倉庫の隅には、敷板に押しつぶされた紙箱があった。
運搬中の商品が、ふとした拍子に入り込み、そのまま気付かれなかったのだ。
ガサゴソと蜘蛛足のメカが、箱に憑りつく。
廃棄家電ダモクレスへの再生を目論む、コギトエルゴスムだ。倉庫の荷物は、跳ね上げられ、靴を履いた二本の足が壁も蹴破る。
外の世界から注ぎ込む、眩しい光。
反射する、縦に並んだ二つのレンズ。
二眼レフロボは、グラビティ・チェインを求めて、まだ人のいない埠頭、倉庫街をさまよいだした。
壇上の端には、軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)が、いつものポンチョ型レインコートで立っていた。
もう一方の端に、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)が、フェアリーブーツを履いて構えている。
「借り物なのよ。冬美さん、失敗しても許してよね」
言いつつ、銀子の顔はやる気まんまんである。
「フォーチュンスター!」
綺麗な脚で蹴り出された靴先から、オーラの星が飛んでいく。レインコートはスパスパ切れて、フードが最後にふぁさと落ちた。
「いやーん、見ちゃダメ♪」
冬美は、両手を身体に巻き付かせて、ポーズをとる。銀子は、息をついて、デモンストレーションを見学していたケルベロスたちに向き直る。
「上手く服だけに当たる自信はあったよ。今のが、敵の攻撃ね。見られたくない姿にして写してしまう、トイカメラのダモクレスが出現するの」
現場の埠頭は、作業日でないため、一般人はいない。もちろん、デウスエクスを放置すれば、いずれは犠牲者がでてしまうだろう。
出現直後の倉庫の外で、遭遇できるとのことだった。冬美は、演台までスタスタ歩いてくると、プロジェクターで敵のイメージ図を映し出す。
「憑りつかれたトイカメラ、安価で機構の簡単な二眼レフカメラはね、元のカタチと大きさを保ったまま、等身大のロボットに備え付けられてる。ただ、見ての通り、ロボ部分は腰から下しかない、組み立て中のマネキン人形みたいな状態で、その上に本体が載ってるのぉ。変な恰好よねぇ」
「ロボの使う、『フォトチェンスター』は、離れた1体に、さっき見せたフォーチュンスターの要領で、星のかわりに写真、オーラでなく実体を蹴り込んでくるの。その場で現像されるのだから、トイカメラと言うより、インスタントカメラかしら」
戦いが長引けば、それだけ写真をばら撒かれる、とケルベロスたちは戦慄を覚えた。
「時間制限はないけど、早めに撃破しちゃってねぇ。レッツゴー! ケルベロス!」
元気に両手をあげる冬美に、銀子は。
「見られたくないかどうかは、人によるわね……」
参加者 | |
---|---|
叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476) |
神宮・翼(聖翼光震・e15906) |
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466) |
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902) |
ユリーカ・ストライカー(蒼撃天使・e36966) |
●カメラ型の敵
埠頭の倉庫街。積まれたコンテナの陰から、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は様子を伺っていた。
パンツスタイルのスーツを、錆の浮いた鉄板に沿わせて、いわゆる張り込みである。
「どうして変態趣味になったの?」
「え……」
そばでしゃがんでいた、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)は、女顔からうわずった声を出した。
「銀子姉、レトロなカメラなのに、ってことね」
軍服風の格好に収まっている。
コートを着込んだミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)は、キャンプ場での事件を思い出していた。
「この手のダモクレスって、通信機能があったりでネット上にヘンタイ……変な配信してたような……?」
池での戦いに参加した、ユリーカ・ストライカー(蒼撃天使・e36966)も頷く。
「私も、あやしい気配を感知しています」
最新型レプリカントとして、人体をうまく再現してある。
