第八王子強襲戦~仇討ちを挫け

作者:質種剰

●第八王子、出陣
 地球のものに比べるとひと回りかふた回り巨大な宮殿。
 その豪奢なバルコニーから、集まった軍勢を見下ろす、背丈に見合わず線の細い青年がいた。
 エインヘリアル第八王子、ホーフンドである。
「僕の大切なヘルヴォールを殺したケルベロスを倒しに行くよ!」
 控えめな声で檄を飛ばすホーフンド。
 バルコニーの下にはエインヘリアルの大軍勢が整列していて、
「おー!!」
 地鳴りのごとき歓声が返ってきた。
 だが、ホーフンド王子は気づいていない。
 亡き妻ヘルヴォールの弔い合戦に意欲的なのは、それこそ彼女の指揮下にいた残党軍だけであり、今の歓声も大部分が残党軍のもの。
 実際のところ、ホーフンド軍やレリの残党軍はホーフンド王子の身を案じて、地球侵攻へ消極的だという事に。
 そして、ホーフンドを心配する気持ちは後ろで見守っている秘書官ユウフラも同じである。
 結局、今回の侵攻作戦に乗り気なのは、ヘルヴォールの復讐に燃えるホーフンドと残党軍、そして戦争を控えてうきうきしている実娘アンガンチュールだけなのだった。

「死翼騎士団3将軍との接触によって得られた『ブレイザブリク周辺のエインヘリアルの迎撃状況』に関する巻物を検証したら、エインヘリアルの陣容に不自然な点を発見できたであります!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・cn0031)が興奮した様子で説明を始める。
「情報を詳しく分析した結果、エインヘリアルの迎撃ポイントや迎撃タイミングへ、明らかに不自然な穴があったのでありますよ」
 この情報だけならば死神の欺瞞情報な可能性もあったが、副島・二郎(不屈の破片・e56537)ら、焦土地帯の情報を探っていたケルベロスたちの情報と組み合わせれば、焦土地帯のエインヘリアルの動きが『大軍勢の受け入れの為の配置展開』によるものだと結論づけられた。
「おかげで、新たな予知を得られたであります」
 之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)の調査と予知の結果によって、東京焦土地帯へ現れる大軍勢の指揮官は、エインヘリアル第八王子・ホーフンドと判明。
 ホーフンド王子は、大阪城のグランドロン城塞にてレリ王女と共に討ち倒した三連斬のヘルヴォールの夫であり、その報復のために出陣したこともわかった。
「ホーフンド王子の軍勢には、大阪城で撃破した、レリとヘルヴォールの残党も加わっています。彼らがブレイザブリクに合流してしまえば、その戦力の高さから攻略は難しいでありましょう」
 また、ホーフンド王子はヘルヴォールの復讐と称して東京都民の大虐殺なども行いかねないので、奴のブレイザブリクへの合流はなんとしても阻止せねばならない。
「そこで、合流前のホーフンド王子の軍勢を奇襲する、強襲作戦を実行することになりました」
 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の立案の本作戦は、『ホーフンド王子がブレイザブリクに到着』する前——即ち、容易に撤退が可能な進軍中のみ有効な内容だという。
「今回の作戦は、ブレイザブリクに合流しようとするエインヘリアルの王子の軍勢に対し、ブレイザブリクの警戒網の穴をついて精鋭部隊を浸透させて奇襲する手筈であります」
 ホーフンド王子の軍勢は、レリ配下、ヘルヴォール配下だった残党軍を前衛としているせいで、前衛と本隊との連携がうまく取れていない。そこにつけいる隙があるとかけらは言う。
「第八王子ホーフンドは妻ヘルヴォールの敵を討つべく出陣してはいますが、本来は好戦的な性質で無い上、臆病かつ慎重な性格であるため、ケルベロスが本陣を強襲して危機を感じれば、狼狽して撤退を決断するでありましょう」
 また、仇討ちへ躍起になっているホーフンド王子と裏腹に、王子を大切に思う配下たちは地球への侵攻に消極的なようだ。
「戦意は高くても連携の取れていない前衛軍を壊滅させ、慌てて前衛軍の援護に向かう本隊の動きにも対応しつつ、精鋭部隊がホーフンド王子に肉薄できれば……かなり大変ではありますが、それぞれに部隊を編成できれば不可能ではありますまい」
