陸を走る戦闘機

作者:baron

 ブーンと音を立てて大きな機械が街にやって来る。
 プロペラでも付いているのか、グルグルと大きなブレードが回転していた。
 それだけならば飛行機……昔の複葉機に見えなくもない。
『グラビティ収集を開始します』
 だが大きな違いと言えば二つ。
 一つ目はダモクレスであり、人々を襲い始めたこと。
『逃走する存在を発見、早急に収穫を行います』
 もう一つは、地上を車の様に高速で疾走することである。
 そいつは道路を車輪で移動しながら、翼にある刃で車を次々に破壊していった。


「大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知がありました」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始めた。
「復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインが枯渇している為、戦闘力が低下しています。ですが放置すれば人々を襲ってグラビティを回収し、補給によってかつての力を取り戻すでしょう」
 そう言いながら、セリカは既に付近の町へ避難勧告を行ったと続けた。
 かつての力を取り戻す前に倒してしまうべきだろう。
「この敵は複葉機のような姿をしていますが、地上を高速で移動します。飛べるのかもしれませんが、車輪で戦う方が強いようですね」
 時間制限や、全力攻撃が可能な事、ヒールで修復すればよいので町を足場に戦っても構わないことなど、セリカは次々に伝えていく。
 建物を使っても有利にも不利にもならないが、合図は出し易くなる……など新人たちが判らないことは、戦い慣れたケルベロス達が補足しているようだ。
「プロペラによる攻撃が最も強力で、他に翼による攻撃、そして機銃による射撃があります」
「チェンソー剣かガトリングかしらんが、その辺はダモクレスの得意分野だからな」
「戦い慣れてるから対処し易いと思えばいいんじゃない?」
 確かに相手は強大で時間制限もあるが、ケルベロス達は何度も倒してきた相手である。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは許せません。今ならば間に合いますので、よろしくお願いしますね」
 セリカはそう言うと、出発の準備に急ぐのであった。


参加者
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
 

■リプレイ


 ブーンという音と、バルバルバルという音。
 音だけ聞けば飛行機とヘリコプターが出会うという事なのだろう。
 だが飛行機に見えたのは空を飛ばないダモクレスで、ヘリに見えたのはケルベロスを運ぶヘリオンだった。
「またえらくどっちつかずなダモクレスなこって。妙にでかい武器を背負った車ってことでいいのかね」
 着地した鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)は降下中に見たダモクレスに関して思いを馳せた。
「全然飛ばないし、プロペラの使い方が何かちょっと違うよね。複葉機っぽくない!」
 颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)はきゅっきゅと音を立て、ビル壁を歩きながら合流した。
 地面に降りても音はしないので、きっとワザと可愛らしい足音を立てたのだろう。
「ちはるちゃんはちゃんと忍者っぽいもんねっ。だからそれっぽさなら断然、ちはるちゃんの勝ち!」
「……ま、ここで俺等に壊されるんだからどっちでもいいけどよ」
 忍者は隠れる能力があると同時にワザと目立てるんだよーと、ちはるが解説を入れるのだが……。
 道弘としてはどうしてそんな話題になったのか分からないので、周囲を確認して一般人が居ないかだけを確認することにした。
「いや、うん。それだけ……」
 ……きっと自分がどっちつかずではないことを、なんとか証明したかったのかもしれない。
 ちはるが黄昏ている間にも、仲間たちは集結し、あるいは一定間隔をとってゆるやかな迎撃態勢を作り始める。
「しかし空に飛び立てる速度で駆け抜けてくる辻斬りか……」
 コンプレックスとかあまり興味ない(というか鈍感な)タイプのヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は冷静に能力を把握する。
 移動攻撃がメインで火力が高い相手というのは、それだけで脅威なのだ。
「中々厄介だが、上空からの爆撃よりはマシか」
「それでも制限時間があるから、短期決着を付けないとね」
 ヒエルの言葉に頷くも笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は少しだけ目を細めて遠くを確認した。
「戦闘機だと思えば、とてもカッコいいよね」
「あまり詳しくないのだけど、色々と武器を搭載しているのは、かなり高性能っぽいね」
 氷花の言葉に四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)は少しだけ空想を巡らせた。
 先ほどヒエルも言っていたではないか。空を飛びそうな速度での斬撃。
 あれはもはや飛行機の形をした刀、斬艦刀だとか斬山刀というべきモノではないかと。
「まぁ、僕達もそう簡単に負ける訳にはいかないけどね」
「……任務だものね。そろそろ時間だし注意しましょう」
 司は足を止め高いビルの上でアラームを確かめる。
 同じようなビルの上から、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)がハンドサインを出して時間確認を要望したからだ。