機械音は漏れず、美しい金髪をサラッと流しただけだが、内部のセンサーが働いているはずだ。
ミスラの柔和な表情が、やや固くなる。
「気配……匂い……」
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、アイズフォンで確認する。
「レンブラントさん、ストライカーさん。……今回は、オンラインでは無いのです」
それぞれの依頼に参加していた。
フィルムスーツの調整も行う。盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)は、改造巫女服の裾丈を短くした。
「カメラさんがふわりたちに夢中になるように、ポーズとかにも気を付けるのー♪」
神宮・翼(聖翼光震・e15906)も、薄着の身体をくねらせてみる。
「エッチな写真を拡散される心配がないなら楽よねー」
現場にも男性がいるのを失念したかのような発言。ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、蓮(れん)の肩を叩いた。
「男同士がんばろうな!」
「はい、ボクたちは前衛、攻撃役ですし! ……あ、銀子姉、倉庫から物音しましたよ」
予知のとおり壁を壊し、二眼レフを乗せた下半分だけのロボットが走りでてきた。蓮は、映画館でみたキャラクターを想像していて。
「なんか違うのだ。とと……それはともかく」
銀子をはじめ、ケルベロスたちはコンテナの陰から飛び出し、敵の進路に立ちはだかった。
真理のフィルムスーツは、糸のように細く、わずかな切断で脱げそうに変形されている。ミスラもコートをひるがえし、その下にピンクのレオタードをチラと見せた。
敵に写真を撮らせて引きつけ、逃がさぬようにする。
ふわりが言っていた作戦がこれだ。
フォートレスキャノンを撃った真理は、発射の反動でショーツの右側面がちぎれた。続いて、ライドキャリバーのプライド・ワンを突撃させると、余波で左肩紐がとれて、ワンショルダーに。
「許しは此処に、受肉した私が誓うー♪」
ミスラの歌唱、『憐れみの賛歌(キリエ・エレイソン)』には低く、ノイズのような伴奏が混じる。前衛に変態攻撃への耐性をつけさせる。
回復役のふわりは、初手では攻撃に加わり、カオススラッシュをぶつけた。
二眼レフの二脚がクルクルまわって翻弄されるあいだ、翼とロディは向かいあう倉庫の屋根に登っていた。
「愛の共同作業、ダブルスターゲイザー♪」
「うへっ、……お、おう!」
二人そろっての飛び蹴りだ。
照れたのか、ロディが僅かに手順を違えたが、打撃後は対称にわかれ、挟撃できる位置に着地する。
雷撃が蓮から放たれて、カメラ本体に落ちた。
トイカメラといっても電子部品は使われている。上のレンズはピント用で、銀子が振り下ろしたヌンチャク型如意棒は、その調節を歪ませた。
同部位へのダメ押しに、ユリーカもスターゲイザーにいく。踏み付け気味に、本体上部のファインダーをへこませた。
まだ、一枚も撮らせないうちから、弱体化させたのだった。
●撮影技術
予知からのイメージ図では、ダモクレスの脚部は黒っぽく描かれていた。
実物は、黒タイツにスニーカーといった出で立ちで、デモのとおり靴先から攻撃を飛ばしてくる。
幸い、翼の演算繊維服には不発で、ペロっと当たっただけだ。
「どれどれ?」
手にしてみると、真理の片ヒモパンツが食い込んでいる写真だった。砲撃を正面から捉えていて、ある意味では命がけの撮影だ。
「ロディくーん。このカメラ、見た目よりもスッゴイよ!」
「なんだと? 攻撃は逸れたと思ったが、ヤツの戦闘力を低く見積もっていたぜ」
ふたりは、示し合わせたとおり、挟み撃ちにいった。ロディの破鎧衝と、翼の戦術超鋼拳。
すれ違い、敵を間においた位置関係はキープする。
ダブル服破りに、二眼レフロボの黒タイツは裂けて、クロームの機械構造がはみ出す。
「また愛の営み成功♪ もう、全部ぬがせちゃえー」
ファミリアロッドにお願いする。まるっこい饅頭に、羽根が生えた生き物に変化した。これでも、コウモリだ。
しかし、その狙いどころの相手が、後ろを見せた。
「マーシャルさん、体勢を低くするです!」
ディフェンダーの真理が、写真攻撃に背中で割り込む。
「助かったぜ。けど、危険だから……あわわ」
男のハダカなど誰得か。次からは無理しないでくれよ。
