俺達は走り出したばかりだからな、この桜ロードをよ

作者:久澄零太

「ブリジットちゃんお誕生日おめでとー!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)がクラッカーを鳴らすも、当のブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)は目を丸くするばかりで。
「いきなりどうしたのだ、戦の号砲かと思ったぞ」
「ほら、もうすぐお誕生日でしょ? 普通は当日プレゼントを用意したり、美味しいもの食べたりするんだけど、ブリジットちゃんそういうの喜ばなさそうだから」
「まぁな……私にリソースを割くくらいなら、今も戦場にある同胞に使ってやってくれ」
 武人気質なブリジットなら、こう言うだろうな、と読んでいたユキは四夜・凶(泡沫の華・en0169)を示して。
「そうくると思って、パシ……助っ人を呼んでおいたよ!」
「オイコラいまパシリって……」
「誕生日を理由に無茶振りすれば、凶がなんとかしてくれるから、何かやってみたい事とかないかな?」
 凶のツッコミを無視したユキに問われ、ブリジットはふと虚空を見やる。
「そういうことなら……」

「ということで、お花見マラソンするよ!!」
 事の次第を説明したユキはコロコロと地図を広げて、商店街、及びその先にある公園を示す。
「目的地はここで、この道路を道なりに走って行ってね。途中分かれ道はあるけど、こうやって、こうなって、道なりに走ればちゃんと一本道になってるから安心してね!」
 街中を駆け抜けるなら、応援してくれる民衆に応えてもいいし、あえて全力で駆け抜けてその頼もしい背中で人々に希望を振りまいてもいい。
「目的地はこっちの公園で、現場で凶がご飯用意して待っててくれるから、みんなは手ぶらで大丈夫!」
 逆に持ち込む場合、それを抱えたまま走る必要があるため、マラソンとしての難易度が上がるだろう。
「一位には何か用意してあげたかったんだけど……お花見だし、別にいいかな?」
 きょとり、小首を傾げる白猫なり、当日走る人馬なり、この辺に無茶振りしてもいいし、無欲のまま走り抜けてもいい。


■リプレイ


「ブリジットは誕生日おめでとう。誕生日も二足歩行で訓練とはさすがだな」
「ランスルーこそ、まさか鎧姿で来るとは思わなかったぞ」
 マラソン開始前、二人の人馬が敬礼。一人はランニングウェアのブリジット。もう一人、重甲冑に盾と槍を背負ったランスルーはこれから走る街並みを眺め、頷きを一つ。
「なるほど屋内戦闘を想定した行軍訓練というわけか。騎馬兵は城内では馬を下りて徒歩で戦わねばならない。このスマホゲームでもそうなっている」
「……すまほ?」
 日々是鍛錬の精神に感心しかけたブリジットが、固まった。
「手加減はしない。いくぞ」
「いや待て、すまほげぇむとは何だ!?」
 ブリジットが気をとられている隙に、マラソン開始の銃声が響く!
「ふふーん!かけっこは大好きで大得意ですからね!一等賞になったら、白がお菓子とお寿司と焼肉を好きなだけ奢ってくれるって言ってましたから、全速力で走りますよ!」
 さぁ始まりました番犬マラソン。元気いっぱいのかりんに早速スポットライトが当たりましたが、その理由は、彼女が全体のちょうど真ん中にいるから。まずは彼女より後ろを見てみよう。
「全く……折角のブリジットの誕生日を祝う催しなのだからちゃんと走りなさい」
「うー……ゴールを目指した時にはもうゴールに辿り着いてるんだよ……!て、ゴールに先回りしてお弁当食べようとしたら引き戻されたんだよ……」
 ミニタイヤをつけたコンテナを引っ張るエヴァリーナと、彼女を嗜めるアウレリア。
「お弁当~!凶くんのお弁当~!今、食欲をパワーに……!お弁当目指して全力疾走するよ……!」
「私達は景色を楽しみながらゆっくり行きましょうか」
 コンテナを必死に引っ張るエヴァリーナと、軽やかに走るアウレリア。これが愛に生きるか食欲に生きるかの差か……。
「ふふ、こうして貴方と並んでゆっくり行くのも良いものよね」
「うわーん義姉さん待ってぇ……」