 その間にも前衛陣は歩を進め、家屋やアパートの上を飛び跳ねる。
 あるいはキャリバーに乗って疾走し、ダモクレスの進路を抑えにかかった。
「このまま町中を走られたらとっても迷惑だし、さっさと倒してしまおうっか」
「OKOK。さっさと倒して楽しくいこう」
 氷花を口説いているかのように柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)傍に降り立った。
 屋根を足場に走り込み、その場に立つのが目的であるかのように。
 もちろん彼は本気だとも。口説いているわけではないが、女と共にある人生と言うのは素晴らしいじゃないか。
『戦闘行動を開始します』
「ひゅーっ! 間一髪ーっう!」
 清春はハンマーを振り抜いて、飛びこんで来るダモクレスを迎え討ったのだ。
 カバーの為に氷花の傍に寄ったのである(はず)。プロペラ上のブレードがガリガリとハンマーを削っていく。
「……一分目をスタート。今回は五分目に宣告するから気を付けてね」
 いきなりの攻撃にもキリクライシャは顔色を変えずに時間を告げ、ケルベロス側も攻撃を始めた。


 高速で突っ込んできた敵に清春が合わせることができた。
 それはすなわち、ケルベロス側も動いていたという事だ。
「まあ最初はこんなもんだろうよ」
 道弘はダモクレスに血被くと無造作にヤクザキックをかました。
 彼自身はそうでもないが、仲間たちの能力を見ると不安が残る。だからこそ動きを鈍らせようとしたのである。
「はっやいねー。でもまあ、ちはるちゃんが見逃すほどじゃなかったかな。いっくよー」
 ちはるも同じように動きを目に掛かり、地面のアスファルトを砕いて敵の進路を妨害する。
 同時にその残骸を武器としてぶつけたのである。
「うおぉ……ォォォ!!」
 一方でヒエルはシンプルに立ち塞がった。
 敵の正面に立って来るなら来いと雄たけびを上げ、闘気で周囲を爆破することで共に戦う皆を鼓舞したのだ。
「あはは♪ 自分と当て易くなったね。これからタップリ切り刻んであげるね!」
 氷花は踊るように飛び出して、動きを止めたダモクレスに躍りかかった。
 爆風に乗って加速し、飛行機に似たその姿をオイルまみれにしてやろうと切り刻んだのだ。
「おらおら! 水に落ちた犬は叩けってな! まあ落ちてなくても叩くんだけどよ!!」
 清春もその包囲網に加わり、敵機を足蹴にして動きを止めに掛かった。
 乱雑に蹴り続け、そのうち止まればよいやと景気よく攻撃を繰り返していたのである。
「……照らして、全てを明るみの中へ」
「助かったぜキリクライシャちゃん。ヒュー♪ あいし……」
 ……キリクライシャは思わず太陽の光がもつ浄化の力をキャンセルしようかと思った。
 抽出した浄化の力を光の珠へと変換し、清春へと飛ばしているのだが……チャラ男というのはこういうものかと遠い目をする。
「凄い早さだけど、僕のこの剣技を、避けられるかな?」
 司はレイピアを眼前に構え、そのまま華麗に振りかざした。
 斬撃ではなく刺突のソニックブーム。高速の衝撃波は相手の移動先を次々捉え、動きを阻害していった。
『妨害を排除します』
 このダモクレスは空を飛びはしない。
 だが周囲を囲まれたくらいで封じ込められると思ったら大間違いだ。
 その場で回転して、複数ある翼を刃としてその場で大回転をかけたのである。
「やらせん! ここで止める!」
「だりぃな!」
 ヒエルと清春はその動きを封じようとして、その都度跳ね飛ばされていた。
 だがそれで十分、味方を守れているならば十分だ。
 例え体が傷つこうとも、仲間たちが治療してくれるのだから。ヒエルは期待ではなく信頼を、清春はできれば女の子に治療されたいなあとか思いながら攻撃を再開した。