などと、クールにキメるつもりだったのだろうが、しゃがんだロディの前には食い込みパンツがあり、残ったヒモなみのフィルムスーツの残骸が、切られて落ちるところだった。
目隠しに、手に滑り込んできていた紙状のものを覆いにして、しどろもどろ。
真理がさっさと他の仲間を守りにいってくれたので、長くは続かない。
「ふー。恐ろしさが判ってきたぜ……あわわわ」
尻もちをついたのは、顔の前にかざしていたのが紙きれでなく、翼の写真だったからである。フィルムスーツは着ているが、胸元が透けて色素が浮いている。
あの、ペロっと不発に思われたあいだのシャッターチャンス。
「ほんと、スッゴイ♪」
翼は一部始終を、演算繊維の助けも借りて鑑賞していた。お互いに服は無事でも、ロディの恥じらいリアクションの撮れ高はまずまずである。
まるで、これを企んで挟撃作戦を提案したかのように。
前衛に次いで、ふわりは『情欲の香り(メイク・ラブ・パフューム)』を、翼とミスラにも届ける。
「みんな愛して欲しいの。ダモクレスさんも、ふわりに夢中なのー?」
敵のレンズを向けさせる努力も怠らない。ミニ巫女服でしゃがみ、後ろに手をついた。
自然と両膝が離れていく。
ミスラは、パフュームで持ち直したものの、あのノイズ音は高まっている。
「過去のことよりも、今は敵を斬るだけだ……!」
陰と陽、二振りの喰霊刀が閃く。
コウモリファミリアにかじられて、ロボの脚は機械むき出し。防御の減じたところへ、魂の斬撃を喰らわせる。
ロングコートの裾が流れ、かわって蓮の軍服が突っ込んできた。その両手にも、左右一対の喰霊刀が握られている。
毒の魂を、刃から送り込む。
ところがロボは足で応じてきて、至近距離で切り結び、写真を挟んだスニーカーが、蓮を横薙ぎにする。
「くぅ……? そんな!? 銀子姉ぇ!」
軍服を破られたと顔を真っ赤にした。だが、背広姿が前にいて、青ざめた。
「仲間の盾になるのが、私の今日の配置よ。あとね……」
銀子のスーツに、裂け目がひろがり、バラバラになる。鍛えた腹筋と、その上下にある女性らしさが、蓮の目に焼き付いた。
「戦いで服が破かれるのは、慣れてしまったわ」
「はい、戦闘行動に支障はありません」
ユリーカのメタリックな服もほとんどが剥がされている。服ではなく、オウガメタルの変形したものだ。
金髪が揺れた。
肌を晒せば、いっそう精密な人体再現がわかる。そんなユリーカにも弱点はある。
ソコには金髪どころか、なにも生えていなかった。
蓮は、二人の肉体に直面して、再び赤くなる。
カシャ、カシャ、ジー。フォトチェンスターのフィルムがまわる。
「たとえ写真を撮られても後で回収すれば問題はありません」
なおもユリーカは、動じない。
いっぽう、銀子は手で胸をかばってしまった。シャツは襟しか残っていない。
本音を言えるならば、旅団仲間の可愛らしい蓮くんに見られるのは、恥ずかしいのだ。ハダカもだが、それを写真に撮られている状況が。
「見ちゃだめなんて言っていられないか」
腕を下ろして、如意棒を構えなおす。
横目で伺ったら、蓮の棒をおさめたズボンは、はち切れそうになっていた。
●カメラ撃破
一輪バイクの傍らに立ち、真理はシートに手をのせた。
肩幅よりも、脚を開く。強調されるヒップライン。
バストのボリュームは不足がちなれど、バイカーなグラビアの真似をしてみた。レンズが向けられたのなら、キャリバースピンをお見舞いする気だ。
であるなら、ふわりはレトロな雑誌風。両膝は離れて、腰は浮き、股間を隠すべき布はとうにズタズタだ。
そっと、片手の指二本だけが、あてがわれている。
どっからでも撮って。
ポエムなキャプションでも添えられれば、よりらしい。
ミスラの賛歌が請け負う。
『あなたが注いだ真新しいジュース。グチュグチュ音を立ててかきまぜて』、とか。
二眼レフロボはその気になり、現像した写真を飛ばす。
だがその先から、回収処分されるのだ。
木の葉が、風の吹き溜まりに寄せられるように、ひとつところに集められ、細かく断ち切られていく。ミスラのBS耐性が効力を発揮していた。
もはや、隠し立てすることはなかろう。ミスラはコートをはだけて、自分もレンズの正面にまわった。
ピンクのレオタードはハイレグで、股布がバイブレーション装置を押さえつけていた。
ノイズは装置から出ている。
過去などという身の上でなく依頼の直前、ついさっきまで複数人と行為していた。太腿に書かれた正の文字が証拠。
「ああああ、うふうッ!」