「レースラインさんはお誕生日おめでとうございます!お二人ともそのユニフォーム、とても似合ってますね!」
「えへへ、ありがとー!アコナイトさんは……何でマント?」
 空気抵抗が大きい外套に、ユキがキョトリ。ノアルはふふん、と薄い胸を張り。
「秘密兵器です!ところで、一位の人には何かご褒美があると風の噂に聞きましたが、本当なんでしょうか……?」
「あれ、やっぱり何か用意した方がよかったかな……」
 ないのかー、と察したノアルがちょっぴり落ち込んだその一方。
「……これパルクールで突っ切ったらいかんの?ダメ?」
「いや、今回は持久力を試す目的でも走っている。ショートカットはなしだ」
「……ダメかーそっかー。残念だなー。ほんなら真面目に大人しく下走ってこか」
 唇を尖らせるあすかと、真っ直ぐ前だけ見るブリジットのコンビ。いかにも速そうな二人が何でこんな後ろにいるのかって言うと。
「番犬のみんなー!がんばってー!!」
 子ども達の声にあすかはバク宙を決めてから走り出し、町の老人たちが拝み始めればブリジットはその手を重ねてからマラソンへ戻る。
「たまには一般の人と交流するのも、悪くないよね」
 ただ速さを追い求めてしまうのは、少しだけ勿体ない気がしたから。

「ぬおおおおおお!」
 一方、中には雄叫びを上げる者もいる。それが。
「騎士典範不文律ひとーつ!騎士たらん者は、常に戦場に在る心構えでいなければならない!故に、鎧を脱ぐわけにはいかんのだ!」
 重装備で来るから、まともに走れないランスルーさんです。
「こ、この程度で諦めるわけにはいかんのだー!!」
 ガッチャガッチャ……コンテナを引っ張る食欲の権化より遅い辺り、こいつ運搬系の異能すら持ってないな。
「無論!騎士たる者!!正々堂々戦ってこそだッ!!」
 果たして、最後尾の彼はそもそもゴールできるのか……!


 所変わって、かりんより前を行く速いグループ。その先頭を行くのが。
「今日の僕は本気だよ。その証拠に、マギーは応援席に置いてきた」
 レギンス、パンツ、半袖シャツと、左手に残されたいつものグローブを除けば完全にアスリートスタイルのピジョンである。相棒の電子妖精は抜け道で先回りして、応援席と化した道端から桜の映像を流してくれる。
「今の所ボクについてこれる人はいないみたいだけど……」
 肩越しに見た所で、後続はない、が。
「まだ半分も走っていない以上、ここからが本番か……今の内に、距離を稼がせてもらおう……!」

 先頭を走るピジョンから大きく下がった二番手は、ミココ。
「にゃっはっは!これは楽ちんじゃな。さすが代々我が家に伝わる神器じゃ」
 キックボードにのって、背中から伸びた光の触手で地面を蹴って進んでやがる……!?
「正直なところ、走るのは苦手での……ここは素直に道具を使う事にしたのじゃよ」
 高速で進むミココだが、何故一位にはなれないかって言うと。
「ふぉっと!?」
 えぇ、奴は曲がれないんです。キックボードは高速で乗るもんじゃないからな……。
「後ろでブリジットさんが見ていますからね、負けられません」
 おっと、後ろから追い上げてきたのは番犬部より参戦、エニーケ!
「む?妾に追いつけると思うて……」
 あ、バカ前見ろ!
「ん?街中に石ころでもあるわけのじゃー!?」
 排水溝に車輪が刺さり、慣性でミココがすぽーんっ!
「道具に頼るからそうなるのですよ」
「ぴゃあ!エニーケ速いのです!」
 地面に転がりピクピクするミココを華麗にスルーして駆け抜けるエニーケ、その後をかりんがとてちてとてちて。
「アリシア、はしる、とくい、まける、ない!」
「ぴゃー!?」
 リヤカーなんか引いてるから、車輪止めのせいで出遅れたアリシアがかりんを追い抜いて、エニーケの後ろに。
「アリシアも速いのです!……んむ?白の姿が見えませんがどこに……」
「呼んだ?」
 ぴょこっ。リヤカーから白が生えた。
「あ!アリシアに引っ張ってもらってます!?ずるいですーっ、ひきょうですーっ!男なら正々堂々と勝負するですよっ!」
「ふふふ……知恵のある者は、労せずして勝利を掴み取っていくものなんだよ……端的に言うと、アリシアさんを買収した」
 どや顔でふんぞり返る白に、かりんもぴょんこぴょんこ。
「勝てばいいんだよ、勝てば」
 スッと、白が取り出したのは釣り竿の先にぶら下がった骨付き焼肉。
「さぁ、アリシアさん……頑張って走るんだ、あの美味しそうなお肉を目指して!」
「おにく!」
 目を輝かせるアリシアだが、釣り竿でぶら下げられているのだから、追いつけるわけがない。
「……!おにく!にげる、だめ!」
「さては負けて奢るのが嫌でズルしてるですねー!?」
「……え?」
 加速するアリシアによって距離を開きながら、首を傾げる白がエニーケに並んだ。
「え、待って、何の話?」
「あら?言い出しっぺの法則ですわよ?スイーツを奢っていただく意味でも私の足がリアカーに負けるわけにはいきませんわね!」
「え……」
 記憶をたどる白、蘇る記憶……。