 数分の時間が経ち、ケルベロス達の動きハダイレクトなものに変わった。
 フェイントを入れたり牽制を踏む段階から、より火力の高い技に切り替えていったのだ。
「この刃でどこを切ってあげようかな」
 氷花は相手の姿を見定めると、まだ無事な場所を選んで切り付けていった。
 特に仲間の仕掛けた負荷と負荷の中間。そこを切断すれば、一気に燃え広がるような場所を漆黒の刃で切り裂いていく。
「何倍返しがお好みだ。あー?」
 清春はゼロ距離からライフルを押し付けてダモクレスに次々と撃ち込んだ。
 ドンドンと鈍い音がして、グラビティが敵を押さえつける。
 そして今度はハンマーを構え直し、何処を殴りつけようかと悩み始めた。
「……回復は必要かしら?」
「問題ない。この程度では倒れん」
 キリクライシャが念のために尋ねると、先ほどから自己回復に徹しているヒエルは傷などなかったように身構えていた。
 既に魂が肉体を凌駕しているかのようだ。
「……そう。じゃあこの子ね。リオンは残った傷を見て判断して」
「ありがとー。ちふゆちゃんもありがとだってさー」
 キリクライシャが縛鎖で防壁を広げると、ちはるは妹分であるキャリバーのちふゆの代わりにお礼を言う事にした。
 回復し得くれるし防壁は身を守ってくれるのでとてもありがたい。
 ああ、そうだね。テレビウムのバーミリオンも一緒に応援しているよっ!
「この動きに、付いて来られるかな?」
 司がスライディング気味に相手の攻撃をかわしつつ、炎をまとった蹴りを浴びせる。
 それと入れ替わる様に盾役の仲間たちが前に出て、ダモクレスの攻撃を受けとめに掛かった。
『ターゲット・ロック。発射』
「やらせるかっつーの! っていうか、今回はやろうかよ。まあ庇っちまったもんは仕方ねえ」
 清春が横っ飛びで機銃に割り込むが、腹を抑えつつ憎まれ口を叩く辺りはまだ大丈夫だろうか?
 もちろん仲間たちは彼を放置することなく、ちゃんと回復してくれるからね。
「確か、この辺りだったか。ムウン!」
 道弘は刃を装甲版に当てた後で徐々に力をかけ敵に穴をあけた。
 そこは先ほど氷花が切り込んだ場所だが、後で同じような技を使う事をイメージして、大穴をあけることで内部機構にもダメージが行くようにしたのだ。
「おいで、有象無象。餌の時間だよ。――忍法・五体剥離の術」
 ちはるはその穴に向けて貫手を突き込んだ。
 その際に内部機構の一部に触れ、印を刻んで内部から毒虫たちを発生し始める。
 虫たちはケーブルを千切ったりパイプを食ったり、あるいは電子信号に進化して中から敵を狂わせるのであった。
「順調だが油断するな! いつ全力攻撃が飛んでくるか分からない!」
 ヒエルはそういってエールを送ると同時に、仲間たちに危険を喚起する。
 そしてケルベロスとダモクレスの戦いは終盤へと差し掛かった。