 かけらの弁舌が熱を帯びる。
「精鋭部隊がホーフンド王子に肉薄できれば、きっと王子の安全を守るために配下が撤退を進言して、ホーフンド王子も危険を恐れてそれを受け入れ、軍を退くでありましょう」
 かくて作戦は大成功となる。
「東京焦土地帯でエインヘリアルと抗争している死翼騎士団の動きも気になりますが、この作戦を邪魔することは無いでしょうし、もしかしたら死神の利益の範囲で援護も期待できるかもしれませんね」
 かけらはそう説明を締め括って、皆を激励した。
「ただ、ホーフンド王子の配下には、大阪城にいた戦力が多く含まれてるであります。大阪城と東京焦土地帯で軍勢の貸し借りが可能だとすると、かなり厄介なことになるかもしれませんので、お気をつけくださいね」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
不知火・梓(酔虎・e00528)
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)

■リプレイ


 八王子焦土地帯。
 ケルベロスの4部隊はホーフンド王子率いる第八王子軍本隊中央へ目標を定めて、進軍を開始した。
「人様の星にちょっかいかけてきて、それで敵討ち、ねぇ」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)がやれやれと肩を竦めて、ホーフンドの勝手な理屈へ呆れ返っていた。
「状況の読めないトップについていくのは、部下としても、大変なんだろうなぁ」
 大将の弔い合戦へ不本意にも参加させられるエインヘリアルたちを同情するぐらいに。
「何とか、早急に引いてほしいが、状況が状況なだけに、ちょいと難しい、か?」
 そんなとりとめもない事を考えつつ、鬼人は予め頭に叩き込んである八王子の地理を思い出して、敵部隊から悟られにくい潜伏場所を探した。
「八王子に第八王子とはね……」
 とは、こがらす丸に騎乗した北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)の呟きだ。
 確かにホーフンドの肩書きと戦場の地名が被っていて、何ともややこしい。
「多方面から派手に攻撃して大規模な強襲に見せかける……王子を動揺させるためにも今見つかったら台無しですから、慎重に行きましょう」
 計都はオーダーメイドのスリーピーススーツに眼鏡という地味な出で立ちへ特殊な気流を纏って、とにかく息を殺すことに専念していた。
 一方。
「敵討ち、ね……心情として分からなくはないけど、今まで散々殺してきた侵略者が何を今更、とも思うよ」
 日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)は、やはり隠密気流で気配を絶ちつつ、ホーフンド王子の利己的な軍の動かし方へ冷めた感想を洩らす。
「まあ地球人を殺さなきゃ自分達が生きていけないからという大義名分を掲げてはいそうだけど、本来不死なら今は耐えて将来に希望を託す道もあっただろうし、生憎と俺達だって黙って命をくれてやる義理も無い」
 蒼眞の語る、デウスエクスだからこそ実現可能な長期的展望には説得力があって、近くで聞いていた愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)も黙って頷く。
「それこそ、撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ、だろうさ……」
「あの……先輩?」
「ん?」
「ええ、もう、お説ごもっともですけど、その、背中におっぱいダイブの証拠さえなければ、もっとカッコよかったのになぁ、って!」
「……」
 無言で蒼眞がジャケットを脱いで確かめると、背中にうっすらとスリッパの足型が残っていた。
「ぷっ」
 そんな2人のやり取りを見て思わず、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が噴き出している。
「まあ、それでこそ日柳さんよね……」