『普通にマラソンするだけってのも何だし、何かしらしたいよね』

「あれかー!?ちょっと待って、落ち着け?僕はそう言う意味では言って無……」
「おにくー!!」
「ッぁあああ!!?」
 アリシアがカーブに差し掛かると、彼女は車止めに飛びかかり、跳ね返る様にして直角に曲がるがリヤカーがついていけずにすっぽ抜け。
「白がリヤカーに乗っかられてるですー!?」
 吹き飛んだ白が壁に叩き付けられた挙句、リヤカーの下敷きに。
「こ、こんなはずでは……がくり」
 チーン。白はKOされた!
「ずるすると、ああなるのですね……」
 一つ学んだかりんの傍ら、アリシアがお肉はむはむ……。
「アリシア、ランチタイムです?」
 かりんに素通りされて、アリシアがハッと我に返り。
「レース、とちゅう!」
「ひゃー!アリシア速いですー!!」
 せっかく抜いたのに、瞬く間に抜き返されるかりんが必死にアリシアを追うが、その背中はあっという間に見えなくなってしまった。


「さて、そろそろか?」
 マラソンも中盤を越えた辺り、不敵に笑うのは蒼眞である。持ち込んでおいたスポーツドリンクで水分補給しながら、歩幅を広げて速度を上げる。じみーに先頭集団に張り付いていた蒼眞が、徐々にペースを上げて、逆に力尽きたピジョンが後続に追いつかれていく。
「……ハァ、あれが若さか」
 追い抜かれていくピジョンがため息交じりに見送って、先頭に躍り出たのはエニーケ、後続に蒼眞、その後を猛スピードで追い上げてくるアリシア。
「がう!エニーケ、みつけ……うしろ、くる?」
 蒼眞と並んだアリシアが後ろを見ると。
「うぉおおお!!」
「だぁらああ!!」
 土煙と共にあすかとブリジット。どうしてこうなったかってーと、数分前の事。

「んー、引き離されすぎたかなー……」
 あすかが先頭集団へ向けて額に手を当てれば、ノアルが眉間にしわを寄せる。
「うぅー、追いつけるんでしょうか?」
「厳しいと思うよ?」
 ユキの一言に、ノアルがガーンと真っ白に。
「予知ですか!?」
「違う違う、長距離を走る時はラストスパートを狙っちゃいけないの。前半で距離を稼がれちゃうと、逆転しようにも追いつけなくなっちゃうから、全体を同じペースで走るのが定石なんだよね」
「あれ、じゃあなんでユキさんはこんなにゆっくり?」
 ノアルが首を傾げると、ユキはそっと後ろを示し。
「まさかあんな重装備で走る人がいるとは思わなかったから……」
 甲冑姿で半分溶けてるランスルーや、マラソンて言うよりお散歩状態のエヴァリーナ。そして……。
「なんでダウンしてるの!?」
 リヤカーの下で力尽きている白や、おめめぐるぐるのミココの回収に走っていた。
「ユキさん、フォローの為にゆっくり走ってたのか」
「私達は勝ちに行く理由もないしな」
 ブリジットも苦笑しか出ない二人を前に、あすかがニヤァ。
「あれ?もしかして勝てない言い訳?」
 ブチッ☆
「ハッハッハ、そういうお前は、その言い訳を用意した私達に合わせていたと言い訳するわけだ?」
 プッツン☆
「フッ、フフッ……」
「ハッハッハ……」
「あわあわわ……!?」
 負けず嫌い二人の間に漂う小さな暗雲に、ノアルが震え始めた、次の瞬間。
「ヘイヘイヘーイ!いっちょ競走しようや!」
「面白い、地球人の脚を見せてもらおうじゃないか」
 ゴッ!走りながら額をぶつけ合わせるブリジットとあすか。至近距離で睨みあったかと思えば。
「脚が二本足りない事を後悔させてやるよ!」
「貴様こそ、自分の種族を理由に負けたとは言わせんぞ?」

