チョコの海に溺れろ!

作者:猫鮫樹


 ぽつぽつと、薄暗い倉庫内に雨音が響く。
 かび臭い空気の中では、様々な家電製品が静かに佇んでいた。
 廃棄家電を押し込まれた室内は埃が漂い、どこか異質な世界の様にも見せていた。
 時折明滅する照明が雨音と相まって、少し物悲しい気持ちにもさせるようなそこを小型ダモクレスは蜘蛛の様な足を動かして、何かを探すかのようにさまよい歩いている。
 ぽつりと、縋る様な音が響き小型ダモクレスは一つの廃棄家電の前で足を止めた。
 照明によって反射する銀色、太く伸びたコード、かつてはレストランで使われていたチョコレートフォンデュ機がそこに堂々たる姿で眠っていた。
 小型ダモクレスはその姿に惹かれたのか、わさわさと足を動かしてチョコフォンデュ機の中へと潜り込んでいくと、金属の音を立ててチョコフォンデュ機の体をみるみる変えていく。
「チョコ……フォンデュ?」
 チョコフォンデュ機の頭に、チョコを纏ったチェーンソーの形を模した両腕の人型の姿へと作り変えられ、小さく呟いた。
 ごぽりと、音を立てて頭からはチョコが溢れ出し、倉庫内にはあっという間に甘い香りが広がっていく。
 目指すはグラビティ・チェイン。倉庫の出入り口へとチェーンソー型の両腕を振って、チョコを振り撒いて進んでいくのだった。


「バレンタインも過ぎて、一月。ホワイトデーを迎える訳なんだけど……ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)さんが危惧していた通り、チョコフォンデュ機のダモクレスが現れたんだ」
 中原・鴻(宵染める茜色のヘリオライダー・en0299)は赤い瞳を瞬かせて、そう口にした。
「場所は住宅地から離れた場所にある広い倉庫らしいんだけど、めちゃくちゃチョコまき散らしてるみたい!」
 鴻が続きを話すべく口を開こうとした瞬間、割り込むようにして河野・鵠(無垢の足跡・en0303)が口を出す。その金色の瞳はまるで子供の様に輝いているようだった。
 そんな鵠の顔を押してイスに座らせると、鴻は小さく息を吐いて今回現れたダモクレスについて説明を始める。
 人型に換装されたチョコフォンデュ機のダモクレスは、チェーンソーを模した腕で斬りつけてきたり、チョコが流れる頭部からチョコを撃ちだしたりするらしい。
 まさにチョコ塗れの攻撃を仕掛けてくるダモクレスだと、鴻は言った。
「チョコだって! 俺、めっちゃチョコ食べたくなってきた……!」
 今にも身を乗り出してきそうな鵠に、付き合ってられないと鴻は紐閉じの本で鵠の額を小突く。
 痛いと声をあげて鵠は不服そうに尻尾を小さく揺らしているのを見て、鴻は満足そうに瞳を細めた。
「幸いにも住宅地から離れたところにある倉庫だから、避難とかはする必要は特にはないはずだよぉ。ただ、チョコ塗れになってしまう可能性はあるかもしれないね」
 苦笑を浮かべてそう呟く鴻をしり目に、鵠は両手をあげて弾んだ声を上げる。
「人型に換装したダモクレス、みんなで頑張って倒しに行こうー!!」


参加者
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
アリーシャ・クルスフィクション(グランドロンのパラディオン・e85723)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●超硬烈刀
 周囲に落ちる雫が、無機質な倉庫の屋根を叩いていた。
 住宅地から離れた所にある倉庫は隔離されたような空気を醸し出しているようで。
「フォンデュ……」
 倉庫の扉越しに小さな声が漏れ出ると、けたたましい音と共にその扉を破壊された。
 人型の様なそれは頭上からはチョコレートを溢れ出させ、けたたましく鳴らす両腕ではチョコを纏った刃が激しく回っている。浮足立つようにチョコフォンデュ機のダモクレスが外へ一歩足を運ぼうとしたが、それは叶わない。
 何故なら倉庫の前には、ダモクレスを倒すための先鋭達の姿があったからだ。