 ミライもつられて笑いを噛み殺しながら、翼を広げてふわりと飛び上がり、進路の確認に努めた。
(「ヘルヴォールと二度戦い、最期も見届けた私がここにいるのは何の縁か……」)
 本隊左翼から、まだガスは流れてこない。
 他方。
「こっちも身内を倒しちゃってるから、報復は仕方ない……かな」
 東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は、流石年の功とでも言うべき鷹揚さで、ホーフンド王子の弔い合戦へ一定の理解を示してみせた。
 何せ、ボリュームたっぷり黒髪ツインテールの可愛い眼鏡っ娘にしか見えない苺だが、実は御年63歳。ドワーフ恐るべしである。
「でも虐殺させるわけにはいかないし、わたし達もやられるわけにはいかないよねっ」
 勿論、苺とて敵の事情を理解するだけで終わるわけもなく、何より一般市民の安否を第一に考えているから、作戦の成功へ向けて気合は充分。
「とはいえ、派手に王子の軍を狙うってどうやっていくかなー? やっぱ爆発とか同士討ちを狙ったり?」
 さてどんなグラビティを使って派手に暴れてやろうかと、作戦開始までの短い猶予をフル活用して思案に耽るのだった。
 8人は、隠密気流を駆使して第八王子軍本隊との距離を徐々に詰めつつも、近づき過ぎて相手に気取られないよう様子を伺っていた。
 前衛を務める旧レリ軍と旧ヘルヴォール軍、そして両軍へ攻め入ったケルベロスたちとの戦闘は、既に始まっている。
 ヘルヴォール軍へ本隊左翼から、また、本隊右翼からもレリ軍へ増援が出されたのも、ミライが空中から確認した。
 そして、本隊左翼を担うユウフラ軍のいる辺りをバイオガスが包むまで、時間はかからなかった。
 バイオガスを充満させることによってユウフラ軍を孤立させ、本隊中央と簡単に合流できなくする作戦なのだろう。
「さーて、本隊に殴り込みDeath! ド派手に行きマショー」
 バイオガスを視認したスノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)が、早速血気盛んに本隊中央へ突撃していく。
「さあ、血祭りの時間デス。今日も血染めの白雪は、血を欲しているヨ」
 他の3班も方々から本隊中央へ攻め入ったと信じて、仲間を息を合わせつつ魔刀「血染めの白雪」を構えるスノードロップ。
「ほらほら、アタシに切られたいやつカラかかって来るデース」
 刀身に無数の霊体を憑依させ、親衛隊エインヘリアルを斬りつけて汚染させた。
「兎に角斬る&killで行くネ。パンクに決めてやりマース!」
 本隊中央の圧倒的な兵士の数に臆することなく、血染めの白雪を手に張り切るスノードロップだ。
「にしても、何度目の焦土地帯かねぇ。いい加減、この土地も解放したいよなぁ」
 不知火・梓(酔虎・e00528)も煙草がわりに咥えていた長楊枝を吐き捨てては、Gelegenheitを抜いて臨戦態勢に入る。
「その為の更なる一歩っつーことで、確実に作戦成功させてぇとこだ」
 戦闘へ意識を切り替えた梓の動きには無駄がなく、幻惑をもたらす桜吹雪を景気良く舞わせながらも、たった一太刀で数多の敵兵を見事に斬り伏せていた。


 ホーフンド軍本体中央は、親衛隊員や補給隊員、衛生隊員が厚い層をなしてケルベロスたちを待ち構えていた。
 フレイルの鎖鉄球や銃弾、火炎瓶が次々と飛んでくるものの、それに怯んでいては王子を追い返す大役など到底こなせない。
「余りにも厚い防衛陣じゃないか? ホーフンド王子とやらは余程に臆病者らしいな」
 蒼眞はホーフンドに聞こえよと声を張り上げるや、天空より無数の刀剣を召喚。
 切っ先煌めく刃の雨を、兵たちに向かって容赦なく降らせた。
「だが、幾ら守りを固めても無駄だとすぐに分からせてやるさ」
 ホーフンド討伐の意志をはっきり口にするのは、勿論奴らにケルベロス側の目的を王子暗殺と誤認させるためだ。
「すでに前衛は壊滅しタぞ……! まずは厄介な補給隊を絶つ。ホーフンドを殺せ……!」
「ホーフンド、聞こえっか? 周りから引っぺがして喰ってってやンよ、怖ェか? 怖ェよなァ」
 遠くから続々と雄叫びが響くのも、同じ理由である。王子本人へ聞かせるべく割り込みヴォイスを使った他班の斥候であろう。
