる。
「えっ弱い……これでトップの座を狙ってるんですか……?」
「あっしを揺さぶる作戦っすね? そーはいかないっすよ!」
 不敵に笑うアプリコーゼ。
 その自信は果たしてどこから。そう思わざるを得ないルーチェだった。

●かつてないゴチャつき
 薄衣のようなスカートに、ちょこんと愛らしい天使の翼。
 そんな衣装を装備して蒼穹を見上げるのは、愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)だ。
「小さい頃は魔法少女にもなりたかったのです。諦めたわけじゃない。だけど、魔法は誰もが生まれ持った力だと、識ってしまったから。……特別なものじゃないほうがいいと、思ったから」
 ぎゅっ、と胸に拳を当てるミライさん。
 雰囲気をたっぷり持ったオラトリオはカッと見開いた眼をカメラに向ける!
「だけど、夢見る乙女だもの。私は今だって、魔法少女のはずなのです……!」
「いや、お前は何を言ってるんだ?」
 ぱりぱりとポテチ食いながら見てる九十九。
 突然、仲間が妙なテンションで語りはじめたのである。
 そりゃ心配な眼差しのひとつでも送らねばなるまいよ。
「いえ、せっかくなのでそれっぽく登場してみようかと思いまして……というわけでLove You! ミライ、参戦なのです☆ はい!」
「参戦も何ももう戦いは始まっているがな」
「ですね☆」
 ぱちぱち、とウインクしちゃうミライ。
 そう、ミライが語ってる裏では――。
「――♪」
「ぐああああ!」
 璃珠がステッキを振って放った魔法(っぽく見えるだけのポルターガイスト)をくらったアプリコーゼが、若手芸人顔負けのリアクションを披露していた。
「何という威力っす……これが魔法少女新世代の力!」
「――♪」
 杖で体を支えるもよろめくアプリコーゼに、ふふんと胸を張る璃珠。
「満足そうで何よりだ。遊び相手のノリが良いと捗るのかもしれないな」
「まぁ確かに打撃は痛くなかったですけど……」
 兄馬鹿してる九十九の横で、微妙な表情をするルーチェ。
 そしてその後ろを徘徊するシルフィリアス。
「しまったっす。ポテチが拾いきれないっす」
「シルフィちゃんは地面に落ちてるポテチを拾わない! この前それで捕まったじゃないですか!」
 操作した髪やら腕やらで大量のポテチ袋を抱える友人に、一般常識を突きつけるルーチェ。ちなみになぜポテチが落ちてるのかについては後で判明するよ☆
 ところで、話が折り返しに差しかかった現時点でもまだ登場していない人が1人いるんだけど、誰かわかるだろうか。
 カメラを向けないと一向に出てこないかもしれないので、強制的に出演させますね。
 はーい空き地の片隅にある物陰にズームイン。
「……あぁぁぁなんでまたこんな事になってるんですかシルフィリアスさんはぁぁ……」
 潜み隠れるように膝を抱いて丸まっているのは――シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)である。
 死ぬほど赤面している彼女は、真っ白なフリフリ衣装を装備している。
 普段のスーツ姿からは想像できないほど、もうほんと白い。
 真っ赤な顔と白い衣装でなんかめでたい気すらする。
「もう魔法少女の衣装は着たくないんですよホント……着た方が有利になるみたいだから着ましたけどホント無理なんですよぉ……!」
 あああ、と頭を抱える23歳のシフカさん。
「相当ダメージがきているようだな」
「まぁ、ちょっと気持ちはわかるのよね。フリフリを着るのは勇気が要るっていうか……」
 もだもだと苦悩して転がるシフカを眺めるゼノアとモモ。
「……っ! でもいつまでも迷っていても仕方ないですね……」
「吹っ切れたらしいな」
「頑張ってシフカさん! 大丈夫!」
