男って浮気する事に喜びを感じるんですって

作者:久澄零太

「人はマンネリに殺されるものである」
 はいそこ哲学かな、とか言わない。鳥さんなんだからそんな難しい話なわけないでしょ。
「変わらぬ日常、変わらぬ関係、それはいつしか愛すら腐らせる」
 はい、そろそろオチいきますよー?
「つまり、夫が不倫する事でこそ、夫婦愛は強くなるのだ」
 ちょっと何言ってるかわからないかもしれないが、まぁまずは最後まで聞いてほしい。
「夫が浮気する。そこだけ抜き取ればただのクソ野郎だが、夫を失う危機を前にして、妻は己を磨き、夫もまた他の女と関係を持つ事で愛した妻の素晴らしさを再確認できる……つまり、浮気とは夫の甲斐性なのだ」
 揃いも揃って左手薬指にシルバーリングした信者を前に、鳥さんは翼を広げた。
「行くぞ同志達。夫婦愛は浮気にこそ磨かれると広めるのだ!」
『イェス浮気! ゴーラブ!!』

「みんな大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とあるビルを示す。
「ここの今は休業中で閉鎖されてるレストランに、夫は浮気すべきってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
「滅ぼしましょう?」
 怒り狂い、一周回って穏やかな微笑みと共に地獄の翼がバーナーと化している四夜・凶(泡沫の華・en0169)をアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)とその夫、アルベルトが宥める。
「気持ちは分かるわ。けれど、滅ぼす前に地獄を味合わせましょう?」
 夫婦愛が強い分、こっちの二人にも容赦なんてなかった。
「えっと……信者には夫婦愛を見せつけてあげると目を覚ましてくれるよ。夫婦じゃなくても、一途な愛情を語ると目を覚ましてくれるみたい」
 ユキですら困惑する気迫の三人組……この部隊のブレーキ役になってしまった番犬はさぞや苦労するだろう。
「あ、近くにはアイスが美味しい喫茶店があるから、ゆっくり冷まして落ち着いてから帰ってきてね?」
 主に三人組をクールダウンさせて欲しそうな顔で、白猫は番犬達を見送るのだった。


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)

■リプレイ


「ユキちゃん、私はね、アイス食べたいだけだったんだ……」
 ストッパー役絶賛大募集中の札を掲げたエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は、二挺の機関銃に加えて背中には対戦車砲を担ぎ、その身に弾帯を巻き付けたアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)を横目に呟いた。
「これ絶対血の雨が降るやつ……」
 武装チェックするアルベルトも含めて、違う意味で暴走状態の二人はどちらも身内であるが、もはや彼女の手に負えない。
「太陽騎士ならまとめられたり……」
 助けを求める視線に、ユキが無言で示したのは、いつもは火の粉ですら羽根を一枚一枚再現する凶の翼がただの噴炎になっている様。
「……もう帰って良いか……?」
 愛に溢れるが故にバーサークする夫婦や、恋愛脳故にODAYAKAスマイルのジェノサイダーを前に、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)はユキの胸に頬をすりすり。
「……何してるの?」
「こんなリア充空間やってられるか!おっぱいダイブでもしなきゃ身が持たな……」
 ガッ!蒼眞の頭を鷲掴みにしたユキが、凶並みに優しく微笑んで。
「あだだだだ!?」
 頭蓋が悲鳴を上げる蒼眞の顔面に膝が撃ち込まれて、ユキの指先がその根元に繋がる独特の構え。
「この……」
 片脚と拳を引き、狙うは鳩尾。
「ド変態ぃいいい!!」
 打ちだした拳の着弾と同時に拳が握り込まれて、握力で衝撃を叩きこむ二段構えの鉄拳が蒼眞の腹を基点にその全身を強打!
「ゴボォ!?」
 一瞬白目を剥いた蒼眞は折れ曲がったまま吹っ飛び、空へ旅立って行った……。
「太陽機どつき落とし漫才……一度生で見てみたかったのですよね」
 支援部隊のディッセンバーは、受け身もとらずに降下していく番犬を見送って。
「……誰?」
「この度、大神様より「ブレーキ役」の補助の要請を請けましたディッセンバー・クレイと申します。見ての通りの執事です」
 疑問符を浮かべたエヴァリーナへ恭しく一礼。まさかこいつがあんなことになるとは……。