「そこだ!」
 スピニングウィールを履いた足先で重い跳び蹴りを繰り出すのは計都。
「もはや我々から逃げられるとは思わないことですね。ホーフンド王子!」
 兵を勢いよく蹴り倒して地面へ着地すると共に、こちらも撤退させるのが真意だと悟られぬよう、苛烈なセリフを吐いてみせた。
 こがらす丸も主の意志に忠実に、ギャリギャリギャリと地面へタイヤを擦りつけて疾走。
 激しいスピンを起こしては親衛隊の足を轢き潰した。
「しっかし、本当に凄ぇ数だな」
 鬼人は、まさに兵の数だけなら鉄壁の守りと言える布陣に、いささかげんなりした声を出す。
「なぁ、こんな無益な戦いはやめないか? 俺らは、自衛の為にやったわけだし、そっちが攻めてこなければ、そもそも、この戦いだって起きなかったわけだしな」
 それでも、無名刀を閃かせて見舞った桜花剣舞には迷いがなく、親衛隊員をバッサリと斬りつけた。
「幾ら復讐っていう大義名分があるからって、一般人の大虐殺はさせないよっ」
 カチッと乾いた音を立てて、爆破スイッチを押すのは苺だ。
 その刹那、予め戦場にばら撒いておいた『見えない地雷』が一斉に大爆発を起こした。
「自暴自棄になったって、節なはずの自分の寿命を縮めてしまうだけだと思うんだけどなっ」
 苺が元気いっぱいに脅しをかける傍らでは、マカロンも眩いばかりのブレスを吐きつけて、親衛隊員を攻撃している。
「斬り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込みゆかば 後は極楽、ってなぁ」
 梓はいかに敵兵から銃で撃たれようと、またフライパンで叩かれようとも怯まず、むしろ血塗れになりながら高笑いを続けて、奴らを脅かしていた。
 Gelegenheitによる剣戟もますます冴え渡り、卓越した技量からなる一撃が親衛隊員の急所をしかと捉えて、息の根を止めた。
「死ト希望ヲ象徴する我が花ヨ。その名に刻マレシ呪詛を解放セヨ!スノードロップの花言葉、アタシはアナタノシヲノゾミマス!」
 待雪草からその花言葉に込められた死の呪詛を解放するのはスノードロップ。
 死の呪詛は真っ白な花弁へ変じて、漆黒の羽と共に敵兵の頭上目掛けて降り注いだ。
「前の方が大変なことになってるけど、二の舞になりたくなかったら撤退した方がいいんじゃない?」
 かぐらは旧レリ軍や旧ヘルヴォール軍の戦況を持ち出して、親衛隊の動揺を誘う。
 その間にも、小型治療無人機を統率して前衛から順に守りを固めるのも忘れなかった。
「さーて前衛の壊滅も時間の問題ですよ! 王子の首、渡してもらいましょうか……!」
 装着しているクッキーちゃんから、キラキラと光輝くオウガ粒子を放出するのはミライ。
 前衛陣の超感覚を覚醒させる一方、彼女なりの剣呑な言葉でしっかりと脅迫もやっていた。


「ランディの意志と力を今ここに! ……全てを斬れ……雷光烈斬牙……!」
 蒼眞はとある冒険者の力をその身に宿し、太陽の光眩い斬霊刀を親衛隊エインヘリアル目掛けて振り下ろす。
「炎が燃やすだけのものだと思うな! 喰らえッ!!」
 グラビティを集中させて、青白い炎に覆われた脚部を用いて駆け出すのは計都。
 全速力で親衛隊員を蹴りつければ、火が急激に熱を奪って苦痛を与えた。
 内蔵ガトリング砲を一斉掃射して、親衛隊たちを蹴散らすのはこがらす丸だ。
「……刀の極意。その名、無拍子」
 鬼人は極限まで無駄を省き、洗練された刃の一閃を見舞う。
 たとえ来るとわかったところで到底躱すことなどできない一太刀に晒されて、もう何体目か判然としない親衛隊員が命を落とした。
「想像してなかったわけじゃないけど、数が多過ぎる……少しでも同士討ちしてくれないかなっ」
 と、祈るようにハートクエイクアローを射かけるのは苺だ。
 マカロンは仲間を親衛隊の攻撃から庇う傍ら、負傷具合に応じて属性インストールも使って回復もこなしていた。
「だなぁ。手前ぇの周囲の奴がどんどん減ってきゃぁ、余程の馬鹿でねぇ限り命の危険を感じてビビるだろぅと思ったが」
 梓も、マインドリングより具現化した光の剣を振り下ろして、親衛隊員へ斬りかかる。
