花見の場所取り強要、許せない!

作者:神無月シュン

 春の陽気に桜の花も咲き始め、花見をする人たちが増えてきたある日。
 昨夜からの場所取りだろう。沢山の桜が植えられている自然公園の所々にブルーシートが敷かれていた。
「やあ、場所取りご苦労」
 偉そうな男がブルーシートの前にやってくると、そこには場所取りを命じた人物のほかに、鳥と人間の合わさった様な異形の姿のビルシャナがブルーシートの中央に座していた。
「ようやく来たか……」
「なんだ貴様は!」
「相手の都合も考えず、夜通し花見の場所取りをさせるお前のような奴、私は絶対に許さない!」
 偉そうな男の質問に答えず、ビルシャナは立ち上がると、叫びながら男に詰め寄っていく。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
「ハッハッハ。逃がすと思うか? これだけ場所取りしている奴が居るんだ。手早くお前を始末して、次の相手を待つとしようか!」
 ビルシャナは笑みを浮かべながら、逃げた男を追いかけた。


「とある自然公園にて、ビルシャナが花見の場所取りを強要した人を襲撃する事件が予知されました」
 集まったメンバーに一礼すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を始めた。
「暖かくなってきて、桜もそろそろ見頃ですよね。そうなると花見も増えますね」
 今回の事件を予期していた七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)はセリカの説明を聞きながら頷いていた。
「場所取りをさせられていた人たちが、ビルシャナの主張に賛同し配下となっています」
 ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナと共に戦闘に参加してくる。
 ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だが、攻撃に巻き込まれた人たちが無事に済むわけがない。それを阻止する為にもビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。

「ビルシャナの戦闘力は高くはありませんが、配下となった人たち10名と共に襲い掛かられると、ビルシャナだけを狙って倒すのは困難でしょう」
「私たちの説得で配下の人数をどれだけ減らせるかが重要ですね」
「はい、そうなるでしょう。配下の人たちは『春とはいえ夜はまだ寒い中、一晩中場所取りをさせられるのは堪ったもんじゃない』『人任せにしておいて、のんびりやって来るとか腹が立つ』といった不満が爆発した様子ですね」
 不満が吹き飛ぶような説得をしたり、配下の者たちを何らかの形で労って落ち着かせるのも一つの手かもしれない。

「折角桜も咲いている事ですし、無事に事件が解決したら、皆さんで花見を楽しむのもいいかもしれませんね」


参加者
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)

■リプレイ


 ビルシャナが事件を起こすと予知された自然公園へと足を踏み入れたケルベロスたち。出迎えたのは満開の桜。
「花見の場所取りかぁ、それは毎年大変な作業だとは思うよね。でも、場所取りがいるお陰で、楽しい花見が出来るのだと思うよ」
 辺りを見渡し、桜の木の下にブルーシートが敷かれていることに気づくと、笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は言葉をもらす。
「寒い中、場所取りをさせられるのは大変ですよね。ですが、花見の混雑時には、場所取りは必要な存在なのです」
 場所取りのブルーシートの上で、寝袋に包まって眠っている人を見つけ、七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)が呟く。
「花見か、俺も花見は好きだから、場所取りをしてくれるのはありがたいな。そういう方々への感謝の気持ちは忘れてはならない」
 こういう苦労をしてくれている人が居るからこそ、いい場所で花見ができるんだよなと九竜・紅風(血桜散華・e45405)。
 人気の花見スポットなら尚更、場所取りが重要になる。場所が取れなくて花見が出来ないなんてこともあるのだから……。
「花見は私も毎年楽しみにしていますし、綺麗な桜は私も好きですよ。だからこそ、場所取りの事で争い事には発展して欲しくないです」
 ブルーシートを敷いておくだけでは、それをどけて場所を横取りするなんてこともある為、どうしても夜通し誰かがその場に居なければならない。その場所取りを押し付けられた人が不満を持つのは当然の事だ。
 それでも綺麗な桜の下、楽しく花見をしてほしいとアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)は言う。
「うーん桜を見るのになんでみんな怒るんだろ……場所取りが悪いの……? 場所取りは花見のため……つまり……花見は悪い文明……?」
 折角綺麗な桜を見るのにと、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は疑問を口にする。
「……そんなことないよ。計画の段階で、しっかりと話し合わなかったのが原因よ」
 場所取りをする人も納得していれば今回のような事にはならなかったと、トリュームの疑問に答えるキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)。
 歩きながら花見について話していると、自然公園の中心へと辿り着いた。桜に囲まれるように作られた広場。どの方向を見ても桜、桜、桜。視界を埋め尽くす桜の花に、つい見惚れてしまう。
 まずは事件の解決をと、広場の隅で集まっているビルシャナとその配下たちへと向かって、ケルベロスたちは歩いていく。