「夫婦愛は浮気にこそ磨かれ」
 パリィン!鳥さんが説教してると窓を粉砕してアウレリアがデンジャラスお邪魔します。鳥オバケにドロップキックして転倒させ、両手の機関銃を押し付けてトリガー。引きっぱなしの連射に弾倉が空になるが、体に巻いた次弾が消費されていく。全ての鉛弾を叩き付けた銃を放り捨てると、背中にあった大砲を押し付ける形で零距離爆破。轟音と粉塵の中、床をぶち抜いて下の階層へと消し飛ぶ事になった鳥さんを見下ろして、アウレリアが髪を一撫で。
「死ぬ程痛いでしょう?けれど愛を裏切る罪は、その程度の苦痛で贖えはしなくてよ」
 頭にアホみたいな衝撃を叩きこまれて、おねんねしてる鳥さんに聞こえてないと思うよ?
『きょ、教祖様ー!?』
「私でもダメだってわかりますよこれ」
 無残な末路を辿った鳥オバケを前に、信者一同絶叫。しかしそこへ、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)が半眼でツッコミ。
「浮気行為は危険ですよ、バレた場合のリスクが大きいですからね」
 まずは落ち着きましょう、と両手で信者を宥めつつ、シフカお手製の「よく分かる不倫物語」なる紙芝居をぺらり。
「まず家庭を失います。特別な理由がない限り、浮気するような人と一緒に生活したくないですからね。家の名義が自分で無い場合は追い出される可能性もあります。そして婚約や結婚をしている場合はお金を失います。慰謝料を請求されるわけですね。相場は七、八桁だと聞いています。車買えちゃう額ですよこれ」
 ぺらり、出てきたのは丸を二つ、半分だけ重ねたような図。
「いわゆる財産分与ですが、基本は半分に分けられるそうです。夫婦で生活を維持していたとされるからですね。これに含まれないのは個人的に作った財産と言われていますが……誰のおかげでその財産を築けたんでしょうね?」
 パートナーが支えてくれるからそういう個人資産もつくれるのでは?と眼光で圧をかけつつ、ぺらり。
「更に、社会的な立場を失います。浮気行為をする者を許す人なんて極めて稀です。周囲から嫌われ後ろ指をさされ……会社や学校での居場所を失うことになるのです」
 大々的に書かれた信用問題の文字が崩壊していくイラスト示しながら、改めて湿った視線を、じー。
「それでも浮気、できますか?得られる快楽よりも失うリスクのが大きいですけど?」
「結婚を約束した人はまだいないから、夫婦愛とかは分からない部分もあるけど、浮気はダメだな。信頼あっての愛だと思うぞ。それはそれとして弟は可愛い」
 隣で頷くルーク・アルカード(白麗・e04248)は自分を示して。
「俺の両親は本当の親じゃないけれど、それでも愛情いっぱいに育ててくれた。そんな両親だが、人前でもイチャつくくらい仲が良い。浮気なんて考えた事もないんだろうな。家族は大事だろう?それはそれとして弟は可愛い」
「あ、そうでした」
 ルークの言葉で思い出したように、シフカがぺらり。
「子どももまた財産と同様、親権が分けられますが、今は子どもが親を選べる時代らしいですよ。一定以上の年齢であれば、親権者の決定の際に子ども本人の陳述が求められるのです」
「つまり、愛情がないと全てを失うって事だな。それはそれとして弟は可愛い」
 さっきからなんなの?兄弟愛で洗脳したいの?サブリミナルブラコンなの!?
「弟が可愛いのがいけない」
 真顔で尻尾はぶんぶん。駄目だこいつ完全にブラコンに染まってやがる……。
「いや待て、我々は離婚を目的にするわけでは……」
 鳥さんが這い上がってきた瞬間、その手羽先をシフカがガッ!パンプスの踵で踏み躙り。
「ややこしくなるから出てこないでください」
 愛を語れって言ってんのに、リスクなんか語るから鳥オバケが湧きだしてしまったが、物理的に沈黙させるシフカ。この人変な所で脳筋な気がするの俺だけかな?