「こりゃぁ、相当減らさねぇとわかりっこねぇんじゃねぇか?」
 手負いの雑兵から確実にトドメを刺しつつも、あまりの敵の多さに手応えは感じづらいようだ。
「おや、逃がさないデスヨ」
 スノードロップは不可視の『虚無球体』を投げつけて、こちらも弱った個体から順番に仕留めている。
「姿は見えないけど、たぶんどこかで状況を見てるんでしょうね」
 精神を極限まで集中させて、一切手を触れずに遠隔爆破を起こすかぐら。
「でも、この前の勇将さんの話しぶりだと、この戦いに戦力を出すって事は無いかな……」
 そう結論づけると、やはりこの局面は自分たちだけで乗り越えなければ、と闘志が湧いた。
 ホーフンド軍本隊中央はあくまでも本陣を崩さずにホーフンド王子を守るという姿勢で応戦しているため、ケルベロスたちの数を積極的に減らそうとしてくる事がなかった。
 ずっとそんな消極的な戦い方をしてくれていたら、8人も無理な突出さえしなければ幾らでも耐え凌げただろう。
 しかし、戦闘開始から十数分後、8人の与り知らぬところで戦況は動いていた。
 秘書官ユウフラが、単騎で本隊左翼から本隊中央へと駆けつけ、合流を果たしてしまったのである。
 それは、本隊中央の指揮権の掌握を意味する。
 ユウフラの決断は早かった。
 いかに王子の守りをガチガチに固める為とはいえ、1000体以上ものエインヘリアルを防衛に回すのは余剰が過ぎると考え、即座に遊撃隊を多数編成させて、ケルベロスの包囲殲滅を命じたのだ。
 遊撃隊編成の理由は、『安全に撤退する為に邪魔なケルベロスを追い払う』であり、この時点で8人、ひいては本隊中央担当4班の作戦『ホーフンド王子を撤退へ追い込む』自体は成功したと言える。
 だが。
「おかしい……親衛隊が妙に統率の取れた動きをしているような……」
 鬼人がそれと気づいた時にはもう遅く、8人はまんまと遊撃隊に包囲されてしまった。
「きゃぁっ!」
 臨時遊撃隊員のエインヘリアルにフライパンでぶっ叩かれて、とうとうかぐらが倒れてしまった。
「勇敢なる戦士に戦う力を与えたまえ!」
 苺も、自分の生命力を高めて仲間の回復へ奔走していたが。
 ゴスッ!
 親衛隊エインヘリアルによるフレイルの一撃をもろに背中へ喰らって、こちらも意識を手放した。
「不味いな……」
 すぐに蒼眞がディフェンダーへ移ろうとするも、今やそれを易々と許すユウフラ指揮下の遊撃隊ではない。
「先輩!!?」
 ミライの悲鳴が響く中、蒼眞も遊撃隊員の放った凶弾に腹を撃ち抜かれて、地面へ沈んだ。
 だが、慌てて前衛の穴を埋めようとするスノードロップを制して、ミライが告げる。
「私が前に出て突破口を開きます!」
 元より多勢に無勢で、今も絶え間なく鎖鉄球や火炎瓶が飛んでくる中、迷っている猶予などありはしない。
 鬼人と梓が目線で頷き合い、それぞれ蒼眞や苺を担ぎ上げる。
 かぐらを抱えた計都はすまなそうに表情を歪めるも、
「後は任せましたよ、愛柳さん」
 と、彼女の覚悟を尊重した。
 元より、メディックであるミライは、最初から自身が暴走せざるを得ない可能性を見越して、回復の優先順位を決めていたようだった。
「ヘルヴォールの旦那さんなのでしょう?」
 潜在能力を限界以上に解き放ち、取り囲む遊撃隊を全身全霊をかけて薙ぎ倒していくミライ。
 Angel voiceより響き渡る『悠久のメイズ』の衝撃波に遊撃隊員が怯んだ隙を突いて、辛くも奴らの包囲から逃れるスノードロップたち。
「戦闘力の高さであなたのこと好きになったんじゃないんでしょうから、何がなんでも! 生き残って戦い続けるのが彼女のため、エインヘリアルのためでしょう!?」
 遊撃隊を蹴散らすだけでは飽き足らず、撤退していくホーフンド王子その人にまで殴り込みをかけそうな叱咤激励——そんな絶叫が、ミライの最後の理性であった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784) 
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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