 むくっと起き上がるシフカが、日本刀を構える。
 で。
「町を汚すのは許さない! 言うこと聞かない悪い子は、愛と正義のマホ……あぁぁぁやっぱりハジュカシィよぉぉぉぉ!!!」
 それっぽい台詞を言おうとして撃沈した。
「また頭を抱えているな」
「シフカさん、勢い! 勢いよ!」
「ムリですぅぅぃ!!!」
 モモが励ましてもシフカに立ち直る様子はない。体が反りすぎてブリッジしてしまうほど悶絶している。
 と、そのとき。
「隙ありっすー!!」
 シフカブリッジに向かってアプリコーゼが飛び出してきた。
「危ない、シフカさん!」(ばきゅーん)
「ぎゃああーー!?」
 咄嗟に撃ったモモの弾丸に穿たれ、スッ転げるアプリコーゼ。
 芸人でなければ死んでいた一撃だったろう。眉間に孔あいとるもん。
「何するっすか! 銃撃とかアウトっすよ!」
「え? 魔法少女って、こういうものでしょ?」
 ふっ、硝煙を吹いてニッコリするモモ。
「親御さんから苦情がくるっすよ!」
「それを言うならお前こそ、その言葉遣いはアウトなのではないか? 視聴する女児的にも親御さん的にも」
「何言ってるっすか! 下から目線で好感度抜群のはずっす!」
 ゼノアの指摘にドヤ顔を見せるアプリコーゼ。
 だがモモはそんな彼女を見て、憐れむように眉根を寄せた。
 そして手を自分の頭のてっぺんに乗せて、アプリコーゼに向けてスッスッとやった。
「それにしても小さいわねー、身長、私と0.1cm位しか違わないんじゃない?」
「んなっ!?」
「一番の魔法少女になるって、そんな体型で一番になれると思ってるの?」
「禁句を……禁句を言ってくれたっすねー!」
 モモの圧倒的煽り。たまらずアプリコーゼがモモに殴りかかる。
 今が好機と判断したルーチェは、仲間たちを振り返った。
「敵が冷静さを失った今がチャンスです! 皆で畳みかけて――」
 言葉を発していた口が、止まる。
 彼女が振り返った先では――。
「放せっすー!」
「ギーヒヒヒ、イイザマダナ!」
 ぐるぐるの簀巻きになっているシルフィリアスにアリャリァリャが高笑いしていた。
「ポテチの罠で労せず魔法少女界の頂点の座をゲット! ナンテ卑怯な作戦! そんなウチは暗黒魔法少女トマト味アリャリァリャ!」
「ポテチを使うとは極悪っす!」
 ぐきー、とばたばたするシルフィリアス。
 うん、ポテチを拾ってたら捕まったんだ。
 夢中で拾ってたらいつの間にか身動きできない状態になっていたんだ。
「なんですかこの状況……」
「サテ、ココで季節限定の新作フレーバーポテチを取り出すウチ!」
 呆れて言葉もないルーチェを放って、ポテチ(季節限定)を取り出すアリャリァリャ。
「そ、それは!」
「欲しイノカ? トップの座を明け渡スナラ分けてあげてもイイゾ! あ、ジュースはオレンジとコーラがあルケドどっちがイイ?」
「コーラっすかね」
 これ見よがしにポテチを食い、ポテチはあげないけどペットボトルのコーラをあげる魔法少女アリャリァリャ。
 ルーチェは遠慮がちに挙手した。
「あの、そんな仲間同士で争ってないで早く……」
「オーット、おかしナマネはすルナ? コイツが首饅頭になってもイイノカ?」
「危ないっすー!」
「いや何で脅迫してくるんですか!?」
 ぶぃぃん、と唸るチェーンソー剣をシルフィリアスに突きつけるアリャリァリャ。モノがモノなのでシルフィリアスもルーチェもそらビビった。
 でも九十九は納得したように頷いてた。
「最近の魔法少女は首から上がなくなるのが流行りなんだっけか?」
「そんな感心してる場合じゃないですよ!?」
 もしかしてまともなのは自分だけなんだろうか。
 仲間たちのボケの嵐を捌きながら、そんな不安に駆られるルーチェだった。

 ……え? アプリコーゼはどうなってるかって?