「あまり幸せではない結婚生活を送っているせいで妙な教義に傾倒した、というのなら多少は同情の余地はあるが……」
 鳥さんをシフカが踏みつけて、手羽先をルークが引っぺがそうとする一方で、蒼眞は信者の一人の肩を両手で掴み。
「今すぐその教義を捨てるんだ。さもないと殺される……程度で済めば幸せだと思える程の地獄を見る事になるぞ」
 蒼眞はスカートの下から部品をばら撒き、アンチマテリアルライフルを組み立て始めたアウレリアと、その隣でC4を製作し始めたアルベルトを示して。
「地獄を味合わされたあげくに滅ぼされたくなかったから、浮気とか不倫は止めたらいいんじゃないかなぁ」
 エヴァリーナはむしろビルシャナを引きずり上げるなり、翼の地獄の余波に当ててジワジワと火炙りにする凶を示す。
「んっとね、私はまだ結婚してないけどちっちゃい頃から『大人になったら結婚しようね』って約束してる幼馴染みで彼氏なたっくんがいるんだけども……」
「え、許嫁がいらしたんですか?」
「ボンジリィ!?」
 凶が反応して振り返ったせいで、翼で直火焼きされる鳥さんの悲鳴に耳を塞ぎつつ。
「もしもたっくんが他の人と浮気とか不倫したら泣いちゃう……ううん、悲しすぎて死んじゃうよ。信者さん達もずっと幸せで一緒にいたくて結婚したんじゃないの?奥さん泣いちゃってもいいの?」
「泣かなかったとしても、浮気して綺麗に終わらせるのはかなり難しいぞ?それこそ刺されたりしてな……?」
「お金の切れ目は御縁の切れ目です」
「それはそれとして弟は可愛い」
 蒼眞の左右からシフカとルークが「慰謝料」と「弟LOVE」のフリップを手にニョキッ。お前ら準備いいな……。
「それは浮気の仕方が下手過ぎるだけなんじゃ……」
 極端な例を前に、信者が苦笑するとカテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)が両手を軽く広げて首を左右に、やれやれ。
「浮気な奴らと同い年の長男スティックにパニッシュのお時間でござる」
 こいつ何言ってんだ?って顔する信者達へ、カテリーナは腕組みしながら人差し指を立ててふっへっへ。
「長男と言えば長兄、長兄と言えば世紀末な覇者でござろう」
 ノースの方のフィストな気配がするが、その辺は置いといて。
「世紀末な覇者がハーレム物のラノベとかエロゲの主人公みたいに、ラッキースケベとか多角関係とかになるわけないでござる。曲がり角で出会い頭に眼鏡っ子とぶつかって、押し倒してπタッチするような世紀末な覇者はクーリングオフでござろう」
 ちょっと何言ってるか分からない状態だが、まだ続きます。
「眼鏡ガールにπタッチして、「……す、すまぬ」とか謝ってるのにビンタされたり、週末の予定が幼なじみ系元気っ子とセクシー系な先輩からのお誘いがダブルブッキングして、どうすればいいかマブダチの聖帝くんに相談してみたら余計に悩んだりとか……まあ、お主等は悩みもせずに両方にライドしにいくつもりでござろうが」
「え、あの人なんの話してるの……?」
「来季の深夜アニメじゃないか?」
 ひそひそと相談を始めた信者達に、カテリーナは首を傾げ。
「どこの長男ですと?」
「いや聞いてないよ」
 カテリーナは両手の指先を重ねて、ぷいっ。
「お主らの股座の長男棒に決まってござろう?言わせんな恥ずかしいでござる」
 おいコイツ第四のバーサーカーじゃねぇか!?
「躾のなってない長男スティックは、獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすように、ちょっきんと斬り落とすべしで候」
「あんた何してんのよ」
「この出来損ない野郎共のナニを……」
 ピタと、カテリーナが固まった。ギ、ギ、ギ。錆びついた歯車っぽく振り向けば、感情の見えない目でジッと見てくるリティ。
「げぇっ!姉上!?」
「何がげぇ、よ。一般人を傷つけるなって言われてるでしょうが」
 額を突き合わせるリティに、冷や汗(機人だからオイルかもしれない)ダラダラで目を逸らす妹ちゃん。
「姉……?」
 その光景に首を傾げたのは信者である。何故か?二人の身長差……具体的にはカテリーナの方が定規一本分くらい背が高く、身体特徴としてのバンキュボンもまぁ、はい。
「別に大きい方が姉だなんて、法律や世界の法則で決まってる訳じゃない」
「ちょ、姉上何するでござ……」
 妹砲、発射!
「にょわぁああああ!?」
「ちょ、なにす……」
 ッドーン!!
「これ以上私を怒らせると、稲妻大佐に頼んでパーティーパックにしてもらう事になるぞ……」
 ビッと、リティの指が後方を示して。
「あっちの教祖をな!!」
「その件は私関係ないよね!?」
 グリルビルシャナからツッコミが飛び、信者をストライッ!したカテリーナは。
「てゆーか姉上……信者を傷つけるなって言っておいて……バタリ」
 カテリーナは力尽きた……。