「ホワイトデーを迎えるって時に危ないチョコフォンデュ……これは見逃せませんね、ねぇ? 河野さん!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)はチョコフォンデュ頭のダモクレスをビシリと指差して、それから勢いよく後ろを振り返って河野・鵠(無垢の足跡・en0303)に同意を求めた。
「うん! 許せないね!」
 鵠はそれに力いっぱい返して、倉庫内と目の前のチョコフォンデュ機ダモクレスから漂う甘い香りに尻尾を大きく揺らす。
 心躍ってしまうチョコの甘い香りは、甘いもの好きな人からしたら格別なものなのかもしれない。
(「ああ、いい匂い……」)
 例に漏れずローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)も、チョコの香りにうっとりとした表情を浮かべて、はっと首を横に振って目の前のダモクレスを倒すことへと頭を切り替える。
 進路に立ちふさがるケルベロス達に、チョコフォンデュ機はこのまま突き進むことは困難だと判断したのか、やけに長い足で素早く奥へと走った。
 かび臭い空気が開け放たれた扉から流れ出して、外の空気と入れ替わる。雨よりも重たい水音を立て、冷たい床を蹴って逃げていくダモクレスを追いかけてケルベロス達も同じように駆け出していく。
 ダモクレスの背を追いながら、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は人が来ないようにと殺気を放った。この倉庫は住宅地から離れているが、万が一を考えたことなのかもしれない。
 響く9つの足音が切れかけた照明の下に響き、緩やかに止まった。
 行き止まりとなってしまったことにより、足を止めざるをえなかったのだ。
「追い詰めましたよ」
 壁際にまで追い詰めたダモクレスに黒みがかった金属装甲のディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)がゆっくりと声を掛け、それに続くようにソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)が高下駄をカランと鳴らした。
 そして流星の様な煌めきが倉庫内を鮮やかに照らし出した。
「住宅地になんて向かわせない」
 リリエッタの鮮やかな飛び蹴りの衝撃で、ダモクレスはチョコをまき散らしながら壁へと叩きつけられる。
「うぅ……フォンデュ!」
「回復などは私と河野さんで担当します!」
 ブルーフレイムラズワルブレイドを振り上げ、呻いていたダモクレスの胸元を斬りつけていくミリムはそう叫ぶと、鵠も大きく頷いた。
「ならば遠慮なくいかせていただきましょうかね、マロン」
「ですね、お父さん」
 バレンタインやホワイトデーなんてリア充イベントの負の遺産。リア充が関わるイベントは悪い文明だと力説せんばかりに霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)はマロン・ビネガー(六花流転・e17169)と共に態勢を立て直しているダモクレスに視線をやり、それから二人は攻撃態勢へと動いた。
「よぅし、このダモクレスに動けない薬を注入注入。チョコを塗らせるのです!」
 気配を消して、立ち上がったダモクレスの背後を取った裁一が、何やら怪しい薬物を投与し、マロンはリリエッタと同じような色鮮やかな煌めきを放ってダモクレスを一蹴。
 再び壁と熱烈な抱擁をしてしまったダモクレスは、悔しそうに一鳴きして慌てて立ち上がり、チョコが纏わりついた両腕のチェーンソーを振り上げた。
 低い唸り声のような音を立て、チョコをあちこちに飛び散らせるダモクレスの一閃をローレライがその身に受け止める。
 身体に、腕に、頬に。甘い香りを放つ茶色の液体が食欲を刺激してくるのを感じているローレライの横から、ソロのブラックスライムが鋭い槍の様に伸びてダモクレスの体を穿った。
「フォン!!」
「本当に美味しそうなチョコ! シュテルネ攻撃よろしくね!」
 ソロのブラックスライムが後方に引いた瞬間にローレライは地面に守護星座を描きながら、テレビウムの『シュテルネ』に指示を出していく。