●四章
 さらに数分が過ぎ、戦いはまさに佳境だった。
「氷結の螺旋で、その身を凍えさせてあげ……この反応!」
「はははっ、ヤベーのきそうだぜ! おい」
 司の放った凍気や、清春が振り下ろしているハンマーが跳ねのけられた。
 正確には食らったまま、強引に上空へと敵が跳ねたのだ。
「……五分目終了。六分目なんだけど、全力攻撃なのかしらね……とにかく、倒れない事、倒れさせない事」
 キリクライシャは急降下をかけてくる敵が迫る前に、仲間たちの様子を確認した。
 一応は数人掛かりで怪我人を治療してりうが、100%万全とは言えない。
 ヒール不能なダメージ累積や、相手が攻撃型なので押し切られる可能性はゼロではないからだ。
『カウントダウン省略、全力攻撃開始』
 ダモクレスは地面に激突しそうなほどの勢いで急降下をかけた。
 その時にいつもの二倍の加速で、更にキリモミ飛行を掛ける事でさらなる火力を出す。
 これに落下での衝撃を加えれば、恐ろしい威力になるだろう。
「くそがっ!? 死んだぞテメ―エ!!」
「その動きごと抑え込む!」
 清春を引き割きヒエルの胴に刃がめり込んだ。
 だがここで動きが鈍る、キャリバーのちふゆちゃんを切り裂いて止まった。
 ブロックした清春や、肉を切らせて骨を断とうとしたヒエルの筋肉が防ぎ止めたと言えよう。
「よし、みんな無事だな! ここで終わらせるぞ!」
 道弘は逆手に構えた彫刻刀を力いっぱい敵に振り下ろした。
 ガッツリと抉り込むのだが、先歩までの手応えがない。
 地面にぶつかったわけではないので、力を使い果たしたのだろう。
「このまま、食らわせてやる!」
 ヒエルは肉に刃が食い込んだまま、筋肉を引き締めて手を振り上げた。
 頭上で両手を大きな拳に組み直し、力いっぱい叩きつけたのである。
「トドメおねがーい」
「逃げられると厄介だね、これで終わらせてあげるよ」
 ちはるは凍気を固めて手裏剣として投げると、氷花にトドメを任せた。
 魔力の氷でできた杭を打ち込み、氷花が最後の一撃を放つ。
『活動再か、さいさ……停止。します』
 最後にそう言い残して、ダモクレスは地面に落下したのである。

「……傷診てあげるわ」
「すまないな。助かる」
 キリクライシャの申し出へヒエルは素直に頷いた。
 暖かな光が吸い込まれていく中で、ようやく締めていた筋肉を緩めることができた。
「キリクライシャちゃ~ん。こっちもおねが……」
「気を抜くにはまだ早ぇぞ――喝! 修復作業を始める!」
 清春としては女の子に優しく開放して欲しかったが、道弘が近づいてきたので逃げ出すことにした。
 傷が気にならなくなるくらい勇気つけられた……のではなく、単に男にはそっけないだけである。
 まあ道弘としても教育的指導というか、セクハラ対策を兼ねてヒールを始めただけだが。
「後は町のヒールかぁ、ちょっと大変そうだけど頑張ろう!」
「そうだね。まあ無事に終わったんだし、このくらいは大したことないと思っておこうか」
 氷花が歌い始めると司はバトンを一振り、その場を修復しながら翼を広げた。
「さっきの全力攻撃で傷ついた場所を見て来るよ。もしかしたら上も傷ついてるかもしれないし」
「それなら俺は封印されていた方に向かうか。しかし複葉機……彼らの世界でも必要な形状の個体なのか、それとも地球に合わせて作られた形状の固体なのか」
 ヒエルはダモクレスは未だに分からない事も多いなと呟きながら、郊外の方に歩いて移動する。
 道々修復していけば、いつか傷の無い場所に行き当たるだろう。
「こんな所よね? さすがにみんなでやると早く終わるかな」
「……そうね。お疲れ様……ちゃんと終わってるみたいね」
 氷花の歌と共に一通り修復が終わる。
 キリクライシャはねぎらいの言葉をかけつつ、町の様子や仲間の様子を再確認した。
「それじゃあ俺の方から終わったと連絡しておこう」
 道弘は携帯電話を取り出すと、避難勧告の解除を通達した。
 今頃は警察や役所の人間から、広い範囲の人間に伝わっている事だろう。
「良くがんばったちふゆちゃんにも、メンテしとかないと……」
「終わった終わった。あ、要る?」
 ちはるは清春からお酒を勧められた時、そのまま即答で頷いた。
 お酒スキーとしては断れないよねー。と分身を出して車体担当と、タイヤ担当と、エンジン担当という風に作業を肩代わりする。
 なおチャラ男、お酒、あっさっし……。という事にはならないので安心だ。
 清春だってケルベロスだし女の子には優しいのだ。ちはるちゃんだって忍者だもんね! むしろ同じことをやるから、油断はしません!
「今日も無事に終わったようだね。今夜もよく眠れそうだ」
 司はビルの上から仲間たちが去る姿を見下ろし、自身も翼をはためかせて帰還したのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月31日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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