「皆さん一旦落ち着きま……」
 ッガァン!!
「しょー……?」
 ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)の後方から響く轟音。振り向けば、硝煙を上げるライフルからアウレリアが空薬莢を排出し、壁に体が半分埋まって痙攣する鳥オバケに爆弾を貼りつけるアルベルト……。
「逆に考えてみて欲しいんです」
 のほほんとした気配を脱ぎ捨てて、真顔で迫るノアル曰く。
「もし、奥さんが他の男性になびいたらどう思います?自分に魅力が足りないからだ、なんて殊勝な考えよりも先に不誠実だとか見損なったという気持ちが芽生えると思いますが……今のあなた方はそういう目で見られているんですよ!その薬指に光る指輪に込められた誓いを、今一度思い出してください!」
「いや、男の浮気は甲斐性って法律でも昔から決まってるし……」
「いつの時代の話ですか!?」
 時代遅れな事を宣う信者に、手をブンブン振り回して遺憾の念を示してから。
「結婚というのは、同じ方向を向いて同じ道を歩み、幸せを分かり合い困難を分かち合うことなんです!それが出来ない人は、こんな結末が待っているんですよ……」
 ジャン、と出てきたのは人魂。
「まずね、最初に感じたのは痛いじゃなくて熱いだったのよ……お腹から飛び出した刃物を見た途端、痛みを自覚しちゃってねぇ……」
 口調の割に声が低い人魂に、もう一つの人魂が寄り添っていくと二つは重なって。
「アタシ犯人ぶちのめしてやろうと思って、振り返ったわけ。そしたらウチの嫁が泣きながらアタシの事刺しててねぇ……ビックリしてる隙に殺されちゃった☆」
「嫁?え、オカマ……?」
 信者が呆然とすると、人魂から衝撃の事実。
「嫁がアタシ殺した後、タマ切り取った挙句、自分も喉刺して死んじゃったの。でも……だからこそ、今は一途に愛せるわ」
 ちょっとノアル?お前ヤバいの連れて来てない?
「ふふふ、ハードな体験談をお持ちの方に来ていただきました!」
 ドヤッと胸を張るノアルだが、これ完全にヤベー奴じゃねぇか!?
「なぁ……」
 信者が震えあがる中、蒼眞があることに気づいた。
「なんであそこ暴走してるんだ?」
 示した先には、「マンネリとかあり得ないんだけど毎日毎日うちの妻が可愛くて死ぬとか結婚生活が幸せすぎて俺今日死ぬんじゃないかなとか俺の嫁が愛おしすぎて辛いとかむしろ死んでからも嫁が好きすぎて嫁の才能を食い潰してでもまた会いに来ちゃったくらいですけど?」と、ツラツラ筆談するアルベルトの傍ら、機関砲構えたアウレリアの前に異形を吊し上げる凶。
「どっちが敵かわからないんだけど……四夜になんて指示したんだ?」
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)の方へ振り向くと、プルプルしてた。泣き出しそうな顔で唇を噛み、むしろ一回泣いたのか顔を赤らめてめっちゃプルプルしてた……胸の前で、見覚えのある書類を広げたまま。
「それ作戦行動書じゃないですか!?」
 ノアルにツッコまれ、エメラルドは、クッ!
「済まない……朝八時までに出せばいけると思ったんだ……でも、土曜日だったから油断して……!」
 盛大に寝過ごしたらしいエメラルドは出撃前のブリーフィングなしでここにいる。つまり……。
「四夜さんに連絡は……?」
 ノアルから深淵の眼差しを向けられて、エメラルドはガクッ……!
「何も……伝わっていない……!」
 元々は凶に指示が入るはずだったが、伝達役のエメラルドがこれである。元が生真面目な彼女は槍を構えて。
「クッ、殺す!責任は私にある……奴を殺して事件を解決して見せる!!」
 バーサーカーの追加入りまーす。
「まずい!教祖様をお守り……」
「困った自殺志願者達ね」
 カコン、機関砲に弾帯を連結したアウレリアが首だけ、信者に向き。
「不倫で強くなる夫婦愛なんてある訳ないでしょう。私の夫は死すらも超越して傍にいてくれる夫だけれど、愛する思いは日々高まるばかりよ」
 内容は惚気なのに、何故かうすら寒いのは、彼女の目が虚無ってるからかもしれない。
「あり得ないけれど億……いいえ無量大数が一にでも夫が浮気なんてするなら……そんな運命を許す世界なんて必要ないから全てを滅ぼすわ」
 ビクッ!虚無の目を向けられたアルベルトが震え、信者達は察した。
「こいつ頭のネジぶっ飛んでるぞ!?」
「はい、お帰りはこちらですよ」
 アウレリアの暴挙に合わせて、イッパイアッテナがドアを開き、信者一同を誘導。全員の退去を確認して、ニコリ。
「アウレリアさんは思慮深い生真面目さん。アルベルトさんは健気な旦那さん。ご夫妻には思うが儘、その心根を発揮し活躍して欲しいです」
「発揮した結果建物が瓦解しそうですし、我々でヒールを先に始めましょうか」
 イッパイアッテナとディッセンバーが修復に当たるが……そこからは阿鼻叫喚である。機関砲からばら撒かれる弾幕はコンクリ製の建築物諸共異形を嬲り、凶の拳が鳥の内臓まで衝撃でぶち抜く。殺意入り乱れる戦場の中、顔を真っ赤にして瞳に渦を描いたエメラルドが槍で異形を突き刺して。
「死ね!死んで無くなれ!!むしろ今日という一日を消し去ってくれぇ!!」
 号泣しながら幾度となく異形を床に叩きつける有様は、違う意味で酷い光景だったという……。