 シュテルネが凶器を振り回してダモクレスを殴りつける音が響く中で、ローレライがスターサンクチュアリを発動させ、仲間の耐性をあげていった。
「それにしても……人型になって、チェーンソーを合わせてくるとは、おっかないね」
「ええ、でも捨てられて利用されて難儀なもんだねぇ」
 ディミックが、ダモクレスが殴られてチョコをまき散らす姿を見てそう零していると、アリーシャ・クルスフィクション(グランドロンのパラディオン・e85723)が冷たい視線と共に同情はしないけどと、きっぱり言い放った。
 遠慮のないアリーシャの物言いに、ディミックは苦笑したような雰囲気を醸し出しつつダモクレスの攻撃から味方を守るための『光の城壁』を出現させていく。
 光の城壁が出現し終わる前に、アリーシャはシスター服の裾を翻してダモクレスへと拳を叩きつけた。長身であるアリーシャの拳の威力はすさまじかったのだろう、ダモクレスの体は床へと叩きつけられ、その反動で浮き上がる。まるで床がトランポリンか何かになったかのようだ。
 浮き上がったダモクレスの体を、野球でもするかのように鵠が尻尾で打ち上げていけば、まるでチョコが花火のように散ってケルベロス達の体を濡らしていく。

●甘い夢の雨
 大きな雨粒が屋根を強く叩いては、チョコの匂いが充満する倉庫内へ雨音を響き渡らせていた。
 壁面や床はチョコで汚れており、それに比例してケルベロス達の体もチョコに塗れている。
「チョコ塗れになってきたね」
 頬についたチョコを拭ってリリエッタは、ダモクレスのチョコの滝を見つめていると、ミリムがごそごそと何かを取り出すのが見えた。
 チョコチェーンソーの騒音に耳がぺたり、チョコの甘い香りに尻尾が大きく揺れているミリムの手には真っ赤な苺が詰め込まれたタッパーが。
「チョコフォンデュ機のダモクレスですよ……! チョコフォンデュするしかないじゃないですか!」
 その叫びがダモクレスに届いたのか、ダモクレスの頭からは大量のチョコレートが噴き出して、まるで雨の様になって倉庫内に飛び散っていく。
 取り出した苺で甘い夢のような雨を受けて、ミリムは皆に配っていった。
 チョコを確保するために用意されたタッパーも鵠はしっかり持って、チョコの雨の中へと突入していけば、本当に夢の様なチョコタイムが始まり、
「チョコと言えばやはり苺ですね」
 配られたチョコたっぷりの苺を頬張ったマロンは、甘さと酸味のバランスに蕩けるような笑みを浮かべ、裁一にも食べるようにと促した。
 リア充イベントに関わっていたであろう機械ではあるが、マロンの笑顔を見れるのであれば裁一も喜んでこの現状に混ざろうと苺を受け取り、そしてスティック型のクッキーを取り出して、容赦なく降るチョコレートをかけていく。
 苺とチョコが合うように、この果物もチョコとあうのは間違いないと、リリエッタは落ちてくるチョコをバナナでガード。
 即席チョコバナナの出来上がりだ。
「ローレ、苺もいいけどバナナもどうかな?」
「んー! 美味しい! 苺もバナナもやっぱり相性抜群よね!」
「クラッカーやビスケットなんかもいいな」
(「リリちゃんもローレもソロさんも、楽しんで……いやいや気合十分ですね」)
 リリエッタのバナナに、ミリムの苺、そしてクラッカーなどなど……おやつには十分な品ぞろえと言ったところだろうか。
 おやつタイムを堪能しつつも、リリエッタはチョコの雨を掻い潜って隠し光刀『白雪狼』でダモクレスを斬りつけていく。甘味に現をぬかしたままのケルベロスではないのだ。
 チョコは美味しくいただきつつ、ダモクレスはしっかり倒す。
「ナイスですよ! リリちゃん」
 苺の入ったタッパーを仕舞って、ミリムは親指をあげてリリエッタに叫んでからコルリ施療院の紋章で回復を施す。一方では、マロンにもらったワッフルをぺろりと食べた裁一が、
「デストローイ!」
 と叫んで時空凍結弾を放てば、ダモクレスもやられるだけじゃいられない! とチョコチェーンソーを振り上げた。
 振り上げたチョコチェーンソーの合間を狙うように、マロンが魔導書を開いて蜂の巣を召喚する。