「皆さん、寒い中場所取りをお疲れ様です」
「皆さん、場所取りお疲れ様でした」
 綴とアクアが集まっている配下たちに声をかける。
「大変だったかも知れませんが、貴方たちが場所取りをしてくれたおかげで、グループの皆が楽しく花見をすることが出来ます」
「皆は直接言わなくても、きっと感謝の気持ちを持っていると思いますよ。少なからず、皆の貴方への好感度が上がっている訳ですから、決して無駄ではないと思います」
 綴が配下たちを労う。
「皆さんは苦労しているのに、他のメンバーは涼しい顔で花見を楽しんでいる事に理不尽さを感じているでしょうけど、貴方が場所を取ってくれたおかげで、楽しい花見を満喫できるわけです。ですから、後で花見の写真をアルバムとかで見た時『この時、私が場所取りしたお陰で皆で楽しい思い出を作る事が出来たんだよ』って感じで自慢できる理由付けにもなると思います」
 皆の不満も分かるが皆の苦労のおかげで、生まれた笑顔もあるんだよとアクア。
「貴方がいなければ、皆が花見を楽しめなくなりますので、貴方は大役を果たしたと胸を張って良いと思います」
 名誉なことをしたんだと語る綴。
「そう言ってもらえると悪い気はしないが……」
「皆、よく考えるんだよ。花見の場所取りを任されたからには、任せた側はどんな場所になったって、貴方に文句を付けたりは出来ないんだよ」
 まだ納得いかない顔をしている配下へと氷花が語りかける。
「どういうことだ?」
「だから、花見では貴方が観たい景色、気に入った景色を自由に選べる権限があるんだよ」
「そんなことして他の人が納得するのか?」
「これは、花見の場所取りを任されたからこその権限なんだから、それを活かして、自分の好きな場所を花見の場所にすることが出来るよ。そう考えると、寒い中ずっと待つのは些細な代償だとは思わないかな?」
「……そう考えれば、夜通し場所取りするのも悪くないかもと思えてくるな……」
 少しは気が晴れたよと、配下は自分のブルーシートへと戻っていった。

「前夜から花見の場所取り、お疲れ様だな、だが場所取りなら場所取りなりの楽しみ方もあるのではないか?」
「真夜中に出来る事なんてほとんどないだろう?」
 配下の反応に、紅風は微笑むと話を続けた。
「そうかな? 例えば、場所取りをしているグループは他にもいるだろうから、お前が一人ぼっちと言う訳でも無いだろう。そう言った、他グループの場所取り役と一緒に話したり、夜桜を一緒に楽しんだり、そういう事も出来るのではないか?」
「同じように場所取りしている奴は確かに居るな……」
「そう考えると、夜桜見物は場所取りのみに与えられた楽しみの一つでは無いかと俺は思うんだが」
「そうか……花見よりも先に桜を楽しめるという訳か」
 それが普段とは違った雰囲気に包まれる夜桜ともなれば、昼の桜しか見られない人たちより得した気分にもなるだろう。
「……待つ間の時間に好きなもので楽しめるのが一番よ。だから私おすすめの、身体を温めてくれて気分も上昇する林檎ドリンク各種を用意したわ」
 アップルティー、アップルビネガー、アップルジンジャー、すりおろし林檎と蜂蜜、等々。キリクライシャは次々と林檎の飲み物を並べていく。そのどれもが温かいお湯で淹れてあり湯気と共に林檎のいい香りが辺りに広がっていく。
「……冷えた身体を温める意味もあるけれど、特に甘いものは疲労回復にもいいわ。……お疲れ様……場所取りで皆さん、疲れているのでしょう? これで一息ついて、どうぞ身体を休めて頂戴」
 次からはこういった飲み物と一緒に夜桜を楽しんでねと、キリクライシャは言う。