「「アイス、全部」」
 ルークとエヴァリーナ、喫茶店に入った第一声がこれである。
「折角メニューがあるんだ、ならば網羅するのがマナーというモノだろう」
 などとチョコ、カスタード、苺を頬張りつつ、間にバニラを挟んでその都度口直ししながら攻略を進めるルークは、コーヒーを吸った砂糖……もとい、砂糖を入れ過ぎたコーヒーをずずー。
「おかわりー!」
 エヴァリーナ?奴は論外だ。ベーシックはもちろん、ピスタチオ、アーモンド、珈琲といった豆シリーズから日替わりフレーバー、ラムレーズン、ミックスフルーツに至るまで、頼んだ物を飲み干す暴挙。瞬く間にショーケースが彩りを失う様に店員も色彩を失う。だから……。
「こちらの甘い物でもいかがですか?」
「クッキー?ありが……うきゅっ!?」
 ディッセンバーの差し出した硬度のおかしいメレンゲの前に撃沈したのも、仕方のない事である。
「世の中には色んなお菓子があるんですね~」
 先日、闇鍋でヤベェ代物を目撃したノアルは世界の広さを再確認するが。
「四夜さんて自分の恋バナってしませんよね。なんでですか?」
 じっと、パフェを頬張りながら視線を向けると。
「……秘密です」
「え~……」
 凶は小さく笑って、ノアルはへにょりとテーブルに溶けるのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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