「蜂さん、れっつニードルアタックです!」
 召喚した蜂の巣をちょんとマロンは突いて、そして大きく振りかぶってダモクレスの頭上へと投げ飛ばした。
 蜂特有の羽音が倉庫内に響き渡っては、ダモクレスの体に鋭い針が刺さり、トドメの一撃を刺すために赤いマフラーを巻いた立派な女王蜂が優雅に羽ばたいて、渾身の一刺しをお見舞い。
 これはさぞや痛そうな一撃だろうところへ、今度はソロがディスインテグレートで追い打ちをかける。ソロの攻撃により、ダモクレスの左腕が消滅。
 チョコチェーンソーの騒音も少しばかり静かになった気がしたような。
「蜂蜜とチョコって合うかしら……?」
 美味しい物と美味しい物の足し算は美味しいはず。
 マロンが召喚した蜂はいても、ここには蜂蜜がないから確認はできないけれども、美味しそうな響きをローレライは感じているのかもしれない。
 ローレライはダモクレスの急所を掻き切り、その傷口にシュテルネが凶器を叩きつけて、ダモクレスから距離を取る。
「緊急性のない食事を無理にする必要はないので、今は遠慮しておこう」
 ディミックは鵠が渡そうとした苺をやんわりと断って、仲間達が楽しそうにしているところを眺めていた。
 たっぷりのチョコに塗れて、いろんな果物やお菓子を頬張る仲間達を見守るディミックの瞳はどこか優しさを感じさせるようだった。
 時折振り下ろされるチョコチェーンソーから、楽しんでいる仲間を邪魔しないように庇っていく姿は紳士たる様だろう。
 だが、このダモクレスも必ず倒さなくてはいけないもの。
「在る人が恋しいか、無き人が悲しいか。消えては現れ、望む像はいずこかに―」
 ディミックの優しい声色がチョコと雨の水音に滲んでいくと、ダモクレスの体に声色と同じ優しく仄光る、俤偲ぶ蛍石で攻撃を繰り出した。
「私もモノを食べる必要はないけど、楽しみとして食べさせてもらうわ」
 チョコが付いてしまったシスター服を気にすることもなく、アリーシャは苺を口にする。
 焼きマシュマロがあればなおよかったな、とアリーシャは思いながらチョコの匂いとは正反対の香りがするものを取り出した。
 色的には近いが、甘味とは程遠いもの。
「これも、多分美味しいんじゃないかしら」
 ソースとマヨネーズ、おかかにあおさ。粉モノの定番の一つ、たこ焼きだ。
「たこ焼き……だと……」
 まん丸のそれを見た鵠の声は震えていた。それはそうだろう、たこ焼きをチョコフォンデュするなんて思いもしなかったのだから。
「屋台のプレートな雰囲気です」
 ソースの香りにマロンがそんなことを漏らして、アリーシャが持つたこ焼きの中から割かし小さめの物を選ぼうと手を伸ばす。それに続いて鵠も好奇心を駆り立てられたのか、同じように手を伸ばし、チョコにどぼりと沈める。
 沈んだたこ焼きをちらりと見たアリーシャは、すぐにダモクレスに視線を向けて腕を大砲台に変形させ『混沌の砲弾』で打ち抜いていった。
 チョコに塗れたこ焼きを食べた鵠は、何とも言えない表情で守護星座を地面に描いていくのだった。

●Sweet of Loudness
 残った片腕のチョコチェーンソーをけたたましく鳴らして、ダモクレスは必死の抵抗を繰り返す。
 殴られ、斬られ、撃たれ、そしてあまつさえ溢れ出るチョコを食べられるなんて、ダモクレスは思ってもいなかっただろう。
 ただただ、レストランなどで美味しい物を提供して、使えなくなってこの倉庫に詰め込まれた長い年月を過ごした。それでも何の因果かなんてわからないが、こうしてまたチョコを溢れださせることができているのに。
「チョコフォンデュ!」
 色んな感情をチョコに混ぜこんで、ダモクレスは残った片腕を大きく振り上げる。
 飛び散るチョコもそれに比例するように増え、すでにチョコ塗れな倉庫内を更に汚しながら、ケルベロスへと攻撃するダモクレス。
「そんなにチョコをまき散らしちゃだめですよ」
 ローレライはダモクレスの攻撃をTwilight Crimson Flameで軌道を少しずらし、致命傷を避けた。
 ギチギチと甲高い金属音を鳴らして迫りくるチョコの刃は、わずかに鈍っているように感じる。
「影の刃よ、リリの敵を切り裂け!」