 で、今に至る。
「なんっだあれ!?」
「さすがブリジットさん!お馬さんの脚は伊達ではりませんわ!!」
 トップに躍り出て、なお爆走する二人に蒼眞は開いた口が塞がらず、エニーケは両手を重ねて感動。
「これは私も負けていられませんわね!」
「クソッ、ラストまでスタミナを残しておくはずが……!」
 ブリジットを追いかけてエニーケがペースアップ、蒼眞も速度を上げざるを得ない。そんな彼を追い詰める人外?が二名。
「がうがうがー!!」
 獣然りといった四足走行かつ、常に全力だったが故に逆に自分のペースを崩さず追いついて来たアリシアと。
「竜の尾と翼でバランスとダウンフォースを生み出し、更なる加速に繋げて獲物を狩る……これが故郷に伝わる全力の走法です!」
 マントと服を分解、再構成してほぼ下着姿で翼を広げ、低姿勢で追随してくるノアルである。ボディラインが豊満化した彼女は肉体的成長に伴い歩幅が開き、疲労が多少とは言え回復。更に翼で空気を叩き、地面にぶつけた風圧を追い風に距離を詰めてくる。
「遅刻寸前の猛ダッシュとおっぱいダイブの飛び込みで鍛えられた俺の脚力を甘く見るな……!」
 自らを鼓舞するように言い聞かせる蒼眞であるが、いかんせん相手が悪い。
「こんな事なら、小細工ぐらい仕込むんだった……」
 正々堂々が裏目に出た蒼眞を追い抜いて、先頭集団に加わるノアルとアリシア。二人が聞いた会話が……。
「デカブツぶら下げてるくせになんてスピードしやがる!」
「戦闘時に揺れる胸ほど邪魔な物はないからな、日頃からキツめに縛ってある。自らの肉体が枷になっては笑えんだろう」
「僕への当てつけかコノヤロー!!」
「さっすがブリジットさん!走りながら精神攻撃で肺に負担をかけるだなんて策士ですわ!」
「違うぞ!?」
 アリシア、走りながら、首コテン。
「はなし、なにしてる?」
「分からなくていいと思いますよ……」
 今振り向かれたら、あすかに殺される。そんな気がしたノアルはほんのり声を抑えるのだった。
「見えた!」
 それは、誰の言葉だっただろう。ついに視界に捉えたゴールテープ。皆一様に加速する中で、ほくそ笑む者がいた。
「この時を待っておりましたわ!」
 馬に化けたエニーケだ。能力は変わらないが、番犬の筋力で、ワンコサイズの物体を、馬の如くピンポイントの圧力で撃ち出すように走り。
「戦場ならいざ知らず、単純な競争ならば私の独壇場です!」
 最後の最後で頭一つ抜きんでて、ゴールテープをその首に飾るのだった。
「クッ、ぬかった……!」
「っ~~!!」
 天を仰ぐブリジットに、じたばたするあすか、そして。
「わたしはドラゴニアンです!ドラゴニアンなんですー!」
 ブレーキが間に合ってないノアル。
「ちょ、どこまで行くの!?」
 あすかが目で追った先には、弁当を広げる強面の姿があり、熱を持った顔がサッと冷える。
「凶さん避けてー!!」
「へ?」
「サキュゴニアンって言わないでー!!」
 目を瞑って全速力で突っ込むノアルを片腕で受け止めて、クルリとターン。更に上空に向かって放り投げて勢いをいなし、重力に連れ戻される彼女をポン、とキャッチ。
「前見て走らないと危ないですよ?」
「……ほぇ?」
 凶に肩と膝を支えられて、抱かれたノアル。火照った体が、違う熱を持っていき……。
「え、あれ、あ、私今汗……はふぅ」
 カクッ、力尽きた。
「え、ちょ、アコナイトさん!?」
「これは酷い……」
 あすかはどこか遠くを見ていたとかなんとか。