 大丈夫、まだ死んでない。
「ねぇ、あなたの夢は、なんですか……?」
「それはもちろんトップになることっす」
 ミライと2人並んで座って、なんか語り合ってますから。
 アプリコーゼの肩に腕を回し、ミライは優しく微笑んだ。
「頂点に立つの、トップを目指すの、とっても素敵なことだと思うのです」
「そう、そうっすよね!」
「だけど、大事なのは……そのあと、何をするかだから。あなたの夢を、教えて? きっと、私にも手伝えることが、あるはずだから――」
「手伝ってくれるんすか……!」
 目を潤ませるアプリコーゼ。そっと手を取るミライ。
 良いシーンである。
 アニメなら敵の少女幹部が改心して味方になっちゃうシーンである。
 その後すぐにアプリコーゼが裏切りパンチしてきたから台無しになったけど、本当に良いシーンだったのである。

●主役が途中で退場することもあるよね
 数分後。
 アプリコーゼは控えめに言っても瀕死だった。
「いっそ殺せっす……」
「え? 聞こえません☆」
 ぼろぼろな上に息も絶え絶えなアプリコーゼに、ニコっと笑ってヒールの歌を奏でるミライ。それで回復するのは味方ではなくアプリコーゼである。
 延命されていた。
 ミライさんを裏切りパンチ等で怒らせたので強制的に延命されていた。
「もういいじゃないっすか!? 死なせてくれっす!」
「最後まで抗う……それが魔法少女でしょう?」
「鬼! 鬼っす! 誰か助けて(殺して)くれっす!」
 力なく膝をついた状態のまま、懇願する表情で猟犬たちを見るアプリコーゼ。
 目が合ったのはゼノアだった。
「うむこのトンカツ美味い……焼売がついてるのもポイント高いなモグモグ」
 暇すぎて持参したロケ弁を食っているゼノアだった。
「トンカツ……」
「……なんだお前文句があるのか? 人の飯の邪魔をするな」
「い、いや飯の邪魔とかじゃ」
「巨乳になってから出直してこい……」
「どーゆー流れで胸の話になるっすか!」
「乳がでかければ5分位は構ってやってもいい……」
「鬼! こいつも鬼っすー!」
 すりすり、と自分の平たい胸をさするアプリコーゼ。
 それをポテチ食いながら見物していたシルフィリアス(なんやかんや解放された)は、パッと隣のルーチェを見た。
「そういえばこいつの胸カースト、ルーチェさんより下っすね。なだらかな丘に対してこれっすよ」
「ごめんなさいシルフィちゃん、手が勝手に!」
「ぎゃーー! っすー!!」
 一瞬の出来事だった。
 一瞬でシルフィリアスは誰の目も届かないどこかへと消えていた。
 トンカツをむぐむぐ飲みこんだゼノアは、その光景を見て思った。
(「この業界にはでかい女が多いのに可哀相だなあ」)
「それは口に出さないほうがいいですよ」
「そうね。あなたも消えることになるわ」
 ひどく優しい顔をするシフカとモモ。
 なぜ心の内を2人に察知されたのかはゼノアにもわからなかった。
 わかるのは、2人の後ろでチェーンソー剣をぶいんぶいん鳴らしてるアリャリァリャは危険だなということぐらいだった。
「巨乳削ぐベシ!」
「アリャリァリャさん!?」
「本当に悪に堕ちてしまいましたか……」
「巨乳を倒シテ、ウチは巨乳にナル!」
 勃発する貧富の戦争。
 甲高いチェーンソーの唸りをバックに、璃珠は自分の胸を見下ろした。
 で、ぺたぺたしてみた。
「まだ気にするようなことじゃないぞ」
「?」
 未来はこれからだからな、と頭を撫でてやる九十九だった。

 なおその後、アプリコーゼは弁当を食い終わったゼノアの手でサクッと葬られました。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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