股布を写真にちぎられると、装置と、かき混ぜられたジュースと、自身の液体とをぶしゃあと噴出させる。
ダモクレスのカメラ部分は覆いつくされた。渾身のレゾナンスグリードだ。
それはもう、ふわりのパフュームには紛れられない香り。ユリーカのセンサーが感知した気配。
「ふわりも、我慢できないのー! ひゃん、あふう。んんんー!」
あてられたのか、絶叫した。シャウトの自己回復で。
気配の正体がミスラにあったとしても、芽生えた感情はユリーカのものだ。
「カメラに身体を撮られる同様の事態。やはり、体が熱くなってしまいます」
旋刃脚で、パカっと開脚した瞬間に、ぽかんと口をあけているロディと蓮の姿がとらえられた。
無毛を見ているのは、間違いない。
「男性の仲間に……。だから熱いのでしょうか。これは、羞恥なのでしょうか?」
ユリーカは、外見の人間さに反して、情緒は未学習な部分が多い。
二眼レフを蹴ったあとでも、開きっぱなしをテストする。
ロディたちには、堪ったものではなく、溜まるいっぽうである。
「オレらは紳士だよな、蓮?」
女性陣のハダカからは目を逸らそうと努める。
「ロディ、不可抗力というものがあるのだよ~」
でも、見ちゃう。元凶を断つしかない。
銃剣ブリッツバヨネットと、喰霊刀を、めいめい振り回してダモクレスを壊しにかかる。
与えた損害はまた、コウモリがかじるのだ。
「やってる、やってるー♪ ふたりともカワイイよー」
翼も自分の全裸が視界に見切れるように、位置取りするのだった。
「いやーん」
くねくねしながら恥じらう仕草で、恥ずかしがる男子を楽しむのである。
もちろん、サキュバスゆえ、快楽エネルギーは戦力に転換されるのだ。
銀子の裸身が、下半身ロボに組みついた。
押し倒し覆いかぶさる。
「密着すれば、撮れないわね!」
スニーカーが、ジタバタと抵抗して、一枚吐きだしたが、銀子の如意棒が分たれる。
「双龍百節棍ーっ!!」
殴打の連続に、二段のレンズは砕かれ、ロボット部分は崩れ去る。
部品が散らばるなかに、銀子はぺたんと腰を落としたのだった。
●写真の行方
デウスエクスの武器となった写真のほとんどは、戦闘中にミスラによって破棄されていた。
「風で飛んで行ったら困るもんね!!」
「ああ、ここの作業員の仕事が始まったら、拾われる危険があるからな」
蓮とロディは、埠頭を歩き回って、残ったぶんを拾い集める。できるだけ見ないようにして。
女性陣の手に渡った写真は、凝った構図のものが多くて、股間や臀部がアップなかわりに、顔が写っているものは少ない。
真理は、ホッとしたものの、やはり本人には、本人の部位と判って、頬を上気させた。
例えば、スジしかないのは、ユリーカの写真である。
「戦闘中にシャッターの回数をカウントしていましたので枚数は把握しています。ですので、回収漏れは無いですよ」
すごい冷静だ、と銀子は感心したが、どうもユリーカの反応が変だ。
「肉体の症状はむしろ昂奮に近いです。もっと見てもらえれば原因がわかるかも知れません」
「はいはーい。ロディくんの簡易更衣室があるから、そっちで冷まそう?」
翼が、ユリーカの背中を押していく。先にミスラも休ませていた。
「その後で、ね?」
と、ロディにウインクするのも忘れない。
「ふわりはねー、銀子ちゃんと蓮くんも、コーフンしてるって、わかるのー♪」
ズバリと言い当てられて、顔を見合わせる。
「いいかしら。蓮くん……」
「銀子姉、ボクもうダメです」
まあ、下の状態から、ふわりでなくとも判る。彼女も混ざり、コンテナの隙間に、いいところがあるからと、3人で交わりだした。
プライド・ワンに寄りかかりながら、写真束を手にしていた真理は、そのうちの2枚に息をのむ。
自分のところからシャワーのように車体にかけてしまっている写真。
銀子のシャツが破れて、ポケットからとびだした警察手帳と、生の乳房が並んでいる写真。
特に厳重に処分せねばと力をいれたとたんに、指が滑って……。
「ととと、飛んで、飛んで、飛んでいってしまったのです!!」
レプリカントのバイカーは、音声をエラー気味にして、仲間のところへすっ飛んでいった。
作者:大丁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年3月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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