 配下たちを労うケルベロスたちだが、どうしてもあと一押しが足りない。説得が続く中、ここぞとばかりにトリュームが泣きながら配下たちの前へと向かう。もちろん嘘泣きなのだが、配下たちは誰一人としてそのことに気が付く様子はない。
「花見で争いが起きるのなら…………桜などいらぬ!!」
 叫びをあげると同時、自身の光の翼を一気に広げる。
「すべての桜を消し、そしてわたしも消えよう!」
 トリュームが両手を地面につけて念じると、辺りに爆発が巻き起こった。
『はあああああああああああああああああ!?』
 突然の出来事に驚きを隠せない配下たち。夜通し場所取りをしたのはなんだったんだと、項垂れるものまでいる。
 少しして爆風が晴れると、そこには何事もなかったかのように咲き誇る無数の桜の木。
「ウッソでーす! ねぇねぇビックリした?」
『おまえ! 騙したな!!』
 煽るトリュームに配下たちは怒り出す。
「逃げた方がよさそう」
『待てーーーー!!』
 突如始まる追いかけっこ。あっという間にトリュームと配下たちの姿は桜の木の向こうへと消えていく。
 ………………。
 …………。
 ……。
「ふう」
 少しするとトリュームが一人で戻ってくる。
「配下たちはどこに?」
「怒って走ったからか、正気になって皆自分の場所に戻っていったよ」
 そうなると残るはビルシャナのみ。ケルベロスたちはビルシャナの方へと向き直ると武器を構える。
「さぁ、行くぞ疾風丸。サポートは任せたからな」
 紅風の叫びと共にビルシャナとの戦いが今始まった。


 先陣を切るのは綴。
「電光石火の蹴りを、受けてみなさい!」
 距離を詰めビルシャナの腹目掛けて蹴りを放つ。
「雪さえも退く凍気を、食らえー!」
 続けて氷花は、パイルバンカー『アイシクル・インパクト』を突き刺し凍気を纏った杭を撃ち込んだ。
 ビルシャナが凍り付いていく中、日本刀を振るい斬撃を浴びせるトリューム。
「虚無球体よ、敵を飲み込んでしまいなさい」
 仲間の離脱のタイミングでアクアの放った【虚無魔法】がビルシャナへと襲い掛かる。
「ぐうううぅぅぅ!?」
 ビルシャナが苦しんでいる最中、キリクライシャは黄金の果実を掲げ、聖なる光で辺りを満たしていく。
「この呪いで、お前を動けなくしてやろう」
 紅風の放つ呪いに、ビルシャナが動きを止めた瞬間、キリクライシャと紅風のテレビウム『バーミリオン』と『疾風丸』は凶器を手に揃ってビルシャナへと殴りかかった。

 一般人を巻き込む心配が無くなったことで、最初から全力で攻撃を繰り出すケルベロスたち。戦力差もあり、早々に勝負が決しようとしていた。
「あはは♪貴方達を皆、真っ赤に染め上げてあげるよ!」
 まるで輪舞を舞うかの様に、踊りながら輪の中のビルシャナの身体を切り裂いていく氷花。更に全身を光の粒子に変え突撃するトリューム。
「ブラックスライムよ、敵を侵食してしまいなさい」
 アクアのブラックスライムが鋭い槍となってビルシャナを貫くと、続くキリクライシャが炎を纏った蹴りを叩き込んだ。
「血染めの包帯を、その身に受けるが良い」
 包帯に染み付いた血を硬化させると、紅風は駆け出し槍の様に鋭くなった包帯でビルシャナを串刺しにする。
「トドメは任せた」
「身体を巡る気よ、私の掌に集まり敵を吹き飛ばしなさい」
 紅風の言葉に綴は頷くと、両手の掌へと気を集中させる。ビルシャナ目掛けて掌を向けると、集められた気が一気に放たれる。
「ぎえええええぇぇぇぇえええ!!」
 放たれた気の奔流に飲まれビルシャナは消滅した。


 戦いが終わり、辺りの修復を行う綴、キリクライシャ、『バーミリオン』、氷花、アクア。とはいえ派手に戦闘を繰り広げたわけでも無い為、修復は程なく終わった。
「私たちも花見を楽しんでみましょうか」
「さぁ、俺たちも花見を楽しむとしようか」
「私たちも花見を楽しみましょう」
 綴、紅風、アクアの声が重なる。
 折角桜が見頃なのだ、花見をしないで帰るのは勿体ない。反対する者は居なかった。
 キリクライシャは用意してきた『レジャーシート(サン・イーター)』を取り出すと、手ごろな場所へと敷いていく。そして『水精霊のアップルジュース』を皆に配る。
 トリュームの方も『アイテムポケット』から次々とお花見にと用意してきたものを並べていく。
「やっぱり、この季節の桜はとっても綺麗だよねー」
 風に舞い踊る桜の花びらを眺め氷花が声をもらした。
 しばし時間を忘れ、春の訪れを祝うケルベロスたちだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月31日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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