「ローレ、大丈夫ですか!?」
 鍔迫り合う中、リリエッタがダモクレスの足元にグラビティを圧縮した弾丸を撃ち込んでダモクレスを下がらせ、ミリムはスターサンクチュアリを施していく。
 ダモクレスは肩を大きく上下させ、頭にあるチョコフォンデュ機からのチョコの吹き出し方もだいぶ大人しくなっていた。
「チョコも、もう出ないようですね! ならば倒してしまうまで!」
 リア充に対する憎しみを多大に含んだ裁一の一閃は、ダモクレスの足を斬り落とすには十分な威力を持っていた。
「お父さんに、続くのです」
 満月心華を構えてマロンが螺旋力をジェット噴射させて、ダモクレスの体にダメージを重ねていく。
 次々くる攻撃にダモクレスは逃げようと藻掻くが、
「遅いんだよ」
 ソロの貫手がダモクレスの胸部分へと撃ち込まれる。
 尋常ならざる痛みがダモクレスの神経を摩耗させ、震える両足は立っていることすら限界なのではと感じさせるものだった。
 それでもなお、そこに立っているのは最後の悪あがきか。
 シュテルネはダモクレスが立ち尽くすところに閃光を放ち、自分の主や仲間達に攻撃の手が行かぬよう先手を打つ。その間にローレライはAn die Freudeを翼の様に展開させ、シュテルネの閃光に七色の光を重ね、回復を施していく。
 眩い光の中、ディミックはピンク色の瞳でダモクレスの姿を見失わないように見つめ、俤偲ぶ蛍石でダモクレスを攻撃した。様々な思いを秘めたるダモクレスに最後のトドメを刺すようにと、シスター服の彼女に託せば、
「とりあえず、あんたの後悔を聞かせてもらえる? まぁ、聞くだけだけどね」
 アリーシャは灰色の瞳を細めると、今にも崩れ落ちそうなダモクレスに問いかけた。
 懺悔の言葉を聞いてやろう。
 強大な槌を創り出したアリーシャは、それをダモクレスに向けて振り下ろす。
「チョコ……フォン、デュ……」
 小さく絞り出されたダモクレスの声に、アリーシャの無慈悲な言葉が重なったのかもしれない。
 アリーシャの懺悔の鉄槌により、ダモクレスはその身を砕かれたのだった。

●雨音
「無事に倒すことができてなによりだね」
 チョコ塗れになった倉庫を片付けながら、ディミックはそう安堵の声を零す。
 他の仲間達がヒールや片付けに精を出している姿を横目にしながら、朽ちてしまったチョコフォンデュ機のダモクレスをアリーシャは見下ろしていた。
「使われるものになるんだったら、こんなことに使われないほうが良かったねぇ」
 気だるげに零された言葉にチョコフォンデュ機は返すことはなかった。それでもアリーシャは別段気にすることなく、残骸に触れずにいた。
 粗方の片付けを終え、マロンはいそいそとケルベロスコートへと着替える。
「チョコ濡れにはなりましたが、色が目立たない黒サバト服なので実に良かったです。後で洗濯する手間は増えますが!」
 裁一も予備のサバト服に颯爽と着替え、マロンの頭を優しく撫でた。
「ああ、マロン。疲れたでしょうし、休憩がてら茶でも飲みに行きましょうか」
 甘いものは飽きて無ければと裁一はマロンの緑色の澄んだ瞳を見つめて言えば、マロンは嬉しそうに笑みを零す。
 2人の仲睦まじい姿が見える中、チョコの匂いで腹ペコスイッチが完全にオンになってしまったローレライは、シュテルネのチョコを拭いながら呟いていた。
「みんなでスイーツバイキングとかいけたらいい、なぁ」
「あ! それいいね、俺もみんなと行きたい!」
 身を乗り出すように鵠がその呟きを拾うと、リリエッタもそれに頷いていた。
「楽しそうな提案だな」
 チョコを拭いあげたソロもスイーツバイキングに食いついたようだ。鬱蒼とした倉庫内に楽しそうな声が響き割り、ミリムもそんな仲間達に大きく尻尾を振って混ざっていき、
「チョコフォンデュダモクレスで楽しんだ事は秘密ですよ……!」
 と、悪戯っぽい笑みを浮かべたのだった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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