「ぜーはーぜーはー……きょ、今日のところは訓練はこの辺にして、は、花見を楽しむとしようか」
「おつかれさまー」
 ユキに誘導されて、最後尾組も到着したそこは既にお花見状態。ランスルーはお茶でも酒でもなく、経口補水液をがぶ飲みしながら。
「しかし、いざこうしてみると……」
 ランスルーの視線の先には。
「はぁうぅ~……」
 おめめぐるぐるでぶっ倒れてるノアルに。
「うぅ……まだ体中が痛い……」
 全身ボロボロの白。
「食べてばっかじゃ悪いかなって思って食材いーっぱい持って来たよ。料理よろしくね~追加お弁当楽しみ~」
「なんですかコレェ!?」
 エヴァリーナからコンテナを押し付けられて絶句する凶に加えて。
「ハハッ……歳には勝てないなぁ……」
 桜の木にもたれかかって、ぐわんぐわん揺れながらお茶とおにぎりを頬張るピジョン。
「全く酷い目に遭うた……」
 派手にスッ転んだミココはおでこに角のようなたんこぶを生やし、手で弁当を食べながら背中の触腕で他の料理に手(触腕)を伸ばす。自業自得な気しかしないが、気にしたら負けだろう。
「うむ、死屍累々だな!」
 自分もぐったりして苦笑するランスルー。番犬とはいえ、辛いものは辛いという事なのだろう。
「あいつはいつも苦労枠だな……」
 一方、蒼眞は弁当をつまみ代わりに、買ってきた缶酎ハイをプシッ。
「ま、その分俺らはゆっくりさせてもらうとするか」
 と、一人ゆっくりする番犬もいれば。
「さぁ白!観念してお菓子とお寿司と焼肉を奢るがいいのです!」
「この状態の僕にそれを言う……?」
 満身創痍の白は揺さぶられて半眼になるが、かりんは逃がすものかと背中をペシペシ。
「白、おにく、やくそく!」
「やーめーてー……」
 おぉっとここで反対側からアリシアが挟撃!道中の肉では食べ足りなかったのか、白の背中をバシバシ!そんな白に、エニーケがくすり。
「男子たる者、二言はありませんわよね?」
「だからそんな事言ってないってば~……!」
 その後、白のお財布がどうなったのかは、お察しの通りである。

「ふひひっほはふ、はひはー」
「食ってから話さないか!」
 胡麻生姜稲荷寿司を口に頬張りながら挨拶するエヴァリーナに、ブリジットが一喝。ごくり、嚥下したエヴァリーナはカタログを取り出して。
「前モデルしてもらったおかげでいい洋服たっくさんできたの。送るから楽しみにしててね」
「送られても困るのだが!?私には鎧で十分……」
「それはダメだよ!」
 狸稲荷をモグモグ。
「この稲荷寿司みたいに、女の子は色んな服を着て輝くのが義務なんだよ……!」
 カリカリ梅紫蘇稲荷を手に語るエヴァリーナに、ブリジットは一言。
「服に油揚げを例えられても食欲しか感じないのだが……?」

「桜が綺麗ね。あそこの花はそろそろ開きそうかしら……今年も貴方と一緒に桜が見れて嬉しいわ」
 走り終えたアウレリアはアルベルトと身を寄せ合い、頭上で揺れる桜を見つめる。
「散ってもまた花開く桜の様に、ずっと一緒に……」
 体を預ける妻の手へ、夫は自分のそれを重ね合わせ。

 ――例え再び命を散らそうと、この愛が散る事は決してない。

 その喉が言葉を吐くことは、もうないのだろう。せめて、重ねた手の温もりが、伝わる様に……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月18日
難度:易しい
参加:12人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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